こどもじゃなくても欲しい。美濃和紙の「のぼり鯉」

こんにちは。細萱久美です。現在フリーで、メーカーさんのモノづくりや販路開拓などのお手伝いをしています。

仕事で地方に行くこともありますが、プライベートであちこち出歩くことも多く、インプットと自分に言い訳を。密やかにInstagramで、モノや美味しいモノをアップしています。

職業柄か、店情報に詳しいと思われることが多いのですが、実際は新しい店を開拓するより、気に入った店をリピートするタイプなので、最新スポットなどはそんなに詳しくありません。

飲食関係で、たまに行きたくなる店が集中しているのは、住んでる奈良でもなく、出身の東京でもなく、意外な場所で岐阜市が頭に浮かびます。

岐阜市にはそれこそ一年に一度は行っている気がしますが、そのきっかけになったのは、先月のさんち記事でもご紹介したまっちんと、まっちんの仕事パートナーの山本慎一郎さんの拠点で、いつも案内してもらえるおかげ。

山本さんは、山本佐太郎商店四代目として岐阜市出身なこともあり、またいつでも明るく誰しもに頼られる存在で、私もなにかと頼りにしている岐阜の兄貴(年下!)なのです。街を歩くと必ず何人もの知り合いに会うという岐阜の有名人。

山本さんは代々続く食品問屋を受け継ぎ、また「大地のおやつ」の製造販売者です。美味しい店にも詳しく、忙しいのを知りつつも、いつも岐阜案内を強請っています。

岐阜市にはオーナーの個性やこだわりが突き抜けた名店が多く、私のリピート率が高い「ティールーム」「たい焼き&かき氷屋」「和菓子屋」「うどん屋」「BAR」・・と挙げたら結構なことに。なので毎度食い倒れの旅です。

山本兄貴と共に、岐阜の名店と個性派オーナーを紹介する本を作りたい!と本気で思ったりします。

つい岐阜愛が強くて前置きが長くなりましたが、今回取り上げるのは、その岐阜市にある「のぼり鯉」の工房です。岐阜を代表する伝統工芸品の一つで、美濃和紙で作られた、いわゆる鯉のぼりです。

岐阜市東材木町「小原屋商店」の「のぼり鯉」

その歴史は古く、徳川吉宗の享保の改革の時代。布は贅沢ゆえ、紙で作るようにお触れが出たそうな。

「のぼり鯉」とは、子供の健やかな成長を願って付けられた名称で、現在製造しているのは、岐阜市東材木町の「小原屋商店」わずか1軒のみ。

十三代続く小原屋の創業はさらに古く、織田信長が岐阜に入城して少し後だと言うから驚きです。

のぼり鯉をつくる和紙
先代の制作風景写真
先代の制作風景写真が飾られている

のぼり鯉は、完全なる手作業で作られ、部屋の中に飾れる小さなサイズもあります。

手漉き和紙を手で揉んで、手描きで彩色します。揉むことで柔らかくなり、立体に形作れるのと、シワによるぼかしが活かされ躍動感のある色彩に。

紙は「油紙」と言う、油を塗った防水紙なので丈夫で長持ち、経年変化で深みが増しそうです。色使いはくっきり、はっきり黒・赤・青・白・黄の五行説の5色。「こどもの日」の元気の象徴としてもぴったりな力強さを感じます。

岐阜市東材木町「小原屋商店」の「のぼり鯉」

十三代目の河合俊和さんは元々建築家と言う異色の職人さんで、今でも兼業にてお忙しくされています。それもあって、百貨店催事などのお話も全て断り、小上がり座敷のある小原屋商店のみでの販売だとか。

私もここに来て初めて知った工芸品です。奥さまがいらっしゃればお茶を出して頂けるかも。

岐阜のことや工芸のことなど、ゆっくりお話しながら鯉を選ぶ時間も贅沢です。
店頭から作業場が拝見出来るので、製作途中の鯉が見れる場合も。

岐阜市東材木町「小原屋商店」の「のぼり鯉」
岐阜市東材木町「小原屋商店」の「のぼり鯉」

サイズはどこでも飾りやすい35センチメートル程度のコンパクトな鯉から、70センチメートルくらいのダイナミックに飾れる鯉、稚児の乗ったタイプもあります。

もはやこどもの日とは関係なく、モノの魅力に参ってオーダーしました。

今日の時代に、ここまでの手仕事は本当に貴重ですし、立派な伝統工芸品ではありますが、当時は今でいう「民藝」だったのでは。

柳宗悦の言う民藝は「実用品」と言う定義もあり、厳密を言い出すと難しいですが、「民衆的工藝」とか「民俗性・郷土色を反映し、素朴な味を持つ」モノと言えば、民藝でもしっくりきます。男子のいる庶民の家に、当たり前に飾られていたのではないかと想像します。

五月の室礼ではありますが、この魅力に、我が家の趣味部屋の定番仲間入りをするであろうと、届くのを待ちわびています。

もし端午の節句までに欲しい方は、お早めに相談することをお勧めします。

<取材協力>
小原屋商店
岐阜県岐阜市東材木町32

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

Instagram

文・写真:細萱久美

曲げわっぱ好きがわざわざ買いに行く、熊本・そそぎ工房の「一勝地曲げわっぱ」が美しい

こんにちは。細萱久美です。

小物整理にはカゴや箱を多用していますが、国内外の曲げ物も多いことに気がつきました。日本では曲げわっぱ、アメリカだとシェーカーボックス、北欧ではヴァッカというそうです。

木の種類やデザインのディティールは違えど、いずれも木を曲げて、基本的には丸い形状に成型するという点で同じ発想の工芸品です。

シェーカーボックス
シェーカーボックス

シェーカーボックスは、19世紀を中心にアメリカで活動していたシェーカー教徒によって創られた木製品。

彼らは生活全般において「simplicity~全てにおいて簡素である事~」を理想とし、装飾性を削ぎ落とし機能性を追求した実用的なものを丁寧に創りだしていました。

シェーカーボックスは象徴的な道具の一つで、ミニマムでありながら美しい。柳宗悦が唱えた民藝の「用の美」に通じるものを感じます。

それは日本の曲げわっぱや北欧のヴァッカなど、世界中の曲げ物にも同様に思うことです。

シェーカーボックスを裁縫箱に活用
裁縫箱などに使用中。中が少々ごちゃっとしていても、蓋をしてしまえばすっきり見えて助かります
蓋なしタイプのヴァッカをお茶道具入れに活用
蓋なしタイプのヴァッカ。茶筒や茶卓などのお茶道具を入れています。移動や掃除もしやすく便利

日本の曲げわっぱの産地は秋田が有名ですが、秋田と北欧のフィンランドは気候や風土が似ているそうで、必然的に類似した生活道具が生まれることは面白いと思います。

公私にわたり工芸に携わる機会も多く、秋田をはじめ日本各地で作られている曲げわっぱにも度々出会います。

接点のあった中では、国の伝統工芸品にも指定されている秋田・大館曲げわっぱ、高知・馬路村の曲げわっぱ、鳥取・智頭町の曲げわっぱ、群馬・入山めんぱ、静岡・井川めんぱ、奈良・吉野の曲げわっぱ、福岡・博多曲げわっぱなど。

他にもまだ存在しますが、これだけ見ても日本中に曲げわっぱが。日本が世界有数の森林国で、木が身近な素材であり、木の文化が根付いていることを感じます。

入山めんぱ
入山めんぱ

ちなみに、「めんぱ」とは木製の曲げものの弁当箱のこと。日本の曲げものは主に弁当箱の用途が多いと思いますが、それは起源を辿っても分かります。

曲げわっぱの歴史は奈良時代まで遡るといわれ、木こりが杉の生木を曲げて桜皮で縫い止めた弁当箱を作ったのが始まりだとか。

現代の曲げわっぱを代表する、大館曲げわっぱの生産が盛んになったのは今から約400年前。領内の豊富な森林資源を利用できる曲げわっぱを下級武士の手内職として奨励したことによります。伝統技法は継承されつつも、一時は熱に強いアルミやスチール、安価なプラスチック製の弁当箱などに押されて曲げわっぱ産業は縮小しました。

今は再び注目が高まっていて、メーカーによっては数ヶ月待ちになる程の人気。本物志向の人が増えていることもありますが、SNSやブログ発信の影響が一番大きい気がします。それだけ美味しそうに見えて、実際に曲げわっぱのお弁当は美味しいのです。

大館曲げわっぱ
大館曲げわっぱ

完全な手仕事なのと、林業の衰退や職人の減少などで、規模縮小となっている産地も多いようで、全体的に入手困難にもなってきています。

実際にいくつかの曲げわっぱを持っていますが、最近出会ったのは、熊本の一勝地にある「そそぎ工房」の一勝地曲げわっぱ。以前からWEBで見て、機能面にも特徴があり気になっていました。

熊本を訪れた際に立ち寄れるタイミングがあり工房を見学に。行って初めて分かりましたが、工房は球磨村の一勝地という、森林に囲まれたとても自然豊かな場所にありました。熊本県内最大であり、日本三大急流の一つである球磨川のほど近くで、ドライブにも良さそうです。

一勝地では江戸時代から相良藩の保護の下、『相良の三器具』の一つとして、お櫃や桶、柄杓など、様々な曲げ物が製作されてきたそうな。大館と同様400年の伝統を持ち、熊本の伝統工芸品の一つである「一勝地曲げ」の技術を唯一受け継ぐ曲げ物職人が、そそぎ工房の淋正司さん。

工房には溢れんばかりの木の材料や、製作途中の曲げなどが。訪問した際もお忙しく作業をされていた淋さんですが、作業の手を止めて気さくにお話してくださいました。

この道に入られたきっかけは25歳の頃に曲げ物に魅せられ、師匠の元で修行を積み独立されたのだそう。それから曲げ物一筋37年。某有名な高級列車のオリジナル曲げ物の注文なども受けているそう。

熊本の一勝地にある「そそぎ工房」の一勝地曲げわっぱ
熊本・一勝地の「そそぎ工房」工房内

WEBでも見ていた曲げ物弁当箱も見せてもらいました。機能的な特徴は、二段式の弁当箱が、食べ終わると入れ子になってコンパクトになること。

また側面の曲げ部分にはヒノキを、底面と蓋にはスギを使い耐久性や調湿性に工夫を持たせていること。2種の木を組み合わせて作る曲げ物は珍しい気がします。

二段式の曲げわっぱ
仕舞うときは一段に収納できる
二段重。仕舞うときはコンパクトに

スギやヒノキは温かいご飯を入れても余分な水分を吸収し、適度な保湿をしてくれるため、冷めてもふっくら美味しくいただけます。殺菌効果があることもお弁当には安心材料。

オリジナルで作られている二段弁当箱を購入しつつ、別注にも対応していただけるとのことで、その場で自分好みなサイズと形状で注文をさせていただきました。

購入した弁当箱は男性でも少し大きめ。なので、ちょっとしたお重として、またお茶の時間にお菓子を入れて楽しもうかと思います。

製作は丸太を1年間乾燥することから始まり、断裁・研磨・曲げてしばらく置いてから底を付けて完成。曲げの継ぎ目には山桜の樹皮を使うので、天然素材と手仕事から生み出される逸品です。

とても時間のかかる作業なので、出来上がりを待つ時間も楽しみます。

工房内
淋さんに話を伺いながらオリジナル曲げわっぱを相談中
淋さんに話を伺いながらオリジナル曲げわっぱを相談中

奈良から行くことを思うとなかなか遠い場所ではありますが、100パーセントアナログな曲げわっぱは、それを生み出す職人に会うことで、お人柄すら感じる味わい深い道具だと思います。

<紹介したお店>
そそぎ工房
熊本県球磨郡球磨村大字一勝地610
0966-32-1192

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
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文・写真:細萱久美

道の駅で見つけた「高島ちぢみ」。工芸品との出会いを楽しむ宝探しの旅

こんにちは。元中川政七商店バイヤーの細萱久美が、「日本各地、その土地に行かないと手に入りにくいモノ」を紹介します。

SNSユーザーも日本の人口の半数を越えたらしく、簡単に様々な情報を得られるので、アナログな私でさえも主にInstagramを利用して、モノやコトの情報を得られて便利な時代だなとは思います。

ただ、ネットや都心の小売店に出ているモノは、それなりに発信力もあるむしろメジャーなモノと言えます。全国にはまだまだそこに乗っかってないモノや、供給的にも乗っかれないモノがたくさんあります。

もちろん地方にもメジャーを目指して頑張っているメーカーもありますが、ローカルに限定して頑張るのも悪くないと思います。こちらの立場としては、マイナーを見つける醍醐味や、現地で買う体験の楽しさがありますね。

ところで、私は運転が出来ません。免許はありますが、20年以上運転していないので完全にペーパードライバーです。

都会は電車移動で問題ないですが、地方に行くと運転が出来たらなと思うことが多いです。公共機関ではどう頑張っても行けない目的地も少なくなく、最近の欲求として地方に行ったらなるべく「道の駅」に立ち寄りたいということがあり、フツフツとペーパードライバー講習の必要性を感じています。

現在は、地方に車で行く機会があっても運転は誰かに頼らざるを得ず、そして道の駅を見つけると半分無理やり立ち寄ってもらいます。たまに迷惑かなと思いつつも我慢できません。

道の駅は、ご存知の通り、地元の野菜や畜産、グロサリーなどご当地食材の宝庫。新鮮な野菜や果物も魅力的ですが、見たことのないグロサリーやお菓子などで惹かれるパッケージを見つけるとワクワクします。

それと、店舗の端に追いやられがちな工芸品も必ずチェック。デザインは素朴ながらもキラリと光るご当地の技術を見つけることがあります。

そしてかなりの確率で、価格がびっくりするほど安い!ここは本当に日本?と疑いたくなることもあります。

今回紹介するのは、そんな道の駅で出会った「織物」です。滋賀県は琵琶湖周辺に道の駅が多い気がしますが、高島市にある道の駅で、地元織物で作った洋服コーナーの一角がありました。

「高島ちぢみ」というちぢみ生地を使った、Tシャツやらステテコなどが置いてあり、何気なく価格を見たら、Tシャツで1000円以下でした。

「やす!!」と驚き、軽くてシャリ感のある涼しげな触り心地に、夏の寝巻きに間違いなく気持ち良さそうと買い求めました。案の定、今年のような熱帯夜には最適です。汗が引かないお風呂上がりでもベタつかず、吸水速乾力があります。

滋賀県高島市「高島ちぢみ」のTシャツ

琵琶湖の湖西地方の高島では200年以上も昔から楊柳と呼ばれる織物工業が盛んだったそうです。楊柳はクレープとも呼ばれ、強い撚りをかけて布を織り、その撚りを生かしてしぼを作ります。

伝統的には綿素材で作られていて、肌着やステテコなどに用いられてきました。その伝統は地場産業として今日へと受け継がれ、今では国産の縮生地の約9割が高島で作られていることも調べてみて初めて知りました。

同じちぢみでも、湖東地方の麻を使う近江ちぢみは、麻を使うだけに高価格ですが、高島ちぢみは綿なのでお手頃なのでしょう。

それにしても不思議な価格ですが、作りの工夫やら道の駅ということもあるのかもしれません。私が知らなかっただけで、高島ちぢみも地域ブランドとして活性化の動きがあり、注目度は上がっているそうです。

滋賀県高島市「高島ちぢみ」のTシャツ

価格のことで言うと、会津の道の駅でも30円の国産菜箸を発見して驚愕しましたが、道の駅だとあり得る価格なのでしょうか。産地に利益を残そうと思うと、適正価格は違ってくる気がしますが、道の駅ならではの驚きの楽しさはあります。

モノづくりのヒントを宝探しのように見つけられる道の駅探索は今後も続きます。その前に教習所のハードルが‥‥

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
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文・写真:細萱久美

*こちらは、2018年8月30日の記事を再編集して公開いたしました

京都で買える好みのお箸。御箸司 市原平兵衞商店の「みやこ箸」

京都へお箸を探しに

こんにちは。細萱久美です。

ここ最近は仕事の関係で関西と東京を行き来しています。先日久々に銀座の中央通りを歩いていたら、団体観光バスが次から次へと。

平日でも非常に賑わいがあり、来年の東京はどんな人口密度になるのだろう‥‥と楽しみとドキドキを感じました。

関西では、住まいの奈良を拠点に大阪・京都を日常的に訪れます。どちらも言わずと知れた観光地で、場所によっては銀座に劣らぬ賑わいです。

観光目的では無いですが、奈良から近いこともあり休みの日に一番頻繁に行くのは京都です。

京都は母の出身地で、小さい頃から毎年行っていたので第二の故郷でもあります。小さな頃は、おばあちゃんちのある場所、大学生の頃は人の多さにもめげずに桜や紅葉を愛でたりのまさに観光地。

そして今は美味しいものを食べたり、ギャラリーやセレクトショップなどを巡る刺激的な街という感じで親しんでいます。定期的に開催されている骨董市もほぼ欠かさず訪れており、食とモノの街として、毎月のように訪れています。

モノと言えば、京都はかつて日本の都であったことから、日本らしい多様な伝統文化、伝統芸能、伝統行事、食文化などが生まれ、それらを支える形で産業も発展しました。

伝統の継承には難しさもあると想像しますが、今の暮らしに合わせてうまく変化、発展されるのが上手な産地とも感じます。

例えば、包丁の「有次」は、観光客の絶えない錦市場にありながら、専門的な品揃えときめ細かいサービスで、「アリツグ」の名で世界的に有名なブランドとなっています。私はまだ持っていませんが、名入れ包丁は憧れの1本です。

他にも伝統の技を継承し、クラシックなアイテムも守りながら、新しいアイテムや見せ方に発展させ、海外も視野に活躍している京都ブランドは「金網つじ」「開花堂」「唐長」などはよく知られています。

今回ご紹介する京都ブランドは、むしろ知る人ぞ知るローカル感の強いお箸の小売店「御箸司 市川平兵衛商店」です。

400種以上を揃えるお箸の専門店、「御箸司 市川平兵衛商店」

御箸司 市川平兵衛商店

四条烏丸駅から程近く、市内の真ん中にありながら、脇道に存在するので目指して行かないと辿り着かないかもしれません。

こちらは、創業明和元年(1764年)の老舗お箸の専門店。禁裏御用(今で言う宮内庁御用達)御箸司として今に至ります。

決して広くは無い店内に、お箸がぎっしりと並びます。食事用をはじめ、料理用や、京都ならではの茶懐石用など、あらゆる用途に最適な箸を揃え、その数は実に400種。言ってみれば2本の棒というシンプルな造形の箸の奥深さを感じます。

京都の専門店というと若干緊張しますが、親切な接客と、どの箸にも見本があり、持って感触を確かめることが出来るのでじっくりお気に入りを選ぶことができます。

他産地で作られた塗りのお箸も充実していますが、ここで買うならおすすめは京都で作られている竹の箸。

京都は竹の産地でもあり、茶道具なども作る腕の良い職人が多いのです。その中でも私が指名買いして愛用しているのは、こちらの看板商品である「みやこ箸」です。

御箸司 市川平兵衛商店のみやこ箸

その特徴は、まず「すす竹」を使っていること。

すす竹とは天井裏などに使用されていた竹が、囲炉裏やかまどの煙でいぶされ、約150年の年月が経て、頑丈で丈夫に経年変化したものです。古い建物が減少すると共に取れなくなるので、今では大変貴重な素材と言えます。

食卓を引き立てる美しい「みやこ箸」

姿形は細身で、とりわけ箸先は細く手削りされているため小さいものもつまみやすいのです。愛用の箸は塗り箸も含め何膳かありますが、このみやこ箸を使うと、食事の所作も不思議と上品に見える気がします。

御箸司 市川平兵衛商店のみやこ箸

箸自体キリッと美しく、食事用以外に、取り分け箸にも。おばんざいでもちょっと美味しそうに見えるのは気のせいでしょうか。和菓子の取り箸にも良さそうで、京都の生菓子に合わせたくなります。

使いやすさで選ばれるお箸は色々あると思いますが、食事の気分すら変えてくれるお箸との出会いはあまり多くないかもしれません。

御箸司 市川平兵衛商店のみやこ箸

すす竹は一膳一膳個体差があり、中には節のあるものも。カタログは存在しないので、好みの一膳と出会えるのは実際の店舗のみです。

クラシカルなパッケージ好きの私としておまけに嬉しいのは、購入の際入れてもらえる袋が可愛いこと。ギフト用にも同様な袋が用意されています。

御箸司 市川平兵衛商店のみやこ箸

京のみやこで自分のため、人のために丁寧にお箸を選ぶなんて、ちょっと大人の旅はいかがでしょうか?

<紹介したお店>
御箸司 市原平兵衞商店
京都府京都市下京区小石町118-1
075-341-3831
https://ichiharaheibei.com/

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

Instagram

文・写真:細萱久美

*こちらは、2019年8月6日の記事を再編集して公開しました。

「フレッシュなどら焼き」を味わいに、阿佐ヶ谷「うさぎや」へ

こんにちは。細萱久美です。

和菓子派か洋菓子派か、と聞かれることがあります。私はどちらも好きで、特にクラシックな菓子が好みです。洋で言えばプリン、シュークリーム、パウンドケーキなど。和で言えばどら焼き、大福、わらび餅。ここ数年進化の激しいかき氷でも、宇治金時やイチゴなど、伝統工芸ならぬ伝統菓子を勝手に重んじています。

それらには少しばかりうるさくて、どこのでも美味!とはならず、結果老舗と言われる店のお菓子が好物となることが多いです。

100歳で亡くなった京都の祖母は、小魚などを好む健康的な食道楽でしたが、漬物は○○、蕎麦は△△、上生のきんとんは□□、などほぼ決まった店を贔屓にしていました。タクシー会社も決まっていたのは孫ながら驚きでした。

私は、そこまでの固執はないものの、歳を重ねるほどに特に食に関しては保守的で、老舗への信頼感が強まっています。食は一期一会なので、いつでも裏切らない味を長年保ち続けていることには尊敬の念を抱きます。

東京都阿佐ヶ谷 うさぎやのどら焼き

祖母に習い、ほぼ同じ店から浮気をしていない和菓子の一つが、「どら焼き」です。ご贔屓は阿佐ヶ谷の「うさぎや」。実家のある三鷹から電車で10分程度なので、どうしても食べたくなると気楽に買いに行けるほどの距離。

どら焼きはハレの菓子ではなく、ケの菓子なので、気取った店ではなく地元に根付いた素朴な店が似合います。うさぎやは、店構えもまさにそんな感じ。

阿佐ヶ谷の「うさぎや」外観

気取りのないガラスの引き戸をガラガラと開けたら、中には小振りですが、お手入れされているショーケースに、どら焼きだけでなく季節の生菓子や、定番の可愛らしいうさぎ饅頭が並びます。

阿佐ヶ谷「うさぎや」のショーケースに並ぶ和菓子

どら焼きは大ぶりですが、あまりの美味しさにいつも2個目に手が伸びそう。皮はしっとりと弾力があって、きめが細かくパサつき感は一切ありません。ハチミツやみりんが効いているのでしょうか。

そしてたっぷり入った粒あんは、初めて食べた時「みずみずしい粒あん」という印象でした。しっとりしているので、皮に程よく馴染んでいます。しっかり甘みもありつつ、くどさがなくバランスが良いので飽きがありません。

阿佐ヶ谷「うさぎや」のどら焼き
阿佐ヶ谷「うさぎや」のどら焼き

次の日は餡の水分が落ち着いてきて、馴染んだ美味しさがありますが、是非とも当日出来立てのフレッシュなどら焼きを食べていただきたいと思います。

店内で味わう、ローカル名店ならではの楽しみ

生菓子ゆえ通販もなく、百貨店などへの出店や催事さえも恐らく無いので、店に行かねば食べられぬ味。地方でも観光地には訪れる機会があっても、東京のどちらかと言えば住宅地には、よほどでないと行く機会が無いものです。

東京に住んでいても、近くて遠い、これぞローカルという感じもありますが、和菓子や餡に目のない方には是非一度お試しを。遠路はるばるでもその価値あり。店内でお茶することもできるので、ひと休みしてください。

阿佐ヶ谷「うさぎや」店内

ちなみにどら焼きの名店として有名なうさぎやは、日本橋・上野・阿佐ヶ谷の3箇所に同名店舗が存在するのはご存知でしょうか。どうやら親族関係はあるものの、本店、支店などの関係ではなく、それぞれ独立して店舗で、材料や製法も違うそうです。

日本橋のどら焼きは食べたことがありますが、美味しいけれど、場所柄かいつものおやつ、というよりも箱入りのおもたせの用途が多そうです。あくまでもお好みは人それぞれ。

阿佐ヶ谷のうさぎやでは、どら焼きの袋にうさぎの絵があるのと、自家用の飾らない素朴な包みも好み。寒天、こしあん、求肥の潔いあんみつも店のイメージにぴったりです。

阿佐ヶ谷「うさぎや」の袋
阿佐ヶ谷「うさぎや」のあんみつ

平日でも入れ替わり立ち替わり来店が途切れず、接客の女性数名がチャキチャキと対応されているのも気持ちが良いのです。

阿佐ヶ谷が比較的近いということ以外に、お店とお菓子とデザインのトータルな「らしさ」が、私の中でリピートしたくなる良店という存在です。

<紹介したお店>
うさぎや
東京都杉並区阿佐谷北1-3-7
03-3338-9230

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

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文・写真:細萱久美

*こちらは、2019年4月10日公開の記事を再編集して掲載しました。同じどら焼きでもお店によってこだわりは違うもの。自分のお気に入りを見つけに出かけてみてはいかがでしょうか。

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「すりこぎの材質は山椒の木が最適」。その理由を益子の竹工房せきねで知る

こんにちは。細萱久美です。今年も、日々の暮らしを楽しく、豊かに彩る工芸や食を探訪し、「さんち」に発信していきたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

前回、頼れる知り合いがいることで縁の深まった岐阜の「のぼり鯉」を紹介しました。今回も、友人や仕事のご縁もあって、ここ数年で定期的に訪ねるようになった益子町から暮らしの良品を紹介いたします。

益子町は益子焼でも有名で、以前からかなり気になる地域でもあった割に行く機会がほとんどありませんでした。

東京から車だと約2時間で小旅行感覚ですが、電車だと約3時間かかり、ペーパードライバーの私には少々腰が重たかったかもしれません。秋葉原から直行のバスがあることを知ってから、行きはヨイヨイで笠間の知り合いを訪ねては、作家さんの工房や美味しい店に連れてもらっています。

益子のすりこぎ工房へ

中川政七商店に勤務していた当時に、益子のすりこぎ工房にお世話になりました。

すりこぎ屋がつくったツボ押し
開発商品は、すりこぎを作る技術で作った「ツボ押し」。通常のすりこぎ作りには足りない細めの枝を利用して作りました。部分的に木の皮を残すので手になじみやすく、固すぎず柔らかすぎない木の触感が肌当たりも良く仕上がりました

ご相談に乗っていただいたのは、「竹工房せきね」の関根さん。

ホームページだとすりこぎがメイン商品になっていますが、精巧な竹細工の商品も様々作られています。工房での製作と、春から秋にかけては全国のクラフトマーケットを巡回することをお仕事の二大柱にされています。

山椒の木からつくられる「竹工房せきね」のすりこぎ

工房を訪ねたのは2018年2月。まだ雪の残る寒い時期でしたが、すりこぎの材料である山椒 (さんしょ) の木を採りに入る近くの山まで案内してもらいました。

特に整備されていない野生的な山で、少しの見学で終わりましたが、伐採時期は10月〜2月の真冬なので、木を切って担いで降りるのはどれだけ大変な作業だろうと想像しました。

雪が無ければまだ良くて、雪が降ると当然足もとられるし、山の麓まで行くのさえアイスバーンで危険との隣り合わせだそうです。

平地の畑に植樹も始めたそうですが、太く育つのに10年かかると。なんて気が遠い話‥‥。

すりこぎの原料となる山椒の木の植樹

そして伐採した山椒の木はすぐには使えず、約1年間しっかり乾燥させてからカットや削りの工程を経て仕上げます。

真っ直ぐとは限らず、太さもまちまちな山椒の木を1本1本加工するのも大変ですが、何より伐採作業は体力・気力無しでは続けられないことです。それもあってか、国産の山椒の木のすりこぎをここまで安定的に、専門で作る工房は他には無いかもしれません。

すりこぎの原料となる山椒の木
山椒の木を研磨機にかけて磨く様子

アケビやマタタビなどの籠やざるの産地・東北でも聞いた話を思い出しましたが、天然材料による商品作りは、当然ながら材料が無いと始まりません。

その収穫が過酷であればあるほど従事者が減少し、高齢化も重なって、製品の種類や量が減っていくのも仕方がなさそうです。

まだまだお元気な関根さんではありますが、無理はせずに続けていただきたいなと思っています。

すりこぎの材質は、なぜ山椒の木が最適?

天井から吊り下げられたすりこぎ

ところですりこぎに山椒の木が最適なのは、木に解毒作用があり、擦った際の木の粒子が、冷蔵庫の無い時代には食あたりを防ぐとされていたそうな。

現代にその必要はなくとも、自然の凸凹がしっかり握りやすく、すりこぎはやはり山椒の木が最適であると感じます。

竹工房せきねでは、直径35ミリメートル、長さ20センチメートル程度の一番人気のMサイズから、大きなものは長さ40センチメートルまで製造しています。

ただ、乾燥工程の今の時期、在庫は品薄で5月位からある程度潤沢にお届けが可能になるそう。気になる方はご予約をおすすめします。

「竹工房せきね」関根さんのすりこぎ

もしお訪ねの際は、関根さんお一人で作業されているので、事前にご連絡を。
大きいけれど温厚なワンもおります。

車でしたら、「さんち」の益子紹介スポットを回られても楽しそうです。

「竹工房せきね」の関根さん

<取材協力>
竹工房せきね
住所:栃木県芳賀郡益子町七井1162-2
電話:0285-72-4434

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

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文・写真:細萱久美

*こちらは、2019年2月12日公開の記事を再編集して掲載しました。なにげなく使っていた道具でも、丁寧に職人が作っている背景を知るとより一層愛着が増しますね。