二〇一七 卯月の豆知識

こんにちは。中川政七商店のバイヤーの細萱久美です。
連載「日本の暮らしの豆知識」の4月は旧暦で卯月のお話です。私事ですが4月は自分の誕生月で、小さい頃は学年の中で早く誕生日を迎えることをなぜかポジティブに捉えていましたが、現在は年が明けるとすぐに誕生日がやってくる気がして、どちらかと言えばネガティブになってしまいますが、せめて坦々と迎えられるようになりたいものです。
話が逸れましたが、卯月の由来は、「卯の花の咲く月」という意味が有力とされています。卯の花は、空木(ウツギ)という白い小さな花を咲かせる植物の別名です。見た目から、豆腐のおからの煮物を「卯の花」といいますが、美しい日本語の言い換えですね。

うららかな気候に心躍ることも多い4月は、新年度の始まりでもあります。ちなみに4月が新年度という習慣は、日本独特のようで、多くの世界基準に合わせると9月が新年度なのだとか。明治政府が会計年度を4月始まりにしたのですが、日本経済が稲作中心だったので、農家がお米を現金に換えて納税するには4月が都合良かったそうです。それに合わせて昭和には、学校年度もほぼ4月で統一されました。
戦後、民間企業も4月から新年度となって、世のほとんどのサイクルが揃いました。当たりまえのことに思っていましたが、ここまで連動している国も実は少ないのだそう。入学式や入社式の時期は、桜がセットで連想される日本では、新年度はやはり4月がしっくりきますね。

新たな年度のスタートで、出会いと別れの機会も多い時期。入学、入社、転勤、異動など、特に社会人になるとご挨拶の機会も増えるのではないでしょうか。挨拶時に、ちょっとしたモノをお渡しすると、覚えてもらいやすかったり、話のきっかけにもなるので、人付き合いの円滑油としても役立ちます。相手に気を遣わせない程度のモノとして、私は「ふきん」を常備しています。
自社商品の蚊帳生地のふきんですが、客観的に見てもご挨拶の品には最適なアイテムの一つだと思います。いつ何時でもお渡しできるように常備しておくには食品は難しいし、誰でも使うもので、且つもらって気を遣わない価格帯となると選択肢は案外少ないものです。蚊帳生地のふきんは、軽くて嵩張らないので、多数の方にお配りしたい時の持ち歩きにも困りません。中川政七商店のふきん類は季節や地域、キャラクターモチーフなど柄も豊富なので、相手に合わせて柄を選ぶことも出来ます。

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私は春の挨拶というより、普段久しぶりに会う友人などに差し上げるケースが多いので、お気に入りの柄物をチョイスしていますが、ちょっとした挨拶目的の場合は、その名も「ごあいさつふきん」を使います。パッケージに挨拶が書いてあるのでそのままでも良いのですが、スペースに一言書き添えると気持ちがより伝わるかもしれません。

蚊帳生地のふきんはだいぶ知られるようになりましたが、奈良特産の蚊帳生地を使って作られています。目の粗い生地を数枚重ねてあり、吸水・速乾に優れ、ふきんにはもってこいの生地なのです。かつて蚊帳として活躍していた生地が用途を変え、ふきんとして現代に活かされているという、うまく変化を遂げた産業の一例です。変わらずに使われるモノも良し、変えることで生き残るのもまた良しだと思います。

春の新生活に、きりっとおろしたてのふきんは気持ちが良いもの。綿や麻の天然繊維は、使い込んでもやさしい風合いが続くので、最後は雑巾として使いきりたい卯月の暮らしの道具です。

<掲載商品>
中川政七商店 ふきん
ごあいさつふきん

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

文・写真:細萱久美

二〇一七 弥生の豆知識

こんにちは。中川政七商店のバイヤーの細萱久美です。
連載「日本の暮らしの豆知識」の3月は旧暦で弥生のお話です。弥生の由来は、「弥生(いやおい)」が変化したものと言われています。「弥」は「いよいよ」という意味、「生」は生い茂ると使われるように、「草木が芽吹く」ことを意味します。草木がいよいよ芽吹く月という意味ですね。

そんな旧暦3月は、他にも「桜月」「早花咲月」「花見月」など、花に関連した異称も多く、桃やスミレ、沈丁花など春の花が次々と咲き始めます。そこまで花を愛でるタイプではない私でも、近所の庭先に花が増えてくるとちょっと足をとめて眺めたりします。また3月下旬にもなると、関東あたりでは桜も開花し、待ちに待ったお花見シーズンですね。暖かい日差しと穏やかな春風に誘われて、お散歩やピクニックに出る機会も増えるのではないでしょうか。

今回、ご紹介する暮らしの道具は、そんな春のお出かけに持っていきたい「コリヤナギのバスケット」です。作られているのは、兵庫県豊岡市の女性の職人さん。なんと材料のコリヤナギも自ら育てていらっしゃいます。

豊岡は、千年もの伝統をもつ鞄の産地で、奈良時代から始まる柳細工を起源とし、江戸時代には柳行李生産の隆盛をむかえ、大正以降は新素材の開発とミシン縫製により、鞄の生産地となりました。兵庫県鞄工業組合が定めた基準を満たす企業が生産し、審査に合格すると「豊岡鞄」として認定されるという厳しい管理の下、地域ブランドとしての価値を高めています。

そして、豊岡鞄の起源である柳行李を改めてブランドとして掲げた「豊岡柳」は、非常に希少ではありますが、今も尚栽培されているヤナギコリを、技術を継承する職人と、現代の鞄を生産する企業が共に発信することで、現代の生活に残しています。

柳と聞くと、枝を垂れる柳を思い浮かべますが、コリヤナギは大地から天を仰ぐように真っ直ぐに育ちます。肥沃な土壌の豊岡で育つコリヤナギは昔から品質が高いと言われています。
春からスクスク育てて年末に刈り取り、冬ごもりを経て4月頃にようやく加工が出来る状態になるそうです。そして下処理はまだ続き、1本1本皮を剝ぎ、川で綺麗に洗って、風通しの良い場所で干すといよいよ編み始めることが出来ます。なんと気の遠い作業……

このコリヤナギで作る、伝統的工芸品の代表作ともいえるのは「飯行李」。これに入れると、通気性に富むのでおひつのご飯のように美味しいおにぎりがいただけます。
また、今回のバスケットは鞄の産地ならではのアイテム。江戸時代の柳行李は、荷物を入れて運搬するのに使われていた、まさに現代の鞄です。明治の頃には、柳行李に革の持ち手が付いて鞄の形に発展し、更に製法も応用されてバスケット型も作られるようになりました。
この形、私もですが懐かしいと思われる世代がありそうです。現皇太子が子供の頃に愛用され「なるちゃんバスケット」と呼ばれ、多くの幼稚園で採用された経緯があります。素材やデザインは異なりますが、「大正バスケット」と呼ばれ当時大流行した、蓋付きカゴも数多く豊岡で作られていたそうです。

幼稚園児にはお弁当が入るくらいの小さなサイズが適当ですが、もう少し容量のある大人サイズで、中にも生地を貼って頂き、使いやすい仕様にお誂えをしました。
素材としては軽いのですが、しっかり編みこまれていてとても丈夫です。何十年と大事に使って、経年変化も楽しみたいと思います。(あとは姪っ子に譲りましょう。)
このバスケット、実は家で収納カゴとして使っており、まだ外出時に使えていません。カゴにお弁当や水筒を入れてピクニックに行くことに憧れたまま、未だ実現出来ずにおります。まずはピクニックの予定をたてて、今年は「なるちゃんバスケットのピクニック」を実現させたいとひそかに願う、弥生の暮らしの道具です。

<掲載商品>
問い合わせ先:japan source
コリヤナギのバスケット

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

文・写真:細萱久美

南部鉄器の鉄瓶で沸かす「完璧な白湯」

はじめまして。中川政七商店の細萱久美と申します。

歳時記をベースとした書籍「中川政七商店が伝えたい 日本の暮らしの豆知識」(PHP研究所出版)も編集・取材に携わり、歳時記にちなんだ日本のモノや、職人さんに教わる暮らしの知恵をご紹介しています。

徐々に冷え込みが厳しくなっていく霜月。朝晩はさらに冷え込みが厳しくなるので、衣類も食べ物も、自然と温かいものを欲するようになります。飲み物も温かいものが身体の中から温まる感じがします。

私は家では一年中、朝晩に温かいお茶を飲みます。お茶の味には、茶葉と淹れ方も大きく影響しますが、水の味も重要です。浄水器を通した水を使いますが、より美味しくするために、鉄瓶で沸かしています。

南部鉄器の老舗「釜定」

鉄瓶で水を沸かすと、塩素が抜けて沸かしたお湯の味がまろやかになり、鉄分も補給できると言われています。白湯を飲むと味の違いを実感すると思います。私の愛用している鉄瓶は、岩手県で明治から100年以上にわたって続く南部鉄器の老舗「釜定」の「柚子」という商品。

フィンランドの工芸家とも交流のある、釜定三代目の宮伸穂さんが生み出す鉄器は、伝統工芸の精神と技術を継承しつつ、モダンで新しい雰囲気を感じさせます。「柚子」もころんと丸みがあって、シックな中に可愛らしさも感じ、シンプルなフォルムが魅力です。

鉄瓶の特徴とお手入れ

もしも鉄瓶は錆びやすくて扱いが難しそうというイメージがあれば、実際はそうでもありません。基本的には濡れたまま放置せずに余熱でしっかり乾かすこと。あとは、毎日使うことで内部に湯垢が付くと、過度な錆びを防ぎ、お湯の味もさらにまろやかになります。

水に含まれるカルシウムなどの成分が湯垢になりますが、長時間お湯を沸騰させることでも付きやすくなります。その意味では、かつて火鉢やストーブの上で、日がな一日シュンシュン言わせていた鉄瓶は深い味わいに育っていたことと思います。

今の暮らしには火鉢も少なくなりましたが、鉄瓶から出る湯気は不思議と柔らかく感じ、ガス台でも少しの間沸いてるのを眺めます。

温かい飲み物が一層美味しくなる霜月

今月11月は、旧暦では「霜月」と呼ばれます。霜月の語源は、霜降り月の略という説が有力で、文字通り霜が降りる頃の意味と思われます。

私は東京の武蔵野市育ちですが、小さい頃は霜柱が頻繁に降りて、サクサクと踏むのを楽しんでいた記憶があります。

最近は温暖化のためか、コンクリートが増えたためか、霜柱を踏む機会も少なくなりました。季節の風物詩は意外と記憶にも残るので、少なくなることは寂しくもあります。

鉄瓶も国内で見かける機会は少なくなっており、海外で人気が高まっていますが、とっつき難いなどの先入観を持たずに使ってみると、毎日の飲み物の味のレベルが上がって、豊かな気持ちにもなります。

扱いの難しさよりも、自分だけの愛着のある鉄瓶に育てることを楽しみたい霜月の暮らしの道具です。

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

文・写真:細萱久美