【工芸の解剖学】リネン帆布の真田紐トートバッグ

リネン帆布と真田紐、2つの織物の魅力をかけ合わせた大人のトートバッグ

倉敷市の昔ながらのシャトル織機で織ったリネン帆布に、浜松市で60年以上続く織元と作ったオリジナルデザインの真田紐をかけ合わせた、日本の織物の魅力がつまったバッグです。

リネン帆布と真田紐、二つの織物が主役になるバッグを作ろうとデザイナーが企画。結果、大人の着こなしに合う上品な印象のトートバッグに仕上がりました。

中川政七商店の新定番ともいえるバッグの成り立ちを、細部までご紹介します。

リネンだから表現できた、薄くてもハリのある質感

リネン帆布は、倉敷市にある昔ながらのシャトル織機で織ったもの。かつては野営用のテント生地として織られていたもので、とても丈夫です。

生地を依頼した「荻野製織」によると、現代の主流であるレピア織機では、経糸をピンと張ってから高速で織っていきますが、シャトル織機の場合、経糸に少したわみを持たせた状態でゆっくりと織り上げるため、綿に比べて切れやすいリネン糸でも帆布を織ることができるのだといいます。

緯糸を積んで経糸の間を往復する木製シャトル

時間をかけて織られた生地は、密度が高く、また織り目の一つ一つが立って表面に凹凸があるため、奥行きが感じられます。

薄手の生地ながらリネンはハリのある素材のため、縦長のフォルムでもペタッとなりません(※荷物を入れず自立はしません)。厚手の帆布生地で作ったトートのようにゴツゴツした印象がなく、外側の装飾を極力省くことで生地の質感が際立っています。

セルビッジをバッグの口に利用してすっきりと。仕分けに便利な二重構造

シャトル織機で織った生地には、「セルビッジ」と呼ばれる耳があるのも特徴。端処理をしなくてもほつれてこないセルビッジをバッグの口元に利用することで、厚みを抑えすっきりとさせています。

また、バッグとしての機能性を高めるため、側面一周をすべてポケットとして使える二重構造に。

縫い代がポケットの内側に隠れるようデザイナーが型紙で何度も試作を繰り返し、側面の生地を4つのパーツに分けて筒状に縫い合わせる今の形が完成しました。

大のサイズのバッグの場合、大きいポケットにはタブレットが、サイドのポケットには折りたたみ傘や500mlのペットボトルなどがすっぽりと収まり、大工のツールバッグのように細かく荷物を仕分けることができます。

生地の雰囲気に合わせたオリジナルデザインの真田紐を持ち手に

持ち手に使ったのは、かつて刀の下げ緒にも用いられた、丈夫で伸びにくい真田紐。一般的な真田紐には、柄が繊細で色もビビッドな、いかにも伝統工芸品というものが多いため、リネン帆布の風合いに合わせて糸の染めから別注。柄の構成要素をそぎ落とし、シンプルなデザインにしています。

ただし、伝統的な真田紐には真ん中にラインの入ったデザインが多く、その部分は残して、そのものらしさをなくしてしまわないことにもこだわっています。

色が固着しやすい反応染めの先染め糸を使用しているため、濃色の紺も含めて色落ちしにくく、織元で織れる最大幅の8分幅(約25mm)で、平織よりも強度の高い袋織にしているため重い荷物もしっかりと支えます。

別注の真田紐は、90歳を超えるお母さんの経験から形に

この真田紐は、浜松市の織元「東海美商」で織ったもの。90歳を超えるお母さんを筆頭に、今は息子さんご夫婦と一緒に60年以上この家業を営まれています。

デザイナーがこんな柄の真田紐にしたいと相談すると、お母さんが整経帳に経糸の配列を記入。その記述に沿って、息子さんご夫婦が経糸をかけていきます。柄を聞いて早く正確に配列に落とし込めるのはお母さんだけで、今も任せっきりなのだそう。

使い込まれた整経帳に書かれた配列を見て、息子さんが経糸をかけていく
袋織では表用と裏用、両サイドに経糸をかけていくため平織の倍の労力が必要に
緯糸の巻取りは奥さんの担当
織機が動いている間中、糸をチェックしてまわるお母さん
切れた箇所が見つかったら、慣れた手つきで素早く結ぶ

今は茶道具をしまう桐箱を結ぶ紐に用いられるなど、日常からは遠ざかりつつある真田紐ですが、伸びにくく丈夫で、さまざまな柄を表現できる魅力的な素材であることは間違いありません。

使いこんで、その良さを実感してみてください。

<掲載商品>
リネン帆布の真田紐バッグ

<取材協力>
荻野製織、東海美商、丸進工業

【工芸の解剖学】ワイングラスに学んだ日本酒器

口にした瞬間、香りがぶわっと広がる
晩酌の楽しみを変える、有田焼酒器

吟醸酒などフルーティーな香りが魅力の日本酒は、選ぶグラスの形状によって印象が大きく異なります。

お正月に向けて、自宅でもちょっといい日本酒を楽しむ機会が増えるなか、そのポテンシャルを味わい尽くしてほしい。

日本酒の香りを最大限に引き出すよう、形状は赤ワインのグラスに学びながら、和の食卓に合う「日本の焼き物」にこだわって作ったのが、この酒器です。

香りと旨味を強く感じる形状、手入れが簡単で実用的な素材。その品質の細部をご紹介します。

指や水滴の跡、キズが目立ちにくい装飾

ガラスに代わる素材として選んだのは、その薄さから「エッグシェル(卵の殻)」とも呼ばれる特殊な有田焼磁器です。

ワインのソムリエがいいグラスの条件を「薄くて軽いこと」と挙げるように、この酒器は、厚さ1mm以下と非常に薄く軽量に仕上げました。

薄いことで、お酒が口に入る際の段差が少なく口当たりがなめらかに。軽いことで、持った瞬間にお酒の重みや揺らぎを100%に近い状態で感じられるため、五感が研ぎ澄まされ、味覚も鋭くなります。

表面に施した刷毛目の装飾には、デザイン性だけでなく、指紋や唇の跡を目立たなくする役目も。 お酒を楽しんでいる最中、余計なストレスがありません。

ガラスと比較した場合、洗ってから水滴の跡が残らないようクロスで拭き上げる必要がなく、使うにつれて細かなキズが付いて曇ってくることもないため、普段から気軽に使っていただけます。

器の中で香りが回り、鼻まで届くカーブ

お酒は3cmほどの高さまで注ぎます。グラスを傾けたとき、大きくとった中央のふくらみの部分に一度お酒がたまり、空気に触れることで中で一気に香りが開く仕組みです。

約8cmの口径は、お酒を口にするときにちょうど鼻まで覆うことを狙ったサイズ。飲むたびに、新たな香りが鼻へと届きます。

口元にも、ほんの少しカーブを付けました。口の中へ流れ込むスピードを落とし、ゆるやかに舌に広がることで、舌全体の味覚センサーが働き、お酒の旨みも強調されるのです。

今の形状に行き着くまでに、大きさやカーブなど、デザイナーが何度も微調整を繰り返しました。これは酒器を半分に切ったところ。底から口に至るまで、左右対称に繊細なカーブを描いています。

薄くても割れにくい、丈夫な素材と形状

薄くて繊細な見た目とは裏腹に、実は割れにくく丈夫なエッグシェル。

主な理由は、1300度の高温で焼成することで素材を結晶化させていること。

薄さが均一なため、衝撃を全体で吸収できること。

さらに、内側に釉薬、外側には化粧土を塗り、その2層のベストバランスによって外から衝撃を受けた時に中で発生する力(応力)を最小限に抑えていることです。

そもそもワイングラスのように脚がないため、酔いでうっかり倒したり、出し入れの際に倒して割ってしまうリスクも高くありません。

底の直径は、約5cm。安定感を持たせながら、佇まいの美しさも損なわないバランスを追求しています。

香りを楽しむ飲み物全般に使える、多用途グラス

「ワイングラスに学んだ日本酒器」の製造は、エッグシェルの製法を確立し、量産を成功させた佐賀県の有田焼窯元「やま平窯」に依頼しました。

主原料は、熊本県天草産の鉱物で、透光性を高めるためにガラス質の成分を多く配合。粒子が細かく、白さの度合いが強い特殊な陶土を使っているのが特徴です。

生地の成型から焼成まで工程は一般的な磁器と同じですが、カスタマイズした道具を使い、作業のほとんどが一般とは異なるため、熟練の職人の指先の感覚と勘が安定した品質を支えています。

出来上がった商品の印象について、やま平窯の山本代表は「香りが立ちやすい形状。容量もあるため、日本酒、ワインと多用途に使える機能性に富んだグラス」と評価します。

器から入る、新たなお酒の楽しみ方。これで、日本各地のお酒をぜひ味わってみてください。

取材協力/やま平窯元

<掲載商品>
ワイングラスに学んだ日本酒器 エッグシェル
ワイングラスに学んだ日本酒器セット エッグシェル