フィリップ・ワイズベッカーが旅する ミステリアスな熊本の「木の葉猿」を求めて

日本全国の郷土玩具のつくり手を、フランス人アーティスト、フィリップ・ワイズベッカーがめぐる連載「フィリップ・ワイズベッカーの郷土玩具十二支めぐり」。

連載9回目は申年にちなんで「木の葉猿(このはざる)」を求め、熊本にある「木の葉猿窯元」を訪ねました。それでは早速、ワイズベッカーさんのエッセイを、どうぞ。

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熊本の木葉猿窯元

これが、熊本の小さな猿の先祖だ。

奈良から来たものだと言う人もいるが、それは奈良にあった岩の形に似ているからだという。しかし起源はもっと昔、太平洋のどこかから来たと言う人もいる。

ミステリーだ。今回の旅で出会った中でも、格別に奇妙で驚かされる郷土玩具だ。

熊本の木葉猿窯元

ここから訪問がはじまる!

熊本の木葉猿窯元

この紙垂(しで)を通り抜けたら、ほかの普遍の世界に行けるような気がする。早く入りたい。

熊本の木葉猿窯元

門を抜けたら期待どおりだった。これほど素晴らしいコンポジションを、いったい誰がつくれるだろう?むろんそれは偶然だけだ!

フォルム、マチエール、そして色彩が、時間とともに、見境なしに集積してきたのだろう。

熊本の木葉猿窯元

これも幸せな偶然なのだろう。幻のような不思議で小さな生きものに混じって、死んでしまった古い電球が、錆びたテーブルの上に横たわっている。

熊本の木葉猿窯元

他所で出会った職人とは違い、ここでは型を使わない。手でひとつずつ、形をつくるのだ。

同じものは2つとないし、それは見ているとわかる。

熊本の木葉猿窯元

この、どこから来たのかわからない仮面に、どんな眼差しが隠されているのか?私は知りたい。

熊本の木葉猿窯元

空に向かって、いったい何を見ているのだろう。私には見えないが。

熊本の木葉猿窯元

見ざる、言わざる、聞かざる。多くの謎がこの不思議な猿たちに宿っている。

熊本の木葉猿窯元

物陰の敷物だけに耳を貸し、わずかな物音にも耳を澄ましている。

熊本の木葉猿窯元

物陰から出てきたら、人類のたてるゴチャゴチャを見ず、聞かない。

熊本の木葉猿窯元

猿の国の奇妙な旅は終わろうとしている。最後の幸福なお祈りの後、私の属する世界に戻る。そこは、意味のないことをしゃべり、しっかり見つめることのないものが目に映り、都合のいいことだけを聞く世界なのだ。

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文・デッサン:フィリップ・ワイズベッカー
写真:フィリップ・ワイズベッカー
翻訳:貴田奈津子

Philippe WEISBECKER (フィリップ・ワイズベッカー)
1942年生まれ。パリとバルセロナを拠点にするアーティスト。JR東日本、とらやなどの日本の広告や書籍の挿画も数多く手がける。2016年には、中川政七商店の「motta」コラボハンカチで奈良モチーフのデッサンを手がけた。作品集に『HAND TOOLS』ほか多数。

サッカー日本代表 大迫、乾の共通点はスパイクにあり。ASICSが表現した究極の「素足感覚」とは

世界が注目する赤と白のスパイク

『DS LIGHT X-FLY 3』

ワールドカップ・ロシア大会で、決勝トーナメント進出を果たした日本代表。そのなかでも、獅子奮迅のプレーで話題を呼んでいるのが大迫勇也選手、乾貴士選手だ。

大迫選手は初戦のコロンビア戦で勝ち越しとなる決勝ゴールを決め、次のセネガル戦ではセネガル代表の監督が試合後の記者会見で「15番(大迫選手の背番号)」を称賛した。

乾選手は初戦こそ見せ場は少なかったものの、セネガル戦では2度のリードを奪われる苦しい展開のなかで、1得点1アシストを記録して日本に貴重な勝ち点1をもたらした。

いよいよ迎える7月3日の決勝トーナメント1回戦、ベルギー戦では、日本史上初のワールドカップベスト8進出に向けて、両選手のさらなる活躍が期待される。

日本代表の中心として、いまや世界が注目するふたり。そのプレーを足元から支えているのが、日本の総合スポーツ用品メーカー、アシックスだ。大迫選手は赤、乾選手は白のアシックス製スパイクを履いて、ワールドカップに挑んでいる。

大迫選手モデルのスパイク (サイン入り)
大迫選手モデルのスパイク (サイン入り)
乾選手モデルのスパイク (サイン入り)
乾選手モデルのスパイク (サイン入り)

今回はふたりのスパイクの企画開発に携わったアシックスジャパン プロダクトマーチャンダイジング部の岩田洋さんに、知られざる「スパイクづくり」の舞台裏を尋ねた。

スパイクの企画開発に携わった岩田さん
スパイクの企画開発に携わった岩田さん

究極の「素足感覚」

―まず、岩田さんのお仕事の内容を教えてもらえますか?

「私の主な役割は、新商品のコンセプトづくりですね。開発と現場をつなぐのが仕事で、最も情報を得られる立場にいます。私たちが作ったコンセプトを形にするのが、神戸本社にいるスパイクの開発チームです」

―なるほど!大迫選手、乾選手が履いているスパイクのコンセプトを教えてください。

「大迫選手が履いているのは『DS LIGHT X-FLY 3 SL』、乾選手が履いているのは『DS LIGHT X-FLY 3』というシューズです。

『DS LIGHT』シリーズの初代は1999年に発売されたので、ちょうど今年で20年目。コンセプトも20年前から変わっておらず『軽くて、足にしっかりフィットするスパイク』です」

「20年間、軽量性とフィット性を追求してきたシリーズで、特に乾選手、大迫選手のフィードバックを重ねながらつくった『DS LIGHT』シリーズの最高位モデル『X-FLY 3』は軽量性とフィット性の究極の形である素足感覚が特徴です」

―「素足感覚」と言葉で表すのは簡単ですが、それをモノづくりで表現するのはとてもハードルが高いように感じます。

「素材、パターンを細かく変え、ミリ単位の修正を加えて少しずつアップデートしてきました。例えば今ふたりが履いているスパイクは、その前のモデルと比べて軽くなっています。

単純に軽くするのではなく、トッププレイヤーが試合で履ける安定性、耐久性を担保しながら軽くしていくのが難しいところです。スパイクの柔軟性も同様で、あくまでも足の自然な屈曲に合わせて曲がるようなソールの構造を目指しています」

しなやかに曲がるつま先部分
しなやかに曲がるつま先部分

完成までおよそ2年、試作は約50足。

―どれぐらい試作を重ねるのでしょうか?

「『素足感覚』を実現するために、ソール(靴底)の厚さ、スタッド(スパイクの突起)の位置などがミリ単位で違うものを何種類も用意し、選手にひとつずつ足を入れてもらってすり合わせます」

アシックスのスパイクDS LIGHT X-FLY 3
スタッドのわずかな位置調整も、素足感覚の達成には欠かせない

「『X-FLY 3』の場合、サンプリングは3段階に分けて行われます。そのたびに、ひとつひとつのパーツについて選手の意見を聞き、良いものをつなぎあわせて理想の形に近づけていきます。

コンセプト段階から最終形にいたるまでにおよそ2年、約50足ほど試作しますね。数えきれない人が開発に携わっています」

―50足!その集大成として今の赤、白のスパイクがあるんですね。やはり、大迫選手と乾選手のリクエストは違うのでしょうか?

海外でのプレーが生んだ、大迫選手の赤い人工皮革スパイク

「そうですね。大迫選手は、アッパー(甲被)が人工皮革のタイプを履いています」

大迫選手モデルのスパイク

「もともとはよく伸びて足に馴染む天然皮革のものを履いていたんですが、大迫選手が2015年からプレーしているドイツは、雨が多くてピッチのコンディションが良くないことが多いうえに、芝も深い。なおかつ大柄で、フィジカルに優れた選手を背負いながらプレーすることも多い」

岩田さん

「この環境に対応するために、しっかり踏ん張れるようにより強いホールド性、グリップ性を求められました。そこで、当社から高いフィット性とホールド性を兼ね備えているマイクロファイバー製の人工皮革を提案させてもらったんです。

大迫選手は当初、人工皮革は足に合わないというネガティブなイメージを持っていたんですけど、何度も試作を重ねる中で柔らかさとホールド性のバランスがいいということで気に入ってもらうことができました」

小学校からアシックスを愛用。乾選手は白い天然皮革スパイク

―乾選手はどうでしょうか?

「乾選手はどちらかというとスパイクに柔軟性を求める感覚が強いので、アッパーが天然皮革のタイプを履いています」

乾選手モデルのスパイク

「ちなみに、乾選手は小学生の頃からずっとアシックスを履いているのですが、高校生の時に『DS LIGHT』シリーズの白いスパイクを履き始めてからは、シンプルで本物感を追求したようなスパイクを履きたいということで、ずっと白のカラーを好んで使っています」

開発者視点で観るワールドカップ

―ワールドカップでは、ふたりの活躍とともに紅白のカラーのスパイクが目立っています。社内も盛り上がっているのでは?

「はい。ワールドカップ以前よりセールスチームからのサッカースパイクに対する問い合わせが格段に増えましたし、マインドとしても、サッカーで攻めていこうよという雰囲気が高まっているなと感じます」

岩田さん

「サッカースパイクの企画開発に携わっている者としてこのワールドカップが追い風になればいいなという想いもあって、日本代表の試合は自分のことのように力みながら観ていますね。どうしてもふたりのプレーを中心に食い入るように観戦してしまうので、試合が終わった後にはぐったりしています(笑)」

根底にあるのは、徹底した現場主義

―最後に、日本のメーカーとして「ものづくり」へのこだわりを教えてください。

「究極的にはプレイヤーのパフォーマンスを最大化するのが一番いい靴だと思っていますが、それはプロだけに限りません。

当社は日本を拠点にしているので、外資のメーカーよりも実際にグラウンドに行って、小中学生、高校生、大学生のプレイヤーの声を聞きやすい環境にあります。その強みを活かすためにも、現場の声にもとづいたものづくりを大切にしていきたいと思っています」

スパイクの開発を担当した岩田さん

「例えば、外資メーカーが日本の高校生の意見を商品に反映する可能性は低いと思いますが、僕らは高校生向け、小中学生向けのモデルを作る時にはそれぞれのターゲットプレイヤーに必ず意見を聞くようにしています。

ジュニアモデルであれば少年団に行って、意見を聞きながら子どもたちの足に合うスパイクの企画開発を進めるんです。そうしたモノづくりこそアシックスが培ってきた強みであり、生命線だと思っています」

『DS LIGHT X-FLY 3』

大迫選手、乾選手の活躍の裏には、徹底的に選手の声と現場を重視したアシックスの「ものづくり」があった。普段はあまり注目しない選手の足元だが、視点を変えれば数えきれないほどの人の想いと挑戦の物語がそこにある。

<掲載商品>
DS LIGHT X-FLY 3 SL
DS LIGHT X-FLY 3

<取材協力>
アシックスジャパン株式会社
https://www.asics.com/jp/ja-jp/
*お問合せ先:「アシックスジャパン株式会社 お客様相談室」0120-068-806

文:川内イオ

暑さにも寒さにも強い植物、「アデニウム アラビカム」がピンクの花を咲かせる時期です

塊根植物ブームを作ったと言われる、アデニウム アラビカム。
この時期、7月に入るとピンク色の花が咲き出します。

別の名で「砂漠のバラ」と呼ばれるアデニウムですが、なぜそう呼ばれるようになったのでしょう。
その訳を聞きに、世界を舞台に活躍するプラントハンター、「そら植物園」の西畠清順さんを訪ねました。

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7月 砂漠のバラ「アデニウム」

西畠清順さん アデニウム

— 以下、西畠清順さん

「ぽってりとした形が可愛らしいでしょう。アデニウムは塊根(かいこん)植物と言って、根や幹が養分を蓄えて大きなかたまりのように太る植物の一種です。中でもこれはアラビア半島の乾燥した荒れ地が原生地の、アラビカムという品種。

もともと日本に入ってきていたのは寒さに弱い品種で、印象もこれといって強く残っていなかったんです。ところがイエメンに初めて行った時、乾いた砂の、何の色もない荒野でピカッと冴えるように咲いている花を見つけました。それがこのアデニウム・アラビカムです。

一帯は今では戦地となって入ることの難しい荒地です。殺伐とした無味乾燥の大地に素朴なピンク色の花が咲いている。感動しました。なんて美しい花なんだろうって。

ぷっくりとした姿も面白いし、この『砂漠のバラ』を世間に訴えてみたいと動き出したのがちょうど6年前くらいだったかな。暑さはもちろん寒さにも強くて育てやすかったのも受けて、一気に人気になりました。日本での塊根植物ブームのきっかけになった植物です。

現地では樹齢数百年くらいの大きな株もあって、高さ4メートル、直径にすると2.5メートルくらいまで成長します。この鉢はいわばミニチュア版。盆栽のように、小さくても形になるところが気に入っています。小さい方が年齢にして4歳くらい。僕の叔父が種から育てたものです。大きい方は5・6歳。より温暖な台湾で育てているので育ちが早いんです。

もともと暑くて乾燥した砂漠生まれの植物なので、育て始めるにはこれからの季節がぴったりです。留守しがちな人でも日当たりさえあれば大丈夫ですよ。ぜひあのイエメンで見た、目の覚めるような『砂漠のバラ』のピンク色を楽しんでもらいたいです」


日本の歳時記には植物が欠かせません。新年の門松、春のお花見、梅雨のアジサイ、秋の紅葉狩り。見るだけでなく、もっとそばで、自分で気に入った植物を上手に育てられたら。そんな思いから、世界を舞台に活躍する目利きのプラントハンター、西畠清順さんを訪ねる「プラントハンター西畠清順に教わる、日本の園芸 十二ヶ月」。

植物と暮らすための具体的なアドバイスから、古今東西の植物のはなし、プラントハンターとしての日々の舞台裏まで、清順さんならではの植物トークを月替わりでお届けしています。

7月の植物は、アデニウム。

もうすぐ中川政七商店でも販売を始めます。ぜひ、「砂漠のバラ」のピンク色をご覧ください。

<掲載商品>

花園樹斎
・常滑植木鉢、常滑鉢皿
・7月の季節鉢 ミニアデニウム(鉢とのセット。店舗販売限定)

季節鉢は以下のお店で取り扱い予定です。
 中川政七商店全店
 (東京ミッドタウン店・ジェイアール名古屋タカシマヤ店・阪神梅田本店は除く)
 *商品の在庫は各店舗へお問い合わせください

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西畠 清順
プラントハンター/そら植物園 代表
花園樹斎 植物監修
http://from-sora.com/

日本全国、世界数十カ国を旅し、収集している植物は数千種類。2012 年、ひとの心に植物を植える活動「そら植物園」をスタートさせ、国内外含め、多数の企業、団体、行政機関、プロの植物業者等からの依頼に答え、さまざまなプロジェクトを各地で展開、反響を呼んでいる。
著書に「教えてくれたのは、植物でした 人生を花やかにするヒント」(徳間書店)、 「そらみみ植物園」(東京書籍)、「はつみみ植物園」(東京書籍)など。


花園樹斎
http://kaenjusai.jp/

「“お持ち帰り”したい、日本の園芸」がコンセプトの植物ブランド。目利きのプラントハンター西畠清順が見出す極上の植物と創業三百年の老舗 中川政七商店のプロデュースする工芸が出会い、日本の園芸文化の楽しさの再構築を目指す。日本の四季や日本を感じさせる植物。植物を丁寧に育てるための道具、美しく飾るための道具。持ち帰りや贈り物に適したパッケージ。忘れられていた日本の園芸文化を新しいかたちで発信する。

*こちらは、2017年7月の記事を再編集して掲載しました。清順さんが感動したという「砂漠のバラ」が、ピンクの花を咲かせる時期です。
*プロフィールを最新のものに修正いたしました。ご指摘ありがとうございます。