【四季折々の麻】9月:薄手ながら透けにくく、さらりと着られる「麻の高密度織」

「四季折々の麻」をコンセプトに、暮らしに寄り添う麻の衣を毎月展開している中川政七商店。

麻といえば、夏のイメージ?いえいえ、実は冬のコートに春のワンピースにと、通年楽しめる素材なんです。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。毎月、四季折々のアイテムとともにご紹介します。

薄手ながら透けにくく、さらりと着られる「麻の高密度織」

9月は「長月」。夏の厳しい太陽を越えて秋にさしかかり、夜がだんだん長くなって、ゆっくり月を眺めたくなる季節です。

日中はまだ暑さが残るものの、日が落ちると涼しさを感じるようになってくる時季。そんな季節の変わり目に重宝する、調整がしやすく、長いシーズンで着られる服を作りました。

素材に採用したのは高密度に織られた麻生地。過去、同じ素材を用いたシリーズを販売していた際には、そのやわらかで軽やかな生地感に、中川政七商店のスタッフにも愛用者が多かった素材です。

今回は「ワークコート」と「ワンピース」、「タックパンツ」と、夏の暑さが長引くことも考えた新作をラインアップ。秋のスタートには少し軽めの素材を用い、いろいろな着方が楽しめるアイテムを揃えました。

【9月】麻の高密度織シリーズ:

麻の高密度織 ワークコート
麻の高密度織 ワンピース
麻の高密度織 タックパンツ

今月の「麻」生地

薄手ですが高密度で織られているため、透け感がなく一枚でも着ていただけます。生地の表面はさらりとしていて、麻本来の機能である吸湿発散性もあるため、まだ汗をかく季節も心地好く着られるのが嬉しいところ。

ここ数年、天候や栽培の関係で質のよい麻素材が手に入りにくくなっているなか、今回のシリーズは贅沢にリネン100%を使用しました。遠州地方で長く使われてきた力のある織機を使い、高密度に糸を詰めてしっかり織り上げた生地を用いています。

仕上げは滋賀県の湖東地方で、布をやわらかくする加工を何種類も行い、肌あたりのよい生地感に。織りの遠州地方・加工の湖東地方と、いずれも日本で古くから麻を得意として扱う地域で生産した生地です。

強度がある素材ですが、着用を重ねることでよりやわらかく、なめらかに育っていきます。ぜひたくさん着用して自分だけの一枚にしていただければ嬉しく思います。

お手入れのポイント

ご自宅の洗濯機で洗っていただけます。生地の傷みを防ぐため、お洗濯の際は裏返してから洗濯ネットに入れるようにしてください。干す際は洗濯じわを手でぱんぱんと伸ばすのが、きれいに乾かすポイントです。

そのままの洗いざらしの風合いも素敵ですが、パリッと着たいときや部分的なしわが気になるときにはアイロンをかけていただいても。麻の生地全般に言えることですが、麻は水に強く乾燥に弱い素材。パリパリに乾いた状態で高温のアイロンをあてると傷んでしまうため、ご注意ください。

しわが気になる場合には、霧吹きで少し湿らせてからあて布を使うか、裏からアイロンをしていただくと生地が傷まずテカリも防止できますよ。

薄手ながら透けにくく、長い季節で楽しめる3つのアイテム

今回は生成・青緑・墨黒の3色と、秋の夜長に溶け込みそうな色合いをラインアップ。どのアイテムも軽く、ゆったりとしたシンプルなシルエットを採用しました。定番の一枚として季節が進んで涼しくなるごとに、合わせるアイテムを変えながら長く楽しめます。

アイテム単品で着用いただくのはもちろんですが、シリーズのコートとパンツ、コートとワンピースなど、セットアップで着ていただくのもおすすめです。

気軽に羽織れるワークコートは、ロングカーディガンのようなイメージで着られます。肩を落としたゆったりシルエットと、テーラードカラーのきちんと感のバランスをとって仕立てました。麻のつや感がほどよく上品で、まだ暑い季節はTシャツの上にさっと羽織るだけで、お出かけ着として重宝します。

もちろん、冷房の風が気になる自宅でラフに羽織っていただいても。袖をたくし上げると作業もしやすく、家事のじゃまにもなりません。

気温に合わせて多様に着こなせるワンピースは、暑い時期は半袖の上に、肌寒くなれば薄手のニットと合わせて。首元に切り込みを入れたキーネックを採用しているため、そのままかぶって着られます。ゆったり感がありながら、きちんと感も出るようにデザインしました。

肩にはタックを入れて身体に添わせつつ、裾にかけては麻のハリのおかげできれいにひろがるシルエットになっています。

タックパンツはその名の通り、ウエストにタックをとり、ゆったり丸みのあるシルエットに仕立てました。こちらも麻のハリ感があるため、身体の線を拾わずに着ていただけます。

素材自体が呼吸をしているような、気持ちの良さがある麻のお洋服。たくさん着ると風合いが育っていくので、ぜひ着まわしながら愛用いただけると嬉しいです。


「中川政七商店の麻」シリーズ:

江戸時代に麻の商いからはじまり、300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。私たちだからこそ伝えられる麻の魅力を届けたいと、麻の魅力を活かして作るアパレルシリーズ「中川政七商店の麻」を展開しています。本記事ではその中でも、「四季折々の麻」をコンセプトに、毎月、その時季にぴったりな素材を選んで展開している洋服をご紹介します。

ご紹介した人:

中川政七商店 デザイナー 杉浦葉子


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アイヌ工芸作家・床みどりさんインタビュー【くらしの工藝布】

2024年のくらしの工藝布は「アイヌ刺繍」をテーマにものづくりを行いました。
一見しただけで、アイヌ文様であることが分かるような個性の強いものづくり。作家さんごとにそれぞれ個性がありながら、どれもアイヌ文様だと感じる「らしさ」があるのです。その一方で、デザインにはどんなルールや意味があるのか、今回「くらしの工藝布」に携わるまで、アイヌ文様について多くを知りませんでした。
そこで、今回ご一緒にものづくりをしたアイヌ工芸作家の床みどりさんにお話を伺ってみました。

床みどりさんによって製作された、「タペストリーアイヌ刺繍 チカㇻカㇻペ」

床みどりさん

アイヌ工芸作家。阿寒湖アイヌコタンで「アイヌ料理の店 民芸喫茶ポロンノ」を開く。祖母や母から学んだアイヌ文化(料理や刺繍、織物、歌、踊り)を、家族や地域の若い世代に伝えている。


ーー刺繍はどのように学ばれてきたのでしょうか?

刺繍を本格的にやりだしたのは、結婚してから。売ってなかったんだよね、昔は。だから自分で作らざるを得なくて。もともとなんでも作ることが好きだったんですよ。毛糸で編みものするのが好きだったし。近所にアイヌの着物を作ってるおばさんもいたりして、遊びに行って見るのが好きだったんですね。昔は着物の文様を下描きするとかそういうことは一切なく、ぶっつけ本番で折り畳んだ生地をハサミで切ってて。おばさんちでも、下描きなしで直にはさみで切ってたのを見たことがあって。切り絵にしてはおかしいし、なにしてんの?って感じだった。
だから昔の人の文様は、右と左がちょっとずれてるとか色々あるみたいなんだけど、そりゃあんな風に切ったらそうなるよなぁって(笑)。昔はあれだね、ものさしとかないから、指ではかって大体で。ストーブの炭でちょっと印つけてやってたみたいだね。

ーー文様自体はどのように学ばれてきたのでしょうか?

最初は文様考えるのはやっぱ難しいですよね。でも誰もやってくれないので、あーだこーだやりながら勝手に作ったんだけど、刺繍やるようになってから文様描くのも楽しくなったんですね。だんだんと、左右対称とか、どこかに繋がってるとか、そういう色んなことを考えながら描いてると、それも楽しいなと。古い本を読んだりすると、文様に対する昔の人の考え方が分かって、知れば知るほど面白くて。文様を見ると、作った人の気持ちが分かるのも面白いんですよ。

アイヌ文様の基本のデザイン。文様提供:一般社団法人 阿寒アイヌコンサルン

ーーアイヌ文様を作る際、大切にしているのはどんなことですか?

アイウㇱとモレウとか、基本的な文様は必ずいれようと思ってます。
あとは、なるべく詰まらないように、バランスよくいれたいなと。やっぱり最初の頃は、どうしても、型にはめようとして、文様に無理があったなぁと思うんだけど、このごろは無理のない文様を心がけてるっていうか、流れるような、どこかに繋がるような文様を常に描こうとしてはいますけどね。ちょこちょこ描けばいくらでも描けるんですよ。ずっと、たくさんね。でもそういうのはあんまり。やっぱりどこかに通じる、ゆったりとして存在感のある線を描きたいなと、いつも思っていますけどね。

文様でその人の心情が分かっちゃうっていうか、子育てを必死にやってた頃は、半纏(はんてん)とか作ってもどこかに無理があるっていうか。文様を見ると、悩みながら考えたんだとか、その人のその時の心情が分かっちゃうから、なるべくおおらかな気持ちで、おおらかな文様を作りたい。詰まらないように、どこかに流れてどこまでも繋がっていって、その先も繋がるような。文様が途切れるとこで完結しちゃうんじゃなくて、こっから先もまた繋がっていけますよっていうね。
まあそれがなんかね、アイヌの誰かが書いた物語の中にもあるみたいなんだけど。魔物が人を攻撃しようとした時に文様が道に見えて、辿っていくと行っても行っても終わりがなくて、これはだめだって退散して、魔除けに繋がるんだって。だから、行き止まりじゃなくて、どこまでも繋がる文様を作りたい。

ーー地域ごとの特徴もあるのでしょうか?

そうだね、違いはありますね。なんかやっぱり着物を見ると、あぁこれは浦河の文様だね
とか、それは似てるけど三石の文様だわとか、昔はすごいはっきりしてたんですよね。でも今はもうごっちゃになっちゃった感じがするね。
阿寒湖はね、昔は人が住んでなかったから。山奥だし狩りの場所だったので、いろんな地方から人が集まるんですよ。狩りに来るところでしかなかったので、昔からの伝統的な文様っていうのはそんなに。色んなのが入り混じったっていうのが、伝統と言えば伝統かな。いまはもうこのコタン(集落)の中も、各地方から来たアイヌの人たちが住んでるっていう感じなんで、歌や踊りも、いろんな地方のが残ってる。人それぞれっていうかね、どうなんだろうね。まあもちろん一番多く残ってるのは、近くの釧路とか弟子屈(てしかが)、屈斜路(くっしゃろ)の方の文様なり着物なり歌で、それをやってるんですけどね。やっぱり観光地なもんで、みんな商売してるから、いいなって思うものは取り入れるっていうかな。そういう感覚があると思う。

ーー刺繍の図案を考える際、どのように発想されますか?

山に入って、空の中に木が伸びてるのをぼーっと見たり、幹とか枝の線を見ていたりしてると、すごいきれいだなぁって。文様を描くときに心を落ち着かせるっていうか、遊ばせるっていうか、そうしないと湧いてこないんですよね。山の中とか自然の中に行ったときの風景を思い描くと、なんとなく出てくるっていうか、線を描きたくなるっていうかね。
このごろはちょっと足が悪くなって、山に入るのが難しくなってきたんだけど、山菜を採れなくても一緒に山に行って、ぼーっと。みんなが働いてる最中、空を見ながら自由にしていると癒されるっていうか。なんにも考えないで、ぼーっとただ景色見たり自由にしているんだけど、文様を考える時に、そういう山の中のひと時を思い出すと落ち着くっていうかね、心を開放できるっていうかね。
自然の草とか木の枝とか見てるとほんと、あの線もいいなぁとか、こんなんなっちゃってとか、いろいろ思いますけどね。やっぱ木はすごく好きだね。
白樺だとかオヒョウだとか、木によっては大体同じような形をしてるんだけど、それでもやっぱり自然の中にあると、枝ぶりとか全然違うしね。まあ木とよく話するんだけどね。木に蔦が絡まってると、「あんたも大変だねぇ」とか、「どっからきてこんななってんのー」って言ったり(笑)。
早く暖かくなって、山に行きたいわ。フキがおいしいからね、こっちは。

「アイヌ文化伝統・創造館オンネチセ」にて展示されている、アイヌ文様の着物

ーーアイヌ文様の魅力はどのようなところにあると思われますか?

そうだね、なんか生きてるような、なんて言ったらいいのかなぁ… 生き物っていうか、語りかけるものがあるかなぁと思うけどね。人それぞれの自己主張っていうか。「うわぁ力強い」っていうのもあるし、「いーやーすごいねこれ」っていう、いろんなのあるから。ほんと、見ていて飽きないなと思うけどね。
やっぱり文様はその人の言葉だと思うよね。その人の想いが表れてるっていうか。見てると、この文様あっちにあったのと同じ人? あ、そうだわぁって。なんとなく、その文様の流れとか向きが似てたり。この人と話してみたいって思う時もありますね。

ーーできあがったものを見て、どのような感想をもたれましたか?

白に白なんて、考えてもいないからね。最初は私、散々文句言ってたんだよ(笑)。なにそれ、ありえないって思ってた。ただ、雪とか雪原とか阿寒湖の冬景色をイメージしてるって聞いて、あぁなるほどね、それは面白いかもって思って。阿寒湖は冬が長いからね。朝の霧氷が付いてる時間は、全部が真っ白なんだよね。枝の先まで全部。あの景色はきれいですよね。−20℃以下になると、雪踏む時の音がキュッキュって高く鳴って、雪がキラキラ光って、すっごいきれい! あの景色は私も好きだから。
昔の着物でも、藍染めの生地に藍染めの糸で文様やってる方がいて。同系色の着物もすごい
素敵でかっこよくて、私もいつかそれやりたいわぁと思って、藍染めの生地はあちこちで買ってあるから、今度はそれやりたいなって思ってるんだよね。なんでもね、なんでもやってみたい。遊び。いろいろ新しいことをやるのは面白いんだよね。

アイヌ文様の着物を着ると、しゃんとするっていうか。文様の力に守られてるなぁって、私はなんかちょっと嬉しくなるんですよ。使う方にも、アイヌ文様のもってる力を、感じてもらえたら嬉しいかなと思いますけどね。

<掲載商品>
タペストリーアイヌ刺繍 チカㇻカㇻペ(9月4日発売)

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文:上田恵理子
写真:田ノ岡宏明