フィリップ・ワイズベッカーが旅する ミステリアスな熊本の「木の葉猿」を求めて

日本全国の郷土玩具のつくり手を、フランス人アーティスト、フィリップ・ワイズベッカーがめぐる連載「フィリップ・ワイズベッカーの郷土玩具十二支めぐり」。

連載9回目は申年にちなんで「木の葉猿(このはざる)」を求め、熊本にある「木の葉猿窯元」を訪ねました。それでは早速、ワイズベッカーさんのエッセイを、どうぞ。

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熊本の木葉猿窯元

これが、熊本の小さな猿の先祖だ。

奈良から来たものだと言う人もいるが、それは奈良にあった岩の形に似ているからだという。しかし起源はもっと昔、太平洋のどこかから来たと言う人もいる。

ミステリーだ。今回の旅で出会った中でも、格別に奇妙で驚かされる郷土玩具だ。

熊本の木葉猿窯元

ここから訪問がはじまる!

熊本の木葉猿窯元

この紙垂(しで)を通り抜けたら、ほかの普遍の世界に行けるような気がする。早く入りたい。

熊本の木葉猿窯元

門を抜けたら期待どおりだった。これほど素晴らしいコンポジションを、いったい誰がつくれるだろう?むろんそれは偶然だけだ!

フォルム、マチエール、そして色彩が、時間とともに、見境なしに集積してきたのだろう。

熊本の木葉猿窯元

これも幸せな偶然なのだろう。幻のような不思議で小さな生きものに混じって、死んでしまった古い電球が、錆びたテーブルの上に横たわっている。

熊本の木葉猿窯元

他所で出会った職人とは違い、ここでは型を使わない。手でひとつずつ、形をつくるのだ。

同じものは2つとないし、それは見ているとわかる。

熊本の木葉猿窯元

この、どこから来たのかわからない仮面に、どんな眼差しが隠されているのか?私は知りたい。

熊本の木葉猿窯元

空に向かって、いったい何を見ているのだろう。私には見えないが。

熊本の木葉猿窯元

見ざる、言わざる、聞かざる。多くの謎がこの不思議な猿たちに宿っている。

熊本の木葉猿窯元

物陰の敷物だけに耳を貸し、わずかな物音にも耳を澄ましている。

熊本の木葉猿窯元

物陰から出てきたら、人類のたてるゴチャゴチャを見ず、聞かない。

熊本の木葉猿窯元

猿の国の奇妙な旅は終わろうとしている。最後の幸福なお祈りの後、私の属する世界に戻る。そこは、意味のないことをしゃべり、しっかり見つめることのないものが目に映り、都合のいいことだけを聞く世界なのだ。

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文・デッサン:フィリップ・ワイズベッカー
写真:フィリップ・ワイズベッカー
翻訳:貴田奈津子

Philippe WEISBECKER (フィリップ・ワイズベッカー)
1942年生まれ。パリとバルセロナを拠点にするアーティスト。JR東日本、とらやなどの日本の広告や書籍の挿画も数多く手がける。2016年には、中川政七商店の「motta」コラボハンカチで奈良モチーフのデッサンを手がけた。作品集に『HAND TOOLS』ほか多数。

愛らしさに思わず見とれる「首振り仙台張子」のひつじを求めて

こんにちは。中川政七商店の吉岡聖貴です。

日本全国の郷土玩具のつくり手を、フランス人アーティストのフィリップ・ワイズベッカーさんとめぐる連載「フィリップ・ワイズベッカーの郷土玩具十二支めぐり」。

連載8回目は未年にちなんで「首振り仙台張子の羊」を求め、宮城県仙台市のたかはしはしめ工房を訪ねました。

ワイズベッカーさんのエッセイはこちら

伝統的な仙台張子と十二支の首振り張子

伊達政宗の築いた青葉城のお膝元として栄えた杜の都、仙台。

今回のルーツとなる「仙台張子」は、天保年間(1830~1844年)、伊達藩士の松川豊之進が創始したと伝えられています。庶民の心の拠り所になるようにという願いを込め、下級武士の手内職で作られていましたが、明治以後一部を除いて廃絶。しかし、1921年に復活され、1985年には宮城県の伝統的工芸品にも指定され、現在に至ります。

仙台張子の中でも代表的なのが「松川だるま」。眉は本毛、目にはガラス玉、腹部には福の神や宝船などを描いた豪華な仕立ての青いだるまで、昔から正月の縁起物として人気がありました。

そんな伝統的な仙台張子の作り方を学び、小さな十二支の首振り張子を創作して作り継いでいるのが、今回訪れる「たかはしはしめ工房」。

手のひらに収まるサイズにも関わらず、愛くるしく首を振る張子が、仙台の新しいお土産や贈り物として今や県内外から親しまれる郷土玩具となっています。

たかはしはしめ工房作・十二支の首振り張子
たかはしはしめ工房作・十二支の首振り張子

こけし作家が創り出した十二支の張子人形

先代のたかはしはしめ氏は、戦前に東京で手描友禅の染色を経て、地元の宮城県白石市に戻りこけしの描彩をした後、1953(昭和28)年に「たかはしはしめ工房」を設立。

手作りの創作こけし作家として活躍する傍ら、同業者に仕事を依頼されることも多かったそうで、その経験を活かし、1960(昭和35)年に新しいお土産品を発表します。それが、松川だるまの彩色と堤人形の型抜きのノウハウを融合させて作った、オリジナルの俵牛(現在の干支の丑)の張子でした。

「先代は主婦の仕事をつくるためにと、多い時で10人の内職を雇っていました。そして、1980(昭和55)年にはお客さんからの要望と内職の仕事をきらさないようにという理由で、干支作りも始めたのです。一周目は干支をつくれない年もありましたが、二周目で十二支すべてが揃いました。」

派手な彩色や装飾が多い従来の仙台張子とは異なり、和紙をちぎり絵のように貼っただけの素朴な質感と首のゆれ方がなんとも愛らしい首振り張子は、こうして誕生したました。そして、現在は息子さんで2代目の敏倫さん夫婦が引き継がれています。

たかはしはしめ工房2代目の髙橋敏倫さんと奥さん
たかはしはしめ工房2代目の髙橋敏倫さんと奥さん

首振り張子ができるまで

1)バリ取り
再生紙を整形してつくった原型をグラインダーにかけ、継ぎ目のバリを取り除きます。集塵機は敏倫さん自ら掃除機を改造してつくったお手製なのだそう。

たかはしはしめ工房、仙台張子の製作風景
削り取ったバリは掃除機を改造した集塵機で吸い取られます

2)上張り
頭と胴体、それぞれに小さくちぎった和紙を張り付け、乾燥させます。乾燥したら頭に角をつけます。角は針金と紙紐、和紙は粕紙を使用。色付きの和紙は良さを活かすために、一枚一枚染め、色止めをし、ちぎり絵のように丁寧に貼ります。

たかはしはしめ工房、仙台張子の製作風景
小さくちぎられた粕紙
たかはしはしめ工房、仙台張子の製作風景
粕紙をちぎり絵のように糊付けしていきます
たかはしはしめ工房、仙台張子の製作風景
糊が乾くまで乾燥
たかはしはしめ工房、仙台張子の製作風景
針金に紙紐を巻いて角をつくります
たかはしはしめ工房、仙台張子の製作風景
糊が乾燥したら頭に角をつけます

3)おもり
ひつじの大きさに合わせて、土粘土でおもりを作ります。

4)組み立て
頭に糸を通し、おもりを付けバランスをとります。おもりを付けた部分が見えなくなるように紙で包み込み、頭がきれいに振れる様に頭と胴体を取り付けます。特に、辰・巳・酉は首の振り子調整が難しいのだそう。

たかはしはしめ工房、仙台張子の製作風景
頭と胴体を取り付け、頭がきれいに揺れるかをチェック

5)絵付け
目を描いたら、完成です。

たかはしはしめ工房、仙台張子の羊、完成形
完成した首振り張子の羊

紙貼りを一部内職に頼んでいる以外は、染め・彩色を敏倫さんが担当、その他を夫婦2人で分担しています。

伝統的な仙台張子の作り方と比べると、原型作りが効率的な方法に変わったりもしていますが、逆に和紙の染色や上張り、首振りの調整には手間を惜しまず、ひとつひとつを大事に作り上げられています。年間生産量は十二支全部で約1万個。

「お客さんから修理依頼があれば対応できるようにと、古い和紙の端紙もとっておいてあります。」というのを聞いた時は、その心配りに敬服でした。

仙台・たかはしはしめ工房で以前原型製作に使われていた木型と石膏型
以前原型製作に使われていた木型と石膏型

そんな首振り仙台張子は、頭をちょこんと押すと、ゆらりゆらりと愛らしく頭を動かします。
ちょっとしたプチギフトや新年の縁起物などに、ぜひ。

さて、次回はどんな玩具に出会えるのでしょうか。

「フィリップ・ワイズベッカーの郷土玩具十二支めぐり」第8回は宮城・首振り仙台張子の羊の作り手を訪ねました。それではまた来月。
第9回「熊本・木の葉猿」に続く。

<取材協力>
たかはしはしめ工房
仙台市青葉区中江2-8-5
電話 022-222-8606

文・写真:吉岡聖貴

「芸術新潮」5月号にも、本取材時のワイズベッカーさんのエッセイと郷土玩具のデッサンが掲載されています。ぜひ、併せてご覧ください。

建築家・増田友也の「鳴門市文化会館」に見る、ギャップの美しさ

こんにちは。ABOUTの佛願忠洋と申します。

ABOUTはインテリアデザインを基軸に、建築、会場構成、プロダクトデザインなど空間のデザインを手がけています。隔月で『アノニマスな建築探訪』と題して、

「風土的」
「無名の」
「自然発生的」
「土着的」
「田園的」

という5つのキーワードから構成されている建築を紹介する第5回目。

今回紹介するのは鳴門市文化会館。

所在地:徳島県鳴門市撫養町南浜字東浜24-7
竣工:1982年
設計:増田友也(京都大学増田研究室)

徳島県鳴門市・鳴門市文化会館の外観
徳島県鳴門市・鳴門市文化会館の外観

久々に訪れた鳴門文化会館。

撫養川(むやがわ)から望むコンクリート・モダニズム建築の悠然とした佇まい。垂直に長いブリーズソレイユ(ルーバー)が、建物のファサードを形成し、牛の角のように両端がせり上がったのキャノピー(庇)はコルビュジェのラトゥーレットやチャンディガールを彷彿とさせる。

大学三年の時に徳島出身の同級生と四国一周建築旅行の際にこの地に初めて訪れた。

四国には、香川県庁舎(丹下健三設計)、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(谷口吉生設計)、牧野富太郎-高知県立牧野植物園(内藤廣設計)、海のギャラリー(林雅子設計)金比羅宮(鈴木了二設計)など名建築が本当にたくさんある。

それらを一気に見て回り、鳴門大橋を渡って大阪に戻る計画を立てた僕に、『おいおい、鳴門の増田友也抜けとるやないか』と横槍を入れる親友の徳島人。『いやいや徳島なんかに何もないやろ』と言い張る大阪人の僕。

『安藤忠雄しか知らん大阪人はこれやから困る。お前に本物のモニズム建築を見せたるわ』というのである。増田友也という建築家を知ったのはこの時である。

徳島県鳴門市・鳴門市文化会館の外観

鳴門市制の施行35周年を記念して鳴門市文化会館は建てられている。多目的ホールを中心とした文化施設で構造はRC造(鉄筋コンクリート構造)。

周りに高い建物がないせいか、空に届きそうなコンクリートの塊はホール舞台のフライタワーである。

徳島県鳴門市・鳴門市文化会館の外観

近年のコンクリートの打設は鉄筋を内部に組み、外側にパネル(ベニヤ板)を取り付けて、コンクリートを流し込んで壁を立ち上げていくのだが、鳴門文化会館のコンクリートはパネルに短い杉板を用い、リズミカルにパネル割りを施すことで、のぺっとした面ではなく素材感がより強調され、経年変化による劣化も相まってか巨大なオブジェのような印象を与える。

徳島県鳴門市・鳴門市文化会館の外観

また塊のように設計されているのはフライタワーだけで、その周りを囲うようにコンクリートとガラスの細かい割り付けで構成された機能が配置され、より塊感を演出する効果を狙ったような設計になっている。

建物の正面は東側。撫養川があることで何も邪魔されることなく建物全体を眺めることができ東西にアプローチの軸線が走る。

徳島県鳴門市・鳴門市文化会館の外観

訪れた日がたまたま施設が使われていないということもあり、特別に事務所の方にお願いして中に入れていただいた。およそ2.1mの庇の下を抜けると、大空間がドカンと迎えてくれる。

徳島県鳴門市・鳴門市文化会館の外観
徳島県鳴門市・鳴門市文化会館の内観

まずその空間の抑揚に驚かされるのだが、内部空間は外部の荒々しいコンクリートの表情とは違い少し女性的な空気がある。

それは、ステンドグラスから溢れる色とりどりな光であったり、トップライトから降り注ぐ柔らかい光、それに家具や壁には曲面が使われているからかもしれない。この感覚もコルビュジェのラツゥーレットで感じたあの感覚。

徳島県鳴門市・鳴門市文化会館

あれ、これって…。

日本の茶室には写し茶室というものがある。写しとは一般的に灯篭、手水鉢などすべての器物の原型と同様に作ることを表す。

元来、茶室の設計は木割りのような寸法体系が適用されないため、写し茶室は先人の茶精神を継承するものであって、偽作や完全な複製を目的とはしていない。

増田友也が写し茶室の精神があったかは定かではないが、約20年かけて鳴門市に19もの建築を残している。

島県鳴門市・鳴門市文化会館
島県鳴門市・鳴門市文化会館
島県鳴門市・鳴門市文化会館

今回紹介した鳴門市文化会館は増田の遺作であり北西に400mほど行くと鳴門では2作目の鳴門市庁舎・市民会館がある。こちらは家型のような巨大な窓ユニットが連続し、文化会館の質量感とはうって変わって非常に軽い印象である。

コルビュジェの白の時代から晩年の荒々しくそして有機的な作品のように増田友也も鳴門という地で、様々な思考を凝らしたどり着いたカタチが鳴門市文化会館なのではないかと思う。

「風土的」「無名の」「自然発生的」「土着的」「田園的」という5つのキーワードからは今回は少し遠いかもしれないが、35年以上経って鳴門の地で増田友也の建築はアノニマスな建築へと昇華している気がした。

島県鳴門市・鳴門市文化会館
島県鳴門市・鳴門市文化会館

増田 友也(ますだ ともや、1914年 – 1981年)は、元京都大学工学部教授。

京都大学における教育・研究活動において、空間現象に着目し、学位論文「建築的空間の原始的構造」をはじめ、現象学的存在論に依拠する「建築論」を創設するなど、生涯にわたって「建築なるもの」の所在を厳しく問い求めた建築家である。

佛願 忠洋  ぶつがん ただひろ

ABOUT 代表
ABOUTは前置詞で、関係や周囲、身の回りを表し、
副詞では、おおよそ、ほとんど、ほぼ、など余白を残した意味である。
私は関係性と余白のあり方を大切に、モノ創りを生業として、毎日ABOUTに生きています。

http://www.tuoba.jp

文・写真:佛願 忠洋

わたしの一皿 山菜も焼き物もタイミング

春は食いしん坊の季節だとか、苦味が旨いだとか言ったのは去年のこの時期のことでした(わたしの一皿 たまには失敗)。

実は今年はアジアへの買い付けで三月後半から四月末にかけてほぼ日本にいなかった。
つまり、桜が咲くタイミングから山菜が出回るタイミングまで、あっさりと春を逃したのです、ワタクシ。残念。

あ、申し遅れました。みんげい おくむらの奥村です。

そんなわけで、急いであわてて春を取り戻そうと必死なこのところ。

今日の素材は「こごみ」。

この時期、八百屋に行ってあのくるくるしたものが目に飛び込んでくると条件反射のように手にとってしまう。
今回はたまたま、たっぷりの天然物が手に入りまして、これはうれしい。

こごみ

枯葉などがたくさん付いたこごみをじゃぶじゃぶ洗う。

茎の太さも、くるくるの大きさもバラバラで、見ていて、触っていて楽しいのは天然物だからか。

採るタイミングの違いなのか、それとも種類なのか、栽培のものはくるくるがもう少し小さいし、全体的に細い気がする。

手先でくるくるを感じ、ほどほどきれいになったら、食べやすいように長いものは切って、茹でる。

茹で加減は好みにすればよいけれど、新鮮なものは生で食べることができるくらいの山菜なのであんまり茹ですぎてへなへなにならないように気をつける。

茹で上がったこごみ

茹であげて、粗熱をとったら、ごま和えにしていきます。

誰が考えたのかわからないが、ごま和えってのは美しい食べ物ですね。

ごまをすって、食材と和える時の楽しさ、美しさときたら。少しずつ食材にお化粧していく感じとでも言いましょうか。

こごみの胡麻和え

そうそう、こごみはとても使いやすい食材で、和え物も良いし、油との相性も良いので天ぷらに、炒め物に、といろいろに使える。

山菜にしてはアクを感じないものなので、野趣が強すぎるものはちょっと、と言う人も大丈夫かもしれない。

こごみの胡麻和え

こごみの美しく、深い緑を生かしたいと思い、今回はうつわを色から決めた。土っぽい色の飴釉のもの。

宮崎、三名窯(さんみょうがま)のものにした。色気というか、品というか、狙い通りです。実に良いじゃないですか。

ところで、焼き物王国九州にあって、宮崎はちょっと存在感が薄い。伝統の焼き物と呼ばれるものが少なく、知られていないからか。

ここ三名窯もちょっと変わった窯かもしれない。

窯主の松形恭知(まつかたきみとも)さんは、埼玉で教員生活をしながら時間を見つけて作陶をしていた。

話をうかがえば、焼き物への興味は学生時代から百貨店の美術画廊に通って焼き物をみていたほどだと言うので驚くしかない。

教員生活を早めに終え、ゆかりのあった宮崎に築窯。以来、宮崎で作陶を続ける。

伝統の窯ではないが、民藝先人たちの想いや意匠といったものが見て取れるものづくりをしている。

一般的に言って、工芸、特に職人の世界はスタートが早い方がよい。

そのキャリアを通して作れる数が多い方が良いからだ。早いうちにたくさん作って、身体にそれを染み込ませる。

それではスタートが遅くてはダメなのか、と言えばそんなことはない。
好きなものを見て、感じて、身体が動き出したタイミングがスタートでも良いのではないか。

松方さんのうつわはそれを強く感じさせてくれるものだ。

寒い冬を地中で耐え、滋味を蓄えた山菜と同じように、窯を始めるタイミングをじっくりとうかがい、いよいよ表に出て、のびのびとうつわづくりをする三名窯。

食材も、うつわも、つくづく出会いだな、と思うのです。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文・写真:奥村 忍

250名の作り手が集う、第34回「クラフトフェアまつもと」が開催。「工芸の五月」は、いよいよクライマックスです。

こんにちは、編集室いとぐちの塚田結子です。長野松本市で編集・執筆の仕事をしています。

松本市で開催中の「工芸の五月」の魅力を3回にわたってお伝えする連載は、今回で最終回となりました。

「工芸の五月」も今週末に行われる「クラフトフェアまつもと」でいよいよクライマックスを迎えます。

松本・工芸の五月・クラフトフェア

工芸の五月とは

その前に「工芸の五月」とはのご説明を。工芸の五月は、毎年5月に行われるイベントで、松本市を中心に、美術館、博物館、ギャラリーなどで工芸にまつわるさまざまな企画を開催します。その期間は約1ヶ月です。

松本・工芸の五月・クラフトフェア

今回は、フェアと併せてお楽しみいただきたい企画をご案内します。

250名の作り手が集結する、「第34回クラフトフェアまつもと」

今週末の5月26日(土)、27日(日)、「第34回クラフトフェアまつもと」が開催されます。場所は“あがたの森公園”。時間は、26日が11時から17時まで、27日が9時から17時までです。

松本・工芸の五月・クラフトフェア

陶磁79名、木工・漆48名、染織・フェルト22名、ガラス20名、金属21名、皮革21名、その他21名、材料・道具・情報18名、食品41名、計250名が出展します。

公園には芝生の広場があり、木陰や水遊びのできる浅瀬があります。いたるところに出展者のテントが並び、来場者だけでなく、出展者も思い思いに過ごす姿が見受けられます。

松本・工芸の五月・クラフトフェア
松本・工芸の五月・クラフトフェア

食品部門の出展ブースからは、いい匂いが漂ってきます。スイーツやパン、飲み物やジェラートのほか、ランチにぴったりのメニューもあって、昼ごはん時は大変なにぎわいに。

広い公園のどこに誰が出展するか、決まるのは当日の朝。総合受付前に早見表が掲示されます。総合受付は、公園の正面入り口からヒマラヤ杉の木立を抜け、右手に広がる芝生広場の手前に設置されます。

松本・工芸の五月・クラフトフェア

また、フェアを主催する松本クラフト推進協会の機関誌『掌(たなごころ)』に出展者名簿が併載されています。事前にこちらのサイトでご購入いただくか、当日、総合受付でも販売しています。和紙をテーマにした特集ほか、読み応えある記事も合わせてお楽しみください。

会場となる“あがたの森公園”は、JR松本駅から距離にして1.5㎞。歩けば20分、バスなら10分ほど。路線バスのほか、フェア期間中のみ臨時シャトルバスも運行します。くわしくはこちらをごらんください。

“あがたの森文化会館”では企画展、「てのひらに」が開催

フェアの開催に併せ、公園入り口に立つ“あがたの森文化会館”では企画展「てのひらに」を行います。

松本・工芸の五月・クラフトフェア・企画展「てのひらに」

“あがたの文化会館”は重要文化財にも指定されている洋風木造建築。この講堂棟2階教室に、フェアにも出展している23名の作家による「てのひらに」をテーマにした作品が並びます。建物のレトロな雰囲気ともどもお楽しみください。

フェア前日の5月25日(金)から27日(日)、10時から17時まで。池上邸の蔵では、松本市の「古道具 燕(つばくろ)」による「ZUBAKURO市」が行われます。

松本・工芸の五月・クラフトフェア・企画「ZUBAKURO市」

「燕」店主の北谷さんによる、「ZUBAKURO市」

「燕」店主の北谷さんは、松本市内にある老舗醤油店の建物を借り受けて営業していた店舗を閉め、中心市街地から車で40分ほどの旧四賀村にある倉庫を開放し、「ZUBAKURO STOCK OPEN」として不定期営業を行っています。また、月1回開催中の「まつもと古市」の主催者でもあります。

そんな彼が今年の「工芸の五月」関連企画として期間限定で行うのが「ZUBAKURO市」です。「今の生活の中で、きちんと使える古道具を提案、販売したい」と語る北谷さん。

池上邸は江戸時代から続く名家。その庭に立つ米蔵を、古道具だけでなく古い建物を愛する北谷さんが、どう活用するのか。空間を含めてとても楽しみな企画です。

六九クラフトストリートも同時期に開催

そのほか、「工芸の五月」関連の企画もフェア開催に合わせていよいよ充実。ミナ ペルホネン、工芸青花、盛岡書店、さる山、gallery yamahon、Roundabout/OUTBOUNDなどの、店主やギャラリスト、作家さんたちが参加する「六九(ろっく)クラフトストリート」も同時期開催です。中心市街のお店やギャラリー、それぞれがより企画や展示に力を入れています。

今週末は道も駐車場も大変混雑しますので、ぜひ公共の乗り物を利用しつつ、歩いて街を散策してみてください。きっと、新たな工芸との出会いがあるはずです。

松本・工芸の五月・クラフトフェア

【第34回 クラフトフェアまつもと】
期間:2018年5月26日(土)11〜17時、27日(日)9〜17時
会場:あがたの森公園 長野県松本市県3-2102-4
オフィシャルサイト:http://matsumoto-crafts.com/craftsfair/

【てのひらに】
期間:2018年5月26日(土)、27日(日)11〜17時
会場:あがたの森文化会館 講堂棟2階教室 長野県松本市県3-1-1
オフィシャルサイト:http://matsumoto-crafts-month.com/guide/exhibition/3953.html

【ZUBAKURO市】
期間:2018年5月25日(金)〜27日(日)10〜17時
会場:池上邸の蔵 長野県松本市中央3-13-11
オフシャルサイト:http://matsumoto-crafts-month.com/guide/event/4123.html

 

編集室いとぐち 塚田結子
「編集室いとぐち」所属。
長野市・善光寺門前にて長野県の暮らしや工芸まわりの編集・執筆を行う。
「工芸の五月」公式ガイドブック作り、クラフトフェマまつもとの機関誌・『掌(たなごころ)』の企画制作を担当。

文 : 塚田結子
写真:松本クラフト推進協会

宮城「首振り仙台張子」のひつじを求めて

日本全国の郷土玩具のつくり手を、フランス人アーティスト、フィリップ・ワイズベッカーがめぐる連載「フィリップ・ワイズベッカーの郷土玩具十二支めぐり」。

連載8回目は未年にちなんで「首振り仙台張子」を求め、宮城県仙台市にある「高橋はしめ工房」を訪ねました。それでは早速、ワイズベッカーさんのエッセイを、どうぞ。

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宮城県仙台の風景

仙台。朝の7時。ホテルの部屋の窓から。これから次の十二支の動物に会いに行く。

未(羊)

小さな愛らしい未!インターネットではじめて見たときすぐに惹かれてしまった。

干支の動物の木彫り人形

お盆の上に、仲間と一緒に乗っている。こうしてみると、美味しいお菓子のようで、食べたくなってしまう!

制作工程

生まれてくるときは、コロコロした小さな胴体だ。

道具

メス、ピンセット、ハサミ‥‥。手術室で、彼らを形づくるために必要なものだ。

制作工程

さて。辛抱強く、何を待っているのだろう?

制作工程

むろん、頭だ。

制作工程

‥‥そして角!

制作工程

とても可愛らしい。でも、お友達だったクジラが、愛好者が少ないという理由でつくられなくなったことを、ちょっと悲しんでいるのかもしれない。

話はそれるが、この小さな台、大好きだ。

掃除機の管を利用した、吸引のシステム。素晴らしい!

11時50分。取材は終わり、そろそろお腹もすいてきた。

近所に安くて感じのいい食堂があった。

食べ物は美味しく、その上、罫線好きの私にぴったりの場所だった!!

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文・デッサン:フィリップ・ワイズベッカー
写真:フィリップ・ワイズベッカー
翻訳:貴田奈津子

フィリップ・ワイズベッカー

Philippe WEISBECKER (フィリップ・ワイズベッカー)
1942年生まれ。パリとバルセロナを拠点にするアーティスト。JR東日本、とらやなどの日本の広告や書籍の挿画も数多く手がける。2016年には、中川政七商店の「motta」コラボハンカチで奈良モチーフのデッサンを手がけた。作品集に『HAND TOOLS』ほか多数。