工芸産地を地元の友人に案内してもらう旅、さんち旅。
もともと東京で、ショップやものづくりのディレクションに関わっていた村上純司さん。沖縄に移住したとは聞いていたものの、〈LIQUID(リキッド)〉という少し変わった、「飲む」という行為に焦点を当てた専門店を始めたというお知らせが、編集部に届きました。
というわけで今回は沖縄、村上さんのお店LIQUIDを訪ねました。
カーナビを頼りに宜野湾市の高台を上がると、コンテンポラリーなグレーに塗られた米軍のフラットハウス。その横にはホワイトのTOYOTA・デリボーイ。
無国籍感と独特の緊張感がある建物の壁に「LIQUID」と記されたプレートを見つけて一安心
オーナーの村上純司さん。東京・江戸川区生まれ。東京のディレクション会社を退職した後、2017年、沖縄宜野湾市に「飲む」という行為に焦点を当てた専門店〈LIQUID〉をオープン
—お店をはじめられる際、場所は沖縄で探されていたんですか?
「決して沖縄にしぼって考えていたわけではないですが40代の生き方を考えなきゃなと2、3年、考えていたんです。そんなとき仕事で沖縄の行政や商業施設の仕事があって、沖縄を知る機会になりました。
そのときに、年間で1000万人に近い観光客がいることや、海外のお客様が200万人を超えていることを知ったんです。去年、ハワイを抜いたんですよ。もはや東アジアの玄関口と言える。それが一番の理由です、沖縄を選んだのは」
村上さんのしゃべり口はいたって無邪気だが、いわゆる都会が嫌になって感情的に「沖縄に移住した人」とは違う。今の思考の根幹を作ったのは、新卒で採用されたシステムエンジニア職だという。
「入社してすぐ2000年対応(*)っていうのをずっとやっていました」
*西暦2000 年になるとコンピューターが誤作動してしまうという、いわゆる西暦 2000年問題における、既存のソフトウェアに対して施されるその対策
「もともと、理系頭なのもあって、良いベースになっている気がしますね」
その後、村上さんは銀座でスタートした、日本文化を現代の生活に繋げるプロジェクトに関わる事で、ものづくりの世界に足を踏み入れる。
ノットアカデミックな、日本文化の表現
代官山や隅田川、新潟や京都。様々な街の夜を彩った玩具花火ブランド「fireworks」
「どれが正解かって、やってみないとわからないからどんどん立ち上げて。とにかく企画して、可能性があるものは形にしていこうという考えで動いていました」
ただ、日本文化を伝えるとなると、どうしてもアカデミックになってしまう。そのジレンマを解消するため、子どもでもわかるような日本文化の表現として、線香花火をブランディングする事に。
結果そのプロジェクトは、大人達の共感も呼び、のちの〈fireworks〉の活動にも繫がっていく。
日本文化の発信に深く携わりはじめた村上さん。その後、熱海の老舗旅館〈蓬莱(ほうらい)〉での仕事をスタートする。なぜ旅館に?との質問には、少し予想外の答えが返ってきた。
「日本の文化を、全部表現できるのが旅館だなぁと思って」
蓬莱では、館内でのサービスや蓬莱ブランドとしてのものづくりだけでなく、最終的に女将修行まで幅広く経験したという。
「歩幅がでかい!なんて言われて。すいません!みたいな(笑)
女将さんって、いわば旅館のクリエイティブ・ディレクターなんですよ。旅館全体を監修する業務。そこで、日本文化のトータルプロデュースみたいなことを体験しました」
そういった経験の後、山田遊氏率いる〈method(メソッド)〉を経て、自店の開業準備に。
「method時代は、主に監修業務に関わっていました。どんな商品、どんな店が作りたいのかをまとめていく仕事ですね。今もこの店をやりながら、いくつかのブランドの監修業務に関わっているんですが、それはクライアントさんの頭の中を整理整頓して、やりたいことの最大公約数を打ち出していくことだと思っています」
辿り着いたのは「飲む」という行為
「最初は、沖縄のことをぜんぜん知らなくて。偉そうに沖縄俯瞰してみて、編集してやるぜ!ぐらいに思っていたんですよ。そしたら、当然ながら沖縄には沖縄のものがいっぱいあるし、いろいろな方がいろいろなことをやってることを知りました」
「自分はどういう役割で、自分の意思を持ってやろうかなと、ずっと考えてはいたんですけれど。やっぱり、何でもあるライフスタイルショップやセレクトショップではなくて、専門店がいいなというのが、漠然としてあったんです。何かスペシャリティショップというか、何かに特化したものが良いなと」
専門店ということは決めたものの、今までの経験がゼロになってしまう珈琲の専門店のような、自分が未経験のジャンルではなく、今までの経験を活かすことができる、ものを通した何かの専門店。その可能性について、村上さんは思いを巡らせる。
「あるとき“行為の専門性”っておもしろいなと思って、辿り着いたのが“飲む”という行為だったんです。
飲む行為って、人と人との間に必ずありますよね。しかも時間や場所、その相手やその時の飲み物で、全く行為の役割も変わってくる。休憩の為のお茶だったり、仲良くなる為のお酒だったり」
歴史をさかのぼると、世界最古の文明とされるメソポタミアの時代には既にビールやワインが存在し、茶葉は紀元前には既に発見されていたというからなおさら興味深い。
たしかに、日本はもちろん、中国やイギリスの各国々のお茶の歴史や、最近のコーヒーブームもすべて“飲む”という文化に置き換える事もできる。
「これはおもしろいと思って、沖縄を含む日本でうまれた物を中心に、飲むための道具や家具、飲み物を組み立てていった結果が、液体=LIQUIDなんです」
沖縄だから表現できたラインナップ
コンバージョンした外人住宅で「飲む」という行為に焦点を当てて展開される、日本最前線のクラフト。都内では見かける事もままならない、ピーター・アイビーのガラス作品も豊富に揃う。
「セレクトの価値基準もいろいろありますよね。
金銭的価値として、産地で量産して低価格なものの中にも良いものはある。作家さんの手仕事からうまれる情緒的価値もあるし。あとは、単純に美しいねという美的価値もあります。主にはこの三つの価値基準で選んでいて、金額的にも三段階で調整しています。
「大前提として、日本の最前線が見れたり体験できるということは、意識しています。沖縄や東アジアの方が、わざわざ個展や産地に行かなくても、ちゃんと体験できる場というのがあったほうが良いという自分の勝手な思いです。
あと心のどこかで、東京などの都市部の方がいらしても、何かしらの刺激を与えることができるような店‥‥沖縄じゃないとできないことをやろうというのは、どこかでありますね。都市部でこの店をやろうと思っても、おそらくいろいろな問題でできないと思います」
店の奥行きを広げる書籍は、店名に因んだラインナップ。選書は〈BACH〉幅允孝に依頼。
全国的に人気の〈上出長右衛門窯〉には、シーサーの「笛吹」を別注した。1周年記念として新たなシリーズも展開中
独特の深い青、”ペルシャブルー”で知られる沖縄のレジェンド・大嶺實清氏に、敢えて“黒”でオーダーした碗。唯一無二の存在感。
大嶺氏の碗を納めるのは、和紙職人・ハタノワタル氏製作による和紙の箱。他では考えられない、村上さんが生んだ奇跡のコラボレーション。
石川県輪島市から沖縄に移り住んだ、渡慶次夫婦による工房〈木漆工とけし〉。彼らにオーダーした「飲む」ための箱ものは、琉球王国の宮廷料理に使われた東道盆(トゥンダーブン)へのオマージュ。
以前関わったプロジェクトでセレクトし、結果的に村上さんの沖縄移住のきっかけにもなった〈木漆工とけし〉の漆のスプーン。思い入れ深い一品。
あらためて店内のセレクトを見渡すと、ここが沖縄、日本であることも忘れてしまう無国籍感が漂う。それはそれぞれのディテールやテクスチャー、そしてその村上さんのセレクトが本物であることであることに他ならない。時折個々で見かける事はあっても、同じ空間で見るのは奇跡に近い品々。
そんな日本最前線のクラフトを介し「飲む」という行為にフォーカスした結果、LIQUIDではカレーの展開も視野に入れている。
「カレーは飲み物だよね。ってところでオチをつけておかないと、スカしすぎてるなと思って」と村上さんは笑う。
この空間の中でカレーというだけでも驚いてしまいますが、そのLIQUIDの「飲む」という表現の場は、なんと別棟での酒屋の開店へと続いていました。
LIQUID
LIQUID: 沖縄県宜野湾市嘉数1-20-17 No.030
LABO LIQUID: 沖縄県宜野湾市嘉数1-20-7 宗像発酵研究所内
098-894-8118
営業時間:10:00〜18:00
定休日:火・水・木・金曜日
HP:http://www.liquid.okinawa/
Facebook:https://www.facebook.com/LIQUID2017/
Instagram:https://www.instagram.com/liquid_okinawa
文:馬場拓見
写真:清水隆司
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