中川政七商店のものづくり実況レポート。発祥の地、大阪 堺で注染手ぬぐいに染まる1日

10月某日。

12名の店長が降り立ったのは、古くから手ぬぐいの産地として知られる大阪府堺市毛穴町です。

その歴史は江戸時代まで遡り、和晒の大産地であったことから大阪市内の注染業者がこの地に移住し、注染手ぬぐいの産地へ成長させたといいます。



店長たちは注染手ぬぐいに日々触れながらも、ものづくりの現場を自分の目で見るのは初めて。



まずは注染の魅力に染まった1日を、遊 中川奈良町本店、店長の村田がお届けします!


そもそも、注染とは?


目的地までの道のりには工場が立ち並び、手ぬぐい生地をつくる和晒工場からは、積み上げた生地の山が見えたり、 染屋さんの煙突からは、もくもくと湯気が上がっていたり。

手ぬぐいの産地ならではの、独特の香りと雰囲気にワクワクしながら歩みを進めます。

「注染」とは字のごとく、何層にも折り重ねた生地に染料を「注」いで柄を「染」めるという技法。
表裏を同時に染めるため、色褪せしにくく、生地の糸自体を染めることで通気性が保たれ、柔らかいのが特徴です。

中川政七商店直営店にも、この技法で作られた手ぬぐいが数多く並び、その芸術的な染め上がりには、日本の方はもちろん、海外の方にも人気を集めています。
 


注染手ぬぐいができるまで


見学にご協力いただいたのは、店頭に並ぶ注染手ぬぐいを作っていただいている株式会社ナカニさんと、株式会社協和染晒工場さん。

手ぬぐいができるまでの工程を見学させていただきました。



①「糊置き」

生地の上に型紙を固定し、その上から木へらで防染糊を載せていきます。




▲木へらには職人さんの指跡がくっきり!大変な力業ですね。

②「注染」

染めの必要のない部分に染料が流れないよう、ケーキのデコレーションをするような容器から糊を絞って境界線となる「土手」を作ります。まるでパテシエのような細かな作業!


その土手の中に、ドヒンと呼ばれるじょうろのようなもので染料を注ぐと同時に、染台に設置された減圧タンクを足元のペダルで操作して、下から吸引していきます。



その後蛇腹に折り重なった生地を表と裏の2回、丁寧に染めていきます。

1度に染め上がるのはおおよそ25~50枚分の手ぬぐい、とても根気のいる作業です。

この技法は明治時代に大阪の商人が、多色の絵柄を効率よく染め上げるために生み出したもの。

職人さんの手作業だからこそできる、優しいぼかしの風合い。ひとつとして同じ出来上がりのものはないのです。

量産ながらも1点ものである注染手ぬぐい。ついつい全部広げて見比べたくなりますね!



こちらは注染独特の道具、ドヒン。サイズは大小様々で、細かな柄を使い分けるために、コップより小さなサイズもあります。

産地ごとに形も少し違うそうで、液だれしないよう、注ぎ口が斜めにカットされ、下を向いているのが多色染めをする大阪特有だそう。

▲工場にはさまざまな色の染料が

色が多く使えると楽しい!と語るのは株式会社協和染晒工場の小松さん。1枚の絵画のように繊細な技を生み出す、伝統工芸士です。

目分量で色を作り出す職人さんは、まさに色の天才。



その限りない挑戦には、私たちもその技を伝える使命を感じます。
 
ナカニさんが注染を伝えるためにつくった特別な機械で、私たちも体験をさせていただきました!



今回は土手を丸く引き、染料が広がりすぎないよう、その中に慎重に染料を注いで、優しい丸模様を1人ずつ描きました。

思い通りに土手を描くのがとっても難しく、個性ある丸が並びましたが、広げたときには「おー!」という歓声。世界に1つだけの手ぬぐいができました。



③ 水洗い

「川」と呼ばれる洗い場にて、防染糊と余分な染料を洗い落とします。一昔前は近くの石津川を使っていたのだとか。


ものづくりには綺麗な水が必要、とナカニの中尾さん。川の水質や自然条件が晒作業に向いていたことが、注染の発展にもつながりました。



④乾燥

色が変色しないようにゆっくり自然乾燥させます。



手ぬぐいの工場では、日々職人さんたちが技術の向上に励んでいらっしゃいます。
中には若い女性の姿も。遠地から職人さんを目指して来られる方も最近は多いそう。

しかしながら職人さんたちは直接自分の言葉で注染のよさを伝えることができません。

お客さまに近い存在であるお店が、正しく理解して魅力を伝えていくことが大切、と中尾さんは言います。

注染の深い魅力を知った私たち。

その楽しみ方をもっと多くの方に知っていただくために、早速目で見てきたことをお店に取り入れてみました。

直営店の中でも手ぬぐいの取り扱い数が最も多い、日本市羽田空港店を覗いてみましょう!

アイデア次第でもっと楽しい、手ぬぐいの使い方


ここからは日本市羽田空港店、店長の門林が手ぬぐいの使い方について、ご提案させていただきます!

羽田空港店はお店の正面から手ぬぐいがお出迎え!
色とりどりの手ぬぐいがこれだけ並ぶと圧巻ですね。



羽田空港店では、手ぬぐいを家で飾られるというお客さまも多いので、季節の新しい柄が入荷するとたちまち売り切れてしまいます。

季節ごとに飾る手ぬぐいを変えるだけでお部屋の雰囲気ががらっと変わりますよね。

そういったお客さまにもよく聞かれるのが「飾る以外にどういう風に使えますか」という質問です。

質問に実践で答えられるように、早速ティッシュケースを包んでディスプレイしてみました。



ティッシュケースって意外と好みのものが売っていない!手ぬぐいならお好みの柄を選んで包むだけです。

その他、個人的に気に入った手ぬぐいのスカーフ。端を固結びするだけなので簡単です。



富士山エプロンにも似合うと思いませんか?

裏表がない注染手ぬぐいだからこそできる技ですね。

また、手拭きや汗取りにもなる上に、手洗いできて乾きやすいので山登りに持っていく方も多いそうですよ。

端が切りっぱなしで生地を割くことができる分、緊急時にはちぎって使えば包帯にもなるので、心強いですよね!

ぜひ店頭でお声がけくださいね!これからもどんどんおすすめしていきたいです。

【わたしの贈りもの】妻へのクリスマスの贈りもの

いつもとは違うクリスマスの贈りもの


あなたにとって大切な人は誰でしょうか?家族や友人、恋人…。きっと多くの大切な人がいることでしょう。僕のまわりにもたくさんいます。その中でも特に人生のパートナーである妻は特別。家事やこどもの面倒など積極的にやってくれていますので、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

そんな日頃の感謝も込めて、クリスマスの特別な日には喜んでもらえるプレゼントを贈りたいものです。感謝の気持ちが何よりも大切ですが、贈ったものを喜んで使ってもらえると、こちらとしても贈りがいがあって嬉しいですし気分が良いですよね。でも何を贈ったら喜んでもらえるのか、毎年頭を悩ませます。

悩みに悩んで「いつもとは違う贈りもの」ができたら良いなと思い、いくつか考えてみました。ちょっと変わった組み合わせや、こんな素敵なものがあるんだ!と思ってもらえるようなものばかりです。今年はこの中から妻の様子を伺いつつ、プレゼントしたいと思います。





一緒におでかけしたいけど、肌の乾燥が気になるし寒いからやめておく。そんなことが今まで何度とありました。冬の乾燥はお肌の大敵。でも「麻之実油のスキンバーム」があれば安心です。小さいのでポーチに入れても邪魔になりにくいですし、麻のみから採れる麻之実油などのオーガニック成分が配合されているので、手や目元にも使えるのもうれしい点。ラベンダー油やオレンジ果皮油も配合されているので、さわやかでうっとりするような香りも素敵です。

それと、寒い冬でもおでかけが楽しみになりそうなアクセサリーも一緒に組み合わせてみました。「花のピアス 富山 しけ絹」は真っ白でとても綺麗。富山の伝統織物「しけ絹」で作られたこの花のピアスには透き通るような清潔感があり、普段着からフォーマルにも合わせやすい意外と万能なピアス。上品なデザインで綺麗な白色なので、ホワイトクリスマスっぽさがあってクリスマスプレゼントにも問題なさそうです。美容の小物とアクセサリーのセットは今までにプレゼントしたことがありませんが、なかなか面白いと思います。これならおでかけが楽しくなることに間違いないのできっと喜ばれるはず。




冬の朝はなかなか起きれませんよね。妻もよく布団にくるまってなかなか起きないことがあります。夜も寒い寒いと震えていることが多い妻には、体を冷えから守ってくれるストールも良いのでは、と思いました。
「ブランケットステッチのポケットストール」はなめらかな肌ざわりが気持ちいい厚手のフリース生地で、とってもあったか。大判なのでさっと羽織れば腰あたりまでぬくぬく。ボタンを止めればやさしく包まれているような感覚で全身をあたためてくれます。ポケットもついているので、眼鏡などの小物を入れたりできて家にいるときに羽織るのにぴったりだと思います。
全身を覆うくらいの大きさのストールはプレゼントしたことがありませんが、これならステッチのデザインもかわいくておしゃれな感じもありますし、機能性も良いのできっと喜ばれるばず。やわらかな生地なので、子供を抱っこしたときも安心なのも良い点だなと思います。




料理好きな妻へは、素敵なお皿を贈るのも意外といいかもしれません。「かもしか道具店 グリル皿」はオーブン・レンジやトースター、直火などあらゆる調理機器に使えるとても万能なお皿。オーブンで焼いたものをそのまま食卓に並べることができるので、ごはんも楽しくなりそう。
クリスマス感はありませんが、チキンや野菜を一口大に切ってこのお皿に盛り付けをしてオーブンで焼いたり、チーズたっぷりのグラタンを焼いてみたりすれば、素敵なクリスマスディナーが楽しめそうです。大・中・小のサイズがあるので、自分たちの暮らしにあった皿を選べば、クリスマスディナーだけでなく普段の食卓も華やかになりそうです。四角いシンプルな形で深さもあり扱いやすいサイズなので、いろんな料理のイメージもしやすく一緒に料理が楽しめそう。白・黒・茶のカラーバリエーションもありますので、子供が大きくなった時に色違いのものを買い足したり、家族全員同じもので揃えても良いでしょう。夢が膨らむお皿です。




やはりクリスマスの贈りものとしてあたたかグッズは見過ごせません。過去にマフラーや手袋などのあたたかい小物をプレゼントしたことがありました。小物だとサイズ感の失敗はなくてそのようなものばかり選んでいましたが、今年は思い切ってセーターを贈ってみようかなとも思います。
「麻わたウールのセーター」は“麻わたウール”という特別な糸で編み上げられた、ふんわりとやわらかなセーターです。麻の素朴で素敵な風合いを残しつつ、やわらかであたたかい。そんな素敵なセーターです。
このセーターが贈り物として良いなと思ったのは、身幅が広めに編まれているというところです。これならサイズ感の失敗はなさそう。そして、シンプルなデザインは飽きにくく手持ちのいろんな服にも合わせやすいと思いますので、きっと長く愛用してもらえそうです。


いろいろ考えてみると、素敵なものがたくさんあってどれがいいか結局悩みそうですが、どれを贈っても喜んでもらえる気がします。
クリスマスまでじっくり考えたいと思います。

中川政七商店のクリスマス特集もぜひご覧ください。
クリスマスの特集はこちら

編集担当 森田

中川政七商店のものづくり実況レポート。 「さんち修学旅行」奈良のふきん

 

残暑厳しい8月某日、私たちは「ふきん」を知る旅に出かけました!

中川政七商店の看板商品である「花ふきん」「かや織ふきん」はどのように作られているのか、生で見たい!どんな職人さんがどんな想いで作られているのか、生で聞きたい!そして見聞きしたものをお客様にも伝えたい!ということで、中川政七商店のふきん作りに関わっていただいている3軒の作り手さんを訪ねました。


そもそも「花ふきん」「かや織ふきん」とは?

訪問記をお伝えするその前に!まずは、中川政七商店の看板商品である2枚のふきんについて、ご紹介させてください。

「花ふきん」「かや織ふきん」はどちらも奈良県の特産品「蚊帳生地」で作られています。「風は通すが蚊は通さない」という蚊帳(かや)に使われる目の粗い薄織物を使った綿100%のふきん。

その素材を生かした大きな特徴は「よく吸って、すぐ乾く」ことです。

中川政七商店のふきんは「よく吸って、すぐ乾く」魅力的なふきんなのです!
大切なことなので、2回言いました(笑)

花ふきんは、その蚊帳生地を2枚重ねの大判に仕立てています。

薄手なので細かい部分も拭きやすく吸水性に優れ、目が粗いため速乾性にも優れています。
大判なので、お弁当包みなど拭く以外の用途に使うのもおすすめです。

かや織ふきんは、花ふきんよりも小ぶりなサイズで、5枚重ねで縫い合わせています。
使うほどに柔らかくなり、吸水性に優れ丈夫で長く使うことが出来ます。様々な柄があり、各地域限定のご当地ふきんなども人気商品の1つです。

どちらも魅力的で、中川政七商店に来ていただいたらとにかく1番におすすめしたい「花ふきん」「かや織ふきん」。

実はこの2種類のふきんは、サイズや重ねの枚数以外に、作り方にも違いがあります。

下図をご覧ください。



それぞれのふきんに合わせた、最適な工程を経て、形となっていくのです。

全ての工程を詳しく知りたいところですが、今回許された時間は1日のみ。

全工程の見学は泣く泣く諦めて、今回は「織り」「プリント」「縫製」の3つの工程を見に行かせていただくことにしました!


まずは、織りの「大和織布」さんへ

1軒目にお伺いしたのは、「大和織布」さん。

奈良の大和西大寺駅から歩いてしばらくすると、静かな住宅地の中から「カシャンカシャン」と音が聞こえてきます。

音の正体は、こちら。


▲大きな機械で織られていく生地

近づいてみると、みるみるうちに生地が織られていく光景に目を奪われました!

中川政七商店の「花ふきん」や、春夏の大人気商品「かやストール」等の生地は、こちらの「大和織布」さんでお願いしています。

工場の中には所狭しと織機が並んでいて、絶え間なく動いています。
代表の野崎さんから蚊帳の特徴や織り方をお伺いしました。


▲代表の野崎さん

かつて「蚊帳」は夏の夜に蚊を避けて快適に寝るために、欠かせないアイテムでした。

しかし近年は生活様式の変化で、蚊帳はほとんど使われなくなってしまったそうです。(確かに、私も写真で見たことはあるけれど、実際使ったことはありません…。)
そこで蚊帳生地の製造技術を他のものに生かそうと、考えられた製品のひとつが「ふきん」。

蚊帳生地独特の目を粗く織る技術のおかげで、速乾性のあるふきんが出来上がるというわけです。でも、この目の粗さを一定に保ちながら織るのが難しいのだとか。

レピア、エアー、ウォータージェット等いろんな織機がある中、「花ふきん」はシャトル織機という機械で織られています。

これらの機械の違いは、簡単に言うと緯糸の挿入の仕方の違い。

シャトル織機では、経糸が張られた織機に、緯糸が巻かれたシャトルが右から左、左から右へと、目にもとまらぬ速さで動いて、生地が織られていきます。


▲シャトルが左右に動き生地が織られていきます。(左上を通過中で細長く映っているのがシャトル)

ただ、このシャトル織機は、エアー織機など他の織機に比べて4分の1のスピードでしか織ることができないとのこと。(こんなに早いのに?と思いましたが…)

でも、他の織機に比べてゆっくり織られるからこそ、機械的で平面的な風合いにならず、ふくらみのある生地を織ることができるそうです。

またシャトルが左右を往復することで耳ができ、ほつれにくい丈夫な生地に仕上がるという特徴もあります。


▲シャトル織機で織られた生地には左右の端に輪になった耳ができます

1本でも経糸が切れたら止まってしまう機械を、職人さんが細やかな調整をしながら動かしておられます。

熟練の職人技がふきん作りを支えてくださっているんですね!ありがとうございます。

カシャンカシャンという心地よいリズムを聞きながら、大和織布さんを後にしました。


2軒目は、プリントの「松尾捺染」さんへ

みんなで美味しいランチをいただいた後、電車に揺られて次にやってきたのは大阪の高井田駅。

ここから次にお伺いしたのは「松尾捺染」さん、1926年創業の様々な捺染技術を持つ作り手さんです。

「かや織ふきん」のプリント等、様々な商品の染めの工程を行っていただいています。

こちらの工場の中もかなり暑い!染色した後に色を安定させるために蒸し工程があり、その工程の周りは特に暑いそうです。またお水を使う作業も多いことから、冬は寒いとのこと…このような環境で、染めあげていただいている職人さんに感謝です。

蚊帳生地は、薄手で目が粗いため非常にゆがみやすい生地なのだそうです。

そのような生地に柄をゆがみなく染めるのは非常に難しいとお伺いしました。

また細かい柄は染料だとぼやけてしまうので、かや織ふきんには、小さな柄も綺麗に表現するために顔料を使って染めていただいています。

顔料ははっきりと柄が表現出来るうえに、発色も良く色落ちもしにくいんですって。

生地や柄に合わせて、最適な染めを選んでくださっている、ここにも職人さんのこだわりを感じることが出来ました。ありがとうございます!

さて、実際染めている工程も見せていただきました。

まずは大量の染料が作られている場所へ。


▲様々な色が入った大きなバケツのような容器が沢山。

ここでは、オーダー通りの色になるように細かな調整とチェックが行われています。


▲背丈を超える長いロールが沢山。

こちらの長い棒は何でしょうか・・・。

実はこのロールこそが型なのです!

ロータリースクリーンプリントでは、このロールの下を生地が通過することで染め上がっていきます。

この染め方はロールがくるくるまわって柄が続いていくため、連続柄の大量生産に向いているそうです。


▲ロール捺染の機械。

お次は、大阪の店舗限定で販売している「大阪ふきん」の型も見せていただきました!


▲大阪ふきんの型。2つの別々の型があり、色柄が染め分けられます。

「大阪ふきん」の型は先程の型とは異なり、平らな型。
こちらには、フラットスクリーンプリントという染色技術が使われています。

型を分けることで多色染めが出来る染め方ということでした。

「大阪ふきん」は2つの型を使って2色に染め分けられていきます。
確かに型からは「大阪ふきん」お馴染みの大阪城やたこ焼き柄が見えてきます…!


▲これが大阪ふきん。赤青と黒黄の組み合わせで2種類あります。

他にも「かや織ふきん」お馴染みの柄の型や染め上がりをたくさん見せていただき、私たちが普段お店で販売しているふきんが、本当にここで作られているんだなぁと実感しました。

ちなみに次のお正月の新柄ふきんの染め上がりも見ることが出来ました!
これまた可愛いんです!店頭で皆様に見ていただく日が楽しみです。


最後は、縫製の「ホトトギスさん」へ

さて、ここからまた電車で移動して、3軒めの会社を訪ねます。
またもや住宅地の細い路地を抜けて到着したのは、何やら可愛らしい看板の前。


▲ホトトギスさんのドアに掲げられた看板。

中に入らせていただくと、倉庫のような天井の高い空間に、ロール状の蚊帳生地と、出来上がったふきんが、山のように積み上げられています。

こちらの「ホトトギス」さんでは「かや織ふきん」の縫製から検品まで行っていただいています。

織り、染め、糊付け等たくさんの工程を経てきた蚊帳生地が、ここでついに1枚のふきんとして形になるのです。

生地の周りには、見たことのないような機械がたくさん!

なんでもこの機械、ふきんの縫製にあわせて「ないものは作る!」と独自に作られているものが多いそうです。

企業秘密が詰まった機械は撮影NGとのこと。なので、この目にしっかり焼き付けておくことにしました!

中川政七商店の「かや織ふきん」は綿100%の生地を5枚重ね合わせたもの。

それぞれロール状に巻かれた長い5枚の生地が一気に縫われて、さらにいくつかの工程を経ていきます。

染めの工程でもお伺いしましたが、蚊帳生地は柔らかくてゆがみやすい為、縫製もやはり難しいそうです。

縫製の前に糊付けという工程があるのは、柔らかくて縫いにくい生地を綺麗に縫製するために考えられた、ものづくりの知恵なのです。

とはいえ、糊付けされても地の目が真っすぐになっていない為、真っすぐ美しく仕上げるためには縫製にも高度な技術がいるとのこと。

1つ1つの工程に「おぉっ!」と思っていたら、あっという間に1枚のふきんが出来上がりました。

知っています、あっという間に出来る簡単そうに見えることこそ、実は難しく、プロだからこそなせる技が詰まっているということを。

こちらの職人さんたちは、元々ベビー肌着の縫製のお仕事をされていたとのことで、丁寧な縫製や検品などに、並々ならぬ工夫とこだわりを持っていらっしゃいます。

例えば5枚の生地がしっかりと縫い込まれるように、端を縫う針目の数へのこだわり。

端の糸がほつれて出てきにくいように伸縮性のある糸を独自にオーダー等々。

お話しをお伺いしながら出来上がったふきんを見てみると、本当に綺麗な縫製になっているのです。

だからこそ、丈夫で長持ちするふきんになるんですね。


▲出来上がったかや織ふきん、細部まで丁寧に縫製されています

かや織ふきん、正直なところ今まで柄ばかりに目がいって、縫製にこんなにもこだわりがあるなんて知りませんでした。(すみません、本当に…。)

縫製という工程においても、職人さんのプロフェッショナルな技と心配りに感動しっぱなしでした。ありがとうございました!


ふきんを知る旅を通して、感じた想い

ホトトギスさんを後にする頃には、外はもう暗くなりかけていました。見たり聞いたり熱中しすぎて、気づけば終了予定時間を大幅に過ぎてしまいましたが、とても充実した1日となりました。

ふきんが出来上がるまでには、多くの職人さんの技術やこだわりが沢山込められていることを、今回学びました。

ふきんにすることが難しい蚊帳生地を、あえて使うことによって「よく吸って、すぐ乾く」ふきんが出来上がっているんですね!

今回作り手さんたちからお話しを聞かせていただき、私たちも今まで以上に「ふきん」に愛着がわいてきました。

職人さんがお客様に直接伝えられない熱い想いを、私たちが代わりにお伝えしていきたいと思います。

より多くのお客様に、ふきんの魅力を知っていただき、そして使っていただきたい。そうすることで、お客様に喜んでいただき、心を込めて作っていただいている作り手さんにも恩返しすることが、私たちの使命なのです。

技術とこだわりがたくさん詰まった中川政七商店の「花ふきん」「かや織ふきん」、まずはぜひお手に取ってみてください。

触っただけでも良さが分かります。

皆様のご来店を心よりお待ち申し上げております!!

 

【わたしの好きなもの】麻之実油のスキンケア

繊維から実に至るまで、無駄のない「麻」


中川政七商店と言えば「花ふきん」や麻生地製品などの雑貨が看板商品ですが、
知る人ぞ知る優れもの「麻之実油」を使用したスキンケア用品をご紹介いたします。 
私もその実力を知ったのはつい最近の事、 店頭サンプルの香りにハマったのがきっかけでした。 
何とも表現し難い、清々しくも甘い香り。 
即座にハンドクリームとリップクリームを愛用品に追加致しました。




ハンドクリームは手のひらで伸ばしながらよく温めると、何とも言えないあの香りがふんわり漂います。
その後丁寧に手の甲や手首、指先まで塗り込んでいくと、香りもさる事ながら潤いも満ちてきます。
至福のひとときです。
しかしハンドクリームにありがちなベタつき感は全くなく、潤いは保たれたままつるりとした仕上がりに感激!
此れはもう、手放せません。




リップクリームは保存料・着色料無添加、麻之実油配合で、唇に乗せると体温で優しく溶けて、
こっくりとした潤いをもたらしてくれます。
ドライリップの方は何度か重ね塗りをして頂くと、より麻之実油の濃厚さを実感して頂けます。
重すぎず軽すぎず、程よい心地よさにうっとり。


侮る事なかれ、麻之実油。 
繊維から実に至るまで「無駄のない完璧さ」は、 まるで芸術品並みの出来映えです。 
ハンドクリームもリップクリームも、特にこれからの季節の必需品。老若男女問わずお使い頂ける逸品です。
使って頂くときっと解る麻之実油の良さ。みなさまの「欠かせない物」になるはずです!


中川政七商店 渋谷スクランブルスクエア店 工藤
 

いま大牟田が面白い。「IN THE PAST」で感じた、魅力的な街に必要なもの

人は「そこでしかできない体験」を求めて旅をする。

たとえば、ローカルショップでの買い物やその土地の食材をを楽しむ食事。豊かな自然や歴史ある文化遺産巡り。

でも、それは本当に「そこでしかできない」ことなのだろうか。

各地の郷土料理を出す店は東京にもあるし、土地ならではの特産品はネット上で簡単に買える。

その場所でしか買えない、食べられない、見られないものは、どんどん少なくなっている。もちろん、どんな場所に住んでいても欲しいものが入手できたりするわけで、それ自体悪いことではない。ただ少し、世界が狭くなってしまったような寂しさを覚えてしまう。

そんな折、取材で訪れた福岡県の大牟田という街で、旅に出ること、ある場所に「もの」や「人」が集うことの価値や可能性を再認識する機会に恵まれた。

“食”を扱う「PERMANENT」と、“もの”を扱う「みんげい おくむら」

「僕がここで展示会をやりたいと思えたのは、定松さん夫妻のやってきた『PERMANENT(パーマネント)』が前提にあったからなんです」

そう話すのは、世界中の民藝や手仕事の器、生活道具などを扱うwebショップ「みんげい おくむら」の店主、奥村忍さん。今年8月、大牟田市内で企画展「民藝奥村“Unknown”展」を開催した。

in the past

会場となったのは、2017年に誕生したばかりの多目的スタジオ「IN THE PAST(イン ザ パスト)」。リトルプレス「PERMANENT」の発行などをおこなうグラフィックデザイン事務所「THIS DESIGN」の定松伸治さん、千歌さん夫妻が運営する空間だ。

基本的には「THIS DESIGN」のオフィス兼お二人の自宅でありつつ、今回のような企画展やポップアップストア、トークショーなどのイベントも開催している。

「PERMANENTは、“食”が取り上げられている雑誌で、とても興味深く読んでいました。一方で僕は食の周辺にある“もの”を集める活動をしている。

たとえば『PERMANENT』を読んでいる方が会場に来た時に、その考えが増幅されるような展示にしたいなと思いました」

おくむらさん
奥村忍さん

「PERMANENT」は、“つくる、たべる、かんがえる”を掲げる季刊誌。生きる上で最も根源的な営みの一つである「食べること」について考え、発信する媒体として、丁寧な取材に基づいた記事で構成されている。

リトルプレス「PERMANENT」
リトルプレス「PERMANENT」

同紙のステイトメントには、“「食べること」への認識を肥やす”とある。すぐに答えを出すのではなく、考え続け、肥やしていく姿勢が印象的だ。

養鶏場での鶏捌きの生々しいレポートや、子連れで入れるレストランがなぜ少ないのかといった社会的課題への取り組みなど、様々なテーマに真摯に向き合う。読者も自分の頭で考え、肥やすことが求められるが、そこには前向きに行動するヒントが散りばめられていて、背筋が伸びる。

「用」がないものを集めた“Unknown”な品々

そんな「PERMANENT」を通じた定松さん夫妻の活動が前提にある今回の展示。

「いろんな意味で、ほかの展示会ではやらないことをやっています。特に用途がないものを持ってきたりとか。

『用』がないものってやっぱりあるわけなんです。『用』はないけれど、家に置いておきたくなるような、ただ、美しいもの。

暮らしの中で『用』があるものだけになるとちょっと窮屈に感じる部分もあって、それを和らげてくれる気もします。

そういった観点で、いつもより枠を広げて持ってきました」

in the past

定松さんは今回の展示会について、告知の中で以下のように説明している。

表題の「Unkown」は不明、不詳、名も無い…という意。また、「Unkown」には、日本語の「安穏(あんのん)」という〝音〟が隠れていると考えました。安穏とは〝…心静かに落ち着いていること。また、そのさま。平穏無事…〟これも今回の企画展のテーマであり、今の時代、重要なキーワードだと思います。作者や年代が不詳なもの。用途が不明なもの。だけど、ただただ美しい…。そういう『もの』を観ることで、『もの』の価値や、『もの』の本質の在り処を探して頂きたい。

何か答えを提示するのではなく、「もの」の本質の在り処を探して欲しいとする姿勢。「PERMANENT」にあった“認識を肥やす”という言葉がここにも通ずる。

サダマツシンジさん
定松伸治さん

「奥村さんが言っていたように、『PERMANENT』は“食”なんです。

暮らしを構成する衣食住をどう扱おうかと考えたときに、その中で本当に無理なく続けていける“食”が残りました。

でも、それだけを大事にしているわけじゃなくて、暮らしにまつわる他のことも付随してきます。

考え方のベースは『PERMANENT』に置きつつ、そこではできないことを、『IN THE PAST』でできれば」

と千歌さんは話す。

定松千歌さん
定松千歌さん

「IN THE PAST」は、“過去には”という意味を持つ。

定松さんたちは「過去」を、様々な“出来事と経験”が集積した時間と捉える。その「過去」を現在に呼び出し、“出来事と経験”を集った人たちとともに“肥やす”。そんな時間をこの場所で持ちたいという。

 in the past
「IN THE PAST」とはどのような場所なのか

そこに今回展示された「用」にしばられない「もの」たち。

たとえば何に使うのか分からないハンマーのような「もの」は、「PERMANENT」を通じて暮らしを真剣に考えている人たちの目に、どんな風にうつるのか。

in the past

「食べること」や暮らしについて普段から考えている人たちだからこそ、肩の力を抜いて「用」のないものたちを楽しめるのかもしれない。

実際に手に取り、定松さんたちと話したり、奥村さんから直接説明を聞いたりすると、Web上で情報を見るだけでは得られない、体感に紐づいた知識の習得もできる。

様々な文脈を持った「もの」や「人」が「IN THE PAST」に集まり、「そこでしかできない」経験がうまれ、肥やされていく。

in the past

なぜ大牟田なのか

大牟田に人々が集える場所をつくった定松さん夫妻。

二人はもともと福岡市内で活動していたが、やがて、千歌さんの故郷でもある大牟田にやってきた。「IN THE PAST」の建物自体も、千歌さんのご両親がかつて調理器具の専門店と生活雑貨店を営んでいた場所だ。

ルーツがある。それもひとつの判断材料になった。加えて、二人のやりたいことを実現できる環境を探した結果、たどり着いたのがこの場所だった。

in the past
商店街入り口、白い扉の建物に「IN THE PAST」は入っている

千歌さん曰く、アクセスがしやすい場所であることが、大牟田の持つポテンシャルのひとつなんだとか。

「福岡や熊本の中心部に電車一本で行けるし、佐賀空港も使えるし、バスも出ている。意外と交通の便がいいと気づいたんです。

自分が外に出やすいということは、人も来やすいってことかなと思って、サダマツに相談したら『確かにね』って」

人口でみると福岡市の10分の1にも満たない大牟田市だが、実は人の行き来が起こりやすく、福岡や熊本へ1時間程度で出られるため、ベッドタウンとしての可能性も秘めている。

変わりゆく大牟田の街

「IN THE PAST」のようなパブリックな特性も持った場所を運営していると、いわゆる「地方創生、まちづくり」といった文脈の相談もやってくる。私自身も、ローカルで活動している人たちに話を聞くとき、そういった質問をしてしまうことが多い。

しかし定松さん夫妻はそういった考えはまったく持たず、あくまで自然体だ。

「まちづくりとか、考えてはないですね。自分たちが住む街で、いかに二人で楽しく過ごすか。それだけです」と、千歌さん。

「やりたいことがある人たちが街に来て、やりたいことをやって、元気に過ごす。そのうちに色々とコミュニティができて、気づいたら10年後、街ができていた。

それが、持続するまちづくりだと思うんです」

やりたいことの実現がまず最初にあるので、たとえこの場所が福岡であってもどこであっても、基本的には変わらない。我が道を行く二人ではあるが、「IN THE PAST」ができる少し前から、大牟田の街自体も少しずつ変わってきていたという。

「それまでも、近くの窯元との付き合いがあってこの辺りには来ていたんですが、寄りたいと思える場所があまりなくて、滞在せずに通りすぎてしまう街でした。

取引先の窯元のご実家が元々やっていた『博多屋』というビアガーデンがあって、そこは本当に素晴らしい場所なんだけど、夏しかやっていないし。

そんな中、美味しいイタリアンのお店『nido(ニド)』がオープンし、その後、同じ並びに『IN THE PAST』もできた。

『nido』が食材を仕入れている生産者さんたちと、たまたま定松さんたちも『PERMANENT』で繋がっていたりして、俄然面白くなってきました」

と、奥村さん。

大牟田駅の近くには、「taramu(タラム)」というモーニングも提供するユニークな本屋さんができて、朝の時間を有意義に過ごせるようにもなったのだとか。

taramu
大牟田駅近くにある「taramu books & cafe」。本・雑貨の販売に、カフェスペースも併設されている

「『nido』の食材にしても、『taramu』で朝出てくるローカル新聞(有明新報)にしても、ほかの街では体験できないことなんです」

taramu
taramuで本棚を物色する奥村さん

「本当に(大牟田は)変わったと思う。Facebookとか、SNSの影響も大きいです」と、定松さんも話す。

情報格差が薄まって、東京が文化の発信地だと特に意識しない世代が増えてきたとも感じている。SNSの情報が思いがけず拡散し、それを見た人が足を運ぶ。

千歌さんは、「Webですべて見れてしまう、完結してしまう場合もあると思います。でも、今回の奥村さんの商品とか、やっぱり直接見るとより感じる部分があるし、在廊してもらって直接お客さんに説明しているのを聞いていて『へー』っていう面白さはすごくある。

そこまでの経験をSNSではなかなか伝えられないんじゃないかな」と、リアルな場所で「もの」や「人」と接する意義を実感している。

in the past

意識はするが、依存はしない。ゆるやかな共存

大牟田に来てからの2年間、実感としてはどうだったのか。

「『PERMANENT』をやっていたから、たとえば『nido』の人たちと距離が縮まるのも早かった。生産者さんのところに一緒に行ったりとか、好きなワインも似ているので分けてもらったりとか(笑)。

他にも面白い人たちが点在していて、ラッキーでしたね。

あとは、今回のような展示会をやると福岡からも友達が来てくれるし、僕たちはあまり大牟田から出なくなりました。人に来てもらえるのかどうかは、ずっと続く課題ですけど、今は上手くバランスがとれているような気がします」

と、定松さん。

in the past
「時々可否」と銘打たれた期間限定のカフェもオープン。定松さんが自ら焙煎し、淹れてくれるコーヒーはとにかく飲みやすく美味しいの一言

「nidoの田中くんも、taramuの村田さんも、博多屋のるいさん(※奥村さんの取引先でもある、小代焼 瑞穂窯の福田るいさん)も、みんな切磋琢磨してるとは思うけど、依存しあっているわけではなくて。

世代もばらばらで幅があるけど仲が良く、でも、べたべたしているわけじゃない。ちょうど良い感じで、ゆるやかに共存しているんだと思います」

in the past

街から街を訪ね、新たな“出来事と経験”を運ぶ奥村さん。“出来事と経験”を共有し、肥やす場をつくった定松さん夫妻。

運ぶことと肥やすこと。この循環が心地よい空間を生み、街自体の魅力にもつながっている。

東京に戻ってからも、千歌さんが言う「ゆるやかな共存」がしばらく頭から離れなかった。すぐにでもまた大牟田に行きたい。

それは、「博多屋」のハーフ&ハーフビールがあまりに美味しかったからか。それとも食べ逃した「taramu」のモーニングが気になっているからか。いつの間にか自分も「ゆるやかな共存」の輪の中に入ったような、そんな気分になっているからなのかもしれない。

<取材協力>
「IN THE PAST」
https://inthepast.jp/
「みんげい おくむら」
http://www.mingei-okumura.com/

文:白石雄太
写真:中村ナリコ

そろばんがなくなる?日本一の産地・兵庫県小野市に生まれた「新たな可能性」

かつて、計算の道具として人々の生活に欠かせなかった「そろばん」。

最近では計算力や集中力を高める効果があると注目を集め、あらためて習い事としての価値も見直されているところです。

しかし、長く続いた需要の低迷を受けて、つくり手である職人の数も少なくなり、このままではそろばんづくりが続けられない、という危機的な状況も生まれています。

そんなそろばんの「今」を知る人を、生産量日本一の産地に訪ねました。

生産量日本一「播州そろばんの町」兵庫県小野市

大きなそろばんのモニュメント
大きなそろばんのモニュメント

そろばんの二大産地の一つ、兵庫県小野市。

ここで安土桃山時代から製造が始まったとされるのが、生産量で日本一を誇る「播州そろばん」です。

昭和35年の最盛期には、年間360万丁もつくられていた「播州そろばん」。

その現状について、明治時代に創業し、そろばんの製造販売を手がけてきた株式会社ダイイチの宮永 信秀社長に聞きました。

株式会社ダイイチ 宮永 信秀社長
株式会社ダイイチ 宮永 信秀社長

習い事としてのそろばん・珠算の可能性

「最近は、そろばんを習いはじめる子どもたちの年齢がどんどん下がってきています」

以前であれば、小学校3年生ごろに受ける珠算の授業が、そろばんに触れるはじめての機会という子どもがほとんどでした。

今は、年齢が小さいほど力を引き上げてやれる。と考える親が多いのか、3~4歳くらいからはじめる子どもが増えたんだそう。

ワークショップでつくるカラフルなそろばん
ワークショップでつくるカラフルなそろばんは子どもに人気

「脳や学力への影響を実証するのは難しいですが、そろばん自体はさておき、珠算教育の効果は確かにあると個人的には考えています。

珠算では、問題を読み、読み上げた数字を指で弾き、出てきた答えを紙に記入する。これを決められた時間の中で完結させることが求められます。

一定時間、座ってしっかりと集中する。それが習慣となれば、そのほかの勉強の場面でも集中力が発揮できる。ということは実感しています」

電卓の登場。全国の珠算塾の減少。さらに子どもの数自体も少なくなっている。

こうした状況にありながら、そろばん・珠算教育の価値が見直されてきた関係で、再びそろばんの需要が増えている地域もあるとのこと。

「弊社の実績としても、わずかではありますが、増えつつあります。

ただし、子どもの数自体は少なくなっているので、大幅な増加は見込めないと思っています。

この技術をきちんと守りながら、海外輸出なども少しずつ始めているところです」

ダイイチ 宮永社長

計算の道具から教育に欠かせない道具へ。

一度は役目を終えたかに思えたそろばんが、再び脚光を集めようとしています。

そろばんは、四分業制でつくられる工芸品

道具としての役目を変えつつあるそろばん。しかし熟練の職人が手作業でつくり上げる工芸品は今、存続の危機を迎えています。

工芸品としての美しさもある「播州そろばん」
工芸品としての美しさもある「播州そろばん」

「播州そろばんは、四分業制でつくっています。

そろばんの珠(たま)を削る職人。削られた珠に染色して竹ひごが通る穴をあける、珠仕上げの職人。竹ひご自体をつくる職人。そして最後に組み立てる職人。

それぞれ専門の職人の力が合わさってそろばんが完成します」

と宮永さんが言うように、一人だけでは完結しないのがそろばんづくりの難しいところ。

ダイイチも、社内にいるのは「組み立て」の職人のみで、その他の工程はそれぞれ外部の職人にお願いしてつくっています。

ダイイチの組み立て職人さん
ダイイチの組み立て職人さん
珠を竹ひごに通していく作業
珠を竹ひごに通していく作業

「各工程、使う道具や機械もことなり、それぞれ熟練した感覚と経験が必要です。

過去を遡っても、全工程をひとりでまかなった職人は、いないと思います」

たとえば、珠を仕上げる職人が担当する染色と穴あけ。

なんとなくシンプルで簡単そうにも思えますが、寸分違わず綺麗な穴をあけていくには相当の技量が必要。一朝一夕には身につきません。

そろばんは、珠が動き過ぎても、逆に動かなすぎても使い勝手が悪くなるもの。

播州そろばんでは、理想の使い勝手を追求した結果、珠の穴の直径は3.05ミリ、そこに通す竹ひごの直径は2.95ミリと明確な基準が定まっています。

この穴を開けるのが、難しい
この穴を開けるのが、難しい

「年間に360万丁をつくっていた時代には、四分野それぞれに何十軒と会社があり、競い合っていました。

大量につくりながら、品質も高めていくには、分業が理にかなったやり方だったのだと思います」

需要の高まりを受けて確立されていった分業制。専門の職人の技能は向上しましたが、今では後継者不足という大きなリスクを抱えることになりました。

竹ひご職人はあと一人。危機的な状況

四分野の職人は、どれくらい残っているのでしょうか。

「珠削りは60代と80代が1名ずつ。珠仕上げも同じく60代と80代が1名ずつ。竹ひごづくりは70代の職人があと1名だけ残っています。

組み立ての職人は12〜13軒前後と、比較的多く残っていますが、法人として運営しているのは弊社のみで、あとは個人でやられている方たち。正直、危機的な状況です」

ダイイチ 宮永社長

どこかひとつでも倒れてしまうと、製品自体がつくれなくなってしまう分業制。

播州そろばんにおいては、四分野のうち、三つの分野がいつ無くなってもおかしくない状況となっています。

なお、もう一つのそろばん産地である島根の「雲州そろばん」に関しては、すでに「組み立て」以外の職人が断絶しており、材料を播州から供給している状態なんだそう。

前例はないものの、いずれは自社で四分野すべてをまかなう必要があると、宮永さんは考えています。

「私自身、36歳で小さい子どももいます。まだまだそろばんで飯を食べていかないといけない。当然、先祖代々つないでくれたものを次の世代に残していきたい気持ちもあります」

引退された珠削りや珠仕上げの職人さんから機械を譲り受けるなどして、自社でできる範囲を広げていこうと挑戦している最中とのことでした。

つくったものに名前が残る仕組み

従来のそろばんは、組み立てた職人の名前だけが枠に彫られて商品となっていました。

「作者として、一人の名前しか入っていないので、すべてその職人だけでつくっていると思われがちです。

四分業でやっていることをもっと知っていただきたいし、全員の名前を出すことで、自分の仕事に誇りと責任がうまれるのではないかと思っています」

ダイイチでは、左端の珠に四分野の職人すべての名前を彫った商品を発売しています。

関わった職人の名前を珠に刻んでいる
関わった職人の名前を珠に刻んでいる

やはり自分の名前が残る分野に人が集まりやすく、それが、組み立ての職人が多く残っている要因のひとつ。

現状では後継者不足の解消に直接つながることは難しいかもしれませんが、少なくとも今残っている職人たちのモチベーション向上につながる取り組みです。

使わない人が買うそろばん

その他、ダイイチでは本来のそろばんだけでなく、そろばんの技術や素材をいかした商品の開発・販売も積極的におこなっています。

ストラップや時計、知育玩具にアクセサリーまで。社内の意見を吸い上げつつ、まずは形にしてみることを大事にしているそう。

さまざまな商品を開発・販売している
さまざまな商品を開発・販売している
そろばんの珠をつかった時計
そろばんの珠をつかった時計

「そろばんの珠、竹ひごなど、そろばんのパーツを使う前提ですが、なにかそろばん以外の可能性があるんじゃないかと考えています。

売れる商品が増えれば職人の仕事も増やせますし、後継者育成にもつながるかもしれません」

5と9しかあらわせない、合格祈願のストラップ
5か9しか示せない、合格祈願のストラップ

「使わない人がそろばんを買う時代がくる」

宮永さんの父で、ダイイチの現会長はよくこんな風におっしゃっていたそう。

計算の道具としての役目が終わっても、きっとそろばんを必要とする人、魅力に思う人が出てくるはずと、考えられていたのかもしれません。

播州そろばんのこれから

喫緊の課題である後継者不足の問題は非常に大きく、その解決は一筋縄ではいきません。

それでも、少しずつ糸口は見えてきています。

ダイイチには、20代と10代の職人が一人ずつ入社しました。

2人の若い職人が働いている
2人の若い職人が働いている
ダイイチのそろばん職人
ダイイチのそろばん職人

今は「組み立て」を学んでいる彼らが、いずれはほかの工程にも習熟していけるかもしれない。

「仕事が楽しい」と話す彼らの後に続く若者がまだまだいるかもしれない。

若い職人がいきいきと働く姿を見ていると、そんな明るい可能性を感じずにはいられませんでした。

<取材協力>
株式会社ダイイチ
兵庫県小野市垂井町734
http://daiichi-j.com/

文:白石雄太
写真:直江泰治

*こちらは、2019年3月1日の記事を再編集して公開しました。そろばんに長けた人は、10桁以上の暗算もできるそうです。絶やしたくない道具ですね。