産地のうつわを気負わず毎日。「きほんの一式」の楽しみ方 <信楽焼・有田焼編>

 


益子、美濃、信楽、有田…日本はせまいながらも焼き物の宝庫。 
そんな全国の産地と、暮らしの中で気負わず使えるシリーズを作りました。
その名も「きほんの一式」。



産地ごとに、飯碗・中鉢・平皿・湯呑みもしくはマグカップをラインナップ。

一揃えあれば和洋問わずさまざまな料理に合い、朝・昼・晩と1日の食事に活躍します。




今回一緒にものづくりをしたのは、益子、美濃、信楽、有田の4産地。

それぞれどんな特徴や楽しみ方があるのか、「ここが◎◎焼ならでは!」「こういう使い方がおすすめ」などなど、作り手の皆さんに伺った産地横断インタビューを前後編に分けてご紹介します!

前編では益子焼と美濃焼をお届けしました。今回は後編、信楽焼と有田焼編をお届けします!


「素朴でありながら表情豊かなうつわ」信楽焼


▼信楽焼の「きほんの一式」とは
信楽焼の一式は、江戸時代に幕府に茶壺を献上して以来、茶壺をつくり続けてきた明山窯と制作。明山窯オリジナルの粗土ながら上品な表情の「明山土」を用いて、ざっくりとした風合いところんとした丸みある形のうつわが完成しました。

色は「並白」「黄はだ」「鉄茶」の3種類。信楽焼の雰囲気を残すため、 焼き上がりによって色や質感に様々な表情が生まれる釉薬を採用しています。使うほどに釉薬の表面の細かなひび(貫入)に色が入り、いい味わいに育っていきます。




このアイテムに注目!「信楽焼の飯碗」


「昔からの生活用具としての信楽焼らしさは、飯碗によく表れていると思います。

信楽では茶道のお茶碗も作られていて、『利休信楽』という利休好みの茶碗も有名です。

利休も愛した信楽焼の侘び寂びのある風流な味わいを、お楽しみいただけたら嬉しいです。

飯碗の小は、子どもの手にも馴染む大きさなので、小学校低学年ぐらいのお子様にも扱いやすいサイズですよ」




作り手おすすめの楽しみ方

うつわを楽しむポイントは、釉薬のあるところ、ないところの「差」だそう。


▲底や高台は釉薬をかけず、焼くと赤い「火色」が出る信楽の土味をいかしました

「無釉部分は信楽焼特有のザラっとした質感があり、その部分を程よく残すことで独特の『景色』を表現しています。

はじめはザラッとしているこの部分も使うほどに、表面がしっとりとしてくるのも愛着のわくところ。無釉部分は吸収しやすく汚れがつきやすいこともありますが、そのシミも味わいと捉えて楽しまれる方が多いです」

また信楽焼は、焼くタイミングなどによって個体差が出るのも特徴。

「私達の窯は特に個体差が出る『還元焼成』という焼き方を多く採用しています。

まるで昔の薪窯で焼いたような表情を残せて、同じものがないため、その個体差を店頭でお楽しみいただいて、自分だけの『ひとつ』を是非見つけていただきたいです」


うつわの色いろ

今回のきほんの一式シリーズでひときわ目を引くのが、信楽焼の明るい「黄はだ」色。その使い方についても、明山窯さんからアドバイスが。



「『黄はだ』は一見鮮やかではありますが、味のある渋めの色なので、どんなお料理にもしっくりと馴染みます。

朝食などにお使いいただくと、一日を明るい気分で過ごせる、そんな色ですね」

とのこと。うつわから元気をもらうというのも素敵なアイデアですね。




「印判絵柄のゆらぎが楽しいうつわ」有田焼


▼有田焼の「きほんの一式」とは

多様な絵付けの磁器で発展した、有田の高い印判技術をいかしました。江戸時代に庶民が愛した印判のうつわは印刷ならではのかすれやにじみが味わい深く、料理を明るく彩り引き立てます。

印判とは、焼成前のうつわに判や型紙、転写紙を用いて模様を写し取る絵付けの技法。この技術により絵付けにかかる時間が大幅に圧縮され、それまで高級品だった有田の染付磁器を庶民も手にすることができるようになりました。



転写とはいえ、ひとつひとつに現れるかすれやにじみが味わい深く、その表情は豊か。そんな印判のうつわに描かれるのは、子孫繁栄・長寿の意味を持つ「微塵唐草」、福を絡めとる「網目」、長寿を象徴する「菊花」。縁起のよい3つの絵柄が採用されています。

このアイテムに注目!「有田焼の飯碗」


「高台にこだわる産地としては、やはり飯碗に有田焼の特徴がよく出ていると思います」

と語るのは、有田焼のきほんの一式を手がけた金善窯さん。

「成形の工程で、一度型から抜いて削り込んで鋭角にすることで、一手間かかった美しいシルエットになりました」

薄作りの品のいい佇まいが魅力的です。



作り手おすすめの楽しみ方

「呉須と釉薬のコントラストは有田焼らしい魅力です」



「特に今回は、工業製品のような均質なイメージではなく、素材の持つ温かみを表現するために、あえて精製を抑えた陶土を使用しています。

磁器素材のもつ強度や扱いやすさは保ちながら、どこか懐かしい雰囲気のあるうつわに仕上げました。

特に微塵唐草は、和の雰囲気がありながら今の暮らしに合うデザインで、和食も洋食もどちらを盛ってもお料理が美味しく際立つと思います」



作り手も自信をのぞかせる仕上がり。確かにどこか北欧のような雰囲気も感じられます。

~~

産地を横断して眺めてみると、こんなに個性豊か。

作り手のみなさんの視点や思いに触れると、うつわへの眼差しもガラリと変わります。

店頭では実際にうつわが「産地横断」して揃い踏みしているので、ぜひ手にとってその違いを発見しながら、「私はこれ!」という出会いを楽しんでみてくださいね。

産地のうつわを気負わず毎日。「きほんの一式」の楽しみ方 <益子焼・美濃焼編>

 

益子、美濃、信楽、有田…日本はせまいながらも焼き物の宝庫。 そんな全国の産地のうつわを、暮らしの中で気負わず使えるシリーズができました。

その名も「きほんの一式」。



各地の窯元とともに産地ならではの味わいを大切にしながら、現代の食卓で活躍する「基本のうつわ」を制作。

産地ごとに、飯碗・中鉢・平皿・湯呑みもしくはマグカップを揃えました。

一揃えあれば和洋問わずさまざまな料理に合い、朝・昼・晩と1日の食事に活躍する使いやすいデザイン。



同じ産地で統一したり、違う産地で取り合わせたりと思い思いに楽しめます。







今回一緒にものづくりをしたのは、益子、美濃、信楽、有田の4産地。

それぞれどんな特徴や楽しみ方があるのか、「ここが◎◎焼ならでは!」「こういう使い方がおすすめ」などなど、作り手の皆さんに伺った産地横断インタビューを前後編に分けてご紹介します!

今回は前編、益子と美濃焼編です。


「ぽってりとした温かな手触りのうつわ」益子焼


▼益子焼の「きほんの一式」とは

益子の土をいかした、ぽってりとした愛らしい表情のうつわ。益子の伝統的な釉薬から3色を選び、玉縁 (たまぶち) と呼ばれる丸みのある縁を設けました。



手がけた和田窯さんは、できる限り地元の材料を使い、伝統的な益子焼を制作している窯元です。益子の土を使い、益子焼の伝統にならった釉薬を用いたうつわは、土地に根ざした健康的な美しさが魅力。

今回のきほんの一式にも、5種類の伝統釉のうち、糠白(ぬかじろ)、青磁(せいじ)、本黒(ほんぐろ)を採用しています。


このアイテムに注目!「益子焼の平皿」


食パンが1枚しっかり置けるぐらいの使いやすいサイズ感。汁気のあるカレーやパスタ、煮魚なども盛り付けられるよう、立ち上がりのある壁を周囲に付けました。

8寸の平皿は、和田窯さんが40年作りつづけているお皿。



窯の前身である合田陶器研究所の合田先生が韓国の窯を指導に行ったのをきっかけに、韓国のオンギ (キムチ壷) の蓋の形からヒントを得て生まれたプレートです。

デビューした当初は和食器が主流だったため高台は小さく鉢型だったものを、ナイフとフォークにも対応できる安定感のあるプレートにリデザイン。



海を渡り、また時代とともに進化を遂げたアイテムです。


作り手おすすめの楽しみ方

益子焼の特徴といえば何と言ってもその「ぽってり」とした佇まい。



実は、土を生かすというより、もともと土が良質でなかった為に釉薬をたっぷりかける特徴があり、そこから益子焼の代名詞とも言えるぽってりとした大らかさが生まれたのだとか。



今回は玉縁と呼ばれる丸みのある縁をつけたことで、「益々ぽってりとして愛らしい形になった」と和田窯さんがコメントを寄せてくれました。




「渋みのあるシャープなうつわ」美濃焼


美濃焼の「きほんの一式」とは

釉薬の流れやいびつな形を表情として楽しむ、日本独自・茶人好みの焼き物文化を生み出してきた美濃焼。その特徴をいかし、きほんの一式では粗目の土味と茶人の愛した釉薬の妙技を感じるうつわが揃いました。

美濃の風土に根ざしながらも現代の感覚を軽やかにとり入れる、作山窯さんが手がけています。

このアイテムに注目!「美濃焼の中鉢」



作山窯さんにお話を伺うと、きほんの一式シリーズの中で一番「お茶道具としての美濃焼」らしい形をしているのが中鉢とのこと。



シリアルやサラダ、フルーツ、スープ、煮物等、多用途に使える、ちょうど良い深さの「中鉢」。内壁の立ち上がりをゆるやかなカーブにしているので、スプーンでもすくいやすく、洗いやすいのが特徴です

「抹茶碗に近い大きさで、程よい重さと厚みが手に馴染み、料理にも扱いやすい形状に仕上げています」



また、その「色」も注目ポイントだそうです。

うつわの色いろ



「千利休とともに茶の湯を大成した古田織部の指導でつくられたのが、美濃焼独特の『青織部』の緑色です」



「釉薬が縮れて粒状になった「かいらぎ」は、茶人たちも愛したうつわの色。「土灰」は古くからうつわに使われてきた釉薬で土の質感と色味が特徴です」



「青織部はこれ以上濃くなると、和食以外が使いにくくなりますし、かいらぎも、真っ白ではない微妙な白であることで、どんなお料理も映える色合いになっています」

わずかな色味の加減に、料理の和洋を問わずに今の食卓にうつわを活かす、作り手の心遣いを感じます。


前編はここまで。次回は信楽焼と有田焼をお届けします!



<掲載商品>
益子焼の飯碗
美濃焼の中鉢

三重の御在所ロープウエイが「白い東京タワー」である理由。日本一の鉄塔を見学

三重県・菰野町(こものちょう)。県の北部に位置するこのまちには、“白い東京タワー”なるものがあるのだとか。

そう聞いたら見に行かないわけにはいきません。噂のタワーを目指し、菰野町にやってきました。

名古屋から1時間、自然豊かなまち「菰野町」

菰野町の由来にもなった真菰の畑
菰野町の由来にもなった真菰(まこも)の畑 ©️菰野町観光協会

菰野町といえば、よく知られるのは登山の名所である「御在所岳」。国の特別天然記念物に指定されるニホンカモシカの生息地にもなっています。御在所岳の麓には、古くは1300年前に開湯したという「湯の山温泉」の旅館街が。さらに、一帯にはキャンプ場やゴルフ場といったレジャースポットが豊富。

三重県の中心都市である四日市市に隣接しており、さらに名古屋からも車で1時間ほど。山々に囲まれた自然豊かな土地でありながら、日帰りで行ける利便性も兼ね備えたまちです。

御在所岳にそびえる白鉄塔
遠くの山になにやら白い建造物が

車を走らせると、山の中に見える白い姿、気づきましたか?この距離でも認識できるということは、近づいたらかなりの大きさなのでは。

御在所ロープウエイの“日本一の白鉄塔”

御在所岳にかかる、全長2161mのロープウエイ
御在所岳にかかる、全長2161mのロープウェイ

辿り着いたのは、湯の山温泉から御在所岳山頂までを結ぶ「御在所ロープウエイ」。実は、2018年7月にリニューアルオープンしたばかり。新型ゴンドラが導入され、山頂の展望レストランも新設されたそうです。

御在所ロープウエイ 湯の山温泉駅
御在所ロープウエイ 湯の山温泉駅 ©️中島信
山麓にオープンしたモンベルルーム
山麓にオープンしたモンベルルーム

ちなみに、山麗の「モンベルルーム」では、御在所店でしか手に入らないオリジナル商品も。お土産にするのはもちろん、登山グッズをここで買い足すこともできます。

どうやら、“白い東京タワー”の正体はロープウエイの鉄塔。

御在所ロープウエイの木原さん
御在所ロープウエイの木原さん

「あれは日本一の鉄塔なんですよ」

迎えてくれたのは、御在所ロープウエイの木原さん。企画広報部に、今年新卒で入社したばかりです。菰野町生まれ・菰野町育ち、ロープウェイにも子どもの頃から馴染みがあったといい、鉄塔についても当時の資料をもとに語ってくれました。

標高943mの場所に立つ鉄塔の名は「6号支柱」。ロープウェイを支える鉄塔は全部で4本あり、その中でも一段と高くそびえます。高さ61m、ロープウェイの鉄塔としては日本一の高さを誇ります。建設当時は、なんと世界一だったのだとか。

なぜ日本一の高さに?高低差が作り出す、ダイナミックな景色の変化

急こう配の山肌にそびえ立つ6号鉄塔 
©️御在所ロープウエイ株式会社

それにしても、なぜ6号支柱だけが日本一もの高さになったのでしょうか?

「6号支柱が建つのは、急こう配の山肌なんです。深い谷の中に建てられたことから、61mもの高さになりました」

急こう配の山肌にそびえ立つ6号鉄塔
急こう配の山肌にそびえ立つ6号支柱 ©️御在所ロープウエイ株式会社

その結果“日本一の鉄塔”が誕生したのですね。

建設当時の鉄塔は緑色だったといいますが、日本一の高さを誇るシンボルとして、より目立つように白く塗り替えられました。

手前に見える鉄塔は緑色をしています
手前に見える鉄塔は緑色をしています ©️中島信

「ロープウェイはかせ」中島信さんに聞く、御在所ロープウエイの魅力

「絶景!日本全国 ロープウェイ・ゴンドラ コンプリートガイド」(扶桑社)の著者で、“ロープウェイはかせ”とも呼ばれる中島信(なかじま まこと)さんによれば、「(白鉄塔は)天気が良ければ20kmほど離れた近鉄四日市の駅からも確認できます」とのこと。

日本一の高さの鉄塔が必要なほど、急こう配に作られている御在所ロープウエイ。その魅力について中島さんに聞いてみました。

「御在所だけの特徴、というわけではありませんが、高低差が非常にあるので麓と山頂とで景色が変わります。紅葉の時期を例にとれば、麓が真っ盛りのときに山頂はすでに終わっていたり、山頂が色づきはじめても下はまだ全然だったりするわけです。

劇的な景色の変化が楽しめるところが、鉄道には無い魅力だと感じます」

なるほど。山にぶつかるとトンネルに入ってしまう鉄道と比べて、ダイナミックな景色の変化を楽しめるのは確かにロープウェイならではです。

“白い東京タワー”の所以はリベット接合

そして、“白い東京タワー”の所以は、リベット接合と呼ばれる丈夫な工法。「リベット」とは、棒鋼の片側に頭をつくった鋲(びょう)のこと。リベットの作業には高度な技能が必要だったそうです。

現在ではボルト締めが一般的になっていますが、当時の鋼構造物はほとんどがリベット接合。ボルトが普及する前に建てられた御在所ロープウエイの「6号支柱」、そして「東京タワー」も同じリベット接合なのです。

地上でリベットを熱し、接合部に差し込んだら、反対側はハンマーで打つことで頭を潰して固定。真っ赤に熱したリベットを放り投げて、空中で受け渡しをする作業は、まるで曲芸だったといいます。

他の鉄塔は1週間前後で完成しているのに対し、冬には吹雪の悪条件も重なったことで、6号支柱の組み立てには3ヶ月もの期間を要しました。

こうして見事完成した6号支柱。

「今なお、遜色なくロープウェイを支え続けてくれています」(木原さん)

御在所ロープウエイの白鉄塔
御在所ロープウエイの白鉄塔 ©️中島信

リニューアルされたゴンドラから、鉄塔を間近に

「ロープウェイのゴンドラの中から、鉄塔を間近に見ることができますよ」

“白い東京タワー”に近づくため、山麗駅から早速ゴンドラに乗りこみます。

御在所ロープウエイ 湯の山温泉駅
御在所ロープウエイ 湯の山温泉駅

全部で36両のゴンドラのうち、リニューアルされた新型のゴンドラは10両。通常4分に1台、新型のゴンドラがやってきます。窓はよりワイドに、床面にも展望窓が設置されました。

新設されたゴンドラ
新設されたゴンドラ

眼下には、御在所岳の雄大な自然が広がります。稀に、ニホンカモシカが姿を現すことも。ゴンドラが山頂に近づけば、目を奪うのは伊勢湾が一望できるパノラマビューの絶景。

御在所ロープウエイ 新調されたゴンドラの内部
御在所ロープウエイ 新調されたゴンドラの内部
御在所ロープウエイ 新調されたゴンドラの内部
足元にも展望窓が設置されました

晴れた日には白い鉄塔がよく見えますが、雲がかかった日もまた幻想的。ロープウェイから見える景色は、気候や四季によって刻々と表情を変えます。

御在所ロープウエイの眺望
御在所ロープウエイ
訪れた日はあいにくの空模様でしたが、それもまた趣がありました
間近に見る白鉄塔
間近に見る6号支柱。打ち込まれたリベットの様子がよくわかります

山頂には「ロープウエイ博物館」

山頂には、貴重な資料が並ぶ「ロープウエイ博物館」が。階段の手すりにはゴンドラをつるロープが使われ、博物館へ向かう道のりにも工夫が見られます。

ロープウエイ博物館

写真や映像での展示のほか、ロープウェイに用いられる風速計、そして、小さな白鉄塔も。竹串を使って1/200の大きさで再現されています。

ロープウエイ博物館
ロープウエイ博物館

日本一の白鉄塔。「東京タワーと同じと言われるのは、やっぱり誇らしいですね」と微笑む木原さん。

これから、秋が深まるにつれ、色づく山々が最も美しい季節。ゴンドラに乗って、紅葉を眺めながらの空中散歩が楽しめます。

秋の御在所ロープウエイ
秋の御在所ロープウエイ ©️菰野町観光協会
秋の御在所ロープウエイ
秋の御在所ロープウエイ ©️菰野町観光協会

赤・黄色の紅葉、針葉樹の緑が織りなす自然の絵画。その絵の中にたたずむ、“白い東京タワー”。四季の変化と、人間の技術の結晶による光景は必見です。

<取材協力>
御在所ロープウエイ株式会社
http://www.gozaisho.co.jp/

中島 信(なかじま まこと)
江戸川区小松川・医療法人社団皓信会 矢口歯科医院院長。鉄道に関する記事を雑誌等で多数執筆。2017年に、「絶景!日本のロープウェイ・ゴンドラ コンプリートガイド」(扶桑社)を出版

文:齊藤美幸

写真:西澤智子

画像提供:中島信、菰野町観光協会、御在所ロープウエイ株式会社

こもガク祭2019 開催中!

ちそう菰野のある三重県菰野町では9月29日まで「こもガク祭2019」を開催中!
9月28・29日には、ワークショップやこもガク祭限定の特別メニューも楽しめる「こもがくマルシェ」も行われます。ぜひ足を運んでみては。

イベントの詳細はこちら:http://komogaku.jp/

*こちらは、2018年9月28日公開の記事を再編集して掲載しました。

中川政七商店が残したいものづくり #02金物

中川政七商店が残したいものづくり
#02 金物「フック画鋲」


商品三課 岩井 美奈


恩師からいただいた宝物の葉書、お気に入りのドライ植物、我が家の壁に飾ろうと思った時に使う道具は、決まっていつも虫ピンかマスキングテープでした。
特に虫ピンは、その長い針は引っ掛けるのに丁度よく、華奢な頭は飾るものの邪魔をせず、静かに引き立ててくれるところが、わたしのお気に入りでした。
ただ飾ったときの様は申し分ないのですが、抜き差しには道具が必要で、少し重いかな?というものは、耐えられません。

静かな気配がちょうどよい虫ピンの要素はそのままに、もう少しきちんと使えるたのもしい道具があるといいのになぁ。そんなある日の小さな想いからうまれたのがフック画鋲でした。

静かな気配をもつたのもしい道具。
それは、存在感をいかになくして、本来あるべきモノとしての存在感を出せるかということ。 使われてはじめて、モノに力が生まれるような…。
そんなことを考えながら、小さき道具と向き合う旅がはじまりました。




旅の途中、茶室で使われていたという「役釘」と出会ったのは、近所のお寺で毎月行われている骨董市に出かけたときのこと。
黒衣のような静けさと凛とした美しいかたちをみたときに、大きな手掛かりをいただきました。

たかが釘、されど釘。
茶室のような余計なものを一切取り除いた空間では、釘一本さえとっても目につきやすいものです。
釘自体が主張するのではなく、花入や掛物、空間にうまく調和したものをと考えつくされてうまれたかたちから、作り手の使い手に対する繊細な心づかいが伝わってくる気がしました。

改めて先人の優れたお仕事ほど、素晴らしい教えはないと思い知らされます。
深い敬意をいだきながら、現代版の役釘を追い求めました。
家の中に前からあったかのようにすっと馴染む、留めていることを忘れるぐらいの心地よい道具になればうれしいなと思っています。
商品名:フック画鋲
工芸:金工
産地:大阪府大阪市
一緒にものづくりした産地のメーカー:株式会社ケントク
商品企画:商品三課 岩井 美奈



<掲載商品>
フック画鋲

日本の“ハンマー”が世界のアスリートから支持される理由

東京五輪がいよいよ来年にせまってきた。各国を代表するトップアスリートたちは、今大会でどのような活躍を見せてくれるのか、非常に楽しみだ。

身体を極限まで鍛え抜いたアスリートたちが競い合う一方で、各競技に使われているスポーツ用品の世界にも“匠の技”というべき技術が活きていることをご存知だろうか。

ハンマー投げという競技

陸上競技用器具の世界で、国内トップシェアを誇る株式会社ニシ・スポーツ。

様々な用器具を手がける中で、特に投てき競技用のハンマーや砲丸において、世界でも高い評価を得ている企業だ。

ニシスポーツハンマー
ニシスポーツ
ニシ・スポーツの円盤

今回は、特にハンマー投げで使用されるハンマーについて。シンプルに見える形状の裏側にある開発の工夫や用具の重要性を聞いた。

ニシ・スポーツの用具
競技で使われている「用具」に着目すると、スポーツの見方が変わる

ハンマー投げはアイルランド発祥のスポーツで、投てきしたハンマーの到達距離を競い合う。もともとは金槌(ハンマー)に紐をつけて振り回して投げていたことから、いまでもハンマー投げと呼ばれている。

現在の国際大会決勝では3回の試技で上位8名が決定する。さらに3回の試技を行い、合計6投の記録で勝敗を決める。

ハンマー投げというと、ぐるぐると回転する選手の姿を思い浮かべる方も多いことだろう。投てきの際に回転する回数は選手の自由で、3回転か4回転で投げる選手が多い。

ちなみに日本の陸上界を牽引してきた室伏広治さんは4回転で投げる選手だった。室伏さんが28歳で迎えた、2003年6月のプラハ国際陸上で投げた記録は84m86。これは現在も陸上男子ハンマー投げの日本記録となっている。

選手は、自分のハンマーが使えない。競技会で発生する“ハンマー待ち”

ところで、投てきで使われるハンマーは誰が用意しているのだろう。実は選手たちは、個人で所有するハンマーを本番の競技会で使うことができない。

「国際陸上競技連盟(IAAF)の認証を取得したメーカーのハンマーが数種類並べられ、選手は試技ごとにそこから選んで投げる形式をとっています」

ニシ・スポーツでハンマーや砲丸をはじめ様々な用具の開発を担当する第一開発部 木村裕次氏はそう話す。

ニシスポーツ
株式会社ニシ・スポーツ 第一事業部 第一開発部 アシスタントマネージャーの木村裕次氏

その日の展開によっては、記録が伸びた選手が使ったハンマーをみんなが使い始め、そのハンマーが戻ってくるまで投てきしない、という“ハンマー待ち”の現象が起きることもあるそうだ。

同じ承認を取得したハンマーの中でもこのように人気に偏りが生じる現場で、トップアスリートたちの支持を得ているのが、日本のニシ・スポーツのハンマーだという。

ニシ・スポーツは、昭和26年創業の陸上競技用品メーカー。投てき競技における用具(ハンマー、砲丸など)について、1999年に国内で初めてIAAF承認器具に認定された。

トップアスリートたちの支持を得ているニシ・スポーツのハンマー
トップアスリートたちの支持を得ているニシ・スポーツのハンマー

この業界では「有名選手に選ばれ」「良い記録が出る」と国際的な知名度がグンと上がる。

砲丸投げにおいても、複数のメーカーの砲丸から選ぶ形式が取られており、アトランタ五輪(1996年)においてアメリカのランディー・バーンズ選手がニシ・スポーツの砲丸を投げて金メダルを獲得したため、世界中に「ニシ・スポーツ」の名が広まった背景がある。

ニシスポーツ
ニシ・スポーツの砲丸

ハンマー製造の難しさ

同社はこれまで、試行錯誤しながらスポーツ用品の開発・製造を続け、グローバルで評価を獲得してきた。

陸上競技の用具づくりにおいて、ルール(競技規則)への対応がまず難しいと、木村氏は言う。

「IAAFが定めるルールが頻繁に変わるので、そこにアジャストしながら開発しています」

投てき競技のルールが頻繁に変わる、ということ自体、あまり一般的には知られていないかもしれない。

近年で特に苦労したのが、ハンマーの持ち手(ハンドル)の強度に関する改正だったという。2000年頃から始まった改正ではまず、12キロニュートンという基準が設けられた。

ハンマーのハンドル部分
ハンマーのハンドル部分

「12キロニュートンというと、ざっくりですが1200kg以上の力に耐えられる設計にしなければなりません。

ハンマーを投げるときにかかる力は、諸説ありますが、トップ選手の場合で約350kgと言われています。

つまりIAAFでは、かなりの余裕を持たせて用具を製造させているわけです」

ハンマーは、ハンマーヘッド、ワイヤー、ハンドルから構成され、その総重量が決められている。男子なら7.26キログラム、女子なら4キログラム。ハンマーの全長は男子で1.215メートル、女子で1.195メートル。

ハンマー

回転して投てきをするハンマー投競技では、ハンマーヘッドが重い方が有利だということは分かっており、いかにそれ以外の部分を軽くできるかというのが開発のひとつのテーマになってくる。

ハンドルの強度を追求すると、通常はどうしても重たくなってしまう。いかに、重さを変えずに、12キロニュートンという指定に応えるか、必死でアイデアを出し合い、テストを重ねて開発した。

ところが、それが数年後には、10キロニュートンで良いとなり、現在は8キロニュートンで一旦決着している。こうしてルールにある種振り回されながらも、その時の最善を目指して開発を続けるところに難しさがある。

ハンマー
実際に手に持ってみると想像以上に重い

では、ハンマーヘッドの部分ではどのように特色を出しているのだろうか。

ニシ・スポーツでは、ハンマーヘッドに3種類の金属(鉛、タングステン、ダクタイル鋳鉄)を採用した。ここに競合製品との差別化要素が生まれる。

「タングステンは非常に硬くて重いレアメタル。ハンマーヘッド自体を最小化できるメリットがあります」

ハンマーヘッドが小さくなれば、その分だけワイヤーを長くできる。ワイヤーが長ければ遠心力が大きくなり、より遠くに投げられるという理屈だ。このほかワイヤーはピアノ線で、ハンドルはアルミ合金で製造している。

ハンマーはどうやって造られている?若い社員が支えるハンマー製造

同社のハンマーは現在、船橋の工場で2人の若い社員によって製造されている。両名とも30代半ばで大のスポーツ好き。ともに18歳の頃から、先輩たちにハンマーづくりのノウハウを叩き込まれてきたという。

ニシ・スポーツのハンマー製造を支える2人
ニシ・スポーツのハンマー製造を支える2人

「製品の品質を上げるため、何ができるかということを自分たちで考えることができる社員です」(木村氏)

製造工程を簡単にたどってみよう。材料となるのは、国内の鋳物工場で製造された球状のダクタイル鋳鉄で、中は空洞。NC旋盤を使用し、材料の中心出し「芯出し」を行う。次に材料を高速回転させて、鋭利な刃で規定の大きさに切削していく。

そして約300度に熱した鉛とタングステンを中に注入する。重心位置の調整が重要となるが、その手法は企業秘密だという。最後に、ハンマーヘッドとワイヤーをつなぐ吊管をネジで埋め込んで仕上げる。

球状のダクタイル鋳鉄がハンマーヘッドの原型
球状のダクタイル鋳鉄がハンマーヘッドの原型

完成したハンマーは、競技規則にある「球形の中心から6mm以内」の位置に重心があることを検査で確認できたら、国内の工場で塗装。色は、重量や種類ごとに決まっている。ハンドル、ワイヤーをつけて組み立てたものが出荷される。

材料を高速回転させて、鋭利な刃で規定の大きさに加工する
材料を高速回転させて、鋭利な刃で規定の大きさに加工する
材料を高速回転させて、鋭利な刃で規定の大きさに加工する

「工場ではコンマ数ミリ単位の高精度な調整を手作業でシビアに行っています」と木村氏。

現役選手の意見を取り入れながら、緻密な計算を繰り返して開発していると話す。そんなエピソードからも、精巧な技でこそ追求できるスポーツ用品の世界があることがうかがい知れる。

ハンマー

ただ、木村氏は「弊社はあくまで用具を提供するだけですから」と控えめに笑う。

「常に根底にあるのは、競技者へのリスペクトです。競技のお手伝いというところを自覚しつつ、少しでも記録に貢献できるようにこれからも励んでいく気持ちです」

木村氏自身も、若い頃はアスリートを目指していた人物。ニシ・スポーツでは、そんな社員が珍しくないようだ。だからこそ、選手に寄り添ったモノづくりが行えるのだろう。

ハンマー

ハンマー投げの見方が変わる

最後に、「ここを見れば面白い!」という『ハンマー投げの楽しみ方』について聞いてみた。

ハンマーを選ぶ段階で、すでに試合がはじまっていると木村氏。

「世界ランクトップの選手は、どのハンマーを使うのか?それに対して自分はどのハンマーを使うべきか?

まずは選手同士、お互いの出方を探ります。心理戦ですね」

例えば、3投目までにトップ8に残る記録を出せた選手が、4投目になり突然ハンマーを変える、というケースもあるのだとか。

「これは陽動作戦かも知れないし、単純に『違うものを投げてみようか』くらいの軽い気持ちかも知れない。

それに引きずられて、自分も違うものを投げはじめる選手もいます。

それを知ってか知らずか、最初の選手は5投目でお気に入りのハンマーに戻して、あっという間に記録を更新する。毎試合、そんな駆け引きがあります。

私としては、ベンチをずっと映すカメラが欲しいくらいです。テレビでは映らない部分も、競技会にいくと楽しめる。だから、競技場に足繁く通ってしまいます」

東京五輪に向けて、意気込みを聞くと「ニシ・スポーツでは、常にハンマーの改良を進めています。いずれ、ニシ・スポーツのハンマーで世界記録が出ると嬉しいですね」

ハンマー

過去には、こんなことがあった。女子ハンマー投げで、タチアナ・ルイセンコ選手(ロシア)がニシ・スポーツのハンマーを投げてオリンピック記録を出した。

大喜びする木村氏だったが、次の投てきでライバルのベティ・ハイドラー選手(ドイツ)がポーランドの競合メーカーのハンマーを投げて記録を塗り替えてしまったという。

アスリートがしのぎを削る舞台裏で、メーカーによる真剣勝負も熱を増している。

<取材協力>
株式会社ニシ・スポーツ
http://www.nishi.com/

文・写真:近藤謙太郎

【わたしの好きなもの】THE Cardigan

コットンカシミアの1年中使えるカーディガン


シャツの上にさっと羽織れる上質なカーディガン。
夏でもクーラーで冷える場所用に、冬はジャケットの中に1枚着ていると、とても便利。
シャツやジャケットのように、主役じゃないけどシンプルがゆえに大切な脇役。
おかげでシャツがきれいに見えたりすると、ありがたい存在。



目立たないように袖や身頃にふんわりとダーツが入っているので、身体に添うような立体的なデザインになっています。
これのおかげで、窮屈な感じがなくシャツももたつきません。



目が詰まっていて美しい網目は、薄手で軽くて肌触りがよい生地に仕上げてくれています。
さらっとししていて、編み物とは思えない軽さ。持ってもらうとみんな「軽い!」と思わず声に出るほどです。
半袖に重ね着しても、素肌に嫌な感じは全くなく、コットンとカシミアという上質な素材は、さらさらと逆に気持ちがいい。



襟の網目の切り替え部分のラインも、ぼこぼこせずに1本の繊細なラインも美しくて気に入っているところ。
Vの開き具合も詰まりすぎず、中のシャツとのバランスが丁度いい。
シンプルなものなので、細部にこだわって丁寧にデザインされているから、ずっと着ていたいと思わされる。



かばんの中に気軽に入れておけるボリュームで、持ち歩くことも億劫にならない。軽くて薄手だからジャケットを重ねても、もたつかない。長すぎず短すぎず、どこをとっても定番として文句なしの1枚。
シャツにはもちろん、ボーダーなどカジュアルなTシャツにも合わせやすい。着回しの名脇役としておすすめです。




編集担当 梅本