【デザイナーが話したくなる】麻わたウールのセーター

冬の麻もの、糸からつくりました




麻と言えば夏、という印象が浸透していますが、実は、冬にも嬉しい効果があるのをご存知でしょうか。麻の商いから始まり300年、長く向き合ってきた中川政七商店だからこそ分かる魅力を引き出した、冬の麻ものを企画しました。

デザイナーの二井谷さんに話を聞いてみると、
「一口に麻と言っても実は20種類以上もあるんです。今回使用したのはリネンなのですが、繊維の中に空気が含まれていて、寒い季節には、天然のサーモスタットの役目を果たすような機能をもっています。」

オールシーズンに適した麻の特性を感じてもらいたい、という想いから、冬の麻ものづくりがスタート。
麻を活かした糸作りをご一緒してもらうなら!と相談に向かった先は・・・


独自の糸作りで世界に知られる佐藤繊維さんと開発




戦前からニット産業が盛んな山形県寒河江市で1932年創業の佐藤繊維さん。
天然繊維それぞれの機能を組み合わせて、これまでにない新しい糸作りをされています。
安い海外製品に押され軒並み廃業になってゆく国内企業の中で、こだわりの独自の糸作りで唯一無二の立ち位置を確立し、世界中の名だたるブランドが佐藤繊維さんの糸に惚れ込んでいます。



麻をいれた冬らしいニットをつくるのであれば、空気をふくむ紡績を施したふっくらとやわらかなウールをベースに、麻のわたを混ぜるのがいいのではないか、と編み地のサンプルをいくつか見せてくれました。
触ってみると、麻特有のシャリシャリとした涼しげな手触りではなく、冬のニットらしく温かみのある手触りです。



「麻が夏のものだと思われているのは、手触りがシャリっとしていて接触冷感の効果があるからだと思います。今回は、そんな麻の印象を一転させて、見た目も機能も手触りも冬にふさわしいものを作りたかったので、麻のわたを混ぜるという佐藤繊維さん独自の技術があってこそ実現できた物になりました。」

強度を出す為につよく撚った糸の状態で織ったり編んだりすると、どうしても清涼感のある手触りが前面に出てしまう麻。特殊な糸作りの技術で、麻に撚りをかけずにわたの状態で糸にすることで、やわらかく温かみのあるニットが完成しました。



佐藤繊維さん独自の糸作りにかかせないのが、古い機械に改良を加えたオリジナルの機械。大手紡績工場が標準的な糸を効率よく生産するために交換した、本来廃棄されるような機械です。古い機械は、効率はよくないけれど、機械自体がゆっくり動き繊細な原料でも引くことができる為、丁寧に糸を作るのに理想的な構造になっているそうです。

古いとはいえ、世の中に流通している機械ですが、麻をわたの状態でまぜた糸作りは効率が悪く大量生産に適していない為、佐藤繊維さん独自の技術になっているのだそうです。この温かみのある糸は、効率第一ではなく、素材を活かすために試行錯誤を重ねた作りたいものをなんとしても作るための“物づくりの現場”から生み出されたからこその風合いです。


見た目も機能も手触りも、冬にふさわしい麻のもの




糸作りからこだわって完成したニット。
「ニットの風合いが面白いものにできたので、それを活かしたくて、形はあえてシンプルで定番なものにしました。」
という言葉のとおり、どんな服にもあわせやすいベーシックな形に仕上がりました。



一見シンプルに見えて、こだわりの糸ならではの豊かな表情。ざっくりと編み、絶妙な縮絨(しゅくじゅう)加工* を施していることで、ウールのふくらみがより一層引き立ちます。
佐藤繊維さんがアレンジした古い機械でつくられたからこそ、画一化された工業的なものではなく、1つ1つ風合いが違う温かみのあるニットに仕上がりました。

※縮絨加工:毛織物の仕上げ工程の一つ。ニットの風合いを決める重要な仕上げ法。適度な縮みが入り、ふっくらと仕上がる為、セーター・カーディガンなど定番のニットに最適な風合いになります。



素材の特性を活かしたいという佐藤繊維さんと中川政七商店の想いが形になって出来上がったニット。社内で感想を聞いてみると、ボリュームがあるのに軽くて楽、という感想が口々にあがりました。冬は重ね着で肩が凝りがちなので、暖かくて軽いのは嬉しいポイントです。
素材によって糸の染まり具合が違って立体的、という声も。麻の特性を活かすために、ウールなど複数の素材を撚り合わせてつくった糸ならではの表情です。


今年はニットベストが新登場





季節の変わり目に、重ね着の主役として活躍します。シンプルながら素材感が印象的な大人の着こなしをお楽しみください。

中川政七商店が残したいものづくり #03麻

中川政七商店が残したいものづくり
#03 麻「中川政七商店の麻」


商品二課 河田 めぐみ

日本における麻織物の歴史は最も古く、長年にわたって人びとの衣生活を支えてきた麻。
かつて奈良は麻織物の一大産地でした。独自の晒技法で全国に広く知られていたのは純白の美しい麻織物「奈良晒」。
1716年、中川政七商店はそんな奈良晒を商いとして創業したのが始まりです。
 
創業から303年、世の中の主流は綿素材や化学繊維に変わりましたが、現在でも中川政七商店では当社のルーツである様々な麻の織り物や編み物を使用した衣服を作っています。
現在では様々な工程において機械化され大量に作ることができるようになりましたが、それと同時に、昔と変わらず手の仕事、手の感覚、みたいなものが、素材を作るうえで欠かせないものだということを感じます。

扱っているものは昔も今も変わらず天然の繊維。
毎年品質や特性も微妙に変化したり温度や湿度によっても仕上がりが大きく変わることがあります。
昨日は織れていたけど今日は織れない、みたいなことが多くあることを知りました。
まさに生命と向き合う仕事だと感じます。
そうして出来上がった生地には、機械で作ったものであっても、人の手のぬくもり、自然の豊かさを感じます。
そんな麻の特性を生かし、春夏秋冬、暮らしに寄り添い、心地よさとともにある麻の服作りを目指しています。

 

10月からの新作では、はじめて防寒機能のある中綿入りのコートを作りました。
普段着ている麻の服に自然と馴染むような冬のアウターを作りたい、という想いで企画しました。
表地に使用している素材は麻とウールを混ぜたもの。
染めから乾燥まで、ゆっくり時間をかけて仕上げているため自然素材ならではの皺感が独特な雰囲気を作り出しているのが特徴です。
生地に圧力をかけていないため麻であってもふっくらした暖かさがあります。
ぜひ冬に着る麻の風合いに触れていただきたいです。
 
 
シリーズ名:中川政七商店の麻
工芸:麻
産地:静岡県浜松市(麻ウールのあったか綿入れコート)
商品企画:商品二課 河田 めぐみ



<掲載商品>
手織り麻を使ったフリルシャツ

産地のうつわを気負わず毎日。「きほんの一式」の楽しみ方 <信楽焼・有田焼編>

 


益子、美濃、信楽、有田…日本はせまいながらも焼き物の宝庫。 
そんな全国の産地と、暮らしの中で気負わず使えるシリーズを作りました。
その名も「きほんの一式」。



産地ごとに、飯碗・中鉢・平皿・湯呑みもしくはマグカップをラインナップ。

一揃えあれば和洋問わずさまざまな料理に合い、朝・昼・晩と1日の食事に活躍します。




今回一緒にものづくりをしたのは、益子、美濃、信楽、有田の4産地。

それぞれどんな特徴や楽しみ方があるのか、「ここが◎◎焼ならでは!」「こういう使い方がおすすめ」などなど、作り手の皆さんに伺った産地横断インタビューを前後編に分けてご紹介します!

前編では益子焼と美濃焼をお届けしました。今回は後編、信楽焼と有田焼編をお届けします!


「素朴でありながら表情豊かなうつわ」信楽焼


▼信楽焼の「きほんの一式」とは
信楽焼の一式は、江戸時代に幕府に茶壺を献上して以来、茶壺をつくり続けてきた明山窯と制作。明山窯オリジナルの粗土ながら上品な表情の「明山土」を用いて、ざっくりとした風合いところんとした丸みある形のうつわが完成しました。

色は「並白」「黄はだ」「鉄茶」の3種類。信楽焼の雰囲気を残すため、 焼き上がりによって色や質感に様々な表情が生まれる釉薬を採用しています。使うほどに釉薬の表面の細かなひび(貫入)に色が入り、いい味わいに育っていきます。




このアイテムに注目!「信楽焼の飯碗」


「昔からの生活用具としての信楽焼らしさは、飯碗によく表れていると思います。

信楽では茶道のお茶碗も作られていて、『利休信楽』という利休好みの茶碗も有名です。

利休も愛した信楽焼の侘び寂びのある風流な味わいを、お楽しみいただけたら嬉しいです。

飯碗の小は、子どもの手にも馴染む大きさなので、小学校低学年ぐらいのお子様にも扱いやすいサイズですよ」




作り手おすすめの楽しみ方

うつわを楽しむポイントは、釉薬のあるところ、ないところの「差」だそう。


▲底や高台は釉薬をかけず、焼くと赤い「火色」が出る信楽の土味をいかしました

「無釉部分は信楽焼特有のザラっとした質感があり、その部分を程よく残すことで独特の『景色』を表現しています。

はじめはザラッとしているこの部分も使うほどに、表面がしっとりとしてくるのも愛着のわくところ。無釉部分は吸収しやすく汚れがつきやすいこともありますが、そのシミも味わいと捉えて楽しまれる方が多いです」

また信楽焼は、焼くタイミングなどによって個体差が出るのも特徴。

「私達の窯は特に個体差が出る『還元焼成』という焼き方を多く採用しています。

まるで昔の薪窯で焼いたような表情を残せて、同じものがないため、その個体差を店頭でお楽しみいただいて、自分だけの『ひとつ』を是非見つけていただきたいです」


うつわの色いろ

今回のきほんの一式シリーズでひときわ目を引くのが、信楽焼の明るい「黄はだ」色。その使い方についても、明山窯さんからアドバイスが。



「『黄はだ』は一見鮮やかではありますが、味のある渋めの色なので、どんなお料理にもしっくりと馴染みます。

朝食などにお使いいただくと、一日を明るい気分で過ごせる、そんな色ですね」

とのこと。うつわから元気をもらうというのも素敵なアイデアですね。




「印判絵柄のゆらぎが楽しいうつわ」有田焼


▼有田焼の「きほんの一式」とは

多様な絵付けの磁器で発展した、有田の高い印判技術をいかしました。江戸時代に庶民が愛した印判のうつわは印刷ならではのかすれやにじみが味わい深く、料理を明るく彩り引き立てます。

印判とは、焼成前のうつわに判や型紙、転写紙を用いて模様を写し取る絵付けの技法。この技術により絵付けにかかる時間が大幅に圧縮され、それまで高級品だった有田の染付磁器を庶民も手にすることができるようになりました。



転写とはいえ、ひとつひとつに現れるかすれやにじみが味わい深く、その表情は豊か。そんな印判のうつわに描かれるのは、子孫繁栄・長寿の意味を持つ「微塵唐草」、福を絡めとる「網目」、長寿を象徴する「菊花」。縁起のよい3つの絵柄が採用されています。

このアイテムに注目!「有田焼の飯碗」


「高台にこだわる産地としては、やはり飯碗に有田焼の特徴がよく出ていると思います」

と語るのは、有田焼のきほんの一式を手がけた金善窯さん。

「成形の工程で、一度型から抜いて削り込んで鋭角にすることで、一手間かかった美しいシルエットになりました」

薄作りの品のいい佇まいが魅力的です。



作り手おすすめの楽しみ方

「呉須と釉薬のコントラストは有田焼らしい魅力です」



「特に今回は、工業製品のような均質なイメージではなく、素材の持つ温かみを表現するために、あえて精製を抑えた陶土を使用しています。

磁器素材のもつ強度や扱いやすさは保ちながら、どこか懐かしい雰囲気のあるうつわに仕上げました。

特に微塵唐草は、和の雰囲気がありながら今の暮らしに合うデザインで、和食も洋食もどちらを盛ってもお料理が美味しく際立つと思います」



作り手も自信をのぞかせる仕上がり。確かにどこか北欧のような雰囲気も感じられます。

~~

産地を横断して眺めてみると、こんなに個性豊か。

作り手のみなさんの視点や思いに触れると、うつわへの眼差しもガラリと変わります。

店頭では実際にうつわが「産地横断」して揃い踏みしているので、ぜひ手にとってその違いを発見しながら、「私はこれ!」という出会いを楽しんでみてくださいね。

産地のうつわを気負わず毎日。「きほんの一式」の楽しみ方 <益子焼・美濃焼編>

 

益子、美濃、信楽、有田…日本はせまいながらも焼き物の宝庫。 そんな全国の産地のうつわを、暮らしの中で気負わず使えるシリーズができました。

その名も「きほんの一式」。



各地の窯元とともに産地ならではの味わいを大切にしながら、現代の食卓で活躍する「基本のうつわ」を制作。

産地ごとに、飯碗・中鉢・平皿・湯呑みもしくはマグカップを揃えました。

一揃えあれば和洋問わずさまざまな料理に合い、朝・昼・晩と1日の食事に活躍する使いやすいデザイン。



同じ産地で統一したり、違う産地で取り合わせたりと思い思いに楽しめます。







今回一緒にものづくりをしたのは、益子、美濃、信楽、有田の4産地。

それぞれどんな特徴や楽しみ方があるのか、「ここが◎◎焼ならでは!」「こういう使い方がおすすめ」などなど、作り手の皆さんに伺った産地横断インタビューを前後編に分けてご紹介します!

今回は前編、益子と美濃焼編です。


「ぽってりとした温かな手触りのうつわ」益子焼


▼益子焼の「きほんの一式」とは

益子の土をいかした、ぽってりとした愛らしい表情のうつわ。益子の伝統的な釉薬から3色を選び、玉縁 (たまぶち) と呼ばれる丸みのある縁を設けました。



手がけた和田窯さんは、できる限り地元の材料を使い、伝統的な益子焼を制作している窯元です。益子の土を使い、益子焼の伝統にならった釉薬を用いたうつわは、土地に根ざした健康的な美しさが魅力。

今回のきほんの一式にも、5種類の伝統釉のうち、糠白(ぬかじろ)、青磁(せいじ)、本黒(ほんぐろ)を採用しています。


このアイテムに注目!「益子焼の平皿」


食パンが1枚しっかり置けるぐらいの使いやすいサイズ感。汁気のあるカレーやパスタ、煮魚なども盛り付けられるよう、立ち上がりのある壁を周囲に付けました。

8寸の平皿は、和田窯さんが40年作りつづけているお皿。



窯の前身である合田陶器研究所の合田先生が韓国の窯を指導に行ったのをきっかけに、韓国のオンギ (キムチ壷) の蓋の形からヒントを得て生まれたプレートです。

デビューした当初は和食器が主流だったため高台は小さく鉢型だったものを、ナイフとフォークにも対応できる安定感のあるプレートにリデザイン。



海を渡り、また時代とともに進化を遂げたアイテムです。


作り手おすすめの楽しみ方

益子焼の特徴といえば何と言ってもその「ぽってり」とした佇まい。



実は、土を生かすというより、もともと土が良質でなかった為に釉薬をたっぷりかける特徴があり、そこから益子焼の代名詞とも言えるぽってりとした大らかさが生まれたのだとか。



今回は玉縁と呼ばれる丸みのある縁をつけたことで、「益々ぽってりとして愛らしい形になった」と和田窯さんがコメントを寄せてくれました。




「渋みのあるシャープなうつわ」美濃焼


美濃焼の「きほんの一式」とは

釉薬の流れやいびつな形を表情として楽しむ、日本独自・茶人好みの焼き物文化を生み出してきた美濃焼。その特徴をいかし、きほんの一式では粗目の土味と茶人の愛した釉薬の妙技を感じるうつわが揃いました。

美濃の風土に根ざしながらも現代の感覚を軽やかにとり入れる、作山窯さんが手がけています。

このアイテムに注目!「美濃焼の中鉢」



作山窯さんにお話を伺うと、きほんの一式シリーズの中で一番「お茶道具としての美濃焼」らしい形をしているのが中鉢とのこと。



シリアルやサラダ、フルーツ、スープ、煮物等、多用途に使える、ちょうど良い深さの「中鉢」。内壁の立ち上がりをゆるやかなカーブにしているので、スプーンでもすくいやすく、洗いやすいのが特徴です

「抹茶碗に近い大きさで、程よい重さと厚みが手に馴染み、料理にも扱いやすい形状に仕上げています」



また、その「色」も注目ポイントだそうです。

うつわの色いろ



「千利休とともに茶の湯を大成した古田織部の指導でつくられたのが、美濃焼独特の『青織部』の緑色です」



「釉薬が縮れて粒状になった「かいらぎ」は、茶人たちも愛したうつわの色。「土灰」は古くからうつわに使われてきた釉薬で土の質感と色味が特徴です」



「青織部はこれ以上濃くなると、和食以外が使いにくくなりますし、かいらぎも、真っ白ではない微妙な白であることで、どんなお料理も映える色合いになっています」

わずかな色味の加減に、料理の和洋を問わずに今の食卓にうつわを活かす、作り手の心遣いを感じます。


前編はここまで。次回は信楽焼と有田焼をお届けします!



<掲載商品>
益子焼の飯碗
美濃焼の中鉢

三重の御在所ロープウエイが「白い東京タワー」である理由。日本一の鉄塔を見学

三重県・菰野町(こものちょう)。県の北部に位置するこのまちには、“白い東京タワー”なるものがあるのだとか。

そう聞いたら見に行かないわけにはいきません。噂のタワーを目指し、菰野町にやってきました。

名古屋から1時間、自然豊かなまち「菰野町」

菰野町の由来にもなった真菰の畑
菰野町の由来にもなった真菰(まこも)の畑 ©️菰野町観光協会

菰野町といえば、よく知られるのは登山の名所である「御在所岳」。国の特別天然記念物に指定されるニホンカモシカの生息地にもなっています。御在所岳の麓には、古くは1300年前に開湯したという「湯の山温泉」の旅館街が。さらに、一帯にはキャンプ場やゴルフ場といったレジャースポットが豊富。

三重県の中心都市である四日市市に隣接しており、さらに名古屋からも車で1時間ほど。山々に囲まれた自然豊かな土地でありながら、日帰りで行ける利便性も兼ね備えたまちです。

御在所岳にそびえる白鉄塔
遠くの山になにやら白い建造物が

車を走らせると、山の中に見える白い姿、気づきましたか?この距離でも認識できるということは、近づいたらかなりの大きさなのでは。

御在所ロープウエイの“日本一の白鉄塔”

御在所岳にかかる、全長2161mのロープウエイ
御在所岳にかかる、全長2161mのロープウェイ

辿り着いたのは、湯の山温泉から御在所岳山頂までを結ぶ「御在所ロープウエイ」。実は、2018年7月にリニューアルオープンしたばかり。新型ゴンドラが導入され、山頂の展望レストランも新設されたそうです。

御在所ロープウエイ 湯の山温泉駅
御在所ロープウエイ 湯の山温泉駅 ©️中島信
山麓にオープンしたモンベルルーム
山麓にオープンしたモンベルルーム

ちなみに、山麗の「モンベルルーム」では、御在所店でしか手に入らないオリジナル商品も。お土産にするのはもちろん、登山グッズをここで買い足すこともできます。

どうやら、“白い東京タワー”の正体はロープウエイの鉄塔。

御在所ロープウエイの木原さん
御在所ロープウエイの木原さん

「あれは日本一の鉄塔なんですよ」

迎えてくれたのは、御在所ロープウエイの木原さん。企画広報部に、今年新卒で入社したばかりです。菰野町生まれ・菰野町育ち、ロープウェイにも子どもの頃から馴染みがあったといい、鉄塔についても当時の資料をもとに語ってくれました。

標高943mの場所に立つ鉄塔の名は「6号支柱」。ロープウェイを支える鉄塔は全部で4本あり、その中でも一段と高くそびえます。高さ61m、ロープウェイの鉄塔としては日本一の高さを誇ります。建設当時は、なんと世界一だったのだとか。

なぜ日本一の高さに?高低差が作り出す、ダイナミックな景色の変化

急こう配の山肌にそびえ立つ6号鉄塔 
©️御在所ロープウエイ株式会社

それにしても、なぜ6号支柱だけが日本一もの高さになったのでしょうか?

「6号支柱が建つのは、急こう配の山肌なんです。深い谷の中に建てられたことから、61mもの高さになりました」

急こう配の山肌にそびえ立つ6号鉄塔
急こう配の山肌にそびえ立つ6号支柱 ©️御在所ロープウエイ株式会社

その結果“日本一の鉄塔”が誕生したのですね。

建設当時の鉄塔は緑色だったといいますが、日本一の高さを誇るシンボルとして、より目立つように白く塗り替えられました。

手前に見える鉄塔は緑色をしています
手前に見える鉄塔は緑色をしています ©️中島信

「ロープウェイはかせ」中島信さんに聞く、御在所ロープウエイの魅力

「絶景!日本全国 ロープウェイ・ゴンドラ コンプリートガイド」(扶桑社)の著者で、“ロープウェイはかせ”とも呼ばれる中島信(なかじま まこと)さんによれば、「(白鉄塔は)天気が良ければ20kmほど離れた近鉄四日市の駅からも確認できます」とのこと。

日本一の高さの鉄塔が必要なほど、急こう配に作られている御在所ロープウエイ。その魅力について中島さんに聞いてみました。

「御在所だけの特徴、というわけではありませんが、高低差が非常にあるので麓と山頂とで景色が変わります。紅葉の時期を例にとれば、麓が真っ盛りのときに山頂はすでに終わっていたり、山頂が色づきはじめても下はまだ全然だったりするわけです。

劇的な景色の変化が楽しめるところが、鉄道には無い魅力だと感じます」

なるほど。山にぶつかるとトンネルに入ってしまう鉄道と比べて、ダイナミックな景色の変化を楽しめるのは確かにロープウェイならではです。

“白い東京タワー”の所以はリベット接合

そして、“白い東京タワー”の所以は、リベット接合と呼ばれる丈夫な工法。「リベット」とは、棒鋼の片側に頭をつくった鋲(びょう)のこと。リベットの作業には高度な技能が必要だったそうです。

現在ではボルト締めが一般的になっていますが、当時の鋼構造物はほとんどがリベット接合。ボルトが普及する前に建てられた御在所ロープウエイの「6号支柱」、そして「東京タワー」も同じリベット接合なのです。

地上でリベットを熱し、接合部に差し込んだら、反対側はハンマーで打つことで頭を潰して固定。真っ赤に熱したリベットを放り投げて、空中で受け渡しをする作業は、まるで曲芸だったといいます。

他の鉄塔は1週間前後で完成しているのに対し、冬には吹雪の悪条件も重なったことで、6号支柱の組み立てには3ヶ月もの期間を要しました。

こうして見事完成した6号支柱。

「今なお、遜色なくロープウェイを支え続けてくれています」(木原さん)

御在所ロープウエイの白鉄塔
御在所ロープウエイの白鉄塔 ©️中島信

リニューアルされたゴンドラから、鉄塔を間近に

「ロープウェイのゴンドラの中から、鉄塔を間近に見ることができますよ」

“白い東京タワー”に近づくため、山麗駅から早速ゴンドラに乗りこみます。

御在所ロープウエイ 湯の山温泉駅
御在所ロープウエイ 湯の山温泉駅

全部で36両のゴンドラのうち、リニューアルされた新型のゴンドラは10両。通常4分に1台、新型のゴンドラがやってきます。窓はよりワイドに、床面にも展望窓が設置されました。

新設されたゴンドラ
新設されたゴンドラ

眼下には、御在所岳の雄大な自然が広がります。稀に、ニホンカモシカが姿を現すことも。ゴンドラが山頂に近づけば、目を奪うのは伊勢湾が一望できるパノラマビューの絶景。

御在所ロープウエイ 新調されたゴンドラの内部
御在所ロープウエイ 新調されたゴンドラの内部
御在所ロープウエイ 新調されたゴンドラの内部
足元にも展望窓が設置されました

晴れた日には白い鉄塔がよく見えますが、雲がかかった日もまた幻想的。ロープウェイから見える景色は、気候や四季によって刻々と表情を変えます。

御在所ロープウエイの眺望
御在所ロープウエイ
訪れた日はあいにくの空模様でしたが、それもまた趣がありました
間近に見る白鉄塔
間近に見る6号支柱。打ち込まれたリベットの様子がよくわかります

山頂には「ロープウエイ博物館」

山頂には、貴重な資料が並ぶ「ロープウエイ博物館」が。階段の手すりにはゴンドラをつるロープが使われ、博物館へ向かう道のりにも工夫が見られます。

ロープウエイ博物館

写真や映像での展示のほか、ロープウェイに用いられる風速計、そして、小さな白鉄塔も。竹串を使って1/200の大きさで再現されています。

ロープウエイ博物館
ロープウエイ博物館

日本一の白鉄塔。「東京タワーと同じと言われるのは、やっぱり誇らしいですね」と微笑む木原さん。

これから、秋が深まるにつれ、色づく山々が最も美しい季節。ゴンドラに乗って、紅葉を眺めながらの空中散歩が楽しめます。

秋の御在所ロープウエイ
秋の御在所ロープウエイ ©️菰野町観光協会
秋の御在所ロープウエイ
秋の御在所ロープウエイ ©️菰野町観光協会

赤・黄色の紅葉、針葉樹の緑が織りなす自然の絵画。その絵の中にたたずむ、“白い東京タワー”。四季の変化と、人間の技術の結晶による光景は必見です。

<取材協力>
御在所ロープウエイ株式会社
http://www.gozaisho.co.jp/

中島 信(なかじま まこと)
江戸川区小松川・医療法人社団皓信会 矢口歯科医院院長。鉄道に関する記事を雑誌等で多数執筆。2017年に、「絶景!日本のロープウェイ・ゴンドラ コンプリートガイド」(扶桑社)を出版

文:齊藤美幸

写真:西澤智子

画像提供:中島信、菰野町観光協会、御在所ロープウエイ株式会社

こもガク祭2019 開催中!

ちそう菰野のある三重県菰野町では9月29日まで「こもガク祭2019」を開催中!
9月28・29日には、ワークショップやこもガク祭限定の特別メニューも楽しめる「こもがくマルシェ」も行われます。ぜひ足を運んでみては。

イベントの詳細はこちら:http://komogaku.jp/

*こちらは、2018年9月28日公開の記事を再編集して掲載しました。

中川政七商店が残したいものづくり #02金物

中川政七商店が残したいものづくり
#02 金物「フック画鋲」


商品三課 岩井 美奈


恩師からいただいた宝物の葉書、お気に入りのドライ植物、我が家の壁に飾ろうと思った時に使う道具は、決まっていつも虫ピンかマスキングテープでした。
特に虫ピンは、その長い針は引っ掛けるのに丁度よく、華奢な頭は飾るものの邪魔をせず、静かに引き立ててくれるところが、わたしのお気に入りでした。
ただ飾ったときの様は申し分ないのですが、抜き差しには道具が必要で、少し重いかな?というものは、耐えられません。

静かな気配がちょうどよい虫ピンの要素はそのままに、もう少しきちんと使えるたのもしい道具があるといいのになぁ。そんなある日の小さな想いからうまれたのがフック画鋲でした。

静かな気配をもつたのもしい道具。
それは、存在感をいかになくして、本来あるべきモノとしての存在感を出せるかということ。 使われてはじめて、モノに力が生まれるような…。
そんなことを考えながら、小さき道具と向き合う旅がはじまりました。




旅の途中、茶室で使われていたという「役釘」と出会ったのは、近所のお寺で毎月行われている骨董市に出かけたときのこと。
黒衣のような静けさと凛とした美しいかたちをみたときに、大きな手掛かりをいただきました。

たかが釘、されど釘。
茶室のような余計なものを一切取り除いた空間では、釘一本さえとっても目につきやすいものです。
釘自体が主張するのではなく、花入や掛物、空間にうまく調和したものをと考えつくされてうまれたかたちから、作り手の使い手に対する繊細な心づかいが伝わってくる気がしました。

改めて先人の優れたお仕事ほど、素晴らしい教えはないと思い知らされます。
深い敬意をいだきながら、現代版の役釘を追い求めました。
家の中に前からあったかのようにすっと馴染む、留めていることを忘れるぐらいの心地よい道具になればうれしいなと思っています。
商品名:フック画鋲
工芸:金工
産地:大阪府大阪市
一緒にものづくりした産地のメーカー:株式会社ケントク
商品企画:商品三課 岩井 美奈



<掲載商品>
フック画鋲