京都の黒染め師が染める、夏に着たい「黒」

さまざまなアイテムに合わせやすく、季節を通して着やすい黒い服。
夏は少し重いかな、と思う反面、ちょっとよそ行きのおしゃれにも、法事などのフォーマルシーンにも寄り添ってくれる安心感も。カジュアルになりがちな夏のラインナップの中に一枚あると、なにかと重宝します。

全4種のラインナップ。左から、前開きワンピース、襟付きワンピース、スリットワンピース、ふんわり袖ワンピース

この夏、中川政七商店でも、ラインナップに一枚加えたい、お守りのような黒いワンピースを作りました。夏の強い日差しのもとで、纏う人の美しさを引き立てて、凛とした佇まいを叶えてくれる黒。そんな黒を引き出すために、黒専門に染める、京都の黒染め師とともに作りました。

黒染め専門?夏の日差しのもとで美しい黒?そんな話を聞けば、どんな風に作られるのか気になって仕方ありません。ものづくりを知ればもっと愛着が沸くはず。長い付き合いになりそうな一枚への愛着を求めて、作り手さんにお話を伺ってきました。

黒を極めた黒染め師とは

お話を伺ったのは、1870年創業の馬場染工業5代目・馬場麻紀さんです。そもそも黒専門の染め屋さんがあることを、この商品を通して知りました。

「1870年の創業当時は着物の時代やったから、黒専門で染めてる工場が120軒ほどありました。
今では考えられませんけども、昔はお嫁に行くときに喪服として黒紋付を持っていったんですよ。夏用と冬用は最低限必要でしたから、それだけでも需要がたくさんありました」

創業時に、地下約100メートルから業務用に汲み上げ始め、以来1度も枯れずに使用している「柳の水」

「京都のこのエリアは水が豊富だから、着物に関わってる染め屋さんがもともと多いんです。鉄分の多い水質は、黒を出すのにも適しています。ただ、今はもう黒染め専門でやっているとこは、うち含めて3軒だけです。」

工房の表に掲げられる「黒染」の文字。名は体を表すと言うように、一歩足を踏み入れるとモノトーンの世界が広がります

代々続く黒専門の染め屋。中でも馬場染工業さんは、麻紀さんのお父さんである先代の頃に、「黒を極めた」と言われていました。

「ある日父が、今までの黒はグレーに見える!黒っていうのはもっと黒やと思う!って言いだして。目指したのが、カラスの濡れ羽色でした。
染料屋さんと一緒にいろいろ試行錯誤をして、黒より黒い最高級の黒色を開発しはったんですよ。『秀明黒(しゅうめいぐろ)』と名付けた黒色はまさにカラスの濡れ羽色と呼ばれて、みんながびっくりするほどの出来栄えでした」

アイデアマンと呼ばれた4代目によって、「秀明黒の馬場染工」はその名を全国にとどろかせ、注文が殺到したと言います。

「私の代になってから、時代の流れで着物はレンタルが多くなってしまったんですよ。
黒紋付を買うっていう人が少なくなった中で、かたくなに着物だけでやってるのもどうやろうということで、その技法を洋服に転用していったんです。
染める物が違うだけでふつうにできると思われるかもしれませんが、着物と洋服では素材が異なるので、染料もまったく違うんです。
私はもともと洋裁の学校に進んで、テキスタイルデザインや生地について学んできたので、素材によって適した染めをさせていただいています」

黒染め師ならではの奥深い黒

企画初期の色サンプル。写真だと分かりづらいかもしれませんが、一口に黒と言ってもさまざまな色があります

「黒っていっても色んな黒があるんですよ。太陽光で見た時に映えるものと、蛍光灯で見た時に映えるものと。今回は、太陽光でよく見えるように仕上げています。

染め方と時間と温度でちょっとずつ変わってくるんですが、今回は奥深い色にしたいというリクエストがあったので、規格度外視で、2回染めてます。
1回90分、釜の中でくつくつ煮るんですが、まったく同じことを2回。その分深みが出てきます。夏に着るので、秀明黒のようにあんまり黒くなると重い。自然な黒でありながら、深みが出るように仕上げています」

黒染め師ならではの色持ちのよさ

黒い服は退色が気になるところですが、そこにも、黒染め師ならではの色持ちのよさがあると言います。

「ふつうだったら、生地が機械のロールを通っていく形で染めるのが主流だと思うんですが、うちは釜で焚き込むので、繊維の奥の方まで染料がはいっていくんですよ。
それがふつうの色染め屋さんとは違うところです。
生地ではなく、洋服になった状態のものを少量ずつ、時間をかけて丁寧に染めていきます」

また、馬場染工業さんでは、染め直しのサービスも行っています。

「新商品の染めよりも、染め直しの依頼の方が多いくらいです。
洋服は染める工程で形が崩れてしまうんですよ。裾の折り目が伸びてしまったり。でも私は洋裁をやっていて服の構造が分かるので、きれいにお直ししてお戻しできます。
染め直しするくらい大事なものを持ってきてくださるんで、喜んでいただけるように丁寧に染め替えています。
このワンピースも、まずは今回の黒の色を楽しんでいただいて、いつか染め直しを依頼していただいたら、さらに黒くしてお返しすることもできます。2段階お楽しみいただけますよ」

引き立てる「黒」をまとう魅力

「黒っていうのは、日本人、アジア人の顔が引き立つ色なんですよ。黒子って言ったりもするように、もともと黒は引き立てる色です。
服は黒子に徹してもらって、顔をいかにきれいに見せられるか、ブローチやアクセサリーをいかに引き立てる黒を出せるかっていうのを楽しんでいます。うちとこの黒は脇役やと思って、ファッションを楽しんでください。
私も、襟付きワンピース絶対買おうと思ってます」

麻紀さんが絶対買いたいと言っていた、襟付きワンピース

代々続いてきた工芸の技が活きた、黒染めのワンピース。染め直しを重ねながら、長い付き合いができそうな一枚です。


<関連特集>

<関連商品>

日本の黒 前開きワンピース
日本の黒 ふんわり袖ワンピース
日本の黒 襟付きワンピース
日本の黒 スリットワンピース

【わたしの好きなもの】ろうけつ染めの巾着バッグ

最近、持ち物のサイズを一新しました。

気が付けばキャッシュレス決済が進み、長財布を持ち歩く意味が薄れていました。
変えようと思いつつ後回しにしていたのを、春の年度切り替わりのタイミングでようやく変更。荷物のサイズも重さもコンパクトになり、思った以上にすっきりしました。

それに伴い探していたのが、ちょうどいいサイズのバッグ。
これまでは大きめのものを使用することが多かったのですが、財布の購入を機に考えてみると、結構すかすかな状態で使っていることに気付きました。
最近は、お買いものの際にエコバッグを使うこともあり、大きめバッグ×エコバッグは、見た目としても持ち物が多い印象に。肩掛けの小さめバッグ×エコバッグが、持ちやすくて佇まいとしてもスマートだなぁと思っていました。

色々考えて吟味している中で、この夏の相棒に私が選んだのが、「ろうけつ染めの巾着バッグ」です。
このバッグの、ここがいい!と思うポイントを4つご紹介いたします(愛があふれて長くなってしまいました…)。

①夏らしく、程よくアクセントになる柄

条件は色々あれど、バッグは見た目の印象が何より大切ですよね。

このバッグ、黄色と藍色の2色あります。黄色は晴れやかで藍色は涼やか。どちらも夏らしく迷いましたが、私は藍色のバッグを選びました。

柄があるので、服を選ぶんじゃない?と思われるかもしれませんが、思った以上にいろんな服との相性がいいんです。

鮮やかな服にあわせると、夏らしさが一層増します。

シンプルな服にあわせると、いい感じにアクセントに。

柄があるものにあわせても、程よくまとまってくれます。

こちらは黄色バージョン。もしかして柄×柄もいけるかも…と思い、隣の席の総柄の服の社員に持ってみてもらいました。

ふだん無地の服を着ることが多いので、購入前は、いつも通り無難に無地がいいんじゃないか、と熟考しました。
でも夏だし…バッグは通年同じもの持ってしまいがちだけど、夏はバッグにも少し季節感を加えたい…。そんな思いで実際に持ってみると、思った以上にいろんな服に馴染んでくれました。

いつも通りの服も、より夏らしく華やかな印象にしてくれるので、バッグまで合わせてコーディネートを楽しんでいる自分がいます。

②肩掛けも手持ちもできる2wayの皮紐

初めて見た時は、手持ちのバッグかと思ったのですが、実は2wayになっていて、紐を片側に寄せて肩掛けにすることができます。

そして、これが求めていた理想の形。エコバッグと一緒に持っても、スマートな印象です。

また、紐が皮でできているので、程よいきちんと感があるの嬉しいポイントです。カジュアルな服にも、きれいめな服にも相性よく使いまわすことができます。

③必要なものがきちんと入る絶妙なサイズ感

夏のお出かけの際、バッグに必ず入れたいのが、
スマホ、財布、ハンカチ、ポーチ、飲み物、エコバッグ。
小さいとは言っても、これらが入るのは必須条件です。

一般的なペットボトルサイズのタンブラーが入るのか心配していたのですが、そこは計算されていて、しっかり収まってくれます。絶妙なサイズ感で、過不足がないので、手に取る頻度が増えそうです。

④ろうけつ染めならではの唯一無二の表情

そして最後に、ろうけつ染めならではのものづくりの背景を知ると、愛着をもたずにはいられません。

ろうけつ染めは、染めたくない部分を蝋で防いで、それ以外の部分を染める技法です。いわゆる防染と呼ばれる技術なのですが、防染自体は、板ではさんだり、紐で縛ったり、糊で防いだり、色々な手法があります。
そんな中、このヒビ割れのような表情が、ろうけつ染めならではの独特の表情になっているんです。

蝋という素材だからこそできる、有機的なヒビ割れを活かして作られる表情。これが、見ていて飽きなくて。服だとちょっと取り入れづらさがある柄物も、小物であれば、コーディネートのちょうどよいスパイスになってくれます。

程よくアクセントになりながらも、やわらかい色調で染められており、思っていた以上にいろんな服に馴染む包容力。あれと組み合わせても素敵そう、とコーディネートを考えるのが楽しい日々です。

このバッグを機に、柄物にハマりかけていて…
扇子もこれまで無地のものを使っていたのですが、セット使いを思案中です。

編集担当 上田

<関連商品>
ろうけつ染めの巾着バッグ
ろうけつ染めの袋がいらない扇子

【ヱビスビール×中川政七商店】ブランドマネージャーが語る、ヱビスビールの魅力

少しずつ暑さが増してきました。
週末、ちょっといいビールを飲むのが、これからの季節の楽しみです。

意識しなければ単調な日々になってしまうので、週末はちょっとだけ特別なことをするよう心がけています。
お花を飾ったり、時間のかかる料理を作ったり、ちょっといいビールを飲んだり。本当に些細なことですが、そういうことの積み重ねでリズムを整えています。

そしてここ最近、週末食卓のおともに登場する頻度が高いのが、ヱビスビールです。

実はいま、コラボキャンペーンを実施している関係で、ヱビスビールの開発秘話を取材させていただいたのです。
聞いてしまえば、飲まずにはいられない。そんなお話を、皆さまにもおすそ分けいたします。
皆さまの日々の食卓が、より一層豊かな時間になりますように。
※キャンペーンの詳細は、最下部に記載しています。

ハレの日を見守り続けて130年

サッポロビール株式会社 マーケティング本部 ビール&RTD事業部 ヱビスブランドグループ 沖井尊子さん

お話を聞いたのは、サッポロビール株式会社ヱビスブランドグループの沖井尊子さん。

ヱビスビールと言えば、ハレの日や節目のタイミングなど、大切な時間を過ごしたい時に飲むビールというイメージがあります。実際、ビール作りを始めた当初から、そういう想いが込められていたそうです。

「恵比寿という街の地名にあわせてヱビスビールになった、と思われることが多いんですけども、ルーツとしては、ヱビスビールが先になります。
ヱビスビールを運ぶための駅として、恵比寿停車場ができ、その後、旅客の取り扱いも始まり、そこから恵比寿という街の名前となっていきました」

1890年当時は今のような街並みではなく、醸造所がぽつんと建っていた

「一番最初は大黒ビールという名前で始めようとしていたという記録もあるのですが、どちらにせよ縁起の良い名前ですよね。
なぜ恵比寿様をモチーフにしたのか、という記録は残っていないのですが、ヱビスビールが生まれた1890年当時は、ビールに限らず、縁起物や神様をモチーフにした商品が多い時代だったようです」

日本初のビヤホール「恵比寿ビヤホール」が東京・新橋(現銀座8丁目)にオープンした際の様子

「その頃は、いまほどビール作りが普及してなかった時代なのですが、本当においしいビールを作るという志を掲げて、本場・ドイツの設備を取り入れ、醸造技師まで招き、ビールの進化と多様性を追求してきました。
ビール作りに留まらず、色んなイベントを開催したり、日本で初めてのビヤホール開いたり。ビールを飲む時間を楽しんでいただくことに、昔からこだわってきたブランドです」

130年余り、人々の楽しい時間を見守り続けてきたビール。味わいにはどのような特徴があるのでしょうか。

余韻が続く、華やかな味わい

「ヱビスビールは、旨みあふれるふくよかなコクが特徴のビールです。
プレミアムビールと言うと、苦くて重めのイメージを持たれる方も多いんですけど、ただ味が濃いということではなくて、香りに特徴のあるビールです。
社内では、ヱビス香(こう)と呼んでいるのですが、華やかなヱビス香があることで、口の中で広がって、余韻が続いていくんです。味の厚みもあり、香りによる余韻が続いていくことで、唯一無二のコクが生まれています。

ビールは喉越しを楽しむものというイメージがあると思いますし、ヱビスビールにももちろん喉越しはあるんですけども、それ以上に味わって美味しいビールです」

唯一無二の味わいを作る、哲学の継承

「ヱビスビールの唯一無二の味わいは、麦芽100%で造ること、吟味した原料・酵母で造ること、長期熟成させること、という3つの手間ひまを惜しまないこだわりによって作りあげています。
例えば長期熟成は時間もかかることなので、効率だけを追うのであればやらないことなんですけども、美味しいものをお届けするために、時間をかけて丁寧に作り、品質を追及することにこだわっています。

そういった醸造技術者によるこだわりが、言語化されていない哲学のような部分も含めて沢山ございまして。何かある度に、ヱビスらしいのか否かと議論しながら130年余り、人から人へ脈々と継承されて、ヱビスビールの美味しさが維持され、磨き続けられています」

当たり前に身近にあるものですが、100年以上同じように美味しいと思われ続けてきたというのは、改めて考えてみるとすごいことです。

「変わらない美味しさを届けるということは、継承されているんですけども、ただ、お客様に変わらず美味しいねって言っていただくために、ちょっとずつ磨き続けているという意味では、変わってもいるのかなと思います。
設備や原料が変わっていく中で、ベストな美味しさをお届けするために、時代の変化にあわせて試行錯誤しながら磨き続けています」

ヱビスビールは、幸せな気持ちを高めてくれるもの

聞けば聞くほど飲みたくなってきました。ここからは、社員の方がおすすめする美味しい飲み方を聞いていきたいと思います。

「おすすめは、グラスに注いで飲んでいただくことです。香りや色や泡まで含めて五感で楽しんでいただきたいビールです。
味の面でも、グラスに注いで泡を作ると、苦みが泡に移って、飲んだ時の口当たりがすこしやわらかくなります。

さらにマニアックなことを言えば、液と泡が7:3になるのが、ビールの黄金比と言われていて、その比率でできると1番美味しいと思います。
ヱビスビールの三度注ぎという注ぎ方がありまして、1回目の時に高くから注いで、泡をたくさん作るというのがポイントです。
1回でも美味しいんですけど、ちょっと時間をかけて3回に分けて注いでいただくと、より一層美味しくなりますので、ぜひやってみてください」

最後に、沖井さんが思う、ヱビスビールのここがいい!というポイントを伺ってみました。

「お客様の声を伺っていて、私自身も本当にそうだなと思うのですが、
ヱビスならではの味わいを楽しむだけでなく、自分の中で幸せな時間を高めてくれるというか…より一層幸せな気持ちにさせてくれているなぁと思います。
ビールという一つの飲みものではあるのですが、そこを超えた存在なのではないかなと思っていて、食卓にいる時間がより豊かなものになっていると感じています。

これからも、お客様の幸せなひと時と共にあるために、
100年以上続いているヱビスブランドだからこその、新しいご提案もしながら、また次の100年も続くブランドでありたいです」

ハレの日や節目にはもちろん、日々の食卓をちょっと特別なものにしてくれる、ヱビスビールのある食卓。日常にちょっといい時間を持つために、意識的に取り入れてみてはいかがでしょうか。

現在、ヱビスビール×中川政七商店のコラボキャンペーンを実施中です。

<キャンペーンについて>

5/30~発売の「ヱビス缶350ml 12缶(4種アソート)」に、ヱビスビール手ぬぐいが付いています(なくなり次第終了となります)。

一杯のビールのまわりで、その幸せを大切な誰かと分かち合う時間が生まれるように。今回生まれた手ぬぐいは、ふくらむ幸せをやわらかく包んでおすそ分けできるよう願いを込めた、2社からのご挨拶です。

ぜひこの機会に、一杯のビールから、初夏の食卓時間をお楽しみください。

キャンペーンページはこちら

夏に太陽の下に出掛けたくなる「ムラ染めの服」

5月だというのに、夏かのように暑い日々が続きますね。
この先の数か月が不安になるような気候ですが、そんな懸念も何のその、蒸し暑い夏に太陽の下に出掛けたくなるような、「ムラ染め」の服を作りました。

藍染めや手染めの服って、美しいな、とは思いつつも、二の足を踏んでしまう方も多いのではないでしょうか。
私も普段は無地の服が多いので、着てみるまでは、自分には難しいんじゃないかな、という気持ちがありました。

でも、
「とりあえず袖を通してみてください。染めの服は着てみるといいじゃんってなるから」

作り手の方に言われたそんな言葉を信じて着てみると、印象がガラッと変わりました。これを着て夏のお出掛けを楽しみたい!とわくわくしたので、私が感じたままの魅力を素直にお届けしていきたいと思います。

自分には関係ないかも、と思ってる方にこそ伝えたい、「ムラ染めの服」の魅力をお届けします。

天然染料の魅力とは

今回一緒にものづくりを行ったのは、宝島染工の大籠千春さん。
草や木などを材料とした天然染料と、伝統的な手作業による染色技法を用い、「中量生産」の染工場を営まれています。

早速、天然染料の魅力について聞いてみると、

「単純に言うと、美しさですね。
色のクリアさというか、ちょっとこう透き通るみたいな色のきれいさがあったりして。中でも藍染の色って魅力的で思わず目がいっちゃうんですよね」

たしかに、工場に到着した際、ずらっと染めた服が並んでいて、思わず歓声をあげてしまいました。実物を見ると圧巻の美しさ。ついつい見てしまって目が離せなくなるくらい魅力的。
写真の比じゃないくらい実物が美しいので、お近くに店舗がある方はぜひ見てみていただきたいです。

「藍染めは、染着性が弱くて染まるスピードが遅いので、線がばきばきっと残りやすいんです。色のばきっとした強さが藍染めの場合はすごく魅力的なんですよね。
計算できるのは7割で、2~3割は計算できないのりしろがあって…長年染めてますけど、毎回ちょっと驚くんですよね。ただ、それがどう動いても、あんまりストレスに感じない染料だなと思っています」

手でぎゅっと持って、染料に浸して染める、ごくシンプルな染めかた

「今回の染めは、紐でしばったり板で挟んだりせずに、指でストレスをかけて染めているだけなんです。全く器具を使わずに手だけでできるので、かなり古い時代からあった染め方だろうと思うのですが、それがずっと残ってるっていうのが、何よりみんなに愛されてきたっていうことですよね」

「器具を使うほど、装飾性も高くなりますが、今回は指だけ。中川政七商店さんで販売するということで、ベーシックな染め方になりました。最終の物になるまでに、何度か修正を重ねたんですけど、まずは染めの面白さを知っていただくために、あまり個性的過ぎるものではなく、シンプルに藍染めらしさが楽しめるような染め方が選ばれました」

手で染めていくので、柄の出方が一枚ごとに異なるのがまた面白いところ。自分の元に届く一枚に愛着をもって着ていただきたいです。

着ることで、どんどん育つ服

天然染料と言えば、育てるイメージもあります。どのように育っていくのかを知りたくて、大籠さんが長年着ている服を見せていただきました。

左が新品。右が6年ほど使用したもの

「元は同じく真っ黒の物なのですが、6~7年程使うと右のように変化します。買った時が100%じゃなくて、どんどんよくなったり、味がでたり、育てていく面白さはあると思います。
染め直しも行っているので、また黒くしたい場合は黒くもできますね」

育てる楽しみがある一方、お手入れが大変なイメージもあります。大籠さんはどのようにお手入れしているのか、尋ねてみました。

「よく言われる色落ちに関しては、最初の2~3回気を付けていただいたら後は大丈夫です。
お手入れに関して、私が気を付けているのは、単純によく着てよく洗うことですね。水を通してあげると黄ばみも浅い日焼けも抜けるんですよ。反面、忘れて放置すると日焼けや汗じみで黄ばんでしまいます。
シーズンが終わってクローゼットに閉まっても、3か月くらい着てないなって思ったら一回洗うと、すっきりした鮮やかさがよみがえってくれます」

よく着てよく洗う。思ったより単純なお手入れ方法ですね。どんどん育っていく楽しみも相まって、つい手が伸びてしまいそうです。

年を重ねるごとに、似合う服になる

「柄物とかもそうですけど、服自体に主張があるじゃないですか。何か喋ってるみたいな。そういうものって、年を重ねた方が着こなせる力があると思うんです。年を重ねると、その人にも個性が出てくるから、物の個性と釣り合う感じがします。

アクセサリーとかもそうですよね。若い指にはシンプルなものでいいんだけど、節が太くなってくると、大きい石が似合ったり。
私も年を重ねたことで、個性的な服が釣り合うようになってきたな、という実感があります。
お洋服が好きな方も、そうやって自分とのバランスを楽しまれているのかなという気がしますね」

「私が今回の服を着るなら、きれいな色とあわせて着たいです。これだけテキスタイルの主張がちゃんとあるので、例えば赤い靴下に黒い靴とかで。ナチュラルにし過ぎずピリッと着るのが、私の年齢くらいだとよさそうな気がします。
私は身長が167㎝あって脚が出すぎちゃうと思うので、インナーパンツにきれいな色もってくるのもよさそうです。背が低い方は厚底のサンダルと合わせてもかわいいでしょうね」

「中川政七商店さんの服の色のラインナップを見てると静かな色合いが多いので、普段はこういう染めの服は選びませんっていうお客さんもいらっしゃると思いますが、
着てみると全然違うので、袖を一度通していただきたいなと思います。染めの服って着てみると意外といいじゃんってなるんです。

柄物って香辛料みたいな感じなんですよ。1個あるだけで全然違います。普段着ているものと合わせるだけで、それが全然違う表情になったりします。
今回、服の形はスタンダードですが、普段着ているものとは全然違う印象になるはずなので、そこを楽しんでもらえたら嬉しいです」

私自身、普段は絶対選ばないなという服でしたが、そんな言葉を信じて袖を通してみると、本当に印象が変わりました。服の印象というよりも、知らない自分に出会ったような感覚。
年を重ねることでどんどん似合うようになる、というのも、年を重ねるのが楽しみになるような嬉しいお話です。
主張のある服を着る楽しさを教えていただいたので、この服とともにたくさん出掛けて、この夏を楽しもうと思います。

< プロフィール>
大籠千春:宝島染工 代表
草や木などを材料とした天然染料と、伝統的な手作業による染色技法を用い、中量生産の染工場「宝島染工」を営んでいる。
アパレルブランド向けに洋服、服飾雑貨の染色加工を行う他、自社ブランドのオリジナル商品制作も行う。オリジナル商品は、「年齢や性別も無く楽しめるデザイン」をテーマに開発。

<関連特集>

文:上田恵理子
写真:藤本幸一郎

【季節の手ざわり】整える、初夏のお茶時間

こんにちは。中川政七商店ラヂオの時間です。

中川政七商店ラヂオ「季節の手ざわり」は、月に一度、季節ごとの風習や、暮らしに取り入れたい日本の文化についてお届けしています。
季節の移ろいを感じ暮らしを整える、そんなひと時をご一緒しませんか。

5月は「さつき」と呼ばれていますが、田植えの時期ということもあり「早苗月(さなえづき)」と呼ばれ、それが「さつき」へと変化したとも言われています。

二十四節気では「立夏(りっか)」、暦の上では夏の始まり。
木々が若葉を成長させて、生き物が活発に動き出す頃です。
さわやかな青空が広がる晴れた日を「五月晴れ(さつきばれ)」というように、1年のうちで最も過ごしやすい時期ですね。

今回は「お茶」をテーマに、「整える、初夏のお茶時間」をお送りします。


ナビゲーター:クリス智子
ハワイ生まれ。大学卒業時に、東京のFMラジオ局 J-WAVE でナビゲーターデビュー。現在は、同局「GOOD NEIGHBORS」(月曜〜木曜13:00〜16:00)を担当。ラジオのパーソナリティのほか、MC、ナレーション、トークイベント出演、また、エッセイ執筆、朗読、音楽、作詞なども行う。得意とするのは、暮らし、デザイン、アートの分野。幼少期より触れてきたアンティークから、最先端のデザインまで興味をもち、生活そのもの、居心地のいい空間にこだわりを持つ。ラジオにおいても、居心地、耳心地の良い時間はもちろん、その中で、常に新しいことへの探究心を共有できる場づくりを心がける。


プラットフォーム

ラヂオは7つのプラットフォームで配信しています。
お好きなプラットホームからお楽しみください。

Spotify
Apple Podcast
Google Podcasts
Voicy
Amazon Music
Castbox
YouTube

お便りを募集しています

番組内でご紹介させていただく、リスナーの皆さまからの投稿を募集しています。
「わたしの心地好い暮らしをつくる道具」をテーマに、お気に入りのアイテムや、しつらいの風景、意外な使いかたなど、皆さまの暮らしの中のこだわりや想いをお聞かせください。


昨年の6月から月一回、配信してきました中川政七商店ラヂオ「季節の手ざわり」で
すが、今回の5月配信を持って、最終回になります。

中川政七商店ラヂオは、今後も新たな展開をしていく予定です。
引き続き、お楽しみいただけますと幸いです。

中川政七商店ラヂオのエピソード一覧はこちら

【工芸うんちく旅】奈良「祈りと工芸」

こんにちは。
中川政七商店ラヂオのお時間です。

「工芸うんちく旅」は、工芸好き男子ふたりが、日本の工芸産地をめぐり、職人さんや地元の方々から聞いてきたうんちくや小ネタ、地域の風習、食文化などを紹介する番組です。

奈良県/祈りと工芸

工芸好きアラフォー男子ふたりが工芸産地を巡り、職人さんや地元の方々から聞いてきたうんちくを紹介する番組「工芸うんちく旅」。今回は中川政七商店の本拠地、奈良県を巡ります。

かつて日本の中心地であった奈良。その歴史を語る上で、神社仏閣とは切っても切り離せない関係にあります。そこで今回は「祈りと工芸」というテーマを軸に、奈良を巡りました。祈りの対象として工芸が発展してきた歴史を訪ねて、神社仏閣や工芸に通じるものづくりの現場に伺いました。

初回は、観光スポットの大定番にもなっている、東大寺の大仏を見に行ってきました。ご案内いただいたのは、奈良で宿泊施設や飲食店を経営されており、奈良の文化や仏像に詳しい古白の境 祐希さん。

現在でも謎多き、東大寺の歴史や、過去に2度の焼失を経て再建された経緯、南大門の金剛力士像にまつわるうんちく、さらには東大寺の3月の風物詩である『お水取り』の様子などなど、目白押しの内容でお届けします。これを聴けばあなたも奈良に行ってみたくなる!?奈良のディープなうんちく旅のスタートです。

プラットフォーム

ラヂオは7つのプラットフォームで配信しています。
お好きなプラットホームからお楽しみください。

・Spotify(一話二話三話四話
・Apple Podcast(一話二話三話四話
・Google Podcasts(一話二話三話四話
・Voicy(一話二話三話四話
・Amazon Music(二話三話四話
・Castbox(一話二話三話四話
・YouTube (一話二話三話四話


ナビゲータープロフィール

高倉泰(たかくらたいら)

中川政七商店による産地支援事業「合同展示会 大日本市」のディレクター・バイヤー。
大学卒業後、店舗デザイン・設計の会社を経て、2014年に中川政七商店に入社。日本各地のつくり手と共に展示会やイベントを開催し、商品の仕入れ・販売・プロモーションに携わる。
古いものや世界の民芸品が好きで、ならまちで築150年の古民家を改築し、 妻と2人の子どもと暮らす。山形県出身。日本酒ナビゲーター認定。ほとけ部主催。
twitterアカウントはこちら

引地海(ひきじかい)

Pomalo 株式会社 クリエイティブ・ディレクター。大学卒業後、広告代理店を経てフリーの編集者に。雑誌やWEBサイト、イベントの企画・制作・プロデュースを手がけ、2019年よりコンテンツ・エンジニアリング・カンパニー Pomalo(ポマーロ)に参加。11歳から17歳までをアメリカ・サンディエゴで過ごした帰国子女。2児のパパで、趣味はお弁当づくりとキャンプ。
Instagramアカウントはこちら

ご質問・ご感想を募集しております

パーソナリティへの質問や、ご視聴の感想、ここに行ってほしい!といったリクエストなど、お聞きしたいこと、お伝えしたいことがあれば、お気軽にコメントをお寄せください。

皆さまからのお便りをお待ちしております。

次回予告

次回「工芸うんちく旅」は、4月21日(金)配信を予定しています。

「中川政七商店ラヂオ」では、別番組「季節の手ざわり」も配信中です。
こちらは、月に一度、季節ごとの風習や、暮らしに取り入れたい日本の文化についてお届けしています。
次回は5月5日(金)配信予定です。

お楽しみに。

中川政七商店ラヂオのエピソード一覧はこちら