【季節の手ざわり】進化する素材、麻を纏う

こんにちは。中川政七商店ラヂオの時間です。

中川政七商店ラヂオ「季節の手ざわり」は、月に一度、季節ごとの風習や、暮らしに取り入れたい日本の文化についてお届けしています。
季節の移ろいを感じ暮らしを整える、そんなひと時をご一緒しませんか。

4月、「卯月」。
新年度には、職場や学校で新しいスタートを切る方もいらっしゃるかもしれません。
この時期、二十四節気では「清明」と呼ばれています。
万物が清らかでいきいきした様子を表す「清浄明潔」という 言葉を省略したもので、晩春の季語のひとつです。「清らかで明るい」という字の通り、清々しい陽気になり、草木が芽吹き、花が咲き、鳥や蝶が舞う…、心が華やぐこの時期にぴったりの言葉ですね。

今回は、中川政七商店のルーツである「麻」をテーマに、「進化する素材、麻を纏う」をお送りします。


ナビゲーター:クリス智子
ハワイ生まれ。大学卒業時に、東京のFMラジオ局 J-WAVE でナビゲーターデビュー。現在は、同局「GOOD NEIGHBORS」(月曜〜木曜13:00〜16:00)を担当。ラジオのパーソナリティのほか、MC、ナレーション、トークイベント出演、また、エッセイ執筆、朗読、音楽、作詞なども行う。得意とするのは、暮らし、デザイン、アートの分野。幼少期より触れてきたアンティークから、最先端のデザインまで興味をもち、生活そのもの、居心地のいい空間にこだわりを持つ。ラジオにおいても、居心地、耳心地の良い時間はもちろん、その中で、常に新しいことへの探究心を共有できる場づくりを心がける。


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進化する素材「麻」を楽しむ衣服

「麻布Tシャツ」

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麻のインナー「更麻」

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麻デニム

麻デニムパンツ

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「わたしの心地好い暮らしをつくる道具」をテーマに、お気に入りのアイテムや、しつらいの風景、意外な使いかたなど、皆さまの暮らしの中のこだわりや想いをお聞かせください。


次回「季節の手ざわり」は、5月5日(金)配信を予定しています。

「中川政七商店ラヂオ」では、別番組「工芸うんちく旅」も配信中です。
こちらは、工芸好き男子二人が日本全国の工芸産地を訪ね知った工芸のうんちくを語る番組。
次回は4月8日(金)配信予定です。

お楽しみに。

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【職人さんに聞きました】一生ものの「竹の収納籠」ができるまで

なるべく天然素材に囲まれて暮らしたい。
少しずつ、家具や暮らしの道具を買いそろえて、自分の好きな素材を身の回りに置けるようになってきました。
何を取り入れると心地好いかはそれぞれですが、天然素材好きならついつい集めてしまうのが、籠ではないでしょうか。

あらゆる物を受け止め、程よく目隠ししてくれる大らかさが頼もしくて、気が付けばふたつ、みっつと増えています。

籠と言っても、色々ありますよね。
竹、あけび、籐、い草、やまぶどう...どんな素材にもそれぞれの魅力がありますが、今日はその中のひとつ、中川政七商店からこの春発売となる、竹籠についてお話していきます。

初めて見た時、その美しさにほれぼれしてしまった編み目の精緻さ。
産地を訪ねてみれば、作りがいいものとはこのこと、と納得のものづくりを見せていただきました。

竹籠が作られる場所を訪ねて大分県の山里へ

竹と言えば、大分県別府市。
作り手である竹工房オンセの高江雅人さんの工房は、別府から山に車を走らせ、30分ほどの山里に位置します。

「若い頃から、自然の中で、なるべく自給自足で暮らしていきたいというのが夢でした。土に近い暮らしをしたかったんです。
それに沿う形で土地を買って、まずは家を自分の手で作るところから始めました。
竹職人になったのはその後ですが、幸い職業も自然の物を扱えているからか、楽しくやれています」

そう話すのは、竹工房オンセの代表、伝統工芸士の高江雅人さん。

高江雅人さん。背景に写る家は、丸太を購入して少しずつ自分で建てていったそう

竹籠と言えば、人が手で編んでいるのだろうという想像はつきますが、意外と編む以外の工程は知られていないものです。

現場を見せていただくと、1から10まで自然と向き合う、本当に手間ひまのかかるお仕事。じつは、編むまでの素材の準備だけで工程の半分ほどを費やすと言います。

竹を割って、、、

剥いで、、、

薄くして、、、
この間にも、選別したり面取りしたりと細やかな作業が沢山あります。

「竹はものすごく弾力があって、人と一緒で1本1本性質もちがう。全然思うようにならないんですよ。
だからこそ面白くもあって、飽きずに40年近く続けてこられたのかもしれません」

ままならなさが面白いのだと、あるがままの自然に向き合い、カラッと笑う姿が素敵ですが、完成した収納籠は“美しい”の一言に尽きます。
ものづくりにどんなこだわりがあるのか聞いてみました。

こだわりは、美しさと耐久性の両立

「こだわったのは、まず見た目の美しさ。そして、数十年と使っていただけるような耐久性です。
もともと自分の仕事として籠バッグを作ることが多いので、普段から大切にしている点でもあります」

「竹は昔からあるので、日用雑貨としては、人の歴史とともにずっとあるものですが、日用品を超えて、芸術性をもつのは日本ならではの特性ですね。

今回の編み方は“四つ目編み”と言って、シンプルな技法で、竹の素材感がよく出ています。編もうと思えば誰にでも編めるくらいのシンプルさなのですが、隙間を均一に美しく作るのは意外と難しい。“四つ目にはじまり、四つ目に終わる”と言われるような奥深い技法でもあります。
工程ごとにチェックを重ねながら、美しく仕上げることに注力しました」

「また、今回の収納籠は、物を入れたまま運べるように、耐久性のある設計にもこだわっています。
取手は籐で巻き付ける前に、竹釘で打ち付けて強度をあげました。籐も太いものを使い丈夫に仕上げています。

実際に検証はできないのですが、30年使っても大丈夫だったと言っていただけるように、丈夫な作り込みをしています」

外側からは見えないが、実は竹の釘を打ち付けて、補強されている
工房で重いものを入れて、耐荷重チェックをしている様子

「普段作っている籠バッグは、それこそ持ち歩くものなので、耐久性は大切です。ひとつ作るのに時間もかかるし、せっかく購入したのにすぐに壊れてしまっては僕らとしてもやるせない。
安心して長く使ってもらいたいから、強度のある設計をしています」

その美しさと耐久性のこだわりが何より活きているのが、取手の部分です。

「一周ぐるっと巻きついているだけなんですが、これが大変で。
竹は弾力性があるから、自然に作ると形が丸くなるんです。今回の商品は四角いので、それにあわせて均一の隙間でまっすぐ付けるのに、神経を使いました」

今回の製造に併せて作った、四角い形を出すために押さえこむ器具

「この籠のために、新しい道具を作ったりして。竹の張りで丸くなろうとするところを、ぐーっと押さえこむ器具を作って、ドライヤーであぶりながら角を出しました。
編み方も含め一見シンプルな籠ですが、この籠をひとつ作るために、いろんな器具を作っています」

飴色になるまで。一生ものの暮らしの道具

ままならない素材に向き合いながらも、使う人が心地好いように。美しく使い勝手のよい収納籠は、こうして一つひとつ職人の手で丁寧に作られています。

今回の収納籠は、ひとつ作るのに約1日かかるそうです。
手間ひまかけて作られるもの。使い手としても長い付き合いにしたいものです。

自然の素材は使う中で育つ、という魅力もあると思い、長く使ったものを見せていただきました。

上が18年使った籠バッグ。下が新品の籠バッグ。使い込むうちに飴色に育っていく

左上のものが18年使ったもの。右下の新品のバッグと比べると、色と艶が増しているのがよくわかります。

自分の暮らしを積み上げる中で一緒に育っていくと思うと、未来の暮らしを思い描くのが楽しみになります。

最後に高江さんに、購入される方にお届けしたい言葉はありますか?と聞いてみました。

「竹は一生ものの道具です。飴色になるまで使って育ててください」

自然の素材を活かしながら、人の手で丁寧に編みこまれて出来上がる、「取手のある竹の収納籠」。
ぜひ長く愛用いただけたら嬉しく思います。

< プロフィール>
高江雅人:伝統工芸士/竹工房オンセ代表
「土に近い暮らし」にあこがれ、自給自足の生活をすることを目指して、脱サラ。以来、40年に渡り竹職人として、バッグや花籠を中心とした作品づくりを行ってきた。
現在では、独立を目指す若者が修行に集まる代表的な工房にもなっている。

「土に近い暮らし」を実践される、高江さんの生き方に興味を持たれたかたは、「中川政七商店ラヂオ 工芸うんちく旅」で、より詳しくご紹介しています。
ぜひご視聴ください。

<掲載商品>
取手のある竹の収納籠 大
取手のある竹の収納籠 小

文:上田恵理子
写真:藤本幸一郎

【工芸うんちく旅】合同展示会「大日本市」

こんにちは。
中川政七商店ラヂオのお時間です。

「工芸うんちく旅」は、工芸好き男子ふたりが、日本の工芸産地をめぐり、職人さんや地元の方々から聞いてきたうんちくや小ネタ、地域の風習、食文化などを紹介する番組です。

工芸を中心としたものづくりメーカーが集う展示会「大日本市」

工芸好きアラフォー男子ふたりが工芸産地を巡り、職人さんや地元の方々から聞いてきたうんちくを紹介する番組「工芸うんちく旅」。今回は少し趣向を変え、中川政七商店が開催する小売店向けの合同展示会「大日本市」に出展されている作り手さんたちを取材します。今年の2月に東京・恵比寿で開催された第10回目となる大日本市のテーマは「新しいものづくりが集まる場所」。全国津々浦々から集まった作り手さんたちのブースにナビゲーターの引地海が訪問し、インタビューを実施。その模様をナビゲーターふたりで振り返ります。

初回は、まず京都で400年以上続く香りの総合ブランド薫玉堂(くんぎょくどう)さんをご紹介。お話を伺ったのはブランドマネージャーの負野千早さん。桃山時代文禄三年(1594年)から続く、日本最古の御香調進所として、伝統を受け継ぎながら、その時代にあった香りを作り続けています。美しいパッケージやもともと日本にあった香りの風習など、興味深いお話をたくさん紹介します。

続いて、北海道北見市に拠点を構える環境大善株式会社さんの消臭剤「きえ〜る」について、代表取締役社長の窪之内誠さんにインタビュー。その驚きの天然原料とは!?この商品を開発された窪之内さんのお父様のストーリー、さらにそんなことまで言っていいんですか!?という商品の裏側のお話まで。北海道の地から発信される消臭剤の未来について、語っていただきます。

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高倉泰(たかくらたいら)

中川政七商店による産地支援事業「合同展示会 大日本市」のディレクター・バイヤー。
大学卒業後、店舗デザイン・設計の会社を経て、2014年に中川政七商店に入社。日本各地のつくり手と共に展示会やイベントを開催し、商品の仕入れ・販売・プロモーションに携わる。
古いものや世界の民芸品が好きで、ならまちで築150年の古民家を改築し、 妻と2人の子どもと暮らす。山形県出身。日本酒ナビゲーター認定。ほとけ部主催。
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引地海(ひきじかい)

Pomalo 株式会社 クリエイティブ・ディレクター。大学卒業後、広告代理店を経てフリーの編集者に。雑誌やWEBサイト、イベントの企画・制作・プロデュースを手がけ、2019年よりコンテンツ・エンジニアリング・カンパニー Pomalo(ポマーロ)に参加。11歳から17歳までをアメリカ・サンディエゴで過ごした帰国子女。2児のパパで、趣味はお弁当づくりとキャンプ。
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パーソナリティへの質問や、ご視聴の感想、ここに行ってほしい!といったリクエストなど、お聞きしたいこと、お伝えしたいことがあれば、お気軽にコメントをお寄せください。

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次回予告

次回「工芸うんちく旅」は、3月17日(金)配信を予定しています。

「中川政七商店ラヂオ」では、別番組「季節の手ざわり」も配信中です。
こちらは、月に一度、季節ごとの風習や、暮らしに取り入れたい日本の文化についてお届けしています。
次回は4月7日(金)配信予定です。

お楽しみに。

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【季節の手ざわり】春の訪れ、桜を楽しむ

こんにちは。中川政七商店ラヂオの時間です。

中川政七商店ラヂオ「季節の手ざわり」は、月に一度、季節ごとの風習や、暮らしに取り入れたい日本の文化についてお届けしています。
季節の移ろいを感じ暮らしを整える、そんなひと時をご一緒しませんか。

3月、弥生になりました。
「弥生」の「弥」は「いよいよ、ますます」、「生」は「草木が生い茂る」という意味があり、冬が終わって、草木が芽吹く時期を指す言葉です。

中川政七商店の本社がある奈良の東大寺では、3月1日から14日まで「修二会」が行われます。「修二会」とは五穀豊穣、無病息災を祈願する1200年以上も続く仏教の行事のこと。「お水取り」「お松明(おたいまつ)」という名でも親しまれています。
奈良では、「修二会」が終わると、本格的な春がやって来ると言われています。

今日は「春の訪れ、桜を愉しむ」と題してお送りします。


ナビゲーター:クリス智子
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次回「季節の手ざわり」は、4月7日(金)配信を予定しています。

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こちらは、工芸好き男子二人が日本全国の工芸産地を訪ね知った工芸のうんちくを語る番組。
次回は3月10日(金)配信予定です。

お楽しみに。

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【工芸うんちく旅】大分県別府市「温泉」

こんにちは。
中川政七商店ラヂオのお時間です。

「工芸うんちく旅」は、工芸好き男子ふたりが、日本の工芸産地をめぐり、職人さんや地元の方々から聞いてきたうんちくや小ネタ、地域の風習、食文化などを紹介する番組です。

大分県別府市/温泉

大分県別府市といえば温泉!日本古来の養生として根付いていた湯治文化について掘り下げていきたいと思います。今回お話を伺ったのは、「日常に深呼吸を届ける」をミッションに、当時をコンセプトとしたライフスタイルブランドHAA(ハー)を立ち上げられた池田佳乃子さん。

1ヶ月の半分を東京で、もう半分を別府で過ごす池田さんが語る、湯治文化の成り立ちや別府温泉の魅力。湯治文化が今なお色濃く残る鉄輪(かんなわ)温泉について、などなど。そこに、実際に現地に行ったナビゲーターふたりも加わり、別府トークを繰り広げます。

「毎日が地獄です!!」ってなんだ?ぜひお楽しみください。

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高倉泰(たかくらたいら)

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引地海(ひきじかい)

Pomalo 株式会社 クリエイティブ・ディレクター。大学卒業後、広告代理店を経てフリーの編集者に。雑誌やWEBサイト、イベントの企画・制作・プロデュースを手がけ、2019年よりコンテンツ・エンジニアリング・カンパニー Pomalo(ポマーロ)に参加。11歳から17歳までをアメリカ・サンディエゴで過ごした帰国子女。2児のパパで、趣味はお弁当づくりとキャンプ。
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次回は4月7日(金)配信予定です。

お楽しみに。

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手仕事の愉しみを次世代につなぐ、スタジオジブリと日本の工芸の出会い

アニメーターという職人集団の手から生み出される、スタジオジブリの映画。その圧倒的なクオリティと、一作一作に全精力を込めて製作に臨むジブリの姿勢は、とても工芸的であると感じます。

その一方で、「ジブリ映画で何が好き?」

こんな質問が誰に対しても成立してしまうほどに広く知られ、愛されているジブリのアニメーション作品たち。

そんな「ジブリの世界」と、「日本の工芸」がコラボレーションすることになりました。

この取り組みを通じて「日本の工芸」をもっとオープンなものへと近づけていきたい。そして、人の手で作られるジブリ作品や工芸の魅力を次世代につなげていきたいと、私たちは考えています。

今回、商品開発を担当したスタジオジブリ 商品企画部の市川浩之さん、中川政七商店のデザイナー 榎本雄に、インタビューを実施しました。

※コラボレーション特設ページ

コラボレーションの経緯、どんな想いで商品を開発したのか、そして今後の展望まで。何度も密にやり取りをしながら商品を完成させた2人の話から、スタジオジブリと中川政七商店のものづくりに対する想いを感じていただければと思います。

ものづくりへの”熱意”が第一の判断基準

ーースタジオジブリのキャラクターグッズ開発について、どんな方針を持たれているのか教えて下さい。

【市川さん】「まず大前提として、ジブリとしてはグッズを沢山売って欲しいわけではないんです。ありがたいことに日々多くのご提案をいただきますが、『こんな販路を持っています』『年間これくらいの売上を見込んでいます』といった、“売ること”を先にアピールされてしまうと、そこが一番大切なわけではないと感じてしまいます。

少し抽象的ではありますが、ものづくりへのこだわり、情熱を伝えていただけると、こちらとしても直接お会いしてみようかとなりますね」

スタジオジブリ 商品企画部 部長 市川浩之さん

ーー中川政七商店から最初に提案を受けた時の印象はどうでしたか。

【市川さん】「最初に送付されてきた企画書を拝見して、本当にびっくりしました。

通常、最初にお送りいただくものって会社概要のパンフレットだったり、その会社が普段作っている既存品のサンプルだったりが多いんです。『このアイテムで、トトロを作りたい』というようなご提案ですね。

中川政七商店さんの場合はまったく違いました。

企画書の冒頭から、『千と千尋の神隠し』を宮﨑監督がどんな想いで作ったかという製作意図の一説が引用されていて、すごく記憶に残っています。さらに読み進めていくと、本当に1ページ1ページ、イラストなどを交えながらすべてジブリへの提案のために作りこまれた小冊子になっていました。

これは、すごく時間をかけて検討されたんだろうな、会わないわけにはいかないなと」

【榎本】「これまでの人生でジブリさんから受け取ったものも多くて、個人的に思い入れも強く、コラボレーションはぜひ実現したいと思っていました。そこでどういうご提案をしたら双方にとって良いのだろうというのを、ずっと1年間くらいは悩んでいましたね。ジブリさんとつながりがあったわけではないので、最初はどこに連絡したら良いのかもわらからない状態で企画を練り始めました(笑)。

社内メンバーと一緒に考えて考えて、形としても表した方が僕たちの熱意が伝わるだろうということで、小冊子に加えて今回実現した木彫り人形の試作もお送りしました」

中川政七商店 デザイナー 榎本雄

悲哀を背負ったアシタカを、武者人形にはできない

ーーそこから直接のご提案を経て、商品開発がスタートしたわけですが、最初はお互いのイメージや想いをすり合わせるのにとても苦労したと伺っています。

【榎本】「企画の骨子のイメージはあったのですが、最初は僕がジブリさんの合格ラインというか、基準を上手くつかめていませんでした。こちらの思いが空回りしていた感じですね。何度も市川さんとやりとりを重ねる中で、少しずつコラボレーションのあるべき姿が見えてきたという感覚です。

ジブリさんがどういうものづくりを目指しているのかを想像しながら、中川政七商店としても譲れない部分を形にしていきました」

【市川さん】「いろんなご提案をいただいた中で、ジブリとしてこれは難しいです、ということでご遠慮いただくものもたくさんありました。

たとえば、アシタカの武者人形を作りたいというご提案に対しては、それは絶対にアシタカにならない、という理由でお断りしています。

子どもたちに贈られる武者人形は、少し幼いというか、いわゆる子どもらしい表情をした人形です。一方でアシタカはどちらかと言えば悲哀に満ちた、さまざまなものを背負っているキャラクター。それを武者人形で表現するのは、ちょっと違うという判断になりました。

また、千尋とハクを中心に据えた雛飾りのご提案もありました。その他の神様たちも勢ぞろいして、確かに飾りとして見た目は華やかですが、果たしてそれが映画の世界観としてあり得るかというと、そうではない。千尋は神様ではないですし、一番偉い感じで雛飾りの真ん中に2人が座っているのは、やはりおかしいんです」

大切なのは高畑勲や宮﨑駿の世界観から外れないこと

【市川さん】「高畑勲や宮﨑駿 、宮崎吾朗といった原作者がどういった意図でその映画を作ったのか、そのキャラクターを描いたのか。その世界観から外れないことを大事にしなければなりません。

とはいえ、映画に出てくるままでは書き込みが細かすぎて商品化できないこともあります。たとえば、どの程度であれば線を省いてもよいのか、デフォルメをしてもよいのかなど、その都度悩みながら監修をしています。

そこがマニュアル化できない部分で、ジブリ内でも意図を読み違えてしまうこともありますし、その感覚を榎本さんとすり合わせるのに時間がかかりましたね」

【榎本】「すごく難しかったです。映画をもう一度見直したり絵コンテ集を読み込んだりしながら、宮﨑監督の意図をもう一度自分の中に取り込んでみて、そこからズレていないかというのをかなり意識してデザインしました。

工芸を作られている方々は手仕事を特徴とされている場合が多く、何を“好し”とするかの哲学は職人さんによってそれぞれです。今回の企画はそういう方々とあらためて出会っていくというコラボレーションでもあるので。

素材の風合いや個体差を消してしまうと工芸としての良さが薄れてしまいます。その味を活かしつつ、監督の意図を汲みつつ、職人さんにいい仕事をしていただく。市川さんに都度ご確認いただきながら進めたというところですね」

【市川さん】「僕の前任が、ジブリのキャラクターグッズを何十年も監修してきた大ベテランで、宮﨑監督や鈴木プロデューサーに何度も怒られながら、“ジブリの商品はこうあるべきだ”ということを作ってきた今井という人なんです。

ジブリの商品づくりの考え方は今井しか知らないといっても過言ではないというか。でもそこにマニュアルがあるわけでもないので、今井の日々の業務、メーカーさんとのやり取りを横で見ながら、自分の中でひとつずつ判断基準を蓄えてきたというイメージですね。

そうやって約8年間やってきて、最近は今井抜きで自分が監修している商品でも、良いものが出来たと実感することもあります。ただ、力不足を感じることも多々ありますし、いつまで経っても100%完璧だなんて思えるはずがないんです。

常に勉強しながら、常に悩み続けながら、この先もやっていくべきなのだろうと思います」

工芸の質感をまとったトトロの誕生

ーー最終的に、今回のコラボレーションの題材は「となりのトトロ」に絞られました。

【榎本】「その土地の風土に寄り添い、人の手でつくられた工芸の魅力を特に子ども達に向けて伝えたい。その想いがある中で、トトロは日本の里山の自然を舞台に、風土や暮らし方へのまなざしが描かれている。

僕たちの想いを伝えるのには、まずトトロだけのコレクションに絞るのが良いんじゃないかという風になりました」

ーー完成した商品を見て、率直な感想はいかがでしょうか。

【市川さん】「非常にいいものができたなという印象です。どのアイテムも、工芸のことをきちんと知ってらっしゃる皆さんだからこそのご提案だったんだろうなと感じましたね。

この注染のTシャツなんかも、裏表が無くてどちらでも着れるというものは初めて見たので、とても面白いなと思いました」

【榎本】「僕自身も、子ども達に工芸を伝えるという中で、日々の暮らしの中での背景になるようなものを届けたいと思っていました。

意識にはあまりのぼらないけれど、心のどこかにはしっかりと残っていく手触りみたいな。それこそトトロのような存在。宮﨑監督も、ジブリの映画は何度も繰り返し見るものではなくて、一度でもいいからその子の人生の大切な一時期に心に残るようなものでありたいと仰っていますよね。

大人になって、ふとそういうものがあったな。救われていたな。なんて思ってくれたら嬉しい。

僕らの中でそんな風に想い描いていたストーリーみたいなものがあって、今回、その願いを込めたものが揃えられて良かったなと。皆さんに届けられるのが楽しみです」

【市川さん】「そう、商品一つ一つにストーリーがあるのもすごく素敵ですよね。

和紙の紙箱なんかも、最初に手に取った瞬間、小学校の頃に使っていたお道具箱のような懐かしさがあって。それを、子ども達が自然の中で見つけた宝物を入れる、蒐集道具として使ってほしいというストーリーがある。

ただ売れるからではなく、こんな風に使ってもらいたいという想いで商品化されているところが素晴らしいと思います」

「八尾和紙の型染宝箱」

ーー商品化する上で特に大変だった商品などありますか?

【榎本】「いや、本当に全て大変でした(笑)。

市川さんと僕とでイメージを固めていっても、最終的に形にするのは個々の職人さんたちです。その段階で色がうまく出なかったり、形がうまくいかなかったり、難しかったですね」

【市川さん】「でも、井波彫刻の木彫りのトトロなんて、本当に良くできたなと思います。トトロのふかふかの毛並みとか、生き物らしいフォルムとか、木彫りでよく表現できたなと。

フィギュアとか造形物で商品化する時って、どうしてもある程度のデフォルメが必要になるんですが、あの木彫りのトトロはどちらかと言えば映画の中のトトロに近いものが出来上がっていると思います」

「井波彫刻 くすの木のトトロ」

【榎本】「富山県南砺市井波地区の伝統工芸品である井波彫刻。その伝統を受け継ぐ『トモル工房』の田中孝明さんが、僕らの思いとトトロの本質をこういう形で表現してくれました。

本来、トトロに近づけた表現を追及するとしたら、身体の面をグレーに塗るとかそういうことまで求められたと思うんです。でも、市川さんの方で、木目をそのまま活かして大丈夫という風に言っていただけた。

僕たちが伝えたい、工芸の素材感とか、自然に近い温かみを残してトトロを表現できたことが、すごく嬉しかったです。

小田原鋳物の鈴にしても、鋳物の型を砂でつくっていて、その砂の質感が独特の温かみにつながっています。そういった質感をキャラクターの表現として良しとしてもらえたことが、今回のコラボレーションで一番良かったところかなとも思っています」

「小田原鋳物のお守り鈴」

作り過ぎず、売り過ぎない。キャラクターを消費しない、長いスパンでのものづくり

ーー第二弾、第三弾と、どんな商品開発を考えているのでしょうか。

【市川さん】「やっぱり、『千と千尋の神隠し』など、日本が舞台の題材が良いのかなと思います。

中川政七商店の商品づくりの良さが活かせる作品を考えながら、今後も進めていきたいですね。

先ほどお話した注染Tシャツのように、自分たちの知らない工芸の手法を用いた商品がまだまだあると思っていて、そういったものに出会えるのはジブリとしても嬉しいですし、ご提案を楽しみにしています」

【榎本】「仰っていただいたように、一つひとつの商品に想いをきちんと載せた上で、いいものづくりをしていきたいなと思っています。

工芸の文化的な厚みは日本ならではのものです。昔の人が大切に育てて来たその背景があるからこそ、ジブリさんのアニメーションも生まれてきたと僕は解釈しています。中川政七商店の活動もまさにそうですね。今に引き継がれてきた工芸の根っこのようなものを、ポジティブなかたちで次の世代にも伝えていきたい。

全国各地にある工芸の種。そこに技術とアイデアを重ね合わせて、ジブリのキャラクターとともに広く伝わっていくようなものが、作っていけたらと思っています」

【市川さん】「今回、中川政七商店さんとはじっくり時間をかけて一緒にものづくりができました。

ジブリとしては、あまりグッズが売れてしまうのも良くないという考えがあるんです。ジブリパークの開業や、宮﨑駿監督の新作の話など、2022年は大きなトピックがあったので、グッズの売上もそれに比例して、たくさんの方にお買い求めいただきました。

そうなると、ジブリでは「こんなに売れてしまっていいのだろうか」という懸念が出てきます。実際にメーカーさんのところへ行って、「2023年はもう少し生産を絞っていただきたい」というお願いをしたりもしているんです。

キャラクターグッズが世に出回りすぎると「キャラクターの寿命を縮める」という考えがあって。やはりジブリでは、安くたくさん売るのではなく、長くちゃんと愛される、使ってもらえるものを大事にしていきたい。そんな風に考えています。

なので、御社との取り組みも、あまり発売日の予定なんかを厳密に立てずに、お互いが納得のいく商品をつくって届けていく。そういうやり方ができれば一番嬉しいなと思っています」

< プロフィール>
市川浩之:スタジオジブリ 商品企画部 部長

『ミュージシャンを志す傍ら、縁あって三鷹の森ジブリ美術館のアルバイトスタッフに応募。約2年間のアルバイト勤務ののち、正社員に。2009年、プロデューサー室に異動となり、鈴木敏夫プロデューサーのもと、「借りぐらしのアリエッティ」「コクリコ坂から」の宣伝活動に従事。さまざまな映画製作の現場を間近で見たことで、ジブリでの仕事を続ける決意を固める。その後、ジブリ美術館のフロア責任者を経て、2015年から商品企画部に在籍。前任の部長 今井知己の下でキャラクターグッズ開発の仕事を学ぶ。』

榎本雄:中川政七商店 デザイナー

『20代に高畑勲氏、宮﨑駿氏、鈴木敏夫氏の書籍を読みスタジオジブリのものづくりの姿勢に衝撃を受ける。その後、ものづくりの道に。2006年、東京を拠点とするデザインオフィスに入社。文具、バッグ、アパレルなどデザインの経験を積む。2014年中川政七商店入社。日本各地の工芸のつくり手と様々なものづくりを行っている。』

文:白石雄太
写真:中村ナリコ