「うつわのような」信楽焼の平土鍋【スタッフが使ってみました】

信楽焼の平土鍋は、「うつわのような土鍋」というコンセプトが示す通り、鍋ものだけでなく、茹でる、煮る、蒸す、炒める…など幅広い料理に使えて、うつわのように食卓にも馴染む形です。
デザイナーから話を聞いて、実際に使ってみたい気持ちがむくむく。ひと足先に、サンプルを使用してみました。

土鍋は鍋ものとごはん炊きにしか使わない私と、普段からほとんどの料理を土鍋で作るというスタッフが、それぞれ使ってみた感想をお届けします。

料理道具としての使い心地のよさに驚き!土鍋調理初心者・上田の感想

持ち帰った当初、そうは言っても土鍋だし、おかず作るかな?と半信半疑に思っていました。ですが、実際に使ってみると料理道具としての使い心地が想像以上によかったのです。

使い心地がいいと感じたのは主に2点で、「①食材がかきまぜやすい」「②平たく適度に浅い形状で、食材がよく見える」というポイントでした。
土鍋に限らず大体の鍋は垂直に立ちあがっていると思うのですが、信楽焼の平土鍋は、口に向かって徐々に広がっているので、へらでかき混ぜやすいんです。しかも、鍋底が広く浅めの形状なので、食材が重ならずによく見える。それが料理していて、思った以上に快適でした。

何より、よくある煮物を出しても、いつもより素敵な料理に見える。煮物を作る時には毎回使いたくなるな、という使い心地のよさでした。

専用鍋の代替えとしても使える万能さ

次に、すき焼き肉をいただいたので、すき焼きをしてみました。わが家には、すき焼きの専用鍋がないので、このタイミングで信楽焼の平土鍋があって助かりました。

炒めることができるので、肉の焼き付けもできて、この鍋ひとつで、滞りなく美味しいすき焼きができあがります。
ふつうの鍋でも作れるとは思いますが、すき焼きはやっぱり豪華な料理というイメージも大切にいただきたいもの。信楽焼の平土鍋があれば、専用鍋がなくとも、見た目を損なわずにおいしいすき焼きが食べられます。

次に、ちらし寿司を作ってみました。
わが家には、寿司桶もないのです。専用の道具を使う豊かさに憧れはあるため、いつかはほしいと思いつつ、今はないのが実情。実家ではちょこちょこ出てきたちらし寿司をふと食べたくなるタイミングにも、この土鍋は活躍します。
専用の道具へのあこがれはあるものの、保存場所を考えると購入をためらってしまう。そういう専用の道具の代替えとしても、信楽焼の平土鍋は優秀だと感じました。

お鍋をする際、食材が把握しやすく、取りやすい形状

オーソドックスに鍋料理に使う際にも、食卓での使い心地が抜群によかったです。
形状もさることながら、黄瀬戸は色もあいまって、中身がよく見えます。写真のものはどこを取っても同じ食材ですが、寄せ鍋などは自分が取りたい食材がどこにあるかが把握しやすく、箸をうろうろさせる必要もありません。

大皿としても活用できるので、季節を問わず使える

使っていたのが夏場だったのですが、そうめんを乗せて出すざるがジャストフィットして、いい受け皿にもなりました。形状的に、ただの大皿としても使えるので、人を招く際に、大皿料理を盛るお皿としても活用できると思います。土鍋というと秋冬の調理道具というイメージですが、春夏にもなんだかんだ使えそう。とくに黄瀬戸は色がさわやかで年中使いやすいと感じました。

このサンプル返さないといけないんだ、辛いな…と感じるほど、わが家の台所と食卓になじんだ、信楽焼の平土鍋。鍋はもちろんこれで食べたいし、おかずにも色々と使ってみたい。人を招く時にもぜったいに助けてくれる。料理の腕に自信がないからこそ、この土鍋はとても頼りになりました。私もいち使い手として、発売が待ち遠しい商品です。

普段からほとんどの料理を土鍋で作る、スタッフ・前田の感想

土鍋の専門店で6年ほど働いたことのあるスタッフにも使ってみてもらいました。自宅に12個の土鍋を持ち、普段からほとんどの料理を土鍋で作るというスタッフの前田。どんなところが他の土鍋と違うのか、聞いてみました。

かき混ぜやすく、噴きこぼれない使い心地のよさ

まずは、ムール貝のトマトリゾットを作ってみました。

生米を炒めるところから完成までこの鍋一つで調理できます。密閉性が高くないのでお米の調理には蓋にふきんを巻くなどのコツが必要と聞いていましたが、リゾットを作る分にはそういった注意は不要で、水と共にやわらかくなってくれました。

平らな形状なので、炒める時にヘラを回しやすく、調理の様子が見えやすかったです。一般的な土鍋は内側にすぼまっているので、それは全然違いますよね。

あとは、意外と噴きこぼれがないことにも驚きました。開いた形状の土鍋は噴きこぼれやすいものが多いと思いますが、この土鍋は装飾のスジを目安に調理すると全然噴きこぼれなかったですね。

煮込み料理におすすめ。芯まで熱が入る土鍋ならではの機能性

次に、豚肉とかぶのはちみつ醤油煮を作ってみました。
豚肉などの煮込みは、やっぱり土鍋が得意で、ふっくらと仕上がります。土鍋は一般的に、遠赤外線効果によって、芯まで熱が入ってふっくら仕上がると言われていますが、この土鍋もそのよさがきちんと生かされています。圧力鍋よりは少し時間をかけた方がいいと思いますが、短時間で美味しくできあがります。

最後に、えびしんじょうと冬瓜の味噌鍋を作りました。
身体も心も温まる、胃に優しい献立で、煮込み料理が得意な土鍋の良いところを最大限に引き出した、ここ数年私が一番はまっているお鍋料理です。

土鍋は蓄熱率が高いので、体を温めてくれます。他のおかずを作らなくても、これ一つで満足できる。土鍋は見た目の温かみもあいまって、心も満足します。肉に限らず煮込み料理は土鍋で作るのが1番だと思います。

この土鍋は、食卓に出した時に豪華に見えやすいし、場を演出できるので、友人を招く際にもとてもいいと感じました。形状的に、蒸しパンとかフルーツのコンポートとか、スイーツ系の調理にもよさそうですね。
皆さんも、色々と使って楽しんでみてください。

<関連する特集>

<掲載商品>
信楽焼の平土鍋 中
信楽焼の平土鍋 大

<関連記事>
お鍋を囲む場を引き立てる、「うつわのような」土鍋【デザイナーに聞きました】
料理研究家のツレヅレハナコさんによる「信楽焼の平土鍋」を使ったレシピ

文:上田恵理子

【あの人が買ったメイドインニッポン】#53 ラジオナビゲーターの板井麻衣子さんが“旅先で出会ったもの”

こんにちは。
中川政七商店ラヂオの時間です。

今回からゲストは、ラジオナビゲーターの板井麻衣子さん。初回は「旅先で出会ったメイドインニッポン」についてのお話です。

それでは早速、聴いてみましょう。

ラヂオは6つのプラットフォームで配信しています。
お好きなプラットフォームからお楽しみください。

Spotify
Apple Podcast
Amazon Music
Voicy
Castbox
YouTube

板井麻衣子さんが旅先で出会ったメイドインニッポン

板井麻衣子さんが“旅先で出会った”メイドインニッポンは、「佐賀県武雄市の貞土窯の器たち」でした。


ゲストプロフィール

板井麻衣子

1984年生まれ。大分県臼杵市出身。上智大学外国語学部ポルトガル語学科卒業。
2010年度「ミス・ユニバース・ジャパン」にてグランプリを受賞。日本代表として同年8月、ラスベガスにて開催された世界大会に出場。
その後、ラジオのナビゲーターとして活躍の場を広げ、現在ではJFN「Salvage Music」 、J-WAVE「DIALOGUE RADIO 〜in the Dark〜」の番組を担当。
2018年には大分県臼杵市より「うすき応援大使」に任命され、モデル、MC、レポーター等多岐にわたって活躍中。


MCプロフィール

高倉泰

中川政七商店 ディレクター。
日本各地のつくり手との商品開発・販売・プロモーションに携わる。産地支援事業 合同展示会 大日本市を担当。
古いモノや世界の民芸品が好きで、奈良町で築150年の古民家を改築し、 妻と二人の子どもと暮らす。
山形県出身。日本酒ナビゲーター認定。風呂好き。ほとけ部主催。
最近買ってよかったものは「沖縄の抱瓶」。


番組へのご感想をお寄せください

番組をご視聴いただきありがとうございました。
番組のご感想やゲストに出演してほしい方、皆さまの暮らしの中のこだわりや想いなど、ご自由にご感想をお寄せください。
皆さまからのお便りをお待ちしております。

次回予告

次回も引き続き、ラジオナビゲーターの板井麻衣子さんにお話を聞いていきます。9/27(金)にお会いしましょう。お楽しみに。

中川政七商店ラヂオのエピソード一覧はこちら

【あの人が買ったメイドインニッポン】#52 文筆家の一田憲子さんが“一生手放したくないもの”

こんにちは。
中川政七商店ラヂオの時間です。

ゲストは引き続き、文筆家の一田憲子さん。今回は「一生手放したくないメイドインニッポン」についてのお話です。

それでは早速、聴いてみましょう。

ラヂオは6つのプラットフォームで配信しています。
お好きなプラットフォームからお楽しみください。

Spotify
Apple Podcast
Amazon Music
Voicy
Castbox
YouTube

一田憲子さんが一生手放したくないメイドインニッポン

一田憲子さんが“一生手放したくない”メイドインニッポンは、「有次のやっとこ鍋」でした。


ゲストプロフィール

一田憲子

OLを経て編集プロダクションに転職後フリーライターとして女性誌、単行本の執筆などを手がける。
2006年、企画から編集、執筆までを手がける「暮らしのおへそ」を、2011年「大人になったら着たい服」を(共に主婦と生活社)立ち上げる。
そのほか、「天然生活」「暮らしのまんなか」などで執筆。 全国を飛び回り取材を行っている。
「父のコートと、母の杖」(主婦と生活社)を11月上旬に発売予定。
Webサイト「外の音、内の香」を主宰。


MCプロフィール

高倉泰

中川政七商店 ディレクター。
日本各地のつくり手との商品開発・販売・プロモーションに携わる。産地支援事業 合同展示会 大日本市を担当。
古いモノや世界の民芸品が好きで、奈良町で築150年の古民家を改築し、 妻と二人の子どもと暮らす。
山形県出身。日本酒ナビゲーター認定。風呂好き。ほとけ部主催。
最近買ってよかったものは「沖縄の抱瓶」。


番組へのご感想をお寄せください

番組をご視聴いただきありがとうございました。
番組のご感想やゲストに出演してほしい方、皆さまの暮らしの中のこだわりや想いなど、ご自由にご感想をお寄せください。
皆さまからのお便りをお待ちしております。

次回予告

次回は、モデルの板井麻衣子さんにお話を聞いていきます。9/20(金)にお会いしましょう。お楽しみに。

中川政七商店ラヂオのエピソード一覧はこちら

お鍋を囲む場を引き立てる、「うつわのような」土鍋【デザイナーに聞きました】

中川政七商店の社内で、デザイナーから販売部へ向けて、商品をプレゼンテーションする商品説明会。この秋発売する、とある商品のプレゼンテーションが終わった瞬間、自然と拍手が沸き起こりました。
それが、これから紹介する「信楽焼の平土鍋」。私自身、話に聴き入りながら、こんな使いかたもあるかも?と、いち使い手としてワクワクするような商品でした。10月9日の発売を今か今かと待っています。

デザイナーの青野さんの言葉を借りながら、お鍋を囲む場をより引き立てる「信楽焼の平土鍋」をご紹介します。

コンセプトは、「うつわのような」土鍋

「土鍋の開発を任されて、まずは自宅にある土鍋を使ってみたんです。そしたら改めて、食卓に土鍋がある風景ってすごくいいよなと感じて。おいしそうに見えるのもそうですけど、食卓を囲む全員が能動的に場に参加して、連帯感のようなものが生まれると思ったんです。

大皿で料理を出す風景にも近いと思うのですが、土鍋は調理道具なので台所から食卓へそのまま繋がって、みんなが料理に参加しているというか。その場で火を囲みながら食べる料理ならではの豊かさがあるなぁと感じました」

「信楽焼の平土鍋」を企画したデザイナーの青野さん

「でも土鍋が食卓に出てくる頻度って、基本的には鍋をする時くらいじゃないですか。それってもったいないよなと感じて、もっといろんな料理に使いやすい土鍋があったらいいんじゃないかと思いました。大皿を兼ねる調理道具のようなあり方が面白いんじゃないかと思って、『うつわのような』というコンセプトに辿り着いたんです」

「うつわのような土鍋」をかなえる形

そうして作られた土鍋は、茹でる、煮る、蒸す、炒めるといったさまざまな料理に使えるのはもちろん、単におかず作りに使える機能性だけではない工夫があると言います。

「うつわのようなというコンセプトを叶えるにあたって、一般的な土鍋と最も違うところは形です。
よくある土鍋は底面から内側にすぼまっていくように立ち上がって、蓋を乗せる台があって、そこからさらに垂直に立ちあがっているものが多いと思います。でも今回は、もう少しうつわの形に近づけることを目指しました」

「うつわと違って土鍋には蓋が必要ですが、蓋を乗せるための台や縁の立ち上がりを無くすと、食卓に出した時にもっと料理をおいしく見せられると思ったんです。
そこで、縁を緩やかに広げてうつわのリムのような形に変えることで、蓋を安定して受け止めながら食卓の道具に近づけました。縁に向かって広がっているので、中の料理が見えやすくなって、より食卓で生きる形になったと思います。
リムがあることで、中身を額縁で縁取るような効果も生まれました」

うつわらしさの追求は、色や土味にも表現

「色は、飴と黄瀬戸の2色展開です。飴は土鍋でもよくある色ですが、黄瀬戸は土鍋としては珍しいと思います。白はよくあるんですけど、黄瀬戸は少し黄みがかっているんです。
この色は、『うつわのような』というコンセプトだからこそ作った色で、古道具でもよく見かける瀬戸の石皿から着想を得ています。昔からうつわによく使われてきた釉薬なので、日本の食卓で料理がよく映える色だと思います。内側に施したスジを入れる装飾も日本の古いうつわから引用したもので、シンプルながら土と釉薬の風合いを引き立てることができました」

骨董の「瀬戸の石皿」。使うごとに育つうつわ

「土の表情も大事にしながら産地を選びました。土鍋の代表的な産地は他にもあるのですが、うつわらしい表情を実現する上で、伊賀・信楽エリアの素朴な風合いの土を使いたかったので、今回は信楽焼の窯元さんと一緒に作っています」

手前が最終の商品で、後ろがファーストサンプル。あえて荒い削り方にすることで、土味を生かしている

「成形した後に表面を削ることによって、土の荒々しい表情を出しています。あえて荒く深く削ることで、土本来の生命力を感じる表情が出るようにしています。そういった表情が、自然素材によるゆらぎを愉しむ日本のうつわへの感覚に通じるんじゃないかと思ったんです」

試作の一部

「一方で、土鍋がある風景をいいと思ったのが根底にあったので、土鍋からかけ離れた印象にはならないように、ちょうどいい塩梅を目指して調整していきました。
今回一緒にものづくりをしていただいた、株式会社松庄さんがとても協力的で。土鍋としてはかなり変わった形状だったので、試作を何度も繰り返してくださったんです。こちらがもう大丈夫ですって言うくらいまで。笑 本当に二人三脚で、歩みを進めていきました」

ひたすらサンプルを使い込む日々

そうしてできあがったファーストサンプル。日常の道具として使いやすいのか、さまざまな料理に使ってみたそうです。

青野家で実際に使っている様子※仕様変更となったファーストサンプルでの写真もまざっています

「ファーストサンプルができてからは、めちゃめちゃ使いましたね。できあがってすぐの頃は、それこそ毎日使っていました。肉じゃがやシチュー、手羽元の煮込みなどの料理を作って、そのまま食卓に出しています。いつも作るような簡単な料理でも、土鍋で出すだけでごちそうに見えるので、今も週1くらいの頻度で食卓に登場しています」

「使う中で出てきた課題もあったので、途中で一度形状を修正しています。元々はもう少し底がすぼまっていたんですけど、それだと火を受け止める面積が小さくなってしまって、熱が逃げやすかったんです。沸騰するのに時間がかかってしまうと日常で使いづらくなってしまうので、底を広げて熱を受け止めやすい形に修正しました」

全員がその場に参加する、土鍋を囲む食卓の豊かさ

「サンプルは、社内のスタッフにも使ってもらっています。いろいろと感想をもらった中でもとくに嬉しかったのが、お子さんがいるスタッフに使ってもらった時のエピソードでした。
ふだんお鍋をする時は、お子さんの分をよそってあげてたみたいなんですけど、今回の土鍋は中身が見えやすいから、お子さんが自分でよそってくれたと言っていて。それは、企画する時に僕が感じた、土鍋を囲む豊かな風景そのものだなと思いました。

小さな子どもや料理が苦手な人も誰でも調理に参加できて、連帯感が生まれていく。そういう豊かさこそが、 お鍋を囲むことの魅力だと思うので。お鍋を囲む場をよりよく引き立てるものができたのかな、と感じて嬉しかったです」

「土鍋って、人と人のつながりを自然と生み出してくれる装置のような役割を果たすと思うんです。信楽焼の平土鍋が、温かい食卓の風景を紡ぐ一助となれば、こんなに嬉しいことはありません」

<掲載商品>
信楽焼の平土鍋(10/9発売)

<関連する特集>

<掲載商品>
信楽焼の平土鍋 中
信楽焼の平土鍋 大

<関連記事>
「うつわのような」信楽焼の平土鍋【スタッフが使ってみました】
料理研究家のツレヅレハナコさんによる「信楽焼の平土鍋」を使ったレシピ


文:上田恵理子

【あの人が買ったメイドインニッポン】#51 文筆家の一田憲子さんが“旅先で出会ったもの”

こんにちは。
中川政七商店ラヂオの時間です。

ゲストは引き続き、文筆家の一田憲子さん。今回は「旅先で出会ったメイドインニッポン」についてのお話です。

それでは早速、聴いてみましょう。

ラヂオは6つのプラットフォームで配信しています。
お好きなプラットフォームからお楽しみください。

Spotify
Apple Podcast
Amazon Music
Voicy
Castbox
YouTube

一田憲子さんが最近買ったメイドインニッポン

一田憲子さんが“最近買った”メイドインニッポンは、「小林東洋さん作のポット」でした。


ゲストプロフィール

一田憲子

OLを経て編集プロダクションに転職後フリーライターとして女性誌、単行本の執筆などを手がける。
2006年、企画から編集、執筆までを手がける「暮らしのおへそ」を、2011年「大人になったら着たい服」を(共に主婦と生活社)立ち上げる。
そのほか、「天然生活」「暮らしのまんなか」などで執筆。 全国を飛び回り取材を行っている。
「父のコートと、母の杖」(主婦と生活社)を11月上旬に発売予定。
Webサイト「外の音、内の香」を主宰。


MCプロフィール

高倉泰

中川政七商店 ディレクター。
日本各地のつくり手との商品開発・販売・プロモーションに携わる。産地支援事業 合同展示会 大日本市を担当。
古いモノや世界の民芸品が好きで、奈良町で築150年の古民家を改築し、 妻と二人の子どもと暮らす。
山形県出身。日本酒ナビゲーター認定。風呂好き。ほとけ部主催。
最近買ってよかったものは「沖縄の抱瓶」。


番組へのご感想をお寄せください

番組をご視聴いただきありがとうございました。
番組のご感想やゲストに出演してほしい方、皆さまの暮らしの中のこだわりや想いなど、ご自由にご感想をお寄せください。
皆さまからのお便りをお待ちしております。

次回予告

次回も引き続き、文筆家の一田憲子さんにお話を聞いていきます。9/13(金)にお会いしましょう。お楽しみに。

中川政七商店ラヂオのエピソード一覧はこちら

【デザイナーに聞きました】「くらしの工藝布 アイヌ刺繡」制作記録

アートを飾るように家に布を飾る、新たなインテリアを発売します。「くらしの工藝布」シリーズから、今年は「アイヌ刺繡」をテーマにものづくりを行いました。

できあがったものは、「アイヌ刺繍」には珍しい白を基調とした配色。3年の歳月をかけ、8名のアイヌ工芸作家の方々と共にものづくりをしました。

どんな背景でこのアウトプットになったのか、デザイナーの河田めぐみさんに話を聞いてみました。

河田めぐみ

中川政七商店デザイナー。
「くらしの工藝布」の専任デザイナーとして、工芸の技をテーマにした布づくりに取り組んでいる。

ーーアイヌ刺繍をテーマに開発したきっかけは何だったのでしょうか?

最初のきっかけはご紹介です。お付き合いのあるバイヤーさんが、阿寒湖アイヌのものづくり事業にアドバイザーとして参加されていた関係で、中川政七商店で商品開発ができないか、というお話をいただきました。アイヌ工芸のものづくり事業に参加されていた下倉絵美さんが、伝統的な手仕事以外にも、アイヌ文様のテキスタイルデザインにチャレンジしたいというお話があって、それがきっかけで中川政七商店にお話をいただいたみたいです。それが2021年の10月です。

ちょうどその頃、「くらしの工藝布」では、「技」をテーマに開発することを決めて、多様な工芸をテーマに作りたいと考えていた頃だったので、アイヌテキスタイルのものづくりのお話をいただいた時は、ぜひお願いします! という感じでした。

それで2021年の12月頃に、下倉さんをはじめ何人かの作家さんにお会いするために阿寒湖のアイヌコタンに伺いました。ここで伝統的な手刺繍や工芸品を拝見し、また、コミュニティの中で、若い作り手に刺繍の手ほどきをしながら、技術をつないでいく活動をされていることなども知りました。

刺繍を行う作家さんが、歌や踊りなど一人何役も担う。今回一緒にものづくりした作家の平久美子さん。

もともといただいたお話は機械刺繍のみでのテキスタイルデザインでしたが、阿寒での体験やアイヌ工芸の歴史や技を学ぶ中で、伝統的な手仕事の技を原点にして、手刺繍も合わせながら新たな機械刺繍の表現の可能性を探っていくような流れにしたいと思ったんです。
そこで、改めて阿寒の作家さんに手刺繍もしていただけないかと思い、2022年の3月頃に再度阿寒湖に訪問しました。ただ、その時にご紹介いただいた作家さんには良いお返事がもらえなかったんです。アイヌコタンに行って知ったのですが、皆さんいろんなことをされているんですよね。工芸作家としての側面だけじゃなくて、踊りや歌で舞台に立ったり、お店を運営されていたり、一人何役も担っているのでお忙しくされていて。だから、その時の訪問では決まらなかったのですが、阿寒アイヌコンサルンの方に引き続き声を掛けていただいて、改めて今回ご依頼した作家さんとのものづくりが実現しました。

ーーどのようなやり取りで今回の素材や文様が決まっていったのでしょうか?

アイヌ工芸や歴史に関する知識がほとんどなかったので、2回目の訪問にあわせて、網走の北海道立北方民族博物館や白老の国立アイヌ民族博物館に行きました。ほかにも、図書館でアイヌ工芸に関する資料を読んだり、漫画、アニメ、インターネットなどさまざまなツールで情報収集しています。そこで多様な衣文化の歴史や、さまざまな刺繍技法があることも知りました。その上で、先人たちが残してきた技や世界観を継承しながらも、今の暮らしの中でこそ生まれる自由な表現を大切にしたいと思ったんです。
そこでまず、素材、色含め全体的な世界観のイメージについて、作家さん一人ひとりにお会いしてお伝えしました。生地と糸の相性を確認するための試作から始まり、素材が確定した段階で、典型的な文様以外については、デザインから新たに作っていただいています。

ーー表現として、なぜ白が基調になったのでしょうか?

実は北海道に行ったのも初めてだったんです。中でも阿寒湖周辺では、冬は-20℃ を下回るような寒さになるんですね。最初の訪問は12月だったので雪がかなり積もっていました。次に訪れたのは3月でしたが、阿寒湖はもちろん、道中もまだ雪景色だったんですね。初めての北海道は、朝晩本当に突き抜けるような寒さだったのですが、同時に、空気がとても澄んでいると感じて。アイヌコタンの目と鼻の先には阿寒湖があるのですが、湖も雪が積もって真っ白で、遠くに見える山も、何もかもが雪に覆われていました。空気が澄んでいるから空が本当にきれいで、そこに真っ白な雪があるという対比だったり、自然そのものにある爽やかな色の印象がとても強く残っています。

生地の上に文様の形に切り抜いた生地を乗せて伏せ縫いする、切伏技法を用いて作られたタペストリー

アイヌ刺繍の技法の中に、生地の上に文様の形に切り抜いた生地を乗せて伏せ縫いをし、その上から刺繍をするとても手の込んだ表現があります。それを見た時、アイヌの人々の深い想いや、時間の層が積み重なっていくような表現だと感じました。その表現が、阿寒で見た雪の層と重なって見えて、そんな奥行きのある表現を大切にしながら、白を基調に表現してみたいと思ったんです。

アイヌ民族の衣服に施されている色の表現は、コントラストが強く、色鮮やかなものがひとつのスタイルとしてあると思います。ですので、白を基調にした淡い色の重なりで表現したいというお話をした時に、最初から賛同してくれる方もいれば、そうでない方もいました。
ですが、 阿寒の自然を感じながら、自然に委ね、自然とともに暮らす阿寒の人々に接し、この雄大な自然に漂う空気感を色に重ねて、それを阿寒に暮らす作家さんと一緒に作り上げたいと思ったんです。

ーー手刺繍の全ての作品に当社のルーツである手織り麻が使われていますが、どういう意図がありますか?

アイヌ衣装の素材のなかでテタラぺという、イラクサと呼ばれる植物を繊維にした織物があります。アイヌ語で「白いもの」という意味があり、同じ靭皮繊維のアットゥㇱと比べ、白さが際立っているのが特徴です。

中川政七商店のルーツである奈良晒の素材、苧麻も同じイラクサ科の植物で、見た目にも素材感にも共通性があることから、この素材を使用したいと思いました。当社が、麻生地を白くする技術に優れた奈良晒の商いから始まったこともあり、手織りの麻の白を基調にしたいと思ったんです。

ーー作る中で、アイヌ刺繍のものづくりは、どんなところに特徴があると感じましたか?

まず圧倒的に個性的だということです。

今回、最小限の色で多くの作家さんにそれぞれ作品を制作いただきましたが、どれもアイヌ文様であることが分かります。決して伝統に則った表現ではなくても、分かるのではないでしょうか。

それぞれの作家さんに、「文様には、ルールのようなものがあるのでしょうか?」と伺ったことがありました。しかし皆さんからは、「特にこれといったルールがあるわけではなく、むしろ自由だ」というようなお答えをいただきました。それを聞いて感じたのは、きっと長い歴史の中で培った強度のある表現だからこそ、大胆にアレンジすることもできるのではないかということです。昔の人が、さまざまな技を取り入れながら自由な発想で表現した形は、これからもその強度を保ちながら、大胆に自由に変化していくのかもしれません。

今回、アイヌ刺繍をテーマに開発するにあたって、遥か古まで歴史を遡り、現在に至るまで、さまざまなことを学びました。初めて阿寒に訪れた3年前から今までの間、長い歴史の旅をしてきたような気持ちです。

色んなことを知り、そして今まで何も知らなかったことに気付きました。これまで考えもしなかったことを考えるようにもなって。そして、何を、どんな風に作り伝えるべきか悩みました。そんな時、アイヌの作家の皆さんが、とても朗らかにものづくりに向き合う姿に接し、私は、この澄んだ表現の美しさをただただ届けたい、それに尽きるという思いに至りました。

今回手がけた布の多くが、部屋に飾るものです。阿寒湖の自然の空気をそのまま切り取ったような表現をするために、雪、空、木々、この3 つの印象を色に重ねました。
飾り、眺め、その世界観を想像し、心が動くような瞬間があったら嬉しいです。

<関連特集>

 
文:上田恵理子
写真:田ノ岡宏明