デジタルとアナログで“今”に向き合う。和紙の表現を広げ続ける・和紙工房「りくう」

私たちの暮らしを支えてきた、日本各地の様々なものづくり。

それらがさらに百年先も続いていくために、何を活かし、何を変化させていくべきなのか。その可能性を探るため、ものづくりの軸にある「素材や技術」に改めて着目し、中川政七商店がスタートさせた試みが「すすむ つなぐ ものづくり展」です。

今回のテーマは「和紙」のものづくり。

古くから、文字を書き記すための道具にとどまらず、茶道の懐紙、障子や襖紙、提灯、紙幣、祭事の道具など、暮らしのあらゆる場面に使用されてきた和紙。

今や時代はうつろい、洋紙の登場やライフスタイルの変化を受けて、暮らしの中で和紙を見かける機会は少なくなってしまいました。

そんな中でも、和紙が持つ素材の魅力、職人の技術には、今の日本の暮らしを豊かにする可能性がある。そう信じて和紙と向き合い、各産地で挑戦を続ける作り手たちがいます。

和紙のイメージをぐっと広げるもの。和紙本来の魅力を再認識できるもの。 今まさに新たな挑戦が”すすむ”ものづくりの現場を取材し、百年先へ和紙を”つなぐ”ためのヒントを伺いました。

和紙の儚さ・柔らかさ・繊細さ・温かみを現代の表現に変換する

愛媛県西部に位置する山あいの町、西予市宇和町明間(あかんま)地区。名水百選にも選ばれた「観音水」が湧くこの地域で、新たな和紙作りに取り組んでいるのが、和紙デザイナーの佐藤友佳理さんです。

観音水

高校卒業後、一度故郷を離れてロンドンでモデルとして活躍。東京でデザインを学んだ後に愛媛に戻り、自身の祖父母が暮らしていたという家に「和紙工房りくう」を開きました。

和紙工房りくう

「和紙という素材を用いたものづくりに向き合い、約15年が経ちました。その間、私が常に考えていたのは、どうすれば今の時代の人たちに好んでもらえるものが作れるか、ということです」

和紙を“残すこと”自体を目的にするのではなく、まず第一に、きちんと時代に求められるものづくりであること。そう考えて、日々ものづくりに取り組んできたといいます。

和紙デザイナー 佐藤友佳理さん

「現代の住環境の中で、和紙というものは段々見られなくなっています。でも、その素材の魅力である儚さ・柔らかさ・繊細さ・温かみといったものは、時代を問わず、私たちの精神に寄り添ってくれるものだと思うんです。

その素材の魅力を、いかに現代的な表現へと変換し、磨き上げられるか。

そこで自分には何ができるだろうと考えて、新しい素材や、デジタルファブリケーション*など新技術を加える形で日々研鑽しています」

*デジタルファブリケーション:デジタルデータをもとに、なにかしらの創造物を制作する技術のこと
和紙の原料である楮(こうぞ)

現代の暮らしに求められる和紙づくり

その言葉の通り、「りくう」では、ゼオライトという鉱石を用いた「呼吸する和紙」や、3Dプリンターを活用した「立体手漉き和紙」など、これまでにない形状や表現で、現代の暮らしに求められる和紙の可能性を追求してきました。

(c)ITOMACHI HOTEL 0   photo by Yoshiro Masuda
(c)ITOMACHI HOTEL 0   photo by 山山写真館
愛媛県鬼北町の泉貨紙(せんかし)保存会の協力の元、デジタルファブリケーションを駆使し、立体的な和紙の表現の幅がぐっと広がった

「手仕事の世界では量を追い求めることが難しいので、価格の折り合いがつかないケースも多くあります。その結果、生業として立ち行かなくなったり、後継者不足の問題が起きてしまったり。

『りくう』が目指したのは、小〜中量生産で、見たことのない新規性があるものや、心の癒しに作用するような品質の高いものをご提供するということでした。

少々高価でも、皆さんに納得して頂けるような価値のあるプロダクトを作ることを心がけ、そこに共感してくださる方の元へ届ける。それが、『工芸』が生き残る一つの道だと思っているからです」

耐熱ボトルで楮を約2週間漬けこむことで、ゼオライト鉱物が楮繊維に付く
ゼオライト鉱物が付いた状態の楮を観音水に溶かし、和紙を漉くことで、「呼吸する和紙(ゼオライト和紙)」に。湿度調整や消臭機能、独特の透明感などの付加価値を和紙にもたらしている

3Dプリンティングで広がる和紙の表現

そんな中、主に3Dプリンティングの技術を用いて「りくう」のものづくりを支えているのが、佐藤さんのパートナーでもある寺田天志さん。

寺田さんは東京都文京区にある都立工芸高校で、アナログとデジタル双方を行き来するものづくりを学び、一旦は3Dモデラーとして企業に就職し、車の3Dモデリングを担当。次第に、その技術を活かして自分の手でものづくりがしてみたいと考えるようになり、その手段として当時登場したばかりの3Dプリンターに着目しました。

その後、徳島県神山町に移住。3Dプリンターを用いて、国の重要無形民俗文化財にも指定されている「阿波人形浄瑠璃」のプロジェクトに携わるようになります。

寺田天志さん

「最初に 浄瑠璃人形を見たときに、カシラの形状が車の形状と似ていて、車のモデリング技術を活用すれば『3Dプリンターで作れそうだな』と思ったんです。それで実際に作ってみて、職人さんに見せに行ってみると、『精巧にできている』と評価してもらえて。

その職人さんが凄くオープンマインドな方で、僕がプリンターで作った人形にナイフを入れて修正してくれたりして。気付いたらその人の弟子のような感じになっていました。

実際の人形師の方に受け入れてもらえて、凄く励みになりましたね」

3Dプリンターの強みは、複製ができること。寺田さんが作った浄瑠璃人形は、地域の学校の授業などにも活用されているそう。

「本物の人形は文化財で触ることができないので、3Dプリンターで精巧に作ったものを近くで見て、触ってもらい、伝統文化について知るきっかけにしてもらっています」

人形師とほぼ同様の組み立て体験ができるキットの制作に携わる

「最近では、漫画ONE PIECEが原作の新作人形浄瑠璃*でも人形を制作しました。次世代に人形浄瑠璃を継承するための、現代にフィットした浄瑠璃舞台。そこに3Dプリント技術を活用して人形を供給する現代的なメソッドが確立できたのは、人形制作の保険的な形として意義のあることだったかなと思っています」

*熊本の清和文楽館で2024年3月末~上演中(2024年7月現在)。熊本県の重要無形文化財である「清和文楽」(人形浄瑠璃)の魅力を、新しい世代や海外の方などにも知ってもらい、後継者育成等につなげるための取り組み

人形作りを通じて3Dプリンターの扱いや素材の理解を深めていった寺田さん。同時に伝統工芸の面白さにも惹かれていきました。

ちょうどその頃、「立体に和紙を漉きたくて、3Dプリンターを扱える人を探していた」という佐藤さんと出会い、「りくう」の和紙づくりの挑戦が新たな段階に進み始めました。

新たな道具、技術を手にした二人は、和紙の新しい表現をより一層追求できるようになっていきます。

「りくう」と中川政七商店が共に作った「立体手漉き和紙の一輪挿し」
寺田さんの3Dモデリング技術を活かして成型された立体のベースに、佐藤さんがひとつずつ手で和紙を漉いていく。「曲面」を漉くことは非常に難しい
少しずつ漉いて、天日干しで乾かして、また少しずつ漉くという方法で、繊維がすべての面に定着するように工夫している。非常に時間を要する作業
片面ずつ漉いていくが、気を付けないと反対の面を漉いたときにもう片面の和紙繊維が剥がれてしまう。慎重に少しずつ漉いていく
非常に繊細な設計でベースを出力している
3Dプリンターでの制作はその都度、素材や機械の設定を全て実験しながら進めていく、とても根気の必要な作業。段々とノウハウが溜まり、やれることの幅が広がってきたそう
真鍮の持ち手をつけるための穴も、すべて手作業であけている

和紙の「今」に向き合い、産地や人に良い影響を

佐藤さんは元々、和紙の産地として知られる愛媛県 内子町五十崎(いかざき)の出身。生家の近くにも和紙の工場があり、小さい頃からその存在を身近に感じていました。

「ショップもあったので、好きな便箋や巻物状の和紙を買ってきて、筆で絵や手紙を書いていました。少し絵具が滲む、あの和紙独特の使い心地が好きで。

五十崎では、毎年5月5日(こどもの日)に和紙で作った凧を上げる大凧合戦という催しもあって、図工の授業で自分の凧を作ったり、大凧に、スポンサー企業のロゴや文字を描くアルバイトをしたりして、楽しかった記憶があります」

一方で、伝統的な和紙づくりの知識や経験を積んでいない自分が、果たして和紙に関わって良いのだろうかと、凄く葛藤があったとも話します。

「愛媛に戻ってきて14年。そのことについてはずっと考え続けています。でも今は、自分には自分の役割があると、少し納得して前に進んでいるところです。

デジタルファブリケーションを取り入れることもその一つ。

デジタル技術はこれからの工芸の表現方法を押し上げ、広げてくれるものとなっていくはずです。 率先して新技術を取り入れ、その恩恵を暮らしに実装・還元していくことが、私たちにとって何よりワクワクする挑戦だと感じています」

明間集落
祖父母の家の中にも、和紙が使われている

「綺麗な水を飲ませてもらい、和紙を漉かせてもらえることを当たり前だと思わないように。豊かな自然、土地の恩恵に改めて感謝しながら、私たちが出来る目の前のことに集中し、これからも一生懸命に取り組んでいきたいと思います」

かつて、祖父母が暮らし、自身もお盆や正月に帰省した思い出の土地。そこで自分たちが「今」に向き合い、活動し続けることで、土地や工芸に携わる人たちに何か良い影響を与えられると嬉しい。 そんな想いで、「りくう」の二人はこれからも進んでいきます。

<取材協力>
りくう

文:白石雄太
写真:田ノ岡宏明

<関連する商品>
・立体手漉き和紙の一輪挿し 吊り型
・立体手漉き和紙の一輪挿し 置き型

<関連する特集>

和紙の“あたりまえ”を取り戻す。越前和紙の老舗・山次製紙所

私たちの暮らしを支えてきた、日本各地の様々なものづくり。

それらがさらに百年先も続いていくために、何を活かし、何を変化させていくべきなのか。その可能性を探るため、ものづくりの軸にある「素材や技術」に改めて着目し、中川政七商店がスタートさせた試みが「すすむ つなぐ ものづくり展」です。

今回のテーマは「和紙」のものづくり。

古くから、文字を書き記すための道具にとどまらず、茶道の懐紙、障子や襖紙、提灯、紙幣、祭事の道具など、暮らしのあらゆる場面に使用されてきた和紙。

今や時代はうつろい、洋紙の登場やライフスタイルの変化を受けて、暮らしの中で和紙を見かける機会は少なくなってしまいました。

そんな中でも、和紙が持つ素材の魅力、職人の技術には、今の日本の暮らしを豊かにする可能性がある。そう信じて和紙と向き合い、各産地で挑戦を続ける作り手たちがいます。

和紙のイメージをぐっと広げるもの。和紙本来の魅力を再認識できるもの。 今まさに新たな挑戦が”すすむ”ものづくりの現場を取材し、百年先へ和紙を”つなぐ”ためのヒントを伺いました。

和紙なんて、そもそも「あたりまえ」のもの

1500年の歴史がある「和紙のふるさと」、福井県越前市。 その地で明治元年に創業した山次製紙所は手漉きにこだわりを持ち、日々、美しい彩色や装飾が印象的な美術小間紙(びじゅつこまがみ)を手がけています。

同地区に紙漉きを伝えたとされる「紙祖神」川上御前が祀られた大瀧神社
山次製紙所の工房

同社のWEBサイトに記されているのは、「和紙を今の時代の『あたりまえ』にしたい」という言葉。そこにはどんな想いが込められているのでしょうか。

山次製紙所 山下寛也さん

「そもそも、『あたりまえ』のものなんですよ。和紙なんて」

そう話すのは、山次製紙所の伝統工芸士 山下寛也さん。

「書くためだったり、包むためだったりに普通に使われていたもの。それこそ、昔は47都道府県すべてに紙漉き屋さんがあったはずで。

その中で、たまたま越前和紙は今まで残ってきたというか。 ただただ、あたりまえの仕事を、あたりまえに続けてきただけだと思ってるんです」

ずっと変わらない技術や道具で、和紙づくりを「あたりまえ」に続けてきた

かつての日本の暮らしにとって、本当に身近なものだった和紙。その当時からの技術や道具を継承し、手漉き和紙を作り続けている山下さんたちにとって、確かにそれは「あたりまえ」のものなんだなと感じます。

大瀧神社の灯篭にも越前和紙が使われている

一方で、日常生活であまり和紙に触れていない人たちにとってみると、やはり「特別なもの」なのかもしれません。

「そこを、もう一度あたりまえに戻していきたいんですよ。

気付いたら『工芸』とか『伝統文化』とか、持ち上げられるようになって。

産地としては今まで通りのことをやっているだけなのに、ハードルが上がってしまったなぁ、とは思いますね。

結局は、紙がどんどん使われなくなってきているということなので。その上で、どうやって残していくのかを考えていかないと」

和紙づくりに欠かせない、トロロアオイの「ネリ」

これまで脈々と続けてきた、良いものをあたりまえに、ちゃんと作るということ。しかし、それだけでは残っていけないという現実も、見据えています。

「あえて他産地との違いを考えると、越前は、ビジネス的な考え方を持ち込むのが早かったと思っています。数字をきちんと重視してきた。外部のデザイナーとコラボしたり、海外進出に挑戦したり。

だからこそこの規模で残ってこられたし、逆に言えば、それでもこれだけしか残っていない。もっとほかにやり方があるんだろうなと、考えています」

越前和紙独自の「ひっかけ技法」に使用する金型

和紙の原料と言えば「楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)」が代表的です。実は、これらの植物の一部分、靭皮(じんぴ)繊維と呼ばれる表層のわずかな繊維だけが、和紙づくりに使用されています。

希少な原料のため、それだけで紙を漉くとやはりコストが合わないケースも出てきます。

たとえば、お酒などのラベル。商品の顔としてしっかりと質感を出したいけれど、そこまでコストはかけられません。この場合、山次では必要に応じて洋紙に使われるパルプ繊維を組み合わせて漉いているのだそう。

厚みをパルプで出して、表面は楮などの繊維で漉いてコーティングする。そうすることで和紙の質感は保ちつつ、適正価格に抑えることが可能です。 こうした合理的な対応も、手漉き和紙が存続するためには大切なことだと考えています。

和紙を身近に感じてもらう入口に。山次独自の技法「浮き紙」のプロダクト

和紙を身近に感じてもらうために、山次製紙所では日常に馴染む和紙プロダクトを展開しています。

「浮き紙」の茶缶シリーズ
カードケース

和紙に凹凸をつけ、さまざまな柄を表現できる「浮き紙」という独自技法の和紙で、茶缶やカードケースを制作。各所で評判を呼び、これらのプロダクトがきっかけで問合せがくることも増えたのだとか。

「この業界では、問屋さんの見本帳に載らないと流通に乗っていかないのが基本です。

でもこれからは、それだけでは駄目だと思って。どうにか“もの”で見せていけたらとずっと考えていました。

自分たちが自信を持っている『浮き紙』というものを、どうにかして伝えていきたいなと。特に茶缶は、かなり一人歩きしてくれたというか、和紙の魅力を営業してくれていると思います」

通常のエンボス加工と比べて、シャープではっきりとした凹凸加工が可能。以前は、線や丸といった単純な柄しか作れなかったが、技術改良で複雑な柄も可能に。浮いているように見えるところから、山下さんのお父さんが「浮き紙」と命名した
今回、山次製紙所と中川政七商店で作った「浮き紙の扇子」。くっきりとした陰影がアクセントに
アイスキャンディーをモチーフとした団扇も

紙を漉く仕事自体を増やすことが、技術継承の要になる

プロダクトから和紙の魅力が伝わり、その結果としてOEMで紙を漉く仕事が増えていくことが必要だと、山下さんは話します。

「たとえば、原料の作り方みたいな部分は、レシピをきちんと記しておけば残していけるかもしれません。

でも、手で紙を漉くという技術に関しては、体験してみないと分からないので。

うちには、紙漉きのことが本当に好きだという若い子たちが来てくれています。 その子たちにちゃんとお給料を払って、そして技術継承していこうと思うと、紙を漉く仕事がたくさんないと厳しい。

やっぱり紙自体が売れないと駄目なんです」

紙漉き職人の女性。商品デザインも担当している。紙を漉くことが本当に好きだと話す
こちらも、山次製紙所で働く女性。若い世代が現場にいる光景は心強い

「それに、僕たちが紙を漉き続けないと、道具を作る人もいずれいなくなってしまいます」

桁(けた)や簾(す)といった、手漉き和紙づくりに欠かせない道具は、定期的に修理、メンテナンスしながら、何十年も使い続けるのだそう。

紙漉きの必需品「桁」
「簾」

職人によって、使いやすいサイズが違ったり、桁と簾の相性があったり、個別の状態に対応するには豊富な経験と高い技量が必要。しかし、道具の制作と修理だけで生活していくことは、今の時代現実的ではありません。

道具を作れる人、修理できる人は年々少なくなってきているそうです。

山次製紙所の桁を修理している工房。普段は建具屋をメインに営んでいる
非常に繊細な加工で作られている「簾」。修理できる人は全国でも数名しか残っていない

手漉き和紙のプライドを持ち、現代の「あたりまえ」をつくる

「『浮き紙』については、もっと知ってもらうためにデザイン公募の取り組みを始めました。採用されたデザインは、手漉き和紙として仕上げて、11月に行われる工場見学イベントRENEWで展示する予定です」

毎年応募したくなるように審査員の入れ替えなどを工夫していく予定とのこと。どんどん新しい層に浮き紙を知ってもらうきっかけになることを目指しています。

「『浮き紙』だけじゃなくて、たとえば、越前和紙の伝統技法である『透かし』。これについても、魅力をきちんと伝えていくために、プロダクトを考えているところです。 今まで知らなかった人たちが、和紙に気づいてくれる機会を作る。そこで、こんな紙もあるんですよ、と差し出していければ」

現代のクリエイターやデザイナーのアイデアで、新たに面白い和紙が生まれることを狙う

「ここ最近、仕事って面白いなって、思えるようになってきたんです。

普通のことをいつも通りやっているというのは変わらないんだけど、売り上げの数字もそうだし、認められるとか、褒められるとか、そういったことが増えてきたというか。44歳にして、ようやく(笑)。

だから、うちの若い子たちにも、もっと胸を張ってもらいたい。その方が面白いし、生きていきやすいと思う。紙漉き職人で、デザインもできて、人とコミュニケーションもできる。

それは凄いことで、あなたの強みなんだよと、伝えるようにしています」

伝統の技術や文化。経営的な判断。独自の技法。現代に馴染むプロダクト。若い職人の熱意や感性。デザイナーやクリエイターとのコラボレーション。

さまざまなことを考えながら、改めて手漉き和紙を現代の「あたりまえ」にする。そしてさらに新しい文化を築いていく。そんな山次製紙所の取り組みに、これからも目が離せません。

「手で漉いている。そこが僕たちの一番のプライド。原料の問題とか、考えないといけないことはたくさんあるけど、まずは手漉きをしっかり守っていきたいですね」

<取材協力>
山次製紙所

文:白石雄太
写真:田ノ岡宏明

<関連する商品>
・浮き紙団扇 氷菓
・浮き紙扇子

<関連する特集>

楽しみかたいろいろ。暮らしの道具「てぬぐい」

程よいサイズ感で使い勝手がよく、吸水性や速乾性にも優れている「てぬぐい」。

昔から、日本の生活の中で愛されてきた暮らしの道具です。

最近では、抽象柄・具体柄問わず多様な柄のてぬぐいが登場していて、そのデザインを楽しむことも大きな魅力のひとつとなっています。

その一方で、興味はあるけれど具体的な利用シーンが思い浮かばない‥‥という人も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

ぬぐう、包む、巻く、飾る、隠す。

実は非常に多様な可能性を秘めているてぬぐい。おすすめの使い方を幾つかお伝えしていきたいと思います。

「ぬぐう」

て“ぬぐい”という名前にもあるように、何かをぬぐうことは基本の使い方のひとつです。端を縫製していない切りっぱなしのため乾きが速く、タオルやハンカチ代わりに持ち歩いたり、水まわりで使用したりといった場面で重宝します。

水まわりで使う時に、エプロンの腰紐にかけていただくと便利です。

1. エプロンの腰紐にてぬぐいをかけます。

2. ちょうどいい長さになるよう調整して完成です。

「包む」

お弁当箱や水筒、ワインボトルなどを持ち運ぶ際にも、てぬぐいが役立ちます。長さがあるので包むものの大きさごとに調整しながら使えることがポイントです。

ここではお弁当箱の包み方を見ていきます。

1. てぬぐいの両端を内側に折り、適度な長さに調節したら、お弁当をやや斜めにして中央に置きます。

2. 片側の角をお弁当箱にかぶせるように折り、もう片方も反対から同じように折って包みます。

3. 両端を持ち上げ、中央で結んだら完成です。

「隠す」

家の収納かごやバッグの中身など、あまり人には見せたくない場所にもてぬぐいが活躍します。シンプルなデザインのてぬぐいをたたんで被せるだけで、すっきりとした印象に。

ぜひ試してみてください。

1. 隠したいものの大きさに合わせててぬぐいをたたみます。重ねた際の、柄の見えかたにも気を配りましょう。

2. 隠したいものにてぬぐいを被せたら完成です。

「巻く」

家の中だけでなく、アウトドアシーンにもおすすめ。薄くてかさばらないだけでなく、気軽に洗えて乾きが早いのも、てぬぐいのいいところです。

夏の庭仕事やハイキングの際に首にくるっと巻いておけば、汗を拭いたり手をぬぐったりと重宝します。

1. 巻きやすいよう、てぬぐいを縦に細長くたたみます。

2. 首に巻いて両端を結び、ほどよい巻き具合に調整したら完成です。

「飾る」

多様な柄が魅力のひとつであるてぬぐい。インテリアとして、家の中の好きなところに飾っていただくのもおすすめです。

今回は、タペストリーとして吊るす方法をお伝えします。

1. てぬぐいを平らな場所に置き、形をととのえます。しわのある場合は事前にアイロンをかけておきましょう。

2. てぬぐい掛けで上辺と下辺を挟み込みます。

3. 飾りたい場所に吊るして完成です。

お気に入りのてぬぐいを暮らしの中に

最後にお手入れについても少しだけ。

てぬぐいは染物のため、洗濯を繰り返すと色が多少抜けてくる場合があります。余分な染料が抜けて、段々とやさしい風合いに落ち着いていきますので、その経年変化をお楽しみいただけると嬉しいです。極端な色落ちを防ぐために、洗濯前に必ず洗濯表示を確認してください。

端を縫製していないので、最初のうちは糸のほつれが出てきます。気になる場合は、ハサミで切っても大丈夫です。切って洗濯してを繰り返す内に生地の目が詰まり、自然と落ち着いていきます。

ここまで、てぬぐいの活用に関して幾つかの方法をご紹介してきました。他にも工夫次第でさまざまに使える素敵な道具だと思います。

ぜひお好みの柄、お好みの使い方を見つけて、てぬぐいのある暮らしを楽しんでください。

夏の陽ざしにはえる「黒」、風にそよぐ「白」。涼しく上品な麻のお出かけ服

もうすぐ夏の盛りを迎える時期。ここ最近は毎朝天気を確認するたびにうんざりした気持ちになり、クローゼットから手に取るのは涼しくて洗いやすく、ラクに着られる服ばかりでした。

もちろん夏をのりきる服が控えているのは心強くあるものの、家族や友人との食事会や観劇・鑑賞、またセレモニーの場など、たまのお出かけ用に「ちょうどいい服がない」と焦ることもしばしば。「いざという時に着られる、気分がしゃんとする洋服も持っておけたら安心だな」とは思いながらも、そう出番があるわけでもなく、ひとまずどうにか乗り切りながら買わずのままにしていたのは、もしかすると私だけではないかもしれません。

そんな方にこそおすすめしたい、夏のお出かけに着ていただける「黒と白」。いずれも麻100%で夏に涼しく心地よい生地でありながら、上品な光沢とシンプルなデザインで、普段にもきちんとした場にもぴったりです。

夏の陽ざしにきりりとはえる黒、熱をはらんだ風に爽やかに揺れる白。それぞれのこだわりを、担当デザイナーの山口に聞いてみました。

目指したのは、涼しくて素敵で、きちんと着られる夏の洋服

今回の洋服シリーズを作るにあたり大前提としたのは、夏に着やすい涼しさがありながらも、きちんとした場でも着られる服であること。フォーマルの場にも着やすいようにと、黒と白を色の軸に据えてデザインに落とし込んでいきました。

着る人の好みで形や色が選べ、また一枚でも組み合わせても着られるようにと、それぞれのデザインはあえてバラバラに。黒はワンピース2型とパンツ1型、また白はトップス2型を本シリーズ品として販売します。

いずれも通気性がよく、吸放湿性にも優れながらも上品な光沢をたたえた麻生地を使用。また企画の際に共通してこだわったのは、日本で長く、産地や作り手が育んできた技術を用いることでした。そうして採用したのが、京都の黒染めと滋賀の晒しの技術です。

「黒色と白色のお洋服って世の中に山のようにあるから、商品を企画するにあたっては、中川政七商店らしい個性を何か持たせたいなと思いました。

黒染めは長く和装で使われてきた日本の伝統技術で、今はそれが染め替えという新しい道で活かされています。昨年も夏に着る黒のフォーマル服を作っていて、その際にお願いした京都の馬場染工業さんに今年もお願いしました。

麻生地を晒すことで表現した白の生地は、以前からお取引のある、滋賀で晒しをされている中藤織物整理工場さんに作っていただいています。ここは、中川政七商店の手績み手織り麻の生地をずっと加工してくださっている作り手さん。白く晒す高い技術を持つ企業さんなのですが、織り子さんの減少で手績み手織り麻を作れる量自体が年々減っているので、その晒しをお願いできる量も減っていて。だから何か他の商品にお力添えをいただくことで、この晒しの技術を届けたいと思っていたんです。

今回の生地は手績み手織り麻ではありませんが、遠州地方で織られた透け感のある上質な麻生地を使用しています」(山口)

京都・馬場染工業が染める「黒」

上述のとおり、黒をお願いしたのは京都の老舗黒染め屋・馬場染工業さん。 現在は5代目の馬場麻紀さんが率いるこちらの作り手さんでは、代々、紋付羽織袴や喪服などの礼服を手がけてこられました。

その技を、洋裁を学んだ経験を持つ現代表が洋服に転用したことで、今回のワンピースやパンツのように日常でお楽しみいただけるようにもなっています。

工房の表に掲げられる「黒染」の文字(写真:森一美)

こだわりは染めの回数を通常の倍にして、奥深い黒を表現すること。ひと口に「黒」と言っても様々ある色のなかから、夏に着やすい自然な黒でありながら、深みが出るように仕上げていただきました。なお、長く着て退色してきたときや、漂白剤をとばしてしまったときなどは染め直しもしていただけます。

黒の色見本(写真:森一美)

「昨年は馬場染工業さんと夏のフォーマルとして、綿麻生地のワンピースを4型作りました。フォーマルの場にも重宝するワンピースを、日本人の美しさを昔から引き立ててきた黒染めの技で作りたいと思ったんです。

そのなかでも特に人気のあった2型のデザインをより磨いたものが今年のシリーズ。ふんわり袖のパフスリーブワンピースは優しい雰囲気なので、もう一つはVネックと裾のベンツ(※切れ目のこと)ですっきりした印象に仕上げて、好みで選べるようにしています。

加えて、白いトップスに合うように同じ染めの技術でパンツも作りました。こちらはロングスカートのようなワイドシルエットにしたことで、スカート派の方でも履きやすい仕上がりを目指しています」(山口)

「黒」のシリーズはワンピース2型とパンツ1型をラインアップ
シンプルなデザインはきちんと着るのはもちろん、少し個性的な着こなしにも

滋賀・中藤織物整理工場が晒す「白」

麻織物の一大産地である滋賀県の湖東地域。麻の製織・加工に欠かせない、湖面からの湿潤な空気と、鈴鹿山系から流れる愛知川の美しい水に恵まれたこの地域は、古くから麻織物の産地として発展しました。

今回の「白」は、この土地で織物の整理加工業を営む中藤織物整理工場さんにお願いしたもの。「近江上布伝統工芸士」の称号を持つ職人の高い技術を使い、製織した生地を晒して作る、白い麻生地を採用しました。

さらに、糸に撚りをかけて生地を揉み、表面にシボを作るちぢみ加工を施すことで生地に表情が出る他、凸凹があり肌離れも良いため涼しくラクにも着られます。

工場の内観(画像提供:中藤織物整理工場)

「シボをつける機械にも色々あるのですが、中藤織物整理工場さんではアナログな機械を使っておられます。それが良い意味でとてもレトロな雰囲気で、だからこそ人の手でシボをつけるようなやわらかさが出るのかなって。皺加工や、やわらかくする加工は色々な工場でできるんですけど、そのなかでも中藤さんのものは特に“やわらか感”があるという話をよく耳にしています。

麻を扱う技術もありますし、夏のシャツは肌あたりの良さも大切にしたいと思い、今回は中藤さんにお願いをしました」(山口)

晒したちぢみ生地(画像提供:中藤織物整理工場)

白く晒したちぢみ生地を使って作るのはシャツとチュニック。両者とも透け感があり、風に揺れる裾や袖が目に涼しいデザインとなっています。

「生地が特徴的なので縦のシボシボ感を活かし、ドレープが寄るようなパターンにしました。裾に向かって広がるようにたっぷり生地を使うデザインにしたことで、優雅さや涼しさを見た目にも感じていただけると思います。

シャツは袖からも風が入るようひらひらとした形に調整し、チュニックの方は丈が長い分、バランスをとれるように袖はふんわりと閉じる形にしました。あと、夏の衿元って襟があると汗がついて蒸れるし、かといって襟がないとルーズに見えてしまうので、今回は首元を広めにとって襟をつけることで、きちんと感を出しています。

2型あるどちらのデザインも、きちんとした印象はありつつ見た目の清涼感もあり、細かい皺が目立ちにくいので、普段から気兼ねなく着ていただけると思います」(山口)

「白」のシリーズはブラウスとチュニックの2型
一枚でさらりと着る他、インナーに柄ものを合わせたり、帽子などの小物と合わせたりするのもおすすめ

夏のにぎやかさや陽ざしのなかで、あえて凛々しく、軽やかに着る黒と白。日本の高い技術を使い、品良く、それでいてシンプルで着回しもきく一着に仕上げました。“いざ”という時にも、普段にも。ぜひ夏の思い出の頼りにしていただければと思います。

文:谷尻純子

<関連商品>
日本の黒 パフスリーブワンピース
日本の黒 Vネックワンピース
日本の黒 ワイドパンツ
ちぢみのフレアーシャツ
ちぢみのフレアーチュニック