「北斎漫画」を復活させた職人技。日本で唯一、手摺り木版和装本を出版する版元へ

京都・寺町二条。京都市役所や京都御苑にもほど近い街の中心部だ。丸太町通りと御池通りの間の寺町通り沿いには、骨董屋や古書店、和菓子店や歴史ある茶舗などが並び、歩くだけでも風情ある街並みを楽しめる。

日本で唯一、手摺木版による和装本を出版する京都「芸艸堂」

そんな寺町通りの一角にあるのが、明治24年にこの地で創業した「芸艸堂(うんそうどう)」。ここは、今や日本で唯一の手摺木版(てすりもくはん)による和装本の出版社だ。

芸艸堂

手摺木版とは、その名の通り版木に色をのせ、紙に色を写していく版画印刷のこと。当然、一枚一枚手作業となる。それを四つ目綴じなどの製本技術を用い、何十ページにも束ねて一冊の本として発行する。一連は江戸時代から続く伝統技法だが、出版の原理は現在書店に並んでいる本となんら変わらない。

芸艸堂の和装本「北斎漫画」

創業者の山田直三郎は、当時京都で名の知られた木版出版社「田中文求堂」で修業の末独立し「山田芸艸堂」を開業。のちに兄の市次郎と弟の金之助が営んでいた「本田雲錦堂」と合併し、現在の形となった。

そして芸艸堂が成長を遂げた背景には、かつて一大産業として発展し、世界からも注目を集めた京都の伝統工芸が関係していた。

美術印刷と京都の地場産業との意外な関係

茶道、華道、能、花街など、さまざまな日本文化が発展した京都において、そこに付随する「着物」産業もまた、切っても切り離せない関係であった。

絢爛豪華な「西陣織」による織物、色鮮やかな「友禅染」による染物など、日本最高峰の技術が結集され、地場産業として大いに発展した着物文化こそが、「着倒れの京都」と称される所以だ。

着物産業と木版和装本。すぐにはピンと来ないかもしれないが、そこには両者の意外な関係が隠されていた。

京都の着物といえば、西陣織や京友禅など、仕立てに関する技術や工程にスポットが当てられがちだが、それだけが着物を作る過程ではない。

かつて京都の街中には、着物の「意匠」を考案する多数の図案家が存在した。現代風にいうと「デザイナー」。着物の生産がさかんになればなるほど、着物の図案もより多くのパターンが求められるのは必然だろう。最盛期、ひと月に30ものパターンを作成していた図案家もいたと言われている。

その図案を集約し、一冊の本にして発刊していたのが芸艸堂。それはいわば図案家の作品集で、新たな「意匠」を考案するための重要なツールとなる。

図案家が考案したデザインの原案を、より忠実に、美しく表現できたのが、芸艸堂の木版技術であった。

時代を超えて受け継がれる、モダンなデザインの数々

現在代表を務める四代目の山田博隆さんは、代々受け継がれた出版技術や膨大な版木を生かし、当時の人気シリーズの復刻にも取り組んでいる。

代表で四代目の山田博隆さん
代表で四代目の山田博隆さん

そのひとつが、明治時代の代表的な図案家・神坂雪佳の作品集である『滑稽図案』。明治36年に初版が発行され、昨年、15年ぶりに重版された。摺り師による印刷技術、製本技術を結集し、初版の版木をそのまま用いている。貴重な版木と職人技を現代まで受け継いだ、芸艸堂だからこそ復刻できる渾身の一冊だ。

再版された『滑稽図案』。明治時代の色合いを見事に再現
再版された『滑稽図案』。明治時代の色合いを見事に再現

神坂雪佳といえば、琳派の影響を受けた『四季草花図』などの日本画が著名だが、そこには想像していたよりも、ずっとポップで鮮やかな世界が広がっていた。

山田さんによれば、この滑らかで発色の良い風合いは版画でなければ出せないという。

素人目に見ても、色が持つマットな質感や独特の重厚感に、高度な職人技が感じられる。

滑稽図案
上:「滑稽図案」神坂雪佳/下:花づくし「松竹梅」古谷 紅麟(雪佳の弟子)

そのモダンな配色にも驚いた。伝統的な草花などの図案が、ピンクや薄紫、黄色などのパステルカラーで表現されていたり、鮮やかなオレンジなど、意外な色彩も多くみられる。

収録された図案は47点で、ユーモアに富んだ動物画や抽象的なパターン画は、現代に続くテキスタイルデザインの先駆けと言えるだろう。

滑稽図案
滑稽図案

また、神坂雪佳の展覧会が2003年に京都国立近代美術館で開催された際、雪佳の図案集が再評価された。百貨店のポスターなどに採用されたり、2007年と14年にはユニクロのTシャツに用いられたりするなど、雪佳の図案は現代においても注目を集めている。

時代に即した商品化にも柔軟だ。受け継がれた版木のなかには伊藤若冲や歌川広重など著名な絵師の図柄もあり、それらを活かしたポストカードやぽち袋、クリアファイルなどの制作も積極的に行う。

芸艸堂
芸艸堂

また、必要に応じてオフセット印刷も活用。葛飾北斎や尾形光琳ら江戸時代の代表絵師の作品を和綴じ豆本にしてシリーズ化するなど、需要に合わせてさまざまな商品を提案している。

芸艸堂
江戸時代の著名絵師の作品を集めた和綴じ豆本シリーズ
江戸時代の著名絵師の作品を集めた和綴じ豆本シリーズ

それもすべて、芸艸堂が代々受け継いできた版木があってこそ再現できるもの。原案となる図案が刻まれた膨大な版木は、店舗裏の「版木蔵」に大切に受け継がれていた。

まるで版木の博物館!名作・名著の版木が結集。

神坂雪佳の図案集など、美術書の出版を主軸にしていた芸艸堂は、木版出版社の衰退・廃業が相次ぐなか、手摺木版にこだわり続けた。同時に、廃業や活版、オフセット印刷への転換にともない同業者から放出された版木を一手に引き受ける役割も担っていた。

東京・吉川弘文館や大阪・青木嵩山堂、そして初代が修業を積んだ京都・田中文求堂など、数々の名著の出版を手掛けた版元の版木を収集し、同時に版権も譲り受けた。その版木は店舗裏の「版木蔵」に大切におさめられている。

天井いっぱいに版木が積まれた蔵内
天井いっぱいに版木が積まれた蔵内
芸艸堂の版木

築100年近くになるという天井の高い蔵いっぱいに、版木が積み上げられた光景は圧巻の一言。この中に、あの江戸時代の名著『北斎漫画』の版木が含まれていた。

200年前の名著「北斎漫画」を復活!職人技術の集大成。

北斎漫画は、江戸後期に葛飾北斎が門下生のためにさまざまな題材をスケッチしまとめたいわば絵画のお手本集。動植物、妖怪、風景や当時の民衆の様子など、3900もの図が全15編(巻)にもわたり収められている。初版は文化十一年(1814年)、北斎が50代半ばの頃に発刊され、没後の明治11年に最終巻となる15編目で完結したロングセラーシリーズだ。

山田さんは、「時代を超えて愛される北斎漫画を復活させたい」と、2016年に再版することを決意。

和紙の調合から摺り師による木版摺り印刷、職人による製本など、芸艸堂が持てる限りの木版・製本技術を駆使して制作をスタートさせた。

版木

まずは和紙の調達から始まった。北斎漫画に使用する和紙は薄くて丈夫な楮を原料とした土佐の「須崎半紙」を使用。しかし贔屓にしていた漉き元はすでに廃業しており、新たに半紙を調合し、摺り師と試し摺りを行いながら一から作り上げる必要があった。

今回の再版は1編平均29丁(見開き1ページ)×全15編×150部で、必要な半紙は約80000枚。それらを均質に、印刷に適した調合で漉くのに約5ヶ月を要したという。

さらに、工程の中で最も重要な作業となるのが摺りの部分。北斎漫画は墨色、淡ねず色、肉色の3色摺りなので、1つの図に対して3回に分けて色を重ねていく。

絵具(顔料)の調合、摺る力加減ひとつで表情が異なる仕上がりになる木版摺り。当時の趣を再現するため、数少ない摺り師のなかでも、さらに限られた熟練者にしか与えられない大仕事だ。

北斎漫画

1編が29丁なので、単純計算でも1冊の摺り度数は87摺り。全15編では1000を超える摺り作業が必要で、使用する版木の数は700枚を超える。それを150部制作するという、気の遠くなるような作業を繰り返し繰り返し行っていく。

最後は経師といわれる職人の手で、一冊ずつ製本する。経師も、現在は数えるほどしか残っていない。

北斎漫画

こうして2017年、1年余りの歳月をかけて全15編の北斎漫画が復刻した。

北斎漫画
北斎漫画
北斎漫画

「100冊作ってちょうどいい」。現代における理想の本の作り方とは。

現代においても手摺木版にこだわり、数々の本を出版する芸艸堂。ひとつひとつ手作業で生み出される本を、山田さんは「100冊作ってちょうどいい」と話す。

山田さん

実際、再版された『滑稽図案』は100部限定、『北斎漫画』全15編は150部限定。和紙の調合から始まり、紙一枚無駄にできない印刷工程のなかで、一冊ずつ人の手によって編み出された珠玉の作品集だ。

改めて『滑稽図案』を眺めてみても、その風合い、その表情はまったく色褪せていない。それどころか、その図案が各界の意匠に用いられるように、現代のデザイナーにも影響を与え、アートブックのような役割まで果たしている。

滑稽図案

現代において、紙の本はもはや嗜好品となりつつあり、人々はより質の高さを本に求めるようになる。

だからこそ、美術書出版としてスタートし、手摺木版でしか表現できない印刷技術を今なお誇る芸艸堂の本が、あらためて強く支持されるのではないだろうか。

本の売れない時代において、本当に本を求めている人のために心を込めて作り、時間を掛けて確実に手渡す。それは、大量印刷・大量返本という現実に疲弊している出版業界が立ち返るべき、理想の本の作り方のようにも感じられた。

<取材協力>
株式会社 芸艸堂
https://www.hanga.co.jp/

文:佐藤桂子
写真:松田毅

※こちらは、2019年5月17日の記事を再編集して公開しました。

【わたしの好きなもの】かもしか道具店 すりバチ

溝がないのに食材がすれる、不思議なすりバチ


普段、休日はなるべく僕が料理を担当するようにしています。
料理をするのは好きで、本やネットでレシピを見ていろいろチャレンジをしています。時間に余裕があるときはちょっと手の凝ったことをしたくなって、いろんな道具を使うこともあります。



僕はゴマが好きなのですが、すりゴマを食べるなら自分ですりたい派です。
市販のすりゴマを使えば楽で何より時短になりますが、すっているときに段々と漂ってくるゴマの香りが好きで・・・。

しかし、一般的なすりバチは溝にゴマが詰まりやすくてきれいにゴマが取れず勿体ない気がしていました。
それにゴマをするだけの道具となり、洗い物が余分に増えてしまう・・・。中々積極的に使用できませんでした。

そんな悲しい現実を解決してくれたのが「かもしか道具店 すりバチ」です!




このすりバチ、本当にすれるのか?と思うくらい溝がありません。
手で触るとよくわかるのですが、非常にザラザラな表面に仕上がっています。
このザラザラした焼き締めの土肌が溝の役目を果たしてくれて、見事にゴマをすることができるのです。

これなら溝にゴマが詰まる心配もいりません。




それに、見た目も落ち着いた雰囲気で、自然と食卓に馴染んでくれます。僕は黒を選びましたが、どの色も食卓に馴染んでくれそうです。

このすりバチの中ですった食材と調味料などを和えたりして、このうつわごとそのまま食卓に並べても手抜き感がでません!むしろ手の凝った感じを演出してくれます。
これなら余分にお皿を準備する必要がないので、洗い物が増えません。




さらに!離乳食作りにも大活躍!
妻がよく言っていました。「ブレンダーがあると楽だけど、しらすをちょっとすり潰したいときに使えない・・・。」
湯通ししたしらすをすり潰したいとき、ある程度量がないとブレンダーでは歯が当たらず、満足に潰すことができないこともありました。

そんなに量は必要ないけど、しっかり潰したい。そんな時にこのすりバチが活躍してくれます。
安定した形でほどよく重みもあり、すりバチがぐぐぐとすりコギを受け止めてくれるので、しっかりとすり潰すことができます。




ちなみに最近作って美味しい!と思ったのが「マグロのなめろう」。本来なめろうはアジで作るのが主流ですが、ちょこっとアレンジでマグロを使ってみました。
すりバチでマグロの身をすると、口当たりがとても滑らかに!最後に角切りにしたマグロとアボカドを入れて和えてみました。ごはんの上にのせても美味しい、酒の肴にもぴったりなおかずが完成しました!

このすりバチは底が広めなので、ちょっとしたおかず程度なら、こぼれる心配なく全体に味がしっかり馴染むように食材を混ぜ合わせることができます。
このレシピでも、マグロとショウガやネギが程よく混ぜ合わさって、美味しく仕上がりました。これもうれしいポイントのひとつです。




溝がない不思議なすりバチ。とても使いやすいので、あのレシピもできるのでは?あれも作ってみよう!とアイデアや欲がどんどん湧き出てきます。
このすりバチを使っていろんな料理にチャレンジして、自分の料理のレシピの引き出しを増やしていこうと思います。


編集担当 森田

<掲載商品>

かもしか道具店 すりバチ

【わたしの好きなもの】綿麻しましまエコバッグ

頼もしい通園かばん


息子の保育所の通園かばんとして使っている綿麻しましまエコバッグ。
大容量の収納力にいつもお世話になっています。


週の頭に保育所に持っていくのは、着替えやオムツといった普段の荷物に加え、お昼寝用のバスタオル2枚にシーツと盛りだくさん。
お迎えに行くと今度はお持ち帰りする汚れ物の荷物が増えます。
でも、この綿麻エコバッグなら大丈夫。
薄手でコンパクトに見えるけれど、しっかりとマチがあるので見た目以上に荷物が入り、とっても頼りになるんです。




うれしいポイントはもうひとつ。この幅広の持ち手です。
たくさん荷物を入れて腕にかけても、持ち手が腕のお肉に食い込まず、痛くなりません。
保育所帰り、肩には食料品の買い物袋を、腕にはこのバッグをかけるのが私のお決まりの格好です。
2歳半になってもまだまだだっこを求める息子。
息子も荷物も重たいけれど、このバッグと一緒ならかあちゃんは、だっこもおんぶも頑張れちゃいます。




お洗濯できる素材だから、外遊びのとき芝生や砂場の上にも気兼ねなく置けるのもありがたいところです。
息子から「いっしょにあそぼー」と誘われれば、バッグを置いてすぐに駆けつけられます。




これからも、保育所、公園、お買い物と、数えきれない場面で大活躍してくれること間違いなし。末永く愛用したい一品です。


編集担当 羽田

【わたしの好きなもの】気持ちが整うポケット付きのシャツ

こんなところに、ポケットが?


これは、懐紙を入れる為に作られたポケット。このシャツは、お茶のお稽古にそのまま行ける日常着として作られました。



懐紙を入れる斜めの胸ポケットの他にも、左脇には帛紗(ふくさ)を下げるループも付いていて、お稽古で必要な着物の要素が詰まっています。



懐に何も入れなければ、定番のシャツとして着ることもできる万能さ。



背中にはタックがあり、腕を動かす可動域も申し分なく、腕まわりのゆとりがあることは、心の余裕にもつながっている気がします。



着ているだけで緊張するようなシャツが苦手な私にとって、なくてはならないアイテムになりました。



茶道で使われることが多い懐紙ですが、お皿の代わりや汚れを拭う時に使われる、いわば現代のティッシュのような役割をしてくれるもの。

そんな懐紙がスイッチとなって、心を整える時間がスタートする。

この気軽さも、私のお気に入り。

敷居が高いと思われがちな茶道ですが、いつもの白いシャツを着て、季節のお菓子と美味しいお茶を頂けば、ほっこり温かな気持ちと余韻を楽しむことができます。

もちろん着物を着て楽しむお茶もいいものですが、こういうアイテムがあれば、やってみようかなと背中を押してくれますね。



では、一服いただきます!

茶論 ショップディレクター 藤本



<掲載商品>

茶論シャツスタンドカラー レディース
茶論シャツレギュラーカラー メンズ

漆器の老舗がはじめた北陸のものづくりブランド「RIN&CO.」が生まれるまで

「北欧と北陸は似ている」


そんな気づきから、2020年1月にあるブランドが誕生しました。
名前は「RIN&CO.」(りんあんどこー)。

北陸の地で育まれたものづくりの技術をもとに、さまざまなプロダクトを展開する総合ブランドです。

立ち上げたのは、福井県のとある漆器メーカー。なぜ漆器の会社が新たなブランドを手がけることになったのでしょうか?

漆器の老舗が始めた新たな挑戦

「RIN&CO.」を立ち上げたのは、創業1793年の老舗「漆琳堂」。

多様な伝統工芸が息づくものづくりの集積地、福井県鯖江市で、江戸時代から代々受け継がれてきた塗りの技術を生かし、さまざまな越前漆器を手がけています。


▲漆琳堂本社。工房にはショップが併設され、多くのお客さんが訪れる

代表は8代目となる塗師の内田徹さん。

赤や黒といったこれまでの漆器のイメージを覆した自社ブランド「aisomo cosomo」「お椀やうちだ」を展開するなど、業界に新風を吹き込む取り組みを進めてきました。


▲色とりどりの漆を使った「aisomo cosomo」


▲毎日の暮らしの中で使い続けるお椀を提案する「お椀やうちだ」


▲漆琳堂代表の内田徹さん

「自社ブランドを通して、これまで漆器に馴染みのなかった若い方にも知っていただけるようになりました。特に『aisomo cosomo』は新商品を生み出す仕組みがないまま、業績が予想以上に伸びている状態です。このまま同じことを続けていても先細りする。自分もまだまだ新しい挑戦をしてみたいと思い、新しいブランドを立ち上げようと2年前から構想を練り始めました」



パートナーとしてタッグを組むことになったのは、熊本のゆるキャラ「くまもん」をはじめ、幅広いジャンルのデザインやブランディングを手がけている「good design company」の水野学さん。

ヒアリングに1年以上の月日を要し、新ブランドのコンセプトを決めていきました。

漆器の未来から、北陸の工芸の未来へ

当初は漆器のブランドを考えていた内田さんでしたが、北陸の産地をリサーチしているなかで、さまざまなものづくりを扱う総合ブランドにすることを決めたそう。

「北陸にはいろんな産地があるものの、下請けや部材で終わっているものが多く、最終製品としてなかなか世に出ないという課題がありました。

すばらしい技術をもっと多くの人に知ってもらいたいという思ったんです。それに、ゆくゆくは新ブランドでショップ展開、となった時に漆器だけじゃつまらないじゃないですか。北陸の工芸を熱く語れるようなお店の方が面白いですよね」


▲「実際に産地を巡ることで、あらためて北陸の可能性を感じました」と内田さん

また、“北陸の風土”も新ブランドのヒントとなりました。

「山に囲まれた湿潤な気候は漆器が固まるのに適しているし、豊かな雪解け水は和紙や繊維に欠かせません。豊富な木や土があったからこそ木工や焼き物も発達してきました。この地だからこそ息づいてきたものづくりがある、そんな想いをブランド名に表現しようと思ったんです」

新たなブランド名は「RIN&CO.」に。

「RIN」は「Reason In Northland(北陸の地である理由)」の頭文字から、「CO.」は「産地や地域の仲間たち」という意味が込められています。

つながりが生まれたきっかけは「RENEW」

「RIN&CO.」は漆器や和紙、木工、焼き物、繊維など、北陸各地の産地が手がけたプロダクトを展開しています。

内田さんは産地の枠を超えて、どのようにつくり手たちの協力を得ていったのでしょうか。

「一番大きなきっかけは私のお店もある鯖江市河和田(かわだ)地区で行われた『RENEW』というイベントです。漆器だけでなく、眼鏡や和紙、打刃物、箪笥、焼き物など、ものづくりの現場を一般の方に見て知っていただくイベントで、事務局を担当したことからつくり手の方とのつながりが生まれました」


▲普段入ることのできないものづくりの現場を一般公開する「RENEW」


▲期間中はなんと全国から3万人以上の方が訪れる

「RENEW」に関わるまでは、同じ地区にいても異業種だとあまり接点がなかったそう。事務局としてさまざまなつくり手とやりとりするなかで交流が生まれ、今回の「RIN&CO.」でも内田さんの思いに共感する仲間を見つけることができました。

商品のコンセプトは「北欧」!?

次に考えたのは、商品コンセプト。デザイナーの水野さんが北陸に足を運んだり、お互いに何度も打合せする中で、あることに気づいたそうです。

「雪が多く曇天が多い北陸の気候は“北欧”に似ている、という話になったんです。北欧も白夜で冬は雪深い。自然と家のなかにいることが多くなるから、普段の暮らしを楽しめるようなプロダクトやデザインも発達している。ものづくりのメーカーが多いところも似ているなと感じました」

思わぬところで北陸と北欧の共通点を感じた水野さんと内田さん。これまで和の文化のなかで使われることが多かった工芸品に北欧のテイストを取り入れることで、洋の文化にもマッチするプロダクトが完成しました。

漆琳堂の硬漆シリーズ

ここからは「RIN&CO.」の第一弾として発売する商品を少しご紹介します。

まずは内田さんが代表を務める「漆琳堂」の硬漆シリーズから。福井県、福井大学との産学官の連携により開発された、食器洗い機にも耐えうる漆を使った漆器です。


▲まるで漆器とは思えないほどの繊細で美しい色合い

独特の刷毛目が目を引く漆器は、職人の手塗りによるもの。塗り直しがきかず、熟練の技術が求められる技法です。

色は7種類。現代の食生活にも合う独自の形状と美しい色合いは、まるで洋食器のよう。指紋や傷がつきにくく、普段使いできる食器です。

宮吉製陶の白九谷シリーズ

石川県を代表する焼き物といえば「九谷焼」。その特徴は華麗な絵付けですが、「RIN&CO.」ではあえて絵付けを施さず、白磁の透けるような美しさを際立たせた食器をつくりました。


▲独自の釉薬でつくる美しい白磁の九谷焼

強度にすぐれた白磁の九谷焼は、漆の世界でも長年、漆の保存容器として使われてきました。「RIN&CO.」の硬漆シリーズと同じ形状で展開し、九谷焼の新たな一面を打ち出します。

瀧ペーパーのポチ袋

越前和紙は言わずと知れた、日本を代表する和紙の一つ。もともとはお殿様に献上する奉書紙として漉かれていました。「RIN&CO.」では、奉書紙のように“大切なものを届ける・渡す”文化を残したいと、越前和紙のポチ袋をつくりました。



手がけるのは産地でも珍しい、和紙の生産から加工までを手がける福井県越前市の「瀧ペーパー」。さまざまな世代に好まれるやわらかな色合いとかわいらしいデザインが特徴です。

井上徳木工の隅切りトレイ

福井県鯖江市河和田地区にある井上徳木工が手がけるのは、木目が美しい白木のトレー。木地のなかでも重箱やお盆などをつくる「角物師」としての技術が生かされたプロダクトです。



木の特徴を見極め、緻密に計算されて組まれた木地。シンプルだからこそ、美しく仕上げるのが難しいトレーは、日常のどんなシーンにも溶け込みそうです。

エーリンクサービスのトートバッグ

繊維の産地としても有名な北陸では、多湿な気候と豊かな川の水から、品質の高い織物の産業が息づいてきました。「RIN&CO.」では繊維のなかでも雑貨用バッグの企画・製造・加工で国内シェアトップを誇る福井県鯖江市の「エーリンクサービス」とオリジナルバッグを制作。



繊維業界も時代とともに多様化するなか、最新の設備と技術を用いてつくられるバッグで北陸の繊維産業を盛り上げていきます。
※近日発売予定

山中漆器工芸の丸盆

全国の挽物産地の中でも、群を抜いているのが石川県の山中漆器。ろくろを用いて木を削り加工する木地は、美しい山中漆器に欠かせません。そんな高いろくろ技術を用いて作られたのが山中漆器工芸が手がける「丸いトレー」。



木の美しさを最大限に引き出したトレーは、なめらかな曲線が特徴。越前漆器とはまた違った高い技術を感じることができるプロダクトです。


これらの商品を皮切りに、「RIN&CO.」では北陸のさまざまなものづくりの魅力を発信していくそう。

「北陸にはまだまだ素晴らしいつくり手がたくさんいます。RIN&CO.をきっかけに、もっともっと知ってもらう機会を増やしていきたいですね」

内田さんの挑戦は今まさに始まったばかりです。


<オンラインショップ特集ページ>
「RIN&CO.」の特集ページはこちら
 

【わたしの好きなもの】TO&FRO ORGANIZER AIR

荷物が多いわたしを救ってくれた、旅の相棒。


どこへ行くにも、とにかく荷物が多いのが長年の悩み。
PCや充電器はもちろん、癒しのアロマオイルやお菓子、仕事で使うデジタルカメラに紙の資料や文庫本…
「もしかしたら使うかも」という物まで含めてアレもコレもと大量に持ち運ぶその鞄の重量は、一時期10kgを超えていました。

そんな私に運命の出会いが訪れたのは、2019年5月。
石川県の繊維メーカーがつくる、世界最軽量オーガナイザー「TO&FRO ORGANIZER」に「AIR」なる究極版が登場したのです。
※オーガナイザーとは、整理整頓するためのポーチのこと。



魅力はなんといってもその軽さ!
一番小さいサイズは約9gで、その名の通り空気のように軽く、鳥の羽のように柔らかいのが特徴です。
宙に放つとふわふわと静かに落ちてゆくほど、恐ろしく軽いのです。

撥水機能があるからどこへだって連れていけて、くしゅくしゅと畳めば手のひらに収まるサイズに変身。

中身が透けて見えるほど薄い生地なのに、丈夫で長く愛用できるのは、繊維メーカーの皆さんの熱いこだわりが感じられます。



開発を重ねて誕生したその生地は、世界でいちばん小さくて軽い鳥・ハチドリの英名「Humming Bird」が名付けられています。
そんな生地を生み出したカジレーネ株式会社は、日本3大繊維産地・石川県の地で、世界中のアウトドアブランドや
大手アパレルメーカーから信頼を集める企業。なるほど、業界の方々は既にその技術力を知っていたのです。



このオーガナイザーが最も本領を発揮するのは、旅支度の瞬間です。
Sサイズであれば1週間分の靴下とハンカチは余裕で収納できて、
Mサイズならシャツが6枚入る大容量設計。
1gでも荷物を軽くしたい私にとって、とにかく最高の相棒です。



ただのオーガナイザーと侮るなかれ。
これは、心まで軽やかにしてくれるオーガナイザーなのです。


編集担当 広報 佐藤