【わたしの好きなもの】平べったくない木ベラ



へらって、調理器具としては脇役。でもその脇役がいい仕事してくれる。そんなアイテムが「炒めへら」と「返しへら」です。
 
木べらって、平べったいイメージありませんか?
 
そもそも「箆( へら )」は扁平な板状の道具の意味なので、平たくあるべきなんです。( へらって平から来ているのかも)
 
なのに、 この木べらは平たくない。
 
見た目にも、持っても感じる、そのずっしりとした量感に違和感があります。
 
いわゆる一般的な木べらは、薄くスライスした木材を切り抜いて加工したもの。それに対し、今回紹介する「炒めへら」と「返しへら」は分厚い木の塊から立体的に削り出して作られています。



持ち手部分が立体的な三角形になっているので、 しっかりと握れて力が伝わりやすい。鍋いっぱいの炒飯や、ゴロゴロとした野菜をかき混ぜるときには特にその効果を感じます。


 
それぞれの先端部分も、この加工方法を活かして立体的に使いやすい形状に。



「炒めへら」は、さじ状の形にくり抜かれており、調理した食材をすくいやすい。
 
平たい木べらでありがちな、ボロボロとこぼれてしまって何度もすくい直す。みたいなことが改善されています。



「返しへら」は、しっかりと角度がついていて、ちょうどよく返しやすい。
 
もちろんステンレス製のヘラの方が薄くて、目玉焼きの下に滑り込ませるのは得意かもしれませんが、木製だから鍋肌を傷つける心配もなく、そのまま混ぜたり炒めたりもできちゃいます。

最近はシリコンなど、色々な素材の展開が増えていますが、キッチンのツールスタンドに立てておいて気持ちがいいのはやっぱり木製だったりします。 使い込んでいくと味が出てくるんですよね。
 
へららしくない肉厚のへらは一生モノになりえる。
 
値は少し張りますが、永く付き合うには悪くない買い物だったなと思っています。


編集担当 渡瀬

<掲載商品>
しゃもじ屋の炒めへら
しゃもじ屋の返しへら

【わたしの好きなもの】一本で何役もこなす最適包丁


「さあ、ごはんを作ろう」っと台所に立つとき、まずは割烹着を着て身支度を整えます。

やかんに水をはって火にかけ、まな板と包丁を並べたら準備完了。すると、気持ちがすうっと料理モードに切り替わります。

野菜やお肉などを眺めながら、「何にしよう?」と家族のことや、昨日食べたものなどいろいろなことに思いをめぐらせて、献立を考えます。

それから材料を並べて、やっと調理が始まります。
 
手になじんだ包丁で、「トントントントントンッ」「ザクッ、ザクッ」と小気味よく切ったり、「すうーっ」ときれいに切れたりすると、それだけで気分が上がって料理の手際までよくなります。

手になじんだ包丁は、よく働いてくれます。

こんな時「素材の細胞を傷つけないようにきれいに切るだけで、味が格段によくなるんだよ。」と、以前一流シェフに教えてもらったことをいつも思い出します。

気がつけは、毎日のように付き合っている包丁。

日本人は手先が器用で、包丁を本当に上手に使いますよね。野菜の皮むきに始まって、千切り、くし形切り、いちょう切りに輪切り。いろいろな切り方があって、飾り切りやかつらむきなどの高度なものは、野菜をまるで芸術作品のように生まれ変わらせます。

お魚だって上手に捌いていきますし、お肉だってきれいに切り分けていきます。様々な料理の素材が並んでいきます。


台所には色々な包丁が並んでいるご家庭も多いと思います。牛刀、菜切り包丁、出刃包丁に刺身包丁、柳刃包丁に果物ナイフ、洋包丁に和包丁。数え上げれば本当にたくさんの包丁があります。

最近ではお持ちの包丁の数も減っているかもしれません。結局はいつも同じ包丁を使っているなんてことも多いのではないかと。

わたしなどは、手に馴染んで使い慣れた包丁が一本で何役もこなしてくれたら、こんなに便利でうれしいことはないなぁと思うのです。

わたしが出会ったこの「最適包丁」は軽くて小ぶり。握り手は角がなくて木製。やさしい握りになっています。

軽いので、動きが軽やか。「トントントントントンッ」と野菜を刻む音も、気持ちよく響きます。切り身のお魚も、身を崩すことなく気持ちよく切り分けられます。


そんな時は、料理が楽しくなります。心なしか盛り付けたお皿さえ、ひときわおいしそうに見えます。

そうだ、最近まめに料理をしている大学生の息子にも、使ってもらわなきゃ。きっと、おいしい料理が作れそう。

そんな「最適包丁」とは、これから長い付き合いになりそうです。


  神谷よしえ
大分県宇佐市出身。フードプロデューサー・調味料ソムリエプロ。
大分県宇佐市を基点とし、食のコーディネーターや、調味料ソムリエプロ(日本野菜ソムリエ協会)として活動。九州を始め全国各地で、人と人を繋ぎ、講演、セミナー、催事等を実施。10年以上にわたり大分で厳選した素材でつくり続ける「ゆずごしょう」は全国で大人気。2019年9月に中川政七商店のフードアドバイザーに就任。  



<掲載商品>
最適包丁
最適包丁 パン切り

【わたしの好きなもの】食洗機で洗えるひのきのまな板

まな板スタンドをやめました

我が家にはもともと木のまな板と、気軽に使える小ぶりのプラスチック製のまな板がありました。

夜ご飯の支度には主に木のまな板を使います。包丁の当たりが良くて、「トントントン…」という気持ちの良い音は、食事の支度を楽しくしてくれます。しかし、木のまな板は分厚くて重さがあるので、気軽に切りたいときは軽くて取り回しの良いプラスチック製の出番がしばしば。ただ、包丁の当たりが木のようにやわらかでないので、しっくり来ているわけではないのです。

そこで、木製なのに厚さ1cmという「食洗機で洗えるひのきのまな板」を、我が家のキッチン周りを軽やかで快適にしてくれるアイテムとして早速取り入れました。

木のまな板は厚みがないと反りや割れてしまうという印象。「厚さ1cmって、本当に反らないの?」と、不思議でした。

その秘密は、まな板の両端に板目が垂直になるように板をはめ込んだこと。これによって反りにくくなり、ぎりぎりまで薄く仕上げることができたのだそうです。

我が家の水切りカゴは小さめで、二人分の食器を洗ったら、分厚いまな板を入れたままには出来ませんでした。なので、まず最初に洗ってから、まな板スタンドへ立てて乾かしていました。

このまな板に替えたら、お皿同様に水切りカゴに入れっぱなしでも、場所を取らない!水を切って、ふきんで拭いて、まな板スタンドへという工程がなくなりました。

とても軽いので、切った食材もまな板ごと持ち上げてお鍋に、なんてことも気軽にできます。

「よっこいしょ」という感じがなくて、使うときも、洗うときも軽やかです。

木製って黒ずんでくるのも、気になりますよね。

これを防いでくれるのは、シリコン塗装とウレタン塗装だそうです。シリコン塗装って、鉄のフライパンに施されているのをよく見ますね。木の内部で硬化し撥水することで黒ズミ・カビを抑えるとのこと。

そして横からの黒ずみを防いでくれるのがウレタン塗装。二種類の塗装技術でお手入れも楽チンな木のまな板ができたんですね。

残念ながら、我が家には食洗機がないのですが、反りに強い加工と塗装技術によって、木製なのに食洗機で洗える!という、すごいまな板だということは、声を大にして言いたいです。高温で洗うので衛生的だし、食器と別に洗う手間も省けるし、ぜひ食洗機生活の方には使っていただきたいです!

まな板スタンドがなくなったキッチンスペースは、とってもスッキリして、包丁も新調したことだし(→最適包丁の記事をご覧ください)、それだけで引っ越したわけでもないのに、キッチンが新しくなった気分です。

編集担当 今井

<掲載商品>

食洗機で洗えるひのきのまな板 小
食洗機で洗えるひのきのまな板 大
最適包丁
最適包丁 パン切り

【わたしの好きなもの】玉ねぎで涙がでない包丁

玉ねぎで涙がでない包丁


私は、包丁仕事が苦手です。

家では三徳包丁を使っていますが、苦手意識からか「さあ、刃物を使うんだぞ」と、いつも気負ってしまいます。

ペティナイフならもう少し気楽かな、と思っても、キャベツやかぼちゃなど大きめの野菜や、一枚肉を切る時には小さすぎて、夜ご飯の支度はやっぱり三徳がメインでした。

なので、この最適包丁を作る時、デザイナーの「三徳だと大きすぎるけど、ペティだと物足りない時がある」という思いを聞いて、「すごくわかる!」と同意しました。

まず持った瞬間「軽い!」、そして「小ぶり!!」を実感。



三徳に比べて刃渡りが4、5cm変わるだけで、ペティよりも大きいのに、かわいらしく思えました。

手におさまっている感覚があり、包丁が苦手な私にとっても「気軽に取り回せそう」と気持ちに余裕ができました。



これまで苦手意識を持っていた要因のひとつが、変に力が入ってしまい「指を切ったらどうしよう」と思ってしまうこと。

「切れ味がよくて長続きするように、薄刃に仕上げてあるんです」という、デザイナーの言葉と、「よく切れる包丁の方が力まないから、怖くないんだよ」という先輩主婦の言葉を信じて、いざ夕食の支度に投入。

メニューは筑前煮。人参、大根、蓮根をザクザクっと切ってみたところ‥‥力むことを忘れて切り終わっていました。切った後に、「あれ、普段はもっと肩に力はいってたはずなのに」と気づいたほどです。

それほど、スッと刃が入っていくんです。そして、切り口がいつもよりツルツルな気がしてきれい。



こうなると、いつもは怖いからスライサーを使っている、玉ねぎの薄切りにも挑戦。

怖いのもありますが、玉ねぎって、目が痛くなりますよね。涙がボロボロ出て、鼻水まで出そうになる。そこまでして頑張るなら、洗い物は増えるけどスライサーを使おう、という選択でした。

挑戦の結果‥‥玉ねぎも切れる切れる。すごく薄く切れるのが楽しくて、あっという間に半玉終わってしまいました。そして気づいたのです。

「涙がまったく出ていない!!」

思わず夫に報告に行ったほどです。(※涙の出具合には、個人差があると思います)



デザイナーに聞いてみると、

「薄刃なので、繊維をつぶしにくいみたいです。」

「ただ、玉ねぎで涙が出ないようにとお願いしたわけではないので、薄刃がゆえに、結果そうなったという感じです。でも、みんなから同じような報告があって、嬉しいです。」と喜んでいました。



みじん切りも、最初の縦に切り込みを入れる時点で細い間隔でスッスッと包丁が入ります。これも薄刃ならではなのかと感動。おかげでいつもより細かいみじん切りになって、まるでシェフ気分です。

一度買った包丁って「まだ使えるし」となかなか替えるきっかけがなかったのですが、「最適包丁」は、仕事から帰ってバタバタと夕食の支度をする時の気持ちを上向きにしてくれる。そんな大切な役目をはたしてくれました。


<掲載商品> 最適包丁


編集担当 今井

【わたしの好きなもの】天然毛の歯ブラシ

洗い上がりつるつるの歯ブラシ

朝昼晩の歯磨きは、毎日欠かせないルーティンですね。

歯磨きには、ナイロンの歯ブラシを使っている人が多いかと思います。私もそのひとりで、大体1ヶ月から2ヶ月くらいで買い替えていました。スーパーなどで見かけると予備を買ってちょっと多めにストックしたり。考えてみるとあまり経済的ではありませんね。

そんなときに気になっていたこの「天然毛の歯ブラシ」。

素材には馬毛が使われており、どんな磨き心地なんだろうと、とても興味をそそられました。どちらかというとちょっと硬めの、コシがあるブラシの方が好みですが、はたして馬毛の強度のほどは?



天然毛の歯ブラシデビューの日。せっかくなのでこちらも気になっていた「海塩の粉歯みがき」といっしょに使ってみました。



ヘッド部分は、市販の歯ブラシで「小さめヘッド・コンパクト」とうたわれているものよりはやや大きめのサイズ。ブラシにコシがあり、歯茎を傷めずに磨けている感じがします。

ブラッシングの後は歯の表面がつるつるに。舌で確認すると明らかでした。



ちなみに、普段の歯磨きでは口の中が泡あわになってしまうのが苦手で、いつも短い時間で吐き出してしまうのですが、「海塩の粉歯みがき」は泡も立たず、ほどよい塩加減なのでテレビを見ながらずっとマッサージしている感覚。

磨き終わったら軽く口をゆすぐだけでさっぱりします。歯が抜けたときの血止めに塩水でうがいした思い出が蘇ります。

私はゴシゴシと強めに歯磨きをしてしまう癖があり、これまで歯ブラシを頻繁に買い換えていました。その点、馬毛のブラシはコシと弾力から復元力が高く、寿命が長いのも嬉しいところです。

お手入れとして、使用後は水気をよく切り、最後にティッシュかタオルで軽く押さえるようにしています。



獣臭がするのでは?と気になる方へ。最初に「海塩の粉歯みがき」を使って磨いたときは香ばしいような、独特のにおいがありましたが、1週間もすれば薄れてきます。また、ミントなどのチューブタイプの歯磨き粉を使う場合には、ほとんどにおいは感じられませんでした。

今まで何本も買い替えてきた消耗品のナイロン歯ブラシから、長く大事に使える歯ブラシに出会えました。さっぱりとした後味の「海塩の粉歯みがき」もお気に入りです。

編集担当 今井

桐たんすの良さを今見直す。服をカビや虫食いから守る圧倒的な気密性の秘密

成人式や結婚式、子どもの入学・卒業式といった人生の節目に袖を通す、ドレスや着物などの晴れ着。

高温多湿な日本の気候で、こうした晴れ着の保管は非常に難しいもの。

気をつけていたつもりでもカビが生えてしまったり、虫に食われてしまったり。そんな失敗を防ぐため、晴れ着、特に着物の収納に古くから活躍してきたのが、“桐”のたんすです。

桐のたんす

桐たんすというと、昔の嫁入り道具の定番でおめでたいもの、といったイメージしか持ち合わせていない人も多いかもしれません。

実際は、日本の気候に適応するための高い機能性を兼ね備えた家具であり、その性能は、今の時代においても衣服収納の“最上級”とされるほど。

桐たんす

しかし近年、人々の価値観や住環境が変換する中で、その数は減少の一途を辿っています。

大切な衣服を守りたいニーズ自体は変わらないならば、これからの時代に桐たんすの持つ機能性を活かす道はないものか。

日本一の桐と称される「会津桐」の里、福島県の三島町で、桐たんすづくりや桐の持つ可能性について聞きました。

会津桐たんすの圧倒的な気密性

ほかの木材に比べて軽い、熱を通しにくい、水が浸透しにくい、伸縮が少ない、といった特徴を持つ桐の木。

中でも、福島県大沼郡三島町を中心とした一部のエリアで育った桐は「会津桐」と呼ばれ、材の緻密さや木目の美しさから日本有数の品質をもった桐として重用されてきました。

「冬が長い影響なのか、木目の中で冬目と呼ばれる部分が太くなります。その結果、はっきりと美しい木目が出てきます。材が緻密で、削ったときには非常に綺麗な光沢が出る。そして桐の中では少し硬い部類なので、しっかりとした加工ができることも特徴です」

三島町で「会津桐」のみを使って桐たんすづくりを続ける会津桐タンス株式会社の板橋充是さんは、そう話します。

会津桐タンス 管理部長 板橋充是さん
会津桐タンス 管理部長 板橋充是さん

こうした会津桐の特徴と、職人による精密加工が合わさった結果、会津の桐たんすは着物や貴重品の保存に高い効果を発揮してきました。

「桐は湿気を吸ったり吐いたりする性質を持っているので、年間を通じて内部の湿度があまり変動せず、カビが生えにくいんです。

また、着物につく虫が嫌がる成分を含んでいて防虫効果もあるとされています。個人的には、非常に気密性が高いのでそもそも虫が入り込めないんだと思っています」

桐タンス
修理を繰り返して長く使えることも特徴のひとつ。こちらは、上半分だけ新調したタンス

その気密性の高さは、新潟・福島で水害があった際にも証明されたのだとか。

「洪水で、弊社のお客様が使われていた桐たんすが流されてしまったんです。

ぷかぷかと水に浮いている状態で発見され、引き上げてみると、中の着物がまったく濡れておらず、大変感激されました。

桐たんすの性能は本当にすごいと感じましたね」

板橋さん

このほか、火災にあった際にその難燃性、気密性のおかげで中身が無事だったこともあったそう。衣服収納の“最上級”というのも頷けます。

使えるまでに35年

こうした性能の高さを実現するためには、熟練の加工技術はもちろん、桐の木を育てる段階からさまざまな手間暇をかけて準備をする必要があります。

「太さの目安として直径30〜40cm。30年以上は育てないと使える桐になりません」

と、板橋さんが言うように、まず使える材料になるまで30年以上。桐は、きちんと手をかけて育てないと10〜20年ほどで寿命を迎えてしまうため、その間も気が抜けません。

桐タンス
敷地内に保管している桐の木材。時間が立つほどシブが出て黒くなってくる

さらに、伐採してからは、変形を抑えるための乾燥と、後の変色を抑えるためのシブ抜きに3年〜5年。そこまで管理してようやく、材料としてのスタートラインに立てます。

桐
乾燥を終えて切り出した木材。たんすの表面に使えるのは、木目が綺麗に揃っている部分だけ。左側の間隔が広いところは使えない
桐
桐は樹の中心に穴があって幅広板がとり難い。また、なるべく無駄を出さないために、継ぎ合わせて使用する
桐タンス
柾目を揃えて一枚の板をつくる下ごしらえの作業中

非常に手間と時間を要する桐の生育ですが、桐たんすの最盛期だった昭和40年頃には1本数百万円で取引きされており、多くの人が競って育てていたのだそう。

また、かつては女の子が生まれると家の近くに桐を植え、嫁入りの時にはその桐でたんすをつくり、親の想いを詰め込んで持たせる風習も盛んでした。

「実際には、シブ抜きまで含めると35年ほど掛かるので、嫁入りに間に合わないこともありました。その時は、すでに工場にある材料と交換する形でたんすをつくっていましたね。

桐が高値で売れるので、そのお金でたんすをつくって、他の道具も揃えて結婚式の費用まで賄えた家もあったようです」

100組に1組しか買わない。桐たんすの現実

地域の文化に深く関わっていた桐の木ですが、外国から入ってくるの安い輸入材の影響などもあり、桐の植栽はどんどん減少していきます。

「昔は桐畑で何十本もまとまって植栽されているところがいくつもありましたが、今はあちこちにポツリポツリと生えているものをかき集めないといけない状況です」

桐タンス
これだけの桐材を保管しているところはほとんどないんだとか

さらに、桐たんす自体も時代の変化に抗えず、生産数はどんどんと減少しています。

「今でも、自分の娘の嫁入りにたんすを贈りたい親御さんはいらっしゃいます。

そうした親子が年間100組ほどは弊社の展示場に足を運んでくれるのですが、結局、娘さんの方が『いらない』と言って断ってしまう。

お買い上げいただけるのは、100組中1組といったところでしょうか」

マンション住まいで大きなたんすが置きづらいことや、そもそも着物を着る習慣がなくなっていることもあって、立派な桐たんすをもらっても必要ないと考える人が大半のよう。

「40年前は、お嫁に行くときに1棹(さお)、2棹は当たり前という時代だったんですが。需要はかなり減っています」

桐タンス
内部は色々なパターンがあり、実はサイズも含めて柔軟にオーダーできる
桐タンス

桐の米びつにバターケース。桐の特徴をいかした新商品

生産数減少にともなって、桐たんす職人の数も少なくなってきているといいます。

職人
会津桐タンス株式会社で30年以上のキャリアを持つ二瓶さん
かんな
精密な加工を要するタンスづくりには、かんなを極めることが必須となる
桐タンス
組み立てから修理まで、基本的にすべての工程をひとりの職人が担当する

仕事がなくなると、新しい人を雇えず、後継者が完全に途絶えてしまう。

会津桐タンス株式会社では近年、技術継承の意味も込めて、たんす以外の商品開発にも積極的に取り組んでいます。

「もう少し身近なもの。茶筒だったり、米びつだったりをつくっています。

重要なのは、桐の良さ・特徴をいかせるのかどうか。

軽さ、断熱性、気密性のあるものづくり。かつ、時代に合った商品をつくりたいと考えています」

米びつ
会津桐でつくった米びつ

米びつにしても、茶筒にしても、気密性や湿度の調整は大切で、確かに、桐でつくれば理にかなっています。茶筒の開閉の機構は、たんすの引き出しの加工技術を応用しているのだそう。

茶筒
気密性を利用した、スライド式の茶筒

最近取り組んでいるのはバターケース。

「真夏は無理ですが、それ以外の季節は机の上に出しっぱなしにしておいてもバターが溶けず、いつでも塗りやすい状態で使えて快適です。

桐の断熱性のなせる技かなと思います」

シンプルな商品ながら、桐材のブロックをくり抜いてつくっており、そのおかげで内側に角がなく洗いやすいなど、細かい工夫もされています。

これからも、桐でつくる必然性があるもの、自分たちの技術をいかせるものに挑戦していくつもりとのことでした。

椅子
桐の椅子は、その軽さに驚きます。肌触りも優しく、ご高齢の方に好評なのだそう

1棹100万円前後にもなる桐たんすの補填にとしては厳しいですが、桐の良さに触れる入り口として人々の手に渡れば、桐たんすの魅力が見直されるきっかけになるかもしれません。

30年後、今年植えた桐でたんすをつくりたい

桐たんすそのものに関しても、嫁入り需要は減少したものの、50代以上の方からの注文や、修理の依頼はまだまだ健在とのこと。

桐タンス
引き出しのレール部分は、貼り付けではなく、分厚い状態から彫り出してつくることで、経年しても隙間があかない
桐タンス
こうした小物入れサイズのものでも、その気密性は健在

さらに、サイズの小さなタイプや、洋間にも合うチェストタイプなどをラインアップし、間口を広げつつあります。

桐タンス
チェストタイプのたんす

大切なものを大事に保管したい。そのニーズが変わらない以上、衣服収納の“最上級”である桐たんすの本質を変えずに、今の時代にあった収納を実現できる可能性も十分にあると感じます。

この春には、「桐たんすの格好良さに惹かれた」新入社員が東京からやってきました。

東京工芸高校の卒業生である彼女は「古いたんすにも魅力がある。現代風に少しリメイクしてみたり、取り入れやすいサイズにしてみたり、挑戦してみたいです」と話します。

新入社員
東京からやってきた新入社員

若い人たちにも響く魅力は必ずある。それが伝えられれば、需要も回復し、職人を目指す人も増えるかもしれない。

桐たんすをかっこいいと感じる彼女は、この会社にとって、そして地域の人にとって、きっと励みになる存在なのではないかと感じます。

桐畑の再生にも町ぐるみで取り組み始めた三島町。板橋さんも、東京からやってきた彼女も、口を揃えて話したのは「今植えた桐で、30年後にたんすをつくりたい」ということ。

耐用年数100年ともいわれる桐たんすづくり。時代に合わせたアップデートを模索しながら、次の30年にどんな形で続いていくのか、この先がとても楽しみになりました。

<取材協力>
会津桐タンス株式会社
http://www.aizukiri.co.jp/

文:白石雄太
写真:直江泰治

*こちらは、2019年10月8日の記事を再編集して公開いたしました。