【わたしの好きなもの】気持ちが整うポケット付きのシャツ

こんなところに、ポケットが?


これは、懐紙を入れる為に作られたポケット。このシャツは、お茶のお稽古にそのまま行ける日常着として作られました。



懐紙を入れる斜めの胸ポケットの他にも、左脇には帛紗(ふくさ)を下げるループも付いていて、お稽古で必要な着物の要素が詰まっています。



懐に何も入れなければ、定番のシャツとして着ることもできる万能さ。



背中にはタックがあり、腕を動かす可動域も申し分なく、腕まわりのゆとりがあることは、心の余裕にもつながっている気がします。



着ているだけで緊張するようなシャツが苦手な私にとって、なくてはならないアイテムになりました。



茶道で使われることが多い懐紙ですが、お皿の代わりや汚れを拭う時に使われる、いわば現代のティッシュのような役割をしてくれるもの。

そんな懐紙がスイッチとなって、心を整える時間がスタートする。

この気軽さも、私のお気に入り。

敷居が高いと思われがちな茶道ですが、いつもの白いシャツを着て、季節のお菓子と美味しいお茶を頂けば、ほっこり温かな気持ちと余韻を楽しむことができます。

もちろん着物を着て楽しむお茶もいいものですが、こういうアイテムがあれば、やってみようかなと背中を押してくれますね。



では、一服いただきます!

茶論 ショップディレクター 藤本



<掲載商品>

茶論シャツスタンドカラー レディース
茶論シャツレギュラーカラー メンズ

漆器の老舗がはじめた北陸のものづくりブランド「RIN&CO.」が生まれるまで

「北欧と北陸は似ている」


そんな気づきから、2020年1月にあるブランドが誕生しました。
名前は「RIN&CO.」(りんあんどこー)。

北陸の地で育まれたものづくりの技術をもとに、さまざまなプロダクトを展開する総合ブランドです。

立ち上げたのは、福井県のとある漆器メーカー。なぜ漆器の会社が新たなブランドを手がけることになったのでしょうか?

漆器の老舗が始めた新たな挑戦

「RIN&CO.」を立ち上げたのは、創業1793年の老舗「漆琳堂」。

多様な伝統工芸が息づくものづくりの集積地、福井県鯖江市で、江戸時代から代々受け継がれてきた塗りの技術を生かし、さまざまな越前漆器を手がけています。


▲漆琳堂本社。工房にはショップが併設され、多くのお客さんが訪れる

代表は8代目となる塗師の内田徹さん。

赤や黒といったこれまでの漆器のイメージを覆した自社ブランド「aisomo cosomo」「お椀やうちだ」を展開するなど、業界に新風を吹き込む取り組みを進めてきました。


▲色とりどりの漆を使った「aisomo cosomo」


▲毎日の暮らしの中で使い続けるお椀を提案する「お椀やうちだ」


▲漆琳堂代表の内田徹さん

「自社ブランドを通して、これまで漆器に馴染みのなかった若い方にも知っていただけるようになりました。特に『aisomo cosomo』は新商品を生み出す仕組みがないまま、業績が予想以上に伸びている状態です。このまま同じことを続けていても先細りする。自分もまだまだ新しい挑戦をしてみたいと思い、新しいブランドを立ち上げようと2年前から構想を練り始めました」



パートナーとしてタッグを組むことになったのは、熊本のゆるキャラ「くまもん」をはじめ、幅広いジャンルのデザインやブランディングを手がけている「good design company」の水野学さん。

ヒアリングに1年以上の月日を要し、新ブランドのコンセプトを決めていきました。

漆器の未来から、北陸の工芸の未来へ

当初は漆器のブランドを考えていた内田さんでしたが、北陸の産地をリサーチしているなかで、さまざまなものづくりを扱う総合ブランドにすることを決めたそう。

「北陸にはいろんな産地があるものの、下請けや部材で終わっているものが多く、最終製品としてなかなか世に出ないという課題がありました。

すばらしい技術をもっと多くの人に知ってもらいたいという思ったんです。それに、ゆくゆくは新ブランドでショップ展開、となった時に漆器だけじゃつまらないじゃないですか。北陸の工芸を熱く語れるようなお店の方が面白いですよね」


▲「実際に産地を巡ることで、あらためて北陸の可能性を感じました」と内田さん

また、“北陸の風土”も新ブランドのヒントとなりました。

「山に囲まれた湿潤な気候は漆器が固まるのに適しているし、豊かな雪解け水は和紙や繊維に欠かせません。豊富な木や土があったからこそ木工や焼き物も発達してきました。この地だからこそ息づいてきたものづくりがある、そんな想いをブランド名に表現しようと思ったんです」

新たなブランド名は「RIN&CO.」に。

「RIN」は「Reason In Northland(北陸の地である理由)」の頭文字から、「CO.」は「産地や地域の仲間たち」という意味が込められています。

つながりが生まれたきっかけは「RENEW」

「RIN&CO.」は漆器や和紙、木工、焼き物、繊維など、北陸各地の産地が手がけたプロダクトを展開しています。

内田さんは産地の枠を超えて、どのようにつくり手たちの協力を得ていったのでしょうか。

「一番大きなきっかけは私のお店もある鯖江市河和田(かわだ)地区で行われた『RENEW』というイベントです。漆器だけでなく、眼鏡や和紙、打刃物、箪笥、焼き物など、ものづくりの現場を一般の方に見て知っていただくイベントで、事務局を担当したことからつくり手の方とのつながりが生まれました」


▲普段入ることのできないものづくりの現場を一般公開する「RENEW」


▲期間中はなんと全国から3万人以上の方が訪れる

「RENEW」に関わるまでは、同じ地区にいても異業種だとあまり接点がなかったそう。事務局としてさまざまなつくり手とやりとりするなかで交流が生まれ、今回の「RIN&CO.」でも内田さんの思いに共感する仲間を見つけることができました。

商品のコンセプトは「北欧」!?

次に考えたのは、商品コンセプト。デザイナーの水野さんが北陸に足を運んだり、お互いに何度も打合せする中で、あることに気づいたそうです。

「雪が多く曇天が多い北陸の気候は“北欧”に似ている、という話になったんです。北欧も白夜で冬は雪深い。自然と家のなかにいることが多くなるから、普段の暮らしを楽しめるようなプロダクトやデザインも発達している。ものづくりのメーカーが多いところも似ているなと感じました」

思わぬところで北陸と北欧の共通点を感じた水野さんと内田さん。これまで和の文化のなかで使われることが多かった工芸品に北欧のテイストを取り入れることで、洋の文化にもマッチするプロダクトが完成しました。

漆琳堂の硬漆シリーズ

ここからは「RIN&CO.」の第一弾として発売する商品を少しご紹介します。

まずは内田さんが代表を務める「漆琳堂」の硬漆シリーズから。福井県、福井大学との産学官の連携により開発された、食器洗い機にも耐えうる漆を使った漆器です。


▲まるで漆器とは思えないほどの繊細で美しい色合い

独特の刷毛目が目を引く漆器は、職人の手塗りによるもの。塗り直しがきかず、熟練の技術が求められる技法です。

色は7種類。現代の食生活にも合う独自の形状と美しい色合いは、まるで洋食器のよう。指紋や傷がつきにくく、普段使いできる食器です。

宮吉製陶の白九谷シリーズ

石川県を代表する焼き物といえば「九谷焼」。その特徴は華麗な絵付けですが、「RIN&CO.」ではあえて絵付けを施さず、白磁の透けるような美しさを際立たせた食器をつくりました。


▲独自の釉薬でつくる美しい白磁の九谷焼

強度にすぐれた白磁の九谷焼は、漆の世界でも長年、漆の保存容器として使われてきました。「RIN&CO.」の硬漆シリーズと同じ形状で展開し、九谷焼の新たな一面を打ち出します。

瀧ペーパーのポチ袋

越前和紙は言わずと知れた、日本を代表する和紙の一つ。もともとはお殿様に献上する奉書紙として漉かれていました。「RIN&CO.」では、奉書紙のように“大切なものを届ける・渡す”文化を残したいと、越前和紙のポチ袋をつくりました。



手がけるのは産地でも珍しい、和紙の生産から加工までを手がける福井県越前市の「瀧ペーパー」。さまざまな世代に好まれるやわらかな色合いとかわいらしいデザインが特徴です。

井上徳木工の隅切りトレイ

福井県鯖江市河和田地区にある井上徳木工が手がけるのは、木目が美しい白木のトレー。木地のなかでも重箱やお盆などをつくる「角物師」としての技術が生かされたプロダクトです。



木の特徴を見極め、緻密に計算されて組まれた木地。シンプルだからこそ、美しく仕上げるのが難しいトレーは、日常のどんなシーンにも溶け込みそうです。

エーリンクサービスのトートバッグ

繊維の産地としても有名な北陸では、多湿な気候と豊かな川の水から、品質の高い織物の産業が息づいてきました。「RIN&CO.」では繊維のなかでも雑貨用バッグの企画・製造・加工で国内シェアトップを誇る福井県鯖江市の「エーリンクサービス」とオリジナルバッグを制作。



繊維業界も時代とともに多様化するなか、最新の設備と技術を用いてつくられるバッグで北陸の繊維産業を盛り上げていきます。
※近日発売予定

山中漆器工芸の丸盆

全国の挽物産地の中でも、群を抜いているのが石川県の山中漆器。ろくろを用いて木を削り加工する木地は、美しい山中漆器に欠かせません。そんな高いろくろ技術を用いて作られたのが山中漆器工芸が手がける「丸いトレー」。



木の美しさを最大限に引き出したトレーは、なめらかな曲線が特徴。越前漆器とはまた違った高い技術を感じることができるプロダクトです。


これらの商品を皮切りに、「RIN&CO.」では北陸のさまざまなものづくりの魅力を発信していくそう。

「北陸にはまだまだ素晴らしいつくり手がたくさんいます。RIN&CO.をきっかけに、もっともっと知ってもらう機会を増やしていきたいですね」

内田さんの挑戦は今まさに始まったばかりです。


<オンラインショップ特集ページ>
「RIN&CO.」の特集ページはこちら
 

【わたしの好きなもの】TO&FRO ORGANIZER AIR

荷物が多いわたしを救ってくれた、旅の相棒。


どこへ行くにも、とにかく荷物が多いのが長年の悩み。
PCや充電器はもちろん、癒しのアロマオイルやお菓子、仕事で使うデジタルカメラに紙の資料や文庫本…
「もしかしたら使うかも」という物まで含めてアレもコレもと大量に持ち運ぶその鞄の重量は、一時期10kgを超えていました。

そんな私に運命の出会いが訪れたのは、2019年5月。
石川県の繊維メーカーがつくる、世界最軽量オーガナイザー「TO&FRO ORGANIZER」に「AIR」なる究極版が登場したのです。
※オーガナイザーとは、整理整頓するためのポーチのこと。



魅力はなんといってもその軽さ!
一番小さいサイズは約9gで、その名の通り空気のように軽く、鳥の羽のように柔らかいのが特徴です。
宙に放つとふわふわと静かに落ちてゆくほど、恐ろしく軽いのです。

撥水機能があるからどこへだって連れていけて、くしゅくしゅと畳めば手のひらに収まるサイズに変身。

中身が透けて見えるほど薄い生地なのに、丈夫で長く愛用できるのは、繊維メーカーの皆さんの熱いこだわりが感じられます。



開発を重ねて誕生したその生地は、世界でいちばん小さくて軽い鳥・ハチドリの英名「Humming Bird」が名付けられています。
そんな生地を生み出したカジレーネ株式会社は、日本3大繊維産地・石川県の地で、世界中のアウトドアブランドや
大手アパレルメーカーから信頼を集める企業。なるほど、業界の方々は既にその技術力を知っていたのです。



このオーガナイザーが最も本領を発揮するのは、旅支度の瞬間です。
Sサイズであれば1週間分の靴下とハンカチは余裕で収納できて、
Mサイズならシャツが6枚入る大容量設計。
1gでも荷物を軽くしたい私にとって、とにかく最高の相棒です。



ただのオーガナイザーと侮るなかれ。
これは、心まで軽やかにしてくれるオーガナイザーなのです。


編集担当 広報 佐藤

【職人さんに聞きました】春を運ぶ「花雲」八王子で生まれた、優しい感触

春の訪れを知らせてくれるミモザ。小さな花がたわわに咲き誇る様子を目にすると、心もぽうと暖かくなる気がします。
 
待ち遠しい春に向けて、新しいテキスタイル「花雲」が生まれました。おぼろ雲のように満開に咲く、ミモザの花をイメージしています。

▲花をかたどったドット部分が立体的になっていて、ふんわりとした優しい肌触りからも花の風合いを感じられます。

▲手編みの持ち手がアクセントに
 
「日本の布ぬの」をコンセプトとするテキスタイルブランド「遊 中川」。
 
「産地のテキスタイル」として、各地の布の産地とともに日本の伝統的な素材や意匠、長い年月をかけて培われてきた高い染織技術を用い、現代の感覚でデザインした独自の生地を提案し続けてきました。
今回は、絹織物の産地として知られる東京の八王子で「ジャガード織り」を使った風合い豊かなテキスタイルをつくりました。
 

「ジャガード織り」とは


「ジャガード」とは、穴をあけた紋紙 (もんがみ) を用いて複雑な模様を織り出せる織機の名前。この織機で織られた立体的な生地が「ジャガード織り」です。

 
一般的なジャカード織りは、デザインに沿って紋紙を作成し、記載された情報に従って織っていきます。紋紙には穴のあいている部分とあいていない部分があり、その情報を機械が読み取って布を織っていくという仕組みです。
 

日々新しい生地を生み出す大原織物


今回の生地を織ってくださったのは、八王子で織物業を続ける大原織物の大原進介さん。大原織物では服地をはじめ、バッグ、マフラー、ストール、傘、時計バンドなど多種多様な生地を作ってきました。

▲大原織物の代表取締役 大原進介さん。糸の組み合わせや織りの実験・研究を日々されていて、そのアイデアは無限大。大原さんの技術には、著名なブランドから個人作家さんまで生地作りに携わる多くの方々から絶大な信頼が寄せられています。「遊 中川」も、いつもお世話になっている方です

▲約120年続く大原織物を創業したのは大原さんの祖父、大原平吉さん。八王子ネクタイの源流を作った方として、書籍「八王子織物ネクタイ史」でも紹介されています

 
デザインの可能性広がる「コンピュータージャガード」


大原さんが使うのは、「コンピュータージャガード」と呼ばれる紋紙(型)の代わりにデータを用いる織機。

これまでは試作をする度に紋紙を一から作る必要がありましたが、コンピュータージャガードではデータでの調整が可能です。試行錯誤を繰り返しやすく、よりイメージに近い仕上がりを模索することが可能になりました。

 ▲ 糸や織り方のちょっとした違いでも仕上がりが異なってくる
 
同等の太さの経糸 (たていと) と緯糸 (よこいと)を使い不規則な織りにも対応できるため、複雑な柄も再現できます。また、先に糸を染めているため色落ちしにくく、長く使い続けられるのも魅力です。
 

▲ミモザの複雑な柄もこの技術で実現しました

 
共にものづくりする醍醐味を教えてくれる大原さん


仕上がりイメージと織りの技法が密接に関わるジャガード織り。コンピュータージャガードによって試行錯誤を繰り返せることが大きな魅力ですが、目指すデザインの実現には、デザイナーと職人の対話が重要です。
 
大原さんは、目指すデザインの意図を汲み取りながら、技術的な可能性をたくさん提案して一緒にものづくりをしてくださる方。
 
▲「無理難題を相談されると、かえってやる気が出て楽しくなるんです」と大原さん。相談されたデザインに対してNOとは絶対に言わないのだそう
 
「もっとこうしたらいいんじゃないかとか、こんなのもやってみましたとか、いつもお願いした以上のものを見せてくださって、そこからまたイメージが広がったり、迷いが晴れたりすることがあります。だから毎回一緒にお仕事をするのが楽しいんです」とはデザイナー山口の言葉。
 
多くの方から絶大な信頼を寄せられるのは、大原さんの持つ技術とものづくりへの姿勢、そしてそのお人柄によるところが大きいようです。

▲「ミモザの花が満開に咲いている様子をふんわりと立体的に表現したい」というデザイナーの思いに、柔らかくフワフワとした素材感が特徴のブークレ糸を提案してくださった大原さん。フランス語で巻き毛・輪を意味するブークレー。布地の表面に、もこもことした糸の輪が織り出されることで葉と花の奥行が表現でき、優しい触り心地も生まれました

▲糸や組織のバリエーションを実際に織ったサンプル生地と一緒に提案してくれます
 
いつも楽しそうに生地作りに立ち向かう大原さん。現在は、そんな父の姿を見て育ったお子さん2人も加わり、親子で工房に立っています。八王子で受け継がれた技術が大原さんの研究やアイデアで膨らみ、日々新しい生地が生みだされています。

 
ミモザ感じる春のテキスタイル「花雲」


大原さんと作ったふんわり柔らかいミモザのテキスタイル「花雲」。ぜひ手で触れてその感触を味わってみてください。


<取材協力>
大原織物
東京都八王子市小門町8-19

<オンラインショップ特集ページ>
「遊 中川 テキスタイル 花雲」の特集ページはこちら

日本酒のための「樽」づくり。継承する女性職人の目指すもの

ものづくりの現場では、その場所ならではのさまざまな「音」を耳にします。

紙を漉く、木槌で叩く、土を練る、鉋(かんな)で木を削る。

そうしたときに職人の手から生まれる音は、彼らが積み重ねてきた経験と技の凄まじさを雄弁に物語っているようで、迫力があり、圧倒されることもしばしばです。

そんな、熟練の職人の「音」に魅せられ、新たな世界に挑戦している女性がいます。

日本酒を美味しくする「酒樽」づくりを継承する女性職人

菊正宗の酒造記念館
神戸市東灘区にある菊正宗酒造記念館

日本有数の酒どころ、兵庫県 東灘区。

ここで江戸時代から受け継がれているのが、木製の酒樽づくりです。

菊正宗の酒樽
菊正宗の酒樽

当時は、純粋に運搬用として用いられていた酒樽ですが、樽木の香りや成分によって、入れていた日本酒が美味しくなることが分かってきます。

びんに詰め替えられた樽酒
びんに詰め替えられた樽酒

樽に寝かせることで木香がつき、美味しさがプラスされた日本酒「樽酒」。

その「樽酒」をつくるために受け継がれている木製の樽づくりですが、職人の数が減少し、安定した生産を続けることが年々難しくなってきています。

そんな酒樽づくりの現場に、「どうしてもやってみたい!」と飛び込んできたのが、荒井千佳さん。

荒井千佳さん
樽職人候補として修行に励んでいる荒井千佳さん

荒井さんは今、菊正宗酒造が設立した「樽酒マイスターファクトリー」で、来場者の案内をしながら職人としての修行に励んでいます。

※樽酒用の酒樽づくりの詳細についてはこちら:菊正宗の樽酒工房で知った、酒をうまくする樽ができるまで

「音」に誘われて樽職人の道へ

出会いは菊正宗の蔵開きイベント。樽づくりの実演に心を奪われます。

音大でピアノを学んでいたという彼女の印象に残ったのは、樽づくりの音でした。

「鉋(かんな)を振っている音が、ものすごく自分に響いてきたんです」

その時実演していたのが今の師匠たち。その姿に感動すると同時に「自分にもできそうだと思った」という荒井さんは2017年11月、菊正宗の門を叩きます。

人目に触れない部分であっても美しく仕上げる
荒井さんの師匠の一人、田村さんの鉋がけ。小気味良い音が工場内に響く

当時、菊正宗では樽酒の存続が危ぶまれる中で、3人の樽職人を自社に雇い入れ、樽酒マイスターファクトリーをオープンしたタイミングでした。

樽酒マイスターファクトリー
菊正宗酒造が、“樽酒の魅力”を伝えるために設立した「樽酒マイスターファクトリー」。樽酒づくりのこだわりや製法が知れる展示のほか、“樽”づくりの様子を間近で見ることができる工房です

これからは自社で職人も育てていく、そう決めており、当然社内にも後継者候補の人材はいましたが、まさか外部から女性が新たにやってくるとは誰も思っていなかったようです。

「こんなに変わったやつ、他に来ませんよ」と、師匠のひとり田村さんは嬉しそうに話します。

なり手が少ない樽職人の世界に、若い人がやってきてくれる、しかも並々ならぬ意欲を持って。両者にとって喜ばしい状況ですが「自分にもできそう」という荒井さんの考えは、すぐに覆されることになります。

ひよっこからのスタート

「お酒が入る前の樽自体はさほど重くないだろうし、細かい作業は女性の方が向いているのではないかと思っていました」と話す荒井さん。

樽酒マイスターファクトリーで働く荒井さん
自分にも出来るのでは?という自信があったという荒井さん

しかし、いざ樽づくりに取り組んでみるとそれまでの経験はまるで通じませんでした。

「思った以上に力が必要でした。それも腕ではなく、指先の力が。正直、自信はあったのですが、まったくダメで、ひよっこ扱いでしたね」

樽を固定するために、細く割った竹を輪っか状に結ってつくる「箍(たが)」という素材。この「箍」づくりの工程の、竹を割る段階でまず挫折します。

樽を固定するのは竹でつくった部材
樽を固定しているのが、竹でつくった箍(たが)という部材

「竹の扱いを教えてくれる師匠は、ものの30秒で竹を割っていくのに、私は初めてのとき1時間半もかかりました」

自分からすると、お父さんと呼んでもおかしくない年齢の師匠との力の差を思い知らされます。

「腕立て、腹筋、スクワットは毎日やるようにと言われています。さぼっていると、それが明確にでるのですぐにバレてしまう。

樽をつくることそのものよりも、毎日自分を鍛え続けることの方が大変かもしれません。

師匠たちもいまだに筋トレをしていて、休憩部屋でダンベルをあげたりしているのをよく目にしています」

最後は“勘”を磨くしかない。よくできた樽は記念に撮影

もちろん、腕力とともに、繊細な感覚、技術も必要です。

「師匠からは『指一本、この長さ』というように言われます。その目安をつかむのが難しい。

師匠の手と自分の手はぜんぜん大きさも違います。師匠のその幅は、私だとどうなのか、探し出さないといけません」

職人といえば“見て学ぶ”ことを基本として、あまり口では教えてくれないイメージがありますが、荒井さんの師匠たちは、自分たちが修行時代にそうされたのが嫌だったようで、弟子には丁寧に教えることを心がけているのだとか。

菊正宗で樽酒をつくる職人たち
荒井さんの師匠たちは、とても丁寧に教えてくれるそう

とは言え、最終的には“勘”がすべての世界。明確にここは何cmといった指標があるわけではないので、自分の手で感覚を掴んでいかなければなりません。

樽酒マイスターファクトリーで樽をつくる荒井さん
当初思っていたよりも、力を必要とした樽づくり
樽酒マイスターファクトリー

「自分の中で、目方がぴたっと合って、綺麗にできたな!という樽は、思わずスマホで写真を撮ってしまいます」

師匠の「音」を目指して

弟子入りしてから1年以上。

「毎日が本当に楽しい」と荒井さんは言います。

「伝統を引き継ぎたいとか、そんなことは抜きにして、ただ純粋に、樽に触っているときが楽しくてしょうがない。

この先何十年とやっていきたいし、将来子どもを産むことがあっても続けたいです」

樽酒マイスターファクトリー
師匠から見える位置でいつも作業をしているそう

そして今の大きな目標は、師匠に認めてもらうこと。

「師匠の樽は、つくっている時の音が違う。全然違う。聞いていて、悔しくなってきます」

自分の樽の良し悪しも、途中の音でなんとなく判断がつくという荒井さん。日頃、師匠の目に見えるところで修行をしながら、その音に少しでも近づこうと努力しています。

「本当に手取り足取り教えてくれて、ほめてくれることもあるけど、本気では言ってないのがわかるんです。

いつか、本気で唸らせたい。『お、ええやん』ていう一言が欲しいですね」

樽酒マイスターファクトリー
材料選びに苦戦する荒井さんに、「こっちの方が後で帳尻ききやすいで」と的確にアドバイスする田村さん
樽酒マイスターファクトリー
いつか、本気で唸らせたい

30年で一人前とも言われる樽づくり。途方もなく長い期間にも思えますが、その間、常に理想を追い続け、成長を続けられる、やりがいに溢れた仕事だと感じます。

奈良の吉野杉を用い、くぎや接着剤は一切使わずに仕上げる灘の酒樽づくり。

今年、「灘の酒樽製作技術」として、「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」(国選択無形民俗文化財)にも指定され、その技術継承の機運は高まっています。

はるか先を行く師匠の背中を追いながら、荒井さんがどんな音をつくっていくのか、数年後また工房を訪ねる日が楽しみです。

<取材協力>
菊正宗酒造株式会社
樽酒マイスターファクトリー
http://www.kikumasamune.co.jp/tarusake-mf/

文:白石雄太
写真:直江泰治

※こちらは、2019年5月28日の記事を再編集して公開しました。

【わたしの好きなもの】ずっと使えるベビースプーン

大小のスプーンのリバーシブルがとても便利


娘の離乳食が始まって数か月。段々と食べられるものの種類が増えてきました。
初めての子育てなのでいろいろ神経質になりがち。最初の頃は、消毒ができる市販のプラスチック製のベビースプーンを使っていました。

口に入るものですから、やはり哺乳瓶と同じように煮沸や薬液による消毒をしっかりしたかったので、それに対応した素材のものを使用していました。



とはいえ、木製の「ずっと使えるベビースプーン」を離乳食が始まったら娘にプレゼントしようと考えていました。あたたかい風合いと、子鹿のマークの刻印入りでなんとも愛らしいスプーン。
かわいくて素朴な雰囲気が、まだまだ赤ちゃんの娘にぴったりだと思っていました。
ただ、ずっと気がかりだったのが消毒ができないこと。これがネックで買うのを躊躇っていました。

でも、月日が経つにつれ、なんでも口に入れるようになってきた娘。こどもの道具全てを消毒するには手間も増えて結構負担がかかってきました。
「離乳食の食器などは綺麗に洗えば消毒まで神経質になることはない」と自分の親や小さいお子さんがいる知人から聞いたり、妻が読んでいる育児書の本にもそう書いてあったようなので、食器の消毒くらいはもうやらなくていいかと妻と相談して思い切って「ずっと使えるベビースプーン」を買ってみました。




すると、問題なく使用できました!娘も嫌がらずに使ってくれました。
素材は口当たりのよいメープル(楓)。大人が手で触ってもその滑らかな仕上がりがよくわかります。
それに堅くて丈夫であり、食品衛生検査に合格した安全な素材が使用されているので、安心して使用できました。
あと、これは気持ちの問題かもしれませんが、木製のスプーンの方がプラスチック製のものより、こどもの若干生えてきた歯にこつこつと当たる振動が伝わってくるように思います。
歯がしっかり生えてきている!とうれしくなります。




お手入れも簡単。木はウレタン塗装で仕上がっていますので、中性洗剤が使用できます。市販のウレタン塗装仕上げの木製製品の食器と同様、綺麗に洗った後はふきんでしっかり水気を拭き取ってしっかり乾燥させればOKです。
心配性な妻も、気兼ねなく赤ちゃん用の食器洗剤で洗えるから安心!と大喜びです。




商品名に「ずっと使える」とついているように、スプーンはなんと小さなスプーンと大きなスプーンのリバーシブルになっていて、こどもの成長に合わせて使い分けることが可能です。
これがこの商品の一番の特徴だと思います。
こどもが大きくなったらスプーンも大きく使える、まさにずっと使えますね。


そしてもう一つ、意外な使い方を妻が発見しました。
「これさぁ、離乳食の温度を確かめたいときに大きい方を大人が使えば、手も汚さないし洗い物も増やさずに確認できるね!」
なるほど!と思いました。これまではお粥など手の甲に垂らして温度を確認していましたが、この方法なら手も汚れませんし、すぐに温度を確認できます。




こどもが大きくなった時、「このスプーン、あなたが小さい小さいときからずっと使っているんだよ。」
なんて言えたらうれしいなぁ、と思いながら使用しています。その日が来ることを楽しみに、大切に使っていこうと思っています。


編集担当 森田

<掲載商品>

ずっと使えるベビースプーン