桐たんすの良さを今見直す。服をカビや虫食いから守る圧倒的な気密性の秘密

成人式や結婚式、子どもの入学・卒業式といった人生の節目に袖を通す、ドレスや着物などの晴れ着。

高温多湿な日本の気候で、こうした晴れ着の保管は非常に難しいもの。

気をつけていたつもりでもカビが生えてしまったり、虫に食われてしまったり。そんな失敗を防ぐため、晴れ着、特に着物の収納に古くから活躍してきたのが、“桐”のたんすです。

桐のたんす

桐たんすというと、昔の嫁入り道具の定番でおめでたいもの、といったイメージしか持ち合わせていない人も多いかもしれません。

実際は、日本の気候に適応するための高い機能性を兼ね備えた家具であり、その性能は、今の時代においても衣服収納の“最上級”とされるほど。

桐たんす

しかし近年、人々の価値観や住環境が変換する中で、その数は減少の一途を辿っています。

大切な衣服を守りたいニーズ自体は変わらないならば、これからの時代に桐たんすの持つ機能性を活かす道はないものか。

日本一の桐と称される「会津桐」の里、福島県の三島町で、桐たんすづくりや桐の持つ可能性について聞きました。

会津桐たんすの圧倒的な気密性

ほかの木材に比べて軽い、熱を通しにくい、水が浸透しにくい、伸縮が少ない、といった特徴を持つ桐の木。

中でも、福島県大沼郡三島町を中心とした一部のエリアで育った桐は「会津桐」と呼ばれ、材の緻密さや木目の美しさから日本有数の品質をもった桐として重用されてきました。

「冬が長い影響なのか、木目の中で冬目と呼ばれる部分が太くなります。その結果、はっきりと美しい木目が出てきます。材が緻密で、削ったときには非常に綺麗な光沢が出る。そして桐の中では少し硬い部類なので、しっかりとした加工ができることも特徴です」

三島町で「会津桐」のみを使って桐たんすづくりを続ける会津桐タンス株式会社の板橋充是さんは、そう話します。

会津桐タンス 管理部長 板橋充是さん
会津桐タンス 管理部長 板橋充是さん

こうした会津桐の特徴と、職人による精密加工が合わさった結果、会津の桐たんすは着物や貴重品の保存に高い効果を発揮してきました。

「桐は湿気を吸ったり吐いたりする性質を持っているので、年間を通じて内部の湿度があまり変動せず、カビが生えにくいんです。

また、着物につく虫が嫌がる成分を含んでいて防虫効果もあるとされています。個人的には、非常に気密性が高いのでそもそも虫が入り込めないんだと思っています」

桐タンス
修理を繰り返して長く使えることも特徴のひとつ。こちらは、上半分だけ新調したタンス

その気密性の高さは、新潟・福島で水害があった際にも証明されたのだとか。

「洪水で、弊社のお客様が使われていた桐たんすが流されてしまったんです。

ぷかぷかと水に浮いている状態で発見され、引き上げてみると、中の着物がまったく濡れておらず、大変感激されました。

桐たんすの性能は本当にすごいと感じましたね」

板橋さん

このほか、火災にあった際にその難燃性、気密性のおかげで中身が無事だったこともあったそう。衣服収納の“最上級”というのも頷けます。

使えるまでに35年

こうした性能の高さを実現するためには、熟練の加工技術はもちろん、桐の木を育てる段階からさまざまな手間暇をかけて準備をする必要があります。

「太さの目安として直径30〜40cm。30年以上は育てないと使える桐になりません」

と、板橋さんが言うように、まず使える材料になるまで30年以上。桐は、きちんと手をかけて育てないと10〜20年ほどで寿命を迎えてしまうため、その間も気が抜けません。

桐タンス
敷地内に保管している桐の木材。時間が立つほどシブが出て黒くなってくる

さらに、伐採してからは、変形を抑えるための乾燥と、後の変色を抑えるためのシブ抜きに3年〜5年。そこまで管理してようやく、材料としてのスタートラインに立てます。

桐
乾燥を終えて切り出した木材。たんすの表面に使えるのは、木目が綺麗に揃っている部分だけ。左側の間隔が広いところは使えない
桐
桐は樹の中心に穴があって幅広板がとり難い。また、なるべく無駄を出さないために、継ぎ合わせて使用する
桐タンス
柾目を揃えて一枚の板をつくる下ごしらえの作業中

非常に手間と時間を要する桐の生育ですが、桐たんすの最盛期だった昭和40年頃には1本数百万円で取引きされており、多くの人が競って育てていたのだそう。

また、かつては女の子が生まれると家の近くに桐を植え、嫁入りの時にはその桐でたんすをつくり、親の想いを詰め込んで持たせる風習も盛んでした。

「実際には、シブ抜きまで含めると35年ほど掛かるので、嫁入りに間に合わないこともありました。その時は、すでに工場にある材料と交換する形でたんすをつくっていましたね。

桐が高値で売れるので、そのお金でたんすをつくって、他の道具も揃えて結婚式の費用まで賄えた家もあったようです」

100組に1組しか買わない。桐たんすの現実

地域の文化に深く関わっていた桐の木ですが、外国から入ってくるの安い輸入材の影響などもあり、桐の植栽はどんどん減少していきます。

「昔は桐畑で何十本もまとまって植栽されているところがいくつもありましたが、今はあちこちにポツリポツリと生えているものをかき集めないといけない状況です」

桐タンス
これだけの桐材を保管しているところはほとんどないんだとか

さらに、桐たんす自体も時代の変化に抗えず、生産数はどんどんと減少しています。

「今でも、自分の娘の嫁入りにたんすを贈りたい親御さんはいらっしゃいます。

そうした親子が年間100組ほどは弊社の展示場に足を運んでくれるのですが、結局、娘さんの方が『いらない』と言って断ってしまう。

お買い上げいただけるのは、100組中1組といったところでしょうか」

マンション住まいで大きなたんすが置きづらいことや、そもそも着物を着る習慣がなくなっていることもあって、立派な桐たんすをもらっても必要ないと考える人が大半のよう。

「40年前は、お嫁に行くときに1棹(さお)、2棹は当たり前という時代だったんですが。需要はかなり減っています」

桐タンス
内部は色々なパターンがあり、実はサイズも含めて柔軟にオーダーできる
桐タンス

桐の米びつにバターケース。桐の特徴をいかした新商品

生産数減少にともなって、桐たんす職人の数も少なくなってきているといいます。

職人
会津桐タンス株式会社で30年以上のキャリアを持つ二瓶さん
かんな
精密な加工を要するタンスづくりには、かんなを極めることが必須となる
桐タンス
組み立てから修理まで、基本的にすべての工程をひとりの職人が担当する

仕事がなくなると、新しい人を雇えず、後継者が完全に途絶えてしまう。

会津桐タンス株式会社では近年、技術継承の意味も込めて、たんす以外の商品開発にも積極的に取り組んでいます。

「もう少し身近なもの。茶筒だったり、米びつだったりをつくっています。

重要なのは、桐の良さ・特徴をいかせるのかどうか。

軽さ、断熱性、気密性のあるものづくり。かつ、時代に合った商品をつくりたいと考えています」

米びつ
会津桐でつくった米びつ

米びつにしても、茶筒にしても、気密性や湿度の調整は大切で、確かに、桐でつくれば理にかなっています。茶筒の開閉の機構は、たんすの引き出しの加工技術を応用しているのだそう。

茶筒
気密性を利用した、スライド式の茶筒

最近取り組んでいるのはバターケース。

「真夏は無理ですが、それ以外の季節は机の上に出しっぱなしにしておいてもバターが溶けず、いつでも塗りやすい状態で使えて快適です。

桐の断熱性のなせる技かなと思います」

シンプルな商品ながら、桐材のブロックをくり抜いてつくっており、そのおかげで内側に角がなく洗いやすいなど、細かい工夫もされています。

これからも、桐でつくる必然性があるもの、自分たちの技術をいかせるものに挑戦していくつもりとのことでした。

椅子
桐の椅子は、その軽さに驚きます。肌触りも優しく、ご高齢の方に好評なのだそう

1棹100万円前後にもなる桐たんすの補填にとしては厳しいですが、桐の良さに触れる入り口として人々の手に渡れば、桐たんすの魅力が見直されるきっかけになるかもしれません。

30年後、今年植えた桐でたんすをつくりたい

桐たんすそのものに関しても、嫁入り需要は減少したものの、50代以上の方からの注文や、修理の依頼はまだまだ健在とのこと。

桐タンス
引き出しのレール部分は、貼り付けではなく、分厚い状態から彫り出してつくることで、経年しても隙間があかない
桐タンス
こうした小物入れサイズのものでも、その気密性は健在

さらに、サイズの小さなタイプや、洋間にも合うチェストタイプなどをラインアップし、間口を広げつつあります。

桐タンス
チェストタイプのたんす

大切なものを大事に保管したい。そのニーズが変わらない以上、衣服収納の“最上級”である桐たんすの本質を変えずに、今の時代にあった収納を実現できる可能性も十分にあると感じます。

この春には、「桐たんすの格好良さに惹かれた」新入社員が東京からやってきました。

東京工芸高校の卒業生である彼女は「古いたんすにも魅力がある。現代風に少しリメイクしてみたり、取り入れやすいサイズにしてみたり、挑戦してみたいです」と話します。

新入社員
東京からやってきた新入社員

若い人たちにも響く魅力は必ずある。それが伝えられれば、需要も回復し、職人を目指す人も増えるかもしれない。

桐たんすをかっこいいと感じる彼女は、この会社にとって、そして地域の人にとって、きっと励みになる存在なのではないかと感じます。

桐畑の再生にも町ぐるみで取り組み始めた三島町。板橋さんも、東京からやってきた彼女も、口を揃えて話したのは「今植えた桐で、30年後にたんすをつくりたい」ということ。

耐用年数100年ともいわれる桐たんすづくり。時代に合わせたアップデートを模索しながら、次の30年にどんな形で続いていくのか、この先がとても楽しみになりました。

<取材協力>
会津桐タンス株式会社
http://www.aizukiri.co.jp/

文:白石雄太
写真:直江泰治

*こちらは、2019年10月8日の記事を再編集して公開いたしました。

益子焼「よしざわ窯」人気の秘密。鳥やレモンのうつわはどうやって生まれたのか?

栃木県益子にある「よしざわ窯」は代表作「レモン皿」のような、見た目のかわいらしいデザインが魅力。シンプルでアンティークのようなモノから、花や鳥、動物、植物をデザインしたものなど、さまざまな凝った食器をネットショップで販売しています。

リーズナブルな価格で、色合いが鮮やかなことから多くの女性ファンを惹きつけました。Instagramを中心に人気に火がつき、ただ今売り切れが続出中です。

個性的でかわいらしいデザインが人気です
個性的でかわいらしいデザインが人気です

今回はそんな「よしざわ窯」へお邪魔して、お話を伺ってまいりました。「よしざわ窯」の人気の秘密に迫ってみようと思います。

色合いも鮮やか。一風変わった形のお皿も人気です
色合いも鮮やか。一風変わった形のお皿も人気です
食材を載せるとさらに映えます
食材を載せるとさらに映えます

「なんでもやってみよう」とネットショップからスタート!

「よしざわ窯」代表の吉澤泰久さんにお話を伺いました
「よしざわ窯」代表の吉澤泰久さんにお話を伺いました

もともとサラリーマンだった吉澤さん。益子焼の窯元だった両親は個人で器を制作し、益子町で開かれる陶器市などで販売していたのですが、2006年そろそろ引退というタイミングで引き継ぐことになりました。

奥さんの出産を機に2003年に開設したネットショップ「on the table」を一緒に運営する形で試行錯誤が始まります。「器の制作からネットショップの運営までなんでもやってみよう」という気持ちでした。

創業メンバーで現在もデザインを担当する成良恵奈さんなど、制作者やホームページを運営する人など分担制ができあがり、今に至ります。

「そこに成良がいたのが後々大きかったですね。デザインをきちっとやってくれる人がいたから、いろいろなことが自由にできました。どんなアイデアでも、きちんとデザインされているお皿ができるようになったのが大きい」と吉澤さんは言います。

成良さんがいたことで自由にできた。いったいどういうことでしょうか。

社員のアイデアから生まれた鳥鉢

成良さんが全てのデザインを担当しているのかというと、どうやら違うようです。最初に変わったデザインの器を考えついたのはパートタイムで仕事をするの事務職の女性だったそうで‥‥。

「”鳥鉢”ということで鳥の形をした”取り鉢”を作ったら、というアイデアが出たんです。それを成良がイラストに起こしてくれた。うちの器はそんなふうに、誰かのアイデアをバトンリレーするように作っていくことが多いですね」

取り鉢だから鳥の形
取り鉢だから鳥の形

アイデア自体は「よしざわ窯」で働いている皆さんから生み出されます。それを取りまとめるのは成良さんを含めた女性3人のデザイン部です。企画会議のようなものはありません。アイデアの元となる言葉や写真、イラストから図面に起こして、形にしていきます。

吉澤さんは成良さんと保育園から高校までずっと一緒だったそうです。成良さんは造形作家としても活動しており、個展も開いています。ただ、デザインの勉強をしていたわけではなく、全部独学。ほかの2人は主婦のデザイナーです。彼女たちは石膏の型作りから見様見真似で学びながら、今までやってきたそうです。

「みんなで『こういうのいいよね』『ああいうのいいよね』と言いながら進めていきます。時には成形段階で変えてしまうこともあります。その辺はカチッと決めていません。合理的に進めているわけではなく、途中で感覚的に制作を止める場合もあります」

アイデアから図面に起こします
アイデアから図面に起こします

さらに吉澤さんは「言語的なアイデア、もしくはアイデアの欠片みたいなものをかなり無責任に投げっぱなし。でも、デザイン部の3人がちゃんと器として成り立つ、デザインとして成り立つものにしてくれます。実際に形にしていくなかでの修正能力は相当高いですね。3人を信頼しています」と語ります。

女性スタッフが3分の2!使う人の目線で生み出される器の魅力

よしざわ窯で働くスタッフの3分の2は女性です。フットワーク軽く、アイデアがあがった時点で「まずはやってみよう」と動き始めます。

女性スタッフが多い「よしざわ窯」
女性スタッフが多い「よしざわ窯」

「家事の中でも、“毎日の料理”は重い課題です。お客さまから『そこそこな料理が器で助けられました』という声をいただき、勇気づけられました。それはうちの妻もよく言っています。それくらい器には日々を助けるパワーがある」

スタッフは自身の毎日の家事の中から、「こんな器があったらいいのに」を商品のアイデアにしていくことが多いそう。使う人の立場に立って考え抜かれた器が使う人に選ばれる。よくよく考えてみれば、これは必然の結果なんですね。

レモンのお皿です。カレーを入れるもよし。サラダを入れるもよし
レモンのお皿です。カレーを入れるもよし。サラダを入れるもよし

料理を載せてこその器

よしざわ窯のネットショップ「on the table」では“器は食卓で使ってこそ”という意味合いが込められています。よしざわ窯の器は料理と常にセット。使うということをかなり意識して作っているそうです。

「料理のアイデアから器に落とし込むというケースもありますが、後からどんな料理を載せられるのかを考えることもあります。そのへんもかなり曖昧。一生懸命いろんなものを載せてみて、これは何に使ったらいいのか。ネットショップでは必ず、使い方と一緒に提案しています」

「お皿は料理と常に組み合わせ」と吉澤さん
「お皿は料理と常に組み合わせ」と吉澤さん

カレーを食べるときにいいのか。サラダを食べるときにいいのか。はたまた麺類を食べるときにちょうどいい深さなのか。皆で話し合います。さらに「よしざわ窯」ではホームページやSNSで、自社の器にどんな料理を載せたらいいのか、提案もしています。最近では、ホームページを作るための写真スタジオも新設したといいます。

自然光がたっぷり入るホームページ制作スタジオ
自然光がたっぷり入るホームページ制作スタジオ

益子の土があったからこそ、このデザインが出来上がった。

さて、工場を見学させていただきましょう。

よしざわ窯では石膏型の上に粘土の生地を当てる、たたら作りで器を製作しています。ろくろでは丸いものしか作ることができませんが、たたら作りはさまざまな形の器を作ることができるので自由度が高いのが特徴。よしざわ窯のような凝ったつくりの器に適した作り方といえます。

石膏型を緻密に作り上げます
石膏型を緻密に作り上げます

ちなみに、益子の土は砂気と鉄分が多いそうです。そのため、やや厚手でごつごつした質感を持っており、出来上がりはボテッとした感じのものになります。「これがたたら作りと相性が良かった」と吉澤さんは言います。益子という土地だからこそ成り立つデザインでもあったわけです。

石膏型の上に粘土を上に当てます
石膏型の上に粘土を上に当てます

アイデアはざっくりと。生産管理はきっちりと。

製作は全て分担制。それぞれ1日に何個作ったかという表があるそうです。アイデアを考えるときは「ざっくり」でも、正確さやスピード、生産管理に関しては効率性を追い求めています。

窯の部屋に行くと、素焼きや本焼きを待つ器が大量の台車に乗せられています。地面にはレールのようなものが引かれており、焼きあがったらいつでも入れ替えられるようになっています。

大量の器が窯焼きを待っています
大量の器が窯焼きを待っています

「器の価格をリーズナブルにするために、どれだけロスを減らすか、どれだけ作った商品を無駄なく、寝ている状態なく窯から出して商品化できるか。こだわってきました」と吉澤さん。

2つの窯で効率的に焼き上げます
2つの窯で効率的に焼き上げます

よしざわ窯はネットショップを中心に販売をしています。決済方法は先払いで、お客さんからお金をいただいて、出来上がったものをすぐに発送する仕組み。売り切れの場合も、メールマガジンに登録していれば再入荷情報がお知らせで届く。そうやって、できるだけ在庫ロスや売り逃がしを防いでいるのです。

ネットショップだからできたこと

さかのぼること2000年代。器が売れなくなった時期がありました。ここ、益子にはたくさんの販売店がありますが、お店の棚はどこもすでに腕利きの陶芸家や工房の作品がひしめき合っている状態。売り先をどうしようか悩んでいるときに吉澤さんが出会ったのがネットショップでした。

「ネットショップと出会ったことが大きかった」と話す吉澤さん
「ネットショップと出会ったことが大きかった」と話す吉澤さん

「個人のお客さまへ、ギャラリーや百貨店で取り扱われている高級な器だけでなく、私たちが作っているようなもうちょっと安くて手作り感のあるものをお届けしたかったんです。

これまで多くのお客さんに向き合うには、東京へ行くしかなかった。でも、ネットであれば田舎からでも発信できます。誰にお礼を言ったらいいか、わからないですけどね(笑)」

インターネットやSNSを積極的に活用することで、よしざわ窯のかわいらしい器たちを求める人々の心に刺さり、人気の窯元となりました。

使う人の実感を元にスタッフがアイデアを生み出し、デザイン部が取りまとめる。作ったものはしっかりと在庫・流通管理をしてお客さんに届ける。今の時代に合わせるようにフレキシブルな体制を作り上げていったのです。

スタッフたちが力を合わせて一つの「作品」を仕上げていく。だからこそ、温かみのある器が提供できているのでしょう。

<取材協力>
よしざわ窯
栃木県芳賀郡益子町益子3546
0285-77-0880

文:梶原誠司
写真:長谷川賢人(1、4枚目はよしざわ窯ご提供)

*こちらは、2019年5月3日の記事を再編集して公開いたしました。

【わたしの好きなもの】仕事の時間のチョコレート

仕事の時間を応援してくれます!


もともと、チョコレートは好きでした。
カバンの中や会社の机の中には、ストックしておきたいタイプです。

そんな私の最近のお気に入りは、クラフトチョコレートメーカーのMinimalさんとのコラボ商品
「仕事の時間のチョコレート」。
その理由は、チョコレートへのイメージが変わったからです。




<チョコレートは、フルーツでした。>
Minimalさんのホームページには、こんな言葉がのっています。
「本当かなぁ」と一度Minimalさんの直営店に足を運び、
何種類か試食させていただいて、驚きました。
原材料はカカオ豆と砂糖だけなのに、
豆の種類がちがうだけで本当に香りが変わります。
Minimalさんは、世界中のカカオ農園に直接足を運び、品質の良いカカオ豆を自ら選び仕入れています。
良質なカカオ豆の個性を表現する事を追究し、自社工房で職人がカカオ豆から
一枚のチョコレートの板になるまで、すべて手仕事で製造し、販売しています。




そして「ザクザク」とした食感!
カカオ豆本来の香りを引き出すために生まれた、独自製法によるものだそうです。
”カカオ豆””カカオ濃度””焙煎具合”それぞれが少し異なるだけで、
味や口の中の香りの残り方がまったく変わります。

チョコレートって、口当たりがなめらかで、甘いもの。
そんなイメージが変わりました。
もっと奥が深くて、面白いものだったのです。
丁寧なものづくりって、価値観を変える強さがあるのだと改めて感じました。

中川政七商店とのコラボ商品「仕事の時間のチョコレート」は、スッキリした酸味が特徴。
そして、70%というハイカカオなのに美味しい!
「仕事の時間」に食べてちょうどいいチョコレートは、
・気分を切り替える →チョコレートの酸味
・集中力を高める →チョコレートのカカオ濃度
・気持ちを落ち着かせる→チョコレートの深いコク
・糖分を補給する →チョコレートの甘味
これらを考え抜いて作られているんです。




・酸味の強さでリフレッシュを引きだたせるために高級チョコレートの深い甘味と酸味をもった
カカオ豆である「ドミニカ共和国」シングルオリジンを採用
・集中力を高めるために「ハイカカオ」と呼ばれるカカオ濃度70%に
・浅煎でも深煎でもなく「中煎」にすることで、チョコを食べた後、カカオの香りの余韻をちょうど良い長さを残す
・Minimalのチョコの形状が会話をつくりコミュニケーションを活性化させる
こんなこだわりがぎゅっと詰まった、1枚のチョコレート。




仕事で煮詰まって気分を切り替えたい時、集中力を上げてもう少しがんばりたい時、
机の引き出しの中から出てきて、私を応援してくれています。

日にちが近づく、バレンタインデーやホワイトデ―。
今年は、「仕事の時間のチョコレート」をプレゼントしたいと思います。
そして、誰か私にもプレゼントしてください!

編集担当 立石

「北斎漫画」を復活させた職人技。日本で唯一、手摺り木版和装本を出版する版元へ

京都・寺町二条。京都市役所や京都御苑にもほど近い街の中心部だ。丸太町通りと御池通りの間の寺町通り沿いには、骨董屋や古書店、和菓子店や歴史ある茶舗などが並び、歩くだけでも風情ある街並みを楽しめる。

日本で唯一、手摺木版による和装本を出版する京都「芸艸堂」

そんな寺町通りの一角にあるのが、明治24年にこの地で創業した「芸艸堂(うんそうどう)」。ここは、今や日本で唯一の手摺木版(てすりもくはん)による和装本の出版社だ。

芸艸堂

手摺木版とは、その名の通り版木に色をのせ、紙に色を写していく版画印刷のこと。当然、一枚一枚手作業となる。それを四つ目綴じなどの製本技術を用い、何十ページにも束ねて一冊の本として発行する。一連は江戸時代から続く伝統技法だが、出版の原理は現在書店に並んでいる本となんら変わらない。

芸艸堂の和装本「北斎漫画」

創業者の山田直三郎は、当時京都で名の知られた木版出版社「田中文求堂」で修業の末独立し「山田芸艸堂」を開業。のちに兄の市次郎と弟の金之助が営んでいた「本田雲錦堂」と合併し、現在の形となった。

そして芸艸堂が成長を遂げた背景には、かつて一大産業として発展し、世界からも注目を集めた京都の伝統工芸が関係していた。

美術印刷と京都の地場産業との意外な関係

茶道、華道、能、花街など、さまざまな日本文化が発展した京都において、そこに付随する「着物」産業もまた、切っても切り離せない関係であった。

絢爛豪華な「西陣織」による織物、色鮮やかな「友禅染」による染物など、日本最高峰の技術が結集され、地場産業として大いに発展した着物文化こそが、「着倒れの京都」と称される所以だ。

着物産業と木版和装本。すぐにはピンと来ないかもしれないが、そこには両者の意外な関係が隠されていた。

京都の着物といえば、西陣織や京友禅など、仕立てに関する技術や工程にスポットが当てられがちだが、それだけが着物を作る過程ではない。

かつて京都の街中には、着物の「意匠」を考案する多数の図案家が存在した。現代風にいうと「デザイナー」。着物の生産がさかんになればなるほど、着物の図案もより多くのパターンが求められるのは必然だろう。最盛期、ひと月に30ものパターンを作成していた図案家もいたと言われている。

その図案を集約し、一冊の本にして発刊していたのが芸艸堂。それはいわば図案家の作品集で、新たな「意匠」を考案するための重要なツールとなる。

図案家が考案したデザインの原案を、より忠実に、美しく表現できたのが、芸艸堂の木版技術であった。

時代を超えて受け継がれる、モダンなデザインの数々

現在代表を務める四代目の山田博隆さんは、代々受け継がれた出版技術や膨大な版木を生かし、当時の人気シリーズの復刻にも取り組んでいる。

代表で四代目の山田博隆さん
代表で四代目の山田博隆さん

そのひとつが、明治時代の代表的な図案家・神坂雪佳の作品集である『滑稽図案』。明治36年に初版が発行され、昨年、15年ぶりに重版された。摺り師による印刷技術、製本技術を結集し、初版の版木をそのまま用いている。貴重な版木と職人技を現代まで受け継いだ、芸艸堂だからこそ復刻できる渾身の一冊だ。

再版された『滑稽図案』。明治時代の色合いを見事に再現
再版された『滑稽図案』。明治時代の色合いを見事に再現

神坂雪佳といえば、琳派の影響を受けた『四季草花図』などの日本画が著名だが、そこには想像していたよりも、ずっとポップで鮮やかな世界が広がっていた。

山田さんによれば、この滑らかで発色の良い風合いは版画でなければ出せないという。

素人目に見ても、色が持つマットな質感や独特の重厚感に、高度な職人技が感じられる。

滑稽図案
上:「滑稽図案」神坂雪佳/下:花づくし「松竹梅」古谷 紅麟(雪佳の弟子)

そのモダンな配色にも驚いた。伝統的な草花などの図案が、ピンクや薄紫、黄色などのパステルカラーで表現されていたり、鮮やかなオレンジなど、意外な色彩も多くみられる。

収録された図案は47点で、ユーモアに富んだ動物画や抽象的なパターン画は、現代に続くテキスタイルデザインの先駆けと言えるだろう。

滑稽図案
滑稽図案

また、神坂雪佳の展覧会が2003年に京都国立近代美術館で開催された際、雪佳の図案集が再評価された。百貨店のポスターなどに採用されたり、2007年と14年にはユニクロのTシャツに用いられたりするなど、雪佳の図案は現代においても注目を集めている。

時代に即した商品化にも柔軟だ。受け継がれた版木のなかには伊藤若冲や歌川広重など著名な絵師の図柄もあり、それらを活かしたポストカードやぽち袋、クリアファイルなどの制作も積極的に行う。

芸艸堂
芸艸堂

また、必要に応じてオフセット印刷も活用。葛飾北斎や尾形光琳ら江戸時代の代表絵師の作品を和綴じ豆本にしてシリーズ化するなど、需要に合わせてさまざまな商品を提案している。

芸艸堂
江戸時代の著名絵師の作品を集めた和綴じ豆本シリーズ
江戸時代の著名絵師の作品を集めた和綴じ豆本シリーズ

それもすべて、芸艸堂が代々受け継いできた版木があってこそ再現できるもの。原案となる図案が刻まれた膨大な版木は、店舗裏の「版木蔵」に大切に受け継がれていた。

まるで版木の博物館!名作・名著の版木が結集。

神坂雪佳の図案集など、美術書の出版を主軸にしていた芸艸堂は、木版出版社の衰退・廃業が相次ぐなか、手摺木版にこだわり続けた。同時に、廃業や活版、オフセット印刷への転換にともない同業者から放出された版木を一手に引き受ける役割も担っていた。

東京・吉川弘文館や大阪・青木嵩山堂、そして初代が修業を積んだ京都・田中文求堂など、数々の名著の出版を手掛けた版元の版木を収集し、同時に版権も譲り受けた。その版木は店舗裏の「版木蔵」に大切におさめられている。

天井いっぱいに版木が積まれた蔵内
天井いっぱいに版木が積まれた蔵内
芸艸堂の版木

築100年近くになるという天井の高い蔵いっぱいに、版木が積み上げられた光景は圧巻の一言。この中に、あの江戸時代の名著『北斎漫画』の版木が含まれていた。

200年前の名著「北斎漫画」を復活!職人技術の集大成。

北斎漫画は、江戸後期に葛飾北斎が門下生のためにさまざまな題材をスケッチしまとめたいわば絵画のお手本集。動植物、妖怪、風景や当時の民衆の様子など、3900もの図が全15編(巻)にもわたり収められている。初版は文化十一年(1814年)、北斎が50代半ばの頃に発刊され、没後の明治11年に最終巻となる15編目で完結したロングセラーシリーズだ。

山田さんは、「時代を超えて愛される北斎漫画を復活させたい」と、2016年に再版することを決意。

和紙の調合から摺り師による木版摺り印刷、職人による製本など、芸艸堂が持てる限りの木版・製本技術を駆使して制作をスタートさせた。

版木

まずは和紙の調達から始まった。北斎漫画に使用する和紙は薄くて丈夫な楮を原料とした土佐の「須崎半紙」を使用。しかし贔屓にしていた漉き元はすでに廃業しており、新たに半紙を調合し、摺り師と試し摺りを行いながら一から作り上げる必要があった。

今回の再版は1編平均29丁(見開き1ページ)×全15編×150部で、必要な半紙は約80000枚。それらを均質に、印刷に適した調合で漉くのに約5ヶ月を要したという。

さらに、工程の中で最も重要な作業となるのが摺りの部分。北斎漫画は墨色、淡ねず色、肉色の3色摺りなので、1つの図に対して3回に分けて色を重ねていく。

絵具(顔料)の調合、摺る力加減ひとつで表情が異なる仕上がりになる木版摺り。当時の趣を再現するため、数少ない摺り師のなかでも、さらに限られた熟練者にしか与えられない大仕事だ。

北斎漫画

1編が29丁なので、単純計算でも1冊の摺り度数は87摺り。全15編では1000を超える摺り作業が必要で、使用する版木の数は700枚を超える。それを150部制作するという、気の遠くなるような作業を繰り返し繰り返し行っていく。

最後は経師といわれる職人の手で、一冊ずつ製本する。経師も、現在は数えるほどしか残っていない。

北斎漫画

こうして2017年、1年余りの歳月をかけて全15編の北斎漫画が復刻した。

北斎漫画
北斎漫画
北斎漫画

「100冊作ってちょうどいい」。現代における理想の本の作り方とは。

現代においても手摺木版にこだわり、数々の本を出版する芸艸堂。ひとつひとつ手作業で生み出される本を、山田さんは「100冊作ってちょうどいい」と話す。

山田さん

実際、再版された『滑稽図案』は100部限定、『北斎漫画』全15編は150部限定。和紙の調合から始まり、紙一枚無駄にできない印刷工程のなかで、一冊ずつ人の手によって編み出された珠玉の作品集だ。

改めて『滑稽図案』を眺めてみても、その風合い、その表情はまったく色褪せていない。それどころか、その図案が各界の意匠に用いられるように、現代のデザイナーにも影響を与え、アートブックのような役割まで果たしている。

滑稽図案

現代において、紙の本はもはや嗜好品となりつつあり、人々はより質の高さを本に求めるようになる。

だからこそ、美術書出版としてスタートし、手摺木版でしか表現できない印刷技術を今なお誇る芸艸堂の本が、あらためて強く支持されるのではないだろうか。

本の売れない時代において、本当に本を求めている人のために心を込めて作り、時間を掛けて確実に手渡す。それは、大量印刷・大量返本という現実に疲弊している出版業界が立ち返るべき、理想の本の作り方のようにも感じられた。

<取材協力>
株式会社 芸艸堂
https://www.hanga.co.jp/

文:佐藤桂子
写真:松田毅

※こちらは、2019年5月17日の記事を再編集して公開しました。

【わたしの好きなもの】かもしか道具店 すりバチ

溝がないのに食材がすれる、不思議なすりバチ


普段、休日はなるべく僕が料理を担当するようにしています。
料理をするのは好きで、本やネットでレシピを見ていろいろチャレンジをしています。時間に余裕があるときはちょっと手の凝ったことをしたくなって、いろんな道具を使うこともあります。



僕はゴマが好きなのですが、すりゴマを食べるなら自分ですりたい派です。
市販のすりゴマを使えば楽で何より時短になりますが、すっているときに段々と漂ってくるゴマの香りが好きで・・・。

しかし、一般的なすりバチは溝にゴマが詰まりやすくてきれいにゴマが取れず勿体ない気がしていました。
それにゴマをするだけの道具となり、洗い物が余分に増えてしまう・・・。中々積極的に使用できませんでした。

そんな悲しい現実を解決してくれたのが「かもしか道具店 すりバチ」です!




このすりバチ、本当にすれるのか?と思うくらい溝がありません。
手で触るとよくわかるのですが、非常にザラザラな表面に仕上がっています。
このザラザラした焼き締めの土肌が溝の役目を果たしてくれて、見事にゴマをすることができるのです。

これなら溝にゴマが詰まる心配もいりません。




それに、見た目も落ち着いた雰囲気で、自然と食卓に馴染んでくれます。僕は黒を選びましたが、どの色も食卓に馴染んでくれそうです。

このすりバチの中ですった食材と調味料などを和えたりして、このうつわごとそのまま食卓に並べても手抜き感がでません!むしろ手の凝った感じを演出してくれます。
これなら余分にお皿を準備する必要がないので、洗い物が増えません。




さらに!離乳食作りにも大活躍!
妻がよく言っていました。「ブレンダーがあると楽だけど、しらすをちょっとすり潰したいときに使えない・・・。」
湯通ししたしらすをすり潰したいとき、ある程度量がないとブレンダーでは歯が当たらず、満足に潰すことができないこともありました。

そんなに量は必要ないけど、しっかり潰したい。そんな時にこのすりバチが活躍してくれます。
安定した形でほどよく重みもあり、すりバチがぐぐぐとすりコギを受け止めてくれるので、しっかりとすり潰すことができます。




ちなみに最近作って美味しい!と思ったのが「マグロのなめろう」。本来なめろうはアジで作るのが主流ですが、ちょこっとアレンジでマグロを使ってみました。
すりバチでマグロの身をすると、口当たりがとても滑らかに!最後に角切りにしたマグロとアボカドを入れて和えてみました。ごはんの上にのせても美味しい、酒の肴にもぴったりなおかずが完成しました!

このすりバチは底が広めなので、ちょっとしたおかず程度なら、こぼれる心配なく全体に味がしっかり馴染むように食材を混ぜ合わせることができます。
このレシピでも、マグロとショウガやネギが程よく混ぜ合わさって、美味しく仕上がりました。これもうれしいポイントのひとつです。




溝がない不思議なすりバチ。とても使いやすいので、あのレシピもできるのでは?あれも作ってみよう!とアイデアや欲がどんどん湧き出てきます。
このすりバチを使っていろんな料理にチャレンジして、自分の料理のレシピの引き出しを増やしていこうと思います。


編集担当 森田

<掲載商品>

かもしか道具店 すりバチ

【わたしの好きなもの】綿麻しましまエコバッグ

頼もしい通園かばん


息子の保育所の通園かばんとして使っている綿麻しましまエコバッグ。
大容量の収納力にいつもお世話になっています。


週の頭に保育所に持っていくのは、着替えやオムツといった普段の荷物に加え、お昼寝用のバスタオル2枚にシーツと盛りだくさん。
お迎えに行くと今度はお持ち帰りする汚れ物の荷物が増えます。
でも、この綿麻エコバッグなら大丈夫。
薄手でコンパクトに見えるけれど、しっかりとマチがあるので見た目以上に荷物が入り、とっても頼りになるんです。




うれしいポイントはもうひとつ。この幅広の持ち手です。
たくさん荷物を入れて腕にかけても、持ち手が腕のお肉に食い込まず、痛くなりません。
保育所帰り、肩には食料品の買い物袋を、腕にはこのバッグをかけるのが私のお決まりの格好です。
2歳半になってもまだまだだっこを求める息子。
息子も荷物も重たいけれど、このバッグと一緒ならかあちゃんは、だっこもおんぶも頑張れちゃいます。




お洗濯できる素材だから、外遊びのとき芝生や砂場の上にも気兼ねなく置けるのもありがたいところです。
息子から「いっしょにあそぼー」と誘われれば、バッグを置いてすぐに駆けつけられます。




これからも、保育所、公園、お買い物と、数えきれない場面で大活躍してくれること間違いなし。末永く愛用したい一品です。


編集担当 羽田