中川政七商店オリジナルの「最適包丁」ができるまで。関のものづくりを間近で見学。

 


中川政七商店のものづくり現場をスタッフが実際に訪ねてご紹介する「さんち修学旅行」、今回は岐阜後編です。

後編はわたくし、中川政七商店GINZASIX店の佐藤がレポート致します!

後編は美濃焼に続き、岐阜関市で大正5年より創業の株式会社スミカマさんにお邪魔しました。


歴史は780余年。刃物の一大産地、岐阜県関市へ

関市は刃物4大産地のうちの1つで、その歴史は780余年。

関には刀鍛治にとって最高の風土条件(土や水など)があり、多くの刀匠が集まってきたのだそうです。780年・・・すごいですね、何だか浪漫を感じます。

スミカマさんは大正5年創業。確かな技術でこれまで沢山の商品を生み出されてきました。日本製の包丁産地のなかで海外シェアNO.1を誇る関。特にスミカマさんは海外進出が早く、プロ向けの輸出製品を多く扱ってこられたそうです。

そんなメーカーさんと中川政七商店のコラボ!中川政七商店でも自社ブランドの包丁を作るのはこれが初めてとあって、興奮します。そんな興奮を静かに抑えつつ、いざ現場へ!


▲工場内


▲本日お世話になります炭竃さんです


大正5年創業のスミカマさんで工場見学

現場へ入らせてもらった最初の印象は・・・「思いの外寒くない・・・」でした(笑)なぜか勝手に寒いイメージを持っていました・・・刃物が銀色だからですかね・・・?

と、そんな情報はさておき。工程の順番は前後してしまいますが、見せて頂いた順番にリアルにご紹介させて頂きます。

まずは「仕組み」という刀身にハンドル(柄)を取り付ける作業を見せて頂きました。




柄の中に専用の接着剤を投入し、刃と合わせ、工具を使ってしっかりと固定。繋ぎ目にも上から更に接着剤を塗り強化。塗り過ぎるとぼこぼこしてしまうし、少なければ外れやすくなる。

なかなか細かい集中力のいる作業です。

そして次に「柄擦り」という作業。

こちらはこの工程だけでも4工程あります。先ほどの「仕組み」でできたつなぎ目をまずは粗く擦り、滑らかに。更に中・仕上げとバンドの違う研磨機で研磨します。



絶対に無理ですが、やってみたい・・・と思ってしまうほど、流れるような手さばき。

そして刀身の「表面研磨」「背研ぎ」「アゴ研ぎ」「目通し」など。こちらで刀身の表面の黒革を落としたり、刀身の蜂・アゴの厚みを整えたり、刃先も角を研ぎ込んでいきます。




この姿勢きっと辛いだろうな・・・と、黙々と作業に集中する職人さんたちの背中に尊敬の念を覚えます。

「背研ぎ」や「アゴ研ぎ」は自分から刀身が見えないため、ほぼ手の感覚が大きなカギを握っているとのことで、職人さんの中でも更に難易度の高い作業です。凄いです。カッコいい・・・。


刃を付ける?

続いては「刃付け」と呼ばれる工程です。

最初「刃付け」という名前から刃の部分に別に素材をつけるのだろうか??と思いましたが、そうではなく研ぐことで切れる刃になるので、「刃が付いた」ということになるようです。

独特の言い回しは、個人的にとても「へぇーー!」ポイントでした。

また話が逸れましたが。

この刃付け、「革刃付け」という工程と2工程あり、最初の刃付けだけでもとっても切れ味抜群なのですが、「革刃付け」をするとびっくりするほどの切れ味に!!


▲革刃付け

試し切り用の新聞が力を入れずにハラリと切れました!

そして最後にこちらの機械。貴重なもので、値を設定するとその厚みに均一に研いでくれるというものだそうです。



手作業だとその日の状況により厚みが均一にならなかったりばらつきが出てしまう場合があるため、こうした機械も適宜使用しているそう。

それでもやはり細かい調整は人の目や手で行っています。



意外なことに、厚みにこだわって製作をしている工場はかなり少ないとのこと。この機械をわざわざ使うスミカマさんの仕事の丁寧さがうかがえます。

工程は全部で46工程ほど。間にも細かい工程が存在します。そして私たちが今回見学させて頂いたのはそのほんの一部です。

本当にたくさんの作業工程をたくさんの人の手によって作り出されています。なので、出来上がった政七の包丁も素敵なのですね~。



私も実際に使用しましたが、小回りが効くサイズ感でとっても使い易かったです。今日は料理がちょっと億劫だな・・・と思う時も、程よい軽さ、持ちやすさで気軽に使えるので便利です。

企画から製作まで2年の歳月をかけた最適包丁。是非、店頭に見にいらしてください。

そして、この工程を思い出しながら包丁を見て、職人さんたちの熱い思いを感じていただけたら嬉しいです。

お会い出来ましたら、是非お話させて下さい!!全国の中川政七商店でスタッフ一同、心よりお待ちしております。

 



<掲載商品>

最適包丁
最適包丁 パン切り

日本の食卓を支える、美濃焼のうつわができるまでを見学。中川政七商店のものづくり実況レポート

 

中川政七商店の人気アイテムのものづくり現場をスタッフが実際に訪ねる「さんち修学旅行」。今回はロングセラー商品「美濃焼のうつわ」と、新発売する「最適包丁」のものづくり現場にお邪魔しました。

前編は美濃焼のうつわです。東京本店店長の川島がレポートいたします!


岐阜県東濃地方で生産される「美濃焼」。陶磁器生産量が全国の60%以上を占めています。みなさんもきっとどこかでお世話になっているはず。

そんな美濃焼の窯元である作山窯さんが手がけるうつわは、色合いがとても素敵でお客様はもちろんのこと、社内でも好評なんです。

そんなうつわの工程や歴史が学べる貴重な時間!わくわくが止まらない中見学させていただきました。皆様にもその感動をお伝えします!


岐阜県土岐市。

周囲を山に囲まれた自然あふれる場所に作山窯はありました。




最初にご案内された部屋にはずらりと素敵なうつわが。



私たちは思わず各々、歩き回って見学。すっかり美濃焼に魅了されていると、三代目の髙井宣泰さんがいらっしゃいました。

お父様が営む山作陶器の横に築窯をされ、新しいことにどんどんチャレンジしていく髙井さん。中川政七商店が各地の焼き物産地とコラボして展開するうつわシリーズ「きほんの一式」で、美濃焼の一式を手がけていただいています。



美濃焼・作山窯さんの工房を見学

早速工場へ移動して見学へ。

焼き物といえば土は欠かせないもの。まずは土の空気を機械で抜いていきます。



作山窯では14種類の土があり、赤土や白土と土の色ごとに使う機械も変えているんだそうです。空気を抜く作業を2、3回機械に通して手作業で行なっていました。

その土を次は型に入れて形を作ります。



この型は石膏で作られているそうで、デザインをもとに型を作ってくださる会社が存在することもここで改めて気づきました。

そして先程空気を抜いた土をこの型に入れていきます。土の分量も感覚で手にとってるそうです。すごい!



ここからは加工。手作業で行われていました。

お店で扱っている飯椀の側面には、横にラインが何線もかかっています。



こうしたラインは、自然にできるものではなく、あえて風合いや艶感を出すために手で線をつけているとのこと。

うつわの雰囲気を出すためにわざわざひと手間を加えていることに感動しました。

そしてここから焼成の工程へ。まず行われるのが素焼きです。



高井さんによると、素焼きには大まかに3つの目的があるそうです。

・水分を蒸発して釉薬を吸収しやすくするため
・不純物が燃え焼きが安定する
・土が締まることで、本焼きの収縮が少なくなる

本焼きに行く前の大切な下準備でした。6時間くらい焼き、土の原料によって温度を変えてるそうです。

そしてここで100種を超えるという釉薬を使っていきます。うつわの表面の色は、この釉薬の化学反応で出るのです。

実際に私たちが行った時はグレーの液体にうつわを浸けていましたが、出来上がりは茶色になるとおっしゃっていて、また驚きました!




そしてこの後に本焼成が行われます。焼き方が違うため、3つの窯を使用。焼く位置によって色の濃さを作り出しています。

こうして美濃焼は出来上がります。

作り手の思いを知る貴重な時間

この後、最近オープンしたばかりという直営ショップへ。



より多くの方に作山窯のものづくりを知ってもらうために開いたそうです。

とっても素敵な空間で、集めたくなる、欲しくなるうつわがたくさん並んでいました。



最後に工房に戻り、髙井さんにお話を伺います。

そのお話の熱量!高井さんがどんな思いでうつわづくりに向き合っているかが、ひしひしと伝わってきました。



使用される方がどんな空間でどんなお料理を添えて楽しむうつわなのか。

そんな空間の中におさまるうつわを楽しんでいただくために自分が何を作りたいのか、そしてうつわをどう表現していくかを追及し、極める。工房で生み出されているうつわたちは、そうした高井さんの挑戦の賜物なのだと感じました。





いただいたお茶のお椀も一つ一つ違う風合い。お話を聞きながら密かに感動していました。

そして帰り道、焼き物を運ぶ車を何度も見かけました。焼き物が当たり前に生活の中に存在する風景はとても優しく、嬉しく感じました。

実は私も美濃焼の一式シリーズから、青織部の飯椀を使っています。



この色は使っていくうちにどんどん明るくなる経年変化を楽しめる釉薬を使っていて、こだわりの色を出すのが一番難しかったといううつわでした。

たくさん使って、経年変化を楽しみながらうつわと一緒に時間を過ごしていきたいと思いました。

また、お手入れ方法もお伺いしました!気になる方は是非お店へお越し下さい!


さて、午後からは包丁の見学に向かいます。

とても楽しく感動したシーンが多かった見学でした。新発売する包丁に乞うご期待です!後編もお楽しみに。

 


<掲載商品>

美濃焼の平皿
美濃焼の中鉢
美濃焼の飯碗
美濃焼の湯呑

【わたしの好きなもの】ステンレスワイヤのコーヒードリッパー

1日に何度も珈琲を飲みたい人に朗報です。


この季節、傍らには常にホットコーヒー。

気軽に飲みたいけど缶コーヒーはちょっと違う。
インスタントも随分おいしくなったけど、できればもう一声。
結局いつだって珈琲には、ドリップした味を求めてしまいます。



なにより1日の長い時間を過ごす会社での珈琲問題はとっても大事。
そんな時に活躍するのが、「ステンレスワイヤのコーヒードリッパー」です。
とにもかくにも手軽でおいしいんです。



購入のきっかけは、中川政七商店に入社したての頃。
デザイナーの榎本さんが休憩中に、自分でデザインしたこのコーヒードリッパーでコーヒーを淹れる様子を目撃したとき。
あ、たぶんこれはとてもいい道具だな、と確信。
購入に至ったのでした。



実際に使ってみると、手軽においしいが手に入る。
カップに乗せてさっと1杯淹れられて、ワイヤーフレームのみなので洗う手間がかからない。
乾きも早くて衛生的だし、場所も取らない。
とことん気軽に、だけどおいしい一杯が味わえる。



家でも会社でも、1日に何度も珈琲を飲みたい私にはぴったりの愛用品です。

編集担当 上田

<掲載商品>
ステンレスワイヤのコーヒードリッパー
家事問屋 ワンドリップポット

【わたしの好きなもの】ガーゼハンカチ

顔周りに嬉しいガーゼハンカチ


マスクが品切れになっていまい、使いたいけれど使えない状況が続いています。
我が家では、咳エチケットのために、せめて清潔なハンカチを子供に持たせようと心がけています。
外出先のお手洗いでは、感染予防のために温風乾燥機も使用禁止になっていたりするので、
息子もいつもより「ハンカチ、ハンカチ!」と言ってきます。(今まで、適当に乾かしてたんでしょうね。。)

普段からmottaのハンカチは愛用しているのですが、プラスして「ガーゼ生地のハンカチ」を取り入れました。




手を拭くことを主にしていたハンカチも、咳エチケットとなると顔に触れることが多いので、
ガーゼのやさしい肌触りのものが気持ちいいいんですよね。
私は花粉症なので、マスクが不足するとハンカチで口と鼻を覆いながら通勤するので、
なるべくふわふわっとしたものをこの時期は選びます。

大変な時期ですが、ハンカチを好きなものにするだけでも、ちょっと気持ちがほっとするのでおすすめです。

編集担当 宮浦

美しい道具を残したい。播州そろばんの名工、宮本一廣が考える職人の未来

「そろばん、どない変えたらええんやろ」

国の伝統的工芸品にも指定されている、兵庫県小野市の特産品「播州そろばん」。その作り手として伝統工芸士にも認定されている宮本一廣さんは、淀みない手つきで作業を進めながら、そう話します。

計算の道具としての役目を終えつつある一方で、教育現場における効果が改めて見直されているそろばん。

学校、珠算塾においてまだまだ根強い需要がある中で、なぜ宮本さんは変化の必要を感じているのか。

お弟子さんと二人、そろばんの組み立てに精を出す工房でお話を伺いました。

宮本算盤工房
宮本算盤工房

「組み立て」の名工、宮本一廣

「兄貴がやってたから、ちょっと教えてもらおか、という感じで始めたわけ。

なんでもかまへんけど、働かなしゃーないからね。これがやりたい!とかそんなつもりで始めたんとは違う」

播州そろばんの職人 宮本一廣さん
宮本一廣さん。「とにかく働かないといけなかった」と笑います

そう言って笑う宮本さんですが、

「一人でも多くの人に喜んでもらえるものを作るのが作り手。せやけど完璧なもんなんか絶対できひんから、どこまでいっても勉強。どんな職人さんでも同じやと思うわ」

と、中学卒業と同時にこの世界に入ってから60年以上、作り手としての矜持を持ってそろばんづくりに取り組んできました。

「完成品にできるから、そこは嬉しいわね。作り手次第やから」

宮本一廣さん
宮本一廣さん

四分業制で作られる播州そろばん。宮本さんは最後に製品を完成させる「組み立て」の職人です。

「組み立て」といっても、届いたパーツをただ組んでいくわけではありません。

「こんな、木材と珠だけあずかって、そこからちゃんとした商品にするのが私らの仕事。木を削って、磨いて、枠に穴開けて、全部考えてやっていかなあかんから、工程はものすごく多いね」

播州そろばん
枠の木は一本の長い状態で入ってくる。下は、珠をくり抜いた後の部材。珠づくりは別の職人が担当する

設計図もなにもないところから、手元の部材をそろばんに仕上げていきます。

組み上げるための加工も、宮本さんの仕事。工程は作り手によって様々だという
組み上げるための加工も、宮本さんの仕事。工程は作り手によって様々
播州そろばん

すごすぎてわからない。師匠の背中を追いかける

2014年、そんな宮本さんの元にやってきたのが、髙山辰則さん。播州そろばんの後継者募集の情報をみて、地元の伝統産業を残していきたいと一念発起、IT業界から転身しました。

宮本算盤工房
手前が、髙山辰則さん

「すごすぎてよくわかりません」

宮本さんに弟子入りし、修行に励んで5年目を迎えている髙山さんは、師匠の技術についてこう表現します。

「枠の細工の仕方など、見比べてみると全然違います。まじまじと見れば見るほどすごい。

普段からそれを目にしているので、ほかのそろばんを見た時に『これでいいの?』と思ってしまうほどです」

宮本一廣さん
いとも簡単に組み立てているようにも見える
宮本さん
宮本さんの組み上げたそろばんは、美しい

確かに、手にとってよく見てみると、枠の継ぎ目の滑らかさや木目の美しさが、他のそろばんとは違っている気がします。

「そろばんの形を作るだけであれば、少し修行すればできるでしょう。しかし、それがいい形かと言われると、そうではないんです。

いい形の基準自体も、年々認識が変わってきます。満足いく仕上がりだと思っても、翌年見てみると、『なんてものを作っていたんだ』と思う。それの繰り返しで終わりがありません」

高山さん
播州そろばん
枠に、ひごを通す穴を開ける機械

どこまでも勉強。髙山さんも作り手としての姿勢をしっかり受け継いでいます。

今は「組み立て」職人として修行に励む髙山さんですが、ゆくゆくは、四分業のほかの職人の技術も身につける必要を感じています。

「(四分業のうち)どこかが無くなったら、その時点で組み立てもできなくなるので、早くほかの分野にも後継者が来てほしい。

ただ、珠を削る職人がまずいなくなる可能性が高いと思っていて、そこは、難しいのは承知の上で自分もやるつもりでいます」

宮本さんも「結局分業仕事やから、どれがひとつがダメになったらでけへんから。それが一番怖い」と話すように、分業制であるが故の危機的状況は続いています。

いいそろばんとは?そろばんはどう変わるべきなのか?

「いいやつも出しましょか」

工房にお邪魔して1時間ほどが経過した頃、宮本さんはそう言って、樺、黒檀、柘植(つげ)と素材のことなる3種類のそろばんを持ってきてくれました。

播州そろばん
3つの美しいそろばんたち

「どないですか」

「綺麗でしょ?」

宮本さん渾身の作品。本当に美しい。

希少な材料を使っており、すべて10万円以上する高級そろばん。ごく稀に、こうしたそろばんが欲しいと注文があるもののその数は少なく、今後もあまり作る予定はないんだとか。

宮本算盤工房
全然違うでしょ?と話す宮本さん

10万円を超えるものは極端なケースですが、かつて、計算の道具として大人が仕事に使っていた頃は高級なそろばんがよく売れたのだそうです。

職人の数も今より多く、切磋琢磨して技術を競い合う環境もありました。

「ほかの職人の商品を見て、綺麗にしてあったら、どないしてしよんのかなと研究してね。

でも、もうそういう相手もおれへんし、そういうそろばんも必要とされてない。寂しいね」

宮本一廣さん
技を競う機会も減ってしまいました

確かに、美しさや素材へのこだわりが計算のために必要かと言われれば、そうではないでしょう。

しかし、こうして作っている所を見て、説明を聞くと、せっかくなら良いものが欲しくなってきます。

手仕事である以上、数をつくるには限界がある。

「高いのが売れたら、体も楽やけどね」

現状、使い手が子ども中心になっている中で、再度、高い金額を出しても大人が買ってくれるような商品を作らなければ続けていけないと、宮本さんは考えています。

播州そろばん
名前を入れる以上、生半可な仕事はできない

「伝統工芸に指定されとるし、小野市と言えばそろばんやし、本当やったら残したいんやけど。

若いもんがこないして入ってきてくれたとしてもね、現状はそれだけで生活していけるような仕事じゃないねんね。

そろばん、どない変えたらええんかな。珠の数をいじるわけにもいかんし」

これからの播州そろばんのために、試行錯誤する弟子

これからの播州そろばんを担い、また自分の生活も掛かっている当事者として、髙山さんも試行錯誤を続けています。

アイデアのひとつは、そろばんの珠を使ったアクセサリー。

高山さん
髙山さん考案のアクセサリー

「おもちゃに見えてはダメなので、工芸品としてしっかりと、ちゃんと使ってもらえるものとしてどんな風にデザインしていけばいいかと、考えながら作っています」

さらに、通常23桁で構成されているそろばんを、5桁に縮めたミニそろばんも作成しました。

珠算をやっている人が暗算をする時に、そろばんを思い浮かべて計算することがあります。それが、実は23桁だと多すぎて、5桁くらいのそろばんを思い浮かべるのが適しているそうで、暗算用のそろばんとして設計されています。

「若いもんは面白い考えするわ。意欲的になんでもやっていいと思います」と、宮本さんも弟子の発想、行動力に感心している様子。

弟子には自由に発想してもらいたい

一方で髙山さんは、「あくまで目的は、そろばんが売れること。アクセサリーが売れることはゴールではないのですが、まず手にとってもらえる第一歩として、色々と考えています」

と、そろばんの普及・継承は常に意識しているといいます。

職人だから、余計なこともしたい

自分の技を尽くせるような注文が少なくなり、

「いつ辞めるかわからへん。

ろうそくの火がね、いつ消えるのか、ちょろちょろっとなってるような感じや」

と話す宮本さん。

播州そろばん 宮本さん

いいそろばんを作りたいという思いは消えていません。

そろばん比較
上がプラスチック棒を通しているだけのもの。下は強度も考えつつ、デザイン的にも美しく仕上げている

「見てもらったらわかるように、裏返しても全然つくりが違う。

今は、こんなんいらんやん。実際計算すんのにはね。

こういう余計なことせんでええねん。でも、こういうこと、したいねん。

そんなもんなんよ。職人ゆうたらね」

宮本算盤工房

時代の変化に合わせて、必要な道具も変わります。

しかし、そろばんがどう変わればよいのか、はっきりとした答えは見つかっていません。ただ、これからもこの美しい手仕事を残したいと思いました。

この人たちがいなくなってしまうと、昔から受け継がれてきた日本の技術は、ひとつ消えてしまいます。

「人に言われてから辞めるのでは遅い」そう話す宮本さんですが、できればまだしばらくは髙山さんの隣で存分に技を振るってもらいたい。

「綺麗でしょう」と自慢できるそろばんをどうしたら残していけるのか。考えながら工房をあとにしました。

<取材協力>
宮本算盤工房
兵庫県小野市天神町1113

文:白石雄太
写真:直江泰治

※こちらは、2019年5月22日の記事を再編集して公開しました。

【わたしの好きなもの】平べったくない木ベラ



へらって、調理器具としては脇役。でもその脇役がいい仕事してくれる。そんなアイテムが「炒めへら」と「返しへら」です。
 
木べらって、平べったいイメージありませんか?
 
そもそも「箆( へら )」は扁平な板状の道具の意味なので、平たくあるべきなんです。( へらって平から来ているのかも)
 
なのに、 この木べらは平たくない。
 
見た目にも、持っても感じる、そのずっしりとした量感に違和感があります。
 
いわゆる一般的な木べらは、薄くスライスした木材を切り抜いて加工したもの。それに対し、今回紹介する「炒めへら」と「返しへら」は分厚い木の塊から立体的に削り出して作られています。



持ち手部分が立体的な三角形になっているので、 しっかりと握れて力が伝わりやすい。鍋いっぱいの炒飯や、ゴロゴロとした野菜をかき混ぜるときには特にその効果を感じます。


 
それぞれの先端部分も、この加工方法を活かして立体的に使いやすい形状に。



「炒めへら」は、さじ状の形にくり抜かれており、調理した食材をすくいやすい。
 
平たい木べらでありがちな、ボロボロとこぼれてしまって何度もすくい直す。みたいなことが改善されています。



「返しへら」は、しっかりと角度がついていて、ちょうどよく返しやすい。
 
もちろんステンレス製のヘラの方が薄くて、目玉焼きの下に滑り込ませるのは得意かもしれませんが、木製だから鍋肌を傷つける心配もなく、そのまま混ぜたり炒めたりもできちゃいます。

最近はシリコンなど、色々な素材の展開が増えていますが、キッチンのツールスタンドに立てておいて気持ちがいいのはやっぱり木製だったりします。 使い込んでいくと味が出てくるんですよね。
 
へららしくない肉厚のへらは一生モノになりえる。
 
値は少し張りますが、永く付き合うには悪くない買い物だったなと思っています。


編集担当 渡瀬

<掲載商品>
しゃもじ屋の炒めへら
しゃもじ屋の返しへら