夏の陽ざしにはえる「黒」、風にそよぐ「白」。涼しく上品な麻のお出かけ服

もうすぐ夏の盛りを迎える時期。ここ最近は毎朝天気を確認するたびにうんざりした気持ちになり、クローゼットから手に取るのは涼しくて洗いやすく、ラクに着られる服ばかりでした。

もちろん夏をのりきる服が控えているのは心強くあるものの、家族や友人との食事会や観劇・鑑賞、またセレモニーの場など、たまのお出かけ用に「ちょうどいい服がない」と焦ることもしばしば。「いざという時に着られる、気分がしゃんとする洋服も持っておけたら安心だな」とは思いながらも、そう出番があるわけでもなく、ひとまずどうにか乗り切りながら買わずのままにしていたのは、もしかすると私だけではないかもしれません。

そんな方にこそおすすめしたい、夏のお出かけに着ていただける「黒と白」。いずれも麻100%で夏に涼しく心地よい生地でありながら、上品な光沢とシンプルなデザインで、普段にもきちんとした場にもぴったりです。

夏の陽ざしにきりりとはえる黒、熱をはらんだ風に爽やかに揺れる白。それぞれのこだわりを、担当デザイナーの山口に聞いてみました。

目指したのは、涼しくて素敵で、きちんと着られる夏の洋服

今回の洋服シリーズを作るにあたり大前提としたのは、夏に着やすい涼しさがありながらも、きちんとした場でも着られる服であること。フォーマルの場にも着やすいようにと、黒と白を色の軸に据えてデザインに落とし込んでいきました。

着る人の好みで形や色が選べ、また一枚でも組み合わせても着られるようにと、それぞれのデザインはあえてバラバラに。黒はワンピース2型とパンツ1型、また白はトップス2型を本シリーズ品として販売します。

いずれも通気性がよく、吸放湿性にも優れながらも上品な光沢をたたえた麻生地を使用。また企画の際に共通してこだわったのは、日本で長く、産地や作り手が育んできた技術を用いることでした。そうして採用したのが、京都の黒染めと滋賀の晒しの技術です。

「黒色と白色のお洋服って世の中に山のようにあるから、商品を企画するにあたっては、中川政七商店らしい個性を何か持たせたいなと思いました。

黒染めは長く和装で使われてきた日本の伝統技術で、今はそれが染め替えという新しい道で活かされています。昨年も夏に着る黒のフォーマル服を作っていて、その際にお願いした京都の馬場染工業さんに今年もお願いしました。

麻生地を晒すことで表現した白の生地は、以前からお取引のある、滋賀で晒しをされている中藤織物整理工場さんに作っていただいています。ここは、中川政七商店の手績み手織り麻の生地をずっと加工してくださっている作り手さん。白く晒す高い技術を持つ企業さんなのですが、織り子さんの減少で手績み手織り麻を作れる量自体が年々減っているので、その晒しをお願いできる量も減っていて。だから何か他の商品にお力添えをいただくことで、この晒しの技術を届けたいと思っていたんです。

今回の生地は手績み手織り麻ではありませんが、遠州地方で織られた透け感のある上質な麻生地を使用しています」(山口)

京都・馬場染工業が染める「黒」

上述のとおり、黒をお願いしたのは京都の老舗黒染め屋・馬場染工業さん。 現在は5代目の馬場麻紀さんが率いるこちらの作り手さんでは、代々、紋付羽織袴や喪服などの礼服を手がけてこられました。

その技を、洋裁を学んだ経験を持つ現代表が洋服に転用したことで、今回のワンピースやパンツのように日常でお楽しみいただけるようにもなっています。

工房の表に掲げられる「黒染」の文字(写真:森一美)

こだわりは染めの回数を通常の倍にして、奥深い黒を表現すること。ひと口に「黒」と言っても様々ある色のなかから、夏に着やすい自然な黒でありながら、深みが出るように仕上げていただきました。なお、長く着て退色してきたときや、漂白剤をとばしてしまったときなどは染め直しもしていただけます。

黒の色見本(写真:森一美)

「昨年は馬場染工業さんと夏のフォーマルとして、綿麻生地のワンピースを4型作りました。フォーマルの場にも重宝するワンピースを、日本人の美しさを昔から引き立ててきた黒染めの技で作りたいと思ったんです。

そのなかでも特に人気のあった2型のデザインをより磨いたものが今年のシリーズ。ふんわり袖のパフスリーブワンピースは優しい雰囲気なので、もう一つはVネックと裾のベンツ(※切れ目のこと)ですっきりした印象に仕上げて、好みで選べるようにしています。

加えて、白いトップスに合うように同じ染めの技術でパンツも作りました。こちらはロングスカートのようなワイドシルエットにしたことで、スカート派の方でも履きやすい仕上がりを目指しています」(山口)

「黒」のシリーズはワンピース2型とパンツ1型をラインアップ
シンプルなデザインはきちんと着るのはもちろん、少し個性的な着こなしにも

滋賀・中藤織物整理工場が晒す「白」

麻織物の一大産地である滋賀県の湖東地域。麻の製織・加工に欠かせない、湖面からの湿潤な空気と、鈴鹿山系から流れる愛知川の美しい水に恵まれたこの地域は、古くから麻織物の産地として発展しました。

今回の「白」は、この土地で織物の整理加工業を営む中藤織物整理工場さんにお願いしたもの。「近江上布伝統工芸士」の称号を持つ職人の高い技術を使い、製織した生地を晒して作る、白い麻生地を採用しました。

さらに、糸に撚りをかけて生地を揉み、表面にシボを作るちぢみ加工を施すことで生地に表情が出る他、凸凹があり肌離れも良いため涼しくラクにも着られます。

工場の内観(画像提供:中藤織物整理工場)

「シボをつける機械にも色々あるのですが、中藤織物整理工場さんではアナログな機械を使っておられます。それが良い意味でとてもレトロな雰囲気で、だからこそ人の手でシボをつけるようなやわらかさが出るのかなって。皺加工や、やわらかくする加工は色々な工場でできるんですけど、そのなかでも中藤さんのものは特に“やわらか感”があるという話をよく耳にしています。

麻を扱う技術もありますし、夏のシャツは肌あたりの良さも大切にしたいと思い、今回は中藤さんにお願いをしました」(山口)

晒したちぢみ生地(画像提供:中藤織物整理工場)

白く晒したちぢみ生地を使って作るのはシャツとチュニック。両者とも透け感があり、風に揺れる裾や袖が目に涼しいデザインとなっています。

「生地が特徴的なので縦のシボシボ感を活かし、ドレープが寄るようなパターンにしました。裾に向かって広がるようにたっぷり生地を使うデザインにしたことで、優雅さや涼しさを見た目にも感じていただけると思います。

シャツは袖からも風が入るようひらひらとした形に調整し、チュニックの方は丈が長い分、バランスをとれるように袖はふんわりと閉じる形にしました。あと、夏の衿元って襟があると汗がついて蒸れるし、かといって襟がないとルーズに見えてしまうので、今回は首元を広めにとって襟をつけることで、きちんと感を出しています。

2型あるどちらのデザインも、きちんとした印象はありつつ見た目の清涼感もあり、細かい皺が目立ちにくいので、普段から気兼ねなく着ていただけると思います」(山口)

「白」のシリーズはブラウスとチュニックの2型
一枚でさらりと着る他、インナーに柄ものを合わせたり、帽子などの小物と合わせたりするのもおすすめ

夏のにぎやかさや陽ざしのなかで、あえて凛々しく、軽やかに着る黒と白。日本の高い技術を使い、品良く、それでいてシンプルで着回しもきく一着に仕上げました。“いざ”という時にも、普段にも。ぜひ夏の思い出の頼りにしていただければと思います。

文:谷尻純子

<関連商品>
日本の黒 パフスリーブワンピース
日本の黒 Vネックワンピース
日本の黒 ワイドパンツ
ちぢみのフレアーシャツ
ちぢみのフレアーチュニック

草木を守り、繋ぐ人。森林環境管理を担う人材を育てる「奈良県フォレスターアカデミー」、大和橘復活に取り組む「なら橘プロジェクト」【奈良の草木研究】

工芸は風土と人が作るもの。中川政七商店では工芸を、そう定義しています。

風土とはつまり、産地の豊かな自然そのもの。例えば土や木、水、空気。工芸はその土地の風土を生かしてうまれてきました。

手仕事の技と豊かな資源を守ることが、工芸を未来に残し伝えることに繋がる。やわらかな質感や産地の景色を思わせる佇まい、心が旅するようなその土地ならではの色や香りが、100年先にもありますように。そんな願いを持って、私たちは日々、日本各地の作り手さんとものを作り、届けています。

このたび中川政七商店では新たなパートナーとして、全国の里山に眠る多様な可食植物を蒐集し、「食」を手がかりに日本の森や林業に新たな価値を創出する、日本草木研究所さんとともにとある商品を作ることになりました。

日本の森にまなざしを向ける日本草木研究所と、工芸にまなざしを向ける中川政七商店。日本草木研究所さんの取り組みは、工芸を未来へ繋ぐことでもあります。

両者が新商品の素材として注目したのは、中川政七商店創業の地である奈良の草木。この「奈良の草木研究」連載では、日本草木研究所さんと奈良の草木を探究し、商品開発を進める様子を、発売まで月に1回程度ご紹介できればと思います。

4本目となる今回のテーマは「草木を守り、繋ぐ人」です。発売予定の商品で素材とするのは、吉野杉や吉野桧、大和橘、モミ、クロモジ、アカマツなど、奈良の森に育つ草木。多雨で温暖な気候を持つ奈良の山には昔から、多様な樹種がいきいきとその枝を伸ばし、葉を茂らせてきました。

しかし昨今では、そんな草木たちの置かれる環境にも変化があり、健やかな森林環境を育てる人材の不足や特定植物の絶滅危機など、森が抱える問題は多岐にわたります。

「中川政七商店の取り組みが、森を未来へ繋ぐことに少しでも貢献できたなら」。そんな想いから今回は、奈良の森の課題に向き合う二つの事業者に、素材となる草木の提供に協力いただくこととなりました。



森林環境管理を担う人材の学校「奈良県フォレスターアカデミー」

吉野杉や吉野桧をはじめとする、奈良の森に育つ香木の採集に協力いただくのは奈良県フォレスターアカデミーさん。林業が盛んな吉野の地域で令和3年4月に設立された、森林管理者を意味する“フォレスター”の学校を運営する、県直営の教育機関です。その設立の背景には、対症療法的な森の手当てへの危機感がありました。

「平成の二桁頃から林業は斜陽化しており、木材の価格も徐々に下がってきています。それに伴って林業従事者も減り、管理放棄された森林が増えてきた。そこで奈良県では平成18年に『森林環境税』を導入し、その使い道として県が山の手入れを代行するような仕組みを作りました。でも、これがなかなかいたちごっこで。いっこうに改善されない状況が起きていたんですね。

その後に紀伊半島の大水害があり、森林が持つ災害防止機能などの弱まりを痛感する事態となりました。これを受けて県も、対症療法的な森林の手当てではなく、国土保全的な仕組みとして抜本的に森林管理の仕組みからつくり直すことへ意識を変えたんです。

そこで出会ったのが、スイスのフォレスター制度。フォレスターとは森林環境管理のプロフェッショナルを指していて、スイスでは人づくりから取り組むことで健やかな森林環境を育てています。私たちもこれに学び、教育・人づくりから始めましょうという考えになり、アカデミーという養成機関を起ち上げる運びになりました」

取材に対応してくださったのは、同校の校長を務める藤平拓志さん。大学で林学を学んだ後、県職員として森林や林業に関連する仕事に長く就いてこられた方で、現在も県職員として奈良県フォレスターアカデミーの運営を担っておられます。

同校には主に現場技能を身につける一年制のプログラムと、林業経営や森林管理についての学びをより深める二年制のプログラムの、2つのコースが設けられています。特徴的なのは前述のとおり、スイスのフォレスター制度を参考に組まれた独自のカリキュラム。ここでは森林に大きく期待される「木材生産」の学びだけでなく、「生物多様性」「防災」「レクリエーション」など森林を全体的に俯瞰し、管理するための知識を育てられる授業も多数行われます。

そんな内容への期待からか、行政を母体とする林業大学校は他地域にもあるなかで、県外からの志望者も後を絶ちません。

「スイスの森林に関する考え方の特徴は、生産機能だけに特化するのではなく、森林が持つ機能を総合的に把握して管理していくところ。それを実現するためには森ごとの個性を見極められる力が必要で、要は人とセットなんですよ。その人を『フォレスター』と呼んで、育てていくというのがこの学校の考え方です」

毎年20名の定員は、下は18歳から上は年齢制限なく、様々な年代の方が入学するそう。林業関係に勤めていた方だけでなく、全くの畑違いから志す方も多いといいます。

授業は年間1200時間強ほどで、座学は3~4割。残りは実習が占めるといい、この日は森の植生を学ぶ授業にも立ち会わせていただきました。

「ひと口に森林といっても、地域によってその特性は様々です。育つ樹種も違えば、山主(=山の持ち主のこと)の関わり方も異なります。同じ山でも、場所によって育つ木も違う。当校ではそんな森林ごとの生態系や災害リスク判断など、目の前の山をとらえて課題を見つけ、解決できるようになることを目指しているんです。『作業員としての技能を身につけるだけでなく、総合的に森を捉えられる内容を中心にしている』というのは、そういうことですね」

授業の様子。この日は森の植生について実地で学ぶ内容

卒業生は林業事業体や森林組合に勤める他、森に関係する事業で起業する方も。開校から数年ではありますが、学び舎でできた縦や横のつながりは徐々に広がり、奈良の森の心強い担い手となりはじめています。

「まだ設立から4年ですので大きな成果はお示しできないのですが、行政につく者、民間につく者など、卒業生が出れば出るほど県内各地に散らばっていき、この学校でできた縁を活かして情報交換をしたり、仕事で連携したりという事例が見えてきています。

そうしてその輪が広がって、地域に合った森づくりをしっかり考え実践できることが、この学校の最終目標かなと。林業はあくまで一つの手段で、大切なのはその地域の人が幸せな暮らしをおくれることです。そのために、健やかな環境が未来に続いていくような森林マネジメントをできる人になってもらえたらと思います」

日本最古の柑橘とされる、大和橘の復活を目指す「なら橘プロジェクト」

続いて訪れたのは大和橘(やまとたちばな)の育成を進める、なら橘プロジェクトさん。今回の商品には風味のアクセントとなるように、こちらの素材も使用しています。

大和橘とは橘の別称で、日本固有種であり柑橘の原種。日本最古の柑橘とされ、その名は万葉集や古事記にも登場するほどです。菓子の租である田道間守(たじまもり)が常世の国から不老長寿の妙薬として持ち帰ったという伝説もあり、大和橘自体がお菓子のルーツだともいわれます。その実の香りは清々しく、上品で高貴。葉は目が覚めるほどの鮮烈な青々しさをたたえます。

雛人形を飾る際に「左近の桜、右近の橘」と各樹木を模したものを添えたり、500円玉硬貨に描かれたりと、実は私たちの身近なところにも登場する果実なのですが、一方、「橘の本物を見たことがない」という方も多いことでしょう。その理由は、準絶滅危惧種になっているため。かつては南は九州から北は静岡まで暖流のそばに多く群生していた橘ですが、今ではほとんど見かけられず、当然、市場にも出回りません。

「じゃあなぜ無くなったのかというと、一つの原因は戦前に行われていた炭焼きなんじゃないかなと。炭を作るための材料として伐採されたと現地に行った時に聞きました。あとは橘の実が小さいので、産業として選ばれなかったのも理由としてありますね。果実は苦くて食べにくいし、とれる実も少ない。育てても使えなかったから、育てる人が全然いなかったんやと思います」

なら橘プロジェクトの代表を務める城健治さんは、絶滅危機に至った理由をこう分析します。

城さんの大和橘との出会いは、今から14年ほど前。奈良県内の金融機関に勤めていた城さんは、当時関わっていた大和郡山市の町おこしの一環で、産官学金連携のお土産品開発に取り組むことになりました。そのなかで大和橘の存在を知ったと話します。

「そのときのメンバーに饅頭屋の代表がおって、その方が『奈良には大和橘というものがあって、お菓子の始まりなんやで』って教えてくれたんですよ。

大和橘は自生していた植物なので産地というのはないんやけど、奈良って大和朝廷発祥の地と言われてますやろ?それで、当時は神社や官庁を建てる時に、『穢れが落とされるような香り』ということで土地を清めるために植えていたらしいんです。今でも一部の神社にはご神木として植わっていたり、注連縄のような飾りに使われたりしています。

あとそれとは別に、平城京の時代には漢方薬としても認定されてます。鳥羽から税金として陳皮を納めていたという記録が当時の木管に残ってるんです」

奈良に縁がある果実として興味を抱いた城さんと他メンバーでしたが、当時、大和橘は既に準絶滅危惧種認定をされていました。奈良県内にある広瀬神社にまだ大和橘が残っていると知り、株分けの依頼をしたところから、このなら橘プロジェクトはスタートしていきます。

飲食物への使用を考え、城さん達は農薬を使わずに栽培。最初の頃はアゲハ蝶に新芽をすべて食べられ木が枯れるなど育て方に苦戦していましたが、少しずつ育てた木が実をつけ、4年目を迎えた頃に飲食店への提案を開始します。ところが初めに提案した近隣の10店舗には「みんな断られてん」と苦笑い。小さく、酸っぱく、苦い大和橘への反応は、「他にもっといいみかんがある」というものでした。

その道を切り開いたのは、奈良県内にありながら県外からも多数の客を集める、星を持つレストラン。海外や日本の名店で修行をしたシェフたちは口をそろえて「上品な香り」「上品な酸っぱみ」「上品な苦み」と、大和橘を高く評価したそうです。

「城さん、これはすごいですよ。こんなん育ててくれてありがとうって言われたんですよ。ある大将が言うにはね、『大和橘に出会えたから奈良県でお店開いてよかった』って。そんなん言われたら嬉しいですやん。日本の歴史の原点と縁が深いストーリー性もあるし、日本らしい奥ゆかしい風味や香りということで、気に入ってもらえて。

そうやって少しずつ広まっていって、今は営業をしなくても問い合わせてもらえるようになりました。県外のお店からも畑を見に来てもらえるようになって、あの有名な高級リゾートホテルの統括シェフは『城さん、日本のトリュフは橘の葉っぱですよ』って言ってくれはるねん」

現在、奈良県内では7か所に分かれた畑で育てられている大和橘。例えばかつて平城京と藤原京を結んだ道に街路樹として橘が植わっていたことから、「橘街道」と呼ばれる場所もそのうちの一つです。

「今年で14年目。僕、実家が農業なんで農業の悲惨さも実体験として知ってて、だからこそ何かで貢献したいなとはずっと思ってたんです。そのなかで見つけたこの大和橘で地域起こしをしたいというのが、いま一番の目標。それが僕の第二の人生です」

取材後に城さんから頂いた大和橘の若い葉をかじると、鮮烈な香りが鼻に抜け、舌に感じるのはピリッとやわらかな刺激。青く爽やかで、清々しく、清楚でいながらキレがあります。

「どこか日本らしさを感じる香りと風味を、森の香木とともに味わう」。草木を守り、繋ぐ方々から頂いたそれぞれの素材には、豊かな個性と大切にしたい物語が詰まっていました。この素材たちからどんな商品が生まれるのか、ぜひ楽しみにお待ちください。


<次回記事のお知らせ>

中川政七商店と日本草木研究所のコラボレーション商品は、2024年の夏頃発売予定。「奈良の草木研究」連載では、発売までの様子をお届けします。
次回のテーマは「開発者対談」。いよいよ、今回の商品の内容や、開発でこだわったポイントをお届けします。

<短期連載「奈良の草木研究」>

文:谷尻純子
写真:奥山晴日

【暮らすように、本を読む】#12「八百屋の野菜採集記」

自分を前に進めたいとき。ちょっと一息つきたいとき。冒険の世界へ出たいとき。新しいアイデアを閃きたいとき。暮らしのなかで出会うさまざまな気持ちを助ける存在として、本があります。

ふと手にした本が、自分の大きなきっかけになることもあれば、毎日のお守りになることもある。

長野県上田市に拠点を置き、オンラインでの本の買い取り・販売を中心に事業を展開する、「VALUE BOOKS(バリューブックス)」の北村有沙さんに、心地好い暮らしのお供になるような、本との出会いをお届けしてもらいます。

<お知らせ: 「本だった栞」をプレゼント>

ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、同社がつくる「本だった栞」が同封されます。買い取れず、古紙になるはずだった本を再生してつくられた栞を、本と一緒にお楽しみください。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。



食卓にワクワクを。「なんでもない日」を彩る、旬の野菜

決して料理が得意といえない私ですが、レシピ本を眺めるのが好きです。簡単なレシピを真似て再現したり、異国の知らない料理の味を想像したり、美しい料理の写真は見ているだけでも心が踊ります。今回紹介するのは、純粋なレシピ集や、まじめな図鑑ともまたちがう、発見と喜びに満ちた「野菜採集記」です。

著者は東京・世田谷にある八百屋「イエローページセタガヤ」店主の尾辻󠄀あやのさん。旬の知識やそのレシピ、お客さんとの会話を通して語る野菜の魅力と、アートのように切り取られた写真からは、あらゆる視点から、野菜を面白がる著書の頭の中をのぞいているような気分になります。

いわく、野菜を食べるのは、300円で叶う小さな冒険だそう。見た目のかわいさ、形の面白さ、面白そうな農家さんなど、様々な理由から心向くままに集めた野菜を、いろんな方法で食べてみる。各地を飛び回り、ポケモンをコレクションするみたいに、食べた野菜を記録しているのだとか。

珍しい野菜だけでなく、慣れ親しんだ野菜が持つ新たな一面にも出会えます。例えば、ヤングコーンは皮付きのまま焼いて、絶品のヒゲごと堪能すること。オクラはフライや生で調理すれば、ネバネバ以外の新たなバリエーションを楽しめること。しょっぱく食べるスイカのレシピも興味深い。

野菜の記録の合間にあるコラムのなかで著者は、“「ちゃんと作らなきゃ」の呪いから解放してくれたのが「旬」という概念だった”、と話します。旬の野菜は味が濃く、体力がある。上手に作ろうとせずとも、焼いたり、揚げたり、茹でたり、シンプルな調理に「味を添える」くらいでいいのだという。夏のズッキーニをただ焼いて食べるのが最高だったりするように。

“旬に合わせて、なんでもない日のなんでもなく作るもの、それがまあまあ美味しい。こんな日が多いのが一番幸せなのじゃないかと私は思うのだ”(本文より)

キッチンに立つのが億劫な時も、旬の野菜があれば、なんだか楽しくやれそう。この夏はきっと、“推しの野菜”を見つけたい。

ご紹介した本

尾辻󠄀あやの (著)『八百屋の野菜採集記』

本が気になった方は、ぜひこちらで:
VALUE BOOKSサイト『八百屋の野菜採集記』

ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、同社がつくる「本だった栞」が同封されます。買い取れず、古紙になるはずだった本を再生してつくられた栞を、本と一緒にお楽しみください。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。

VALUE BOOKS

長野県上田市に拠点を構え、本の買取・販売を手がける書店。古紙になるはずだった本を活かした「本だったノート」の制作や、本の買取を通じて寄付を行える「チャリボン」など、本屋を軸としながらさまざまな活動を行っている。
https://www.valuebooks.jp

文:北村有沙

1992年、石川県生まれ。
ライフスタイル誌『nice things.』の編集者を経て、長野県上田市の本屋バリューブックスで働きながらライターとしても活動する。
暮らしや食、本に関する記事を執筆。趣味はお酒とラジオ。保護猫2匹と暮らしている。

【旬のひと皿】もずくのかぼすそうめん

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で創作料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



毎週水曜日、お花屋さんから届くお花を店内に生けてから一週間の仕事が始まります。
「今週はどんな花材かな」と、包んである新聞紙を覗き込む瞬間が楽しみです。

華道の経験も知識もない私に、ご近所にお住まいの先生がお声がけくださったことが、生け花を習い始めたきっかけです。その時は奈良に越してきたばかりだったので、お花の知識はもちろん、365日、毎日行事の行われる奈良のことなど、先生のお話を伺うたびに「自分の知らなかった広い世界があるのだな」と、パッと煌めきを感じていました。

お稽古を始めた頃は、一杯の花を生けるのにお稽古で2時間、帰ってから同じように生けるのに同じくらいの時間をかけていました。花や、枝物のバランス次第で、同じ花材でも間延びしたような雰囲気になってしまいます。何だか納得いかない出来のものも先生に手直ししていただくと、そこに自然に、花が野に咲く景色が生まれるのです。

お稽古をとても楽しみにしていましたが、当店の代替わりと共に店にいる時間が長くなり、ひとまず辞めることに。教室には行けなくなってしまいましたが、今でも花を生けることは続けています。上手ではないですが、お客様に楽しんでいただけたら嬉しいなと思っています。

しばらくお稽古から離れてしまっている間も先生は「このお花、お店で生けてね」とお越しくださったり、お手紙をくださったりと、私を気にかけてくださっていました。いつも、いつでもお会いできると思っていたあの頃。まさか、先生のお別れの会に行くことになるとは思ってもいませんでした。

聞くところによると、入院されていた病院の中庭に何も植えられていなかったので、先生はご自身も大変ななか、病院の方に「あの場所へお花を植えてはどうでしょう?きっと患者さんの癒しになるでしょう」と動かれたそう。最終的には院長先生にまで話が行き、たくさんの人で花の球根を植えられたと伺いました。

先日、病院へその花を見に行きました。夏に向かう陽ざしのなかで、いきいきと咲く花たち。一緒に過ごさせていただいた時間を思いながら、私もまた花を生けようと思います。年齢も離れた私にたくさんの優しさを与えてくださったことに感謝して。

<もずくのかぼすそうめん>

材料(2人分)

・素麺…2束
・もずく(沖縄の太もずくがおすすめ)…100g
・麺つゆ…200ml
・かぼすの果汁…小さじ4
・薬味(大葉、茗荷、きゅうりなど)…適宜

生のもずくが手に入らない場合は酢もずくを使っても。その場合はかぼすは入れずにお作りください。かぼすがない場合はレモンやすだちなどで代用いただくのもよいのですが、かぼすの風味がとても合うので、ぜひお試しいただけると嬉しいです。

作り方

薬味類を準備しておく。大葉は千切りに。茗荷も同じく千切りにして水にさらす。きゅうりは塩(分量外)で表面をもみ、しばらく置いたら千切りにする。

少し濃いめの麺つゆを用意し、かぼす果汁を加えたら冷蔵庫で冷やす。

素麺を茹でて器に盛り、薬味を乗せたらできあがり。別に添えた麺つゆに浸けながら食べる。

うつわ紹介

・そうめんを入れたうつわ:有田焼の中鉢 微塵唐草
・麵つゆを入れたうつわ:RIN&CO. 越前硬漆 深ボウル S NORTH GRAY 03

写真:奥山晴日


料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/

【はたらくをはなそう】中川政七商店 店長 辻尚子

辻 尚子
中川政七商店 ルミネ大宮店

2018年 中川政七商店 ラクエ四条烏丸店 直営店スタッフとして入社
2019年 中川政七商店 ルクアイーレ店
2020年 中川政七商店 LACHIC店
2020年 中川政七商店 タカシマヤゲートタワーモール店 店長
2021年 中川政七商店 ルミネ北千住店 店長
2022年 中川政七商店 ルミネ大宮店 店長



父が歌舞伎や日本舞踊など、伝統芸能の衣装屋を営んでいました。
実家には当たり前のように着物をはじめ鼓や三味線などが置かれており、幼い頃から日本のものづくりが身近にあったように思います。

中川政七商店で働きたいと思ったきっかけは、2014年に放送された「カンブリア宮殿」。
前職の勤務地が店舗に近く、それまでも何度となく足を運んでいたのですが、何の会社で何を志しているのかなどは知りませんでした。

中川政七商店を特集したこの放送をきっかけに、両親から聞いていた業界の後継者問題や、幼い頃から知っている方の廃業などが工芸界全体の問題であると知り、「日本のものづくりのために働きたい」と考え始めました。

入社から数年が経ち、現在は店長として職人さんから受け取ったバトンをお客さまへ繋ぐ仕事をしています。
ただ商品を販売するのではなく、職人さんの思いや産地の思いをお客さまへお伝えするにはどうすれば良いのか、試行錯誤の日々です。

意識しているのは「当たり前のレベルを上げる」こと。
中川政七商店に勤めていると年に何度か聞くこの言葉。
仕事をする上で大切にしている考えの一つです。

自分だけではなく、一緒に働くスタッフさん一人ひとり、また店舗全体として、できなかったことができるようになったり、得意をさらに伸ばしたり。
日々積み重ねることでそれらがいつしか当たり前になっていく。
現状に満足することなく、少しずつでも着実に成長していくお店でありたいと思っています。
そしてそれが「日本の工芸を元気にする!」ことに繋がると信じています。

いま目指しているお店の姿は、

何となく惹かれて手に取ったうつわや織物から、手しごとならではのゆらぎの美しさを知り、お客さまがいつの間にか工芸のとりこになっている
ここに来れば日本の四季の豊かさや日本のものづくりの今を知ることができる
入り口は低く、出口は高く

そんなお店。

幸いお店には志を同じくするとても心強いスタッフの皆さんがいてくださいます。
日々助けられてばかりですが、一人では難しいこともみんなでなら可能だと思わせてくださる皆さんと、100年後の「工芸大国日本」のためにこれからも一つひとつ積み上げていきたいと思います。

<愛用している商品>

麻布Tシャツ
おすすめ理由:Tシャツとワンピースを合わせて購入枚数が10枚になりました。
さらっと心地よく、汗をかいてもすぐに乾く快適さから手放せず、梅雨から夏の時期にかけての必需品です。

うつわになる信楽焼のレンジ蒸し鉢
おすすめ理由:手軽さはもちろん、綺麗な色のまま野菜が蒸しあがる点もお気に入り。
食卓に彩りが足りないと感じた時の救世主です。

季節の置き飾り
おすすめ理由:季節の手拭いや小物とともに、毎月部屋の一角を模様替えしています。
こぢんまりとしたしつらいコーナーですが、暮らしに季節を取り入れることで日々が少し豊かになるように感じられます。



中川政七商店では、一緒に働く仲間を募集しています。
詳しくは、採用サイトをご覧ください。

【あの人の贈りかた】身に纏って楽しめる工芸で、自分の想いを届ける(スタッフ佐々木)

贈りもの。どんな風に、何を選んでいますか?

誕生日や何かの記念に、またふとした時に気持ちを込めて。何かを贈りたいけれど、どんな視点で何を選ぶかは意外と迷うものです。

そんな悩みの助けになればと、中川政七商店ではたらくスタッフたちに、おすすめの贈りものを聞いてみました。

今回は総務担当の佐々木星がお届けします。

日本の染織技術を身に纏って楽しめる「布ぬのTシャツ」

私は東京から奈良への移住者です。活動の拠点が奈良に移ること、そして中川政七商店への就職が決まったことを家族や友人に報告したとき、様々なリアクションがありました。

同年代の友人から返ってきたのは、「母への贈りものを選ぶところだ!」「工芸品を売ってるんだよね」などの声。

「自分のための買い物をするというより、誰かへの贈りものを選ぶためのお店」と考えていて、そしてそもそも商品やお店のイメージばかりが先行し、中川政七商店がなぜ工芸をベースにした商品を扱っているのか、どんな会社なのかを知らない人がとっても多かったのです。

だから、友人への贈りものは特に、中川政七商店のお店で選ぶようにしています。実際に商品を使ってもらうこともできるし、渡すときに会社の取り組みもちょっと話せる。ほんの少しでも、私が働く会社に興味をもってもらえたらいいなぁなんて思っています。

そんな私のとっておきの贈りものは「布ぬのTシャツ」です。Tシャツの前身頃にアップリケのようにあしらわれた日本の布は、産地や技術によってこんなにも個性がでるのかとつくづく驚かされます。
布を囲うステッチはなんだか額縁のようにも見えて、店頭で「どのTシャツが相手に合うかな」と、じっと見つめるひと時すら楽しい。とっても好きな商品シリーズのひとつです。

工芸がTシャツになったなんともキャッチーな商品は、中川政七商店初心者への贈りものにぴったり。「あのお店ってこんなにかわいい商品もあるんだね!今度じっくり見てみようかな」と言ってもらえると、一生懸命悩んだかいがあります。

<贈りもの>
中川政七商店「布ぬのTシャツ」

健康的な食生活への想いを込めて「産地のごはんのとも ふりかけ」

この春、一緒に働いていたアルバイトスタッフさんたちが大学を卒業して社会人になり、それぞれ奈良を離れていきました。

日頃から仕事のやり取りはもちろんのこと、大学生活やプライベートの話なども交わす親交の深い方々だったこともあり、彼女たちの門出には(勝手に)特別な想いを感じざるを得ませんでした。

そんな彼女たちに、これまでの勤務のお礼と卒業のお祝いをかねて贈ったのが「産地のごはんのとも ふりかけ」です。

大学卒業間近、寝食を惜しみながら卒業論文に追われている様子。そして卒業目前、入社準備や引っ越し準備で休む間もなく、慌ただしく活動していた彼女たちを見ていたので、「忙しくてもご飯は食べるんだよ」という想いを込めて贈りました。

手軽なサイズなので引っ越し準備の邪魔にもならない。
始まったばかりの社会人生活、楽しいこともそうでないこともたくさんあるかもしれませんが、「せっかく貰ったから、お米炊かなきゃ!」と、奈良での生活を思い出しながらもりもりご飯を食べてくれているとうれしいです。

余談ですが、ふりかけを贈った方からは喜びの声と一緒に「佐々木さん、もはや奈良の親戚みたいです」と言われました。

<贈りもの>
中川政七商店「産地のごはんのとも ふりかけ」

美味しいものは“わかちあってなんぼ”の哲学で「ゑびやのかりんとう」

「これ美味しかったから、あなたにもお福分け」と、お菓子をいただいたことがあります。
誕生日でも何かの記念日でもない、なんてことない日。相手にとってはただの気まぐれだったかもしれないですが、「美味しかったから」という極めてシンプルな理由に私はときめきを覚えたのです。

それからというもの、「美味しいものはわかちあってなんぼ」という哲学を密かに掲げ、美味しいと感じたものは積極的に贈るようになりました。

選ぶ基準としては、美味しいのはもちろんのこと、パッケージデザインが素敵だとなお良し。前職でデザイナーとしての仕事もしていたので、目を惹くパッケージデザインの商品についつい手が伸びてしまいます。

私のイチオシはゑびやさんのかりんとう。
三重県の言わずと知れた特産品を使った3種類からなるシリーズですが、私は圧倒的に「真珠塩」推しです。一般的な塩味のお菓子に比べて優しい風味と、甘じょっぱさが癖になります。

そしてお味もさることながら、パッケージも本当に素敵なんです‥‥。
優しい風合いのイラストは、どんな年代の方に贈っても喜ばれます。パッケージを留める紐には、三重県の伝統的工芸品「伊賀くみひも」が使用されていて、お菓子を食べた後にも伊勢の名残が手元に残るところがまたいい。

ひとりで噛みしめる「美味しい」も悪くはないですが、誰かと「美味しいね」とわかちあえる方が、より一層美味しくて楽しい気がします。
だから美味しいものに出会えると、自然と「次は誰と食べようか」なんて考えてしまうのです。

<贈りもの>
・ゑびや「かりんとう」
・販売サイト:https://ebiyashop.stores.jp/

贈りかたを紹介した人:

中川政七商店 総務担当 佐々木星