【あの人の贈りかた】今暮らす場所や、ふるさと。その地の想い出を込めて(スタッフ安田)

贈りもの。どんな風に、何を選んでいますか?

誕生日や何かの記念に、またふとした時に気持ちを込めて。何かを贈りたいけれど、どんな視点で何を選ぶかは意外と迷うものです。

そんな悩みの助けになればと、中川政七商店ではたらくスタッフたちに、おすすめの贈りものを聞いてみました。

今回は販促企画ディレクターの安田がお届けします。

“好き”で使い続ける麻のハンカチに、奈良の想い出を刺繍「motta」

実は、ちょっとした贈りもの、というのが苦手でした。たまに会えた友人に「久しぶり!」の嬉しい気持ちを表したい。でも贈る相手の好みを考えていると自信がなくなり、これ!というものを選べなかったのです。

贈りもの選びのヒントをもらったのは、退職祝いに中川政七商店のハンカチ「motta」をいただいた時のこと。ありそうでない、珍しい麻のハンカチです。

生地の風合いや柄がかわいらしく、麻なのにしわになりにくいから洗いざらしですぐ持っていける。たくさん持っているハンカチの中でいつの間にか出番が多くなりました。そうか!自分が使って「すき!」と思ったものを贈ってもいいんだ、と気づきました。

奈良に本社のある中川政七商店で働き始めてからというもの、友人がよく来寧してくれます。結構な確率で私が贈るのは、奈良本店限定の鹿刺繍入りのmotta。鹿の思い出と一緒に使ってね、また来てね!という想いを込めて贈ります。

<贈りもの>
motta

スリッパ迷子の母に贈った「夏の麻スリッパ」

「スリッパって、どうしたってヘタってしまうのよね」。母との会話で、スリッパの話題がよく上がります。

私の場合は、履き続けている甲の部分がどんどんブカブカになって、かかと部分の生地が擦り切れ、中の綿が出てきてしまいます。もったいなくて履き続けるのですが、恥ずかしいので来客がある時に急いで買い替える。何とかならないものか‥‥と思っていました。

そんな時に手に入れたのが、中川政七商店の「夏の麻スリッパ」。

中敷きがジュート麻になっているので、素足で履くとざらざらした感触がとても気持ちいいのです。また、夏の蒸れやすい時期に湿気がこもらないのも、おすすめしたいポイント。早速、同じくスリッパ迷子の母にプレゼントしました。暑がりの母はとても気に入ったようです。

そして今のところ、ヘタり具合も気にならない。毎日の家事の相棒だから、この調子で丈夫に長持ちしてほしい!と思っています。

<贈りもの>

夏の麻スリッパ

ふるさとの話に花が咲く「大丸屋製菓 栗最中」

中川政七商店で働く同僚は、奈良県以外の出身者も多く、故郷の話でよく盛り上がります。お土産で地元の珍しいお菓子をいただくこともしばしば。群馬県出身の私としては、地元の美味しいものを皆さんに知ってほしいと、帰省するたびにいろいろ探しています。

いつもお土産リストに入っているのは、大丸屋製菓さんの「栗最中」。群馬県沼田市に本店を構え、創業130年を超える老舗の和菓子屋さんです。栗最中は小倉餡と白餡の2種があるのですが、私は白餡派。優しい甘さの白餡に大きな栗が丸ごと入っていて、1つで大満足のお菓子です。

故郷のお菓子を誰かに贈るとき、古い友人を紹介するようでなんとなく照れくさく感じてしまうのは私だけでしょうか‥‥?もしかすると、ふるさとへの想いがお菓子を通して伝わってしまう気がするからかもしれません。

<贈りもの>
・大丸屋製菓「栗最中」
 ホームページ:https://www.daimaruya.jp/
 Instagram:https://www.instagram.com/daimaruya_wagashi/

贈りかたを紹介した人:

中川政七商店 販促企画ディレクター 安田裕子

森を身近に。「奈良の森のシロップ」商品開発の道のり【奈良の草木研究】

工芸は風土と人が作るもの。中川政七商店では工芸を、そう定義しています。

風土とはつまり、産地の豊かな自然そのもの。例えば土や木、水、空気。工芸はその土地の風土を生かしてうまれてきました。

手仕事の技と豊かな資源を守ることが、工芸を未来に残し伝えることに繋がる。やわらかな質感や産地の景色を思わせる佇まい、心が旅するようなその土地ならではの色や香りが、100年先にもありますように。そんな願いを持って、私たちは日々、日本各地の作り手さんとものを作り、届けています。

このたび中川政七商店では新たなパートナーとして、全国の里山に眠る多様な可食植物を蒐集し、「食」を手がかりに日本の森や林業に新たな価値を創出する、日本草木研究所さんと商品作りをご一緒することになりました。

日本の森にまなざしを向ける日本草木研究所と、工芸にまなざしを向ける中川政七商店。日本草木研究所さんの取り組みは、工芸を未来へ繋ぐことでもあります。

両者が新商品の素材として注目したのは、中川政七商店創業の地である奈良の草木。この「奈良の草木研究」連載では、日本草木研究所さんと奈良の草木を探究し、商品開発を進める様子を、発売まで月に1回程度ご紹介できればと思います。

5本目となる今回のテーマは「開発者対談」。日本草木研究所と中川政七商店が新しく開発した商品について、ついにご紹介する記事がやってきました。

「奈良の森のシロップ」「奈良の森のサイダー」と名付け、吉野杉や吉野桧、大和橘、モミ、クロモジ、アカマツを素材に、清涼感ある飲料に仕上げた今回の商品。いよいよ7月末に発売が迫る初夏のとある日、ともに商品開発に取り組んだ日本草木研究所の古谷知華さん、中川政七商店の内山恭子に、インタビューを実施しました。



奈良の森の可能性を届けたい

ーーまずはじめに、古谷さんにご質問です。日本草木研究所さんとして、他社と大きくコラボレーションするのは今回が初めてだと伺いました。世の中にたくさん企業があるなかで、中川政七商店とのコラボレーションを検討くださったのは、どうしてだったのでしょうか?

日本草木研究所・古谷さん(以下、古谷):

中川政七商店さんが日本のプロダクトや文化を大事にしながら商品を作っていらっしゃることは、ずっと以前から拝見していました。その姿勢をとても尊敬していて、日本草木研究所(以下、草木研)の活動についても、きっと共感してくださるところがあるのではないかと思ったことが一つです。

あとは、私自身が奈良の自然にすごく興味を持っていたことも理由ですね。奈良は林業がはじまった場所ですが、今は他の地域と同じく衰退してきています。また奈良は日本のなかでも早い時期に、漢方を作るなど植物をシステマチックに使っていたり、歴史として残していたりする土地です。森のルーツや植物の文化がすごくある場所だなと思っていたので、ここで何かを試みることに草木研としての意義も感じていました。

その他にも、今回素材に使用した果実の大和橘は別ブランドで手掛けているクラフトコーラの活動でずっと使っていて、奈良の方とやり取りもしていたので、そういったご縁を感じるところもあって。

大和橘ってもともとは森に自生していた植物なんですけど、今は活動団体さんなどの手で農業として育てられています。そこで育てられた果実や葉を使ったジンが登場するなど、「奈良といえば大和橘」といったイメージも徐々についてきて、森にある植物のなかでも産業化が成功しつつある草木だなと。

そんな風に、吉野杉や吉野桧、大和橘など、森に育つ植物を商品化して森の活用をしてきた実績が奈良にはあったので、そこに可能性を感じて商品に使ってみたいという興味があったんです。

日本草木研究所・古谷知華さん

ーー続いて、内山さんに質問です。草木を使った食品企画に取り組むと決まった際、どんな風に感じられましたか?

中川政七商店・内山(以下、内山):

最初は「どうやってやるんだろう」と思って。どんなものなら食べ物に使えるんだろうと考えていくと、自分は意外と森のことを知らないなと気付きました。

古谷さんとお会いして最初にお話を聞いた際、「日本の林業にはきこり業ときのこ栽培しかない。本当はその間にもっと可能性があるのに」っておっしゃっていて、それがすごく印象に残ったんですね。それで、その“可能性”の部分にかけてみたいなという想いがありました。

中川政七商店・内山恭子

こだわったのは森のストイックさと、飲みやすさのバランス

ーー奈良の森を素材として使用することが決まり、いろいろ検討したうえで最終的にはシロップとサイダーの開発に至りました。どんな考えからこの商品に着地したのでしょう?

内山:

最初はいろいろな可能性をお伺いしながら、草木研さんのオリジナル商品の試飲や試食などもさせていただいたんです。それで、そのなかでも一番「あ、森だ!」とストレートな驚きがあったのがシロップだったんですよ。

あとは炭酸水で割ってもいいし、煮詰めてソースに使ったり、かき氷のシロップにしたりといろいろなアレンジもできるので、中川政七商店のお客様にも楽しんでいただきやすいかなと。

古谷:

私としては、中川政七商店さんのお客様が手に取りやすいものであれば特にジャンルにこだわりはなくて、作るものも奈良の森を訪れてから考えたいなと思っていました。なので、最初から具体的に何を作るか決めていたわけではなかったんです。

とはいえ“奈良といえば”の吉野杉や吉野桧は使いたいと思っていたので、それなら食品よりも飲料の方が相性がいいなとは、過去の経験から考えていました。

内山:

そうですね、私も奈良の特産である吉野杉や吉野桧は使いたいと思っていて。だったら‥‥と、先ほどお話いただいた古谷さんからのアドバイスも踏まえて、オリジナルのシロップを開発することになりました。

それで、せっかくメインの素材を奈良で打ち出すなら、いっそ全部の香木素材を奈良のものにできないかなと。ただ中川政七商店のお客様は、草木だけで構成すると少し手に取りづらいかもしれないとも思い、もうちょっとやわらかな感じを出せるように、奈良で大切に育てられている大和橘を使用したいと考えました。

あと、奈良には吉野などの山のイメージもありますが、明日香村や奈良公園のようなちょっと下った裾野の方の、里のイメージもあると思うんです。それで里の香りがする大和橘が入った方が、奈良の植生感と奥行きが出るかなと考えて。

奈良の森のシロップ(左)とサイダー(右)。サイダーはシロップを炭酸水で割ったもの

ーーシロップの味や香りを決める際、こだわった点についても教えてください。

内山:

先ほどもお話しした通り、「森を飲む」というコンセプトとはいえ、ストイックになりすぎるとお客様が手に取りにくいかもしれないので、飲みやすく仕上げたいと思いました。

その理由から、ヒノキや杉で森のイメージは出しつつ、クセのある草木の分量は減らしていただいたのがポイントです。あとは大和橘で柑橘の香りや味を加えることで、なじみのあるものと感じていただければなと。

ただ、そんな当社の方針を踏まえて草木研さんが提案くださった1度目の試作品は、甘みがあって飲みやすかったんですけど、実は、採用を見送って。そこから「もう少し森っぽさを加えてほしい」とリクエストしたんです。

そのきっかけは、1度目と2度目の試作の間に、奈良の山へ一緒に入ったこと。雨が降るなか山守さんに森を案内いただいたのですが、そこでピリッとした山の空気や、山を守ってきた方々の崇高なプライドを感じたので、甘すぎるのは違うなという気がしました。だから「ストイックさをもう少し前に出して、バランスを出したいんです」って、2度目の試作のリクエストをして。

あまりにも飲みやすくしちゃうと草木研さんや山守さんの想いが薄まってしまい、「美味しいシロップ」で終わっちゃうなと思ったんです。

古谷:

山歩きが商品開発に繋がって私も嬉しいです。実際に山に入ることで、対象に対しての解像度が高くなって、商品のイメージが固まることってありますよね。

日本草木研究所と中川政七商店のメンバーで、初春の吉野山へ

ーー改めて、今回使用した素材について、それぞれの草木が持つ味や香りの特徴を教えていただけますか?

古谷:

はい、もちろん。
まず杉は青りんごみたいな甘みがあって、青いけどやさしい味と香りがするのが特徴です。最も顕著に香りが出るのは新芽なんですけど、葉っぱでも十分その特徴は感じていただけます。幹の方になるともう少し強い木の香りになるので、今回は枝葉のやわらかい香りの部分を使ってます。

ヒノキは皆さん、暮らしのなかで使用されるシーンが多いので、恐らく香りのイメージが一番わきやすいと思います。ヒノキの香りがすることで森らしい印象には繋がりやすいのですが、強すぎると「人が飲めるもの」と感じにくいので、クロモジや大和橘のような比較的なじみのある草木を入れることで、飲みやすく思えるように全体の印象を調整しました。

クロモジが持つニナロールという成分は、レモンや生姜にも含まれている香り。“やさしいジンジャー”のようなイメージで、草木から食品を作る時にすごく重要な役割を果たしてくれる植物です。昔からお茶などの食品に使用されてきましたが、味や香りはお花っぽいというか、あまり「木を食べている」感じはしないかもしれません。華やかで上品な味わいにしてくれる、キーボタニカルの一つです。

こちらはアカマツ。今回はチップの部分を香りづけで使用しました。削りたてのアカマツのチップって、オレンジのような香りがするんですよ。ただマツヤニの香りも少しあるので、わりと短所と長所がはっきりしている植物ですね。入れすぎるとクセが強くなって飲みづらくなるのですが、多少入れる分には独特のいい風味を出してくれます。

うちがオリジナルで作っているシロップはアカマツが多めなのですが、中川政七商店さんとの商品ではクセを出しすぎないように、ほんの少しだけ使っています。

次にモミ。モミは折るとグレープフルーツみたいな香りがして、時間が経つとベリーの香りに変わっていく不思議な特徴を持っています。シロップにはフレッシュな香りを蒸留して使うので、最初の爽やかな華やかさを演出してくれます。

内山:

大和橘は日本書紀や古事記にも出てくる、日本の柑橘のなかで一番古いといわれる果実です。500円玉の裏に描かれていたり、桃の節句では雛人形とともに「右近の橘、左近の桜」として飾られていたりと、日本人にとって実はなじみが深い柑橘なんですけど、準絶滅危惧種になっていることもあり、実際はほとんどの方は食べたことがないと思います。

ちょっと酸味や苦みがあるのでそのまま食べるのには向かないんですけど、シロップに使うと飲みやすくなるし、アクセントも出るのでちょうどよくて。大和橘の復活に取り組まれている生産者さんから分けていただいたものを使用しました。

古谷:

今回は蒸留の工程で大和橘の葉っぱを多く使うことで香りを出して、実の部分は芳香蒸留水をシロップにするときに足していています。それぞれ加工の方法が違うんです。

内山:

そうですね。結構たくさんの葉が必要だったんですけど、「シロップの製造時期にその量をカットすると木が弱るかも」と生産者さんがおっしゃったので、製造期より少し早い剪定の時期に「葉っぱを拾いに行かせてください」とお願いして、私の上司と2人で葉っぱを拾いに行きました(笑)。

古谷:

そのお話、初めて聞きました!ご自身で拾いに行ってらっしゃったんですね、すごい。

内山:

そうなんです。乾燥する前に摘んで冷凍しなくてはいけないので、生産者さんの倉庫にこもって、運び込まれた枝からせっせと摘みました(笑)。

心をやすめて、森を身近に感じる機会に

ーーシロップが完成してついに7月末に発売となります。お客様へのメッセージをそれぞれいただけますか?

内山:

夏の時期の発売となるので、涼やかな気持ちになれる味わいに仕上げました。ソーダで割ったり、お酒に一滴たらしたりしながら、忙しくされていて気持ちに一区切りつけたい時や、ゆっくりできる夜などに、時間をかけて楽しんでもらいたいなと思います。

美味しく飲んでいただきながら「アカマツとかクロモジってどんな葉っぱなんだろう」って、それまで気に留めなかった草木について調べたり、その背景である森にも想いを馳せたりする時間になれば嬉しいです。

古谷:

当社オリジナルのシロップを飲んでいただいたお客様から、「森を感じました」とか「森林浴をしている気分になりました」といった感想を頂くことが多いんです。普通に街で暮らしていると森って身近にないじゃないですか。そんな風にいまの日本の暮らしって、自然との距離が遠くなりつつあると思うんです。

シロップ一つでいきなり森と近づくのは難しいかもしれないんですけど、でも、蓋を開けたときの森の香りや、「奈良の森ってなんだ?」なんて違和感から、少しでも森や自然を想う時間が暮らしのなかに生まれるといいなと思います。


<次回記事のお知らせ>

中川政七商店と日本草木研究所のコラボレーション商品は、2024年の7月末に発売予定。「奈良の草木研究」連載では、発売までの様子をお届けします。
最終回となる次回のテーマは「奈良の森のシロップの楽しみかた」。そのまま飲むだけじゃない、いろいろな活用方法をご案内します。

<短期連載「奈良の草木研究」>

文:谷尻純子
写真:奥山晴日

【はたらくをはなそう】デジタル推進課 小林亮介

小林亮介
デジタル推進課

新卒で大手SIerに入社し、金融機関向けのシステム開発に従事した後、ベンチャー企業に転職して小売業向けのシステム開発を担当。その後小売企業に転職し、内製によるシステム開発に従事し、2017年11月に中川政七商店に入社。
内製化による社内システムの刷新やECサイト・ホームページのリニューアル、店舗レジの入れ替え、会員ポイント制度の導入、SaaS導入によるバックオフィス業務の改善、茶論やアナザー・ジャパンなどの新規事業のシステム支援などを行なっている。



システムエンジニアという、一見すると中川政七商店とは関係なさそうな仕事をしています。

一般的に事業会社のシステムは、SIer(エスアイヤー)と呼ばれる、システム開発を請け負う企業に依頼することが多いのですが、近年では事業会社がエンジニアを採用し、内製によるシステム開発を行うことが増えてきました。中川政七商店も内製によるシステム開発を行なっており、私が所属するデジタル推進課が担当しています。

新卒から約15年間システム開発を経験し、「企業の業務改善に貢献できるようになったな」と実感を持てるようになっていました。今後のキャリアを考えた際、エンジニアなら「技術を極めたい!」とか「大規模なシステムを開発したい!」と考えるのが一般的だと思いますが、私は「何か社会のために意味のあることをしたいな」と考えるように。

そんなタイミングで縁があって中川政七商店を知り、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンに共感を持ったのです。

中小工芸メーカーからすると、会社のシステム開発やIT化は、「難しいし、コストも高そうだな」といった印象なのだと思います。ですが、実際は技術の進化によりコスト的にも技術的にもハードルは下がっており、また世の中に便利なサービスも増えており、中小企業こそ導入するメリットがあります。そういった側面から、エンジニアの立場でも日本の工芸に貢献できると考え、入社したいと思いました。

とは言え、入社当時は中川政七商店自身がシステムに課題を抱えており、まずは中川政七商店のシステムをレベルアップさせる必要がありました。そのため入社以来、既存のシステムの課題やシステム化できずに苦労している点を、各部署と検討してシステム開発する仕事を続けています。

各部署の方と話すときは、

・システムやIT関係の専門用語は使わない
・各部署の業務視点から考える

といったことを意識しています。

知らない分野の専門用語が出てくると相手は身構えてしまうもの。だからこそ、身近なものに置き換えながら話すことを心がけています。

また、「システムの機能はこうだから、業務はこうしましょう」のようにシステム視点から考えてしまうと、各部署が本当に困っていること、やりたいことに辿り着かなくなってしまいます。

そのため何かを検討する時は、まずはシステムのことに触れず業務のあるべき姿を一緒に考え、そのうえでシステムとして手助けできる部分を検討するようにしています。システムはあくまで手段なので、目的(業務のあるべき姿)が達成できれば、必ずしも最新技術であったり高機能であったりする必要はないのです。

そうして取り組んでいくうちに、「私の仕事はシステムを開発することではなく、そのシステムを使ってしっかり業務が成り立つようにすることだな」という意識になりました。

先日も店舗で棚卸(期末に店舗の商品の数を全て数える業務)をするシステムを開発したのですが、仕様通りにシステムが動いたことではなく、無事に全店舗の棚卸が完了できたことに喜びを感じました。

エンジニアという立場ではありますが、各部署の課題解決に当事者意識を持って臨んでいくことができ、会社の業務が良くなっていくことを実感できるところに、仕事の楽しさがあります。


<愛用している商品>

かや織バスマット Mサイズ
サイズもちょうど良く、吸水性、速乾性が良いバスマットを探していたので重宝しています

HASAMI ブロックマグビッグ
質感がいいのもあるのですが、重厚感もあり所有欲を満たしてくれます

かや織ケット 鹿
小さい赤ちゃんがいるので、柔らかい肌触りで気に入っています



中川政七商店では、一緒に働く仲間を募集しています。
詳しくは、採用サイトをご覧ください。

「大事な本を、次の誰かの大事な本へ」。本の健やかな循環を生む、VALUE BOOKSの古本買取・販売サービス

読み終えた本や、迎えたけれど読み切れなかった本。「手放すのはもったいないな」と何となく手元に残しておくものの、再び頁を開く機会が訪れるかはわからない。皆さんにもそんな本ってありませんか。

仕事で抱えた悩みに寄り添ってくれた新書、痛快な書き口に励まされたエッセイ、美味しいご飯を求めて迎えたレシピ本。いつかどこかでまた自分に必要となる気がして、繋がる時を待っている本が私自身も自宅にたくさんあります。

けれどそんな思いとは裏腹に、手狭になっていく我が家の本棚。まだまだ大切にしたい気持ちはあるものの、現実的にそうも言ってられないなか、中川政七商店としておすすめしたいのがVALUE BOOKSのサービスです。

長野県上田市を拠点としながら、インターネットを主な場として古本の買取販売を行うVALUE BOOKS。「大切な本を、その気持ちのまま次の誰かに繋げてくれる」と信頼が厚く、中川政七商店の社内にもファンが多くいます。

今回はそんな社員の一人で、普段からVALUE BOOKSのサービスを利用している安田に、同社サービスの魅力を聞いてみました。

<ご案内>
VALUE BOOKSの17周年を記念したキャンペーンが実施中。読み終えた本をVALUE BOOKSへ送ると、買取金額に応じて中川政七商店 他、さまざまなブランドがセレクトした本とのひとときを彩る素敵なギフトがもらえます。ぜひこの機会にご利用ください。
開催期間:2024年7月6日(土)~7月31日(水)
詳細はこちら:https://www.nakagawa-masashichi.jp/staffblog/blog/b1170/




コロナ禍を経て、読書が日課に

普段は中川政七商店で、商品の販売促進企画を担当する安田。自宅の本棚にはエッセイから写真集、ビジネス書など、ジャンルを限らず多種多様な本が並びます。

「コロナ禍に入り自宅で過ごす時間が多くなり、手持ち無沙汰になったことで本を読む時間が増えました。それまでもビジネス書のような仕事に関係ある本は読んでいたのですが、小説とか哲学書、あとは旅に行けなくなったから旅行気分になれる本もよく読むようになりましたね。コロナが落ち着いてからも読書の習慣がついて、夜寝る前や週末の午前中などを読書時間にあてています」

寝室の大きな本棚の他、いくつか本を収納するコーナーを設けた安田の部屋。自宅の真ん中に置かれたソファを読書の定位置に、その時々で気になるテーマを手に取り、何冊かを併読しながら本との時間を楽しんでいるといいます。

「例えば『今日は哲学的なテーマに触れたいな』とか。

コロナ禍を機に『幸せに生きるってどういうことだろう』と思うようになって、それで哲学的な思想を再編集しているような本を手に取るようになりました。お気に入りの『マチネの終わりに』も、哲学的なメッセージを小説で伝えている本ですね」

「でも購入する本は特定のジャンルに限ってるわけではなくて。気になったらすぐ買ってしまうタイプなので、一か月に10冊以上は家に迎えます。全部すぐに読めているかと言われたら、そうではないんですけど(笑)。

最近読んだのは高山なおみさんの『自炊。何にしようか』。これはまさにVALUE BOOKSさんで買いました。高山さんの暮らしを特集しているテレビ番組を見て、すごく自然体で素敵な方だなと思って。それで、本も読んでみたいなと思い(この本を)VALUE BOOKSさんで探して買ったんです」

「今は奈良に住んでいるのですが、興味のあるテーマを置いている本屋さんが生活動線になかなかないので、本はネット通販で買うことが多いですね。新品かどうかには全然こだわりがなくて、古本屋さんもたくさん活用してます」

月に10冊以上購入するという安田家には、本棚に収まりきらない本も多数。こまめに本棚のラインアップを見直すようにしつつ、どうしても入りきらなくなった際に利用するのが、VALUE BOOKSの古本買取サービスです。

「メインの本棚はちょこちょこ内容を見直していて、半年に一度ほどのペースで大きく中身を変えています。でも本って、その本を買った時に持っていた気持ちとか、手に取ったときに居た状況と共にあるじゃないですか。だからなかなか捨てづらかったり、読まないのにずっと家にあるっていう本もあるんです」

「VALUE BOOKSさんのサービスを知るまでは、本棚から溢れた本は段ボールにまとめておいて、引っ越しのタイミングで捨てていました。ただやっぱりもったいないなと思ってて。古本屋さんに持ちこむこともありましたが、持参するのも大変だし、なかなかいい方法が見つかりませんでした。

VALUE BOOKSさんのことは、中川政七商店に入社して仕事でお付き合いを始めてから知ったんですけど、今ではすっかりファンになって、かなりの頻度で利用しています」

自宅の“積読”コーナー

「本が丁寧に扱われているところが好き」。VALUE BOOKSの古本買取・販売サービスの魅力

「利用を始めて3年ほどですが、何十冊もの買取依頼を既に5回ほどしています。買うときも、欲しい本があったらまずは『VALUE BOOKSにあるかな?』って調べますね」

数年前に利用を始めてから、今では売るのも買うのもVALUE BOOKSが多いと話す安田。同社のサービスの端々に、読み手への気遣いや本への愛を感じるのが信頼につながっていると続けます。

「VALUE BOOKSさんのサービスって、利用者のことをよく考えて設計されてるんですよ。例えば買取サービスでは結構な量を売りに出すので、自宅に集荷に来てくれて、宅配で出せることもラクで利用しやすい点の一つです。

査定していただいた後にずらりと書籍名と価格がリストになったメールが来るのですが、それを見るのも楽しくて。自分が予想した金額とあっていたり、予想よりも高く買い取っていただいたり、そうやって本の市場動向を見るのも楽しみですね(笑)。

ちなみに、古本屋というとあまり高値がつかないイメージですが、VALUE BOOKSさんは買取価格が高いことも結構あるんです。大事にしていた本に高値がつくと、利用者としてはやっぱり嬉しいですよね。

自分がこれまでに利用してきた古本買取サービスと比べても、高額買取だなと感じることが多くて、そこにも、企業側の本への愛情を感じます」

買取は簡単4ステップ(画像提供:VALUE BOOKS)
買取対象の本は、段ボールに詰めて自宅から発送できる
スマホから手続き可能。発送から数日で査定金額を書いたメールが届き、金額に納得出来たらそのまま買取へ。もちろんキャンセルも可能

「あとは『ソクフリ』という、査定したらすぐに振り込んでくれるサービスが選択できるところも便利です。査定金額に納得してから買い取ってもらうこともできますが、忙しいなかではやり取りの数が少なく、スムーズに買い取りに出せることもすごく大事。なので、ソクフリを利用することも多いです」

一方でVALUE BOOKSから本を購入する理由は「丁寧さですね」とのこと。

「送られてきた本の状態がすごく良いんですよ。古本なので最初はあまり期待してなかったのですが、新品の半額くらいで買った本も、状態がきれいなばかりかすごく丁寧に梱包してあるんです。それがいいなって。

本への愛を持って届けておられるんだなって感じますし、『届いたら表紙が破れていた』なんてこともないので安心して利用できます。だから『今日や明日に届かなくても、丁寧に扱ってくれるところを選びたいな』と思うんです」

自分の大切な本を、誰かの大切な本へ

「本当は古本屋さんの見逃しかもしれないんですけど(笑)、古本ってたまに、本の中に前の方が引いた線があったり、メモ書きが残ってたりするじゃないですか。でも、実はそこが好きで。『この人はここが気になったんだな』って、誰かの気配を感じて温かい気持ちになる。そんなところにも古本の良さを感じます。

捨てるに捨てられなかった本が、丁寧に扱ってくれる古本屋さんを媒介に、また誰かに伝わっていく。そうやって本の健やかな循環が生まれるなら、安心して次の方に手渡せるなって思うんです」

“本が循環する社会”をつくることで、生活する人たちの”うれしくなる” 連鎖が広がり、社会をよりよくできれば。そんな風に考えて、本の価値をシェアすることで社会をよくする力を引き出したいと、本気で臨むVALUE BOOKS。

自分の大切にしていた本が、誰かの大切な本になる。そんな機会を、ぜひ皆さんもご利用ください。

<ご案内>
VALUE BOOKSの17周年を記念したキャンペーンが実施中。読み終えた本を送ると、買取金額に応じて中川政七商店 他、さまざまなブランドがセレクトした本とのひとときを彩る、素敵なギフトがもらえます。ぜひこの機会にご利用ください。
開催期間:2024年7月6日(土)~7月31日(水)
詳細はこちら:https://www.nakagawa-masashichi.jp/staffblog/blog/b1170/

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「本って、いいよね。」を増やしたい。本をめぐる環境を整えるため、悩み続けるバリューブックス

文:谷尻純子
写真:奥山晴日

やわらかな光で暮らしを灯す。手漉き和紙のポータブル照明「TORCHIN」をスタッフ宅で使ってみたら

果実シロップを漬けてみたり、わざわざキャンプに赴いたり、手入れに手間のかかる昔ながらの道具ばかりをつい手に取ったり。便利で機能的なものや日々の刺激に心を躍らせる一方で、自分を鎮める時間を持つのも、大人になって上手くなった気がします。

大きな音や強い光にあふれる私たちの毎日。

そこから少し距離をとり、私たちの心をゆるやかにほぐす、やさしい灯りをたたえた照明器具がこの夏デビューしました。

手がけたのは長い年月、ご先祖様の道しるべとなる盆提灯を作ってきた、福岡のシラキ工芸。「TORCHIN(トーチン)」と名付けられたこちらの照明は、伝統工芸・八女提灯の確かな技術を用い、手漉きの和紙を通した灯りを今の暮らしにあう形でお届けする、新しい提灯の形です。

昔も今も、心静まるやすらぎを与えてくれる和紙の灯り。現代の暮らしに取り入れたらどうなるんだろうと、スタッフ2名が自宅で早速使ってみました。

白を基調とした、洋風インテリアの森田家で灯す

奈良市から少し離れた、のどかな景色が広がる場所に暮らす森田。家族の他、共に暮らす猫や犬、鳥も加わり、日中はにぎやかな時間を過ごします。

白を基調とした空間には、シンプルながらぬくもりのある木製家具や、キャッチーな色合いに目を引かれる子どもの遊び道具、また庭から摘んできた草花などを配置。吹き抜けにして高めにとった天井や、たくさんの窓から入る光が気持ちよく、明るく朗らかで清々しい雰囲気の空間です。

明るい昼間はインテリアとして

「夫婦でインテリアの趣味が合うので、この家を作る時も大きな衝突なく進められました。妻がリードしてくれながら全体の雰囲気を決めて、夫婦で選んだ家具をベースに、子どもが描いた絵やお互いの好きな雑貨などもところどころに飾っています。キッチンカウンターの漆喰やリビングドアのペンキを塗るなど、DIYも取り入れながら理想の家に近づけていきました」

「TORCHINはリビングで夕方頃、ちょっと暗くなってきたら灯しています。和紙の照明器具を使用するのは初めてだったので、迎える前は『結構暗いのかな?』と思ってたんですけど、しっかり明るくなるので驚きました。他にもポータブル照明は持っているのですが、それと比べると光がやさしいところがいいですね。和紙ならではのやわらかい明かりが落ち着きます。

それと、すっきりした佇まいなので、洋風のインテリアにも馴染んで使いやすいです。TORCHINの持ち手が木であるところも、暮らしの雰囲気に合いやすいなと感じました」

「子どもは『きのこ!』って言って喜んでて(笑)。シンプルなつくりでスイッチも押しやすいので、気にいったみたいです」

夜は暗闇のなかのやわらかい灯りに

「夜は寝室に移動させて、寝る前の時間にも点けています。片手でひょいっと運べるので、家中どこでも気軽に持ち運べますね。娘に絵本を読み聞かせる時間にベッドサイドへ置いていたのですが、やさしい灯りで安心するので、絵本を読みながら少しずつ眠りにつけていました。睡眠の質を上げるために、寝る前に部屋を薄暗くする間接照明として重宝しています」

「あとは、やんわりと明かりをつけておけば夜間の常夜灯としても使えるなと。夜中に目が覚めて水を飲みにいく時に、部屋をやさしく照らすのにもちょうどいいです。部屋のメイン照明をつけると刺激が強いし、スマートフォンの灯りも明るすぎるので、これまでは意外といい具合の明るさってなかったなと」

「子どもに少しでもいい未来を残したいから、エシカルな生活とまではいかないんですけど、普段から環境のことを考えて少しだけ取り組んだりしていて。野菜くずなどの生ごみはコンポストに入れたり、道具もなるべくプラスチックフリーで長く使えるものを愛用したりしています。TORCHINは充電しながら長く使えて、シンプルでどんな空間にも合いやすいので、ずっと付き合っていけそうなところも素敵だなと思いました」

町家をリノベーションした、木造住宅に暮らす高倉家で灯す

奈良市内の観光地から少し外れた、歴史ある木造住宅の町並みが今も広がる地域に、妻と2人の子どもと暮らす高倉。実はTORCHINの新規開発を進めるにあたり、プロジェクトを取り仕切った責任者でもあります。

古い町家をリノベーションして開放的にとった居間に設えるのは、古今東西から集めた和洋折衷の古道具や古家具。中央に置かれた大きなダイニングテーブルには料理好きの夫婦らしく、創作和食やアジアン料理など、家族や友人に向けた様々な料理が並びます。

リラックスタイムのそばに

「まずは夜、居間や寝室で本を読む時にTORCHINを使ってみました。仕事の本というより趣味の本を読むような、リラックスして読書をしたいときはTORCHINの灯りがちょうどいいんです。そのまま寝たいときは、寝室にも持ち込んだり。

ベッドにも備え付けの照明は付いているんですけど、点けると全体が明るくなっちゃって。例えば妻は寝ているけど僕は読書をしたい時なんかは、妻側も明るくなってしまうんですよね。そういうときに自分の側にだけTORCHINを置けば自分一人だけの範囲を照らせるし、明るさも調整できるので便利だなと。改めてTORCHINの魅力を実感しました(笑)」

「私は寝る前のストレッチに使っていて。疲れがとれてよく眠れるのでストレッチを毎日しているんですけど、いつもは部屋のメイン照明を消して間接照明を点けてたんですね。でもTORCHINが来てからはその間接照明さえも消して、TORCHINの小さな灯りだけを点けています。そうすると、いつもよりもさらに深くリラックスできて、スーッと寝られるような気がするんです。和紙のやわらかさがあるのかな。

ラベンダーのピローミストと併せて使うと、仕事が忙しくて高ぶっていた日も、頭も身体も、ゆったりほぐれるような感覚になりました」(妻・顕子さん)

「あとは夜、部屋の灯りを消してTORCHINだけを点けながらお酒を飲んだりもしていて、その時間がすごく贅沢だなぁって。本を読むときは明るさを一番強いものにして、晩酌の時は少し灯りを小さく、ストレッチの時は一番暗いものにするといった風に、調整がきくのも使いやすいなと思いました」(妻・顕子さん)

誰かとの楽しいひとときにも

「夫婦ともに料理が好きなので、時々友人を招いて夜に簡単な食事会をすることもあるんです。そういう時、飲食店のように少し暗めの灯りだとよりリラックスして会話も弾むなと思い、その場でもTORCHINを使ってみました。メインの照明を落としてTORCHINで明るさを追加してみたら、食卓や料理に華やぎが出て。

子どもがいて頻繁に友人たちと外食をできるわけではないので、こうやって家で、外食の時のような楽しい時間を過ごしたい時にも頼りになりそうです」

家族の形態が変わっても、家の好みが変わっても、どこにでも持ち運べて、どんな場にも合う。和紙の持つやわらかな雰囲気と、クセの少ないフラットなデザインだからこそ、気軽に取り入れられて、長く付き合って行けそうです。

穏やかな光が皆さんの暮らしをやさしく照らし、末永い相棒としてご利用いただけますように。

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文:谷尻純子
写真:奥山晴日

「美濃に還元できる商売を」。和紙糸で可能性を拡げる、美濃和紙・ 松久永助紙店

私たちの暮らしを支えてきた、日本各地の様々なものづくり。

それらがさらに百年先も続いていくために、何を活かし、何を変化させていくべきなのか。ものづくりの軸にある「素材や技術」に改めて着目し、その可能性を探るため、中川政七商店がスタートさせた試みが「すすむ つなぐ ものづくり展」です。

今回のテーマは「和紙」のものづくり。

古くから、文字を書き記すための道具にとどまらず、茶道の懐紙、障子や襖紙、提灯、紙幣、祭事の道具など、暮らしのあらゆる場面に使用されてきた和紙。

今や時代はうつろい、洋紙の登場やライフスタイルの変化を受けて、暮らしの中で和紙を見かける機会は少なくなってしまいました。

そんな中でも、和紙が持つ素材の魅力、職人の技術には、今の日本の暮らしを豊かにする可能性がある。そう信じて和紙と向き合い、各産地で挑戦を続ける作り手たちがいます。

和紙のイメージをぐっと広げるもの。和紙本来の魅力を再認識できるもの。

今まさに新たな挑戦が”すすむ”ものづくりの現場を取材し、百年先へ和紙を”つなぐ”ためのヒントを伺いました。


美濃和紙の産地、「うだつの上がる町並み」へ

訪れたのは岐阜県美濃市にある「うだつの上がる町並み」。伝統的建造物群保存地区に選定されたその地には、晴れた日には深緑をたたえた山々を、また雨の日には山の稜線が霧に霞んだ何とも幻想的な景色を背景に、趣ある町家が建ち並びます。

長良川の近くに位置するこの地域は古くから和紙業で栄えた場所。日本三大和紙とされる「美濃和紙」に関連する企業が今も多く商います。

こちらが“うだつ”。火事の類焼を防ぐため、屋根の両端につくられた防火壁を指す

「美濃で和紙の産業が栄えた大きな要因の一つに、長良川や板取川といった清流に恵まれた場所であることが挙げられます。私たちがお店を持つこの地域は長良川がすぐそばにあり、主に問屋街として発展してきました。もう少し川の上流には和紙職人が集まるわらび地区という場所もあります。

昔は上流にいる職人さんが漉いた和紙を船に乗せて川を下り、ここからすぐの灯台がある港に降ろして、馬車で問屋街に運んでいました。そうして問屋が選別したり加工したりして商品化して、それをまた船に乗せて岐阜市や名古屋市、大阪、東京など全国に流通を回していったんです。うまく商流にのせやすい仕組みがあったんですね。

岐阜市の方では和傘や提灯のような和紙を用いる産業が盛んだったので、売り先もたくさんありました。それが産地として強かった理由かなと思います。そのなかで問屋の商人も育っていき、今でも和紙の大きな産地として何とか残っているんじゃないかなと」

お話を聞いたのは、この場所で和紙問屋として商う松久永助紙店の松久恭子さん。明治9年に創業し、現在は5代目となる恭子さんを中心に、昔ながらの和紙の他、和紙雑貨や和紙糸、紙布、また和紙糸を使った生活雑貨などを扱っておられます。今回、中川政七商店とともに同社の和紙糸を使った洋服や服飾雑貨づくりにもお力添えをいただきました。

松久永助紙店・松久恭子さん
同社のオリジナルプロダクトなどを販売する店舗も運営

「水の工芸」とも呼べるほど、きれいな水が欠かせない和紙づくり。長良川の役割は運河にとどまらず、紙漉きに欠かせない原材料としても重宝されました。美濃の地域は山々から流れた水や川の伏流水など、水に恵まれたことも和紙産業が広がった理由と言えます。

「基本的には井戸水を使って漉くんですけど、同じ地域の和紙でも山側の水を使う職人と、川の伏流水を使う職人がいます。井戸の水源が異なるんです。それぞれの作る和紙は紙質がちょっと違うなんて話も、聞いたことがあります」

先にお伝えした通り、国内でも有数の和紙の産地である美濃。その歴史は古く、正倉院に保管される日本最古の戸籍謄本にも美濃和紙が使われていたほどです。また高い品質も誇り、中でも「本美濃紙」と呼ばれる和紙を漉く技術は、ユネスコ無形文化遺産に登録されています。

しかし他の工芸に漏れずこの地域でも事業者数は減少の一途で、生産者戸数は最盛期の4,768戸(※)から、今やその数は100分の1以下となっています。そうやって産地のものづくりが徐々に減りゆくなかで、松久永助紙店は紙糸を一つの柱としながら新しいものづくりに挑戦をしてきました。

※参考)中川政七商店「美濃和紙とは」

薄くて丈夫。美濃ならではの和紙の良さを活かし、和紙糸に

大きくは本美濃紙、美濃手すき和紙、美濃機械すき和紙の3種類に分けられる美濃和紙。

特筆すべきその魅力は、薄くてムラがないため、やわらかく繊細な風合いを持つとともに、一方で強靭な耐久性も兼ね備えているところにあります。私たちの身の回りでは、表具(障子、襖、屏風、掛け軸など紙や布を張って仕立てられるもの)のような伝統的なプロダクトから、照明器具やインテリア、小物などの日用品まで様々なものに使われてきました。

「美濃和紙の特長を可能にしているのは“技術”。手漉きであれば職人の技術ですし、機械漉きの場合は原料の配合や機械の調整の技術ですね。当社で扱う和紙糸ももちろん、この強みを活かしたものになっています。

和紙糸はそこから編んだり織ったりを重ねるので、薄くて丈夫で切れにくく、なおかつ細いものができないと、いろいろな製品に展開できないんです。うち以外にも様々な地域で紙糸を作る企業さんはあるんですけど、懇意にしている加工会社さんからは『美濃の紙糸が一番切れにくくて扱いやすい』と言っていただけることが多いですね。それは長年の技術が大きいのかなと思っています」

和紙問屋として創業した松久永助紙店も、長らく和紙の障子紙や壁紙などを中心に扱ってきましたが、転機は30数年ほど前。恭子さんのお父様が代表を務める製紙会社・大福製紙が紙糸を開発したことにありました。もともと機械漉きで西陣織に使われる金糸や銀糸、またマスキングテープなどの薄くて丈夫な和紙を手がけてきた大福製紙は、その流れで紙糸の開発にも乗り出したそうです。

松久永助紙店の旧帳場に今も残る、デッドストックの和紙
こちらが和紙糸

そして10年ほど前に松久永助紙店を恭子さんが任されるようになった後、大福製紙の技術を活かしながら、紙糸の卸や紙糸を使った商品の開発に注力をし始めました。

「なぜ紙糸だったのかというと『やらざるを得なかった』というのも正直な背景ではあるんです。当時から和紙自体の問屋としての仕事は本当に右肩下がりで、需要も減ってきていて。もう少し人の目にとまるようなものづくりをしたいと考えたときに、紙糸ってまだすごく珍しいなって。

紙糸自体は昔からつくられていますし、洋服の素材として使われてもいたんですけど、とはいえ多くの方は知らないですよね。それは恐らく今よりも技術がなくてつくれるものの幅が狭かったことや、ものづくり自体の難しさから手がける企業が少なかったことなどが理由にあると思います。

他に、和紙糸に注力した理由は商品展開の点もありますね。どうしても和紙だと商品の幅に限界があったのですけれど、紙糸だとつくれるものの幅が広くなるので、購買層の範囲も広がるなという想いがありました」

松久永助紙店で扱う和紙糸を製造する大福製紙では、機械で和紙を抄(す)いている
細く切った和紙(左)。この後、撚り上げて和紙糸(右)にしていく
和紙糸の完成

紙糸の卸に加え、恭子さんが力を入れたのはオリジナル商品の開発。それまではタオルや靴下程度のラインアップでしたが、手探りでポーチやスタイ、アームカバー、アクセサリーなどに展開を重ねていきました。

「和紙糸って実はすごく機能的で。人にも環境にもやさしいですし、吸放湿性に吸水力、軽さ、消臭性、抗菌性も持っています。通気性もいいし、抗ピリング性もあるので洋服の風合いが保てるのもいいところ。紙なので水に弱いイメージがあるかもしれませんが、ちゃんとご家庭でお洗濯もしていただけるんですよ」

美濃と美濃和紙に還元できる商売でありたい

和紙とともに和紙糸を柱にするようになって10年と少し。少しずつお客さんの反応にも変化がありました。

「興味を持ってくださるお客様の幅は増えたと思います。『これ紙なの?』って、やっぱり目を引くんですよね。和紙から紙糸の商品まで面で展開することで、和紙であると理解もできるし驚いてもいただけるのかなと。最近はオンラインショップやSNSなどからお声がけを頂戴し、海外のショップに置いていただける機会も増えてきました。

一度使ってくださったお客様が良さを体感してリピートしてくださったり、口コミを聞いて購入いただけたりといったことも増えてきたんです」

そうしてオリジナル商品を手に取るお客さんが増えてはきたものの、「松久永助紙店として目指すのは決して、自分たちの名前が前に立つことではない」と恭子さん。

「『これが和紙なの?』と興味を持っていただく先に、美濃和紙や美濃に興味を持ってもらえるきっかけづくりをやっていきたいと思っているんです。うちは初代からずっと美濃で美濃和紙を扱ってきて、『美濃和紙に助けられて、でもこちらも助けて』というような商売の仕方をしてきました。そんな歴史もあるので、事業を続けるうえで美濃や美濃和紙に還元していけるような商売ができないと、そもそも商売をやる意味がないんじゃないかと感じているんですよね。

だから他の企業さんとコラボレーションして商品開発をするときも、なるべく美濃和紙を前に出してほしいと伝えます。普通に生活していると和紙に触れる機会はあっても、その産地を考える機会ってなかなかありませんよね。だから、うちが美濃和紙を前に出すことで、産地にちょっと触れたり考えたりしてもらえるきっかけになればいいなって。

美濃和紙や紙糸がいろいろな使い方をされれば、自然とたくさんの方の目に触れる機会も増えます。うちはその一助を担いたい。長くやってきたなかで和紙のこともわかりますし、糸のこともわかります。ものづくりを繋げるのが強みと考えたら、それってまさに問屋業ですよね。『松久永助紙店に聞けば、面白い和紙のプロダクトができる』という立ち位置になれたらいいかなって。そのためにも、目を引く自社商品を作っていきたいなと思っています」

今回、中川政七商店と和紙糸を用いて開発した生地

古い町家が並ぶ産地の景色のなかで、変化と進化を続けながらも伝統に還元していく松久永助紙店。その和紙糸から生まれるプロダクトは、繊細で洗練された印象のなかに、どこか懐かしさのあるあたたかい風合いと、やわらかな手ざわりが魅力です。

今と昔を身に纏う。機能的でありながら心も満たすその製品に、和紙の未来を背負う美濃の矜持を感じました。

文:谷尻純子
写真:田ノ岡宏明

※松久恭子さんインタビュー写真は企業提供

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