炊事、洗濯、掃除、工芸。「姫野作の雪平鍋」

こんにちは。中川政七商店のバイヤーの細萱です。
新連載で、「炊事・洗濯・掃除」に使う家事道具を紹介していきます。手持ちの家事道具を見まわすと、ここにも工芸が多いことに改めて気付きました。例えば、すり鉢。すり潰すための現代の道具だと、フードプロセッサーも便利ですし使いますが、それと同時にすり鉢も良いと思うのです。胡麻を摺る時の香りや、摺れて行く様子、すり鉢の佇まいが好きです。どちらかと言えば佇まいで選ぶことも多い家事道具ですが、やはり機能も無視出来ません。働き者の家事の工芸を、時期に合わせてご紹介いたします。

今月は、「姫野作の雪平鍋」。行平鍋とも言い、由来は諸説ありますが人の名前や、粥を炊くと米が雪のように見えることから付いた名前のようです。陶器製もありますが、アルミ製の小型片手鍋は大概のお家にある気がします。熱伝導がよく軽いので、お味噌汁やゆで卵、ちょっと野菜を茹でるなど何かと出番が多い鍋です。姫野作とは、大阪八尾にて3代続く打ち出し鍋工房の姫野寿一さんが作る鍋ブランド。鍋の模様にも見える槌目(つちめ)は、金属を強く丈夫にするために、金槌で叩き締めた跡です。元々は柔らかいアルミが全体打ち終わると非常に硬く変化しています。姫野作のもうひとつの特徴は、板厚が3ミリと厚いこと。その分、薄めの鍋よりは重量がありますが、アルミなので気になるほどではありません。厚みがあると、保温性にも優れ、煮物にもやさしく火が回ります。プレスの廉価版も多い雪平鍋の中では比較的高価ですが、耐久性と使い勝手は群を抜きます。職人技術ならではの、揃った槌目にも惚れ惚れ‥‥。

3月は新生活が始まる時期でもあり、まず手始めに持つ鍋としても雪平鍋はおすすめです。ひとり用なら16センチ、パスタやうどんを茹でるには20センチくらいが使いやすい目安です。姫野作の雪平鍋は一見贅沢なようですが、気付いたら毎日に欠かせない道具となるのではないでしょうか。

<掲載商品>
姫野作の雪平鍋

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

文・写真:細萱久美

愛しの純喫茶 ~函館湯川町編~ コーヒールームきくち

こんにちは。さんち編集部の山口綾子です。
旅の途中でちょっと一息つきたい時、みなさんはどこに行きますか?私が選ぶのは、どんな地方にも必ずある老舗の喫茶店。お店の中だけ時間が止まったようなレトロな店内に、煙草がもくもく。懐かしのメニューと味のある店主が迎えてくれる純喫茶は密かな旅の楽しみです。旅の途中で訪れた、思わず愛おしくなってしまう純喫茶を紹介する「愛しの純喫茶」。第4回目は、1981年創業の老舗コーヒー店、函館市湯川町の「コーヒールームきくち」です。

鮮やかな黄色いタイル
鮮やかな黄色いタイル

遠くからでも目立つ黄色い外壁に、ピンクとブルーのカラフルなソフトクリームの看板(写真は2017年1月当時のもの。今は茶色の看板になっているそうです)も目を引きます。北海道テレビの人気番組「水曜どうでしょう」のロケ地として2001年に放送されてから、さらに名前が広まり、全国からお客さんがやってくるとか。

中はカウンターと広々とした赤いベロアのソファー席。外とは対照的な落ち着いた大人の雰囲気が漂います。おしゃべりに花を咲かせている地元の奥様方が2組ほど。長年、ほぼ毎日来られるという常連さんもいらっしゃるそうです。

ぶどうが描かれたステンドグラス。夜は灯りがともってさらに良い雰囲気に
ぶどうが描かれたステンドグラス。夜は灯りがともってさらに良い雰囲気に

早速、ソフトクリームとコーヒーを注文。バニラ、モカ、ミックスの3種類から選べます。コーヒールームということで、ここはおすすめのモカソフトを注文。

取材時は雪がちらつく1月、マイナス5℃。名物は外せないと思いソフトクリームを注文したものの、少し寒くなるかなあと心配していた私。かたや外の駐車場では、ソフトクリームを買い求める地元の若者の姿が。テイクアウトは店内でいただくよりも少しリーズナブルだそうで、バニラソフトとモカソフトを1人で食べる強者も!さすがです。地元の方々の寒さへの強さをしみじみ感じていると、お待ちかねのソフトクリームがやって来ました。

見目麗しいソフトクリームです
見目麗しいソフトクリームです

薄い茶色のソフトクリームを一口いただきます。想像していなかったシャリっというジェラートのような舌ざわり。美味しい……!ほろ苦いコーヒーの味がちょうど良く、甘すぎない大人の味。
寒さを気にしていたくせに、ソフトクリームはあっという間に半分になっていたのでした。ああ、美味しかった。
このさっぱり感だと夏は当然のこと、冬でも食べたくなるのがわかります。

メニューには喫茶店定番のナポリタンやカレーライス、エビピラフなどの食事も並びます。
函館空港の近くということもあり、飛行機の時間を待つために立ち寄る人も多いとか。

懐かしさがあふれるナポリタン
懐かしさがあふれるナポリタン

隣を見ると、地元の奥様たちもみんなモカソフトを注文されていました。
老若男女に愛されるソフトクリーム、函館の美味しいものは海産物だけではありませんでした。

コーヒールームきくち
函館市湯川町3-13-19
0138-59-3495

文:山口綾子
写真:菅井俊之

3月5日、サンゴの日。豊かな海が育てた天然の贈りもの

こんにちは。さんち編集部の杉浦葉子です。
日本では1年365日、毎日がいろいろな記念日として制定されています。国民の祝日や伝統的な年中行事、はたまた、お誕生日や結婚記念日などのパーソナルな記念日まで。数多ある記念日のなかで、こちらでは「もの」につながる記念日をご紹介していきたいと思います。
さて、きょうは何の日?

3月5日は、「珊瑚の日」です

「サン・ゴ(3・5)」の語呂合わせから、世界自然保護基金(WWF)が1996年(平成8年)に制定したという「サンゴの日」。サンゴは3月の誕生石でもあります。

サンゴは植物でも鉱物でもなく「珊瑚虫(さんごちゅう)」と呼ばれる動物。「珊瑚虫」は、サンゴ礁と宝石サンゴに分類されます。海岸などで見られるサンゴ礁と違って、宝石サンゴは海底100メートルから1200メートルの深海に生息していてその成長も遅く、人の目に触れることはなかなかありません。わずか1センチ成長するのに、なんと約50年かかる種類もあるといいますが、動物であるサンゴにはやはり寿命があり、いつかは朽ちて海底の砂になってしまうのだそうです。

日本にサンゴがもたらされたのは、仏教伝来のころ。正倉院の宝物の中に地中海サンゴが見られたことからも、地中海産の宝石サンゴがシルクロードを渡って、聖武天皇に献上されたという伝えがあります。江戸時代までは地中海産のサンゴが主流でしたが、明治以降、日本のサンゴ採取漁業が急速に発展。その後、土佐沖で発見された桃色サンゴと赤サンゴの品質の良さから世界の注目を集めることとなりました。現在では高知県の伝統産業として定着しています。

豊かな海が育てた天然サンゴを、艶やかに

日本のサンゴ製品の約8割は高知県で生産されています。「高知サンゴ工房」は、国内でも数少ない工房と店舗併設型の宝石サンゴ専門工房。気軽なサンゴアクセサリーから芸術品ともいえる作品まで、天然サンゴの美しい素材を生かした、たくさんの作品を製作しています。

宝石サンゴの硬さは、人の歯と同じ硬さ。歯科技工士が使う工具を改良した道具を使うのだそう。30年以上の経験を積んだ職人が、貴重な宝石サンゴの荒彫りから仕上げ彫りまで1人の手で行い、大切に加工しています。すべてが天然の1点ものです。

歯医者さんのような機械で、サンゴに細工を施します。
歯医者さんのような機械で、サンゴに細工を施します。
赤や桃色、そして白。磨きをかけて艶やかに仕上げます。
赤や桃色、そして白。磨きをかけて艶やかに仕上げます。

サンゴの色あいは生命や血を意味し、古くから魔除けやお守りにされてきました。人の一生よりも長い時間をかけ、豊かな海が育てたサンゴ。3月のお誕生日お祝いや、結婚35周年の「珊瑚婚」の贈りものにぜひ。きっと喜んでもらえるはずです。

<取材協力>
高知サンゴ工房
高知市桟橋通4-7-1
088-831-2691
http://www.kochi-sango.com

文・写真:杉浦葉子

二〇一七 卯月の豆知識

こんにちは。中川政七商店のバイヤーの細萱久美です。
連載「日本の暮らしの豆知識」の4月は旧暦で卯月のお話です。私事ですが4月は自分の誕生月で、小さい頃は学年の中で早く誕生日を迎えることをなぜかポジティブに捉えていましたが、現在は年が明けるとすぐに誕生日がやってくる気がして、どちらかと言えばネガティブになってしまいますが、せめて坦々と迎えられるようになりたいものです。
話が逸れましたが、卯月の由来は、「卯の花の咲く月」という意味が有力とされています。卯の花は、空木(ウツギ)という白い小さな花を咲かせる植物の別名です。見た目から、豆腐のおからの煮物を「卯の花」といいますが、美しい日本語の言い換えですね。

うららかな気候に心躍ることも多い4月は、新年度の始まりでもあります。ちなみに4月が新年度という習慣は、日本独特のようで、多くの世界基準に合わせると9月が新年度なのだとか。明治政府が会計年度を4月始まりにしたのですが、日本経済が稲作中心だったので、農家がお米を現金に換えて納税するには4月が都合良かったそうです。それに合わせて昭和には、学校年度もほぼ4月で統一されました。
戦後、民間企業も4月から新年度となって、世のほとんどのサイクルが揃いました。当たりまえのことに思っていましたが、ここまで連動している国も実は少ないのだそう。入学式や入社式の時期は、桜がセットで連想される日本では、新年度はやはり4月がしっくりきますね。

新たな年度のスタートで、出会いと別れの機会も多い時期。入学、入社、転勤、異動など、特に社会人になるとご挨拶の機会も増えるのではないでしょうか。挨拶時に、ちょっとしたモノをお渡しすると、覚えてもらいやすかったり、話のきっかけにもなるので、人付き合いの円滑油としても役立ちます。相手に気を遣わせない程度のモノとして、私は「ふきん」を常備しています。
自社商品の蚊帳生地のふきんですが、客観的に見てもご挨拶の品には最適なアイテムの一つだと思います。いつ何時でもお渡しできるように常備しておくには食品は難しいし、誰でも使うもので、且つもらって気を遣わない価格帯となると選択肢は案外少ないものです。蚊帳生地のふきんは、軽くて嵩張らないので、多数の方にお配りしたい時の持ち歩きにも困りません。中川政七商店のふきん類は季節や地域、キャラクターモチーフなど柄も豊富なので、相手に合わせて柄を選ぶことも出来ます。

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私は春の挨拶というより、普段久しぶりに会う友人などに差し上げるケースが多いので、お気に入りの柄物をチョイスしていますが、ちょっとした挨拶目的の場合は、その名も「ごあいさつふきん」を使います。パッケージに挨拶が書いてあるのでそのままでも良いのですが、スペースに一言書き添えると気持ちがより伝わるかもしれません。

蚊帳生地のふきんはだいぶ知られるようになりましたが、奈良特産の蚊帳生地を使って作られています。目の粗い生地を数枚重ねてあり、吸水・速乾に優れ、ふきんにはもってこいの生地なのです。かつて蚊帳として活躍していた生地が用途を変え、ふきんとして現代に活かされているという、うまく変化を遂げた産業の一例です。変わらずに使われるモノも良し、変えることで生き残るのもまた良しだと思います。

春の新生活に、きりっとおろしたてのふきんは気持ちが良いもの。綿や麻の天然繊維は、使い込んでもやさしい風合いが続くので、最後は雑巾として使いきりたい卯月の暮らしの道具です。

<掲載商品>
中川政七商店 ふきん
ごあいさつふきん

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

文・写真:細萱久美

海と桜と温泉と。港町に伝わるご当地ひな祭りを訪ねて

こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。
明日はひな祭り。といえば豪勢なひな壇飾りのイメージですが、日本各地にはちょっと変わったひな飾りがあるのをご存知ですか?地域のお母さんたちの手作りから始まって、今や全国から観光バスがやってくる一大イベントになった、伊豆稲取温泉の「雛のつるし飾りまつり」を訪ねました。

2月某日。ここだけ台風でも来ているんじゃないかという土砂降りの雨の中、海沿いを走る電車を伊豆稲取駅で降りて、アップダウンのある道を歩いて15分。一軒のお家を訪ねます。ここは伊豆稲取に伝わる「雛のつるし飾り」を製作する「ニコニコ会」さんの工房です。

「いやーすごい雨ねぇ、これじゃ桜も散っちゃうかしらねぇ」

会の取りまとめ役の齋藤さんが迎えてくれました。この時期、温暖なこのエリアでは早咲きの桜が咲くのです。伺った日にはもう若葉がのぞいていました。

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静岡県の中でも関東に近く、太平洋に突き出た伊豆半島は、温暖な気候で温泉も多く、一帯が昔からの観光地です。中でも半島の東側、東伊豆町に位置する伊豆稲取温泉は、おとなり河津町の早咲きの桜とともにこの時期、珍しいひな飾りが見られる町として人気を集めています。

晴れるとこんな気持ちの良い景色です。
晴れるとこんな気持ちの良い景色です。

ご自宅の一室を解放した体験教室の部屋に入ると、豪華なひな壇飾りと、部屋いっぱいに人形をつるした飾りが。あいにくのお天気を吹き飛ばすように華やかです。

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「昔はこのつるし飾りだけを、座敷に飾ったんですよ」

見入っていると、今日の体験教室の先生、久保田さんが声をかけてくれました。

「今のようなひな壇は、昔は裕福な家庭しか持てなかったんです。それを、せめてもと母親が自分の着物をほどいて人形を手縫いしたのが始まりと言われています」

見ると本当にいろいろな形の飾りがあります。それぞれに意味があるそうです。

「全部女の子の健やかな成長を祈った、縁起を担いだものなんですね。邪気を払うと言われる桃や、神様の使いと言われるうさぎ、早くおすわりができるように、足が丈夫になるようにと座布団や草履なども。稲取名産の、おめでたい金目鯛もありますよ」

ハート型の桃。
ハート型の桃。
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「全部で40種類くらいあります。つるすとだいたいひとつの高さが160~190cmくらい。必ず人形の数も紐の数も奇数と決まっているんです。縁起物なので、つないだ縁が『割れない』よう縁起を担いでいるんですね。基本的に人形の組み合わせは自由なんですが、作る人によっては下の方に海のものや地を這うもの、上の方に空を舞うものなど、工夫していますね」

他所で見つけたつるし飾り。地に植わる花や海中の亀が一番下にきています。
他所で見つけたつるし飾り。地に植わる花や海中の亀が一番下にきています。
こちらも他所で発見。お金に困らないよう、巾着もずっしりと一番下に。
こちらも他所で発見。お金に困らないよう、巾着もずっしりと一番下に。

桃の節句ということで、私は桃の飾りづくりを体験させてもらいました。まずは生地選びから。

体験支度中の齋藤さん(左)と久保田さん(右)。
体験支度中の齋藤さん(左)と久保田さん(右)。
この組み合わせに決めました。
この組み合わせに決めました。
こちらも、三つ桃(みつもも)という桃の飾りの一種。
こちらも、三つ桃(みつもも)という桃の飾りの一種。
このように三角に折り合わせて縫っていきます。
このように三角に折り合わせて縫っていきます。

針と糸を持つのも久しぶりです。たどたどしく縫っていると、じゃあ、ここは私やろうか、と久保田さんが助け舟を出してくれます。その手が早い、早い。

一針一針返し縫いにしていきます。
一針一針返し縫いにしていきます。

「孫が生まれたらみんなで集まって縫ったり、注文が入ればみんなで担当を分けて縫うんです。ひとりの人が同じ人形をまとめて作った方が効率がいいでしょう」

ニコニコ会さんをはじめ稲取にはつるし雛の保存会が4つあり、この後取材に向かうつるし雛の展示施設などで売られる、商品づくりも請け負っています。つるし雛の存在が知られるようになってからは、「うちにも欲しい」と全国から注文が入るそうです。地域のお母さんたちで、今はお土産ものとしてもつるし雛を作っているのですね。

綿を詰めて…
綿を詰めて…
紐を通して、
紐を通して、
引っ張ると…
引っ張ると…
完成です!
完成です!

だいぶ久保田さんに手伝ってもらいましたが、自分の手でつくったものはやはり愛おしいです。

もう1種類、三つ桃(みつもも)も同じ要領で完成です。
もう1種類、三つ桃(みつもも)も同じ要領で完成です。

「地域の学校に年に1度教えに行ったりもしているんですが、女の子も男の子も喜んで作りますね。この地域の子供達は、みんなつるし雛の作り方を知っているんですよ」

外はまだざぁざぁ降りの雨ですが、お昼からは晴れるとの予報。

「旅館組合の村木さんが案内してくれるから、『雛の館』と『むかい庵』に行ってみて。すごい飾りがあるから!」

笑顔で送り出されて、雨の中を駆け出しました。

ハレの日を祝うもの 「ひなあられ」の色に込められた願い

こんにちは。さんち編集部の杉浦葉子です。
日本人は古くから、ふだんの生活を「ケ」、おまつりや伝統行事をおこなう特別な日を「ハレ」と呼んで、日常と非日常を意識してきました。晴れ晴れ、晴れ姿、晴れの舞台、のように「ハレ」は、清々しくておめでたい節目のこと。こちらでは、そんな「ハレの日」を祝い彩る日本の工芸品や食べものなどをご紹介します。

桃の節句に幸せを祈る「ひなあられ」

明かりをつけましょ ぼんぼりに。 お花をあげましょ 桃の花。
3月3日はひな祭り、桃の節句です。女の子の節句として健やかな成長と幸せを願う日ですね。ひな祭りのごちそうといえば、ちらし寿しや、はまぐりのお吸い物。菱餅などもありますが、今回は「ひなあられ」についてお話したいと思います。

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ひな祭りは元々、紙で作った人形を川に流して厄を払うという「流しびな」と、平安時代の貴族の人形遊びである「ひな遊び」が合わさってできたものだといわれています。この「ひな遊び」の中では、お人形に外の世界を見せてあげるために、「ひなの国見せ」と言って、お人形を連れて野山に出かけるという風習があったのだそうです。このとき、外に持ち出しやすいお菓子として、ひなあられが用いられていたといいます。あられは元々はお餅。そう、実は菱餅を小さく砕いてこのひなあられを作ったという説があるんです。

そういえば、菱餅は「緑・白・桃」の3色。そして、ひなあられもこの3色がメインに使われているではありませんか。あくまでもひとつの説ではありますが、菱餅とひなあられは、きっと関係が深かったに違いありません。

そして、この3色が何を表しているかというと、
緑は木々の芽吹き(植物のエネルギー)
白は雪の大地(大地のエネルギー)
桃(赤)は血・生命(生命のエネルギー)
を表しているといわれており、ひなあられを食べることで自然の力を得られると考えられていたようです。

また、植物に例える場合もあって、
緑は厄除け効果のある「ヨモギ」で、健やかな成長の意味
白は血圧を下げる「菱の実」で、子孫繁栄や長寿の意味
桃(赤)は解毒作用のある「クチナシの実」で、魔除けの意味
を表し、健やかな子に育って欲しいという願いが込められているともいわれています。

しかし、最近は3色以上のひなあられもよく目にしますね。4色でつくられたひなあられは「桃・緑・黄・白」が、それぞれ「春・夏・秋・冬」を表し、四季を通じた自然のエネルギーを取り込むとか、1年を通じて幸せを願うという意味合いなのだそう。
四季を意味するということは、ひなあられはやはり日本独特の文化なのですね。

富山の自然の恵みでつくられた「ひなあられ」

富山におかきの製造工場を置き、首都圏中心に店舗を構える菓子屋「赤坂柿山」では、国内最高級レベルと称される富山県の特産「大正もち米」を使用して「おかき」や「あられ」をつくっています。古来種で刈取りの時期も遅いというこの品種は、栽培が少しむずかしく、収穫の効率も良いとはいえないもの。しかし、立山の清水と豊かな土壌、そしてたっぷりの陽光から生まれるもち米はとても滋味深く、香り豊かに仕上がるのだそう。

杵つきの様子。お餅にコシを、おかきやあられには食感を与えるのだそう。
杵つきの様子。お餅にコシを、おかきやあられには食感を与えるのだそう。
つきあがったお餅を職人がていねいに成形していきます。
つきあがったお餅を職人がていねいに成形していきます。

ほんのり甘いひなあられは、優しい味わい。お醤油味はアクセントになっています。サクサクと歯ごたえもよく、もち米の香ばしさが口いっぱいに広がってなんだか五感をくすぐられるような。そう、春がやって来たような気持ちになります。ちなみにこちらは関西風のひなあられ。関東風のひなあられは、米からつくったポン菓子に砂糖などで味つけした軽い風合いのものです。東京で関西風のひなあられは少し探さないと買えないのだとか。

ひな祭りは、いろいろな願いが込められたもの。陽がすこし暖かくなってきたこの頃、自然の恵みいっぱいの「ひなあられ」を持って、平安時代に想いを馳せ、野山でひな祭りをしてみるのも良いかもしれません。もちろん、大人の女性は「白酒(しろざけ)」も忘れずに。

 

<取材協力>
株式会社 赤坂柿山
http://www.kakiyama.com

文:杉浦葉子
写真:株式会社 赤坂柿山、杉浦葉子