バラ農園がつくる、赤いいちごと、いろどりの花束

こんにちは。さんち編集部の杉浦葉子です。
あたたかな陽気で、ずいぶん春めいてきました。春においしい果物といえば、やっぱりいちご。冬のあいだは少し高価であまり手が出ませんが、この季節になるとスーパーにずらりと並ぶ真っ赤ないちごを思わず手にとってしまいます。

わたしの住む奈良で有名なのは「あすかルビー」というブランドいちご。地元のスーパーでは「あすかルビー」の歌が流れているほど、奈良県民にはお馴染みのいちごですが、最近「あすかルビー」に続く奈良のブランドいちご「古都華(ことか)」も、よく目にするようになりました。「古都華」は2011年に品種登録され、生産者さんもそんなに多くはない貴重ないちご。知名度はまだあまり高くありませんが、糖度と酸度がうんと高く、大ぶりでジューシーないちごは、一度口にしたとたんファンになる方が多いそうで、県外からも注目を浴びている存在です。
「古都華」は奈良県の西北部に位置する平群町(へぐりちょう)で多く作られているとのこと。美味しいいちごを探しに、平群町のいちご農家を訪ねました。

いちごを求めて「バラ園」へ?

伺ったのは「東バラ園」。ん?バラ?ひとまず、代表の東伸幸(ひがし・のぶゆき)さんにお話を伺いました。「いちごなのに、バラ園?と、よく聞かれます。うちは元々、バラ園からスタートしたいちご農家なんです。いや、いちごもつくっているバラ農家でしょうか。ややこしいですが、どちらもやっています(笑)」と東さん。

平群町はちょうど大阪府との境目にあり、なだらかな丘陵性の生駒山地に隣接しています。東からのぼる朝日がよくそそぎ、西日があまり当たらない地形。内陸盆地ゆえに昼と夜の寒暖差も大きく、それがバラやいちごにとって良い環境をうみだしているのだそうです。

「東バラ園」までは車でぐんぐんと坂道を登ってやってきました。上の方にずらりと並ぶいくつものビニールハウスで、バラやいちごを育てています。
「東バラ園」までは車でぐんぐんと坂道を登ってやってきました。上の方にずらりと並ぶいくつものビニールハウスで、バラやいちごを育てています。

「元々は、しいたけなどをつくる農家だったんですが、僕が大学生の頃に父がバラをはじめたんです。僕が2代目。バラ以外の作物をつくった時期もありましたが、ビニールハウスもあるし他にできることはないかなと考えていたとき、奈良県の試験場が「古都華」を開発して。ハウスを1棟だけいちごに変えてみたらうまくいったんです」。まずは、バラのハウスを見せていただきました。

バラのハウス内。取材に伺ったのは3月でまだ株は小さめ。5月の最盛期に向けてしっかり葉っぱを育てている最中だそう。
バラのハウス内。取材に伺ったのは3月でまだ株は小さめ。5月の最盛期に向けてしっかり葉っぱを育てている最中だそう。
昔は真紅のバラも流行ったものですが、最近はナチュラルな薄緑色のバラも人気。
昔は真紅のバラも流行ったものですが、最近はナチュラルな薄緑色のバラも人気。
小ぶりなものから大ぶりなものまで少量多品種。さまざまな品種を扱っています。
小ぶりなものから大ぶりなものまで少量多品種。さまざまな品種を扱っています。
「悪くなった部分をカットしたらまた芽が出てきますよ」と東さん。思ったよりバラは背が高く、見上げるほどでした。
「悪くなった部分をカットしたらまた芽が出てきますよ」と東さん。思ったよりバラは背が高く、見上げるほどでした。

かつてバブルの時代には高級花としてのイメージが強かったバラも、最近ではカジュアルに楽しめる花として楽しまれています。それにしても、バラといちごって、全く違うもののように思うのですが・・・?

「実は、バラもいちごも同じ『バラ科』の植物なので、育て方はそんなに大きく変わらないんですよ。ハウスはありましたし、品種を変えるにしてもそんなに設備投資も必要なかったのでスムーズでした」と東さん。思わぬところに、バラといちごのつながりがありました。

のびのび育つ、いちごのハウスへ

つづいては、いちごのハウスへ。栽培技術が発達して地面でつくる土耕栽培でなく、少し高い位置にプランターを設置するという高設栽培でつくっています。土耕栽培では日当たりがよくなかったり、地面に接地してしまっていちごが色あせてしまうこともあるそうですが、高設栽培ではいちごが上からぷらんとぶら下がる感じ。いちごものびのびとしていて、なんだかストレスがなさそうです。

高設栽培は、少し高い位置に土を設置。この方法があるからこそ「古都華」が生まれたのだそう。
高設栽培は、少し高い位置に土を設置。この方法があるからこそ「古都華」が生まれたのだそう。
白くて可愛らしい、いちごの花。
白くて可愛らしい、いちごの花。

花が咲くころには、たくさんのミツバチを放って、受粉をうながすのだそうです。いちごには蜜がないので残念ながらはちみつは採れないそうですが、虫に受粉をお願いするという昔からの自然な方法にはなんだか嬉しくなります。

いちごの白い花が咲ききったあと、花芯がふくらんでいちごになります。
いちごの白い花が咲ききったあと、花芯がふくらんでいちごになります。
真っ赤に輝く「古都華」。
真っ赤に輝く「古都華」。
「バラもいちごも似てるんですよ」と、東さん。
「バラもいちごも似てるんですよ」と、東さん。
あれ、ハウスなのに葉っぱにしずくが?
あれ、ハウスなのに葉っぱにしずくが?

よく見ると、屋根のあるビニールハウスの中なのに、葉っぱの先にしずくがついています。「それは、葉水(はみず)といって、元気な証拠ですよ」と、東さん。根からきちんと水を吸って、葉っぱから水を蒸発させる。朝いちばんは、朝日に照らされキラキラと綺麗なんだそうです。

「いちご15ヶ月」といって、いちごは3月から苗を育てはじめ、9月に植え付けると11月から翌年5月頃まで実をつけます。翌年の3月には前年の実をとりながら次の苗を育て始めるので、15ヶ月サイクルの終わりと始めを少し重ねながら繰り返しているということですね。

春は毎朝7時ごろからいちごを収穫、お昼前から夕方まではひたすらパック詰め作業をするのだそう。東さんのお母さん、奥さん、そして子どもさん達も手伝える日は参加してくれるのだとか。いちごの季節は家族総出での作業です!

箱にぎっしり収穫したいちご。これからパック詰めです。
箱にぎっしり収穫したいちご。これからパック詰めです。
サイズを分けながら、一つひとつトレイに詰めていきます。
サイズを分けながら、一つひとつトレイに詰めていきます。
長男の翔太郎くん。この春から農業を学ぶ学校に通うのだそう。
長男の翔太郎さん。この春から農業を学ぶ学校に通うのだそう。
次女の優莉ちゃん。部活動から帰ってから、しっかりお手伝いです。
次女の優莉ちゃん。部活動から帰ってから、しっかりお手伝いです。
ちょっとシャイなおばあちゃん。朝の収穫からパック詰めまで大活躍です。
ちょっとシャイなおばあちゃん。朝の収穫からパック詰めまで大活躍です。
ピンク色の品種「淡雪」と、真っ赤な「古都華」の詰め合わせ。交互に並べて詰めます。
ピンク色の品種「淡雪」と、真っ赤な「古都華」の詰め合わせ。交互に並べて詰めます。

現在ではいちごのハウスが5棟、バラのハウスは1棟にのみに。東さんの奥さま、貴子さんにお話を聞いてみると、バラに対しては強い想いがあるそう。「いちごも良いですが、バラは絶対にやめたくないんです。このバラ園は、お世話になったお義父さんが遺してくれたものだから」。

実は、東さんが家業を手伝いだしてすぐに、お父さまがご病気で倒れられ、急に代替わりをすることになったのだそうです。お父さんはきっと、東さんと一緒にバラをつくることを楽しみにしていたはず。だから、いちごも作るけれど、バラもちゃんと残していきたいのだと奥さまはおっしゃいます。長男の翔太郎くんは「東バラ園」の3代目になるという意志があるそう。お父さまの想いは世代を超えて、東さんと翔太郎くんがこれから一緒に継いでいかれるのですね。

細萱久美が選ぶ、生活と工芸を知る本棚『柚木沙弥郎 92年分の色とかたち』

こんにちは。中川政七商店バイヤーの細萱です。
工芸にまつわる本を紹介する連載の第2回です。本や作品を拝見して、お人柄や暮らしに興味が沸き、お会い出来るものなら是非お会いしたい方の著書を選びました。

みなさん柚木沙弥郎さんはご存知ですか?柚木さんは、特に民芸の世界では有名ですが、現在、94歳を迎える現役のアーティストです。戦後まもなく、柳宗悦が提唱する「民藝」と出会い、後に人間国宝となる染色工芸家、芹沢銈介さんに師事しました。20代半ばにして染色家の道を歩み始め、今や日本の型染の第一人者として国際的な評価を得つつ、型染に限らず版画、ガラス絵、人形、絵本といった新たな分野にも挑戦し自らのアート表現を追求し続けていらっしゃいます。

今回ご紹介する本は、『柚木沙弥郎92年分の色とかたち』。92歳までの3年間の日常を追いかけ、作品や製造現場などの綺麗な写真が満載なので、パラパラと気軽に見るだけでも楽しいと思います。柚木アートは、自然や動物などのモチーフを大胆に、時に繊細に表現しており、作品を初めて見る方でもそこに力強さ、楽しさを感じるでしょう。柚木さんがこの本やインタビューでもよく話されているのは、「人間はいつもわくわくしていないとダメ。対象は何でもいい」という人生観。制作だけでなく暮らしそのものを楽しんでいる柚木さんの作品には、ワクワクがあふれています。

本の中では、柚木さんが国内外から集められた、地元のプリミティブなモノが多数掲載されているのも見所。ご自宅には郷土玩具、絵や布、人形、焼物などあらゆるものが所狭しと置いてありますが、なぜか調和がとれており、共通している特徴は、楽しく、おもしろいこと。まさに家は巨大なおもちゃ箱のようです。「モノを選ぶことは直感で、好きに理屈は無い。そして自分の選択眼に自信を持つこと」と柚木さん。私もモノを扱う身なのですが、いろいろに惑わされ、未だ断捨離を繰り返すようでは修行が足りないと身が引き締まります。柚木さんは膨大な蒐集品からその日、目に付いたモノを手に取り、それと向き合う時間を大事にするそう。これは真似してみようと思います。

「自分の中にはたくさんの引き出しがあり、まだ開けてない、知らない引き出しがある。歳を重ねてもそれなりに何か出来るはず」92歳当時の柚木さんが、歳を重ねて思うことを語られているページには、学びや勇気をもらえる言葉がたくさん見つかります。

自分の感性を磨いて常に今を生きることや、憧れや楽しいという気持ちを持ち続けることの大切さを学びます。東京が大好きという柚木さんと、美術館巡りやショッピングのお供をしたいなと本気で夢見ています。

<今回ご紹介した書籍>
『柚木沙弥郎 92年分の色とかたち』
 柚木沙弥郎/グラフィック社

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。


文・写真:細萱久美