こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。
2020年7月24日より開催される、東京オリンピック・パラリンピック。ついに開催まであと3年を切りました。
じわじわと機運が高まる中、3年後にはメインスタジアムと選手村を結ぶシンボルストリートとなる「新虎通り」に、全国各地の魅力を発信する「マーケット」が2017年2月に誕生したのをご存知でしょうか。
その名も「旅する新虎マーケット」。
いわゆる地域ごとの物産展と異なり、季節ごとに編集されたテーマで全国467の市町村のモノ・コト・ヒトが集結します。
仕掛けたのは「2020年東京オリンピック・パラリンピックを活用した地域活性化推進首長連合」。代表を務めるのは、日本有数の金物の町・新潟県三条市の市長でもある國定勇人 (くにさだ・いさと) 会長です。
三条市は昨年4日間で3万5千人を動員したオープンファクトリーイベント「燕三条 工場の祭典」が、新しい地域活性のモデルケースとして注目を集める街。國定市長はその立役者でもあります。
2020年オリンピック・パラリンピック開催地・東京のど真ん中で、いま起きていること。
さんち編集長中川淳による独自インタビューで、東京開催が決まった瞬間から始まった、東京オリンピック・パラリンピックにかける地方創生の物語を、國定会長に伺いました。
(以下、國定会長の発言は「國定:」、中川淳の発言は「中川:」と表記。)
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中川:今日はありがとうございます。東京オリンピック・パラリンピックと全国の市町村が結びついた「旅する新虎マーケット」とはどのような取り組みなのか、伺っていきたいと思います。
まず、運営母体である「2020年東京オリンピック・パラリンピックを活用した地域活性化推進首長連合 (以下、首長連合) 」とはどのように生まれたのでしょうか?
國定:2020年のオリンピック・パラリンピック(以下、オリパラ)開催地が東京に決まった時、各市町村の首長にとって「あれは東京のもの。東京以外の自治体には縁遠い存在」でした。
一方で、次のオリパラ開催地はどこかと聞かれたら、スポーツに関心のない人だって「北京」「リオ」と答えられるわけですよね。それだけの訴求力がある。
そうして世界の注目がせっかく集まるのに、あれは東京のものだと片付けてしまうのはもったいないと思っていました。
黄金の7年間が始まった
調べてみると、ロンドンもシドニーもアテネも、みんなオリパラ開催決定が決まった年からインバウンド需要がぐんと上がっているんです。つまり開催の7年前から人の動きが変わりはじめる。
考えてみれば日本も同じですよね。ちょうど開催決定と中国人観光客のビザ規制緩和があったタイミングが重なったこともありますが、明らかにあの頃から人や世の中の流れが変わったわけです。
つまり開催が決まった2013年のあの瞬間から2020年まで、黙っていても人がやってくる黄金の7年間が始まっているわけですね。もうあと3年を切りました。
それを東京の「一人勝ち」にさせるのはもったいないんじゃないか、というのが、首長連合の取り組みのはじまりです。
ロンドンの成功例を日本でも
例えば北京オリンピック・パラリンピックの開催地はもちろん北京ですが、頭に描くのは、中国という国全体の持つイメージです。「中国で行われるもの」という意識なわけですよね。
そこを意識的にコントロールして成功したのが、ロンドンオリンピック・パラリンピックです。
イギリスでは、北京からロンドンまでの4年間で、「カルチュラル・オリンピアード」という文化プログラムをイギリス国内全体で10万件以上やったんですよ。それが大成功したんですね。
日本で言えば地元の自治会がやっているような小さなお祭りも、オリパラを盛り立てる文化プログラムのひとつという見立てにして発信したんです。
結果として、ロンドン一極集中ではなく、イギリス全土に人の広がりを見せることに成功しました。他の国で成功しているのだから、日本だってやれないことはない。こうしてまず、首長連合が結成されました。
地方と東京の間に潜む「情報の壁」
中川:そこから「旅する新虎マーケット」はどうやって生まれて行ったのでしょうか。
國定:取り組み始めて痛感したのですが、東京のような大都会には情報も、何かを実現するノウハウや人脈もたくさん集まっているのだけれど、あまりにも地方のことは知られていません。
全国に支店のあるような大企業でさえ、どの地域にどんな優れたものがあるのか、そういう情報を持っていないんです。
日本のメディア構造というのは面白くて、基本的に県をまたいで同一資本が参入できないんですよ。テレビ局は県ごとに分かれていますし、新聞メディアも地方に行けば、読まれているのは全国紙よりも圧倒的に県内紙です。
そうすると、僕らがどんなにPRしようと思っても、新潟県の壁を超えるのがすごく難しい。
東京の人たちだって、見たくなくて地方から目を背けているわけでなくて、手に入る情報がキー局と言われる関東広域圏のメディアと、新聞メディアに限られているわけです。
インターネット隆盛だと言っても、興味と関心を持たなければ特定の地域の情報なんて、自動的に入ってくるものではないですからね。
少なくともその土地を愛している人や行政関係者は、自分たちの街が他に比べて優れているものを聞かれたら、ほぼ100%答えられるはずです。センスがいいかどうかは別として、その魅力を情報発信しようという取り組みも、長年に渡って続けてきている。
中川:ところがそれを県内に広めるくらいまではいけても、県外に出していくのは本当に難しい。
國定:はい。せっかく世界の注目が集まっている黄金の7年間だから、地域活性化に結びつけていきましょうというのが首長連合発足の発端ですが、そもそも国外だけではなく、国内も我々が思っている以上に情報の壁が存在している。
だからまず、市町村という独自のコンテンツを持っているもの同士が連携してプラットフォームを作り、ノウハウやネットワークが集まる東京と結びつける。
その物理的な舞台も東京に置けたら、強くてわかりやすい情報発信のツールになるのではないかと考えました。
中川:各地の物産フェアや物産館であれば東京でも見られますが、そことの違いは何でしょうか。
國定:例えば海外のお客さんから見たら、日本の中で新潟がどこにあって、その中で三条市がどう位置しているのかなんて、まず知りませんよね。
日本という漠然としたイメージがあるわけで、◯◯物産市という地域名でのカテゴリの分け方というのは、こちらの都合なわけです。
一方でもし自分がお茶に興味を持ったら、茶筅 (ちゃせん) や茶巾 (ちゃきん) は奈良のもの、器は例えば伊万里のもの、というように地域を横断していきますね。季節でも選ぶものは変わってくるはずです。
そういう見せ方をして初めて、地方の「本物」にしっかり共感を覚えてもらえるのではないか、と思いました。新虎マーケットは、そこを目指していきたい。
例えば春は春らしく。夏ならお祭りですよね。お祭りというテーマの元に浴衣があったり花火があったり、「今度遊びに来てね」というメッセージも込めて山車を地元から持ってきたり。
そういう生活のシーンや文化のカテゴリごとに各地の魅力を伝えていきたいと思っています。
中川:地名切りではなくて、テーマをもたせた編集軸で見せていこうということですね。行政の集まりである以上、取り組みには行政の区分があるわけですが、それを超えていこうというのは、すごいことですね。
國定:今、新虎マーケットにいけば「〇〇市」といった分け方もしていますが、まさにこれから、そう言った編集軸での見せ方に力を入れていこうとしています。
中川:編集軸って民間だとやりそうですが、それを行政がやろうというところに一つ大きな意味があるように思います。
國定:そうですね。ただ、民間では全国津々浦々の情報まで、なかなか探しきれないのではと思います。一方で市町村の方は、自分たちのことは十分に知っています。
全国には1700以上の市町村があります。これだけ「地方創生」が声高に叫ばれている中です、それはみんな必死になって、正解かはわからないけれども自分の町はこれだ、というものを持っています。
一市町村ごとに正解を出していくのではなく、新虎マーケットでは加盟する市町村が胸を張って出せるものを一品ずつでも出し合っていく。それだけで460を超えるコンテンツになるわけですよね。
これだけの素材があれば、点と点を結んで何かのストーリーを紡ぎ出していくことができる。そうしてひとつの絵になった時に、それぞれの点が光ってくるのではと思います。
中川:東京オリンピック・パラリンピックという大きなイベントを契機に、日本という大きな視点でコンテンツを考えて、ひとつひとつの要素を各地の「本物」で緻密に作りこんでいく。それこそ地域を超えていく取り組みですね。
國定:マーケットのある新虎通りは、この前のリオの凱旋パレードを開催した場所でもあります。虎ノ門ヒルズにはオリパラの組織委員会も入っていますし、あの一帯はオリパラそのものの象徴空間であることは間違いありません。
その足元である新虎通りで、オリパラの機運を盛り立てつつ、地方の「本物」を見ていただくというのは、いい親和性があるのではないかと考えています。
中川:2020年東京オリンピック・パラリンピックにかける全国の地方首長たちの強い意気込みを感じました。今日はありがとうございました。
旅する新虎マーケット
東京都港区西新橋2-16
https://www.tabisuru-market.jp/