夏の大敵、蚊。30度を超えると動きが鈍くなるという研究データが、今年は話題になりましたね。彼らは気温25~30度のときが一番活発なのだとか。まだしばらくの間、虫除けアイテムは必要なようです。
今年も色々なシーンで蚊取り線香にお世話になりましたが、今日はそのお供。陶器でできたこの器のお話です。
それにしても、なぜ豚の姿をしているか知っていますか?
気になって調べてみると、どうやら2つの説があるようです。
煙穴の大きさを工夫したら‥‥
一つ目は、愛知県の常滑焼 (とこなめやき) の職人に伝わる話。
昔、養豚業者が豚に蚊が止まるのに困って、土管の中に蚊取り線香をいれて使っていたそう。常滑市は、明治から昭和時代にかけて土管の生産量で日本一を誇った地域。身近なものを活用したのです。
しかし、土管は口が広すぎて煙が散ってしまうので、口をすぼめてみたら、なんだか豚の姿に似てきた。そこで地域の焼き物である常滑焼で作り、お土産として販売したところ、昭和20年代から30年代にかけて爆発的に人気が出て、全国に広まったという説。
徳利を横にしてみたら‥‥
もう一つの説は、江戸時代に遡ります。新宿区内藤町の江戸時代後期の遺跡から、蚊遣り豚らしきものが発掘されています。現在のものより長細く、イノシシのような形です。
当時は、枯葉やおがくずなどを燻した煙で蚊を追い払っていたので、入れ物は大きめの徳利のようなものを使っていたと考えられます。徳利を横にして「豚に似ている」と思いついたのではないかというのが研究者の論です。
この蚊遣り豚は、今戸焼 (いまどやき) という東京の焼き物でできていました。浅草の土産物として売られる土人形と同じ素材のため、蚊遣り豚も土人形と同じように焼かれて、土産物として全国に広まったのでは?とも考えられています。
全国区となった蚊遣り豚。現代では、耐熱性が高く壊れにくいと定評のある萬古焼 (ばんこやき) で多く作られています。
国内では三重県四日市市と三重郡菰野町 (こものちょう) で製造しており、毎年全国に十数万個が出荷。電機製の虫除けや殺虫剤が多数開発される中、まだまだ現役の道具として使われていることがうかがえます。
長きにわたって続く、人間と蚊の攻防。蚊取り線香の煙をくゆらせる夏の景色は、これからも続いていきそうですね。
<関連商品>
萬古焼の小さな豚かやり
<参考文献>
「蚊遣り豚の謎 近代日本殺虫史考」 (2001年 町田忍 新潮社)
「世界のロングセラー PART4 職人たちの技」 (1998年 小学館)
新宿区立新宿歴史博物館 所蔵品資料
「アース害虫駆除なんでも事典」
文:小俣荘子