デザインとアートの間を行く福井「ataW (あたう) 」の審美眼

「さんち必訪の店」。産地のものや工芸品を扱い、地元に暮らす人が営むその土地の色を感じられるお店のこと。
必訪 (ひっぽう) はさんち編集部の造語です。産地を旅する中で、みなさんにぜひ訪れていただきたいお店をご紹介していきます。

今回は福井県越前市にある「ataW (あたう) 」です。

福井の必訪店「ataW」とは

北陸自動車道・鯖江ICを降りて車で東に約10分。越前漆器の産地として有名な福井県鯖江市河和田地区の玄関口に位置するのが、2015年11月にオープンしたataWです。

田んぼが続く道に突如現れるataWの建物。何のお店だろうと通る人の目を引きます
(画像提供:ataW)
(画像提供:ataW)

木枠の引き戸を開けてなかに入ると、むき出しになった木の梁と白い壁。大きな窓からは陽の光が差し込みます。

福井でつくられたものはもちろん、国内外の作家による食器や洋服、日用品、家具、デザインプロダクトなど、さまざまな商品を扱うataW。

越前和紙で作られた小箱「moln (もるん) 」
地元福井の繊維技術を使ったkna plus (クナプラス) のエコバッグ「PLECO (プレコ) 」

普段使いできるものから、これはどんな使い方をするのだろうと考えてしまうようなものまで、一つひとつ商品を眺めながら店内をじっくり回っていると、あっという間に時間が経ってしまいそうです。

砂時計ならぬ泡時計「awaglass」 (左) は泡によってポコポコ刻まれる時間を楽しむためのもの。植物をとじ込めたリトアニアの万華鏡 (右) は光に透かすと四季折々の美しさを感じることができる
お花が並ぶアクリルの板。お花は1cm間隔で並び、定規にもなるのだとか (画像提供:ataW)

商品のセレクトを担当しているのは、関坂達弘 (せきさか・たつひろ) さん。1701年から続く漆器の老舗「株式会社関坂漆器」の12代目です。なぜこの場所にこんな素敵なお店を始めることになったのでしょうか。

老舗漆器メーカーの12代目が商うセレクトショップ

「もともと関坂漆器は学校や病院、機内食などで使われる『業務用漆器』を中心に企画・製造・卸を行っている会社です。この場所は漆器屋の小売店として、漆器を中心とした商品を販売するお店だったのですが、正直言うと、僕は当時の雑多な感じがあまり好きではなくて‥‥」

関坂達弘さん

大学で東京に行ったことを機にデザインに触れ、卒業後もオランダの学校でデザインを学んだ関坂さん。帰国後はしばらく東京で働いていましたが、2014年に地元福井県に戻ってくることになりました。戻ってみると、地元の様子が少し変わっていたことに気づきます。

「ものづくりに注目した若者がこのあたりに移住していることを知りました。彼らと話をすると、ものづくりに対するデザインの考え方などとても意気投合して、今まで僕が思っていた地元と変わりつつあるなと思ったんです。そんな彼らに刺激を受けたこともあり、ちょうどお店が10周年になるのを機に、リニューアルすることになりました」

以前の店名は、関坂漆器の先祖の名前である「与十郎 (よじゅうろう) 」。その「与」を訓読みした「与う (あたう) 」から名前を取り、店名を「ataW」にしました。ataWの末字を「u」ではなく大文字の「W」にしているのは、「内」と「外」をつなぐ地域にとっての窓 (window) のような存在でありたいという思いが込められています。

モノが溢れる時代だからこそ大切にしたいこと

冒頭にご紹介したように、ataWに並べられている商品のなかには、どうやって使おうか、と見るものの想像力をかき立てるものも。一体、どんな視点で商品をセレクトしているのでしょうか。

関坂漆器独自のプロダクトも。イギリスのデザイナーIndustrial Facility (インダストリアル・ファシリティ) と協働で作られた「STORE (ストア) 」は、業務用漆器の技術を活かした多目的容器。何を入れるかは使う人次第

「基本的に作家さんのものづくりの考え方や手法、ストーリーなどを重視していますが、そもそも機能とか便利さとかにはあんまり興味がなくて。それよりも、“もの自体の持つ力”に興味がありますね」
と言う関坂さん。

オランダで勉強をしていた時に、日本のように『これはデザイン、これはアート』といった境界がない自由な感覚で学んでいたことも影響しているのだそう。

「日本では機能がないものはアートに分類されがちですが、もっとふんわりとした中間の存在があってもいいんじゃないかなと思い、商品を選んでいます。お店を始めた当初は、一緒に運営している家族から『置いてある商品の意味がわからない』と言われたこともありましたけどね (笑)」

しかし、ataWが出来たことで、若者がこの店に集うようになったり、遠方からわざわざこの店目当てに訪れるようになったりと、まちの様子は確実に変わりつつあります。

「今の生活のなかでものは十分すぎるくらいにあって、今更必要なものなんてもうないのかもしれません。だからこそ、僕はどこか情感をゆさぶられたり、感覚をハッとさせられるものに惹かれるのだと思います。ちょっとした視点の違いや発想の転換で、違う景色を見せてくれる、そういう商品を通して、店に来てくれる人に少しでも新たな発見や気づきを見つけてもらえたら嬉しいですね」

“美術館とお店の間のような存在でありたい”と言う関坂さん。
私たちのまわりにあふれているものとは何なのか。普段なかなか考える機会はないかもしれませんが、ataWに訪れると、立ち止まって考えるきっかけを与えてくれるかもしれません。

ataW
福井県越前市赤坂町3-22-1
0778-43-0009
営業時間 11:00〜18:00
定休日 水曜日、木曜日、年末年始 (※定休日でも祝日は営業)

文:石原藍
写真:上田順子

*こちらは2017年9月3日の記事を再編集して公開しました。ここでしか出会えないものが手に入りそう。福井を訪れた際はぜひチェックしてみてください!

RENEW2019 開催決定!

ataWも参加する鯖江発・体験型マーケット「RENEW」が今年も開催されます!

RENEW 2019
普段出入りできないものづくりの工房を開放し、実際のものづくりの現場を見学・体験できる参加型マーケット
開催:2019年10月12日(土)~14(月)
会場:福井県鯖江市・越前市・越前町全域
https://renew-fukui.com/

わたしの一皿 楕円皿の魅力と謎

夏とも秋と言えない、せめぎあいの気候が続いています。出版予定の本の原稿書きも佳境。こちらも編集さんとやりとりの応酬。季節も自分もなんだか忙しい。みんげい おくむらの奥村です。

さて、今年も夏に欠かせなかったのがそうめん。今シーズンもずいぶんお世話になりました。あと少し麺のストックがあるので、そろそろ使い切ってしまおう。

福岡県うきは市吉井町にある長尾製麺のそうめん

うちのそうめんの定番は、福岡県うきは市の吉井町にある長尾製麺のもの。この製麺所とその近所の雰囲気がとても好き。

小鹿田焼や小石原焼の買い付けをしてから、久留米あたりに向かうときに必ず立ち寄るエリアです。

福岡県うきは市吉井町にある長尾製麺のそうめん

この麺を初めて食べるなら。めんつゆで普通に味わってもらいたいところなんだけど、うちはいつも食べているので今日は変化球。和え麺にして。

こちらもそろそろシーズン終わりかな、という熊本の長ナスを使って。電子レンジで蒸しナスを作っておいて、それをそうめんに乗せる。暑かったのでナスも冷やしておいた。あとは薬味とタレをぶっかけておしまい。という、楽チンメニュー。

肉はなくてもいいけど、今日はたまに行くラーメン屋さんのほぐしチャーシューを買ってあったのでそれをトッピングして。

調理風景

こんな時、なんだか一皿で収まりがいいのが楕円のお皿。今日は島根県の森山窯のものを使って。

民藝運動の中心的なメンバーとして知られる河井寛次郎の最後の内弟子であった、陶工森山雅夫さんが築いた窯。静かなたたずまいで、ふつうの食事が映える、そんなうつわが多いのがこちらの窯。

こちらの窯は島根県の温泉津(ゆのつ)という場所にあります。良質の粘土が取れたため、江戸時代からの日用雑器の産地。

かつてほど大きな産地ではなくなってしまったけれども、こうして穏やかなうつわを生み出す窯が今なお残っているのはうれしいこと。

この楕円皿、月並みな言い方をすれば何でも受け止めてくれる。今日みたいな麺もいいし、ナポリタンなんかもいい。オムレツなんかもスコンと収まります。

釉薬が濃い場所、薄い場所で色の表情がずいぶん違うし、鉄分の多い土で作られているからその鉄部が焼成によって吹きだして茶色の点々になっている。

実はこのうつわ、その点々と色の表情がどことなく蒸しナスに似ている気がするのだ。蒸しナス乗っけの和え麺が頭に浮かんだ時、この皿がピンときた。

調理風景

この料理、出来たら香りの野菜を一つ用意したい。シソでもいいし、香菜(パクチー)でもミョウガでも、ニラでもミントでも。もちろん一つではなく組みあわせても。

今日はちょうど使い掛けのエゴマがあったのでエゴマ。暑い日は蒸しナスも冷やしたものを使えばいいし、香りの野菜はできればたっぷり、たっぷりと。タレは今日は黒酢を効かせています。黒酢とごま油と花椒。ちょっと中国寄りの風味で。

楕円皿というのは考えてみるとおもしろい。たとえば今日もそうなんだけど、ある料理が頭に浮かんだ時、「今日は楕円皿だ!」とすぐに決まる時がある。

別に丸皿で収まりが悪いわけでもない。でも、ぜったいに楕円皿なのだ。

そして楕円皿は言わずもがなで向きがある。もし運ばれてきた楕円皿が目の前に縦向きに置かれたら、ギョッとしてしまうだろう。横向きには安心感がある。

これってなんだろうか。同じことは長方形のうつわにも言える。目の慣れなのか、脳に何か潜在的なものがあるのか。果たして。

蒸しナスを乗せたそうめん

そうめんを放っておくと固まってしまうので、考えていてもわからないことはさておきさっさと食べよう。

このそうめんは麺自体がうまい。すすって飲み込んではもったいない。噛み締めて麺の味を楽しみたい。

この麺で食べれば、主役がナスではなくそうめんだと合点がいくはずです。どうぞお試しください。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文・写真:奥村 忍

TSUGI・新山直広さんに聞く、いま地方でデザイナーが求められる理由

「場所」にとらわれず、都心以外のさまざまな地域に拠点を置き、ひと・もの・ことをつなぐ「地方デザイナー」が、今注目されています。

仕事の内容やクライアントとの関わり方など、都市部と地方ではどのような違いがあるのでしょうか。さんちでは各地域で活躍するデザイナーにインタビューし、それぞれの取り組みや働き方についてうかがっていくことにしました。

今回、登場いただくのはTSUGIの新山直広さん。2009年に大阪から人口約4,200人の町、福井県鯖江市河和田(かわだ)地区に移住しました。

現在は、企業のブランディングや全国でのPOPUPショップの出店、体験型マーケット「RENEW」の開催、オリジナルアクセサリーブランド「Sur」の制作・販売など、“産地直結型”のクリエイティブカンパニーとしてさまざまな活動を行っています。

TSUGIが展開するアクセサリーブランド「sur・サー」
TSUGIが展開するアクセサリーブランド「Sur」
全国の商業施設で地元の産品を販売する「SAVA!STORE」

地方に可能性を見出した、自称“意識高い系”

新山さんと河和田の最初の接点は、「河和田アートキャンプ」。関西の大学生が毎年1ヶ月ほど河和田に滞在し、地元の人たちと関わりながらアート作品の制作やワークショップを行うプロジェクトです。

その運営団体である「応用芸術研究所」への就職をきっかけに、24歳で河和田に移住。「これからは地方が熱い」と、意気込んでいたそうです。

河和田地区は三方山に囲まれた中山間地域

「恥ずかしながら当時の僕は、めっちゃ“意識高い系”でした。大学で建築を学んでいたくせに、建築に対して斜に構える部分もあって。『建築よりもこれからは地方が熱い』と尖っていましたね。

2008年が日本の人口のピークで、これからは建築の着工数も下がっていくのが統計的に予想されていたんです。そこにリーマンショックも重なり、もう新しく建てる時代じゃないなと。

それよりも今あるものをどう生かすかが重要だと思い始めていました。また、大学で学んだ『コミュニティデザイン』に影響を受けたこともあり、地方に興味が移っていきました」

地域で足りないものはデザイナーだった

移住当初は慣れない地方暮らしや地域との板挟みから、大きな挫折を味わったという新山さん。しかし、河和田地区の伝統的工芸品「越前漆器」の調査をきっかけに、デザイナーになろうと決心します。

「越前漆器は商品としては素晴らしいのにパッケージや見せ方がはっきり言って“ダサい”。このままじゃほかの産地に勝ち目はないと思いました。河和田で頑張っている職人さんのことを考えると悔しかったですね。結局のところ、河和田は漆器産業を中心に経済が回らないと成り立たない。まちづくりはおろか、産地としての存続も難しいと感じました。

自分にできることは何かと考えたときに、河和田で必要とされている職業はデザイナーだと思ったんです」

tsugi新山直広さん。鯖江の工芸である漆器

地域に根ざす「町のデザイナー」に

その後、鯖江市役所の臨時職員としてデザイン業務に携わっていた新山さんは、河和田に移住した同世代の仲間たちと2013年にTSUGIを結成。

当初は「河和田暮らしを面白くしたい」という目的でつくられたグループでしたが、2015年に法人化し、本格的にデザイナーの道を歩み始めます。

TSUGIはめがね職人や木工職人、NPO職員のメンバーも活躍

TSUGIの事業は主にデザイン、イベント、プロダクトの3つ。仕事のフィールドは福井県内がほとんどで、河和田エリアだけでも約15社の仕事に携わっています。

鯖江・tsugiのデザインワーク
グラフィック、パッケージ、ロゴ制作、ブランディングと、TSUGIは幅広くメーカーと関わる
tsugiが展開する、越前漆器の産地である福井県・鯖江で生まれた、ランチタイムを楽しむブランド・Bento_to(ベントウト)
TSUGIが展開する、越前漆器の産地である福井県・鯖江で生まれた、ランチタイムを楽しむブランド・Bento_to(ベントウト)
鯖江・tsugi、ろくろ舎
ろくろ舎によるブランド「TIMBER POT」のパッケージデザイン
鯖江市tsugiのデザイン。絵ならべろうそく
福井市の小大黒屋商店が展開する「絵ならべろうそく」の商品・パッケージをデザイン

「福井は個人事業主や家族経営の会社が多いので、社長と直接打ち合わせみたいなことも日常茶飯事です。だからこそ、顔が見える距離はとても大事な気がしています。

自分たちに言い聞かせているのは、『いくらいいものをつくってもそれがちゃんと売れなければ意味はない』ということ。売るところまで責任を持つぐらいの覚悟で、お客さんのブランディングをワンストップで手がけています。

……ほかの地域から依頼が来たらどうするか、ですか?悩みますね(笑)。河和田でやっていることを別の産地に生かせないわけではありませんが、やはり地元を大事にしたいという思いは強いです」

インターネットや交通が発達し、今や全国どこにいても仕事を受けられる時代ですが、気兼ねなくデザインのことを相談できる新山さんのような存在は、関係性を大切にする地域にはなくてはならないのかもしれません。

これまでデザインのことを後回しにしがちだった地元の企業やメーカーも、身近に相談できる相手ができたことで、情報発信や展示の仕方など「見せ方」に意識を向けるように。TSUGIは町のお医者さん、ならぬ「町のデザイナー」として、産地全体のアウトプットの質を底上げしています。

人口4,200人の町に3万人の来場者が集まったイベント「RENEW」

新山さんたちを中心に、河和田の人たちを巻き込み開催された体験型マーケット「RENEW」は2015年にスタート。初年度は2,000人足らずの規模で行われたイベントが、2017年にはなんと約3万人の来場者を記録し、県内外から多くの人たちが河和田に訪れました。

福井県鯖江市で行われたrenew×大日本市博覧会
福井県鯖江市で行われたrenew×大日本市博覧会
福井県鯖江市で行われたrenew×大日本市博覧会
福井県鯖江市で行われたrenew×大日本市博覧会
福井県鯖江市で行われたrenew×大日本市博覧会
福井県鯖江市で行われたrenew×大日本市博覧会
RENEW当日、地域の嬉しい変化に思わず涙する新山さん

「僕らだけでやってることではなく、一緒に戦ってくれる仲間がいたのはとても心強かったです。当初は『よそものが何かやり始めたぞ』と嫌がる方もいましたが、売りに行くことだけではなく、産地に来てもらうことの両輪が必要なんだということを、とにかく誠意を持って伝えていきました。

1年目に参加した企業やメーカーは約20社でしたが、2017年はその4倍以上の85社に参加していただきました。地元企業やまちの方も、一緒になって協力してくださったのが本当にありがたいです。みなさん、腹をくくってくださったんだと思います」

これからの10年を見据えて

新山さんが河和田にやってきて8年。その間に移住者が増え、大きなイベントも開催されるようになり、河和田の景色は大きく変わりました。新山さんが目指す「これからの産地の姿」について、語っていただきました。

「現在、伝統工芸に関わる職人の約7割が60歳以上です。10年後には職人の数は半分以下になり、売り上げも1/3くらいにまで落ち込むのではないかと言われています。

職人の数が減ると、ものづくりの全行程を担えなくなる産地も出てくると思うんですね。そうなると、外部の人たちと技術を共有しないと産地の存続自体が危ぶまれます。今、越前漆器と言っていますが、今後いつ『北陸漆器』とかになってもおかしくないと思うんですよ。もう産地というくくりが変わるかもしれません」

だからこそ、「若者の力」はこれからの産地にとって大事な布石だと新山さんは言います。実は新山さんが移住して以降、ものづくりを志す若者を中心に、のべ60人以上が移住している河和田。若者の熱意で産地のベテラン職人たちも積極的になり、ともに地域の未来を考えていけるような姿を目指しています。

「RENEW」を通して生まれた新しい夢

ところで、今回の「RENEW」を通して、新山さんには新しい夢ができたそうです。それは「河和田に新しい宿をつくる」こと。

「河和田くらいコンパクトなまちだと滞在時間はせいぜい2時間くらいなんです。このまちの良さを見てもらい、地域にちゃんとお金が落ちるような状況をつくりたいですね。

ものづくりができる場所、食べる場所、住む場所は「PARK」ができたことで叶えられましたが、あとはこの町に滞在するための宿泊施設があればと思って。実現するのは先の話になるかもしれませんが、まだまだ僕たちにできることはたくさんあるはずです」

鯖江のコミュニティスペースPARK
2017年10月にコミュニティスペース「PARK」がオープン。人が集まる場所になっている

新山さんが目指すのは、半径10キロ圏内の人たちが楽しく暮らせる持続可能なコミュニティ。しかし、自分ごととして地域と向き合ってきた取り組みは、今や県を飛び超え、全国から注目が集まっています。

デザインを通して地域に寄り添う新山さんの働き方を知ると、地方であってもアイデアや関わり方次第でさらに面白くなりそうな予感がします。河和田には都市部とは違う大きな可能性に満ち溢れていました。

新山直広(にいやま・なおひろ)
1985年大阪府生まれ。京都精華大学デザイン学科建築分野卒業。2009年福井県鯖江市に移住。鯖江市役所在職中に移住者たちとTSUGIを結成し2015年に法人化。グラフィックデザインをベースに、地域のブランディングを手掛ける。“支える・作る・売る” を軸に、アクセサリーブランド「Sur」の企画製造、福井の物産ショップ「SAVA!STORE」、体験型マーケット「RENEW」の運営など、領域を横断しながら創造的な産地づくりを行っている。

RENEW2019 開催決定!

新山さんたちが河和田で始めた体験型マーケット「RENEW」が今年も開催されます!

RENEW 2019
普段出入りできないものづくりの工房を開放し、実際のものづくりの現場を見学・体験できる参加型マーケット
開催:2019年10月12日(土)~14(月)
会場:福井県鯖江市・越前市・越前町全域
https://renew-fukui.com/


聞き手:西木戸弓佳
文:石原藍
写真:上田順子、RENEW×大日本市博覧会、TSUGI

*こちらは2017年10月19日の記事を再編集して公開しました。

人気ローカルショップから見えてくる地域の今とこれから。3人の店主の選ぶ道

地方都市で魅力的なお店を開いている3人からお店づくりの秘訣を伺う、トークイベントレポート。今回は第3話、いよいよ最終回です。

「人が集まるローカルショップのつくり方」と題して開催。当日は「立ち見も満員」という人気ぶりでした
「人が集まるローカルショップのつくり方」と題して開催。当日は「立ち見も満員」という人気ぶりでした
(左) 300年以上続く漆器メーカーの跡継ぎとしてUターンした、福井県鯖江市「ataW (アタウ)」関坂達弘さん、(右) 縁もゆかりもない丹波篠山に移住して、お店を開いた「archipelago (アーキペラゴ) 」小菅庸喜さん
(左) 300年以上続く漆器メーカーの跡継ぎとしてUターンした、福井県鯖江市「ataW (アタウ)」関坂達弘さん、(右) 縁もゆかりもない丹波篠山に移住して、お店を開いた「archipelago (アーキペラゴ) 」小菅庸喜さん
(左)六本松 蔦屋書店のショップインショップとして、地元福岡で地域に根ざした独自のお店づくりをしている「吉嗣 (よしつぐ) 商店」の吉嗣直恭さん、(右) 司会を務めた中川政七商店の高倉泰
(左) 六本松 蔦屋書店のショップインショップとして、地元福岡で地域に根ざした独自のお店づくりをしている「吉嗣 (よしつぐ) 商店」の吉嗣直恭さん、(右) 司会を務めた中川政七商店の高倉泰

第1話はお店を始めたきっかけ編、第2話は商品仕入れや空間づくりなど具体的なお店づくり編でした。

ataW
archipelago
archipelago (アーキペラゴ)
localshop 吉嗣商店
吉嗣商店

そして第3話は、お店づくりのその先へ。

ものを売る、買う場所としてのお店の役割を超えた、ローカルに生きるお店だからこその展開が、3店それぞれに始まっています。

ものづくり産地、鯖江にUターンして「ataW (アタウ)」を開いた、関坂さんの今とこれから

「自分の町には何もないと思っていた」と語るのは、ataWの関坂さん。

ataW関坂さん

関坂:「小菅さんのarchipelago (アーキペラゴ) とはまたちょっと違うんですが、うちも、周りは田んぼに囲まれていて、ビジネスとしては、ここにお店は絶対に出しちゃいけないような場所にあります」

ataW周辺の風景
ataW周辺の風景

「でも実は、鯖江には越前漆器、眼鏡、越前和紙、越前刃物と色々なものづくりがあって、うちの店の半径10km以内くらいに集積しているんです」

鯖江市河和田地区の玄関口に位置するataW
鯖江市河和田地区の玄関口に位置するataW

「越前和紙の里には全国で唯一、紙の神様を祀る神社があったりして。厳かでとてもいい場所です。そういうことに、戻って来て初めて、少しずつ気づいていきました」

全国で唯一、紙の神様を祀る大瀧神社
全国で唯一、紙の神様を祀る大瀧神社

そんなものづくり産地で、ちょうど関坂さんがataWを開店させた2015年から「RENEW (リニュー) 」という体験型マーケットが始まります。立ち上げたのは県外から鯖江へ移住し、TSUGI (ツギ) というデザイン事務所を立ち上げた若者たちでした。

TSUGIは全員移住者。めがね職人や木工職人、NPO職員のメンバーもいる
TSUGIは全員移住者。めがね職人や木工職人、NPO職員のメンバーもいる

「毎年10月に行なっているんですが、普段は公開しない和紙や漆器の工房を見学できたり、ワークショップをしたり、買い物ができたり。今では越前市などと一緒に、広域で開催しています」

renew
福井県鯖江市で行われたrenew×大日本市博覧会

自分がかつて思っていた町とは、違う。町の変化を感じる中、関坂さんは去年から、RENEWの中である企画を始めています。

外の視点を取り入れて、地域の新しいものづくりを

「ataWlone (アタウローネ) というタイトルの企画なんですが、事前に外部のデザイナーを鯖江に呼んで、越前和紙や漆器の工房に連れて行って、その中から好きな技術や素材を選んでもらうんです」

atawlone

「それでRENEWの期間中に、うちのお店で作品を発表してもらいました。

中には商品化されて、今は他のお店に卸しているものもあります。

職人さんも、自分の作ったものがそういう形で世に出て行くということは初めてで、とても喜んでくれて。それが僕にとっては一番嬉しかったですね」

例えば県外の木工作家、西本良太さんには越前漆器の「塗り」を活かした作品づくりを依頼。ataWで開かれた個展には、レゴブロックなど30種類にのぼる「漆塗りを施した既製品」が並びました。

西本良太さんがatawloneで手がけた作品
西本良太さんがatawloneで手がけた作品

「溜塗 (ためぬり) という伝統的な技法が使われています。朱色の上に半透明の漆を重ねてあるんですが、そうすると角のラインだけ、下地の色が透けて浮かび上がる。

漆器業界では定番な塗りなんですが、こうして既製品に施すと、普段見慣れているものが漆によって全く違ったものに見えて、とても新鮮でした。

職人さんも、初めは『なんでこんなものに塗るんだ』と怪訝な顔だったんですが、みんな最後には面白いと言って、展示を見にきてくれて」

300年以上続く漆器メーカーの跡継ぎとしてUターンした、福井県鯖江市『ataW (アタウ)』関坂達弘さん

「どんなに素晴らしい技術があっても、地域の中に暮らしていると見えなくなっていることが、僕ら自身もよくあります。

それを外部のデザイナーさんと組んでフラットな視点で解釈してもらうことで、新しいアイデアを生み出したいなと。

今、鯖江ではTSUGIのメンバーがRENEWを通して、もともと地域にあったものをよく見せることをしてくれているので、それなら僕は、ataWという場所を通して新しいものづくりのチャレンジをしてみようと思っています。

漆器メーカーという本業の方ではどうしても、機能性や売れる、売れないでものづくりをしなければいけない側面がありますが、お店では実験的なことがやれるので。

いつかはこういうチャレンジがきちんと職人さんの仕事に繋がって、ビジネスにもなっていくというのが理想です。

何のためにやっているかといえば、やっぱり僕が、生業としてデザインや、ものづくりの側にずっと立ってきたからなんでしょうね」

農業地、丹波篠山に移住して「archipelago」を開いた、小菅さんの今とこれから

実は、鯖江の関坂さんとはまた異なる土地の状況から、同じように新たなものづくりに取り組んでいるのが、丹波篠山のarchipelago (アーキペラゴ) 店主、小菅さんです。

archipelago
archipelago 店内の様子
localshop_「archipelago (アーキペラゴ) 」店主、小菅庸喜さん
店主の小菅庸喜さん

小菅さんはその取り組みを、「風景を守るためのコンサルティング」と表現していました。

小菅:「丹波篠山という町は、今は観光地としても知られつつありますが、基本的には農業地なんですね。

お米や丹波黒豆、丹波大納言小豆という、おせちなんかに使われる食材がよく作られています。

さっき関坂さんも神社のお話をされていましたけど、篠山にも、土地への感謝を捧げるお祭が、まだ観光化されずにずっと受け継がれていたりします。

そういう文化を支えてきたのはやはり一次産業を担う人たちで、彼らが元気じゃないと、僕たちが好きになった風土は簡単に廃れてしまう。移住してきた身としては、それこそ死活問題です。

そんな思いもあって、去年問屋さんからお話をいただいて、篠山の食材を生かした加工食品のブランドを立ち上げました」

ブランド名は「霧の朝」
ブランド名は「霧の朝」
黒豆や丹波大納言小豆を使用したジャム。もともと『おせちの食材』というイメージがあった黒豆や丹波大納言小豆を、もっと日常の中で使えるようにと考案されました
黒豆や丹波大納言小豆を使用したジャム。もともと「おせちの食材」というイメージがあった黒豆や丹波大納言小豆を、もっと日常の中で使えるようにと考案されました
兵庫県の北部にある杉樽仕込みの醤油蔵と一緒に作った、国産の野菜を使ったソース
兵庫県の北部にある杉樽仕込みの醤油蔵と一緒に作った、国産の野菜を使ったソース

「デザインは、実は鯖江のTSUGIさんに依頼しています。

鯖江の伝統産業も丹波篠山の農業も抱えている問題は共通する部分も多く、問題を解決したり新しいプロダクトを生み出して行く際に、共通言語が多くある上でデザインしてもらった方が良いと思って。

また、自分たちがちゃんと責任をもって販路も確保する形で、プロデュースさせていただきました。

関坂さんの『土地の職人さんたちが元気で喜んでくれるように』というお話と近いと思うんですが、僕も土地の生産者の方にどう還元をしていくのか、が取り組みの根底にあります。

トレンドではなくて、細く長く、定着して続けられるようなプロジェクトにしていきたいです」

観光地、太宰府に生まれ地元で「吉嗣商店」を開いた吉嗣さんの今とこれから

地域への還元は、地元の作家さんの作品を積極的に取り扱っている「吉嗣 (よしつぐ) 商店」の吉嗣さんも共通しています。

六本松 蔦屋書店の中にある吉嗣商店。地元作家や九州初上陸のブランドなどを積極的に取り扱う
六本松 蔦屋書店の中にある吉嗣商店。地元作家や九州初上陸のブランドなどを積極的に取り扱う
福岡在住若手アーティスト「PEN PUBLIC」さんの企画展
福岡在住若手アーティスト「PEN PUBLIC」さんの企画展

加えてもう一つ、吉嗣さんは地域へ「やってくる人」へのアプローチを、これから展望しているそうです。

吉嗣:「実は私の実家が、築110年ほどの古い民家を持っていまして。5・6年前から両親とずっと『今後、どうする?』という話をしてきました。

結果、私自身はあまり関わらないのですが、ちょうど来月、10月4日のオープンで古民家ホテルとして再生することになりました。(※トークイベントは9月に開催)

10月4日に開業した「HOTEL CULTIA DAZAIFU」
10月4日に開業した「HOTEL CULTIA DAZAIFU」

ちょうど小菅さんの丹波篠山でも古民家ホテルを手がけられた、建築家の才本謙二さん設計です。

太宰府という町は昔からの門前町で、一年を通して訪れる人の多い町です。最近は海外のお客さんも多く観光地として賑わっていますが、実は滞在時間でいうと、とても短いんですね」

吉嗣商店

「先ほど小菅さんがお店づくりの話で『来てもらったからにはゆっくりしてもらいたい』というお話をされていましたが、私もずっと、お参りしてすぐに帰ってしまうだけではもったいない、そういう過ごし方を何か変えられないか、という思いを持ってきました。

今回せっかくこうして宿が出来るので、私はものを扱う仕事を続けてきた身として、いつかホテルのそばで新しい形のお土産屋さんをできないかなと思っています。

海外からのお客さんも多い町なので、『日本』そのものを提案できるような。そういう発信拠点を作ってみたいですね」

ローカルショップのその先へ

ものづくりの町・鯖江に戻ってきた関坂さんは、職人さんたちを元気にするために、お店を実験とチャレンジの場に活用。

農業の町・丹波篠山に移住した小菅さんは、好きになった風景を残していくために、地域の人たちとものづくりをスタート。

観光の町・太宰府生まれの吉嗣さんは、地元の魅力をもっと知ってもらうために、新しいお土産屋さんを構想中。

町への関わり方が三者三様に異なるのは、まさにローカルショップならではです。

そして地方創生、町おこしと声高に叫ばなくても、みなさん当たり前のように地域のなかでアクションを起こしているのがすごい。

お店という場所や経験を最大限に活かしながら、その役割は「ものを売る・買う」という範疇を軽やかに超えているように見えます。

これからのローカルショップの可能性。

その一端は、『僕も飲食や宿泊にとても興味があります』と最後に語った小菅さんの、こんな言葉にも感じられます。

小菅:「篠山という土地に暮らしていると、日常の中にも美しさがたくさんあって、それに気づける環境であることを日々嬉しく感じます。

ですが、お店に来ていただける日中の短い時間だけでは、その変化や発見に出会うことはなかなか難しい。

一方で飲食は、その土地の食材を体の中に入れるということですよね。

宿泊はその土地で裸になってお風呂に入って身を横たえるわけで、動物的に考えると、もう身を晒した状態で、その土地に浸かるということだと思うんです。

一度、その土地のものを食べて、身を横たえて朝になると、人の感情って初日にきた時とは、また少し違う感覚になっているんじゃないかなと思って」

archipelagoの小菅さん

「ここ数年、ライフスタイルショップという言葉をよく耳にはしますが、スタイルじゃなくもうちょっと地に足がついた形で、ものを長く使ってもらうためにはどうしたらいいか。

そう考えた時に、そういう『滞在』の仕方までサービスを設計した上で、何かを買っていただくという方法もありなんじゃないかな、小さな規模でやっているからこそ、出来ることなんじゃないかな、と最近思っています。

どんなことでも、それがさっきお話しした、土地の風土に僕たちが恩返しできることにつながれば。

自分たちの周りの環境を整えていきながら、できることから土地に関わって行けたら良いかなと思うんです」

徹底的に「ローカル」でありながら、従来の「ショップ」のあり方にとらわれない。

時にものづくりの実験室、時にコンサルタント、時に町づくりの担い手にもなりうる。

そんな、楽しくてたくましいローカルショップの今と近未来を、見せてもらったトークイベントでした。


<お店紹介> *アイウエオ順

archipelago
兵庫県篠山市古市193-1
079-595-1071
http://archipelago.me/

ataW
福井県越前市赤坂町 3-22-1
0778-43-0009
https://ata-w.jp/

六本松 蔦屋書店 吉嗣商店
福岡県福岡市中央区六本松 4-2-1 六本松421 2F
092-731-7760
https://store.tsite.jp/ropponmatsu/floor/shop/tsutaya-stationery/

<関連情報>

■RENEW 2019

新山さんたちが河和田で始めた体験型マーケット「RENEW」が今年も開催されます!

開催:2019年10月12日(土)~14(月)
会場:福井県鯖江市・越前市・越前町全域
https://renew-fukui.com/

■吉嗣さんのお話に登場した太宰府の古民家ホテルはこちら:
「HOTEL CULTIA DAZAIFU」10月4日営業開始
https://www.cultia-dazaifu.com/


文:尾島可奈子
会場写真:中里楓

【わたしの好きなもの】「防水機能で中身を守る」BAGWORKS CAMERAMAN

おでかけに連れていきたいカメラバッグ

趣味で始めたカメラ。週末には写真を撮りに車や徒歩でよく出かけます。

いつもリュックカバンに一眼レフカメラを入れて出かけていましたが、いざ写真を撮りたいときにさっとカメラを取り出しにくいし、何より衝撃に心配でした。
何年も使っている愛用のカメラのためにカメラバッグを買おうかと思っていましたが、どれもでかくて本格的なものばかりでごつごつしく手軽なものがあまりなく、欲しいと思えるカバンとなかなか巡り会えませんでした。

肩がけのカバンでカメラを取り出しやすく、衝撃から守ってくれる、そしておしゃれで使いやすいもの…。
そんなカバンが欲しいなぁと思っていたところ、ついに理想のカバンを見つけました。

BAGWORKSの「防水機能で中身を守る」BAGWORKS CAMERAMANです。
そう、うれしい。なんと防水機能も備えています。

外側はやわらかい帆布、内側にターポリンという防水機能を持つ素材が使用されています。
水に濡れると一見帆布に水が染み込んでいくように見えてしまいますが、内側でしっかり防水をしてくれます。
急な雨に濡れてしまっても大切なカメラを守ることができて安心です。




僕はいつも出掛ける際はカメラと財布を入れ、外側のポケットにスマートフォンを入れます。写真を撮りに行くくらいなら必要なものはこれくらいなので、とても”ちょうどいい”サイズ感です。 荷物がかさばらないので写真撮影にも集中できますし、どこへでも連れて行きたくなります。




カメラやレンズは様々な大きさがあると思いますが、やや小ぶりな一眼レフであれば本体にレンズをつけたままでもレンズがもうひとつ横に入ります。




もうひとつ、おでかけが楽しくなるポイントがあります。娘のおでかけセット入れにもちょうどいいのです。
おむつ、哺乳瓶、おしりふき、あと小さめの水筒も入るので、ちょっとそこまでの買い物や公園へのおでかけにぴったりでした。
かさばりがちな幼い子供の荷物。妻と僕と荷物を分担することで、妻の負担も減りますし、家族全員でおでかけが楽しくなりました。




カメラも子供の大切なグッズも守ってくれるカバン。 使い方によっては、もっといろんな使い方ができると思います。 僕はたまにお弁当入れとしても使っています。 いつもと変わらないお弁当が、なぜかこのカバンに入れるとお昼時が待ちきれない気持ちになります。 休日にはお弁当を入れておでかけ、というのも良いかもしれません。

このカバンの便利さ、手軽さを味わうといろんなところに連れて行きたくなります。本当に買ってよかったと思えるカバンです。
娘が大きくなったら、このカバンと一緒に遠出もしてみたいと思います。

編集担当 森田

<掲載商品>
「防水機能で中身を守る」BAGWORKS CAMERAMAN

スティービーワンダーが絶賛した風鈴は、武田信玄の甲冑から生まれた。平安時代から続く明珍家のものづくり

姫路城にほど近い工房の窓から風が吹き込み、窓辺につるしてある風鈴が揺れた。リーン、キーン、チリーンという3種類の音が混じりあったような音が響き渡る。

明珍本舗の火箸風鈴

その音は真夏の湧き水のように涼しげで、品の良さと心地よさを感じさせるけど、どこか緊張感もはらんでいる。

目を閉じて、耳を澄ませる。もし、月夜に野原でこの音色が聞こえてきたら、どんな気分がするだろう。どこか、異世界に誘われそうだ。

その先は、平安時代か、戦国時代か‥‥

明珍本舗の火箸風鈴

この風鈴は、平安時代から甲冑師として歴史に名を刻む明珍家の次期53代目、明珍敬三(みょうちん けいぞう)さんが作ったもの。

800年以上前から鉄を叩き、伸ばし、鎧兜を作ってきた独特の鍛造技術を用いて、幻想的な音色を生み出している。

その音のもとになるのは、火箸。甲冑から火箸、そして風鈴へ。明珍家は歴史の荒波を、熟練の手仕事で乗り越えてきた。

明珍本舗の明珍敬三さん
明珍本舗の明珍敬三さん

機械では出ない音色

「これ、見てください」

明珍本舗で使用している金づち

敬三さんが、金づちをふたつ並べた。熱した鉄の棒を叩き、伸ばし、形を整えるために不可欠の仕事道具。

比べてみると、ほぼ同じデザインながら、「頭」と呼ばれる叩く部分の長ささだけが違った。これは、毎日のように鉄を叩くことで、平らな部分が少しずつ摩耗して研ぎ直した結果だ。

「多い時は、1日2万回ぐらい(鉄を)叩いています。力を入れず、朝から晩まで素早くトントントントンと叩く。力を入れていたら1日8時間、10時間も叩けませんから」

明珍本舗で使用している金づち

道具をしまう棚には、数えきれないほどの金づちがある。いくつあるんですか?と尋ねると「数えたことない」という。

火がついた炉

敬三さんが、小さなスコップでコークス(石炭を蒸し焼きした後に残るもの)をすくい、炉に入れる。炉のなかは、コークスの熱で約1500度にもなる。

炉に棒を入れる

そこに丸くて細い鉄の棒を入れると数十秒で橙色に染まる。

熱した棒を金づちで叩く様子

それをはさみで引き出し、金床の上でリズミカルに叩く。

鉄の棒が飴細工のように伸びていく。

熱した棒を金づちで叩く様子

最初はその棒を四角にする。次に、手元で棒を回転させながら、八角形にする。その角をどんどん落として丸め、火箸の形に整える。

熱した棒を金づちで叩く様子

「機械を使えば鉄を伸ばすことはできるんですが、きれいな音色が出ないんですよね。伸ばしたものを丸くする機械もないので、うちはすべて手仕事です。

鍛冶屋の世界でも特殊な打ち方で、同じような手仕事をしている方は他にいないでしょう。先祖代々伝わる技のひとつで、このやり方はずっと変わっていません」

一番手前が最初の状態。火入れ・叩きを繰り返し形をつくる
一番手前が最初の状態。火入れ・叩きを繰り返し形をつくる

名だたる武将の甲冑を手掛けた一族

明珍家は、平安時代より腕利きの甲冑師として名をはせてきた。その歴史の深さは、明珍という苗字からもうかがえる。

12世紀、近衛天皇に鎧と轡(くつわ)を献上したところ「音響朗々光り明白にして玉のごとく、類いまれなる珍器なり」と賞賛され、褒美として「明珍」という姓を授かった。明珍というのは屋号ではなく、本名なのだ。

室町時代、戦国時代は関東を拠点に移し、武田信玄や豊臣秀吉、伊達政宗が着用した鎧兜なども手掛けている。

江戸時代には、江戸に本家を構えながら徒弟制度を確立して、日本全国の大名のもとに弟子を派遣した。そのため、北は青森の弘前、南は薩摩まで明珍家の甲冑師が活躍していたそうだ。

「姫路藩兜鍛冶明珍」と題された古絵
「姫路藩兜鍛冶明珍」と題された古絵。「明珍の打った兜や鎧の胴は、刀では切れず、鉄砲のたまも通らなかった」と記されている

江戸時代の半ば、明珍義時が幕府の大老だった酒井忠清のお抱え甲冑師となり、酒井家の領地があった現在の群馬県前橋市に拠点を移した。

その後、酒井忠恭の時代にお国替えで姫路藩主となったため、同行した。その子孫にあたるのが、敬三さんだ。

明珍火箸

火箸は、戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した茶人、千利休の依頼で作ったという言い伝えがある。その火箸に注目したのが、明治時代を生きた48代、明珍百翁宗之だった。

時代が変わり、甲冑の需要が一気に途絶えた明治時代、廃業の危機に陥った際、「千利休が使った火箸」に活路を見出したのだ。

その当時、料理や暖を取るために炭火が使われていて、火箸は生活の必需品だったため、明珍家は生き長らえた。

起死回生のアイデア

ところが昭和に入ると、再び苦境に立たされた。戦時中、「金属回収令」によって鍛冶道具を供出せざるを得ず、材料の鉄も手に入らなくなり、敬三さんの祖父にあたる51代目の明珍宗之は、家と技を守るために家や土地を売り払った。

戦争が終わると、生活の近代化が進み、あっという間に火箸の需要がなくなった。そのタイミングで後を継いだのが敬三さんの父、明珍宗理さんだった。

「祖父の時代は、すごく逼塞した時代でした。昭和30年代、最初に応援してくれたのが日本製鉄さんで、地元にこういう歴史を持つ鍛冶屋があるということで、鉄を卸して頂きました。

それで祖父が細々と仕事を再開し、しばらくして現当主の宗理が仕事に入ったのですが、火箸が必要なくなり、もう借金で首が回らない、これからどうしようという状態だったみたいです」

追い詰められた宗理さんは、考えた。

明珍火箸

うちの火箸が触れ合うと、いい音が鳴る。この音をどうにか活かせないか?たどり着いたのが風鈴という答えだった。

それから7年間、最もよく音が響く、いい音が鳴る構造にするために試行錯誤を繰り返し、1970年頃に完成させたのが火箸風鈴だ。

スティービー・ワンダーも絶賛

火箸を風鈴にしたユニークな形状と独特の音色は評判を呼び、著名な音楽家も惹きつけた。

たまたま姫路駅の土産物屋で売られていた火箸風鈴の音を聞いて、その足で工房まで訪ねてきたのは、世界的シンセサイザー奏者の冨田勲氏。

冨田氏は「シンセサイザーでは出せない音がする」と気に入り、ひとつの楽器と同じ扱いで、自身の作品に火箸風鈴の音を取り入れたこともあったという。

冨田氏は、親交のあった海外のアーティストにも、火箸風鈴を紹介。そのひとりがスティービー・ワンダーで、火箸の音色を聞いた時、「近くでなっているのに遥か遠く宇宙から聞こえてくるような東洋の神秘の音色」と感嘆したそうだ。

明珍本舗の火箸風鈴

三男の敬三さんは、大学卒業後の22歳の時、風鈴がヒットして、家業がようやくひと息ついたタイミングで後継者として工房に入った。

それまで本格的に手伝いをしたことはなかったそうだが、やはり血筋なのだろう。父親のもとで学び始めると、職人としてメキメキと腕を上げていった。

「子どもの頃から、朝から晩まで働いている父の姿を見て、『なんとかして、助けたいな』と思っていました。でも、三男だから後を継ぐという意識はなかったんです。そうしたら、一番上の兄は風鈴の最後の仕上げの作業の担当になり、次男は刀鍛冶になりました。

それで思いがけず、僕が継ぐことになったんですよ。だから、現場で仕事を覚えるのに必死でしたね。納得できる風鈴が作れるようになるまでに、15年かかりました」

火箸を金づちで叩いている様子

明珍家の火箸風鈴は、文化庁にも認められた。

日本には、出雲の山奥で日本古来の「たたら製鉄」の技術によって作られている「玉鋼(たまはがね)」という希少で高価な鋼がある。これは刀や甲冑の素材として使われてきたが、現在は主に日本刀の製作に使用されていて、一般には出回っていない。

しかし敬三さんの父、宗理さんには「玉鋼で、最高の火箸風鈴を作りたい」という想いがあった。

最上質の鋼と言われる玉鋼
最上質の鋼と言われる玉鋼

その強い想いと、玉鋼と縁が深い明珍家の歴史と実績により、文化庁から使用許可が下りたのは、1995年。宗理さんが丹精を込めて作った玉鋼の火箸風鈴は、普通の鉄を使ったものとは明らかに違う音色になったという。

取材の際に聞かせてもらったが、確かにそれはもう風鈴とは思えない奥深さを感じさせる、複雑で、かつ心地よい音色だった。

玉鋼で作られた火箸
玉鋼で作られた火箸

おりんと楽器

宗理さんと敬三さんは、明珍家の技術を使ってさらに新しい可能性を見出した。2005年頃、水で錆びないチタン製の花器の製作に挑戦し、その過程でチタンを鍛造するとずいぶんと澄んだ音色が出ることがわかった。

同じ頃、お客さんから仏具のおりん(棒で叩くお椀のような形をしたもの)を作ってほしいとリクエストされていたが、火箸と同じ鉄製だと思ったような音色が出ず、悩んでいた。

そこで開発したのが、チタン製のおりん。偶然が重なってできたものだが、その透明感ある音色は、余韻がひときわ長く続く。

チタン製のおりん

敬三さんはさらに、このおりんからヒントを得て、チタン製の大きな鉢のような打楽器「響(ひびく)鉢」を作りあげた。

これまでにないオリジナルの楽器だが、すでに何度かコンサートなどで使用されており、手ごたえを得ているという。ちなみに、機械でチタンを同じような形にプレスすることもできるが、そうするとなぜか味気のない音しか出ない。

おりんも「響鉢」もひとつひとつ手打ちする
おりんも「響鉢」もひとつひとつ手打ちする

甲冑、火箸、風鈴からおりん、そして楽器へ。平安時代から時の流れに合わせて柔軟に進化してきた明珍家のものづくりが、これからどんな発展を遂げるのか。

予想はつかないが、50年後、100年後もきっと、後継者が炉の傍らで、カンカンカンカンと鉄や金属を打っているのだろう。

明珍本舗

<取材協力>
明珍本舗
兵庫県姫路市伊伝居上ノ町112
http://myochinhonpo.jp/

文:川内イオ
写真:直江泰治