デザインとアートの間を行く福井「ataW (あたう) 」の審美眼

「さんち必訪の店」。産地のものや工芸品を扱い、地元に暮らす人が営むその土地の色を感じられるお店のこと。
必訪 (ひっぽう) はさんち編集部の造語です。産地を旅する中で、みなさんにぜひ訪れていただきたいお店をご紹介していきます。

今回は福井県越前市にある「ataW (あたう) 」です。

福井の必訪店「ataW」とは

北陸自動車道・鯖江ICを降りて車で東に約10分。越前漆器の産地として有名な福井県鯖江市河和田地区の玄関口に位置するのが、2015年11月にオープンしたataWです。

田んぼが続く道に突如現れるataWの建物。何のお店だろうと通る人の目を引きます
(画像提供:ataW)
(画像提供:ataW)

木枠の引き戸を開けてなかに入ると、むき出しになった木の梁と白い壁。大きな窓からは陽の光が差し込みます。

福井でつくられたものはもちろん、国内外の作家による食器や洋服、日用品、家具、デザインプロダクトなど、さまざまな商品を扱うataW。

越前和紙で作られた小箱「moln (もるん) 」
地元福井の繊維技術を使ったkna plus (クナプラス) のエコバッグ「PLECO (プレコ) 」

普段使いできるものから、これはどんな使い方をするのだろうと考えてしまうようなものまで、一つひとつ商品を眺めながら店内をじっくり回っていると、あっという間に時間が経ってしまいそうです。

砂時計ならぬ泡時計「awaglass」 (左) は泡によってポコポコ刻まれる時間を楽しむためのもの。植物をとじ込めたリトアニアの万華鏡 (右) は光に透かすと四季折々の美しさを感じることができる
お花が並ぶアクリルの板。お花は1cm間隔で並び、定規にもなるのだとか (画像提供:ataW)

商品のセレクトを担当しているのは、関坂達弘 (せきさか・たつひろ) さん。1701年から続く漆器の老舗「株式会社関坂漆器」の12代目です。なぜこの場所にこんな素敵なお店を始めることになったのでしょうか。

老舗漆器メーカーの12代目が商うセレクトショップ

「もともと関坂漆器は学校や病院、機内食などで使われる『業務用漆器』を中心に企画・製造・卸を行っている会社です。この場所は漆器屋の小売店として、漆器を中心とした商品を販売するお店だったのですが、正直言うと、僕は当時の雑多な感じがあまり好きではなくて‥‥」

関坂達弘さん

大学で東京に行ったことを機にデザインに触れ、卒業後もオランダの学校でデザインを学んだ関坂さん。帰国後はしばらく東京で働いていましたが、2014年に地元福井県に戻ってくることになりました。戻ってみると、地元の様子が少し変わっていたことに気づきます。

「ものづくりに注目した若者がこのあたりに移住していることを知りました。彼らと話をすると、ものづくりに対するデザインの考え方などとても意気投合して、今まで僕が思っていた地元と変わりつつあるなと思ったんです。そんな彼らに刺激を受けたこともあり、ちょうどお店が10周年になるのを機に、リニューアルすることになりました」

以前の店名は、関坂漆器の先祖の名前である「与十郎 (よじゅうろう) 」。その「与」を訓読みした「与う (あたう) 」から名前を取り、店名を「ataW」にしました。ataWの末字を「u」ではなく大文字の「W」にしているのは、「内」と「外」をつなぐ地域にとっての窓 (window) のような存在でありたいという思いが込められています。

モノが溢れる時代だからこそ大切にしたいこと

冒頭にご紹介したように、ataWに並べられている商品のなかには、どうやって使おうか、と見るものの想像力をかき立てるものも。一体、どんな視点で商品をセレクトしているのでしょうか。

関坂漆器独自のプロダクトも。イギリスのデザイナーIndustrial Facility (インダストリアル・ファシリティ) と協働で作られた「STORE (ストア) 」は、業務用漆器の技術を活かした多目的容器。何を入れるかは使う人次第

「基本的に作家さんのものづくりの考え方や手法、ストーリーなどを重視していますが、そもそも機能とか便利さとかにはあんまり興味がなくて。それよりも、“もの自体の持つ力”に興味がありますね」
と言う関坂さん。

オランダで勉強をしていた時に、日本のように『これはデザイン、これはアート』といった境界がない自由な感覚で学んでいたことも影響しているのだそう。

「日本では機能がないものはアートに分類されがちですが、もっとふんわりとした中間の存在があってもいいんじゃないかなと思い、商品を選んでいます。お店を始めた当初は、一緒に運営している家族から『置いてある商品の意味がわからない』と言われたこともありましたけどね (笑)」

しかし、ataWが出来たことで、若者がこの店に集うようになったり、遠方からわざわざこの店目当てに訪れるようになったりと、まちの様子は確実に変わりつつあります。

「今の生活のなかでものは十分すぎるくらいにあって、今更必要なものなんてもうないのかもしれません。だからこそ、僕はどこか情感をゆさぶられたり、感覚をハッとさせられるものに惹かれるのだと思います。ちょっとした視点の違いや発想の転換で、違う景色を見せてくれる、そういう商品を通して、店に来てくれる人に少しでも新たな発見や気づきを見つけてもらえたら嬉しいですね」

“美術館とお店の間のような存在でありたい”と言う関坂さん。
私たちのまわりにあふれているものとは何なのか。普段なかなか考える機会はないかもしれませんが、ataWに訪れると、立ち止まって考えるきっかけを与えてくれるかもしれません。

ataW
福井県越前市赤坂町3-22-1
0778-43-0009
営業時間 11:00〜18:00
定休日 水曜日、木曜日、年末年始 (※定休日でも祝日は営業)

文:石原藍
写真:上田順子

*こちらは2017年9月3日の記事を再編集して公開しました。ここでしか出会えないものが手に入りそう。福井を訪れた際はぜひチェックしてみてください!

RENEW2019 開催決定!

ataWも参加する鯖江発・体験型マーケット「RENEW」が今年も開催されます!

RENEW 2019
普段出入りできないものづくりの工房を開放し、実際のものづくりの現場を見学・体験できる参加型マーケット
開催:2019年10月12日(土)~14(月)
会場:福井県鯖江市・越前市・越前町全域
https://renew-fukui.com/

唐津焼を知るならまずここへ。目利きが選んだうつわが買える店

産地のものや工芸品を扱い、地元に暮らす人が営むその土地の色を感じられる、「さんち必訪の店」。

“必訪 (ひっぽう)” はさんち編集部の造語です。産地を旅する中で、みなさんにぜひ訪れていただきたいお店をご紹介していきます。

“三右衛門”から若手作家までさまざまな作品が揃う

JR唐津駅から徒歩3分。呉服町商店街のなかにある「一番館」は、陶器や磁器を扱う専門店。

肥前の陶芸家 “三右衛門” と呼ばれる唐津の中里太郎右衛門、有田の酒井田柿右衛門、今泉今右衛門の作品をはじめ、人気作家、若手作家などさまざまな作品が揃っています。

今回お話をうかがったのは一番館の店主、坂本直樹さん。焼き物店を経営しながらも、バルのオーナーや地域イベントの仕掛け人などさまざまな顔を持っています。

店主の坂本直樹さん

坂本さんのご実家はもともと唐津で布団屋さんを商っていましたが、ご両親の焼き物好きが高じて、1976年に「一番館」をオープンしました。

同じく焼き物が好きだった坂本さんは、大学卒業後、ギャラリーを運営する夢を叶えるため、インテリアショップに入社。10年間経験を積んだ後独立し、福岡で陶芸家・中里隆の作品をメインとしたショップをオープンしました。

しかし唐津と福岡を行き来するなかで、地元唐津の人たちからのラブコールを受け、次第に唐津に軸足を置くようになります。

使ううちになじんでいくのが唐津焼の良さ

福岡から完全に拠点を移し、「一番館」は現在、唐津の本店と東京店の2店舗。本店の1階は唐津焼を中心に陶芸作品や彫刻、絵画などさまざまな作品を販売し、2階のギャラリーでは企画展やイベントなどを開催しています。

「隆太窯」で有名な陶芸家・中里隆、太亀、花子、親子三人の作品を中心に、若手作家の作品も展示

店内の作品はぐい呑ひとつから坂本さんが窯元に赴き、選び抜いたものばかり。坂本さんが納得した作品しか置いていません。

唐津焼は骨董の世界では有名で、例えば400年前の作品は1000万円以上することも。しかし、一部のマニアの人だけではなく、もっと幅広い人たちに興味持ってもらいたいと坂本さんは言います。

「唐津焼の定義は一言で表すのが難しいのですが、使っていくうちに変化し、その人になじんでいく良さがあります。

時代が変わり、食文化やライフスタイルそのものが変化するなかで、唐津焼の持つ素材感をどう活かせるか。今の食卓にも合うような唐津焼も考えていきたいですね」

長年、陶芸家が生み出した作品と真剣に向き合い続けてきた坂本さん。その信頼関係があるからこそ、お客さんが求めているものを作り手にオーダーメイドできるのも大きな強みです。

お客さんの声を作り手にフィードバックするのも坂本さんの役割の一つ

九州の唐津から世界の唐津へ

唐津の「唐」は中国の唐の時代の名残から「大陸」を意味し、「津」は「港」を意味する言葉。つまり、唐津には“大陸にいくための開かれた港”という意味があるそう。

福岡空港から地下鉄で乗り換えなく行けるアクセスの良い観光地であるため、近年は海外からの観光客も増えています。

アジアの玄関口としての機能を生かし、九州各地の陶芸家ネットワークを広げ、唐津焼のルーツでもある韓国の陶芸家との交流もすすめている坂本さん。

今後は上海や台湾、香港などへも唐津焼を広めていきたいと考えているそうです。

「唐津のまちは派手さはないけど、なんとなくまた訪れたくなる、そんな場所。その方が長続きしていいんじゃないかな、と思います。

アクセスが良くて景色も良い上に、『唐津くんち』という伝統的なお祭りもある。唐津が誇る文化の一つとして、唐津焼も世界に発信できればと思っています」

唐津焼を通してまちと人をつなげる

坂本さんの活動は一番館の店主だけにとどまりません。その一つが、一番館のある中央商店街の空き店舗に2017年7月にオープンした「唐津ちょこバル」。

唐津焼の酒器とともに唐津の食や地酒を味わうことができるお店で、カウンターには週替わりで地元の陶芸家が立ち、作り手との交流も楽しむことができます。

陶芸家は若手からベテランまでさまざま。ときには “三右衛門”のひとり、十四代中里太郎右衛門先生がお客さんをもてなしたこともあったのだとか。

また唐津に約70ある窯元を訪ねる「唐津窯元ツーリズム」の実行委員長も兼任し、唐津焼を通して、唐津のまちそのものを楽しんでもらう仕掛けを考えています。

「私の親の時代は、狭い唐津のなかでパイの取り合いをしているような商売のスタイルだったので、わざわざよその窯元を紹介するなんてお客さんを減らすようなもんだ、という反応をされたこともありました。

しかし、私は求められれば窯元も紹介するし、作家やお店も紹介します。唐津全体が盛り上がり、唐津にくる方が増えることで、長い目で見れば一番館に来るお客さんも増えるわけですから」

使えば使うほどしっくりくる唐津焼のように、知れば知るほど訪れたくなる唐津のまち。話をうかがっていると、このまちははじめて訪れた時よりも、二度目、三度目の方がより楽しめるのかもしれません。

坂本さんはこれからも唐津焼を通して、一言では伝えきれない唐津の魅力を発信し続けます。

一番館
佐賀県唐津市呉服町1807
0955-73-0007
http://www.1bankan.com

文:石原藍
写真:菅井俊之

こちらは、2018年3月28日の記事を再編集して公開しました

沖縄の旬のうつわに出会える楽園「GARB DOMINGO」

産地のものや工芸品を扱い、地元に暮らす人が営むその土地の色を感じられる、「さんち必訪の店」。

“必訪 (ひっぽう)” はさんち編集部の造語です。産地を旅する中で、みなさんにぜひ訪れていただきたいお店をご紹介していきます。

沖縄、GARB DOMINGOへ

今日訪ねたのは、沖縄の台所・牧志第一公設市場のほど近く、壺屋街にあるGARB DOMINGO(ガーブ・ドミンゴ) 。

陶器、漆器、紅型、織物やガラスなど、沖縄の旬の作家ものが並ぶセレクトショップです。

GARB DOMINGO

選ぶのは、作家の人となりが見える作品

壺屋街には沖縄の伝統的な焼き物「やちむん」の店が軒を連ねていますが、GARB DOMINGOには、伝統にとらわれない作家さんの作品が置かれています。

GARB DOMINGO
GARB DOMINGO
GARB DOMINGO

「伝統には過去から現在への流れがありますが、僕が出会う沖縄の作家にはそういう長れを持たない、自分ひとりのものを作ってる人が多いですね」と語るのは、オーナーの藤田俊次さん。

もともと東京で建築の仕事をしていましたが、将来子どもを育てる環境を考えて奥さんの実家がある沖縄に移住。2009年、ご夫婦でGARB DOMINGOを開きました。

オーナーの藤田さん

現在20数名の作家さんの作品を扱っています。

「ちょっと自分の好みと違うなと思っても、個人が『見える』作品だったら、選んでみるようにしています」

個人が見える?

「なんとなく、その作家の人となりが作品から見えるような人を選んでいるのかもしれないですね。今は形が出来上がっていなくても、自分が作りたいなと思ったものがゆっくりと、10年20年後に出来上がるかもしれないなって感じさせる人」

沖縄を感じられるうつわ

作品から沖縄を感じられることも大切にしているそうです。

「修業した先が沖縄だったり、沖縄が好きでしょっちゅう来てる人だったり。沖縄に住んでいなくても、作品から沖縄のエッセンスが感じ取れればいいなと思っています」

藤田さんに、取り扱っている代表的な作家さんを紹介していただきました。

ミスマッチを楽しむ「木漆工とけし」のうつわ

木漆工とけし

こちらは木工職人の渡慶次弘幸(とけしひろゆき)さんと奥さんで塗師の渡慶次愛(とけしあい)さんの工房「木漆工とけし」のうつわ。

共に沖縄出身で、輪島で漆を学び、現在は名護市で作品を作っています。

一瞬金属を思わせるうつわは、持ってみると、とても軽い。

木漆工とけし

「沖縄県の木、デイゴを使ってます。沖縄の木は、木自体が軽いものが多くて、本当にスカスカしてもろいんですけど、漆を塗ると硬度が出る。それが質感でも表現されていて、重たそうで軽い、そのミスマッチ感が面白い作品です。

沖縄の木じゃないと出ない軽さですね」

歪んでいるのに、美しい。藤本健さんのうつわ

藤本健さんのうつわ

木工作家・藤本健さんのうつわもアカギやホルトノキ、ガジュマルなど、沖縄の木が使われています。

穴が空いていたり、欠けていたり、歪んでいるのに、なんとも美しいうつわです。

アカギを使ったうつわ。アカギは名前の通り切ると赤く、日に当たるうちにタンニンが出て茶色っぽくなってくる。時間ともに色が変化していく

作家の藤本さんは地元で倒され処分される運命だった木を引き取り、うつわに蘇らせているそうです。

「割れとかひびを、その木が持っている個性として出しているのが面白いですね。穴が空いているなら水物を入れなければいい、とうつわに言われているようで、確かにそうだな、とこちらもすんなり受け入れられる。

素材の形と作家の作りたい形がうまくマッチしているように思います」

うつわにとって居心地のいい場所づくり

GARB DOMINGOのディスプレイは、1日のうちに何度も変わります。

「直射日光は入らないんですけど、日の入り具合で店の雰囲気が変わるんです。それで、“今はここに置いたらよさそうだな”って所にうつわを置いています」

GARB DOMINGO

配置換えをすると、不思議とお客さんが何度も手に取ったり、変えた直後に買われて行くこともあるそうです。

瞬間、瞬間で、うつわにとって居心地のいい場所を感覚で捉えていく藤田さん。

訪れるお客さんに対しても、大切にしていることがあります。

「僕はあんまり置いているものの説明をしないんです。持って帰る方の、それぞれの家庭があるので。お客さんが“何を盛ろうかな”とか家で使うイメージをしてる時に話しかけちゃうと集中できないと思うので」

GARB DOMINGO

ゆったりとくつろいだ気分で作品を見ることができるGARB DOMINGO。

お店の前の並木越しにゆらゆらと光の入る2階
お店の前の並木越しにゆらゆらと光の入る2階

ここに住みたいというお客さんもいたそうですが、なんだか納得できます。お店の外から聞こえる話し声まで心地よく感じます。

「そうなんですよね。ここを決めた時、朝方だったかな。道を箒で掃く音が聞こえたんですよ、シャッシャッって。その音と混ざってバイクが市場に向かう音が聞こえてきて、それが妙に『旅感』があった。

何でだろうと思って2階から外を見たら、前の通りが一方通行だったんですね。一方に音が抜けていくところに時間の流れを感じて、“あ、ここだな”と直感的に決めました」

お店づくりは、街づくりの視点で

並ぶうつわもお店の場所も、お話を伺っていると藤田さんは感性で選んでいるように思えます。

しかし、お店をこの場所に決めたのには建築をやってきた藤田さんらしい、大きな「戦略」がありました。

「もともとお店は、中心地からちょっと外れた、観光客と地元の人が行き交うようなところに作りたいなと思っていました。

重視したのが、自分たちのお店のまわりに次の店舗が入れる余地があるかどうか、です。シャッターが全部開いているのではなく、空き店舗も所々あるような」

お店の前の通り

旅先でも出来上がっている場所ではなく、これから発展していきそうな所の方が面白いものが見られると藤田さんは言います。

余地を残すことで、どんな「面白い」ことを目指しているのでしょうか?

楽園へ

店名の「DOMINGO」は、スペイン語で「日曜日」という意味だそうです。では、GARBは?

「実は、この近くの市場の下を流れてる川の名前が“ガーブ川”なんです。あまりきれいな川でなく、子どもたちが通る時は鼻をつまんで走ったりしていました。

ガーブは沖縄の言葉で“湿地”という意味もあるらしいと知って、以前、旅先で見た風景と結びついたんです。のどかな日曜日、湿地帯にフラミンゴが居る。

ガーブ川にそんな楽園的なイメージが付いたらいいなと思いました。人がのんびりやって来て、顔見知りの何軒かのお店に顔を出して休日を楽しむような」

架空のオーナーGARBおじさん
架空のオーナーGARBおじさん

お店が市場に近いというのも考えてのこと。

「市場は生活の下支えになっているものなので、うつわともリンクしやすいかなと。生活に近いところで、うつわから影響を与えるといいなと思って」

影響というと?

「伝統的な沖縄の食文化はどんどん廃れているんです。昔はお盆になると手作りしていたご馳走も、今はスーパーで買うようになって。

プラスチックケースに入ったオードブルではやっぱり味気ないんですよね。それを、自分で気に入って選んだうつわに盛るようにしたら、食卓から文化が息づいてくるんじゃないかと思うんです」

実際、お盆の時期に「今日は親戚が来るから」と、市場の買い物帰りにうつわを買いに寄ってくれる地元のお客さんもいるそうです。

「うれしいですね」

GARB DOMINGO

藤田さんの人となりを表しているかのようなGARB DOMINGO。

作品の中に「人」を見つけるように、藤田さんはその街が本来持っている魅力や心地よさを感覚的に見つけて、このお店から発信しているのかもしれません。

みなさんも沖縄の旬のうつわと藤田さんの生み出す心地よい空間に触れ合いに、楽園に出かけてみては。

<取材協力>
GARB DOMINGO
沖縄県那覇市壺屋1-6-3
098-988-0244
http://www.garbdomingo.com/

文 : 坂田未希子
写真 : 武安弘毅

世界で有田にしかない。仕掛け人に聞く「贅沢な日用品店」bowlができるまで

「さんち必訪の店」。

産地のものや工芸品を扱い、地元に暮らす人が営むその土地の色を感じられるお店のこと。

必訪 (ひっぽう) はさんち編集部の造語です。産地を旅する中で、みなさんにぜひ訪れていただきたいお店をご紹介していきます。

来る4月1日、「有田焼」で知られる佐賀県有田町にオープンするお店があります。

名前を「bowl (ボウル) 」。

bowl入り口

有田の地域活性を手がける「有田まちづくり公社」がクラウドファンディングを活用し、築100年の陶磁器商家にオープンさせたセレクトショップです。

JR有田駅から徒歩5分ほどで到着
JR有田駅から徒歩5分ほどで到着

さんちでは少し前に、開店準備中のお店にお邪魔していました。

中に入ると、落ち着いた木の什器にはすでにバッグやカトラリーなどの日用品が並び、お店の雰囲気ができあがりつつあるところでした。

白壁に木の什器がよく映えます。この時点でまだ品揃えは1/3程度だそう
白壁に木の什器がよく映えます。この時点でまだ品揃えは1/3程度だそう

内装、商品のセレクトを一手に引き受けるのは店長の高塚裕子 (たかつか・ひろこ) さん。

高塚さん

ここを「有田にしかない」日用品店にしたいと語ります。

日用品を扱うのに「有田にしかない」とは、これいかに?

有田に新しい「必訪の店」が生まれるまでを、立ち上げの現場で伺います。

ドレスっぽい有田焼

「この町との最初の縁は有田の窯業学校に入ったこと。結婚を機にお隣の波佐見町に住んで、今も波佐見からこのお店に通っています。車で15分くらいですかね」

高塚さんが焼き物を学んだのは日本磁器発祥の地、佐賀県有田町。移り住んだのは和食器出荷額・全国第3位の「波佐見焼」の産地、長崎県波佐見町。

県は違えど隣り合う両町は、日本で初めて磁器づくりが始まった400年前から、ともに磁器の産地として発展してきました。

華やかな絵付けの伝統的な有田焼。有田観光協会提供。
華やかな絵付けの伝統的な有田焼。有田観光協会提供。
波佐見焼
日本の食卓を支えてきた波佐見焼

そんな二つの産地は、似て非なる存在。

「歴史的に見ると、波佐見焼はカジュアルで、有田焼はちょっとドレスっぽいイメージ。

今の流行はどちらかというとカジュアルな方ですよね。

波佐見でお店をした時はカジュアルをアップさせたのですけれど、有田はドレスなので、ドレスダウンさせるイメージでお店づくりをしようと思いました」

実は高塚さん、このお店に携わる以前に波佐見町でセレクトショップ「HANAわくすい」の運営を任され、県外からも人が訪れる人気店に育て上げた実績の持ち主。

高塚さん

食器の一大産地でありながら当時まだ全国的に知られていなかった波佐見焼の器を、南部鉄器や江戸箒と共に店頭に並べ、「職人もの」としての質の良さに光を当てました。

その実績を見込まれて任された、有田での新しいお店づくり。

お店の核になっているのは有田焼だと語りますが、その姿は各地から仕入れてきた暮らしの道具と一緒になって、お店の中に溶け込んでいます。

店内

そこにお店づくりの秘策が伏せられていました。

絵を描くときと同じように

「セレクトショップって、物を選ぶ仕事みたいに見えますが、別に、物にいい悪いは、ないと思っています。

何を置くかよりは『額縁の中で、四隅を変える』ということを考えています。絵と一緒なんです。

現象そのものを描くのではなく、テーブルがあって、後ろにどんな背景があってと、風景性を描き分けていく」

店内

「そう考えると、町や建物って、もうすでに関係性が出来上がっていますよね。

有田という町はひとつしかないので、どこかに憧れるよりこの町らしいことを一生懸命にやると、世界でここにしかないお店になるんじゃないかなと思っています」

では、高塚さんの考える「有田らしさ」って、いったいどんなものなのでしょう?

贅沢な鮭弁当のように

「日本で初めて磁器、つまり有田焼ができる前は、焼き物って土色一色だったと思うんです。

それが白磁に使える白い石が有田で見つかって、真っ白い有田焼ができた。

そこに色とりどりの絵付けまでされた器を見た時に、きっとみんな『うわぁ、なんて贅沢』と思ったはずなんですよね。

だから『贅沢さ』が有田らしさだと思っています。お弁当に例えると、高級なフォアグラとかキャビアがはいったお弁当ではなくて、同じ価格の鮭弁当みたいな感じ。

良い鮭がはいっていて、丹念に育てられていたお野菜や、時間をかけて作られた美味しい漬物なんかがはいっている。

高級だよね、有田焼じゃなくて、有田焼って贅沢だよねと思ってもらえたら、このお店は◯じゃないかなと。

bowlという器のどこを切りとっても、贅沢さを感じてもらえる場所にできたらと思っています」

光がたっぷりと差し込む店内
光がたっぷりと差し込む店内
アート作品を置けるような空間も
アート作品を置けるような空間も

アートと企業努力

高塚さんが有田焼の「贅沢さ」をはじめに知ったのは、窯業学校でした。

「実は、私はもともとはアートに興味があって、オブジェづくりをするつもりで間違って窯業学校にはいっちゃったんです (笑)

そこで、企業努力というのを、目の当たりにしたんですよ。型やろくろを使って、分業して、いかに効率よく質の良いものを作るか、という世界に。

ひとつの商品を早く安く作ることがどれだけ凄いことか、この時にはじめて知りました」

有田の工場で見つけた焼き物の型。左右対称なので片側だけの形です
有田の工場で見つけた焼き物の型。左右対称なので片側だけの形です
型にはめて商品を成形。これによりサイズのブレなく量産できる
型にはめて商品を成形。これによりサイズのブレなく量産できる

「その時の同級生たちの多くは今、家業を継いで窯元の社長さんになっています。彼らはただ仕事としてそういうものづくりを今日も明日もしていて、伝統工芸士といった肩書きを前に出すつもりもない。

一方の私は、ものは作れない。でも、ものを売ることならできる。

だから、彼らが今日、明日と前を向いてものを作るなら、私は後ろを向いて、この町でそうやって作られてきた有田焼の価値観をこのお店でぶつけてみたい。

柄物が以前ほどもてはやされない時代でも、日用品のお店の中に器を置いたら、たまには良いよねとか、こういうものもあるのね、と思ってもらえるんじゃないかと思うんです 」

例えば、近所の窯元さんがぷらっと立ち寄るお店に

店内には、大きな木のカウンターがあります。今後、洋酒やお酒に合う甘いものを用意するそうです。

カウンター

「例えば近所の窯元さんで働く人が、特に用はないけどちょっと飲みに来たよ、と立ち寄ってもらえるように作りました。

有田は400年続くものづくりの町で、暮らす人も目が肥えているんです。

だから、地域の方が何かお使い物や引き出物を選ぶ時、ちょっと靴下を買い換えようかなという時に来てくれるお店でありたいなと。

有田に似合うねと地元の人に言ってもらえるお店にしたいです」

焼き物の町にできた日用品店。次に訪れた時にはきっと、観光で来たお客さんや地元の人が入り混じって、「贅沢」な買い物を楽しんでいるはずです。

<取材協力>
bowl
佐賀県西松浦郡有田町本町丙1054
0955-25-9170
https://aritasu.jp/
*4月1日11時よりグランドオープン

文:尾島可奈子
写真:菅井俊之

マイルドヤンキーと民芸と。飛騨高山「やわい屋」に地元の若者が通う理由

「さんち必訪の店」。

産地のものや工芸品を扱い、地元に暮らす人が営むその土地の色を感じられるお店のこと。

必訪 (ひっぽう) はさんち編集部の造語です。産地を旅する中で、みなさんにぜひ訪れていただきたいお店をご紹介していきます。

今回訪ねたのは、飛騨高山の「やわい屋」。民芸の器を中心とした生活道具のお店です。

やわい屋

築150年の古民家でご夫婦が暮らしながら営むお店は、2016年のオープン以来、他府県からもわざわざ人がやってくる人気店となっています。

高山市の中心からは離れた立地ながら、遠方から訪ねてくるお客さんも多いそう
高山市の中心からは離れた立地ながら、遠方から訪ねてくるお客さんも多いそう
ご夫婦で各地を回り、直接買い付けてきた器や道具が並びます
ご夫婦で各地を回り、直接買い付けてきた器や道具が並びます

前回はご主人の朝倉圭一さんに、扱うものの選び方や「やわい屋」というお店の名前に込めた想いを伺いました。

店主の朝倉さん
店主の朝倉さん

実は、このお店で器と対になっている魅力が、2階にあります。

階段

階段を上っていくと‥‥

秘密の書斎のような空間が!

みっちりと本が詰まった書棚
みっちりと本が詰まった書棚
テーブルの奥には‥‥
テーブルの奥には‥‥
こんなスペースも!思わず寝っ転がりたくなります‥‥
こんなスペースも!思わず寝っ転がりたくなります‥‥

お店の説明の代わりに、古本屋?

「1階のお店を始めた翌年にこの屋根裏を改装して、古本屋も始めたんです。

それまではこの町に、個人経営の古本屋さんって一軒もなかったんですよ。

でも、高山は家具産業が盛んで、若い人たちの移住も多い。彼らの知的な好奇心を満たせる場所が必要だろうと思って始めました」

本棚

「この町に、こういう本を読む人が増えたらいいな、そう思うものを選書して持ってきています。

そうすると、僕らがここでやりたいことが視覚化されて、言わなくても伝わるんじゃないかなと思ったんです」

一冊一冊に、奥さんの一言メモが挟んであります
一冊一冊に、奥さんの一言メモが挟んであります
いつ来ても発見があるように、本の入れ替えや配置換えもこまめにやっているそう
いつ来ても発見があるように、本の入れ替えや配置換えもこまめにやっているそう

高山生まれ、高山育ち。

27歳までサラリーマンをしていたという朝倉さんが、ここでやりたかったこととは一体何なのでしょう?

「僕はもともと、地元愛のないマイルドヤンキーだったんです」

マ、マイルドヤンキー?

地方都市や郊外に多い地元志向型の若者の姿として、数年前に流行語にもなりました。

一般的なイメージでは、身近な仲間や家族を大切にし、行動範囲は広くなく、週末は郊外のショッピングセンターなどで買い物を楽しむ。何より地元愛が強い。

それなのに、「地元愛のないマイルドヤンキー」が、なぜ土地に根ざした民芸店を開くことに?

10年後、彼らと同じ場所にいるために。

「お店を始めようと思ったのは、2011年。結婚した直後に震災がありました。

高山市内の飲食店で働いていたんですが、震災がきっかけで一生続けられる仕事って何だろうと考えるようになって。

同級生の半分はだいたい自営業の息子です。僕はそのとき27歳で、飲み会があれば『やりたいことがあったけど、そろそろ実家を継がなきゃいけない』みたいな話を彼らから聞くんですね。

うちはサラリーマンの家庭で何も継ぐものがない。何でもできるのにやりたいことをやらずにとりあえず仕事をしているというのは、こいつらに失礼だと思ったんです。

このままサラリーマンを続けていたら、10年後、20年後に彼らが居る場所と、僕の居る場所はずいぶん変わる。たぶん、ゆくゆく彼らと話せなくなってくる。

それはあまりにもさみしいし、もったいないなと思って。

じゃあ、僕も自分で何かを商う道に進もうと思いました」

ヒントは当たり前の風景の中に

ものを商う。では何を扱おうか。

ヒントを求めて、有名なセレクトショップや雑貨店をあちこち見て回ったそうです。

「それでわかったのは、都会のお店と同じやり方ではこの町で必要とされないだろう、ということでした」

真冬には人の背丈ほど雪が積もる飛騨の町。都会とは人の流れも暮らし方も違います。

雪の日の様子。150センチほどの積雪になる時も
雪の日の様子。150センチほどの積雪になる時も

やるなら、ここでやる意味のあるお店にしなければ。でも何を、が見つからない。

「自分が何が好きで、何をいいと思うのか、その時は説明もできませんでした」

買い物はもっぱら他県のショッピングセンター。「地元には何もない」と本気で思っていたそうです。

答えを悶々と探す中で、「民芸」に出会いました。

「もともと人類学とか人の生活文化に興味があったので、思想としては知っていたんです。

でも、実際に各地で作られている手仕事の道具‥‥と考えた時に、『この町こそ、そういうものづくりの産地じゃないか!』って、やっと気が付いたんです」

良質な木材に恵まれ、古くから春慶塗や木版、家具などのものづくりが育まれてきた飛騨高山。

黄色が美しい飛騨を代表する伝統工芸、飛騨春慶塗
黄色が美しい飛騨を代表する伝統工芸、飛騨春慶塗
憧れの家具メーカーとしても人気の高い飛騨産業の家具
憧れの家具メーカーとしても人気の高い飛騨産業の家具
真工藝 木版手染めぬいぐるみ
木版文化を活かした真工藝のぬいぐるみも人気です

「子どもの頃から当たり前にあるから、木材がたくさん積んである風景とか、普通なんですね。自分たちにとってはかくれんぼをする場所であって」

例えば木を積んだ大きなトラックが次々に走っていく姿も、朝倉さんたちにとっては昔からの日常風景。

「そうした、土地に根ざした生活道具なら、このものづくりの町のお店に置くのにふさわしいかもしれない」

3年間嫌いにならなかったら一生の仕事にしようと決めて、「民芸」をキーワードに全国のお店や産地をまわったそうです。

それからは、土地土地の民芸品を自身の暮らしの中に持ち帰る日々。

ある日、変化が起こりました。

ボディーブローのような変化

「物ってやっぱり、すごいですよね。

僕ら夫婦は、当時はアパートに住んでいました。

いたって普通の賃貸住まいで、使っているテーブルセットもよくある量販型のもの。

各地から買って帰ってきた器を、その木目調のテーブルに置いたんですね。

そうしたら、急に今まで全く気づかなかったテーブルの傷が、目に付いたんです。きったないなぁって。それまでぜんぜん気にしなかったのに。

逆に、器ひとつテーブルに置いたことで『箸置きがあるといいな』とか、次は『花があるといいな』と思うようになって。

そういう小さい変化が、じわじわボディーブローのように効いてきたんです。

木目調じゃなく、本当に木で作られているテーブルが欲しいと、思うようになりました」

朝倉さんの中で、自分の好きなもの、いいと思うものがクリアになった瞬間でした。

いいと思う暮らしを、自分ごと化する

「民芸の器に触れたことで、改めてものづくり産地である飛騨を築いてきた先人に、敬意を感じるようにもなりました。

この土地には素晴らしいものがあると、やっと自分ごととして言えるようになったんです」

朝倉さんの「自分ごと」化は徹底しています。

飛騨に昔からある古民家を店舗兼住まいに決めたのも、不便さとも向き合いながら飛騨の暮らしを実践するため。暮らしと地続きのものの豊かさを、お客さんに感じてもらうためでした。

「このお店には、この町に暮らす人が子や孫の代まで使い続けたいと思ってもらえるようなものを置いています」

地元のガラス作家、安土草多 (あづち・そうた) さんのランプシェード
地元のガラス作家、安土草多 (あづち・そうた) さんのランプシェード
長崎のスリップウェア作家、小島鉄平さんの器
長崎のスリップウェア作家、小島鉄平さんの器

「それを、同級生や地元に暮らす20代、30代の世代が家族や友人への贈り物にと、買いに立ち寄ってくれるんです。

マイルドヤンキーなんて言葉をわざわざ持ち出さなくても、家族や仲間をとても大切にします。それは同級生と飲み会をした27歳のあの時から、僕も変わっていません。

ここで買われていった道具がいつか土地の栄養になって、この町の次の文化を作るかもしれない。

もしかしたらその使い手の中から、次に産地を支える作り手だって、出てくるかもしれません。

1か月で1000点売れたとしたら、1年で12000点、10年で1億点です。

そんな膨大な数がここで暮らす人たちの生活に入っていくんだと思ったら、これはすごくいい仕事だなと思ったんですよね」

やわい屋店主、朝倉圭一さん。

その肩書きはあくまで道具店と古本屋のオーナーですが、朝倉さんはものや本を通して、5年10年先、家族や友人たちと過ごす飛騨高山の暮らしを、自らの手で作ろうとしているようです。

<取材協力>
やわい屋
岐阜県高山市国府町宇津江1372-2
0577-77-9574
https://yawaiya.amebaownd.com/

文:尾島可奈子
写真:今井駿介、岩本恵美、尾島可奈子

各地の「さんち必訪の店」

遠足の前日のような楽しさを毎日に。飛騨高山の道具店「やわい屋」

「さんち必訪の店」。

産地のものや工芸品を扱い、地元に暮らす人が営むその土地の色を感じられるお店のこと。

必訪 (ひっぽう) はさんち編集部の造語です。産地を旅する中で、みなさんにぜひ訪れていただきたいお店をご紹介していきます。

今回は、飛騨高山へ。

「高山に行くなら、すごく素敵なお店があるから行ってごらん」

そう人から聞いてワクワクしながら訪ねたお店は、目の前に田畑の広がる、最寄りの駅からもかなり離れた場所にポツンとありました。

やわいや外観

名前を、「やわい屋」さん。

入り口の看板

築150年の古民家を移築したという店内は、入った瞬間から居心地の良さを感じます。

店内

柔らかなオレンジの明かりは、飛騨のガラス作家、安土草多 (あづち・そうた) さんのもの。

安土さんのランプ

以前取材した飛騨に古くからある民具、有道杓子の姿もありました。

右が有道杓子
右が有道杓子

土地のものを扱うお店かと思いきや、長崎や京都、瀬戸など、置かれているのは飛騨のものに限りません。

店内の器

「商店街の魚屋さんと考え方は一緒なんですよ。この町で暮らす人に必要なものを置くようにしているんです」

魚屋さん?意外な言葉で、店主の朝倉圭一さんが迎えてくれました。

扱うのは、「通える範囲」の民芸

やわい屋さんは、2016年にオープンした生活道具のお店。扱うものの多くが、7人の作家さんを中心とした民藝の器です。

「あまり遠くのものは扱わないようにしているんです。

できれば直接作り手のところに自分で行って、話をして、ものを選びたい。

極力は窯出しとかに伺ってその場で選んでこようと思うと、距離が近いほうがやりやすいんですよね」

どうしても遠方へ直接買い付けに行きたい時は、年に一度、1月と2月を待ちます。

寒くなれば人の背丈ほど雪が積もる飛騨の冬。週末だけお店を開け、平日にはご夫婦揃ってあちこちを時間をかけて回るそうです。

雪の日の様子。真冬には150センチほどの積雪になる時も
雪の日の様子。真冬には150センチほどの積雪になる時も

目指すのは、町の魚屋さん

店内に並ぶ器は東は静岡から、西は沖縄まで。どうやって選んでいるのでしょう。

店内

「ここは、ハレとケでいえばケの部分に寄り添うお店でありたいと思っています。

要るものがあるから顔を出したり、用がなくてもぶらっと来て『元気?』というような。

だから作家さんのものも、個展より常設ベースで扱う。いつきても取り扱いの作家さんの器をある程度まとめて見てもらえるよう、心がけています」

店内

「当たり前にあるものが良いものというのが、理想ですね。

例えば町の魚屋さんや酒屋さん、八百屋さんみたいに生鮮食品を扱っている『地元のいいお店』って、何の説明も要らずにいいじゃないですか。

何気なく手に取るものでも旬を押さえていてハズレがない。だから『あの親父さんが選んできたものならいい』となる。

そういう鮮度と信用を大切にしたいから、町の魚屋さんみたいなお店を目指しているんですよ」

ものの鮮度の保ち方

置くものはあまり変えない代わりに、ものの配置はふた月にいっぺんはガラッと入れ替えるそう。

店主の朝倉さん
店主の朝倉さん

「ネットやアプリでものを買える時代でも、実際に手にとってものを選ぶ喜びは他に変えがたいと思います。

だから旬のものは店頭に、季節を感じる色合いのものは日の当たるところに置いたり」

店内

「そうすると、商品のラインナップ自体は何も変わっていないのに、新商品が入りましたねって言われるんですよ。

お客様が季節ごとにものとの出会いを楽しめるように、場所替えをよくすることで、ものの鮮度を保ってあげるんです」

衣食住一体の場所からの発信

「あとは、変えてみて自分たちがしっくりくるかどうか、かな」

店舗の奥は居住スペースになっています。お店は、朝倉さんご夫妻の生活空間の一部でもあるわけです。

「ここでの暮らしには、雪解けや田畑の支度、祭りといったハレとケの区別が明確にあります。

僕らにとっては当たり前の生活のリズムでも、今では珍しい景色になってきている。

だから都会と同じものを扱うのではなく、自分たちが実際にここで暮らしながら、琴線に触れたものだけを扱うようにしています。

衣食住が一体化された場所で、日々の暮らしから地続きで提案されるものって、かなりインパクトがあるみたいで。

実際、今はお客さんの8割が他府県からの方なんです」

この「日常」に寄り添う気持ち、実はお店の名前にしっかりと込められていました。

結果は突然来ない。だから遠足の前の日みたいに楽しく「やわう」

入り口の看板

「『やわい』というのは飛騨の方言で、『準備する、支度をする』という意味なんです。

『祭りのやわいをする』とか、お母さんが子どもに朝、『早く服着なさい!なんでちゃんとやわっとらんの!』みたいな。

毎日、準備なんですよね。お洗濯も、料理も。

そのやわいが楽しくないと、出来た結果や手に入れたものも、楽しくないんじゃないかなと思って。

遠足なんかは準備のほうが本体よりも楽しい例かもしれません (笑)

行った記憶はあまりないんだけど、あの、おやつを真剣に買っているときが、前日わくわくして寝れなかったときが興奮のピーク。

もしかしたら、人生はそういう、名もない日常の支度が主役なんじゃないかと思ったんです。

無形のやわいの中に、喜びとか、悲しみとか、人のいろんな大事なことが詰まっている。

例えばお惣菜を作る時間や、服の糸を紡ぐ時間、焼き物の土をこねる時間。

僕らものの『配り手』は、そこを伝えないといけないなと思うんですよね。

1枚のお皿を作るためにどれだけの時間がかかるか。木材を引くのにどれだけの手間がかかるのか」

安土草多さんのガラスシェード作りの様子
安土草多さんのガラスシェード作りの様子
飛騨の民具、有道杓子の材を削っている様子
飛騨の民具、有道杓子の材を削っている様子

「作り手がかけた時間や手間の分、ものに宿る『気配』や『余韻』があると思うんです。

手にとった時に暖かい気配を感じて、日々使い込むほどに余韻を感じられるようなものを届けたい。

そんな想いを、やわいという言葉の中に、込めました」

意味のないポップ?

たずねるほどに、たくさんのことを教えてくれる朝倉さん。

けれど普段は、あえてお客さんにあまり説明をしないそうです。商品説明を担うはずのポップも、いたって控えめ。

黒い紙に白鉛筆で書かれています
黒い紙に白鉛筆で書かれています

「ポップは、ほとんど置いてないですね。それによく見ると、意味のないことしか書いてないですよ」

一体どういうことなのでしょう。

言葉を尽くす代わりに

「今話したようなことは、来た方にこうやってわーっと話せば、伝わるかもしれません。けれど本当は、言葉を尽くさないものだと思うんです。ものづくりも。

例えばとてもきれいな景色に出会ったとして、僕らの仕事はその景色が見える場所に手をとって連れて行くところまで。

いかに美しいかを言葉を尽くして伝えるのでなく、直に触れてもらってどう感じるかは相手に委ねたい。

だから基本的にはあまりしゃべらないようにしているんです」

店内は、そんな朝倉さんの想いを体現するかのように、とても静かです。

店内

けれど不思議と、ピンと張りつめたような緊張感のある静けさではありません。

外の雑音も、さっきまで頭の中にあった余分な考えもすぅっと吸い込んで消えてしまうような、穏やかな静寂。

自分が気に入った器を手に取る時の、コツン、コトンという音だけが体に響きます。

「だから話さない代わりに」

と、朝倉さんが階段を指し示しました。2階があるのです。

階段

「ここで僕たちがやりたいことを視覚化できればと思って」始めたという上のフロア。

器たちが置かれた1階とは全く違う空間が広がっていました。

ここがまた、ずっと居たくなるような、季節を変えてまた来たくなるような、心地よい場所なのです。

朝倉さんがこの場所で「やりたかったこと」とは。

次回、2階に上がりながら「やわい屋」さんができるまでの道のりを伺います。

2階の様子

<取材協力>
やわい屋
岐阜県高山市国府町宇津江1372-2
0577-77-9574
https://yawaiya.amebaownd.com/

文:尾島可奈子
写真:今井駿介、尾島可奈子