わたしの一皿 海寒く鯖肥ゆる冬

今年の初雪は先ごろ出かけたアルメニアだった。そんな記憶も新しいまま、先日、九州でも雪に降られました。もうすっかり冬なんだな。みんげい おくむらの奥村です。

冬は好きかと問われれば、苦手です。と曖昧に答えるのが常。嫌いではない。が、体が縮こまる感じがどうにも窮屈だから、好きだとはやっぱり言い切れない。そんな冬ですが、食材は大好きなものばかり。その中でも、というのが今日のお話。鯖 (サバ) 、です。

サバ

年中美味しい魚だけど、冬の真鯖は脂のノリがすばらしい。焼いても、揚げても、煮ても、〆てもやっぱりこの時期のサバが格別おいしい。今日のサバは地元の市場で買ってきた岩手のもの。

市場を歩いていると季節の変化を敏感に感じるのだけれど、サバが太ると冬が近づいてきた、という感じがする。今日のものは1キロもので、見るからに丸々と太って、パンッパン。冬をこれで乗り越えるぞ、というエネルギーが伝わってくるよう。

買ってきたサバは鮮度が落ちやすいので早々に調理。まずは頭を落とす。断面から伝わってくる脂感。この時点で何をしてもおいしいのは確定。

サバの断面図

今日はシメサバにするので三枚おろしに。サバは身が割れやすいのでここは注意しつつ、すばやく。うまく出来たらざるにとって、塩をたっぷり両面に振る。しばらく置いて、いらない水分を抜く。

洗って、きれいに拭いたら酢に浸す。シメサバは文字にすればとても簡単だが、塩をして置いておく時間。酢に浸して置いておく時間がそれぞれこだわりのポイント。

サバの下ごしらえ

ここらでうつわの話。民藝と呼ばれるものを扱うお店ながら、実はこの連載 (もう12回目!) で取り上げてこなかった産地がある。山陰だ。島根県と鳥取県には焼き物を中心に、民藝と呼ばれるものが数多くある。

調べてみると、島根・鳥取ともサバの消費量が多い県らしい。日本海側は美味しいサバが獲れますからね。ということで今回はそんな角度から山陰のうつわ。

この「さんち」でも特集が組まれた島根県の「出西窯 (しゅっさいがま) 」のもので、白。同じ形で、今の出西窯の代名詞とも言える青も持っているのだけど、なぜだかこの白をよく使う。

今日も青魚の代表格のサバだけに青か悩んだのだが、最後に手に取ったのは白だった。前回同様、これもフラットなお皿。

 

今日はサバを酢で〆たのは、20分ほど。骨を取り除き、皮をはいで、いよいよ切って盛り付ける。切り方は色々あるが、最近はこの寿司ネタのような感じが個人的には好きだ。皿の手前、身の細くなっているのは腹側。ピンクというか、脂のおかげでかなり白みがかっている。こりゃ見ただけでうまいのがわかりますよ。

民藝と呼ばれる窯元のうつわの白は、どこかやさしいぬくもりがある。白自体が、黄色味がかったような、ベージュのような色が多い。柔らかく、自然な風合いだからシンプルな素材がよく似合うのだと常々思う。食器の白も色々見比べてみると違いがあるもんです。

意外だが、出西窯は歴史が長くない。しかし今や山陰の代表のようなものと言っても過言ではないだろう。民藝というのは歴史の長さではない。現代、自分で窯を始めた人たちも、未来に民藝と呼ばれるものになる可能性は大いにある。そして僕はそんな出会いを常に求めてあちこちを歩き回っています。

気づけば連載を始めて12回。12通りのうつわと料理の組み合わせは毎回なかなか楽しい時間だった。この連載は2年目、少し変化すると思いますが、どうぞ引き続き楽しんで頂ければ、これ幸い。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文:奥村 忍
写真:山根 衣理

わたしの一皿 血湧き肉躍る

物申したいことがたくさんある。政治や環境、経済‥‥、いろいろありますけれどもね、今日はもっと小さなテーブルの上の話。みんげい おくむらの奥村です。

肉より魚派の私ですが、たまにはガツンと肉を食べたくなる。そんな時は簡単で、ズドンと肉を食べられるステーキを焼く。

 

物申したいのは、このステーキなのです。先に言っておこう。肉には罪はない。A5の和牛だろうと、赤身だろうと、オージー、US‥‥なんだろうと、どうぞお好みで。今日は宮城県の牛肉の「ザブトン」。

牛肉のザブトン

ちょっと奮発した。赤身と脂身がずいぶん美しいじゃないですか。赤身が好きなので脂はこれだけあればもう充分。

さてステーキの何に物申したいのかと言えば、それはもう圧倒的に「付け合わせ」。こんなことにムキになるのと言われそうだが、そりゃムキにもなる。どこへ行っても、何も考えずにんじん、じゃがいも、それにクレソン (もしくはインゲンか謎のパセリ) 、だ。

そこに季節はあるのかい。それが本当においしいのかい。じゃがいもやにんじんは今やスーパーに行けば365日買えない日はない。飲食店もそりゃ楽だろう。クレソンも最近じゃスーパーにも置いているが、これがなかなかお高いし、正直なところ味もさほど。

家でステーキを食べるなら、この妙な呪縛から解放されるべきでしょう。付け合わせなんて、季節の野菜で十分だ。ということで今日はシェフ奥村 (自称) が、3種の野菜を用意しました。

山形の温海かぶは甘酢漬けに。野菜の甘酢漬けは常備菜。何らかいつもあると便利。このかぶは色がきれいですね。よい口直し。今日は脂もしっかりした肉なので、大根おろしもほしいところ。冬に向かって大根がどんどんおいしくなる。これは地元千葉の大根です。

もう一種、の前に肉を焼く。主役の肉は常温に戻して、しっかり熱したフライパンで外をガリっと。

ホイルで包んで休ませて、好みの厚みに切るだけ。この見た目、もはやタタキ。実にニクニクしい。

牛肉を切っているところ

最後に、高知の甘長とうがらしは肉を焼いたあとの脂で炒めて、醤油でしっかりと味付け。肉は薄めの塩胡椒のみなので、一緒に食べれば醤油の香りが効いてきます。

付け合わせ、かぶと甘長とうがらしは実は見切り品だったのですよ。肉で贅沢。ここで節約。ふふふふふ。

肉も付け合わせもバチっと決まったらうつわ選び。意外とこれが悩ましい。洋食器はだいたいフラットなんですが、うちで取り扱う皿のほとんどはフラットではなく、深さがある。

これは登り窯で焼かれるうつわが多いからで、多くの産地のうつわが、平らだと土の質として、焼成の時にへたってしまって変形してしまう。なのでフチが上がった、少し深さのある皿が多い。せっかくステーキなので、今日は熊本のまゆみ窯にお願いしている平らなお皿を使いました。

牛肉と3種の野菜の付け合わせ

洋風な食材が増えたり、「ワンプレートで」なんてご飯のあり方から、こういったお皿の要望は多い。この皿は、パンの時にもよく使うし、おにぎりとおかず、なんて時にもかなり使い勝手がいい。

日本のうつわの風合いを持ちながら、現代的な生活に合うこんなうつわ。よいもんです。まゆみ窯は、窯元の真弓さんご夫妻が、熊本伝統の小代焼 (しょうだいやき) の窯元ふもと窯に学び、独立した。

民窯に習った確かな技術と、今の暮らしに添った形取りのバランスがよく、うつわ選びのスタートに実はとてもおすすめしたい窯元。

肉よりもうつわよりも付け合わせに熱くなった今回の話。せっかく熊本のうつわだから、熊本の牛肉があれば。と思ったけどうちの近くの肉屋で熊本の「あか牛」売ってるのは見たことがない。

熊本で以前いただいて、ほっぺた落としてきた肉なので、熊本に行かれる用事のある方はぜひ「あか牛」もお試しください。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
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みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文:奥村 忍
写真:山根 衣理

わたしの一皿 実りの秋に実らぬ土地もある

心がおどる食材がある。世の中にあまたあるんだけど、これはもう見た目そのものからおどっているようだからすごいと思う。秋の大定番、「栗」です。

いがぐりに囲まれたあの姿を想像するだけで、なんか気分が上がる。楽しくなる。まだ若い緑色の時も良いし、茶色になって落っこちて割れても良い。割れて出て来てもこれまたかわいらしい。

栗の実のあの形、パーフェクトでしょう。天地が創造した究極の形と言ってもよいのでは。可愛らしさ以外何もない。なんなんでしょうね。

興奮しすぎましたね、みんげい おくむらの奥村です。どうぞ今月も最後までお付き合いください。こどもの頃から、栗が落ちてたらワクワクしたもんだなぁ。さわったり、踏んづけたり、とにかく放っておけないやつ。わかるでしょう。

栗の時期になると、ここのところ思い出す話。沖縄で、ある陶工と話をしていて、ふと「内地 (本州) で栗を見たときにさ、感動したんだよね」と言われたことがある。

そう、沖縄ではあたたかすぎて、ふつう栗は実をつけないのだ。なんとまあ。我らが日本、面積は広くはないけど、文化は実に広いですね。僕は沖縄で栗が実らないのは知らなかった。秋になればそこらに栗が落ちている、という僕の常識は沖縄では常識ではない。

そんなわけで、今日はあえて沖縄のうつわを使おうと決めた。栗を思う時、どうしてもこの話が忘れられないから。

料理は定番の栗ごはん。ここのところはよく外に出かけていて、北関東、東北、九州、どこに行ってもまるまるした栗を見かけた。本当にうれしい季節。栗やイモやかぼちゃや、ほくほくする食材の時期になってきました。

栗ごはんは、いつものように土鍋炊き。栗、米、塩、酒。以上。今日は遊び心で塩も沖縄、八重山のもの。この塩がするどい塩気とたっぷりなミネラル感。栗ごはんの風味が増すのです。

土鍋だから、少しコゲをつけて炊き上げる。コゲのついたごはんを炊き上がりに混ぜると、コゲで色が少し茶色っぽくなってしまうけど、それはそれでよいと思っている。炊き上がりの色がにごらない方がよいと思う方はコゲを作らないように。

沖縄のやきものの工房にいくと、こうやって大きめのお皿におにぎりやおやつがドンと盛られて出てくることがあって、その景色がとても気に入っている。

栗ごはんは冷めても美味しいから、今日はおにぎりに。こんなのもよいでしょう。沖縄の中部、恩納村の照屋窯のうつわを用意しました。いわゆる「やちむん」だ。

沖縄の方言でやきもののことをやちむんと呼ぶ。沖縄らしい唐草の模様なのだけど、青がおだやかで、どんな料理にもなじみがよく、とても気に入っている。

ところでこの沖縄のお皿、深さがあってなかなか独特な形だと思いませんか。見慣れぬ人なら、鉢のように見えなくもない。沖縄では登り窯でたくさんのうつわを焼くためにたくさんの工夫がある。そのうちの一つがこの独特の形。

窯を焚く際に、もし真っ平らなものを焼いたら、平らどころかフチが下がってしまう。だからフチをあらかじめ高くして、熱でへたらないように。ということ。

そうそう、一つ告白しよう。今年はある写真家さんとフルーツパーラーで打ち合わせを重ねていて、先日は新宿の某フルーツパーラーを訪ねた。

そこで迷ったんだけど栗のパフェではなく、いちぢくに浮気をしてしまった。もちろん美味しかったのだけど、隣席の人の栗のパフェがやっぱり美味しそうだった。ああ、この秋もう一度あそこを訪ねようか。

しかし男一人では少し心もとない。誰か、打ち合わせでも入れてくれませんか?

奥村 忍 おくむら しのぶ
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文:奥村 忍
写真:山根 衣理

わたしの一皿 道南の海を描く

食べ放題の北海道を旅してきました。みんげい おくむらの奥村です。9月上旬。まだすばらしい緑色の大地。あと一ヶ月もすれば紅葉の景色が楽しめるでしょうか。食欲が止まらない季節の入り口に、美味しい空気。

あまりイメージがないかもしれないけど、北海道にも焼き物ってあるんです。ここでいう焼き物は食べ物じゃない、うつわのこと。冬が寒い北海道は土が凍ってしまうので、焼き物をするのは簡単ではない。しかし、江戸末期から明治にかけて北海道でも焼き物の文化が生まれ、今やたくさんの作り手がいます。

廃校が工房に。景色の中で産まれるうつわ。

その一つが今回のうつわを作っている、ソロソロ窯。窯主の臼田さんは東京に生まれ、焼き物を沖縄に学び、奥様のご縁で10年ほど前に北海道の南部、厚沢部町 (あっさぶちょう) に窯を築きました。

窯へは函館の中心部から車でのんびり1時間半ほど。函館の町を抜けるとどんどん山の風景が広がってきます。北海道らしい深い森や、広大な畑、黄金色の田んぼ。ワクワクする風景。

ソロソロ窯は集落の廃校を工房にしています。学校と言っても、もともと大人数がいたような学校ではなく、小中学校が一緒になった、平屋のこじんまりとしたもの。元職員室だという、ろくろ場、その窓から広がる景色のすばらしさ。

校庭だった場所には薪窯や薪置き場、敷地の外にはかぼちゃやそばの畑。奥には山。こんな景色を眺めながらする仕事はどんなものだろうか、とうらやましすぎてクラクラする。四季折々の景色をできれば眺めてみたいもの。ここらへんでは、窯を焚いても煙を誰も気にしないんだそう。みんな薪ストーブの生活だから、薪や煙はあたりまえの景色。なんとも北海道らしい話です。

こちらの焼き物はとてもシンプルで、おだやかな印象。鉄分の多い、黒っぽい土の上にベースの白、あるいは呉須 (ごす) という藍のような青。薪の窯で焼くと灰がかぶったり、窯の中で置かれていた位置によって火のあたり方が違ったりで、ベースはシンプルなのにそれぞれにおだやかな個性が加わります。

さて、今日はうつわと食材がご近所さん。ソロソロ窯から東に海を目指す一本道のゴールは木彫りの熊で有名な八雲町の1つの集落である落部 (おとしべ) 。ここは噴火湾に面していて、ボタンエビ漁の盛んな港町。ボタンエビのシーズンは春と秋。今は秋漁が始まったばかり。

バットにいっぱいのボタンエビ

今日のボタンエビはの特におおぶりで、水揚げから数時間のうちに送ってもらい (到着はさすがに翌日だけど) 、新鮮なうちに刺身に。この時期のメスはふっくらした体。そしてお腹にパンパンに卵をもっているので、それもしっかりいただきます (あ、ボタンエビの頭は忘れずにお味噌汁に。ダシ、最高ですから) 。

ボタンエビを処理しているところ

写真じゃ伝わりにくいけど、うつわは呉須の深い青がうつくしい鉢。ボタンエビの卵のあざやかな青ときれいなグラデーション。ぷりっぷりのエビの身にカボスを少々しぼって。あとは塩か醤油か、お好みで。

身の甘み、卵から感じるかすかな塩気。口に含めば思わず笑ってしまう。うはははは。月並みな言い方かもしれないけど、目を閉じればボタンエビの漁場である噴火湾の景色が広がります。北海道、おそるべしだな。

奥村 忍 おくむら しのぶ
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わたしの一皿 旅を盛り付ける

酷暑の台湾、台北に行ってきました。みんげい おくむらの奥村です。
南国台北の夏は色とりどりのフルーツや、緑の濃い野菜の季節。おいしいものをしこたま食べて台北から帰っても、まだ台湾気分が続いているので今日はそんな料理を。

日本は世界中の食材が手に入るし、それを盛り付けるうつわもこれまた世界中のものが手に入る。ということで、今日は台湾気分を、これまた日本のうつわだけど異国感のあるうつわに盛り付ける、という試みを。

ところで、僕らが子どものころと今と、八百屋やスーパーに並ぶ野菜の種類が全然ちがいませんか?どれだけ種類がふえるんだろう、と思うぐらい野菜はふえた気がする。今の小学生に知っている野菜の名前を言わせたらきっとシャレた野菜の名前が出てくるんだろうなぁ。

今日の素材は「空芯菜 (くうしんさい) 」。これも夏の野菜。アジア各国を夏に訪れると、まず食べたい食材の1つ。この野菜も僕が子供の頃は日常ではなかったのに、いつのまにか毎年夏には手に入りやすくなりました。とにかく食感が気持ちよく、定番の炒め物もよいし、おひたしやスープにもよい万能の食材です。

空芯菜

うつわは、栃木県の益子で作陶される伊藤丈浩 (いとう・たけひろ) さんのスリップウェアのうつわ。スリップウェアというのはヨーロッパなどで古くから見られるもので、泥漿(でいしょう)でうつわに装飾をするものです。日本に伝わり、今やすっかり日本の焼き物に根付いたと言ってもよいかもしれません。細かに描かれるもの、大胆に描かれるもの、動物など具体的な意匠をもつもの、と様々ですが、個人的にはこんな大胆でシンプルなものが好きです。

伊藤丈浩さんの器2皿

一見、日本のうつわという感じはしないなぁと思うものの、和食にもよく合うし、今日みたいな料理にもよい。こんな風に料理とうつわの組み合わせを楽しむのが日本人らしい食の楽しみかな、と思ったり。

余談ですが、益子には益子参考館という美術館があります。民藝運動で知られる濱田庄司の自邸・工房を使い、彼の生前の蒐集などを展示しています。益子に行くと必ず立ち寄るのですが、日本と世界の民藝が場所や時代を超えて集められ、調和している様は見事。益子に行ったらぜひ立ち寄ってみてほしい場所です。

さてと料理は、空芯菜の腐乳炒め。台湾や中国で一般的に使われる腐乳(沖縄の豆腐ようみたいなもの)。よく中国では朝食のおかゆのお供なんかに出てくるあれです。発酵調味料らしい、奥行きのある味わいはミルキーでコクがあり、ちょっと大人の味。肉なんか入れなくてもご飯は進むし、ビールにもワインにもよい。くせになるんですよ、これ。

空芯菜は軽く洗ってざく切りに。油を引き、きざんだニンニクを入れ、空芯菜を茎、葉の順で炒めます。今日の腐乳はもともと辛味のついたもの。辛味がない場合は赤唐辛子も入れるとよいでしょう。空芯菜がしんなりしてきたころに、腐乳を少しお酒で伸ばしたものを入れます。腐乳に塩気がありますが、もし塩気が足りなければ塩を足す。ささっと炒めて腐乳が全体にからんだらおしまい。空芯菜は火が通りやすいので、本当にパパッとできちゃう簡単料理。このうつわとの相性もすこぶるよい。

調理の様子

アツアツを食べながら、ぼんやり思った。空芯菜ってストローみたいな野菜。昔、ちくわでストロー遊びをした日本人としては、台湾や中国、アジア各国の子供が空芯菜でストロー遊びをするのかも気になるところ。はたしてどうなんでしょうね。

奥村 忍 おくむら しのぶ
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わたしの一皿 キリッとしないガラス

きゅうり、空芯菜、ししとう、モロヘイヤ、ズッキーニ、おかひじき、オクラ‥‥。テーブルは緑の野菜の乱打戦。夏がやってきましたね。もう10日以上の真夏日が続いています。梅雨、まだ明けてないはずなんだけどな。クーラー付け過ぎで電気代がひたすら気になる、みんげい おくむらの奥村です。

今日は「オクラ」。夏野菜の四番打者といってもよいかもしれません。世界中で愛される野菜。生でもよし、ゆでてよし、煮込んでもよし。暑い日はとにかく料理もめんどくさい。出来ればささっと作れて、夏バテにならないような栄養のとれるものを食べたい。それならこのネバネバ野菜はぴったりの素材。

あついあつい日、使いたいのはやっぱりガラスのうつわ。前にも琉球ガラスを紹介したけれど、今回は福岡、旧小石原村 (きゅうこいしわらむら・現東峰村) で再生ガラスのうつわを作る太田潤手吹きガラス工房。

小石原 (こいしわら) は焼き物の産地。太田潤さんは小石原焼の家系に生まれた次男坊。長男が焼き物の道に入り、彼自身はガラスの道に入りました。修行は沖縄ですが、今は郷里で、あこがれる倉敷ガラスの小谷真三さんのように1人きりで 再生ガラスのうつわを作っています。

ガラスは焼きものとちがい、短時間の勝負。炉の中からガラス原料を取り出し、一気に成形していく。数人の工房なら分業で行程ごとにぽんぽんと作業が受け渡されていきますが、1人だとそうはいきません。全ての段取りが自分の両手の届く範囲にあり、狭い中でリズミカルに動き回り、1つの形を生み出します。

太田潤さんのガラスの良さは、キリっとしていないところ。していないところって何だよ、とは言わないで。同じコップを10並べると、10の表情がある。工業製品ならこれはダメでしょう。手の仕事でも同じコップなら、出来るだけ同じサイズ、形は当然意識して作られています。しかし、彼のものには10の表情がある。いや、15くらいあるかもしれない。なんだかほめているのかわからないようですが、ほめています。

今回使ったうつわもフチにゆがみがあるもの。作家もののわざとくずした形にしたものって、そのいやらしさが伝わってきて好みではない。でも、こう作りたいというのがあって、そこに辿り着いているのか辿り着いていないんだかわからない、そんな着地点のこのうつわのゆがみには愛らしさがあります。名誉のために言っておきますが、ヘタということではないんですよ。

ゼロから完成までが全て1人の手。原料として不安定な再生ガラスを、体調や心もちも一定しないふつうの人が吹く。そんなうつわなので、どこか仲の良い友人のような親しみがあります。

さて、オクラは板ずりで下ごしらえをして、さっとゆでる。クッタリしたら台無し。生でも食べられる野菜なので食感がきちっと残るようゆでたいところ。ゆで上げて冷水にとってオクラがおちついたところで、いそいで梅をたたき、調味料と合わせる。オクラをささっと切って和えるだけ。オクラの梅肉和えの完成。この料理は時間が経つと色が悪くなるので作りたてを食べたいもの。

この時期、明るい時間はガラスのうつわが光を通してより表情豊かになります。ひとときの涼をテーブルに。

最後に、小石原を含む東峰村やその周辺のこと。7月上旬の豪雨で甚大な被害に見舞われています。特に、高速の杷木 (はき) を降りてから小石原に向かう、のどかな山間のエリアが被害が大きかったようです。買い付けにむかう時にいつも季節季節を感じさせてくれる日本の里山の風景がありました。一刻も早くおだやかな暮らしが戻ってきますように。

奥村 忍 おくむら しのぶ
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お酒と音楽と本が大好物。

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文:奥村 忍
写真:山根 衣理