わたしの一皿 夏の南蛮。沖縄の南蛮。

夏は南蛮だ。バテ気味の夏には酢の効いた南蛮漬けがたまらない。

そりゃごもっともだ、と同意してくれる方も多いんじゃないかと思うけど今日はその南蛮の話ではない。さて、みんげい おくむらの奥村です。

みんげいおくむらの奥村さんが使う食材、アスパラガス

北海道に行った写真家の友人からその日の朝に採ったというアスパラガスをもらった。すぐに焼いて味見をしたのだけど、ふだん買うものよりも柔らかで、皮が弾けそうなぐらいの水分に、おったまげた。

聞けば採ったその日なら生でかじってもよいそうな。なんともぜいたくなことですね。

せっかく旅をしてきたアスパラガス。ここならではの料理にしてあげたい。

僕が住む千葉は、九十九里のハマグリがちょうどシーズン。大きなものはシンプルに網で焼いてもおいしいし、あさり大の小さなものはパスタなんかに使いやすい。小さくても旨味がギュッと詰まっているのが九十九里のハマグリ。

みんげいおくむらの奥村さんが使う食材、ハマグリを洗うシーン

ハマグリは軽く砂抜きしたら、貝どうしをこすり合わせて洗う。つるっつるで丸々としたハマグリはとてもかわいらしい。

素材がよいので、つい素材の話に熱が入った。南蛮の話に戻ろう。

今日はうつわが南蛮なのです。南蛮のうつわと言ってもベトナムや中国のものではない。沖縄の南蛮。

南蛮焼は、焼き締めとも言われる釉薬を掛けないうつわのこと。沖縄では酒甕や日常の壷、そして食器が古くから作られてきた。

土の個性や、窯で焼かれた火の風合いがグンと伝わってくるのが南蛮のうつわのおもしろさ。

沖縄本島で南蛮を作っている古村其飯(こむらきはん)さんのうつわを今日は使う。言うまでもないが、古村さんのうつわは沖縄の地元の土からできている。

みんげいおくむらの奥村さんが作る料理

さてと、洗ったハマグリを酒蒸しにする。ハマグリを加熱して、アスパラも入れて、貝が開いたら酒をどばっと。

アスパラは自分から旨味も出すし、ハマグリの海のエキスも吸い込むのでたまらない。

今日はさらに旨味を吸わせるため玄米ならぬ玄麦を入れた。もちろんパスタでもいいんですが。ハマグリから塩気がでるので味付けは最低限の塩だけにとどめること。

みんげいおくむらの奥村さんが作る料理、沖縄の南蛮に盛り付け

出来上がったら汁も残りなくたっぷりと、南蛮の鉢に盛り付ける。

沖縄で作られたうつわだけど、パッと見で沖縄っぽい、という感じがない。それがかえって料理を選ばないからうれしい。

さらに単純に言えば、このうつわは土そのものだから大地のように全ての色を受け止める。合わない料理を考える方が難しい。

このうつわは、土だけで出来ているのに色の変化もあって、素朴なのに品がある。

素朴なのに品があるって、理想的じゃないですか。人間もいっしょ。そんな風になりたいと思うけど、ほど遠い。つくづく残念なことです。

ハマグリをあらかた食べたら、うまみたっぷりの汁を飲もう。南蛮に口をつけて。まだ少しザラっとした土の感触が口にあたる。食事はつくづく、五感で楽しむものなんだな。

土そのものなので、南蛮のうつわは使い始めがザラザラ、ゴツゴツとした風合いがある。今日のものもまだ使い始めなのでそんな感じ。

うつわを洗う際、スポンジで洗うとスポンジが負けてボロボロになってしまう。ではどうするかというと、たわし。たわしでゴシゴシ。

これがおもしろくて、そんな風に手入れしていくと、表面がどんどんツルツルになっていきうつわの風合いが変わっていくのだ。見た目ももちろんだけど、さわった感じまで育つうつわ。そんなのもおもしろいじゃないですか。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文・写真:奥村 忍

*こちらは、2018年6月25日の記事を再編集して公開しました

わたしの一皿 山菜も焼き物もタイミング

春は食いしん坊の季節だとか、苦味が旨いだとか言ったのは去年のこの時期のことでした(わたしの一皿 たまには失敗)。

実は今年はアジアへの買い付けで三月後半から四月末にかけてほぼ日本にいなかった。
つまり、桜が咲くタイミングから山菜が出回るタイミングまで、あっさりと春を逃したのです、ワタクシ。残念。

あ、申し遅れました。みんげい おくむらの奥村です。

そんなわけで、急いであわてて春を取り戻そうと必死なこのところ。

今日の素材は「こごみ」。

この時期、八百屋に行ってあのくるくるしたものが目に飛び込んでくると条件反射のように手にとってしまう。
今回はたまたま、たっぷりの天然物が手に入りまして、これはうれしい。

こごみ

枯葉などがたくさん付いたこごみをじゃぶじゃぶ洗う。

茎の太さも、くるくるの大きさもバラバラで、見ていて、触っていて楽しいのは天然物だからか。

採るタイミングの違いなのか、それとも種類なのか、栽培のものはくるくるがもう少し小さいし、全体的に細い気がする。

手先でくるくるを感じ、ほどほどきれいになったら、食べやすいように長いものは切って、茹でる。

茹で加減は好みにすればよいけれど、新鮮なものは生で食べることができるくらいの山菜なのであんまり茹ですぎてへなへなにならないように気をつける。

茹で上がったこごみ

茹であげて、粗熱をとったら、ごま和えにしていきます。

誰が考えたのかわからないが、ごま和えってのは美しい食べ物ですね。

ごまをすって、食材と和える時の楽しさ、美しさときたら。少しずつ食材にお化粧していく感じとでも言いましょうか。

こごみの胡麻和え

そうそう、こごみはとても使いやすい食材で、和え物も良いし、油との相性も良いので天ぷらに、炒め物に、といろいろに使える。

山菜にしてはアクを感じないものなので、野趣が強すぎるものはちょっと、と言う人も大丈夫かもしれない。

こごみの胡麻和え

こごみの美しく、深い緑を生かしたいと思い、今回はうつわを色から決めた。土っぽい色の飴釉のもの。

宮崎、三名窯(さんみょうがま)のものにした。色気というか、品というか、狙い通りです。実に良いじゃないですか。

ところで、焼き物王国九州にあって、宮崎はちょっと存在感が薄い。伝統の焼き物と呼ばれるものが少なく、知られていないからか。

ここ三名窯もちょっと変わった窯かもしれない。

窯主の松形恭知(まつかたきみとも)さんは、埼玉で教員生活をしながら時間を見つけて作陶をしていた。

話をうかがえば、焼き物への興味は学生時代から百貨店の美術画廊に通って焼き物をみていたほどだと言うので驚くしかない。

教員生活を早めに終え、ゆかりのあった宮崎に築窯。以来、宮崎で作陶を続ける。

伝統の窯ではないが、民藝先人たちの想いや意匠といったものが見て取れるものづくりをしている。

一般的に言って、工芸、特に職人の世界はスタートが早い方がよい。

そのキャリアを通して作れる数が多い方が良いからだ。早いうちにたくさん作って、身体にそれを染み込ませる。

それではスタートが遅くてはダメなのか、と言えばそんなことはない。
好きなものを見て、感じて、身体が動き出したタイミングがスタートでも良いのではないか。

松方さんのうつわはそれを強く感じさせてくれるものだ。

寒い冬を地中で耐え、滋味を蓄えた山菜と同じように、窯を始めるタイミングをじっくりとうかがい、いよいよ表に出て、のびのびとうつわづくりをする三名窯。

食材も、うつわも、つくづく出会いだな、と思うのです。

奥村 忍 おくむら しのぶ
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みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文・写真:奥村 忍

わたしの一皿 瀬戸焼の本業を知る

育つうつわがある。

ものには使い始めが最もよいものと、使うごとによくなっていくものとがある。今回紹介したいのは後者のもの。基本的にうちではそういうものを扱っています。みんげい おくむらの奥村です。

愛知県の瀬戸。「せともの」の瀬戸は名古屋から1時間かからずに行くことができる町。

せとものという名前は誰もがわかるけれども、瀬戸の焼き物ってどんなもの、と言われると答えられない人が多いのではないだろうか。

これは瀬戸の焼き物の歴史のせいかもしれない。時代時代に求められるものを作って変化してきたから、これぞ瀬戸というものが見えにくい。

そんな中、瀬戸の「本業」をうたう窯がある。今回紹介する瀬戸本業窯(せとほんぎょうがま)だ。

300年続く本業の仕事は、現在の瀬戸の焼き物をさかのぼっていくとたどり着く、瀬戸のルーツとも言える。

愛知県の瀬戸本業窯

瀬戸本業窯は七代目水野半次郎さんと八代目後継水野雄介さんが中心となって現在は営まれている。

うかがった日はちょうど雄介さんが迫る窯焚きに向けて釉掛けをしていた。ろくろ成形されたうつわに釉薬が掛けられる。釉薬が一定の厚さになるように、うつわ全体にすばやく、リズムよく。

瀬戸本業窯でつくられた器

ひと段落して、焼きあがっていた馬の目皿を見せてもらう。

ぐるぐると目が回りそうなこのうつわ。それだけを見ると日本のものなのか、はたまた世界のどこかのものなのか、よくわからないが不思議な魅力をもつ。

馬の目皿や石皿と呼ばれる瀬戸の古いものは今でも骨董の世界でとても愛されている。

瀬戸のうつわが使われてよくなっていくのは江戸時代から変わらないこと。この馬の目皿も瀬戸本業窯の代名詞と言えるものの一つだ。

本業の仕事は他にも、黄瀬戸・織部・三彩・麦藁手・染付・刷毛牡丹などとにかく幅が広い。

もともと瀬戸の中でも特徴が分かれていたが、それらを続ける窯がなくなったため、今は瀬戸本業窯が瀬戸の伝統の仕事をまるごと背負っているような状況とも言えるかもしれない。

 

名古屋の米家(まいほーむ)、米重さん

紹介したい人がいる、と雄介さんに言われて名古屋市内で彼にあったのはいつだっただろうか。これからお店を始める人で、きっと僕と同い年くらいじゃないか、と。

それが今日訪ねたお店「米家(まいほーむ)」の米重(よねしげ)君との出会いだ。

米家は瀬戸本業窯のうつわをメインに使い、料理と日本酒を提案するお店。名古屋市の千種区というところにある。

名古屋の米家(まいほーむ)の料理、瀬戸本業窯の器
名古屋の米家(まいほーむ)にある日本酒

素材、調味料、酒、うつわ、とバランスが取れた居酒屋というのはなかなか少ない。カウンター上に並ぶお惣菜はどれも瀬戸本業窯の大鉢に盛られ、その姿を見るだけでも心がはずむ。

酒は自ら蔵元に足を運び仕込みまで手伝う蔵もあるほどで、思い入れのある酒だけを揃える。酒に詳しくない人は料理に合わせておまかせしておけば、まず間違いないのでご安心を。

瀬戸本業窯の器とキンキの煮付け

この日は脂の乗ったキンキの煮付けが馬の目皿に盛られて出てきた。馬の目皿と煮魚というこの組み合わせは本当に美しい。

あっさり炊かれた身をほぐして、煮汁に浸し、木の芽と共にいただく。春が駆け抜ける。

この日はホタルイカや、山菜など春を感じられるメニューが多く、ぬるめの燗酒がすすむすすむ。

名古屋の米家(まいほーむ)
名古屋の米家(まいほーむ)にある瀬戸本業窯のうつわ

厨房奥にずらりと並ぶ瀬戸本業窯の黄瀬戸のうつわ。のんびりとした黄色味はこれまた料理映えする。

工業製品でもないのにすっきりと重ねられる。これも瀬戸の土の質と、高いろくろ技術によるもので、瀬戸本業窯らしさがある。

何年か使い込んだ馬の目皿も、果たしてこれを汚いとみるか、あるいは店の時間が染み込んだ味、とみるか。みなさんはどうだろうか。

家なら、家族の時間がそこにどんどん積み重ねられていく。こんなすてきなことはないだろう。

育つうつわ、とってもいいものですよ。

 

<取材協力>
米家(まいほーむ)
〒464-0075 愛知県名古屋市千種区内山3-1-15 三ツ矢ビル
電話 052-741-7565
営業日 [月・火・木・金]18:00〜24:00 [土・日・祝]17:00~24:00
※ラストオーダー23:00
定休日 水曜、第3火曜

※遠方から来店の場合は座席数も多くないため事前予約が好ましい。

奥村 忍 おくむら しのぶ
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みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文・写真:奥村 忍

熊本 小代焼を愛でる一日

訪ねるといつも元気をもらうような明るい窯がある。

うつわの作り手といえば、気難しいようなイメージが強いかもしれないけど、ここは主やその家族、弟子とみんなが明るく、いつも笑い声が聞こえてくる。熊本の県北、福岡県と隣接する荒尾市の小代焼(しょうだいやき)ふもと窯。

毎年2月の終わりの土日に誰もが参加できる窯開きをやっていて、そこに参加してきました。みんげい おくむらの奥村です。

熊本県荒尾市の小代焼ふもと窯

お客さんと作り手がふれあうイベントがある窯は少なくないが、直前に窯を焚いて、できたてのうつわをその場で取り出す作業まで見せる窯はめずらしい。

しかもそれが作り手とおしゃべりしながら、その場で買えるんだ。そりゃ足が向くでしょう。

熊本県荒尾市の小代焼ふもと窯
熊本県荒尾市の小代焼ふもと窯

ふと見渡せば、当主の井上泰秋さんが窯から出てきたうつわの底をすりながら何人ものお客さんと談笑している。

その奥では、窯から出たうつわの焼き上がりを見ている息子の井上尚之さんと弟子陶工たち。笑い声、時に落胆の声が響いて、それを見ているお客さんも笑っている。

なんともなごやかな時間だが、僕がふだん一人で訪ねてもこの窯はこんな感じなのだ。

熊本県伝統の小代焼

熊本の伝統、小代焼といえば白・黄・青のような色があり、いずれも灰をベースに使った釉薬から生まれる。同じかたちに同じように同じ釉薬を掛けて同じ窯で焼いても、写真のように差が出る。

これ、すごいでしょう。窯のどこに置かれたかによって温度が微妙にちがうし、火の当たり方もちがうのでこれだけの差が出る。

「火にまかせる」「窯にまかせる」という言葉を各地の窯で聞くのだけれど、まさにそう。

こう焼けて欲しい、というイメージを狙って焼くのだけれど、なかなか思い通りにはならない。焼き物のおもしろさってこういうところ。

熊本県荒尾市の小代焼ふもと窯

窯出しも終わって、ふもと窯のある荒尾市から南にくだって熊本市へ。

小代焼を使う郷土料理屋さんもあるけれど、今日のおめあては郷土料理とはちょっとちがう。おめあての店PAVAO(パバオ)は熊本市の中心部、上通りのはずれにある。

雑居ビルの2階。階段をのぼって、ドアの前に立っても中が見えず入るのをためらうが、思い切ってそのドアを開けてもらいたい。

熊本県熊本市の諸国家庭料理PAVAO内観
熊本県熊本市の諸国家庭料理PAVAO内観

この店は、入ったそばからおいしい。

入り口からすぐに本の棚、CDの棚。そしてキッチンが見えてくると、そこかしこにたくさんのうつわ。どの棚もワクワクがあふれている。

店主の思いつくまま集められたそれらは雑多なようでいて、でもどこかまとまりがある。料理のおいしさは味のみならずだな、とつくづく思う。

ここはおいしいものが出てくる予感しかないのだ。旅でまったく初めての土地に降り立ったような高揚感がある。

ふわふわと、どこの国とも言えない不思議な居心地の良さ。そういえば、ここは諸国家庭料理PAVAO。諸国なのだ。そりゃどこでもないわけだ。

熊本県熊本市の諸国家庭料理PAVAOメニュー表
熊本県熊本市の諸国家庭料理PAVAOの定番メニュー「ちくわ天」

黒板のメニューを見ていつもワクワクするこちらですが、定番で外せないのが「ちくわ天」。

店主の出身である、熊本の日奈久(ひなぐ)というちくわの名産地のものを使って。和食の店で使ったらどっしりと重厚に感じそうなこの小代焼のうつわをどこかさらっと気負いなく。

熊本県熊本市の諸国家庭料理PAVAOの「あさりとターサイと生きくらげの和え物」

続いての一品は、あさりとターサイと生きくらげの和え物。酸味と辛味。おお、アジアの味。これまた、肥後鉢という伝統の形の鉢が絶妙に似合うじゃないですか。

ここのうつわのセレクトは国内外、民藝のものもあれば作家のものもさまざま。うつわ好きならカウンターに積まれたうつわにも、隣席のテーブルに並ぶ料理とうつわにもワクワクが止まらないはず。

いつもこの店をスタートに夜の熊本を飲み歩くからなかなか食べられないのだけど、実はこの店カレーもうまい。食事使いでも、ふらっと一人でも。どうぞお気軽に。

 

<取材協力>
PAVAO
熊本県熊本市中央区南坪井町1−9 山村ビル2F
電話 096-351-1158
営業日 木金土 18:00-23:00
※営業日や時間が変わることもあります。最新情報はinstagramをチェックしてください。

奥村 忍 おくむら しのぶ
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みんげい おくむら
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文・写真:奥村 忍

沖縄 まさひろ工房の窯出しへ

冬の沖縄はけっこう寒い。体や脳が勝手に”暖かいだろう沖縄”を想像しているからなんだと思う。実際の気温は関東に比べたらずいぶん高いのに、体は寒いと感じている。不思議なもんですね。みんげい おくむらの奥村です。

今月は我が家を飛び出して、旅先のこと。1月末の沖縄、「まさひろ工房」仲村まさひろさんのところの窯出しにでかけました。仲村さんは沖縄読谷村の北窯に学び、20年ほど前に独立し、自らの窯を自らの手で築きました。

生まれも育ちも沖縄。沖縄で初めて人間国宝になった陶工金城次郎さんにあこがれ、次郎さんの焼き物のような焼き物を目指している。土、釉薬、薪、すべて沖縄の素材から。

窯出しの日も寒かった。くもりときどき雨。さとうきび畑も海もちょっと寒々しいが、年に一度か二度しか焼かれない窯の窯出しに気持ちはぽかぽか興奮している。

曇り空の沖縄の海

40時間にも及ぶ登り窯の窯焚きは5日ほど前に終わっていて、そのまま自然に冷まされているものの、窯の内部は場所によってはまだうつわを素手で触れないほど熱気がこもっている。

沖縄にあるまさひろ工房の工房内

1300度近くまで温度が上がった窯のエネルギーがまだそこにあるよう。窯の口を開け、少しずつうつわが取り出され、およそ半日で窯出しは完了。1000点を超えるうつわが工房に並ぶその姿は壮観。

沖縄にあるまさひろ工房の工房内

仲村さんのうつわは沖縄らしいどっしりさ、そして懐かしさや温かみを感じられる。沖縄の現代のうつわとしては地味な方だと思うが、それがかえって他の産地のうつわとも組み合わせやすいと思う。

沖縄の焼き物に詳しい人が古い焼き物と勘違いすることがあるのは、昔からの素材を使ってていねいに、昔の人たちのような気持ちで作っているからなんだろう。

多くのうつわ好きな人にぜひこの工房の、こんな姿を見てもらいたいと思うけど、ここは1人工房。残念ながら売店もなければ、作業場への一般の方の立ち入りはできません。

沖縄にあるまさひろ工房の釜出しの様子

ならば手にとって、そのうつわを使って食事ができるところをご紹介したい。

那覇市の中心部、泉崎。ここに「味噌めしや まるたま」というお店があります。同じ那覇の首里にある老舗「玉那覇味噌」の味噌を使った味噌料理を出すお店。こちらでまさひろ工房のうつわが使われています。

味噌めしや まるたまの店内

この日は味噌を使ったハヤシライスがある、ということでそれをいただくことに。実は結構この店は通っていてほぼほぼのメニューを食べているので今日はちょっと変化球。

ハヤシライスはまさひろ工房の八寸皿にドンと盛られて出て来ました。おー。きれい。

味噌めしや まるたまのカレー

家で使うなら七寸皿でもよいけれど、八寸だと見映えがしてお店っぽい。味噌のコクがあって濃厚なハヤシライス。たまにはいい。

こういった見栄えのする染付けの皿は意外と何にでも使えるし、地味な色の料理もこうして明るく見せてくれるもので、一枚でもずいぶんと存在感がある。仲村さんのうつわの一つの特徴である重さを感じてもらいたい。このお皿、ズシッときますよ。

ところでこちらのお店。初めての方にはぜひ味噌汁の定食を頼んでもらいたい。沖縄で味噌汁というと大きな丼に具沢山の味噌汁がドンと。そしてご飯や小鉢がつく、味噌汁がメインの定食です。

こちらの店ではこだわりの豚肉がたっぷり入った、ご飯がすすむ味噌汁がまさひろ工房のマカイ(碗)に入ってでてきます。今も日常に当たり前にある沖縄の普通の食事。いいんですよ、味噌汁。ここでは朝から食べられるのも旅人には嬉しいところ。

うつわが産まれる場所と、その土地で産まれたうつわが使われる場所。その2つをうつわの選び手(いや、食いしん坊)がつなぐ。こんなのも「さんち」らしくてまたよかろうかな。

<取材協力>
味噌めしや まるたま
沖縄県那覇市泉崎2-4-3 1F
営業時間 7:30-22:00 (木曜7:30-14:00)
定休日 日曜 (終日)・木曜 (14時まで営業)
電話 098-831-7656

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文・写真:奥村 忍

わたしの一皿 富士吉田のうつわ

宝くじが当たったらどうするか。いつも考えてしまう。世界中行きたいところだらけ。蒐集もやめられないから買いたいものだらけ。

ついワクワクしちゃうけど、実は宝くじは買わない。みんげい おくむらの奥村です。

当たってもらいたいものは当たらないのに(買わないから当然だけど)、あたってほしくもないものは勝手にあたる。食材の話。

たとえば先月取り上げたサバ、そして今日の食材カキ。過去を振り返ればどちらにも派手にあたってます。あたると本当に辛い、でもやめられない。不思議なもんだ。

今日は寒い、寒いところから地元の市場に届いたカキ。北海道のサロマ湖から。サロマ湖は汽水。海水と淡水がまじった湖で、北のゆたかな海と大地の栄養が存分に蓄えられている。

もうそれだけでずいぶんと期待が高まりますが、ここのカキは漁協が独自にノロウイルスの検査をしているそうで、安心感もある。

どうやって食べようか。もちろん生でいけるけど、個人的にはちょっと加熱してさらに甘みが出たものが好きだ。ということで蒸すことにする。焼きもよいが、蒸すほうが味のバリエーションも付けやすいので個人的には好き。

どう食べるでも、まずはカキの殻を洗う。海藻やら付着物を取って、少し身ぎれいに。最近のものはもともときれいにしてあるものが多くそんなに神経質に洗うこともないが、手にずっしりくると、ぎゅっと詰まった身を想像してつい顔がほころぶ。

牡蠣を洗う

マニアックな話になって申し訳ないが、二枚貝をむくのがとても好きだ。これは実に経験を要する技術。

カキなら、貝の上下、貝柱の位置がポイントで、貝剥き(家にありますか?)を差し込み、最短でもっとも美しく貝を開けるその瞬間に人生の歓びすら感じるのであります。

せっかく閉じ込められていた汁を全てこぼしてしまったり、貝柱がうまく切れずみじめな姿になってしまうとしょげる。今日はうまくいった。そして実はこの段階で一つ生で食べています。やっぱり生もうまいうまい。

ところで、食卓にそのままうつわとして出せる調理道具というのがある。例えばすり鉢。白和えを作ってそのまま出したっていい。今日もそんな道具だ。竹ザル。貝を乗せて鍋に入れて蒸す。

蒸しあがった牡蠣

そしてそのまま食卓に。見た目がとてもよい。竹ザルはそばぐらいなら使うという方、それだけじゃもったいない。敷紙を敷いて揚げ物を乗せたって美しい。うつわとしてもずいぶん頼もしい道具なんです。

今日使った竹ザルは富士山麓で取れるスズ竹を使ったもの。年配の熟練の編み手が多い中、若い編み手さんにお願いしているもので、サイズ違いで持っているととにかく便利。

全国的に多い真竹のものに比べると、やわらかくしなりの強さを感じるのが特徴。スズ竹は、竹を採取してすぐに編むことができるので編み立てのカゴは青々とした美しさが。使い込めばだんだんと色が落ち着き、茶色、飴色っぽくなっていく。うちのはこれで3年目。少し落ち着いてきました。

牡蠣の寄り

鍋に合う大きさのザルにカキを並べて酒や調味料を。今日は中華風。ごま油と刻んだ豆豉(トウチ)を効かせて、あしらいには豆苗を。生でも食べられるカキだから蒸し加減には気をつけて。蒸しすぎて小さく硬くなってしまっては意味がない。

蒸しあがったらまずは殻にたまった汁をずずり。クラクラするほどの旨味。あとは大ぶりの身を一気に口に放り込む。ほっぺたの内側からまたも旨味の応酬。とぅるりと消えてなくなった後も海の余韻がしばらく続く。

竹ザルの上の蒸し牡蠣

なんて贅沢をしてしまったんだ、とあらゆる方面に感謝。もつかの間、二巡目にいきたい。ザルを持って次のカキを盛り、鍋に設置。蒸しガキは一気にやってはもったいない。自分のリズムで何度も出来立てを食べるに限る。これで冬のエネルギーをぐぐっと蓄えて寒さをもう少し耐えるのだ。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
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選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
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文:奥村 忍
写真:山根 衣理