木のまな板 基本の選び方、洗い方。使ってわかった和食に最適な理由

こんにちは。細萱久美です。

以前のさんち記事で、調理道具の基本として包丁について書かせていただきました。長く使うにはなるべく専門店などの、研いで使い続けることの出来るステンレスや鋼の包丁をおすすめしました。

包丁を使う時は、ほとんどの場合がまな板を使うことになると思います。まな板の素材は、主に木か合成樹脂ですが、包丁のことを考えると木製のまな板をおすすめします。

包丁とまな板

単に天然素材好きというだけではなく、木のまな板を使うメリットがいくつかあります。

木のまな板を愛用する理由

第一に包丁の当たりが柔らかいので、包丁の切れ味が落ちづらく、研ぎ直しのペースが私の場合、長いものだと4ヶ月位です。

第二に、これも包丁の当たりが柔らかいことの恩恵ですが、包丁の跳ね返りが少なく、手に力を入れ過ぎないのでひたすら刻んでいても手が疲れにくいです。

包丁の持ちのため、手のためを考えたら、木製のまな板が良いという理由はここにあります。

木のまな板のお手入れ方法

反対に、木のまな板のハードルと言えば、手入れが難しそうといったイメージでしょうか。

木は濡れたまま放置すると、水分を吸水しやすいのでカビや菌、においが発生しやすいです。とは言え、ラフな私でも問題なく使っているので、少し気を遣ってあげるだけで味わい深いまな板に育つと思います。

気を付ける点は、まず使う前にまな板を濡らすこと。ちょっと水にくぐらせて軽く拭けば準備OK。これでにおいが付きにくくなります。

まな板のお手入れ

そして洗う時にはタワシで木の目に沿ってゴシゴシ。まずはお湯ではなく水で洗い流します。

特に肉や魚を切った時は、熱いお湯を掛けるとたんぱく質が固まってしまうので要注意。その後、まだ油や匂いが残っているようなら洗剤を少し使って洗い上げましょう。

ネギやニンニクのような匂いの強いものを切った時にはすぐに洗うことを心がけます。例えば、においの残ったまな板で果物を切ると残り香がして、がっかりすることがあります。

最後に布巾で拭いて、立ててよく乾かします。

使う前に濡らし、こまめに洗い、洗い終わったら完全に乾かす。これだけ気を付ければ、気持ちよく使い続けることが出来ると思います。

漂白剤はその成分を吸収してしまう可能性があるので使いません。消毒をしたい時は、水洗いして綺麗になった後に熱湯を回し掛けて十分に乾かします。

頻繁に料理をされる方は、完全に乾く間もないかもしれませんが、それはそれでOK。道具はせっせと使うこともお手入れの一つだと思います。

木のまな板、種類とサイズの選び方

お手入れ以外の難しい面があるとしたら、まな板の木の種類とサイズ選びでしょうか。

代表的なもので、ひのき・桐・いちょう・青森ひばなどがあります。これがベスト!というほど絞れるものでもなく、どれを選んでも使いやすいまな板であると言えます。

木のまな板ビギナーであれば、ひのきは最もポピュラーで扱いやすいのでおすすめです。カビや菌も繁殖しにくく、刃当たりも柔らか。ただ、最初はひのき独特の香りが強い場合があるので、そこはお好みです。

ねこ柳のまな板

私は、ひのきと、やや高級でプロ向けと言われる「ねこ柳」のまな板も愛用しています。

柳が高級なのは、木の成長が比較的遅く生産量が多くないため。成長が遅いということは年輪がぎゅっと詰まっているので、木材の耐久性に優れます。また、柔軟性に優れるので刃当たりも柔らかく、弾力性があるので包丁の刃で傷ついた部分の自然な修復も期待出来ます。

板前さんが使うような大きくて厚みのある柳のまな板は非常に高価ですが、家庭サイズであれば買えない価格ではありません。使いやすくて、手入れをすれば一生ものとも言えるので、十分に価値はあります。

木の素材は好みや予算感で選んで良いと思いますが、是非とも国産材のまな板をおすすめします。海外産のまな板やカッティングボードの品質が悪いという意味ではなく、日本の包丁には日本のまな板が相性が良いのです。

料理研究家の土井善晴さんの「おいしいもののまわり」

料理研究家の土井善晴さんの「おいしいもののまわり」という本の中にも、土井さんの海外での料理の経験談があり、オランダの厨房のまな板が固く、ご自身の和包丁の刃が潰れてすぐに切れなくなったそうです。

ヨーロッパの包丁は固く刃を立てて使うのでまな板も負けないように固い必要があり、中華でも重たい中華包丁の重さを落として切るので非常に分厚いまな板を使っているのを見ます。あくまでも食文化の違いです。

日本料理にはやはり、包丁にやさしい日本のまな板が最適だと思います。

最後にサイズ選び。ちゃんと料理をするならなるべく大きい方が、切った食材がこぼれにくくストレスなく調理が出来ると思いますが、スペースとの兼ね合いがあるので、スペースに置ける最大のサイズを選ぶか、シンクの縦幅に収まるサイズが目安と言われています。

まな板の使用イメージ

私が最近頻繁に使っているのは丸いまな板。奥行きがあるので食材がこぼれにくく、狭いスペースでも収まりが良いです。

四角い小さめのまな板

あと20センチ角の小さめのまな板がサブ使いでかなり便利。パンや果物などちょっと切りたい時に活躍しています。10年近く使い続けているので十分長持ちですが、ヘビーユースしたのでそろそろ買い替え時かも。

箸の食文化とまな板の関係

昔の日本のまな板は全て木製で、凹んできたり汚れてきたら地元の大工さんに削り直してもらうのが当たり前だったようです。それだけまな板は日本の台所には欠かせない毎日の道具です。

一方で、ナイフ・フォークなどのカトラリーを使う欧米の家庭ではカッティングボードは必需品ではないとか。

和食の場合、食卓では箸で取り分け口に運びやすい「箸の食文化」です。その分、あらかじめ食材のサイズを小さくする必要があり、調理の中で「切る」作業の比率が高いと言えます。箸とまな板の文化圏はほぼ一致するそうで、なるほどと思います。

調べてみるとまな板の削り直しをしている専門店も結構あるよう。少しだけ手入れに気を配りながら、木のまな板をじっくり使い続けてみてはいかがでしょうか。3センチ程度のしっかり厚みのある1枚ものがおすすめです。

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

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文・写真:細萱久美

“土鍋炊き派”がたどり着いた、大谷製陶所のライスクッカーの美味しさ

こんにちは。細萱久美です。

最近の自分の衣食住を考えると、重きを置いている順は住>食>衣となり、20代の頃と逆転しています。

現在の住まいは賃貸なので、こだわれる範囲で家具やインテリアに好きなモノを集めては見せる収納に励んでいます。できたら一番こだわりたい台所は、一人で動くのに程々なサイズ。

一般的に台所の中でスペースを取るのは家電でしょうか。冷蔵庫やガス台は必須として、それ以外の家電は、自分のニーズや生活スタイルに合わせて厳選しました。

生活様式・好みに合わせた道具えらび

私は朝食がパン食なので、まずトースターは必要ですが省スペースの縦型をチョイス。電子レンジは無くてもなんとかなりそうでしたが、オーブン料理に憧れてオーブン機能に優れたレンジを選びました。

家電は以上が全てで、例えば電気ケトルや炊飯器はありません。お湯は鉄瓶、ご飯は土鍋で炊いています。

「大谷製陶所」大谷哲也さん作のライスクッカー

置き場所の問題もありますが、一番の理由は単純に美味しいから。鉄瓶で沸かしたお湯はまろやかで白湯も美味しく、土鍋で炊いたご飯は香り、甘み、弾力が格別です。

毎朝お弁当作りに忙しいご家庭などは、タイマーもある炊飯器の方が便利かもしれませんが、毎日も炊かない今の自分には土鍋がベストな道具だと感じています。

「大谷製陶所」大谷哲也さん作のライスクッカー
「大谷製陶所」大谷哲也さん作のライスクッカー

ちなみにご飯の美味しさは、アミラーゼという酵素がお米のデンプンを分解して、甘みや旨みの成分を作りだすことで生まれるそうです。

アミラーゼを働かせるコツは、ゆっくり時間を掛けて加熱し、沸騰後はその状態をキープ。炊き上がった後もじわじわと熱が入ると余分な水分が飛んで、粒のたった美味しいご飯となる原理です。

なんとなく耳にしたことのある「はじめチョロチョロ中パッパ、赤子泣いてもふた取るな」とは、かまど炊きご飯の火加減のコツとして継がれてきた説ですが、その意味するところは、

「はじめチョロチョロ」
最初は弱火でチョロチョロと鍋全体を温めることで、ムラなくお米に水分を吸収させる。

「中パッパ」
一気に強火にし沸騰させる。(火を弱め沸騰を維持したまま炊き上げる。)

「赤子泣いてもふた取るな」
すぐふたを取らずに高温でしっかりと蒸らして炊き上がり。

この火加減を薪で調整していたと思うと凄いですね。

そしてアミラーゼ云々のうんちくは知らずとも、自然と身に付いた美味しいご飯の炊き方が口承されてきた日本の食文化は改めて素敵だなと思います。

土鍋は熱しづらくその分保温性は高い性質があり、いきなり強火で炊き始めても「はじめチョロチョロ」状態になり、沸騰して「中パッパ」にしたら火を弱めて水気がなくなるまで炊きます。

火を止めたら「ふた取るな」でしっかり蒸らしてでき上がり。やってみるとさほど難しい火加減もなく、美味しいご飯を炊く理想的な状態を簡単に作ることができる道具です。

“ご飯を炊く土鍋”の選び方

様々な土鍋が売られているので選ぶポイントを挙げると、まず「炊飯用土鍋」から選ぶのが間違いないと思います。

炊飯用は、ご飯を美味しく炊けるように厚みや深さ、蓋の作りが考えられているものが多いです。特に「吹きこぼれしにくい」と謳っていたり、その評価のある土鍋を選ぶと、ストレスなく使い続けられると思います。

あとは、何合炊くことが多いのかでサイズを決めますが、炊飯用土鍋は一般的な土鍋に比べて厚みがあり重い傾向があるので、特に初めての場合は使うのが億劫にならないように必要最小限のサイズを選ぶ方が良いかもしれません。

「大谷製陶所」大谷哲也さん作のライスクッカー

私が長年愛用している土鍋は、「大谷製陶所」の大谷哲也さん作。その名もライスクッカーというご飯を炊くための土鍋です。

10年使っているので多少味が出てきましたが、落として割らない限り一生使えそうな頼もしさ。

大谷さんはライスクッカーをはじめ、作り続けている定番商品が多く、知る人が見たら大谷さんの作品と分かります。

ライスクッカーは、磁器土に白釉を施した滑らかな手触りと、全体的に丸みのある曲線が特徴的。この素材・厚み・形のバランスが、お米を美味しいご飯に変化させるように思います。

二重蓋の土鍋もありますが、ライスクッカーの蓋は一つ。重たい蓋が熱をぎゅっと閉じ込めて、吹きこぼれもありません。

土鍋は全般的に炊飯器よりも早く炊き上がるようで、このライスクッカーも炊き始めから蒸らし終わりまで約30分。

ちょっと長めに炊き過ぎても、香ばしいおこげはむしろ美味しく、あえておこげを作ったりできるのも土鍋ならでは。

蒸らし上がって蓋を開ける時、ご飯の甘くほんのり香ばしい香りに毎回喜びを感じます。

土鍋は食卓にそのまま置いても様になり、保温性も高いので、食事中は十分温かいご飯が楽しめます。

唯一気を付けたいのは、美味しくて食べ過ぎることですが、もうすぐ新米のシーズンなのでますます出番も増えそうです。

「大谷製陶所」大谷哲也さん作のライスクッカーで炊いたご飯

<紹介した工房>
大谷製陶所
滋賀県甲賀市信楽町田代79−15
https://www.ootanis.com/

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

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文・写真:細萱久美