こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。
旅先で味わいたいのはやはりその土地ならではの料理です。あとは地酒と地の器などがそろえば、もうこの上なく。産地で晩酌、今夜は飛騨高山で一杯。
高山の夜は早い。
昼間は観光客で賑わっていた目抜き通りも、日に日に早くなる日暮れとともにひっそりとして来ます。
そんな中、どこか一杯立ち寄れるところはないかしらとそぞろ歩いていると、闇に浮かび上がる大きなシルエット。
暗い中でも建物の立派さがうかがえます。脇の看板には煌々と「京や」の文字。
誘われるようにのれんをくぐると「いらっしゃい」の明るい声とともに、
「席はテーブルとお座敷と、焼き物をするなら囲炉裏席がありますがどちらがいいですか?」
と尋ねられました。
中をちらりと覗くと囲炉裏席は網の上で食材を焼くスタイル。先客がいい匂いをさせているのはきっと、かの有名な飛騨牛でしょう。網の下の炭火が、とても暖かそうです。
「囲炉裏席でお願いします」と答えて席に落ち着くと、店内は高い天井、立派な梁。
わざわざ新潟から移築してきたという古民家を改築した店内は、内装もどこか懐かしさを感じさせます。
早速くつろいだ気持ちになって、高山にきたらやっぱり食べたい、飛騨牛と朴葉味噌をまず注文。もちろん地酒も忘れません。
まずは定番の郷土料理で一杯
秋に一斉に葉を落とすというホオノキ。朴葉味噌は、その葉の上で味噌を炙り、葉の香りを味噌に移していただく飛騨伝統の郷土食です。
しいたけや刻みネギと一緒に炙ると、風味が一段と豊かになって、ご飯や晩酌のおともに最高です。
天然の器でいただく土地の恵み。炭火と地酒で体も温まって大満足、ですが今日の晩酌はこれでは終わらなかった。
店内のお品書きにふと目をやると、
漬物ステーキ‥‥こもどうふ‥‥?見慣れない料理名ばかりです。
「雪の多い飛騨は冬に野菜が採れなくなるので、どの家も漬物にしてあるんですね。でもそればっかりだと冷たいので、玉子でとじて焼いたものが漬物ステーキです」
教えてくれたのはご両親からお店を受け継いだ2代目の西村直樹さん。
そう、「京や」さんは飛騨牛や朴葉味噌だけにとどまらない、飛騨高山伝統のさまざまな郷土料理を味わえるお店なのです。
漬物ステーキ
ころいも
こもどうふ
ネギ焼き
あれこれと頼んだ中で一番心を打たれたのが、実は「ネギ焼き」。
お肉の付け合わせ程度に考えていたのですが、私が炭火でぼちぼちと焼いていると、
「ちょっと、焼き方を教えようかね」
このお店の初代女将さん、西村さんのお母さんが声をかけてくれました。
「このネギは霜が降りないと採れないネギなの。分厚いから、芯と外側は別々に焼くのよ」
そう言って、程よく外側が焼けたネギから、器用に青々とした芯の部分をつるん、と網の上に押し出しました。
ネギの名は飛騨ネギ。この地域で11月から2月頃までしか採れない季節限定の郷土野菜です。
コロコロ転がしながらしっかり焼き目がついたところで、生姜醤油で食べる。
「この芯の部分が、バカにならんのよ」
うまい!
外側の白い部分と全く味が違います。とろんとした甘みのあとに、薬膳のような、鼻に抜けるすっとした後味。食べるそばから体がポカポカと温まるようです。
めくるめく郷土料理の世界に夢中になっていると、耳に異国の言葉が飛び込んできます。しかもドアが開くたびに、違う言葉のよう。
店員さんも慣れた様子で相手ごとに挨拶を変えて応対します。
外国人観光客からも人気の高い飛騨高山。この地ならではの料理を味わえる「京や」さんは、国境を越えて愛されているようです。
「これからもっと賑やかになるよ、ここはどこの国だって思うくらい」
ネギを転がしながら、お母さんが冗談めかして笑いました。
飛騨高山の夜は長い。
気になる郷土料理がまだあって、なかなか席を立つ気になれません。
<取材協力>
飛騨高山郷土料理 京や
岐阜県高山氏大新町1-77
0577-34-7660
http://www.kyoya-hida.jp/
文・写真:尾島可奈子