日本有数の“社長の町”、新潟三条「本寺小路」ではしご酒

こんにちは、ライターの丸山智子です。

金属加工の産地である新潟県三条市は工場が数多く軒を連ね、必然的に社長さんも多い地域。そうすると、外せないのが打ち合わせや接待などに使われる飲食店です。

「本寺小路 ( ほんじこうじ ) 」と呼ばれる三条の繁華街は、人口当たりの飲み屋さんの軒数が全国有数で、「社長!」と呼ぶと近くにいるみんなが振り返るとも言われてきたエリア。

きっと企業同士の交流を深めたり商談をしたり、また時には息抜きに利用されることで、お店も増えてきたのでしょう。

今日ははしご酒をしながら、そんな三条の美味しい文化を楽しんでみたいと思います。

サバ缶を丸ごとひとつ!全国区でブレイクした「サバサラ」

まず一軒目は、インパクト大なサラダをいただきに、「キネマ・カンテツ座」へ。

※現在はリニューアルして、店名「酒場カンテツ」となっています。

インディーズのショートムービーを上演している飲み屋さんという、ちょっと珍しいお店のスタイルにワクワクしながら扉を開けると、広がるおしゃれなカフェバーの佇まい。

上映する作品は、店主の関本さん自らセレクト

ここに来たら頼まずにはいられないのが、蓋を開けたサバの缶詰ごとお皿に乗せて、粗みじん切りにした玉ねぎをトッピングした大胆なサラダ「サバサラ」です。

缶詰のアレンジにびっくりしていたら、お皿は三条の隣、燕市の伝統工芸品・鎚起銅器 (ついきどうき) であることに気づいて2度びっくり。

「スーパーであらゆるサバの缶詰を集めて、試食して選んだのがマルハニチロのサバ缶。しかもマルハニチロの前身の会社・マルハの創業者は三条の人なんですよ」( 名物店主の関本秀次郎さん )

もう一つの看板商品である「カンテツコロッケ」は、シメジが入ったお米のコロッケ。一口食べるとホワイトソースとお米の甘い風味が口いっぱいに広がって、シメジの食感がいいアクセントに。揚げたて熱々をホクホクしながらいただきました。

新潟県の海の幸・畑の幸をぞんぶんに

さて、もうちょっとしっかり食べたくなったので、「漁師DINING 日本海ばんや」を訪れることにしましょう。

漁師小屋を模した外観。今日のお勧めが書かれたボードに、期待が高まります

こちらはまさに“産地”にこだわったお料理をいただける居酒屋です。

まず出てきたのが、注文してから茹で上げる、三条の農家さんが育てた枝豆。
そして新潟県といえば日本海の海の幸、ということで、同店では佐渡や寺泊から届けられた新鮮な魚をお刺身でいただけます。

看板メニューの生牡蠣も、プリプリしていて、あっという間に食べ終わってしまうのが惜しいほどの美味しさでした。

この日の刺し身5種盛りは、佐渡の南蛮エビ、地物のコチなど

新潟のお酒といえば日本酒、ということで合わせたお酒は三条市唯一の酒蔵・福顔酒造の「五十嵐川」。さらりと飲めて、料理を引き立ててくれるので、さらにお箸がすすむ一杯です。

そして何よりも嬉しかったのが、スタッフのフレンドリーな空気。店長である関本康弘さんを筆頭に、お客さんもスタッフも一緒に楽しめる空間作りが感じられます。

美味しいお料理に厨房から店内に広がる魚を焼く匂い、あちこちから上がる笑い声に、なんとも幸せな時間を噛みしめることができました。

三条のディープな情報とクラフトビールの組み合わせ

最後にもう一軒、締めは三条市で唯一クラフトビールを樽で提供している「Beerhouse3」にお邪魔してみることにします。

こちらの店主・池野泰文さんは実は元三条市の職員で、三条の歴史や金物産業に精通している人物。2013年からスタートした、三条市と燕市の工場や農家を解放して、ものづくりを体験できるビッグイベント「燕三条 工場の祭典」や、食文化や生活技術など地域に根ざした新旧の知恵を再編集し、絶品のスパイス料理を提供する「スパイス研究所」の立ち上げにも関わっていたそうで、お酒と一緒に三条のディープな話もどんどん進みます。

鮮度を保つためにキンキンに冷やしていますが、飲む際は美味しく味わえる温度に調節してくれます

この日いただいたのは「IPA」というホップをたっぷりと使ったクラフトビール。

実は私、ビールの苦みがあまり得意ではないのですが、このビールは本当に香りが芳醇で、美味しくいただけました。もともと池野さんもクラフトビールに出会うまではビールが苦手だったというから驚きです。

5種類のスパイスを使ったチキンピックルやスモークチーズも自家製

「本当に本寺小路は社長が多いのですか?」と確かめてみると、「5割以上のお客さんが社長ですよ」とのこと。ちなみにこの日は、家業が包丁屋さんという次期社長が飲みにいらしてました。

外に出ると、あちこちで代行のタクシーやはしご酒をする人とすれ違い、いつの間にか辺りは真っ暗に。なんとも美味しく楽しい街・三条。この街の楽しみ方がまた一つ増えました。

ここでいただけます

酒場カンテツ
新潟県三条市本町2-13-3
0256-55-4504
https://www.facebook.com/sakabakantetu

漁師DINING 日本海ばん屋
新潟県三条市居島2-26-3
0256-36-7288
http://www.greatcompany.co.jp/banya.html

Beerhouse3
新潟県三条市居島3-15
0256-64-8312
http://beerhousecubed.hatenablog.com

文・写真:丸山智子

*こちらは、2017年8月16日公開の記事を再編集して掲載しました。ものづくりの町として盛り上がりを見せる燕三条。訪れたらぜひご当地でしか味わえないお店で一杯!

ハズレなし。着物が生んだ居酒屋激選区、十日町で一杯

十日町の居酒屋は、どこに入ってもハズレがない。

大地の芸術祭の取材で新潟県十日町市を訪れた時、はじめに教わったのがこのことでした。

なんでも十日町は着物産業で栄えたために接待や宴席の需要が多く、自然と町全体のお店のレベルがあがってきたのだとか。

はけで染める工程。青柳独特の降り方の生地で染めに立体感が生まれています
着物メンテナンスの手元

ちょっと前まで人口に対する飲み屋さんの割合が日本一だったというレジェンドも耳にしました。

そんな美味しい噂を聞いたら、確かめないわけにはいきません。

夏でも日が暮れるとぐっと涼しくなる、この町独特の夜風に背中を押され、今日の晩酌は十日町で、地元民オススメの3軒をはしご酒。

「ALE beer&pizza」 地域おこし協力隊出身のクラフトビールとピザのお店

ALEのシカゴピザ

スタートから早々にイメージを打ち砕かれました。

着物の町と聞いて勝手に日本料理店が多いのだろうと思っていたのですが、1軒目の名前は英語で「ALE (エール) beer&pizza」。お店も洋の雰囲気です。

暗闇に浮かび上がるALEの看板
暗闇に浮かび上がるALEの看板
ALE店内
ALE店内、壁のポスター

「十日町って、飲食店の激戦区なんですよ。数も多いし、レベルも高い。そばやブランド豚、野菜など食材も豊富です。

だからそうした素材を、地元の人が普段しない食べ方で楽しめるお店にしたいなと思って」

そう語るのはお店の立ち上げに携わった高木千歩さん。

高木千歩さん

ご両親の出身地である十日町に2011年から地域おこし協力隊で滞在。任期満了と共に仲間と一緒に「地産地消をテーマにしたレストランを」とこのお店を開きました。

「地元食材の、地元の人が普段しない食べ方」として提案するのが、「クラフトビールとシカゴピザ」。もともとどちらも高木さんが好きだったものです。

シカゴピザは、キッシュのように分厚く、中にチーズと具材がたっぷりと入っているのが特徴。

本場にも赴いて研究したというピザは、シカゴからやって来たお客さんも太鼓判を押したそうです
本場にも赴いて研究したというピザは、シカゴからやって来たお客さんも太鼓判を押したそうです

ALEで提供するピザの具材には、地域おこし協力隊でお世話になった地域の野菜や、ブランド豚として名高い越後妻有ポークなど、地元の食材がふんだんに使われています。

「妻有ポーク」はスペアリブでも楽しめます
「妻有ポーク」はスペアリブでも楽しめます

あつあつのうちに頬張ると、具材の味、食感が口の中で次々に変化してどっしりと食べ応えがあります。1枚、もう1枚と手が伸びるうちに、ビールが進む、進む。

クラフトビールを注いでいるところ

合わせるクラフトビールは、はじめは他所から仕入れていたそうですが、「十日町のビールはないの?」とのお客さんの一声がきっかけで、ついに昨年、高木さんは自分で醸造所を立ち上げてしまいました。

十日町名物のそばを生かした「そばエール」など、この土地でしか味わえないクラフトビールブランド「妻有ビール」がお店をきっかけに誕生したのです。

他にも豪雪ペールエールなど、雪国の十日町らしいネーミングのクラフトビールが
他にも豪雪ペールエールなど、雪国の十日町らしいネーミングのクラフトビールが

「はじめはピザを食べに来てくれるお客さんが多かったのですが、今は少しずつ、クラフトビールを目当てに来てくれる方も増えて来ていて、嬉しいです」

使用するホップも今栽培に取り組んでいるとのこと。

協力隊を卒業しても、高木さんたちの地域おこしはずっと続いているのだと感じました。

高木さん

素敵な話も聞けて、1軒目からいい食事になったなぁ。この勢いで、次のお店へ向かいます。

「たか橋」 帰りの一杯から大所帯の宴会まで、十日町の日常に寄り添う店

住宅街に、明かりを発見。

たか橋の看板

カラリと扉を開けると、ワイワイと弾んだ声が聞こえてきます。声の感じは、家族連れや職場の宴会。地元の人たちで賑わっているようです。

入ってすぐ、のれんで仕切られたカウンターに席を確保。

たか橋のカウンター席

宴もたけなわの座敷席は廊下を挟んで少し離れているので、一人でやってきてものんびりくつろげそうです。さっそくオーダーを。

何かこの土地らしいものをいただきたいのですが‥‥

「土地らしい料理ですか?

そうですね、今日でしたら刺身はアジもメバルも甘エビも佐渡のものがありますよ」

お刺身

「野菜はお隣の津南町でとれたアスパラとズッキーニがあるので、フライにしましょうか。あと、妻有ポークのソテーにおろしポン酢をかけて」

地野菜のフライ
地野菜のフライ
妻有ポークのソテーに、おろしポン酢をたっぷりをかけて
妻有ポークのソテーに、おろしポン酢をたっぷりをかけて

「お酒は、地元の松乃井酒造さんがうちの定番ですね。このメニューなら吟醸生がいいかな。飲み口がいいから、飲みすぎないよう注意ですけど」

2軒目の晩酌セットが完成です!
2軒目の晩酌セットが完成です!

ポンポンと美味しそうなラインナップを提案してくれたのは「たか橋」2代目の高橋優介さん。

高橋優介さん。お隣津南町や東京の飲食店経験後、10年前から「たか橋」で日々腕をふるっています
高橋優介さん。お隣津南町や東京の飲食店経験後、10年前から「たか橋」で日々腕をふるっています
実は高橋さん、十日町市史上初、甲子園出場を果たした十日町高校の野球部キャプテンという経歴の持ち主
実は高橋さん、十日町市史上初、甲子園出場を果たした十日町高校の野球部キャプテンという経歴の持ち主

もちろん用意されたお品書きもあるけれど、相談すると今日仕入れた食材で、メニューをアレンジしてくれるのが嬉しい。

たか橋にて、料理中の手元

「うちは宴会に使っていただくことが多いですが、意外とこのカウンター席も落ち着くみたいで、一人でふらっと来るお客さんも男女問わず結構いらっしゃいますね」

たか橋2代目、髙橋優介さん

仕事帰りの一杯から家族連れの食事、職場の宴会、保護者会の打ち上げまで、お客さんの使い方も様々。集まりに応じて部屋の仕切りも動かせるようにしているのだとか。

料理も内装も、相手に応じてベストなものを提供する柔軟さは、町のお得意さんに鍛えられてきたものだと言います。

「十日町は織物産業が盛んだったので、着物を扱う機屋 (はたや) さんが、遠方から買い付けに来たお客さんを接待するのにこういうお店を使ったんですね。

自然と、お店に求めるレベルも高くなる。今でも目の厳しいお客さんが多いように感じます」

親子二代で厨房に立ちます
親子二代で厨房に立ちます

「それと、実は十日町ではお店同士の横のつながりが厚いんです。

居酒屋激戦区というとお店同士がライバルのように聞こえるかもしれませんが、市場で会うとお互いレシピのアイディアや仕入れの良し悪しを情報交換しあったり」

なんと先日取材したAbuzakaの弓削さんとも仲がいいそう。

そばとごったく
Abuzakaはそばと郷土料理をビュッフェスタイルで楽しめるお店として以前さんちで紹介しました

「飲食店同士が、ライバルというより仲間なんですよね。お店終わりにそういう店主仲間と『ゲンカイ』に行くと、うちにさっき来てくれていたお客さんと会ったり (笑) 」

高橋さんから自然と名前の出た「ゲンカイ」こそが、このはしご酒の最後を飾るお店。

日本酒でほどよく体も温まったところで、十日町市民がシメに必ず寄るという「焼肉 玄海」に向かいます。

「焼肉 玄海」 十日町っ子のお約束、はしご酒の最後はここで

暗闇に浮かぶネオンは、今までの2軒とはまた違う「夜」の雰囲気。

焼肉 玄海の看板
ネオンに誘われるように、お店のある2階へ階段を登って行きます
ネオンに誘われるように、お店のある2階へ階段を登って行きます

「このお店は0時を回ってから混んで来るんですよ」

そう聞いていた言葉通り、23時前に入った店内はまだ落ち着いた雰囲気。これが0時を回ると満席になることも珍しくないというから驚きです。

みなさんシメに頼むのがカルビクッパ。

焼肉 玄海のカルビクッパ

もうお腹いっぱいのはずなのに、辛い、辛いと言いながら箸が進みます。ピリ辛のスープとご飯が、体の中のアルコール分を和らげてくれるような。これはありがたい、とまたビールをゴクゴク。

気づけば、器もジョッキも空っぽ。満腹のお腹を抱えながら、今日食べてきた料理の数々を思い返します。

ピザにクラフトビール、地酒に創作和食、シメにカルビクッパ。

確かに何を食べても、美味しい。

十日町の居酒屋にハズレなし。噂は確かに、本当のようです。なぜなら舌の肥えたお客さんと店主同士の横のつながりが、美味しさを支え続けているから。

<取材協力> *掲載順
ALE beer&pizza
025-755-5550
新潟県十日町市宮下町西267-1
http://alebeerpizza.com/

たか橋
025-752-2426
新潟県十日町市本町5丁目35-3

焼肉 玄海
025-757-8681
新潟県十日町市本町5丁目

文:尾島可奈子
写真:廣田達也

大人の沖縄居酒屋「花ずみ」で未知との遭遇。海ぶどうが水槽を舞う

「ここはね、大人の沖縄居酒屋です。器に使っているやちむんもこだわっています」

地元の方にそう教えてもらって「花ずみ」の暖簾をくぐったのは18時頃。

沖縄_花ずみ

店内は、仕事帰りらしきおじさんたちが顔をゆるめてすでに晩酌を始めています。

掘りごたつを囲む座敷席はお隣さんともほど良い距離感で、一見さんも常連さんも過ごしやすそう。

お酒はやっぱり、泡盛でしょう。水割りでいただきます。

同席した方に聞いた話では、沖縄の水は本州と違って硬水。泡盛というとかなり強いお酒のイメージですが、硬水の水や氷で飲むと、いい塩梅に和らいで飲みやすくなるのだとか。

本当‥‥?か、どうかはわかりませんが、ぐびりといくと、確かに本州で以前に飲んだ時よりも、飲みやすいように感じます。沖縄の人たちは酒豪ぞろいなのではなく、いい飲み方を知っている、ということなのでしょうか。

さて、合わせる一品は何にしよう。いや、一品と言わず2・3品は食べたいなぁ。

なぜならこの「花ずみ」は八重山地方出身の女将さんが作る八重山の家庭料理が味わえるお店。

しかも、「おすすめのお店は?」と尋ねた地元っ子が、「あそこは、何を食べてもうまい!」と何人も名前を挙げた人気店なのです。

未知との遭遇。オオタニワタリの新芽

まず「絶対食べて!」と言われていた「オオタニワタリの新芽」を注文。

オオタニワタリって?しかも新芽??と思っているうちにツヤツヤした姿で運ばれてきたのがこちら。

オオタニワタリの新芽

見たことのない姿かたち。

オオタニワタリは、葉の長さは1メートル以上にもなる大きな植物。九州南部や台湾にも分布しているそうで、一般的には観葉植物として親しまれています。

それを沖縄、特に八重山では、新芽部分を炒め物や天ぷらなどにして食べる文化があるのです。

今日は中でも新鮮なオオタニワタリでしか味わえない、お刺身でいただきます。

一口ほおばると、パリッとした歯ごたえ、水分がぎゅっと詰まっているのに水っぽくなく肉厚。噛み進めるほど、口の中に新芽のみずみずしい香り。

ああ、何枚でもいけるなぁ。酢みそがまたよく合う。

沖縄の人は新芽の出る頃に山に出かけたりすると、みんな摘み頃のオオタニワタリがないか、ウキウキとチェックするのだそう。気持ち、わかります。

お次はドゥル天に、八重山かまぼこ

初めての出会いに感動しているうちに、また新しい出会いが次々と。

沖縄の伝統料理「ドゥルワカシー」を天ぷらにした「ドゥル天」。

外はサクサク、中はホクホク。豚の出汁が効いていて美味しい
外はサクサク、中はホクホク。豚の出汁が効いていて美味しい

ドゥルワカシーとは、田芋 (里芋) とその茎、豚肉などを合わせた炒め煮で、古くから沖縄のお祝い事の席に並ぶごちそうです。

お次は「八重山かまぼこ」。八重山諸島の中でも、石垣島特産の揚げかまぼこです。素材や形で、いろいろな種類があるそう。

今日のかまぼこは人参、ごぼうの入った「たらし揚げ」
今日のかまぼこは人参、ごぼうの入った「たらし揚げ」

ああ、何を食べても、泡盛がよく進みます。これは気をつけなければ。

女将さんが目利きするやちむんにも注目

さて、ここまでの料理でお気づきかもしれませんが、この「花ずみ」、器も素敵なんです。

地元食材で作った料理に合うようにと、女将さんが全て自分で目利きして選んだやちむん (沖縄の焼き物) が使われています。

昭和63年にお店を開いて以来、30年近くのお店の歴史がそのまま、女将さんの器好きの歴史。

「器は、出会った時に買うのよ」

との女将さんの名言を心に刻みながら、次のオーダーを。

揚げ物が続いたので今度はさっぱり。満を持して、本州でも有名な海ぶどうを注文します。

海ぶどうが水槽を舞う理由

店員さんがさっとカウンターの奥の水槽から海ぶどうをすくい上げました。

海ぶどうの入った水槽
海ぶどうの入った水槽

へぇ、海ぶどうってこうやって保管されているんだ。

そう思ってよくよく眺めると、水槽の中で、ぐるぐるぐるぐる海ぶどうが円を描いています。

これは一体‥‥?

ふわふわぐるぐる‥‥単なる観賞用でもなさそうです
ふわふわぐるぐる‥‥単なる観賞用でもなさそうです

確かに見た目にはきれいだけれど、何のためにそんなに回っているのか。

目を離せないでいると、教えてくれました。

「海ぶどうは鮮度が命。海の中のように水流を作ってあげると、新鮮な状態が長持ちするんです」

出してもらった海ぶどうが美味しいのは言うまでもありません。プチプチと口の中で弾けた後の、つるんとしたのどごし。

ああやっぱり、本場にこないと出会えないものってあるのだなぁ。

ぐるぐる舞う海ぶどうを眺めながら深々と感動して、泡盛の杯を傾けるペースがまた少し、早まっていくのでした。

<取材協力>
花ずみ
沖縄県那覇市久米2-24-12
098-866-1732
http://www.hanazumi.jp/

文:尾島可奈子
写真:武安弘毅

80年間変わらぬ味でお客さんを迎える「おでん若葉」

金沢に出かけるとなると、やっぱり北陸の新鮮なお魚が食べたい!と思うのですが、実は「おでん」も名物とのこと。

なんでも数年前、某テレビ番組で、当時のタウンページに記載されているおでん屋の数を人口で割ったところ、全国で石川県がもっとも多いと紹介されたのをきっかけに、「金沢おでん」として注目されるようになったそうです。

観光情報誌などによると、あっさり風味の出汁に、車麩やバイ貝、冬は香箱カニが名物だとか。
それは知らなんだ。ぜひとも味わってみたい。そんなわけで今回の「産地で晩酌」は金沢おでんをいただきます。

兼六園から15分。いわしのつみれが名物の「若葉」へ

向かったのは昭和10年創業の老舗「おでん若葉」。兼六園から歩いて15分ほどの、繁華街から少し離れた商店街にあります。

暖簾をくぐると、ふわっといい香り。食べごろのおでんが出迎えてくれました。

金沢おでん若葉

カウンターに座り、おでん鍋をのぞきながらなにを食べようかと考えるのが至福の時間。金沢おでん名物のバイ貝と、店主おすすめのいわしのつみれに、大根とフキをいただきました。

金沢おでん若葉のいわしのつみれ

噛むほどにねっとりとした旨みのあるバイ貝、特製の白味噌をつけていただく大根。創業以来、継ぎ足して使う煮干しベースの出汁も、おでん種の旨みが加わり格別な味わいです。加えて、どれも大きくて食べ応え抜群。

「当たり前の大きさでやってますが、みなさんびっくりされますね」と言うのは、3代目の吉川政史さん。2代目のお父さんが作る自家製のつみれは、いわしと玉ねぎ、生姜、卵、片栗粉が入り、外はしっかり中はふわふわです。

「みなさん、つみれを食べにおいでになります。ほかの店は固いのが多いので、うちのを食べてイメージが変わったと言われますね」

口の中でほろほろ溶けていくのに、つみれ特有の骨の食感もちゃんと残っていて、確かに食べたことのないつみれです。いわしの脂の乗り具合でつなぎの分量を変えているそうで、「脂がのってるときは、中はトロトロ」なのだとか。

おでん若葉3代目の吉川政史さん
3代目の吉川政史さん

お客さんに声をかけながら、黙々と調理をする政史さんに、金沢おでんの特徴を聞いてみると、「急に“金沢おでん”なんて言われてねぇ」と苦笑。

あぁやっぱり。実はお店に伺う前、取材先で会う人ごとに「おでん」の話を聞いてみたところ、みなさん「なんだか急に騒ぎ出して」と同じような答え。人気店は地元の人が入れなくなってしまったり、「おでん」を出していなかった店まで出すようになったりしているそうです。

「自分らは“金沢おでん”としてやってるわけではないし、店々で味も全然違うと思いますよ。金沢おでんていうと車麩みたいに言われてますけど、うちは、いわしのつみれ、土手焼き、茶飯が名物で、あとはみなさんの好き好きですね。大根もフキも一年中ありますし、もう、ほんとにずっと変わらない、同じです」

突如訪れたブームにもスタイルを変えることなく、いつも通りの味でお客さんを迎える。特徴を見つけようとしたことがなんだか恥ずかしくなりました。

白味噌とたっぷりネギの土手焼きも

おでん若葉の土手焼きの特製鍋
土手焼きの特製鍋

土手焼きも定番メニューのようですが、これも決まりがあるわけでなく、お店によって様々だそう。若葉では、串に刺した豚バラを専用の鍋で茹で、白味噌とたっぷりのネギでいただきます。

おでん若葉の名物、土手焼きと茶飯

うまいっ!

豚の脂と味噌が絡み合って抜群の美味しさ。幸せ。いくらでも食べられそうです。煎茶で炊くという茶飯も滋味深く、おでんにぴったりの味わいです。

おでん若葉
おでんは100円からとリーズナブル

こんなに話題になる前から、金沢おでんに注目していたのが作家の五木寛之さんです。

「金沢のおでんは独特である。冬場はコウバコというズワイ蟹の雌がうまい。香りのいい芹もよかった。(中略)ガメ湯からあがって、厳しい寒気のなかを<わか葉>に駆け込む気分は最高だった。」(五木寛之『小立野刑務所裏』より)

若葉は、一時期、金沢に暮らしていた五木さんがよく訪れていた店としても知られています。

「何年か前にも取材できたり、ひとりでふらりとおいでになりましたね。この味を懐かしんでくれてるみたいで」

金沢おでん若葉

創業から80年以上、ずっと同じ場所で営業を続けてきた、おでん若葉。「お客さんが来たらすぐに出せるように」仕込みは朝9時すぎから。はじめてなのに懐かしいような、ほっとできる味を求めて、帰省したときには必ず来てくれるお客さん、家族4代続けて通っているお客さん、お鍋を持って買いに来るお客さん、金沢おでんを楽しみに来た観光客、今日も若葉は大勢のお客さんで賑わっています。

<取材協力>
おでん若葉
石川県金沢市石引2-7-11
076-231-1876
月曜日定休

土佐の呑んべえ御用達。午前11時開店の「葉牡丹」で乾杯!そして返杯!

日本一お酒にお金を使うといわれる高知県。そんな“酒飲みの街”での「産地で晩酌」。足を運んだのは居酒屋「葉牡丹」だ。創業60年を超え、土佐の呑んべえが夜な夜な、いや明るいうちから足繁く通う地元の盛り場だ。

高知の老舗居酒屋・葉牡丹の外観
「葉牡丹」外観

土佐の名産に希少な珍味。吸い込む時代と土佐酒の薫り

午前11時から開店しているというこのお店。「夕方は相撲を見に来た常連で混んでるから、取材は夜にきてね」と言われ夜に足を運んだのだが、店内は大賑わい。

焼き物、串物をメインに、鰹(かつお)はもちろん、ドロメやチャンバラ貝などの珍味や希少な鯨(くじら)など、高知ならではの肴が揃う。

高知の老舗居酒屋・葉牡丹のチャンバラ貝
高知の酒の肴の定番、チャンバラ貝

高知では新鮮な生のかつおを皮付きの「銀皮造り」で食べることが多いのだそう。緑色のピリッと辛い「葉にんにく」との相性に目尻が下がる。

高知市の老舗居酒屋・葉牡丹の鯨の串
高知は日本有数の鯨の生息地でもある。希少な鯨を串でいただいた(写真右)
高知の老舗居酒屋・葉牡丹のイサキ
高知で「イセギ」とは、「イサキ」をさす

土佐鶴、司牡丹、酔鯨などの土佐の名酒に目移りしながら目に留まったのは、栗焼酎「ダバダ 火振」。関東ではあまり馴染みがないが、高知では一般的に飲まれるのだそう。

四万十川流域の山里で人の集まる場所を指す「駄場(ダバ)」、伝統的鮎漁法「火振り漁」が名前の由来

一合いただいたら日本酒に、なんて考えていたけど、美味しさあまってもう一合。あらもう一合。

内装から感じる時代の空気と、常連さんたちの笑い声も吸い込んでしみじみ感じる。「これはいいお酒を飲んでいるなぁ」

「葉牡丹」が揃える日本酒はすべて高知産のもの

「葉牡丹」を支える、働くお母さんたち

「葉牡丹」でお酒を飲んでいると気づくのが、いい顔をして働くお母さんたち。何十年もここで働いている方もいる。

高知市の葉牡丹で働く女性

「高知の女性は男性よりもパワーがある」。この日お酒を交わした常連さんは話す。

「男性よりお酒を飲める方も多いよ。女性にお酒飲めるんですかって聞くとこう言うの。『しょうしょう(升+升)です』ってね。ははは!」。

「高知ではね、女性が表に出てくる文化があったんですよ。お母ちゃんが働いて、男は何してるかっていうと、よそで飲んで騒いでるんです。ぐあっはっは」。陽気に、豪快に話すのは、土佐の酒飲みを何十年も店に迎え入れてきた「葉牡丹」店主の吉本さん。

店主の吉本さん

「飲食も板場くらいしか男がいなかった。うちも親父の言い出しっぺでおふくろが串カツ屋をはじめたんだけど、結局切り盛りしたのおふくろ。高知はね、女の人が働かないと成り立たない場所だったのよ(笑)。

でもね、実はそれが良いセールスのやり方でもあった。外で飲んで裏の情報をいち早く掴んで商いに生かす。それが男の仕事だったんですよ。まったく、どうしようもないねぇ!」

街は変われど、酒飲みは変わらず

「「葉牡丹」が開店した当時、この店が位置する堀詰という地区は、映画館やバス会社の待合室、競馬場、キャバレーなどが集まる地区だった。男衆が一杯引っ掛けるのに最高の場所だったというわけだ。「こどもがお父ちゃんに動物園に馬を見に行くぞと言われて行くと、競馬場だったってのはよくあった話ですよ(笑)」と吉本さん。

空襲の焼け残りの材木を寄せ集めてできたという、「葉牡丹」の建物。継ぎ接ぎで高さの合わない、少し歪で、しかし可愛らしい扉を見ながら、吉本さんは土佐という街についても話す。

「(土佐は)変わったけど、変わってないね。街も変わったし人は少なくなったというのはあるけど、大してうちは変わらん。みーんな呑んべえ!返杯って知ってる?あ、もう早速常連に教えてもらった?ぐあっはっは!」

高知には「返杯」というお酒の飲み方がある。お酒を注がれるとそれを飲み干し、「はい、返杯!」とグラスを渡しお酒を注ぎ返す。相手もまたそれを飲み干すというものだ。

返杯、返杯、また返杯。 土佐の“酒飲みの作法”もすっかり身につけ、そのままその常連たちと2軒目へと向かったのだった。

変わらない粋な店に、変わらない酒飲みたち。土佐に寄ったら是非ここの暖簾をくぐってほしい。

あぁ、いい夜だ。土佐の夜に、返杯!

<取材協力>

居酒屋 葉牡丹

〒780-0834 高知県高知市堺町2−21

088-872-1330

http://habotan.jp/

取材・文:和田拓也

写真:uehara mitsugu

21時に開店するちゃんぽんの名店。武雄のお酒の〆は「開泉食堂」で

突然ですがみなさん、お酒の締めの定番と言ったら何でしょうか?きっと、飲んだ後に何故か食べたくなる、ラーメンを思い浮かべる方が多いはず。

一方で、同じ質問を長崎や佐賀の方にすると、「ちゃんぽん」と答える人も多いそうです。

それもそのはず。長崎県だけでも1000軒以上のお店で食べることができると言われるほど、ちゃんぽんは肥前地区に郷土料理として根付いています。日本が鎖国していた時代に唯一開港地として外国との接点となっていた長崎と、その隣りで文化が流れ入ってきた佐賀では、食にも異国からの影響が色濃く感じられます。

そこで本日の「産地で晩酌」はちゃんぽん。佐賀県武雄市にある、21時を過ぎないと開店しない知る人ぞ知る名店にて、本場のちゃんぽんを味わってきました。

日本と中国、山と海の味が「ちゃんぽん」された歴史

さすが本場と言ったところで、長崎にはちゃんぽんの歴史に触れることができる「ちゃんぽんミュージアム」があります。そこでの紹介によると、ちゃんぽんのルーツは福建料理の『湯肉絲麺(とんにいしいめん)』にあり、福建省から長崎に渡った四海楼の初代陳平順が日本風にアレンジし、1899年にちゃんぽんとして考案されたとあります。

長崎に来ていた中国人留学生に向けて、野菜くずや肉の切れ端を使った安くて美味しい栄養満点の麺料理として、当時から親しまれていました。山の幸にも海の幸にも恵まれた長崎だからこそつくることができた、日本の味と中国の味が融合した郷土料理なのです。

元々ちゃんぽんには「様々なものを混ぜること」という意味があり、江戸時代の洒落本にも登場しています。1822年の洒落本『花街鑑(サトカガミ)』に「芸者の滑稽、チリツンテン、ちゃんぽんの大さわぎ」とあり、その意味が転じて、2種類以上のものをごちゃ混ぜにすることを指す言葉として、歌舞伎でも使われている言葉です。ごちゃ混ぜに入ったちゃんぽんに相応しい名前ですね。

ちゃんぽんはその後長崎の名物料理となり、隣の佐賀をはじめ、今では全国各地に広まっています。

赤提灯の深夜食堂、その名は開泉食堂

ライトアップで浮かび上がる、武雄温泉の楼門。
ライトアップで浮かび上がる、武雄温泉の楼門。

佐賀県の西部にある武雄市の中心には、1300年の歴史を持つ武雄温泉があります。重要文化財の楼門を眺めつつ、1日の疲れと汗を流し、温泉から出て時計を見るともう21時。武雄温泉のほど近くにあるという、地元の人からこっそりと教えてもらった、美味しいちゃんぽんを出す名店を目指します。

ペコペコのお腹に急かされながら、道に迷いつつ細い路地を1本入ったところに、静かに灯る赤提灯を見つけることができました。よほど注意していないと見逃しそうなこのお店こそ、知る人ぞ知る開泉食堂です。

武雄市のちゃんぽんの穴場、開泉食堂

1人で切り盛りする店主に早速ちゃんぽんを頼むと、奥から食欲を刺激するジュウジュウと具材を炒める音が聞こえてきます。

今か今かと待つこと10分、三川内焼に代表される、唐子絵のどんぶりに入った熱々のちゃんぽんが出てきました。人参、キャベツ、もやし、豚肉、なると等々。風味や食感の違いも楽しい、具沢山のちゃんぽんです。

具材の旨味が複雑に中華スープに溶け出し、太くて歯切れの良い麺に絡みます。具材もスープも味付けが濃いめにしっかりとされていて、最後の一滴まで飲み干したくなる極上の一品。野菜もお肉も摂ることができ、かつての中国人留学生がこれを食べて元気を出していたのもうなずけます。

噂によるとメニューに載っていない裏メニュー「皿うどん」があるかないとか。武雄温泉に入った後に一杯飲んで時間を潰し、ぜひお酒の締めを開泉食堂でお召し上がりください。

ここでいただけます

開泉食堂
佐賀県武雄市武雄町富岡7809

文:庄司賢吾
写真:菅井俊之

※2017年1月21日の記事を再編集して掲載しています