青森県立美術館はコレクション展が面白い!北国から考える「美しさ」とは

青森に来たら、必ず立ち寄りたい場所があります。

奈良美智さんの「あおもり犬」でもおなじみの青森県立美術館です。

隣接する「三内丸山 (さんないまるやま) 縄文遺跡」の発掘現場に着想を得て設計されたという真っ白な建物。

青森県立美術館

「青森県の芸術風土を世界に向けて発信する」場として、2006年7月に開館しました。

実は奈良美智さんだけでなく、あの世界に誇る版画家や、日本を代表する詩人、あの人気特撮ヒーローを手がけたデザイナーも青森県出身。

彼らに共通する「青森の芸術風土」とは、一体どんなものなのでしょう。

青森県立美術館の池田亨さんに、館内を案内いただきながら、青森が生んだ「美」の数々とその楽しみ方について教えてもらいました。

デザインに落とし込まれた青森らしさ

青森県立美術館は、「地域と風土に密着した芸術を重視するとともに、豊かな感性を養い、未来の創造に資することのできるような美術資料の収集を行う」という理念のもと、作品をコレクションしています。

「青森のものづくりには、デザイン性と郷土性の両方が感じられます。

美術館としても、青森らしさと同時に、建築やヴィジュアル・アイデンティティ (VI) などデザイン面も重視しています」

ということで、まずは空間の中の「らしさ」に注目してみましょう。

真っ白な建物の設計は建築家の青木淳さん。シンボルマーク、ロゴタイプなど総合的なビジュアルイメージを設計するヴィジュアル・アイデンティティ (VI) は、アートディレクター・グラフィックデザイナーの菊地敦己さんが手がけています。

「VIを作る際、『青森らしさ』を象徴する基本色を3つに決めました。

隣に三内丸山縄文遺跡があることや土の展示室があることから、『茶』。

青森の『青』。そして、雪のイメージの『白』です」

美術館では、基本的にその3色が使われているといいます。

スタッフさんの制服は「ミナ ペルホネン」。基本色である茶色と青をベースに、ちょうちょやタンバリンが刺繍されています。

青森県立美術館
バックヤードには制服がずらり
青森県立美術館の制服

白い建物の入口には、何やら木のような形の青いネオン管が壁面に‥‥。

青森県立美術館
青森県立美術館

これは青森を連想させる文字「木」と「A」をモチーフに、「青い木が集まって森になる」様を表現したというシンボルマークなのだそう。まさに青い森、青森なのです。

さらに、美術館のバックヤードも特別に見せてもらうと、とても素敵な空間でした。

青森県立美術館
廊下には茶色いランプ。青森の木工ブランド「BUNACO (ブナコ) 」のものです
青森県立美術館
一般の人の目には触れないオフィス棟のサインもしっかりデザインされています

キーワードは「総合芸術」

こうしたデザインにも力を入れるのは、美術館が「総合芸術パーク」という構想のもとに作られたから。

いわゆる美術やアートだけでなく、音楽や演劇、デザイン、こぎん刺しなど地域の工芸も含めて幅広く「総合芸術」として扱っています。

美術館の中心部の大きなホールには、そのことを象徴するかのように、マルク・シャガールが手がけた舞台美術、バレエ「アレコ」のための背景画が展示されていました。

「そもそも、美術やアートと工芸や民藝との間にあまり垣根がなく、シームレスに繋がっているような感覚があります。

たとえば、青森には『ねぷた』がありますが、ねぷたの技法を現代アーティストが使っていたり、逆にねぷたの作り手が他の技術からインスピレーションを得たりと、そこに垣根はあまりないんです。

芸術的なものと土着的・民族的なものとの間に色々なものが生まれているような感じですね」

「北国らしいデザインとは?」を考えるコレクション展

池田さんの言葉のように、こちらは現代アート、そちらは工芸、と分断せずつながりで見ていくと、青森の「美」は面白いようです。

それがよくわかるのが、年に数回テーマを変えて所蔵品を展示するコレクション展。

現在開催中の「デザインあれこれ」展 (7月7日まで) では、デザインという切り口で、青森にゆかりある郷土作家の作品を中心に様々なものを展示しています。

これはフィンランドの建築家・デザイナーのアルヴァ・アアルト展 (6月23日まで) との同時開催。「北国らしいデザインとは?」という視点で一緒に企画したそうです。

青森県立美術館

タイトルの下に連ねられた作家たちの中でも、やはり青森の美術を語るうえで欠かせないのが棟方志功です。

展示室の一角には、棟方が手がけた各地の和菓子屋や焼き物窯などのパッケージデザインがずらりと並んでいました。

青森県立美術館
こちらは青森市・浅虫温泉にある棟方ゆかりの老舗旅館「椿館」の紙袋と包装紙
青森県立美術館
青森県内だけでなく、東京や大阪、沖縄など各地のお店にわたることからも、棟方の人気ぶりがうかがえます
青森県立美術館

棟方は、出世作ともなった「大和し美 (うるわ) し」が民藝運動を担う濱田庄司や柳宗悦らに注目されたことをきっかけに、民藝の作家らとの交流を深め、多大な影響を受けたといいます。

「青森では棟方をはじめ、版画がもともとすごく盛んなんです。そういう棟方の作品の奥にある土着性も、民藝運動の人たちの心に訴えかけるものがあったのかもしれません」

同じ青森出身でも、民藝を感じさせる棟方志功の展示があったと思えば、初期ウルトラシリーズのデザインを担当した成田亨のデザイン原画や彫刻、寺山修司主宰の劇団「天井棧敷」のポスターなども並び、やはり収集されているコレクションの幅広さを感じます。

青森県立美術館
横尾忠則や宇野亞喜良らがデザインした「天井棧敷」のポスター
青森県立美術館
ガラス作家、石井康治さんの作品。北国の四季を彩り豊かに表現

こうした展示が可能なのも、青森県立美術館が「総合芸術パーク」を掲げているからなのでしょう。

北欧と青森を結ぶ、北国ならではの「やさしさ」

そんなコレクション展の中でも、工芸好き、プロダクト好きの心をグッとつかむのが「BUNACO (ブナコ) 」の展示でした。

青森県立美術館

BUNACOとは、ブナの木をテープ状にしたものを巻き重ねて作った青森の木工品。日本一の蓄積量を誇る青森のブナの木を有効利用するために考え出されたものです。ティッシュボックスやスピーカー、食器などがあります。

収蔵品ではないものの、アアルト展に合わせ、青森ならではの工芸デザインとして展示しているのだそうです。

「アアルトの椅子も薄く削いだ材料を重ねて成形合板のようにして作られていたりと、製法にも似たところがありますし、フィンランドと青森という、同じ北国ならではの『やさしさ』みたいなものがあると思うんです。

人間の暮らしを取り巻く光や、音を大事にする感覚。人に寄り添うような工芸デザインの在り方。どちらも北国らしい共通点です。

アアルトがフィンランドを代表するデザインなのだとしたら、青森にはBUNACOがある、と紹介したいんですよね」

青森県立美術館
こちらはスピーカー。スピーカーには見えないほど、スタイリッシュです
青森県立美術館
割れや歪みが少なく、従来の木工品と比較して造形の自由度が高いのも特長。ランプシェードも様々な形があります

デザインは生活の中から生まれる

青森県立美術館では過去に、青森らしい工芸デザインとしてこぎん刺しや、民藝的な視点で蓑などの民具を展示したこともあるとのこと。

それらに共通する「青森らしさ」とは、どんなところにあるのでしょう?

「一つは、やっぱり、生活の中から生まれたデザインというところ。防寒から始まったこぎん刺しに代表されるように、その土地の人々の暮らしから生まれたものが、一番多いんじゃないでしょうか。

それと、長く寒い冬を過ごす北国ならではの、根気のいる手わざみたいなものは、共通点としてあるんじゃないのかなと思います。何度も版を重ねてつくる版画も、まさにそうですよね」

冬の厳しさが生む青森の「美」。

表現の形は様々あれど、そこには、どこか人に寄り添う「やさしさ」や「ぬくもり」を感じられそうです。

そんな「青森」を見つけに、青森県立美術館に足を運んでみてはいかがでしょうか。

<取材協力>

青森県立美術館

青森県青森市安田字近野185

http://www.aomori-museum.jp

文:岩本恵美

写真:船橋陽馬

コルビュジエが教え、タウトが驚いた必見の近代建築が青森にある

日本の近代建築の旗手、前川國男。東京文化会館や東京都美術館などの代表作は、みなさん一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

師事したのは、ル・コルビュジエ。あの丹下健三も前川のもとで働いていたといいます。

前川國男
前川國男。1928年 (昭和3年) に東京帝国大学 (現・東京大学) の建築学科を卒業後、すぐにフランスへと留学して、ル・コルビュジエに師事。2年間の修行を経て帰国し、東京女子大学や東京・銀座の教文館ビルなどの設計で知られるアントニン・レーモンドの事務所でさらに経験を積み、独立。日本の近代建築をリードしてきました

そんな前川國男の初作品という建築ファン必見の建物が、青森県弘前市にあるのをご存知でしょうか?

その記念すべき前川建築第1号が「木村産業研究所」です。

JR弘前駅から車で10分ほど、静かな住宅街の中に真っ白な建物が建っていました。

木村産業研究所
木造ではなく、コンクリートでできています

現在、建物1階には地域伝統の「こぎん刺し」を今に伝える「弘前こぎん研究所」が入っているので、こちらの名前で知っている人も多いかもしれません。受付に声をかければ誰でも見学することができます。


*「弘前こぎん研究所」の取り組みについての記事はこちら:「津軽こぎん刺しを広める『弘前こぎん研究所』に聞いた、『作って楽しい』伝統の守り方。」

「東京にも負けない建築だと思いますよ」

そう語る、木村産業研究所の理事長、木村文丸さんにお話を伺いました。

前川建築第1号が弘前にできたワケ

それにしても、なぜ、前川國男の建築がここに?

「私の叔父である木村隆三が依頼したのだそうです」

フランス大使館付の武官としてパリに渡っていた隆三さんは、現地で産業を研究する機関を見学し、祖父である静幽 (せいゆう) さんの遺言に従って弘前の地場産業振興のための機関を作ろうと考えていたといいます。

ちょうどその頃、ル・コルビュジエのもとで学んでいた前川國男とも知り合い、親交を深めたのだとか。

「隆三は前川より10歳ほど年上で、いわば兄のような存在。前川をパリのバーやクラブに連れて行ったり、街のあちこちを見せて回ったようです。

パリの生きた文化や街の様子に触れたことは、その後の前川の建築家人生にも少なからぬ影響を与えたのではと思います」

こうして、前川が2年間の留学から日本へ帰る船の上で、隆三さんは故郷に建設を考えていた、あの機関の設計を提案します。

「修行を終えたばかりの自分にまさか」と思っていた前川は、帰国後に正式に設計依頼を受けた際、大変喜んだそうです。

1932年 (昭和7年) 、こうして弘前の地に前川建築の第1号「木村産業研究所」が誕生しました。

「依頼にあたって、叔父は一切を任せたと聞いています。前川にとっては帰国後初の仕事。この建物にコルビュジエのもとで学んだ全てを注ぎ込もうという心意気だったでしょうね」

コルビュジエ仕込みのモダン建築

「まず、玄関の天井を見上げてみてください。これだけでも『おっ!』となるはずです」

見上げてみると、ハッとするほど真っ赤な天井。白い壁とのコントラストが何ともモダンです。

木村産業研究所
木村産業研究所
建物の右手奥にあるピロティ部分の天井も鮮やかな赤でした

さらに建物の細部を見ていくと、竣工当時は珍しかったであろう素材が随所に使われていることに驚かされます。

木村産業研究所
バルコニーには大きなガラスの窓とスチールのサッシ
木村産業研究所
玄関も全面ガラス張り
木村産業研究所
トイレのドアノブはなんとクリスタル! (手前と奥とで色が違うのもおしゃれです)
あああ
2階の階段踊り場の床は、小さなタイルを使って青く縁取るようなモザイクになっていました

「叔父は依頼の際、10万円を好きに使っていいと前川に託したそうです。現在でいえば億単位のお金です。

これを生かして前川は、当時の日本では手に入らなかったような最先端の建材を海外から採用し、思い描いた理想の建物に仕上げたのだと思います」

ブルーノ・タウトもびっくり

当時、まわりは武家屋敷ばかり。そんな中で、木村産業研究所はひときわ目立っていたはずです。

ドイツの建築家、ブルーノ・タウトは、1935年 (昭和10年) に弘前を訪れた際、どうして日本の北の果てにコルビュジエ風の建物があるのかと驚いたそう。

よほど印象的だったのか、著書『日本美の再発見』でも「コルビュジエ風の新しい白亜の建物」と書き残しています。

とはいえ、木村さんにとっては日常の風景。

「父から『優秀な建築家が作ったものだ』とは聞いていたが、この建物は自分にとっては当たり前にあるものでした。大学に進学して、読んでいた本に木村産業研究所が紹介されていて、そこで大したものなのだと見直したくらい」

それほどこの建物は、時を経て弘前の人々にとっても馴染み深くなったということなのでしょう。

この研究所をきっかけに、前川はその後も弘前で数々の建築を手がけ、現在弘前では8つの前川建築を見ることができます。

その足跡を感じられるよう、木村産業研究所の2階には、弘前市民の手によって作られた「前川國男プチ博物館」があります。

木村産業研究所
「前川國男プチ博物館」の入口

前川國男の年表や手書きの図面のほか、市内にある8つの前川建築を写真パネルや模型などで紹介し、より多くの人に前川本人やその作品に親しんでもらおうという思いで2011年 (平成23年) に完成しました。

前川國男プチ博物館

その2年後には、凍害で取り壊されていたバルコニーが復元。工事費の一部は、市民の募金でまかなわれたといいます。

これまでも、これからも、弘前の人々の思いで後世に引き継がれていく貴重な前川建築。「こぎん刺し」巡りと合わせて、ぜひ建築探訪も楽しんでみては。

<取材協力>

木村産業研究所

青森県弘前市在府町61

前川國男プチ博物館 (前川國男の建物を大切にする会)

文:岩本恵美

写真:岩本恵美、船橋陽馬

遊びに行けるクラフト発信基地、しょうぶ学園。「快を求める」ものづくり現場に密着

鹿児島市郊外にある障がい者支援施設「しょうぶ学園」。

施設内の工房で生み出される独創的な作品で、工芸やアート界でも注目の存在です。

福祉施設というと、一般の人は入りにくいイメージですが、しょうぶ学園は違います。

入り口には門もなく、「カフェ」や「手打ちそば」「工房」といった文字が記された、何やら美味しそうで楽しげな看板の数々。

しょうぶ学園入り口

そんなオープンな雰囲気に誘われて、園内へ。しょうぶ学園のものづくりの現場をはじめ、憩いの場としても楽しめる見どころを巡ってみました。

前編記事はこちら:「アート界注目の『しょうぶ学園』立役者 福森伸さんに聞く、才能の見つけ方」

開かれた場所を目指して

「ここは本当に福祉施設なの?」

そんなことを思いながら足を踏み入れてみると、そこはまるで公園のような場所。緑も豊かで、ロバや羊もいます。

しょうぶ学園
しょうぶ学園

そして、入り口にあった看板どおり、カフェや蕎麦屋もありました。

しょうぶ学園

「一般的に福祉施設というと閉鎖的な感じがするかと思うんですけど、施設長の福森の考えで、誰でも気軽に来れるような空間づくりをしています。美味しいものが食べられたり、何かモノが買えたりしたら、人も集まりやすいかなということで始めたんです」

そう教えてくれたのは、しょうぶ学園スタッフの壽浦 (じゅうら) 翼さんです。

しょうぶ学園 パン工房 ポンピ堂
「パン工房 ポンピ堂」は園内で最初にできた食の工房。販売用のほか、寮で提供するパンも作っています

みんなで作り上げていく環境

こちらのカラフルな水玉模様が描かれた建物は、地域交流スペース Omni House(オムニハウス)。

このどんぐりのような柄は、施設利用者の方が描いた絵がモチーフなのだそう。木製のドアはスタッフが製作したものだといいます。

しょうぶ学園

建物の1階にはクラフトショップがあり、ここには園内の工房で作られたものをはじめ、スタッフが見つけたという全国各地の民芸品が並んでいました。

しょうぶ学園
鉢植えは素焼きの鉢に施設利用者の方がペイントして販売

「鉢植えの植物の一部は、施設利用者とスタッフを交えた園芸班が育てたものです」と壽浦さん。

園内のビニールハウスに案内してもらうと、鉢植え用の多肉植物や野菜の苗がずらり。園内には畑もあり、野菜を育ててはレストランで使ったり、そのまま販売したりしているそうです。

しょうぶ学園
しょうぶ学園
ビニールハウスの絵はスタッフが描いたもの
しょうぶ学園
しょうぶ学園
こちらのツリーハウスでは食事も可能。製作はスタッフによるものです

園内にあるさまざまなものが利用者とスタッフの手によって作られており、まさに学園全体が一つの作品のよう。

宝物を探すように、ものづくりのカケラを探して園内を巡ってみるのも楽しそうです。

日中はものづくり三昧

一般的に福祉施設での日中の活動として多いのは、ものづくりやアート、軽作業など。ものづくりやアートに力を入れているところは多いものの、しょうぶ学園はやっぱりちょっと違います。

たとえば、利用者の方が描いた絵をTシャツにプリントするにしても、外注はせずにシルクスクリーンでスタッフが一枚一枚刷るという、徹底したものづくりなのです。

ここからは壽浦さんの案内で、普段は入れない工房へと向かいます。

創意工夫にあふれた「木の工房」

まずやってきたのは「木の工房」。スタッフ3名、利用者15名前後で、定番商品の手彫りのお皿をはじめ、木像やボタンなどの木工作品を作っています。

「どこの工房も基本的には利用者さんの手作業ありきです。できることはやってもらい、それを商品化するためのアイデアをスタッフが出すというやり方をしています」

しょうぶ学園
しょうぶ学園
こちらは丸太から木像を彫っているところ。女性スタッフをモデルにしているのだとか
しょうぶ学園

利用者の皆さんの独創的な作品にも目を奪われますが、道具類にも工夫が施されているのが面白いところ。

しょうぶ学園
使いやすい形に手作りされた作業台。丸く空いた穴にハンマーが置けるようです

こちらの利用者の方が手でくるくると回している、これは何でしょう?

しょうぶ学園
箱の中にはやすりが入っています

なんと、角ばった木のボタンを箱に入れてしばらく回すと、角がとれて丸みのある柔らかい形になる装置でした!

しょうぶ学園
右がビフォア、左の2つがアフターです

「これも利用者さんにできることをやってもらおうと、スタッフが工夫したものなんです」

静かに黙々と‥‥。集中力が研ぎ澄まされている「土の工房」

続いて、「土の工房」へ。「木の工房」と同じく、スタッフ3名、利用者15名前後で、陶のオブジェやお面、ブローチなどを作っています。

しょうぶ学園

絵付け作業があるせいか、「木の工房」よりもアート性が強い印象です。

皆さん、黙々と作業に集中しています。

しょうぶ学園
しょうぶ学園

「指導や作業ノルマはありません。基本的にものづくりは自由にやってもらっています。

いま彼が作っているサイコロ状のものは四角いので焼くと爆発してしまうらしいんですけど、好きに作ってもらっています。

しょうぶ学園のものづくりは、利益よりも利用者の活動を紹介するという部分が大きいです」と壽浦さん。

しょうぶ学園

仕上げを含め、利用者が作ったものをどう活用するのか考えるのはスタッフの仕事。

そして、それぞれにとって居心地がいい環境を整えるのもスタッフの役割だと言います。

個人作業が好きな利用者には個人のスペースも用意され、それぞれに居心地のよい環境で作業できるようになっていました。

縫い方にルールなし!多彩な表現が生まれる「布の工房」

次にやってきたのは「布」の工房です。利用者25名という、先の2つよりも大所帯の工房で行われるのは、主に刺繍と織りの作業。

織りは裂き織りがメイン。学園設立当初に大島紬の下請けをやっていたこともあり、本格的な織り機もあります。

しょうぶ学園
しょうぶ学園

刺繍は縫い方も自由自在で、こんな立体的な刺繍をしている人たちもいました。

しょうぶ学園

こちらのシャツは、布の工房発のプロジェクト「ヌイ・プロジェクト」から生まれた一作。

しょうぶ学園
しょうぶ学園

シャツの面が見えないくらいに刺繍が施されています。製作には5年ほどかかったのだとか。

「利用者の方は自分の作品が大々的に展示されていても興味がなかったり、作品が売れてお金が入っても何とも思わなかったりするんですよ。潔いですよね。

だからこそ、同じものを何年も作っている方や、こうして『縫う』という一つの作業を継続できるのかもしれないとも思います」

ものづくりのひと時が楽しい。

そんなシンプルな気持ちを積み重ねていっているのかもしれません。

床や壁にも絵がいっぱい!にぎやかな雰囲気の「和紙 / 絵画造形の工房」

最後は、「和紙 / 絵画造形の工房」へ。こちらでは利用者の方々が、楮 (こうぞ) と雁皮 (がんぴ) の原材料から和紙を作ったり、絵を描いたり造形したりしています。

しょうぶ学園
しょうぶ学園

ここは他の工房とはまた雰囲気が違い、床や壁、机にも絵がいっぱい描き込まれていて、何だかにぎやかな様子。

しょうぶ学園

ちょうどスタッフが利用者の方が描いたイラストを使ってTシャツを作る作業をしていました。

描線のみのイラストをシルクスクリーンでTシャツにプリント。

色は塗ったり塗らなかったり、イラストに合わせて判断し、最後の仕上げのお手伝いをしていると言います。

まさに作品がプロダクトとなるところです。

しょうぶ学園

「利用者は『快』という中で何かを生む。

僕らスタッフは喜怒哀楽しながら『創意工夫』をしてプロダクトに仕上げる」

福森さんの言葉が目の前で現実となっていました。

「ものづくりは人間の根元にあるものだと思います。ものをつくることは、生きることなんですよ」と福森さんは言います。

私たちが「しょうぶ学園」のものづくりに惹かれる理由は、ここにあるのかもしれません。

ここにいる誰もが「ものづくり」=「生きること」にまっすぐに向かっているから。

彼らから生み出されるものは、喜びで満ち溢れている。

それに惹きつけられるのは、もはや人間の本能なのではないでしょうか。

<取材協力>
社会福祉法人太陽会 しょうぶ学園
鹿児島県鹿児島市吉野町5066
http://www.shobu.jp/index.html

※園内のお店の営業時間などは上の公式サイトからご確認ください。
※工房は通常非公開です。記事で雰囲気を感じていただけたら嬉しいです!

文:岩本恵美
写真:尾島可奈子

マスキングテープ愛に溢れた「mt」の工場へ潜入!

もはや「手離せない文房具」となっている人がたくさんいそうなマスキングテープ。

その魅力をもっと知りたくて、自社ブランド「mt」を展開する業界のパイオニア、カモ井加工紙さんにお話を伺うべく、岡山県倉敷まで行ってきました。

カモ井加工紙さんの歴史をはじめ、マスキングテープを業務用から文房具まで展開するようになった経緯について教えてもらった前回

今回は、工場を含め、カモ井加工紙さんの社内をいろいろ探検していきます。

見渡せば、マステだらけ。「mt」ファン垂涎の史料室

まず、訪ねたのは史料室。普段は一般公開されていないという貴重なお部屋です。

カモ井加工紙の史料室

壁をよーく見ると‥‥

実は細かな縞模様のように見えるもの全て、マスキングテープなんです!

カモ井加工紙の史料室
カモ井加工紙の史料室

もちろん、ここに並んでいるのが全てではありません。現在、年間600種類以上を生産しており、その数は累計2000種以上にも及ぶのだとか。

他にも、史料室にはマスキングテープを使った貴重な資料の数々があります。

カモ井加工紙の史料室
様々なマスキングテープの模様をあしらったノベルティTシャツ
カモ井加工紙の史料室
ブランド「ミナ・ペルホネン」とのコラボアイテムも
カモ井加工紙の史料室
mtのマスキングテープはグッドデザイン賞も受賞しています
カモ井加工紙の史料室
その他、カモ井加工紙さんの原点であるハイトリ紙に関連する展示も
カモ井加工紙の史料室

こんなところにも!マステ活用術あれこれ

カモ井加工紙さんの工場敷地内で、こんなマステ仕様の自転車を発見。

カモ井加工紙の史料室

こちらの小屋のようなものにも、マスキングテープがあるのですが、わかりますか?

カモ井加工紙の工場敷地内

一見するとタイルのように見える壁や床が、実はマスキングテープなんです。

カモ井加工紙の工場敷地内

もともとは車の塗装や建設現場の養生のために生み出されたマスキングテープ。

カモ井加工紙のマスキングテープ

壁などを保護していた業務用のテープが文房具に姿を変え、デザインとして壁や床を飾っています。

いざ、「mt」の工場見学へ!

2012年からは工場見学を含む「ファクトリーツアー」を始めたカモ井加工紙さん。年に1回の開催という、貴重なツアーですが、今回特別に「さんち」にてチラッと工場の様子をお伝えします。

もちろん、工場だってマステ仕様。

工場入口にも、しっかりとマスキングテープが貼られていました。

カモ井加工紙 工場入口

中に入ると、マスキングテープで作られた標語が目に飛び込んできます。

カモ井加工紙の工場内
カモ井加工紙の工場内
ところどころの柱にも、マスキングテープでできた標語が!
カモ井加工紙の工場内
無機質なロッカーやエアコンはマスキングテープで明るくカラフルに
カモ井加工紙の工場内
フォークリフトもマスキングテープとおそろいの柄です

機械のある作業場では、マスキングテープを大巻きから小巻きに巻き取っている最中でした。

カモ井加工紙工場の巻き取り機
カモ井加工紙工場の巻き取り機

小巻きにされたマスキングテープは、こんな形で裁断機でカットされるのを待ちます。

カモ井加工紙の工場内
カモ井加工紙の工場内
その立ち姿は一見すると包装紙!?

裁断機にのせられ、次々とカットされていく様はまるで金太郎飴のようです。

カモ井加工紙工場の裁断機
カモ井加工紙工場の裁断機
カモ井加工紙工場 裁断の様子
見慣れたサイズのマスキングテープに

こうして、私たちの手元に届く、おなじみのmtの姿になっていきます。

カモ井加工紙のマスキングテープ「mt」
カモ井加工紙工場の倉庫
倉庫には、出荷を待つマスキングテープがたくさん並んでいました

何から何まで、マステづくしの工場内。

実は、ご案内いただいた、専務取締役の谷口幸生さん、mtの企画・広報担当の高塚新さんの持ち物もマステ仕様になっていました。

カモ井加工紙担当者の手帳
手帳のカバーをマスキングテープでデコレーション
カモ井加工紙担当者のスマホ
スマホカバーだってマスキングテープでアレンジしちゃいます

工場からも社員の方々からも、どこを見渡してもあふれ出んばかりのマステ愛。さすが、マスキングテープのパイオニア、カモ井加工紙さんです。

年に一度のファクトリーツアーでは、史料室や工場の見学のほか、mtの量り売りや手切り体験なども楽しめるとのこと。

大人気ツアーのため、抽選になることほぼ間違いなしですが、運試しも兼ねてぜひ一度挑戦してみてはいかがでしょうか。愛情たっぷりの製造現場に触れたら、マスキングテープがますます手離せなくなりそうです。

<取材協力>
カモ井加工紙株式会社
https://www.kamoi-net.co.jp/
「mt」ブランドサイト

文:岩本恵美
写真:尾島可奈子

※こちらは、2018年5月2日の記事を再編集して公開いたしました。かわいいマスキングテープ。クリスマスや年末年始にも活躍してくれそうです。

人気のマスキングテープ「mt」を生んだ “和紙の透け感がかわいい”という感覚

みなさんには「手離せない文房具」はありますか?100均やコンビニでも手軽に買える文房具ですが、自分にあったものとなると、なかなか出会えないものです。

そんな中で、ノートはこれ、万年筆はこれ、と指名買いされる文房具があります。手離せない理由はどこにあるのか?身近で奥深い、文房具の世界に分け入ってみましょう。

人気文房具マスキングテープを世に広めたカモ井加工紙の「mt」

人気文房具のマスキングテープ。

その使い方は実に幅広く、専門の本まで出るほど。

今となっては、当たり前のように文房具コーナーに色とりどり、柄もさまざまなマスキングテープが並んでいますが、もともとマスキングテープって文房具ではなく、業務用の道具だったのをご存知ですか?

その誕生の秘密が知りたくて、文房具としてのマスキングテープを世に広めたカモ井加工紙株式会社さんにお話を聞いてきました。

マステ「mt」の秘密その1、原点はハイトリ紙

マスキングテープのシェア9割を誇るカモ井加工紙さんの本社は、岡山県倉敷にあります。

カモ井加工紙本社

そのはじまりは、さかのぼること95年前、1923年に創業者の鴨井利郎氏が「ハイトリ紙」の製造を始めたことから。

ハイトリ紙とは、飛んでいるハエを捕らえる粘着面がある紙。ちなみに岡山弁ではかつて、ハエのことを「ハイ」と呼んでいたそう。

粘着剤がついたリボン状やシート状のこんな紙をおばあちゃん家などで見たことありませんか?

カモ井加工紙のハイトリ紙
カモ井加工紙のハイトリ紙。左は平型、右はリボン型
カモ井加工紙のハイトリ紙
お話を伺った専務取締役の谷口幸生さん。使い方を実演してくださいました
お話を伺った専務取締役の谷口幸生さん。使い方を実演してくださいました

食品問屋出身の初代が食品に寄って来るハエをどうにかできないかと、ハイトリ紙を作り始めたといいます。その延長で、殺虫剤を製造していたことも。食品の天敵である害虫を退治するハイトリ紙や殺虫剤は人気商品となりました。

ハイトリ紙と殺虫剤のポスター
レトロな当時のポスター
カモ井加工紙の機械
ハイトリ紙を製造していたかつての機械

マステ「mt」の秘密その2、時代のニーズに合わせて変化

1960年代に入り、高度経済成長を迎えると、ハイトリ紙で培った粘着技術を活用して、紙製の粘着テープを作るように。これがカモ井加工紙さんのマスキングテープの原型です。

カモ井加工紙の業務用マスキングテープ

そもそもマスキングテープの「マスキング」とは「覆い隠す、養生する」という意味。

大衆車として自動車の需要が増えていった時代は、車の塗装用として活躍したのだとか。車をこすったり、ぶつけたりして塗料がはがれた際に、その周りにテープを貼ってマスキングすることできれいに塗りなおすことができます。

カモ井加工紙の業務用マスキングテープ
当初は青がマステのスタンダード色。その後、さまざまなカラーバリエーションが生まれました。ちなみに、車用にはテープが目立つように車体の色として稀な黄色を採用

さらに時代は進み、1970年代になると、超高層ビルの建築ラッシュに。建築現場では、シーリング用の養生テープとして重宝されました。

業務用のマスキングテープは、薄くて丈夫なことが大事。素材には、薄さと強度を併せ持つ和紙が採用されています。

カモ井加工紙の業務用マスキングテープ
その薄さは、窓の向こうが透けて見えるほど

こうして、マスキングテープは時代の変化に合わせて用途を広げながら、業務用として塗装や建築のプロたちから絶大な支持を受けたのでした。

マステ「mt」の秘密その3、文房具としてのマステのきっかけは“工場見学”だった

そんなプロたちが愛用するアイテムに目をつけたのが、とある3人の女性たち。

「貼ってはがせる」「手で簡単に切れる」「文字が書ける」「透け感がかわいい」と、メーカーや職人たちとはちょっと違う、独自の視点でマスキングテープに価値を見出していました。

その熱心さは、ホームセンターなどを巡り、各社のマスキングテープを買い集めては比較研究していたほど。

カモ井加工紙資料室
彼女たちが作ったマスキングテープの本
カモ井加工紙資料室
マステ愛があふれています

「マスキングテープの生まれるところを見に行きたい」。

新たな本を作るべく、各製造元に工場見学を申し込んだ彼女たち。そのリクエストに応えたのが、カモ井加工紙さんでした。

2006年に彼女たちが工場見学にやってくると、それまでカモ井加工紙さんが気づかなかったようなマスキングテープの可能性を示してくれました。

業務用のマスキングテープに文字を書くことはなかったが、もともとテープに塗料がのるように作られていたことから、結果として「文字が書ける」テープであったこと。

プロとしてはテープはまっすぐ切りたいところも、彼女たちにとってはギザギザの切り口がかわいいという新しい感覚。

テープの薄さと丈夫さを追求して辿り着いた和紙に、かわいい“透け感”があるということ。

そして、「もっとカラフルなマスキングテープを作ってほしい」との要望。

「とにかく、彼女たちの熱量がすごかったんですよ。熱意がすごく伝わってきて、突き動かされました。ものづくりをする立場として面白く感じたので、じゃあ、やってみようということになって」と谷口さん。

こうして、文具・雑貨向けマスキングテープ「mt」の商品開発がスタート。

彼女たちの望みの色を出すのには苦労したそうです。

「非常にバランスが微妙な中間色だったんですよ。それを再現するのが結構大変でした」とmtの企画・広報を担当された高塚新さんは振り返ります。

そして、およそ2年の月日をかけて、誕生したのがこちら。2008年にmt初のアイテムとして発売されました。

カモ井加工紙のマスキングテープ「mt」

これまでに作られたmtのマスキングテープは2000種類以上。今でも年に600種類ほどが新しく追加されているというから驚きです。

現在、カモ井加工紙さんのマスキングテープの製造は、業務用が8割、文具・雑貨用が2割とのことですが、業務用も文具・雑貨用も基本的な製造方法は同じなのでmtの商品開発に手をかけるのは苦ではないそう。

これも全て、カモ井加工紙さんのものづくりの核となる「粘着技術」を活かした商品だからこそ。

「全く関係のないものを作ってほしいいと言われたら、お断りしていたと思うんですよ。これまでと近しいところのものづくりをやって、業界やお客さんが変わるというのは面白かったですね」と谷口さん。

さらに、mtの誕生は、マスキングテープを手にするお客さんを職人から一般の人に変えただけでなく、カモ井加工紙に入社を志望する人たちも変えたといいます。

mtが世に広まることでカモ井加工紙の認知度もアップし、「何か面白いことができる場所」として認識されるように。志望者にはデザイナーや外国の人もいるのだとか。

カモ井加工紙さんが培ってきた粘着技術とマスキングテープへの深い愛が感じられる工場に潜入した記事はこちら

<取材協力>
カモ井加工紙株式会社
https://www.kamoi-net.co.jp/
「mt」ブランドサイト

文:岩本恵美
写真:尾島可奈子

※こちらは、2018年4月19日の記事を再編集して公開しました。

見て、触れて、食べられる工芸品。金沢・ひがし茶屋街で金箔尽くしの旅

九谷焼や漆器と並び、金沢を代表する工芸、金箔。

金と微量の銀や銅などを混ぜ合わせ、薄さ1万分の1ミリほどまで打ち伸ばしたものです。国内で生産される金箔のうち、なんと99%は金沢産のものだといいます。

茶屋が軒を連ね、情緒溢れるひがし茶屋街には、金沢の中でも金箔をさまざまな形で楽しめるスポットがたくさん。仏像や仏壇といったイメージとはひと味違う金箔を探しに、ひがし茶屋街を歩いてみることにしましょう。

金沢・ひがし茶屋街
ひがし茶屋街の一角

金箔を制するには、金箔を知ることから

まずは、金箔のことを学べる金沢市立安江金箔工芸館へ。

金沢市立安江金箔工芸館
金沢市立安江金箔工芸館
金沢市立安江金箔工芸館
看板も金箔仕様

金箔職人であった故・安江孝明氏が「金箔職人の誇りとその証」を後世に残したいとの思いから、金箔にまつわる道具や美術品を収集して設立した同館。その後、市に寄贈され、国内で唯一の金箔の博物館となっています。

常設展示室に入ると、金箔が出来上がるまでのいくつもの細かい工程に驚かされます。

特に意外なのが、金箔づくりにおける和紙の存在。箔打ちの際に金箔1枚ずつの間に入れられる箔打ち紙の出来で、金箔の仕上がりも左右されるのだとか。そのため、この和紙の仕込みも箔職人が担います。

金沢市立安江金箔工芸館
金沢市立安江金箔工芸館

工程の解説や道具類の展示のほか、科学的な視点から金箔を紹介するコーナーも。

金箔をマイクロスコープで観察してみたり、光に透かすと金箔がどんな色になるのかを見てみたりなど、理科の授業のようで好奇心をくすぐられます。

金を取り入れて運気アップ

金箔の知識を深めたら、頭を使ったことですし、甘いもので糖分チャージしましょう。

元祖金箔ソフトクリームが食べられる「箔一」東山店へ。

箔一 東山店

店内には、金箔コスメや金箔コーヒー、工芸品など金箔を使ったさまざまな商品が並んでいます。

箔一 東山店

入ってすぐのカウンターでソフトクリームをオーダー。店員さんが慣れた手つきでサッと1枚の金箔をソフトクリームにのせていきます。

箔一の金箔ソフトクリーム

豪華なソフトクリームを目の前に、食べるのがもったいないと思いつつも、思い切って一口パクリ。金箔入りのスイーツやお酒はありますが、どれも金箔は細かいもの。約10cm角の金箔は、薄くて少し口に触れただけで唇にふわりとくっつきます。
お味はというと無味無臭。食材の味をそのまま楽しめるようです。

金箔は体内で吸収されることはなく、人体には影響はないそう。見た目の華やかさはもちろん、金を体内に取り入れることは縁起がよいことから、食されるようになったのだとか。

箔一では工芸品に金箔を自分で貼る「箔貼り体験」もできます。今回訪れた東山店から徒歩2分ほどの「かなざわ 美かざり あさの」、または箔一の「本店 箔巧館」で楽しめます。良い旅のお土産になりますね。

金の美しい輝きに眼福

さらなる運気アップを狙って、次にやってきたのが箔座ひかり藏。ここにはなんと、「黄金の蔵」があるんです。

築100年以上の茶屋建築を改装した風情漂う店舗の奥へと進むと、中庭に眩いばかりの金の土蔵が見えます。

箔座ひかり蔵の「黄金の蔵」外観
「黄金の蔵」は左官技能士・挾土秀平さんとのコラボレーションによるもの
箔座ひかり蔵の「黄金の蔵」の内側
蔵の内壁は、もともとの壁の土に沖縄の泥藍を合わせ、その上から金箔を押して仕上げたそう。外壁と見比べると、地によって金箔の表情が異なるのがよくわかります

薄さ1万分の1ミリの金箔を外壁、内壁合わせて約2万枚使用。15年ほど経つ今まで一度も手を入れることなく、その輝きは衰えていないというから驚きです。

箔座ひかり蔵の「黄金の蔵」
蔵の傍らには、こんな金色の石を発見。「金は金を呼ぶ」との言葉があるように、触ると金運アップのご利益があるとか、ないとか

職人の手技の素晴らしさを体感

運気を上げたところで、箔押体験に挑戦してみましょう。

ここ、箔座ひかり藏では、事前に予約をすれば箔押体験ができます(予約の受付は体験希望日の前日まで。定員になり次第受付終了)。

箸やミニ色紙など、数あるメニューの中から今回選んだのは、つつみ香。お香を包む紙に金箔を施します。

箔押し体験「つつみ香」のスタンプ
箔押し体験「つつみ香」
好きな柄のスタンプを選び、インクの代わりに糊をつけて紙に押します
箔押し体験「つつみ香」
その上に金箔をオン!思わず手は震え、吹き飛ばしてはいけないと息が止まってしまいます

金箔を無事にのせたら、上から綿でポンポンと押さえて、紙に金箔を定着させます。

ここからが箔押体験の一番の醍醐味。筆で優しく金箔を払っていくと…

箔押し体験「つつみ香」
模様が綺麗に浮き出てきました。細かい模様がしっかりと出てくるので、快感です
箔押し体験「つつみ香」
出来上がったものは、旅の記念としてお土産に

実際に金箔を扱ってみると、その繊細さに驚くと同時に、職人の技のすごさを改めて実感します。

そして、金箔と一口にいっても、金属の配合具合によって色味が異なることも意外と知られていないのでは? どれも同じ金色でないのも、金箔の奥深さを物語っているようです。

金箔一覧表

金箔とともに茶屋文化に触れる

箔押体験で集中力を使ったので、ひと休みしましょう。

せっかくひがし茶屋街に来たのだから、金沢の茶屋文化も垣間見たいところ。

というわけで、箔座ひかり藏の目の前にある懐華楼 (かいかろう) へ。

懐華楼は、ひがし茶屋街で最も大きな茶屋建築。夜は「一見さんお断り」であるものの、昼間は一般公開されています。

懐華楼

まずは、併設のカフェでリラックス。

囲炉裏のある間から、「木虫籠 (きむすこ) 」と呼ばれる茶屋建築特有の格子越しに外を眺めていると、時間の流れがゆっくりになったような気がするから不思議です。

懐華楼

こちらのカフェでいただけるのが、金箔を使ったくずきり。その名も「黄金くずきり」です。

懐華楼カフェの「黄金くずきり」

自家製黒蜜の上にピンと敷かれた金箔を崩してしまうのに躊躇してしまいますが、金箔が細かくなっても、花吹雪ならぬ金吹雪のようになって綺麗なのでご安心を。

懐華楼カフェの「黄金くずきり」
懐華楼カフェの「黄金くずきり」

カフェだけの利用も可能ですが、見学を申し込むと、茶屋建築の奥まで見て回ることができます。

懐華楼
朱塗りの階段は、輪島塗。芸妓さんと並んで階段を上がれるよう、幅広の造りとなっています
懐華楼
階段を上がると、大座敷・朱の間があります
懐華楼
その先には、群青の間。身分の高い人しか入れないお座敷だったそう
懐華楼
芸妓さんの控室

特にここでしか見られないのが、1階にある金箔畳の茶室。

懐華楼
茶釜にも水差しにも金箔が施されています

金色の畳は、金箔を巻いた水引をい草の代わりに使って織りあげたもの。何とも贅沢な茶室です。

懐華楼

いつもの暮らしに金箔を

金箔畳とまではいかなくとも、金箔を暮らしに取り入れたら、ちょっと贅沢な気分が味わえそう。そんな思いを胸に、引き続き、ひがし茶屋街を歩いていると、素敵なお店を見つけました。

箔座長町
箔座長町

箔座長町では、「箔と共にある、暮らし。GO WITH GOLD LEAF」をコンセプトに、現代のライフスタイルにもなじむ金箔を使ったアイテムを提案。どちらかというと伝統工芸や和のイメージが強い金箔ですが、こんな雑貨やアクセサリーなら取り入れやすそうです。

箔座長町
箔座長町

見て、食べて、触れて楽しめる金箔。これほど幅広い楽しみ方ができる工芸品は珍しいのではないでしょうか。今回取り上げた場所以外にも金沢にはたくさんの金箔スポットがあります。ぜひ金沢で思い思いの金箔巡りを楽しんでみてください。

<取材協力>

金沢市立安江金箔工芸館

http://www.kanazawa-museum.jp/kinpaku/



箔一

http://www.hakuichi.co.jp/



箔座

https://www.hakuza.co.jp/



懐華楼

http://www.kaikaro.jp/

文:岩本恵美

写真:金沢市立安江金箔工芸館提供、岩本恵美