日本には衣食住にまつわる数多くの産地があり、個性豊かなものづくりが行われています。今日ご紹介する「大日本市」とは、日本各地から工芸メーカーが集まる合同展示会です。まさに、全国を旅するように「産地めぐり」ができるのです。
そして、それぞれが各産地の一番星を目指し、熱い思いを持って臨む一大イベントでもあります。言わば「産地の未来」を担うメーカーやトレンドを、いち早く知る場所ともいえるのです。
今回は2月上旬に東京・芝浦ふ頭にて開催された大日本市より、バイヤー&プレス限定でお披露目された52社59ブランドのうち、初出展のブランドを中心に紹介します。
気になるブランドがあれば、ぜひウェブサイトなどをチェックしてみてください!
OOO/群馬 桐生
刺繍アクセサリーブランド「OOO(トリプル・オゥ)」は、群馬・桐生で明治10年に創業した刺繍工場、株式会社笠盛が『自由な発想のものづくり』のために立ち上げたブランド。
糸のみで作られたアクセサリーは肌に優しく、一見、真珠のように見えますが、よく見るとすべてが糸の玉でできています。独自の技術を用いて、刺繍用の機械と手作業を組み合わせて、一玉ずつ作っているそうです。
また、糸でつくられているため、付けていることを忘れてしまいそうなほど軽いのも特長。金属が一切使われていないので、アレルギーを持っている方も安心して触れられます。
今回の大日本市では、「将来的にその産地を引っ張っていってほしい」という思いを込めて、実行委員会から『未来の一番星』として奨励されていました。
builderino/東京 墨田
1925年に東京・本所区(現在の墨田区)にて創業した、かんざし、飾り櫛、帯留め等の製造を行う直井装身具。下町で栄えた「かんざし飾り」の技術を、時代を超えた今でも女性のファッションのために活かし続けるために生まれたブランドが「builderino(ビルダリーノ)」です。
英語の”builder”とイタリア語の接尾語”-ino”をあわせた造語で、「小さな棟梁」という意味を持っています。
貝殻から作られる胡粉(ごふん)を用いたろう付けと呼ばれる技法で、小さなパーツを手作業でつなげています。そのため、アクセサリーひとつひとつが異なる表情を見せてくれます。
大切にしているのは「さりげない存在感と遊び心」だそう。おしゃれを追求する女性のための上質アイテムです。
series(山次製紙所)/福井 越前
1500年の歴史を持つ伝統工芸、越前和紙の可能性を広げるために山次製紙所から立ち上げられたブランドが「series(シリーズ)」です。
ブースで特に目を引いたのは、華やかなネオンカラーの茶缶。表面の凸凹模様は、越前和紙の型押しという技法を活かしたアイデアです。茶葉に限らず、小物入れとしても活躍してくれそうですよね。色違いで並べるだけでも、絵になりそうです。
鍋島 虎仙窯/佐賀 鍋島 伊万里
伝統工芸の鍋島焼を用いた、佐賀の「鍋島 虎仙窯(なべしま こせんがま)」が目指すものづくりは、美術品と量産品の間に位置する「美術的商工藝品」です。
江戸時代、将軍家や諸大名のために作られたという鍋島焼。「鍋島 虎仙窯」では、現代では美術品として評価されている鍋島様式の技術を背景にした日用品を作りだしています。
青磁の湯飲み椀を手に取ってみると、釉薬の塗りの厚みがすぐにわかります。丹精を込めた塗り重ねが、唯一無二の淡いグラデーションを演出しているのでしょう。また、美術品のような美しさにも関わらず、重ねて収納できるところも魅力のひとつです。
PAPER VALLEY/佐賀 肥前
手すき紙のプロダクトブランド「PAPER VALLEY(ペーパーバレー)」は、和紙の原料の一つである梶の木の栽培から、一枚の紙ができるまでの全ての工程を、佐賀県の名尾で行っています。
名尾は、豊かな湧き水と原料栽培に適した寒暖差をもたらす谷に位置し、かつて100軒もの紙漉き工房が軒を連ねていました。しかし現在、当工房を残すのみとなっています。
産地の最後の工房であることから、PAPER VALLEYのものづくりは「残しておきたい紙」がコンセプト。
「長年寄り添った夫婦がそれぞれに宛てる」「生まれたばかりの我が子に向けて」といったテーマを持つメッセージカードには、長所や短所、20年で一番うれしかったことなど、相手への想いを伝える欄があります。
PAPER VALLEYの谷口さんいわく、「和紙って書き直しが大変だから、間違えないように1文字ずつ丁寧に書きますよね。だからこそ、この和紙をつかったメッセージカードは、相手を思いやり、気持ちを込める時間の大切さが思い出せるアイテムなんです」とのことです。
小林製鋏/新潟 三条
江戸時代より、日本有数の刃物産地である越後三条で、昭和20年から続く老舗の小林製鋏。農家向けの収穫はさみを専門とする彼らが作ったのは、シンプルなデザインとカラーリングの園芸はさみです。
実際に握ってみると、コンパクトな作りながら、どれもしっかりと手に馴染みます。心地よい重みを感じつつ、いざ試し切りをしてみると、抵抗も少なく枝がスパっと切れました。
Good Job! センター香芝/奈良 香芝
カラフルな展示が目を引くのは、奈良の「Good Job! センター香芝」。
デジタル工作技術と障がいのある人のすぐれた手仕事を組み合わせ、民芸の新しい可能性を提案しています。3Dプリントによる細かなディテールのある張り子、貴重な春日大社境内の杉を活用したものづくりを展開しています。
ディレクターである藤井克英さんの後ろでは、張り子のベースとなる型を3Dプリンタが作っている最中でした。完成した型を手で整え、紙を貼り付けて彩色すれば完成です。通常は木製の型を3Dプリンタで置き換えることで、新しい張り子づくりを実現しています。
手書きを生かした線のゆるやかさや、独特のカラーリングが印象的な商品が多く、眺めていて飽きることがありませんでした。
Bocchi/千葉 旭市
千葉の旭市で落花生問屋を営む「株式会社セガワ」の三代目が立ち上げた、新ブランドの「Bocchi(ぼっち)」。
「畑からテーブルまで」をコンセプトに、日本の農と食を未来へ楽しく正しく繋げられるよう、製品を通したエールを送っています。
千葉県の房総半島は、落花生の一大産地。その生産量は国内の約8割を占めるといいます。豊富な千葉産の落花生を丁寧に焙煎し、20以上ものの工程を経て、ピーナッツバターが作り上げられています。
メイン商品であるピーナッツペーストを試食してみると、驚くほどの香りが広がります。自然な甘みとクリーミーな舌触りで、思わず笑顔に。
瓶を開けてみると、ピーナッツペーストと油分が2層のグラデーションになっています。これは、保存料などの食品添加物を使用していないためだそう。そのため、食べる前にスプーンでかき混ぜることが、おいしく食べる作法です。
持てる技術を、現代の暮らしへ使うブランドたち
以上、今年新しく出店したブランドを中心に「大日本市」をレポートしました。
粋を極めた技術の実演があったり、工芸品だけにとどまらず食品もあったりと、本当にさまざまな産地を旅行しているかのように楽しめた展示会でした。真心をこめた日本のものづくりはこれからも目を離せません。
<掲載情報>
OOO(トリプル・オゥ)
builderino(ビルダリーノ)
series(シリーズ)/山次製紙所
鍋島 虎仙窯
PAPER VALLEY(ペーパーバレー)
小林製鋏
Good Job! センター香芝
Bocchi(ボッチ)
文・写真:さんち編集部、石村淳