これからの問屋の生きる道。燕三条で動き出した、前例のないプロジェクト

ものづくり産地を取材していて、ふと考える。

「問屋とメーカーの関係はどうあるべきか」

オンラインでのコミュニケーションや購買行動が一般化した今、例えばオリジナルブランドを開発し、販路を含めて自分たちでコントロールしようと試みるメーカーも増えてきた。

個々のメーカーが自社の強みや特徴を見つめ直し、時代に合わせた戦い方を模索する。一方、中間流通業者としてメーカーと小売の間に入るだけでは、問屋の存在意義はどんどん薄くなっていく。

では、問屋だからこそできる仕事、生み出せる価値とはどんなものなのか。これからの時代に問屋が生きる道とは。

燕三条を体現するブランドをつくる。産地問屋 和平フレイズの挑戦

和平フレイズ
和平フレイズ
これは仮
燕三条の田園風景

世界有数の金属加工産地である新潟県 燕三条で、長年キッチンウェアづくりに関わってきた産地問屋、和平フレイズ株式会社。

同社は2019年、新たに総合キッチンウェアブランド「enzo(エンゾウ)」の発売を開始した。

※「enzo」のプロダクトに関する記事はこちら

enzo
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「enzo」プロジェクトが立ち上がったのは2017年。燕三条をブランディングするという目的のもと、和平フレイズ 林田雅彦社長が先頭に立ち、開発が進められた。

背景にあったのは、産地の現状への危機感と、林田さん自身の後悔だ。

「私自身、入社してから最初の20数年は東京支社勤務で、主に輸入品を販売していました。産地問屋に勤めていながら地場産業に貢献できていない。そんな後ろめたさも感じていたんです」

和平フレイズの林田社長
和平フレイズ 林田雅彦社長

数年前、役員として燕三条に戻ってきた林田さんは、地場産業の厳しい現実に直面する。

「業績は良くない。設備投資ができない。子どもに継がせる気はない。そんなところばかりだと聞いてショックを受けました。同級生が経営している工場もその中に含まれていたりして。

自分が小さい頃は景気も良く、実際にいい思いもさせてもらった。その地元が大変な状況だと知って、反省すると同時に、『何とかするぞ!』というモチベーションも湧いてきましたね」

「enzo」のプロダクトデザインおよびブランドディレクターを務めた堅田佳一さんは、林田さんの想いを受けて、「和平フレイズにしかできない、燕三条を体現したブランドをつくりましょう」と提案。

実は、ぎりぎりのタイミングでもあったと話す。

堅田佳一さん。新潟の燕三条をベースに活動するクリエイティブディレクター、プロダクトデザイナー
堅田佳一さん。新潟の燕三条をベースに活動するクリエイティブディレクター、プロダクトデザイナー

「このままでは、数十年後に燕三条の半数以上の企業が無くなってしまうと言われています。製造業の先細りが見えている中で、技術力のある会社に依頼は集中し、新規の仕事をお願いすることが難しくなっていく。

産地の総力を結集した総合ブランドをつくるという意味では、本当にぎりぎり間に合うかどうか、そういうタイミングでした」

技術力のある工場への発注は年々難しくなっている
技術力のある工場への発注は年々難しくなっている
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会社の垣根を超えて“総合”ブランドをつくる

こうして始まった「enzo」プロジェクト。話を聞いた各メーカーの反応は、近しい関係の会社に限っても賛否が半々だったという。

燕三条のものづくりノウハウが注ぎ込まれ、かつ総合キッチンウェアブランドと呼ぶにふさわしい共通の世界観を持ったラインアップを揃える。そして燕三条を代表するブランドに育てることによって産地を元気にする。

行政でもなく、個別のメーカーや個人でもなく、一定の規模感をもった問屋業だからこそできること。その実現のために、林田さんたちプロジェクトチームは粘り強くパートナーを探した。

「ずっと東京にいたくせに!」と、怒られたこともあったという
「ずっと東京にいたくせに!」と、怒られたこともあったという

同地域をベースにさまざまな企業のコンサルティングやプロダクトデザインを手がけてきた堅田さんは、メーカー側の気持ちも良くわかった上で、問屋と組むことの意義を強調する。

「メーカーさんが自社ブランドで勝負したい気持ちはすごく分かるんです。でもその柱に頼りきりでは怖さを感じる企業があるのも同時に知っていました。それに季節ものの売れ筋商品を抱えている場合、工場が稼働しない時期も出てきてしまいます。

工場を安定的に動かすためにも、OEMに取り組みたいと考えているメーカーさんたちの声は聞いていたので、その柱のひとつとして『enzo』を考えてもらいたいなと思っていました」

今回、「enzo」の第一弾商品としてラインアップされたのは、「鉄フライパン」「鉄中華鍋」「ステンレスざる」「ステンレスボール」の4商品。ゆくゆくは、サイズ展開も含めて45〜60種類くらいのラインアップを揃える計画がある。

“総合キッチンウェアブランド”としての立ち位置をとることで、各メーカーの個別商品とは競合しないことも意識したという。

enzoの中華鍋
「enzo」の「鉄中華鍋」
enzoのフライパン
木のハンドルが印象的な「鉄フライパン」

「もちろん、個々の商品にはこだわっていますが、あくまでもその積み重ねで総合ブランドとして見せていくつもりです。

例えばフライパンや中華鍋に関してはコンペティターでもある2社に協業していただいて商品が完成しました。

従来は交わらなかった2社が垣根を超えてタッグを組めたのは、問屋さんが間に入るからこそだと思います」

新たな技術交流で産地の価値が底上げされる

サミット工業
サミット工業株式会社

「鉄フライパン」の鍋部分を担当したサミット工業株式会社の代表取締役社長 峯島健一さんは、プロジェクトについて次のように話す。

「普段自分たちが考えつかない発想のデザインをご提案いただいて、複数社で協力して完成させました。とても刺激的な経験で、勉強になった2年間だったなと。

ハンドル部分のデザインを見たときには、本当につくれるのか?と思ったんですが、見事に仕上がってきて。まだこんな技術を持ったところがあるんだなと思いましたね」

サミット工業
サミット工業株式会社 代表取締役社長 峯島健一さん
サミット工業
今回、サミット工業は鍋部分を担当した
ワイヤーと木で構成されたハンドル部分。ものづくりに従事する人から見ると、かなり難易度の高い設計
高い加工技術でつくられたハンドル部分

競合するメーカー同士の協業による成果は「enzo」だけにとどまらず、2社間で新たに取引が生まれ、それぞれの強みを生かした新商品を現在開発中なのだとか。

峯島さんは、今後も鉄にこだわって、技術力・商品力を磨いていきたいとする。

「自分たちの下の世代が安心して、誇りを持ってものづくりに関われるようにできればと思っています。

そのためにも、家庭用品の産地として、ブランドを強力に発信していきたいんです」

サミット工業
「久しぶりに問屋さんと一緒に商品開発ができて楽しかった」と話す峯島さん
サミット工業
サミット工業
技術を身につければ、女性でも高齢者でも、長く続けられる仕事でもあるという

会社の垣根を超えたプロジェクトを通じて技術が行き来し、産地全体のレベルが底上げされる。この好循環を生み出すことができれば、問屋の存在意義は再び高まっていくだろう。

産地にデザイナーがいる意義

「ステンレスざる」を手がけた株式会社ミネックスメタルの田中謙次さんは、デザイナーと現場で試行錯誤できたことが大きかったと話す。

ミネックスメタル 田中謙次さん
ミネックスメタル 田中謙次さん

「『どうやってつくるんだ‥‥』というのが、最初に図面を見たときの感想です」

特に、強度と美しさを両立するフチ部分の仕上げの難易度が高かったという。

「堅田さんと現場で話し合って、弊社の社長が以前やっていたアイデアが使えるんじゃないかと言ってもらって、それをブラッシュアップしていきました」

堅田さん自身も、デザイナーとして産地の現場に軸を置く強みを実感している。

「商品がお客さんの手に渡って喜んでもらう。そこを目指して現場でアイデアをもらって、職人さんとブレストして、臨機応変に考えながら、当初の想定よりもよいものにしていきました。

こうしてものづくりの現場で完成度を高めていけるのは、産地にデザイナーがいることの優位性だと思います」

enzo

ざるのフチ部分に関して堅田さんたちが現場で発見し、解決の糸口になったのは、田中さんの父親で同社代表の田中久一さんが取得していた実用新案の技術だった。

ミネックスメタル
ミネックスメタル 代表の田中久一さん

その技術を足がかりに、フチ部分に芯材を入れて強度を上げ、さらにレーザー溶接の最新機器を導入し、継ぎ目の分からないシームレスな仕上げを実現。シンプルな商品だからこそ、細部にこだわり、頑丈さと美しさを兼ね備えた「ステンレスざる」が完成した。

enzoのステンレスざる
一生モノと呼ぶにふさわしい「ステンレスざる」を目指した
ざる

「難易度の高いプロジェクトでしたが、声を掛けてもらえて嬉しかったですし、この商品はうちにしかできないと思います」

と謙次さん。それを見た父親の久一さんも手応えを感じている。

「40年この業界でやってきましたが、今までに前例のない『ざる』だと思います。フチの部分にしても、足の部分にしてもつくり方やデザインにこだわっていて、“うんちく”が語れる。

これからはそういった背景のある商品しか残っていけないと思います」

ミネックスメタル
「フチ部分の角を綺麗に出すのが本当に難しかった」と話す謙次さん。現場での試行錯誤、デザイナーを交えたブレストが商品開発につながった

鉄にこだわるサミット工業。どこにも真似できないざるを作り上げたミネックスメタル。各社、得意とする分野が違う中で、最適なものづくりを行うために、最適なメンバーを編成する。

そうした差配ができることも、問屋業の大きな強みといえる。

大きな“縁”をつくる。産地問屋の生きる道

現在、和平フレイズのほか、6社が集ったプロジェクトとなっている「enzo」。地元を再び元気にするために必ず成果を出す。林田さんはそう決意を固める。

「燕三条という場所で今、こうした挑戦ができている。とても恵まれているなと感じます。

その分、『enzo』でとにかく結果を出さなければなりません」

和平フレイズ

実は「enzo」を立ち上げるにあたって、元々存在していた「燕三(えんぞう)」というギフトブランドを終了させた経緯がある。

きちんとブランディングされた商品で戦っていくために必要な決断だったが、毎年見込めていた売り上げが無くなることに、社内からは不満の声もあがった。それでも、舵を切ると決めた。

「これからの問屋は、小売業やバイヤーさんに言われたことだけをやっていても続きません。

昨今、経営にもアートが必要だと言われますが、地場産業の中で問屋が生きるためにはまさにアーティカルでなければならない。

美意識を高めてもっとイノベーティブに変わっていく必要があるし、変われることが問屋の強みだとも思います」

和平フレイズ
「競争の激しいキッチンウェア業界で生き残るために、常に勉強が必要」と話す林田さん

今後は、顧客とさまざまな方法でコミュニケーションを取りながら、中長期的に「enzo」ブランド、そして燕三条ブランドを育てていきたいとのこと。

「なんとか、『enzo』の“縁”で、燕三条や各メーカーを知ってもらいたい。そして結果的に地元の経済に貢献したいです」

ブランド名「enzo」には「縁造」の意味も込められている。

堅田さんは、「ブランドのコンセプトにも直接つながっていますが、“縁”を“造る”ことこそが、問屋さんの役割だと思っています」と話す。

これまでのように、小売業とメーカーをつなぐだけでなく、メーカー同士であったり、工場の魅力と消費者であったり、産地全体を大きな“縁”でつなぐ。

他者を巻き込みながら、自分たちだけではなく、全体で良い方向へ向かっていく。そこに、これからの問屋の生きる道、そして産地の生きる道が見えてくる。

その試金石として、「enzo」の成功、そして成長に期待が集まっている。

<取材協力>
和平フレイズ株式会社:https://www.wahei.co.jp/
「enzo」:https://enzo-tsubamesanjo.jp/
堅田佳一さん:https://katayoshi-design.com/
サミット工業株式会社:https://tetsunaberyu.jp/
株式会社ミネックスメタル:http://www.minexmetal.co.jp/japanese/

文:白石雄太
写真:浅見直希、和平フレイズ提供


<掲載商品>

【WEB限定】enzo ステンレスざる 21㎝
【WEB限定】enzo ステンレスボール 21㎝
【WEB限定】enzo ステンレスざる 24cm
【WEB限定】enzo ステンレスボール 24cm

【わたしの好きなもの】DYK ペティナイフ


待望の朝支度の包丁

デビューしてまだ間もないDYKのキッチンツールたち。そのラインナップの中に、私にとっては、待ってましたの包丁がありました。
それがこの小さな刃渡りのペティナイフ。
なぜ待望だったのかと言いますと・・・朝食の時に使う包丁が大きすぎるとかねてから思っていたところに、この小さな包丁の登場。(あくまで我が家の朝食レベルだとという話なんですが。)




すぐに我が家のキッチンに仲間入りし、活躍しております!
朝食って小さな食材が多いもの。
そこでDYKのペティナイフを使ってみると、ソーセージに切れ目を入れて、プチトマトを半分に、スクランブルエッグに入れる緑をちょこっとだけ切りたい、どれを切っても「そうそう、この大きさ!」としっくりくること。




バナナやキウイなんかにも、やっぱりちょうどいい。
刃が短いので食材に手が近くて、とても取り回しやすいんです。
取り回しやすさのもう一つの秘密は、軽さ。持った瞬間、「軽い!」と口から出るほど。中空の持ち手は見た目よりずっと軽いし、持ちやすいのです。




普段は、朝食を作りながらお弁当の用意もしています。よく作るおかずのひとつがかぼちゃの煮付け。4分の1サイズのかぼちゃを買ってきて使っています。
 
その小さいかぼちゃを見てふと、ペティナイフ1本で煮付けづくりに挑戦してみようと思い立ちました。
 
感動したのは、種の取りやすさ。刃渡りが大きなものは、最後の実に近い種が取りにくいのですが、まるでスプーンでこそげているかのように、くるくるっと取れました。
そしてレンジでチンしてから本体のカット。大きな包丁だと背を押せますが、それは無理。しかし、力が入れやすいので、意外と切れる。おっ、切れるぞ!と包丁を替えることなく、面倒くさがりな私は朝の支度を1本の小さな包丁で完結させました。




最後はササッと洗って終わり。小さいうえに継ぎ目のないデザインは、洗うのがとても楽ちん。サッと拭いて終了。小さいので、カトラリーと同じ引き出しに入れることができて、邪魔になりません。
待望のちょこちょこ切りの小さな包丁は、朝のバタバタの時間を助けてくれる頼もしい相棒です。





編集担当 今井

「かるた」で養う想像力。神保町の専門店で聞いた魅力

正月の遊びとして古くから日本人に親しまれてきた、「かるた」。

古今東西、実にバラエティに富んだかるたがつくられてきており、歌人に焦点を当てたもの、切り絵や版画がモチーフのものなど、大人が楽しめる題材も数多い。

そんなかるたの歴史や魅力、一風変わったユニークな商品などについて、神田神保町のかるた専門店「奥野かるた店」で話を聞いた。

奥野かるた店
白山通り沿いにある、奥野かるた店

かるた専門店「奥野かるた店」

奥野かるた店は、1921年(大正10年)に「奥野一香商店」として新橋に創業。屋号にある“奥野一香(おくのいっきょう)”とは、現在代表をつとめる奥野誠子(ともこ)さんの曽祖父の名だ。

奥野一香は将棋指しでもあり、将棋の駒づくりの職人でもあった。その息子である徳太郎が将棋盤などを扱う問屋業を始め、以来、囲碁、将棋、麻雀、花札、トランプといった『室内ゲーム』全般を取り扱ってきたという。

奥野かるた
奥野かるた店 代表の奥野誠子(ともこ)さん

「戦争があったために新橋から神奈川の大船に疎開し、戦後、東京・神保町で店舗を再開したのが、昭和25年頃でしょうか。

その後、昭和54年には小売業もはじめ、屋号も『奥野かるた店』となりました」

ちょうど20年前には現在のビルが完成。昭和から平成になり、誠子さんの父である先代は、「かるたづくり」にも取り組み始めた。

奥野かるた
かつてつくられていた「かるた」の復刻品も手掛ける
双六などの屋内ゲームも扱う
双六などの屋内ゲームも扱う

「色んなかるたやゲームを扱う中で、『自分がやるなら、こんなものを作りたい』という思いが出てきたのでしょう。

10年前に2階を改装してギャラリーにしましたが、これも父の意向でした。美術館風に『小さなかるた館』と称しています」

ギャラリーへの入場は無料。直近ではタロット、トランプの催しや、版画家 柳沢京子さんの物販イベントを実施した。

かるた
貴重な百人一首の展示も

ポルトガルからやってきた「かるた」の歴史

ここで、あらためて「かるた」の歴史に触れておきたい。

藤原定家(1162~1241)により小倉百人一首が選ばれたのは13世紀。その目的は歌人・宇都宮頼綱の依頼によるものだった。時は流れ、安土桃山時代にスペイン、ポルトガルから入ってきた南蛮文化の中にカード式のゲーム「Carta」があった。

日本には平安時代から、2枚ひと組の貝を合わせて遊ぶ貝覆いという遊びがあり、これがCartaと融合したことで、カード式の小倉百人一首が誕生。現在に至る。

かるた
百人一首も「かるた」の一種

奥野さんによれば「百人一首」「いろはかるた」「花札」、これらは全てかるたの一種と言えるのだそう。そのモチーフに制限がなく、これまでに様々な「かるた」が考案されて親しまれてきた。

奥野かるた
花札も「かるた」と紹介されている

小さな札の中で世界が表現されている

ずばり、「かるた」の魅力は何処にあるのだろう。

「札の中で、完結した世界が表現されているところですね。ひとこと、的確なセンテンスとセンスのある絵で『あぁ、そうだね』という感情を沸かせる。

絵札のモチーフによっては、美術品にもなり得るでしょう」

奥野かるた
かるた
短いセンテンスと、想像をかきたてる絵がかるたの特徴

小さい頃からスマートフォンなどデジタル機器に触れることが当たり前の時代においても、アナログなものに触れ、想像力を働かせることは必要と話す。

「読んで、見て、触って、想像する。小さな札に描かれた絵を見て、『年寄りの冷や水』はこれかな、という具合にイメージを膨らませるわけです。

検索すればすぐに答えが見つかる便利な世の中になりましたが、想像の余地があるアナログなものにも触れてもらいたいなと思います」

奥野かるた

たとえその場で正確な意味がわからなくとも、耳や目で覚えておくことに意義はある。

「教育学者の齋藤孝さんもおっしゃっていますが、たとえば、『春高楼の花の宴』や『汚れちまつた悲しみに』などの文学の一節について、耳だけでも覚えておいて欲しいんです。

大人になってから『あれ、この一節はどこかで聞いたな。知っているな』というタイミングが必ず来るので。子どもに敢えて難しい言葉を発信していくことは大事だと思います。

また逆に、お年寄りのリハビリとして利用する方もいます。百人一首など、子どもの頃に遊んで覚えたことは、歳をとっても忘れていなくて。その遊びがリハビリ効果になるんだそうです」

奥野かるた

確かに、子どもにいきなり文学作品や古典を読ませることは難しいかもしれないが、「かるた」であればゲームとして親しめる可能性はある。

そんなことを狙って、5枚1組で金太郎や浦島太郎、イソップ物語などの物語をぎゅっと詰め込み、紙芝居のように装丁している「かるた」もあったのだとか。

奥野かるた
物語を「かるた」にしたものも

全国に存在する「郷土かるた」

特定の地域に暮らした人にとって馴染みが深い「郷土かるた」というものがある。群馬県の「上毛かるた」が特に有名だが、実は各都道府県に必ずひとつは存在しているという。

奥野かるた
上毛かるた
奥野かるた
上野界隈かるた

「群馬県と長野県が特に多いですね。描かれるのは、街の様子であったり、祭りなどの慣習だったり。ただし、市区町村が主導してつくったけれど定着せず、住んでいる人でさえ地元の郷土かるたの存在を知らないことも多いです」

戦後間もない頃に誕生した「上毛かるた」は、遊ぶものがない時代に「豊かな心を失わずに育って欲しい」という想いから地域の人たちが企画したもの。

かるたをつくるだけでなく、小学校や地域ごとに毎年かるた大会を実施して、その年のチャンピオンを決めるということを何十年も続けてきた。

「そうした取り組みの積み重ねで浸透しているわけです。今でも、第一回の優勝はどの小学校の誰だったかという公式記録が残っています。県のチャンピオンを目指すと、燃えますよね。

群馬で電車に乗っていた時に、たまたま乗り合わせた中学生の女の子たちが『私たち、なんで百人一首が下手なんだろうね。上毛かるたばっかりやっていたからかもね』と話しているのを聞いたんです。

本当に浸透しているんだなと感動しました」

奥野かるた店には、東京都内の郷土かるたとして、寅さんや漫画の両さんが登場する「葛飾区郷土かるた」、三越やにんべんが登場する『日本橋かるた』なども置かれている。

奥野かるた
葛飾郷土かるた
奥野かるた
千代田区川柳 絵葉書かるた
奥野かるた
地元を代表するものとして、「武田信玄」などの武将にフォーカスした「武将かるた」なるものも

「上毛かるた」ほど有名なものは珍しいが、それでも地元の文化や風習が描かれた「かるた」があると分かれば、少し興味が出てくるのではないだろうか。

改めて地元のことを知るきっかけにもなり、正月に実家でやってみると意外に盛り上がるかもしれない。

モチーフは尽きない。つくられ続けるオリジナルかるた

新しいオリジナルかるたも、続々とつくられている。

奥野かるた
漢字をつかってことわざをデザインした「かるた」も
奥野かるた
まさに“なんでも”書き込める、「無地かるた」

「最近では、持ち込みの企画で『感染症かるた』をつくりました。感染する病気の秘密が学べるもので、白鴎大学の教授が企画・編集しています」

他にも、「落語の有名なセリフを読み札にしたかるたをつくりたい」「三番瀬の生物を知ることができるかるたをつくりたい」といった問い合わせもあったそう。

「かるたをつくりたい」と考える人が意外にも多いことに驚かされる。

奥野かるた
奥野かるた
野菜の花と実をあわせる「かるた」

「かるたが人と人の縁を取り持ち、画家さんやアーティストさんを繋いで、新しい作品がつくられることもよくありますね。きっかけは、様々です」

神田古書店街の賑わいとは違い、落ち着いた大人の雰囲気が漂う白山通り。イチョウの並木道に店舗を構える奥野かるた店に一歩、足を踏み入れた途端、何百種類という「かるた」、そして室内ゲームの数々に圧倒された。

子どもの頃に遊んだ「かるた」があれば、ユニークな新作「かるた」もある。ここでは誰しも童心に帰るだろう。

奥野かるた
筆者世代にも懐かしい「かるた」たち
奥野かるた

2階の小さなかるた館では12月7日から1月中旬まで『百人一首展』を開催中。江戸時代の手彩色の桐箱に入った豪華な品物なども、入場無料で楽しめる。年末年始の散歩で立ち寄ってみるのも良いかも知れない。

かるた
1階はショップ、2階はギャラリー風スペース「小さなカルタ館」となっている

<取材協力>
奥野かるた店
http://www.okunokaruta.com/

文:近藤謙太郎
写真:カワベミサキ

【デザイナーが話したくなる】セミフォーマル ラップパンツ

特別な場所にも着ていくけれど、1年に1回着るか着ないかというよりも、
仕事や友人との食事会など、キレイめな装いにも使える1着を作りたいという思いで
セミフォーマルのシリーズをデザインしている河田さん。

河田さん自身、最近スカートをだんだん穿かなくなってきたなと思うところが多く、今回のパンツスタイルが生まれました。

普段着慣れているものの延長で肩肘はらず楽しんで着ることができれば、もっと身近になるのでは。
全体的にきれいに見えて、体型もふんわりカバーしてくれるけど、スッキリとしている。
もちろん先に作ったブラウスに合わせた時にも、きれい見えるように。
いくつもの希望を盛り込むために試行錯誤しました。



シンプルな生地だけど、ヘンプを使った素材は少し光沢がある上品な仕上がり。
デザインのどこに華やかさをもたせるか、考えてできたのが大きく重なったドレープ。
このドレープがふんわりとやわらかな印象を与えながら、着用の際にはゆるやかなカーブが生地の表情を豊かにしています。
さらにこのドレープが気になる腰回りを、ふんわりとカバーしてくれる効果もあるんですよ。



裾に向かって少しだけ細くしているのですが、それだけでスッキリとした印象に。細身のパンツではないけれど、足元が引き締まって見えます。



セミフォーマルのシリーズですが、機会があるごとに手持ちの服と合わせてほしいと、シリーズ当初から河田さんから聞いていました。

今回のラップパンツだったら、どんなものがオススメですか?
カットソーとカーディガン、ブラウスにもニットにも合います。夏にノースリーブのカットソーでもきれいですね。
・・・ということは、だいたいの手持ちのものが大丈夫なのでは!

セミフォーマルというと入学式や卒業式、次に着るのは発表会かな、なんて思いながら、一度着たら次はいつ着るのだろうとクローゼットにしまってしまうのではなく、日常にも楽しめるパンツスタイルとして持っていたい1枚ができました。
 

【わたしの好きなもの】 BAGWORKS BICYCLEMAN

出かけるときのMYバッグはこれ!


今まで男性のおでかけスタイルはパンツの後ろポッケに財布とスマホ。とっても身軽なイメージでした。むしろそれだけで大丈夫?と不安なくらい。

でも最近は男性も荷物が多くなってきたようで、夫を例にあげると、財布とスマホは変わらずですが、さらにそこへ

・モバイルバッテリー
・ポーチ(リップクリーム、ティッシュ、除菌ウェットティッシュ)
・大量の鍵束
・おでかけ先で購入の500mlペットボトルのお茶

財布に至っては長財布なので、すでにパンツの後ろポッケの容量では足りない荷物量です。

そんな夫の荷物をすっきり収納、以来おでかけの定番バッグになったのが「BAGWORKS BICYCLEMAN」です。



もともとは自転車レースで補給食や飲料などを入れる「サコッシュ」という簡易バッグをリデザインしたBICYCLEMAN(バイシクルマン)。
マチは7cmとそこまで広くはないのですが、これで結構収納力があるのでちょっと驚きです。



ファスナーは本体より少し長めに作られているので、バッグのくちがパッと開けて荷物がよく見えます。荷物が取り出しやすく、財布にポーチ、ペットボトルのお茶など、ちょっと多めに荷物を入れたとしてもしっかりファスナーを閉めることができます。
外側のポケットもあると便利で、よく使うティッシュやハンカチは王道ですが、我が家ではおでかけ先のお寺でもらう細長いパンフや観光地オリジナルの地図なんかをさっと入れて、いつでも出し入れできるように使っています。



ショルダーベルトは本体背側に取り付けられているので、自然と体に沿うようになっていて、荷物の重さを軽減してくれたり、本体のパラフィン加工のおかげで多少雨で濡れてしまっても染み込まず撥水したりと、シンプルなつくりなのに機能性十分で男性でも持ちやすいデザインが夫にかなり好評。「ほんとこれちょうどいいんだよ!」と満足げな夫の顔を見ていると、つい自分もMYバッグにほしくなり、色違いを買おうか検討中です。

編集担当 今井

おせちを豆皿に盛り付ける。かわいくておめでたい料理で正月を迎えよう

新年を祝う「豆皿」おせち

お正月に「おせち」食べていますか?

お重に詰まった縁起のよい料理を食べて、新年を祝う。日本のお正月ならではの光景ですが、近頃はおせち料理を食べない家庭も多くなっているとか。

「お重を持っていない」
「自分で作れない」
「高価なもので手が出ない」
「家族が少ないので余ってしまう」

こうした声を聞くにつけ、準備が大変、少人数の家族には向かないし贅沢、といったイメージが大きいのだなと感じます。

かく言う我が家も、妻と子どもと3人暮らしの正月に「おせち」は少し仰々しいなと、この数年は敬遠中。

でも、一年に一度、その年の幸せを願うおめでたい料理。せっかくなら‥‥食べたい。というのが正直なところ。もう少し気軽に楽しめればよいのに‥‥。

そこでオススメしたいのが、「豆皿」でコンパクトに楽しむおせち料理です。

豆皿でおせちを楽しむ
豆皿でおせちを楽しむ

もちろん和風のお盆にも映える

気軽に購入できて且つ窯元や産地の個性、そして“手仕事感”がしっかり伝わる豆皿は、うつわを集め始める導入としても最適。

そんな豆皿に、縁起のよい品々をちょうど食べきれる分だけ盛り付けて楽しむ。

盛り付けのポイントを、フードコーディネーター・栄養士として活躍されている三井愛さんに伺いました。

小さい中に個性が詰まった豆皿たち

有田焼の老舗窯元と中川政七商店が作った染付の豆皿
有田焼 染付の豆皿(鶴/鹿/松/梅/竹)。各1,300円(税抜)。購入はこちら

今回用意したのは、有田焼の老舗窯元と中川政七商店が作った染付の豆皿。白磁に素朴な絵柄を合わせたデザインで、普段使いにもオススメ。

描かれている柄は、松や梅、鶴など、縁起のよいモチーフをひとつひとつ手描きで表現したもの。手描きだからこその味わいが感じられます。

※中川政七商店の豆皿ラインアップはこちら

小さくかわいい豆皿には小ぶりの料理を盛り付ける

「豆皿自体が小さくてかわいいので、料理もできるだけ小ぶりなものを盛り付けてあげるのがオススメです」(三井さん)

少し小ぶりな品々を、一人分盛り付ける
少し小ぶりな品々を、一人分盛り付ける

おせち料理と聞くと、見た目にも派手な車海老や有頭海老を思い浮かべてしまいますが、サイズ的によいものがなければ無理に用意する必要はありません。

オススメは、金柑の甘露煮など小ぶりで見栄えのするもの。そのほか黒豆やかまぼこ、いくらに数の子など、それぞれに縁起のよい品の中から、好みやうつわに合ったものをセレクトすればよいとのこと。

マダコの酢の物

丸い豆皿には、伊達巻をポンと置いてもかわいい
丸い豆皿には、伊達巻をポンと置いてもかわいい

“自分の好きなものだけのおせち”と考えると、俄然、やってみよう!という気になってきますね。

「シンプルな白磁のお皿には、いくらや数の子の色がとてもよく映えます。ワンポイントで南天や木の芽を差し色として添えても綺麗です」

いくらの赤が映える

数の子は形の良いものを選んでカットする
数の子は形の良いものを選んでカットする

「食べ終わるとかわいい絵柄が見えるのも素敵ですね。何が出てくるだろうという楽しみにもなります」

品数はどれくらい必要?

さて、好きなものばかり!とはいえ、品数はどれくらい用意するとよいのでしょうか?

「正解があるわけではないですが、今回の豆皿の場合であれば5品くらいがよいと思います。適度に深さもあるので、思ったよりしっかり盛ることができて驚きました。

5品でちょうどひとり分の分量になりますし、プレートなどに載せたときも見栄えがしてかわいいです」

丸いプレートに5つの豆皿がちょうどよく収まる
丸いプレートに5つの豆皿がちょうどよく収まる

一口に豆皿といっても、形や大きさ・深さはさまざま。

気に入った形を家族分揃えてみるも良し、バラバラの形で組み合わせを工夫するも良し。気軽に揃えられる豆皿だからこそ、楽しみ方も広がります。

個性豊かな豆皿たち
個性豊かな豆皿たち

「少し深さがあるものは、紅白なますや筑前煮など、汁の出るものを安心して盛ることができます。

細長い形の豆皿には、かまぼこなんかがオススメです。また、黒豆のように盛り方で形を調整できるものも使いやすいと思います」

煮物も安心して盛ることができる
煮物も安心して盛ることができる

細長い豆皿に盛り付けやすい黒豆
細長い豆皿に盛り付けやすい黒豆

ちなみに、おせちに使われるかまぼこは幅広のものが一般的ですが、豆皿に載せる場合は普段の食卓に上がるような細長いもので良さそうです。

小さい豆皿ですが、しっかり高台がついていることもポイントなのだとか。

「洋食器の平皿の場合、のっぺりとした印象になることもありますが、今回の豆皿は高さが出るのでお料理が映えます。

プレートやお盆に乗せてもよいですし、クロスや和紙の上に直接並べても高さがあるので見栄えがします」

高さがあることで料理が映える
高さがあることで料理が映える

小分けにすることで食べやすい食材たち

お重のおせちでは、隣の食材の味がうつってしまったり、人によってはみんなで同じ料理をつつくのに抵抗があったりということも。

そうしたことが気になる食材ほど、豆皿に載せるのがオススメです。

くっつきやすい田作りも、小分けすると便利
くっつきやすい田作りも、小分けすると便利

「栗きんとんや、くっつきやすい田作りなどは、小分けになっている方が食べやすいですよね。または、お汁まで食べたいなと思うもの、味移りが気になるものも、ひとり分を豆皿に載せてあげるとよいと思います。

また、黒豆は、買ってくると味が濃いものが多かったりします。家で作れば細かい調整もできますし、多めに作っておいて、食べるときに一回分を盛るのに豆皿は最適ではないでしょうか」

豆皿に食べる分だけの黒豆を

工夫次第で並べ方はさまざま
工夫次第で並べ方はさまざま

手ぬぐいの上にのせてもかわいい
手ぬぐいの上にのせてもかわいい

小さくてかわいく、縁起もよい「豆皿」。

デザインや形、産地のことなどさまざまな切り口で選ぶのも楽しいはず。

お気に入りの豆皿と自分好みのおせち料理で、おめでたい新年を迎えましょう。

<関連商品>
・中川政七商店の豆皿特集:産地のうつわはじめ

<取材協力>
三井愛(みつい あい)
フードーコーディネーター・栄養士

フードコーディネーター・栄養士として、フードコーディネータースクールの企画・運営、料理教室、食育教室の企画・運営、スタイリング・撮影、栄養カウンセリング、メニュー開発、商品開発、コラム執筆など、食にかかわる業務を行なっている。

文、写真:白石雄太

※こちらは、2018年12月5日の記事を再編集して公開しました。うつわを集め始めるきっかけとしても手軽で楽しい豆皿。気になるデザインがあればぜひ一度手にとってみてください。