毎日の家しごと。それなりにできるようになり、だいたいは心得たつもりだけれど、意外と基本が疎かだったり、何となく自己流にしていたりするものってありませんか?
そのままで不都合はないものの、年齢を重ねてきたからこそ、改めて基本やコツを学んでみたい。頭の片隅にはうっすら、そんな思いがありました。
この連載では、大人になった今こそ気になる“家しごとのいろは”を、中川政七商店の編集スタッフがその道のつくり手さんたちに、習いに伺います。
とはいえ、難しいことはなかなか覚えられないし、続きません。肩ひじ張らず、構えずに、軽やかに暮らしを楽しむための、ちょっとした術を皆さんにお届けできたらと思います。
第一回目のテーマは「季節の果実でシロップ作り」。奈良・西吉野にて、果樹を専門に栽培に取り組みながら、ドライフルーツなどの加工・販売も行う、堀内果実園の堀内奈穂子さんを講師に迎え、編集チームの谷尻が習いました。
今回の講師:堀内果実園 堀内奈穂子さん
1978年、奈良県生まれ。奈良県吉野の山麓で代々くだもの農園を営んでいる夫との結婚を期に就農。夫婦で堀内果実園のリブランディングを進める。くだものの美味しさや楽しみ方を広く知ってもらいたいと、フルーツアートクリエーターの資格も取得。現在は堀内果実園全般の業務に携わっている。
URL:https://horiuchi-fruit.jp/
シロップ作りの基本
梅しごとに始まり、「自宅で好みのものを作りたい」という声を多く聞くようになった果実のシロップ。梅を使ったレシピはたくさん見かけるものの、どうせなら旬ごとに季節の果実を使ったり、好みの果実でも作ってみたりしたいものです。
そういったわけで、今回はいろいろな果実で応用できるように、すべてに共通する基礎から習いました。
まずは下準備についてご紹介します。
【果実】シロップに向くもの、向かないもの
季節によって、旬を迎える果実はさまざま。果実シロップ作りというと梅しごとが最も定番ですが、もちろん他の果実でもシロップは作れます。
堀内さん:
「果実によってシロップ作りに向く・向かないは特になく、基本的には何でもシロップに使っていただけます。ただ、すももみたいに皮がしっかりしている果実は、シロップを出やすくするために、皮に穴をあけて漬けるのがおすすめです。そんな風に、皮の張り加減などの果実が持つ特徴によって、シロップが完成するまでの時間差はありますね」
実際に使用する際は、いちごのような皮のない果実はそのまま使用します。また、すもものように繊維がやわらかい果実は、切ると繊維を壊してしまいシロップがどろっとするため、切らずに皮へ穴をあけて使いましょう。柑橘などの果肉感がしっかりしている果実は皮を剥き、切って入れても問題ありません。
【果実】そのままと冷凍、どちらを使う?
好みの果実で作るシロップは、旬を過ぎても味わいたいもの。とはいえ、旬の時期はフレッシュなものが手に入りますが、時期を過ぎると果実によっては手に入らないこともあります。その場合、冷凍したものを使ってもよいのでしょうか?
堀内さん:
「冷凍した果実を使うのも、もちろん問題ありません。冷凍すると果実の繊維がやわらかくなり、解凍されるときに果実から出る蜜で砂糖も溶けやすくなります。早くシロップを完成させたい方は、溶けやすくするために冷凍がおすすめです。味はどちらも変わらないので、お好みで使っていただいて大丈夫ですよ」
【砂糖】氷砂糖、きび砂糖などの使い分け方
続いては、砂糖の使い分け方。果実シロップのレシピでよく使われるのは氷砂糖ですが、自宅にない場合や、普段から使っている好みのお砂糖がある方もいらっしゃいますよね。
堀内さん:
「一般的には失敗しにくく、果実の色もきれいに出る氷砂糖がよく使われますが、どのお砂糖を使うかは、漬ける方の好みで選んでいただいて大丈夫です。きび砂糖を使う方もいれば、はちみつだけで漬ける方もおられます。
我が家では氷砂糖か、たまにビート糖を使ったり、はちみつと半々にすることもあります。ただ黒糖のような色の濃いお砂糖を使うと、シロップの色がトーンダウンするので、ご注意くださいね」
【砂糖】分量の考え方
甘さの好みは人それぞれ。基本の分量は押さえつつ、自分好みの甘さを見つけたいところです。ただし、砂糖を少なくすることで失敗する危険もあるので注意しましょう。
堀内さん:
「砂糖と果実の割合は、1対1が基本。例えば、500gの果実を使う場合は500gのお砂糖を使うと、1対1の割合になります。甘みが気になる方は果実1に対してお砂糖を0.8とするなど、お砂糖の分量を少なくしても良いのですが、少なくするとカビやすくなるので注意が必要です」
【漬ける期間】飲みはじめと、保存期間
飲みはじめられるのは、お砂糖が溶けてから。季節や果実にもよりますが、だいたい1週間~10日ほどが目安です。ただし、1週間後ではまだ果実のエキスが出きっていないので、待てる場合は3か月ほど漬けてから飲みましょう。漬ける期間が長くなるほど、シロップの味はどんどんまろやかになるので、お好みのタイミングをぜひ見つけてください。
堀内さん:
「お砂糖がすべて溶けた時点で飲めはするのですが、漬けが浅ければ浅いほど、角が立った味になります。最初の頃はちょこちょこ味見をしてみて、ご自身がお好みの味を確認するのが良いかもしれませんね。1年、2年と漬けておくと、味はどんどんまろやかになります。
お砂糖を使っているため、シロップは基本的に数年間など長く保存が可能です。ただし長期にわたって保存すると、中の果実が黒っぽくなっていくので、気になる場合は3か月から半年ほどで取り出すようにしてください。色が気にならなければ入れておいても問題ありません。
取り出した果実はそのまま食べてもいいのですが、ジャムやスムージーにアレンジするのもおすすめですよ」
なお長期で保存する場合は、果実が砂糖にしっかり浸かっていないとカビなどの原因となります。シロップから浮いている面があればときどき瓶を回し、果実全体にシロップを回しかけるようにしましょう。
【保存場所】直射日光の当たらない、冷暗所で
せっかく作った果実シロップ。失敗せずに完成まで仕上げるためには、保存場所も重要です。直射日光のあたらない冷暗所におき、1週間ほどして砂糖が溶けてきたら、そのまま冷暗所で保存するか、冷蔵庫へ移動させてください。
堀内さん:
「最近は住宅環境が良くなり気密性が上がっているのと、特に夏は気温が年々高くなっているので、冷暗所がご家庭にない場合もあると思います。室内が高温になるのであれば、冷蔵庫保管がおすすめです」
【トラブル発生】発酵したとき、カビたときの対処方法
果実を漬けている最中、注意していてもときどき起きてしまうのが、果実の発酵とカビ。
果実が発酵した場合は果実を取り出し、シロップだけを鍋に移し替えて70度ほどに熱し、10分ほど煮詰めます。瓶を洗い水気を拭き取ったら改めて消毒し、シロップの熱が完全に冷めた後、清潔な瓶にもう一度、果実とともに入れて漬けてください。
またカビた場合は、カビた果実は処分します。あとは発酵した場合と同じように、シロップを煮詰め、消毒した瓶にカビのない果実とともに入れて、改めて漬けてください。
<果実シロップづくりの心得:準備と保存>
・果実は好みのものでよし。それぞれの特徴により、下準備を変える
・果実は生でも冷凍でも問題なし。冷凍ものを使うとシロップが早く仕上がる
・砂糖の種類は好みで。果実と砂糖は1対1の割合が基本。減らす場合はカビに注意
・飲み始めは仕込みの1週間後ほどから。3か月ほど待つと果実感が増す
・長く漬けるほど、シロップのまろやかみが増す
・保存の際は直射日光の当たらない冷暗所や、冷蔵庫で
・発酵してしまったら果実を取り出し、シロップを煮詰めて再度果実と共に瓶へ戻す
・カビてしまったら果実を取り出してカビた果実は捨て、シロップを煮詰めて再度果実と共に瓶へ戻す
果実シロップの作り方
準備と保存について心得た後は、いよいよシロップ作りです。とは言っても、準備と保存のところさえしっかり押さえていれば、シロップ作り自体はとても簡単。材料と道具を揃え、いざ始めます。
準備物:
・保存瓶(密閉性のあるもの)
・ふきん
・アルコールスプレー
・竹串(すもも用)
・果実(今回はすもも、柿、ブルーベリー)
透明なガラス瓶の中で果実と砂糖が溶けていく様子を眺めるのも、果実シロップの楽しみの一つです。瓶は好みのデザインのものを選んで問題ありませんが、口径が広めだと果実が入れやすいのでおすすめです。必ず密閉できるものを選びましょう。
また瓶は使用前に消毒が必要。アルコール消毒の場合はアルコールスプレーを、煮沸消毒の場合は瓶が入る大きな鍋と、瓶を扱うトングを用意します。瓶を拭くための、清潔なふきんも準備いただくと便利です。
※今回はアルコール消毒で行いました
1. 瓶を消毒する
アルコール消毒の場合は、瓶の内側にアルコールを吹きかけ清潔なふきんで軽く拭き取ります。煮沸消毒の場合はたっぷりのお湯を沸騰させた鍋に瓶を入れ、瓶の内側にしっかりお湯が回るよう、トングなどで瓶をやさしく回転させましょう。5分ほど煮て完了したら、瓶に残った水分を拭き取ります。
堀内さん:
「瓶は自然乾燥でも大丈夫ですが、水分が残っていると果実がカビるので、しっかり水分をとって使用してくださいね」
2. 果実と砂糖を計量する
作りたいシロップの量や、瓶の容量に合わせて果実と砂糖を計量します。今回は約1Lが入る瓶に対し、果実と砂糖を350g程度ずつ(計600g程度)用意しました。
3. 果実の下準備
果実をサッと洗い、水分を丁寧に拭き取ります。水分がついているとカビの原因になるので注意しましょう。
梅やブルーベリーの場合は皮を剥かずにそのまま使いますが、すもものように、皮に厚みのある果実には穴をあけてください。竹串を手に持って皮に刺し、ぷすぷすと全面をランダムに突いていきましょう。もし冷凍のものを使いたい場合は、半解凍して穴をあけるか、穴をあけてから冷凍しておきます。
パイナップルや柑橘類、柿などの果肉がしっかりしている果実は表皮を剥き、瓶へ入れやすいようにカットします。なお今回、柿はカットして冷凍したものを使いました。
梅やすもものようにヘタがついている果実は、ヘタ部分を竹串などで取っておきましょう。
堀内さん:
「果実を皮ごと使う場合は、できるだけ農薬や防カビ剤不使用のものを選んでくださいね」
4. 清潔な瓶に、砂糖と果実を適量ずつ交互に入れる
下準備が完了したら、果実と砂糖が交互になるよう、瓶に詰めていきます。
まずは底にうっすらと砂糖が敷かれるよう、砂糖から先に入れましょう。このとき、あと2層ほど砂糖を重ねられるよう、量を残しておきます。
次に果実を入れ、砂糖、果実と重ねていき、最後に砂糖を載せて蓋をしたら完成です。
なお、冷凍果実を使用する場合は、解凍せずに冷凍状態のまま入れるのがおすすめ。解凍される際に果実から蜜が溶け出し、砂糖が溶けやすくなるため、シロップ作りが早まります。
5. 冷暗所に置き、一日に一度ほど瓶を回して果実に砂糖をなじませる
保管の際にじわじわと氷砂糖が溶け始めたら、果実に液糖がコーティングされるように瓶を回します。目安は一日に一度程度です。
堀内さん:
「見た目もかわいい果実シロップ。毎日世話をしながら、シロップの様子を眺めて楽しんでいただけたらと思います」
<果実シロップづくりの心得:作り方>
・瓶は消毒し、水分を拭き取っておく
・果実は特徴に応じて下準備を変える。果肉がやわらかいものは切らずに使う。皮が硬い場合は竹串などで穴をあける
・皮ごと使う場合は薬剤不使用のものを
・砂糖と果実は、交互に瓶に詰める。底に砂糖を敷き、上面も砂糖で蓋をする
・保存の際は一日に一度、瓶を回して液糖を果実にゆきわたらせる
「自宅でシロップを漬ける」と聞くと、何だかとても丁寧な家しごとのように思えますが、ポイントさえ押さえていれば、実はとても簡単。漬けている最中からその涼やかな景色が心地よく、好みの味を自分で調整できるのも、家で作るからこそです。
基本のシロップが作れるようになったら、ハーブを入れてみたり、スパイスを入れてみたり、少し珍しい果実でも挑戦してみたりと、いろいろ楽しめそう。旬を迎えるよろこびが、また、一つ増えました。
堀内果実園さん、ありがとうございました。
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中川政七商店では堀内果実園さんの商品を多数取り扱っております。ぜひご自宅用や、ご贈答用にご利用ください。また、堀内果実園さんのオンラインショップでは、果実の加工品の他、季節の果実やシロップキットなども販売されています。
・堀内果実園 フリーズドライミックス
・堀内果実園 シロップ
・堀内果実園 柿の葉茶
文:谷尻純子
写真:関口高史