【あの人の贈りかた】相手や自分の出身地を、笑顔の頼りに(スタッフ村田)

贈りもの。どんな風に、何を選んでいますか?

誕生日や何かの記念に、またふとした時に気持ちを込めて。何かを贈りたいけれど、どんな視点で何を選ぶかは意外と迷うものです。

そんな悩みの助けになればと、中川政七商店ではたらくスタッフたちに、おすすめの贈りものを聞いてみました。

今回は広報担当の村田がお届けします。

出身地の工芸品を頼りに。「小さな工芸のピンブローチ」

贈り物を開けるときの、あのワクワク感。

期待はそのままに、そのうえでどんなものだと笑ってくれるだろう。
気持ちまでしっかり届けたくて、メッセージやさりげないイラストを添えることもしばしばです。

そんな風に、贈り物は相手の反応と、使っている姿を想像して選んでいます。

ちょこっとお礼がしたいけれど、まだしっかりと好みを把握できているわけではない。
そんな方には、相手の出身地を頼りに選びます。

「小さな工芸のピンブローチ」は、日本の工芸の技術や素材の魅力がぎゅっと凝縮されている小さなアクセサリー。衿元・胸元でさりげないアクセントとなるブローチで、どんなコーディネートにも合わせやすく、女性・男性問わず使っていただけると思います。

佐賀、大阪、三重、愛知、群馬など産地も様々で、お世話になった目上の方へ、相手の出身地の工芸をひとつ選んで贈ったところ、その技法の巧妙さや美しさに「なんだか出身地を“誇り”に思った」と連絡が来ました。それからは「背筋が伸びる気がするから」と、大事なお仕事の時には必ずつけてくださっているそう。

そんなお話に、私まで嬉しくなりました。

<贈りもの>
・中川政七商店「小さな工芸のピンブローチ」

自分も毎日癒されている、お気に入り。
「そろばん屋のほぐしローラー」

「そろばん屋のほぐしローラー」は、文字通りそろばん屋さんと作ったマッサージローラー。私自身も普段の生活に欠かせないもので、出張にも持っていくほど愛用しています。

もう、見た目が面白いですよね。インパクトのある佇まいに、クスッと笑ってもらえたら。そんな想いもあって選んでいます。

でも実はこちら、見た目だけでなく使ってみてこそ思わず表情が緩むアイテムなんです。

そろばん玉のコロコロとなめらかな動きがコリをほぐし、ヘッドや持ち手はツボ押しにも使えて、一本二役。小ぶりだけれど頼りになる存在で、なんといっても木製の質感がやさしく、1日の疲れを癒してくれます。

自分も愛用していて良さがわかるからこそ、気持ちものりやすいもの。

いつも頑張っている後輩に、ささやかながら応援を届けたい時。
毎日を元気に過ごしてほしい友人や身近な人に、想いを伝えたい時。
大切な人へお守りを渡すように贈っています。

<贈りもの>
・中川政七商店「そろばん屋のほぐしローラー」

家族で楽しんでもらえる「ご当地飲料」

取引先の企業さんや友人家族などへ、差し入れや季節のご挨拶を贈る場合には、全員が楽しめるように飲料を選ぶことが多くあります。

こだわりは、私の地元・奈良県のものを選ぶこと。

実は奈良県は清酒発祥の地といわれており、日本酒の蔵元も多くある他、最近はクラフトビールのブランドも増えてきています。

お酒を贈るのも定番なのですが、お子さまのいるご家庭でも楽しめるようにと、奈良県産の果物を使ったジュースのリサーチも欠かせません。

お気に入りは「古都華(ことか)サイダー」。古都華は奈良県生まれのいちごの品種で、その果汁が100%入った贅沢なサイダーはとても喜ばれます。そして「奈良のいちごはおいしい」と知っていただくことにより、「私の住む地域にはこんな飲み物があるよ」と逆に教えてもらうなど、気が付くとお互い地元トークに火がついて盛り上がるなんてことも。

贈り物からどんな会話ができそうか、そのあとの繋がりも大切にしたいですね。

<贈りもの>
・商品名:古都華サイダー
・販売サイト:https://nara-izumiya.co.jp/ ※奈良の酒屋さんのオンラインショップです

贈りかたを紹介した人:

中川政七商店 広報担当 村田あゆみ

【暮らすように、本を読む】#04『なずな』

自分を前に進めたいとき。ちょっと一息つきたいとき。冒険の世界へ出たいとき。新しいアイデアを閃きたいとき。暮らしのなかで出合うさまざまな気持ちを助ける存在として、本があります。

ふと手にした本が、自分の大きなきっかけになることもあれば、毎日のお守りになることもある。

長野県上田市に拠点を置き、オンラインでの本の買い取り・販売を中心に事業を展開する、「VALUE BOOKS(バリューブックス)」の北村有沙さんに、心地好い暮らしのお供になるような、本との出合いをお届けしてもらいます。


<お知らせ: 「本だった栞」をプレゼント>
先着50冊限定!ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、同社がつくる「本だった栞」が同封されます。買い取れず、古紙になるはずだった本を再生してつくられた栞を、本と一緒にお楽しみください。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。



小さな命を通して映す、やわらかな日常。
『なずな』

「なにかにつけて勝手気ままに生きてきた私が、自分のことを後回しに考えるようになって、まだそれほどの時は経っていない」。

40代独身、タウン誌の記者を務める菱山秀一のもとに、ある日突然、生後2か月の赤ん坊「なずな」がやってきます。両親である弟夫婦はともに長期入院中、唯一頼れる存在として選ばれたのが、叔父である秀一でした。

おむつを替え、ミルクをあげ、散歩へ連れ出す。はじめての育児に奮闘しながらも、かけがえのない時間を過ごします。

なずなへ向ける眼差しはいつも、愛おしさに溢れています。丁寧に髭を剃り、赤ん坊に頬擦りする場面では、やわらかい肌の心地やミルクの甘い香りまで漂ってくるようです。

親身になってくれる小児科の先生や看護師さん、理解のある同僚など、なずなを取り巻く人たちは、即席の家族となって、代わるがわるなずなの世話を焼きます。ささくれほどの棘もない、純粋な優しさに触れながら、わたしたち読者もご近所さんのように、または家族のような気分で、ふたりの成長から目が離せなくなっているのです。

育児を中心とした日常のなかで、たびたび登場するのが食事のシーン。入居するマンションの一階にあるバー「美津保」では、ママの作る鍋焼きうどんをおいしそうにすすり、育児の合間にバターと和辛子を塗ったサンドイッチをこしらえ、“震えながら”食べる。秀一の食べっぷりを目の当たりにするたび、冷蔵庫の扉に手がかかりそうになります。

ベビーカーに乗ったなずなを連れて歩きながら、主人公の世界は、狭まるどころか緩やかに広がっていく。そして、読み手の気持ちも外へ、外へと開かれていきます。

・・・・

本書を読み終えた時、足早になりがちな都会のリズムを手放して、ゆっくり街を歩きたくなった。いつもは通り過ぎていた喫茶店に入り、カレーを注文する。いつの間にか空腹になっていた体で、”震えながら”スプーンを口に運んだ。

ご紹介した本

・堀江敏幸 『なずな』

本が気になった方は、ぜひこちらで:
VALUE BOOKSサイト『なずな』

先着50冊限定!ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、同社がつくる「本だった栞」が同封されます。買い取れず、古紙になるはずだった本を再生してつくられた栞を、本と一緒にお楽しみください。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。

VALUE BOOKS
長野県上田市に拠点を構え、本の買取・販売を手がける書店。古紙になるはずだった本を活かした「本だったノート」の制作や、本の買取を通じて寄付を行える「チャリボン」など、本屋を軸としながらさまざまな活動を行っている。
https://www.valuebooks.jp/


<同じ連載の記事はこちら>
【暮らすように、本を読む】#01『料理と毎日』
【暮らすように、本を読む】#02『おべんとうの時間がきらいだった』
【暮らすように、本を読む】#03『正しい暮し方読本』

【はたらくをはなそう】管理課 亀元宏美

亀元宏美
管理課

大阪大学経済学部卒業後、1年間の資格浪人を経て大手監査法人に就職。
2015年8月に公認会計士登録。会社法・金融商品取引法監査クライアントおよびIPO監査クライアントにて現場責任者を経験したのち、2022年8月当社へ入社。2023年9月、財務経理グループ長に就任。
主に中川政七商店および関係会社の経理業務及び決算業務を担当する。
また、内部統制監査の経験をもとに社内業務フローのDX化も担当している。



一年ほど前、およそ10年続けた会計監査業務を辞し中川政七商店へ入社しました。

転職を決意したのは、30代も半ばになり監査業務では一人前の仕事ができるようになったものの、そこで得た知見を事業会社で使ってみたくなったから。何のために、誰のために使うのか。すぐには思いつかなかったけれど、「子どもたちに伝え残したいと思えるビジネスをサポートしたい」。そんな思いがありました。

ずっと関西に住んでいる私にとって、小売店として親しみのあった中川政七商店。改めて自分が働く場所を探し求めたとき、店舗にある生活用品の心地好さはもとより、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンにとても興味を惹かれました。

ビジョンの意味を自分なりに咀嚼してみたとき、工芸メーカ―の経営基盤の弱さが思い当たりました。工芸メーカーをはじめ、日本の企業は99%以上が中小企業であり、その多くは家族経営です。

社長は職人でありお父さん、人情味があり従業員も家族のように大切にするからこそ、従業員もまた会社にフルコミットする。まさに人的資本経営を実践しているにもかかわらず、経営(数字)には疎く、数字重視で物事を判断する巨大資本に飲まれてゆく‥‥。工芸の衰退はそんなところにあるのだと思います。

その現状に真正面から向き合おうとする企業に、とても心を打たれました。「この企業でなら、自分の知見がより良い方向で活かせるかもしれない」という思いと、純然たる知的好奇心(内情は一体どうなっているのだろうか)から入社を決めました。

入社してみると、とてもフラットな組織風土と、各々が自分の持ち場に誇りをもって業務にあたっている姿が印象的でした。

現在は管理課で、経理財務業務にあたっています。当然のことながらバックオフィスの人間も、組織を構成する一社員として尊重されます。ビジョン達成のために日々奮闘する事業部の仲間に頼りにされ、相談を受けるときにはありがたく思い、自分を奮い立たせて業務にあたっています。

管理課にはルーティン業務も多くあり、日々目の前の仕事に追われると、自分が取り扱う情報の重要性や、自分たちの存在の影響力を忘れがちになります。けれど、そんななかでも自分たちが視座を高く持ち、スキル面でもソフト面でも自己研鑽に努めて業務にあたることが、会社成長の大きな原動力になるのではないかと考えています。

自分にも会社にも伸びしろはまだまだある!

目の前の一つひとつの業務が大きな道につながっていると信じながら、いつか振り返った時に自分の仕事が会社の成長、ひいては工芸業界再興の一助となっていたら、それほど嬉しいことはありません。


<愛用している商品>

ストレートパンツ

当社のアパレル品は何着も購入していますが、そのなかでもかなり気に入った品。着心地のよさに加え、仕事着にも普段着にも使える“ちょうどいい”もの。プレーンで飽きのこない品こそ、質のいいものを集めたいなと思わせてくれたパンツです。

きせつのしつらいえほん

日本文化に触れるきっかけをくれる絵本。2歳の息子はこいのぼりのページを気に入り、見入っています。季節のしつらいとともに、そこに込められた思いがあることを知り、豊かな人間に育ってくれることを願います。

【旬のひと皿】柿の白和え

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で創作料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



いよいよ秋がやってきて、少し肌寒く感じるようになりました。奈良では正倉院展も控えており、楽しみに旅行へいらっしゃる方も多いのではないでしょうか。以前、この季節に友人が奈良へ遊びに来てくれて、奈良公園や東大寺などを一緒に歩きました。ここに暮らしていると普通に目にする景色や空気感も、友人はとてもキラキラと喜んでくれて、一緒に旅行気分で街を歩いたのがいい思い出です。

個人的なおすすめは、奈良県庁の屋上と東大寺の二月堂。どこか懐かしくて、でも新鮮な気持ちになれる場所だなと思っており、お店にいらっしゃったお客様にもよくご紹介しています。

そんな秋の時期にお送りする今回の記事。旬の食材は「柿」にしました。奈良は柿の産地で、柿の葉寿司はお土産としても有名。いつもは緑の葉で巻かれたお寿司が、期間限定で紅葉した葉で巻かれているバージョンもあり、まだ手にしたことのない私は、いつか実際に見てみたいとずっと思っています。(もちろん食べたい!)

その他にも柿の葉茶や柿渋など、果実だけでなく色んな「柿」を楽しむことができますよね。よく通っている産直市場には、いつもは季節のフルーツが数種類並んでいますが、この時期だけはそのスペースを柿が埋め尽くしています。販売期間も長くて、やっぱりそれほど柿がよく採れるのだなぁと、私はそう理解しています。

店頭に並ぶのは甘柿や渋柿。大きさも種類も、熟れ具合も様々です。干し柿作りの材料となる渋柿は、吊るしやすいようきれいに枝を整えてあり、中には紐まで入れてくださっているものも‥‥。作りやすいように準備万端で販売されていて、農家さんの丁寧な想いを感じます。

秋の奈良は晴れの日が多く、空気もカラッとしていて、干し柿を作るにはバツグンの気候。干し柿作りは毎年楽しみにしている秋のイベントです。

話を戻して、今回は柿をメインにした白和えのレシピをご紹介します。

お豆腐の水切り時間や重さでも和え衣の雰囲気が変わってくるので、お好みでご調整を。軽く水切りしておくともったりしません。でも、美味しそうなお豆腐を使うのが、何よりのポイントかもしれません。味噌を少し効かせると、お酒にも合う秋のおつまみになりますよ。よろしければ、秋の夜長にお試しください。

<柿の白和え>

材料(作りやすい分量 ※3~4人分程度)

・豆腐(木綿)…1丁(250g)
・柿…1個
・椎茸…3本
・奈良漬け(もしくは、みょうが)…適宜
・白炒りごま(すり鉢がない場合は、すりごまでもOK)…適量
・塩…少々
・塩麹…小さじ1/2
・味噌…小さじ1/2

今回は「奈良らしく」を意識して、奈良漬けを使いました。奈良漬けの代わりにはみょうがなど、香りや食感のアクセントになる食材と合わせると、楽しいです。秋の白和えの材料はフレッシュな柿だけでなく、干し柿や茹でたほうれん草と合わせたり、秋のフルーツを複数混ぜ合わせたりするのもおすすめです。

作り方

椎茸は軸を切り落とし、軸の部分にも均一に火を通すため、裏面に軽く切り込みを入れる。塩(分量外)をして、網もしくはトースターで軽く焼く(網で焼く場合は、軽く蓋をすると蒸し焼き状態になり、網に面していない部分もじんわりジューシーに焼ける)。冷めたら食べやすい大きさにスライスする。

次に和え衣を作る。

豆腐は水切りしておく。ごまをすり鉢に入れ(軽く炒り直すと香りが良くなる)、すりこぎを使い、力を入れすぎずやさしい気分でする。豆腐は小さくちぎってすり鉢に入れ、滑らかになるよう、すりこぎで混ぜていく。滑らかになってきたら塩と塩麹、味噌を入れて味を調える。さまざまな調味料を加えることで、味に深みを出す。  

和え衣ができたら、柿の皮をむいて食べやすい大きさに切る。この際、種がある場合は取り除く。奈良漬け(もしくはみょうが)は食感のアクセントになるよう、細かく刻む。先ほどのすり鉢に柿と奈良漬けを入れ、全体をざっくり和える。食べる直前に和える方が美味しい。

【ひとこと】
白和えのレシピでは和え衣に砂糖を加えるものもありますが、今回は柿に和えるので、果物の甘みを引き出すために砂糖は加えていません。「白和えには砂糖!」と決めつけるのではなく、和える具材によって調味料を足し引きすると、和えものがより楽しくなるのでおすすめです。

柿でもう一つ:<柿のみそ焼き>

旬をたっぷり味わいたい!ということで、柿のレシピをもう一つご紹介します。
果物はデザートとして食べる方が多いですが、合わせる調味料によっては普段のおかずにもなるんです。柿のみそ焼きは甘じょっぱい味で、お酒のアテにもぴったり。ねぎみそには、胡桃を刻んで入れるのもおすすめです。晩夏~初秋は、いちじくでもぜひお試しください。

材料(作りやすい量)

・柿…1個
・白ねぎ…1/4本
・白みそ…大さじ1
・かつお粉…大さじ1/2 ※なくてもOK
・砂糖…適量
・柚子胡椒…適宜

かつお粉はかつお節を細かくパウダー状に砕いたもの。かつお節パックの底に溜まった粉でもいいですし、お持ちでない場合は通常のかつお節を乾煎りして、細かく砕いたものをお使いください。

作り方

ねぎをみじん切りしてボウルに入れ、白みそとかつお粉を加えて混ぜておく。柿は皮を剥いて縦半分に切り、それぞれを縦に三当分する(この時、種があれば取っておく)。

柿をバットなどに並べ、先ほど作ったねぎみそをスプーンで表面に盛る。砂糖を適量振り、バーナーで表面を軽くあぶるかトースターに入れ、表面の砂糖が溶けて軽くこんがりするまで焼く。

※バーナーを使用する際は、耐熱や耐火性のうつわを利用ください。またトースターを使用する際は、アルミホイルや耐熱性のうつわに並べて庫内へ入れてください。

うつわ紹介

・基本のひと皿:美濃焼の小鉢 青織部

・アレンジのひと皿:HASAMI プレート ミニ ブラウン

写真:奥山晴日


料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。

【地産地匠アワード】「循環するものづくりを地域に増やしたい」中川政七商店 千石あや×オフィスキャンプ 坂本大祐 対談

※この記事は、中川政七商店が主催する「地産地匠アワード」についての関連記事です。詳しくはこちら


地域に根ざすメーカーと、地域を舞台に活動するデザイナーが共に手を取り、新たなプロダクトの可能性を考えるコンペティション「地産地匠アワード」。

目指すのは、メーカーとデザイナーが協働してこそ生まれる新しいスタンダードの発見と、地域を率いるものづくりの担い手を広めてゆくこと、そして、完成品の販売による産地の作り手への還元です。

本アワードの運営を担うのは「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げ、工芸をベースにした生活雑貨を日本全国の作り手と生み出す、中川政七商店。またそこに力を添えるのは、奈良・東吉野村を舞台にローカルから全国まで様々な案件を手がけるデザインファーム・オフィスキャンプです。

この記事では中川政七商店社長の千石あやと、オフィスキャンプ代表の坂本大祐氏による対談を通じて、アワード開催の背景やそこに込めた想い、応募を検討いただいている方々へのメッセージを紹介します。


ーまずは地産地匠アワード開催の背景から伺わせてください。様々なデザインアワードが世の中に存在するなかで、なぜいま、このアワードを開催することを決めたのでしょうか?

中川政七商店 千石あや(以下、千石):

中川政七商店では「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに、お店で商品を販売するだけではなく、その作り手さんたちに向けた経営再生支援や教育講座なども実施しています。そうやってこれまで全国さまざまな地域に伺い、たくさんの相談を寄せていただいたなかで、本当によく言われるのが「ブランドや商品の作り方について、どうしたらいいかわからない」ということでした。

特に商品の一部となる部材を作るようなメーカーさんは、OEM(製造委託)の受注が減っているなどの事情もあって「自分たちでも直接お客さんに届けられるものづくりをしたい」「生活者向けのブランドを立ち上げたい」と考えられることが多くあるのですが、「技術はあるものの、どうやってお客さんから求められる商品にすればいいのか分からない」「デザイナーへ依頼したくても、誰に頼むのがいいのかわからない」といった悩みを多く伺います。だから日本の工芸を元気にするには、そこがまず難しいという課題があって。

そんななかで時代の流れとして、坂本さんたちのように東京や大阪だけじゃなくて、あえて拠点を地域に置いて、地域のメーカーさんのものづくりや、ひいては経営にもコミットして、といった活動をされるデザイナーが増えてきて。それは私たちにとって希望だったんですよ。

数年前からその気運の高まりがあり、実際に活躍されているデザイナーさんたちにもたくさん出会うなか、もっと、事業者とデザイナーが出会える場所やマッチングの機会があれば、いままで諦めてきたものづくりが少し先に進むきっかけになるんじゃないか、と考えました。

その想いを背景に坂本さんにもご相談をしながら進めてきて、地産地匠アワードに至ったというわけです。

千石あや(株式会社中川政七商店 代表取締役社長)

1976年生まれ。香川県高松市出身。
大手印刷会社に入社し、デザイナー、制作ディレクターとして勤務。
2011年に中川政七商店に入社し、社長秘書、商品企画課課長、「mino」コンサルティング、「遊 中川」ブランドマネージャーなどを経験したのち、2018年3月より社長を務める。


オフィスキャンプ 坂本大祐(以下、坂本):

僕が編著者をさせてもらい、2022年に出版された『おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる』では、出版記念企画として全国各地の“ローカル”に出向いてトークイベントをするキャラバンを行ってきました。その一つで奈良でも開催したときに、中川さん(中川政七商店 代表取締役会長)に登壇してもらったんですね。

それで、そのイベントの場では「地域のデザインにおいて、山形勢がすごい」という話題になったんですよ。いま思えば、これが地産地匠アワードの種になったんじゃないかなと。山形勢の勢いとか、いいデザインが生まれる理由を考えてみると、あそこは行政がすごくデザインを応援していて、芸術大学もある。かつ、県内でデザインアワードも開催されます。「その地域がどんなデザインをいいと思ってるか、毎年可視化されてるってすごいことじゃない?」って話をしてて。

アワードの意義とか良さって、「特定の価値感で選ぶいいものが可視化されて積み重なること」だと思うんですよ。この地産地匠もそんな話から芽吹いたんちゃうかなって、改めて振り返ってみると思いますね。

千石:

可視化されるのって大事ですよね。言葉だけではなかなか伝わらなかったものが、具体的になるというか。

坂本:

ほんまにそうです。「我々はこういうものがいいと思っているのだ」みたいなことが、やればやるほど文脈として重なっていきますよね。それを追いかける人たちにとっても、可視化する方法があることによって「なるほど、こういうものがいま必要とされてるのか」みたいに見えてくると思うんですよ。

坂本大祐(合同会社オフィスキャンプ 代表社員 クリエイティブディレクター)

奈良県東吉野村に2006年移住。2015年 国、県、村との事業、シェアとコワーキングの施設「オフィスキャンプ東吉野」を企画・デザインを行い、運営も受託。開業後、同施設で出会った仲間と山村のデザインファーム「合同会社オフィスキャンプ」を設立。奈良県生駒市で手がけた「まほうのだがしやチロル堂」がグッドデザイン賞2022の大賞を受賞。2023年デザインと地域のこれからを学ぶ場「LIVE DESIGN School」を仲間たちと開校。


ーとは言っても、他のデザインアワードでも毎年いいデザインの表彰は積み重なっていると思うのですが、いま例に挙げていただいた山形の話と何が違うのでしょう?

坂本:

例えば、僕も毎年楽しみにしている賞の一つに「グッドデザイン賞」があって、それはそれですごく大事なアワードだと思います。ただ“デザイン”の傘としてはすごく大きくて、「日本の」が言わずもがな付いているんです。

その規模感の大きさが、「山形の」っていうのと「日本の」っていうのはちょっと違うと思ってて。今回は「日本のなかでいいデザインを探す」というニュアンスではなくて、そのなかでも地域に根ざす産業と、地域に根ざした人や地域を愛する人たちが一緒に作ったものを見たい。それが積み重なっていくと地域に暮らす人とか、地域でものづくりをする人たちの、ある種の道しるべみたいなものが見えてくると思うんですよ。

「日本」って単位をもっと分解して、解像度を上げていくというか。もう少し、小さな単位で考えられるようにすることで「うちの村のこれはええもんなんや」と、その土地の本当に誇れるものを提案できる。だから、母数と背負うエリアが違いますね。

ちなみにタイトルの「地産地匠」については、違う名前も検討しました。「いまの時代に漢字?ちょっとダサいんちゃう?」とか(笑)。でも、やっぱりそのままをちゃんと伝えてるというか、タイトルでもう、このアワードが大事にしてることを伝えられていると思うんです。

ー確かに、どちらも同じく「日本全国」から応募を受け付けるものの、その単位のニュアンスは全く異なる印象を受けます。中川政七商店では、地産地匠アワードの主催者を担う意義や意味は、どこに感じていますか?

千石:

先ほどもお伝えしたように、中川政七商店は「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げています。「工芸とは何か?」については様々な解釈があると思うのですが、私たちは「風土と人が作るもの」と定義しています。土着性や、それぞれの風土・風習など、地域を色濃く表すものが工芸のものづくりの向こう側にはあると思ってて、私たちはそれを残したいと思っている会社なんですね。そんな当社が、各地域のものづくりがもっと活性化することや、まだ見ぬ作り手に出会える機会へ挑戦するのには、いろいろ意味があるなと。

ちょっと前だと地域で何かをやるのは、だいたい「町おこし」の文脈だったと思うんです。でもいまは、その空気が少しずつ変わってきているんじゃないかな。「都市VS地方」のような対抗ではなくて、「その人がいいと思う、暮らしたいと思うような場所で、本当にしたいと思う仕事をしながら生きるのは、そんなに難しいことですか?」という空気が生まれているように感じるんですね。こういうことを提案するのって、町おこしとはニュアンスが違うなと。

新卒で中川政七商店を受けてくださる方と話してても、就職先を考える際に都会と地方に優劣はなくて、もう本当にフラットに見てるんですよね。そうやって空気が変わってきてるいま、これからのために必要な、新しい提案をしていきたいなって。

これは私たちが、例えば販売機能である店舗のような、ものづくりを続けるのに必要な循環の仕組みを持っている事業者だから言えることかなとも思います。その仕組みがないと「売って、そしてちゃんと作り続けていきましょう」みたいなところまで踏み込めないと思うので。

ー例えば、地域にいいブランドを生み出すのであれば、中川政七商店が既に実施している「経営再生支援(コンサルティング)」や「経営とブランディング講座」を、もっとたくさん開催してもいいですよね。アワードである必然性はどこにあるのでしょうか?

千石:

アワードもあるし、教育講座もあるし、コンサルもあるし、いろんな手段があるのがいいことなんだと思います。事業者さんの状況は千者万別なので、それぞれの状況に応じて手段を用意することが、私たちがやるべきことなのかなと。

坂本:

あとは、何を「いい」と示していくのかがすごく大事で、それはアワードでしかできないと思うんですね。地産地匠的ものづくりのなかで「今年一番良かったのはこの人たちなんです」っていうのを日本全国に表明できるのが、アワードであるべき理由ですよね。

それが積み重なっていくと「こういうものづくりがいいんだ」って徐々に伝播されていって、我々が残したいいいものづくりが、たくさん現れることに繋がるんじゃないかなと思います。

ーアワードの設計について、こだわった点について教えてください。

千石:

意識したのは作り手とデザイナーの「マッチング」の部分ですね。私たちが直接マッチングするのか、そうでないのかは悩みました。いろいろな案を検討したうえで、今回は各地でアワードについてのトークイベントを開催することで、そこに参加いただいた方々が自主的にマッチングに動ける機会を作ることにしたんです。ものづくり事業者とデザイナーの両方が集まって話ができたり、質疑応答ができたりするようなイメージです。

例えばトークイベントに参加してみても、そのときは出会えなかったということもあると思います。でも、何らかの繋がりはできる。その縁を頼りに能動的に知り合いに行く、みたいなことがあればいいなと思います。

ちなみに地産地匠アワードの発表をした際に、熊本在住のデザイナー・佐藤かつあきさんからは、「工芸デザイン界のM1グランプリみたいな企画が始まったな」とSNSでコメントいただきました(笑)。確かに、一緒に組む人をあてがわれるのではなく、自分たちで最適なコンビを組んでチャレンジするというスタイルなので、言い得ていて私たちも深く頷いたメッセージでしたね。

あとは、受賞作の販売に責任を持つことも独自の特典としてご用意しています。私たちは、地域の事業者さんが自分たちで食べて行ける状態となるには、中量生産を目指すのが一つのキモだと思っていて。

ただ、そうはいっても初期投資費用が手元になくて、投資に足踏みすることもありますよね。既存の型ではなく、初期に型を作るかどうかとか、悩むじゃないですか。型ってお金がかかるから、ある程度売れる目処がないと怖くてアクセルを踏めないこともあると思うんです。だから今回は、中川政七商店が販売に責任を持つことを決めました。

「受賞された事業者さんの品については、中川政七商店が買い取って売るためのサポートもするから、ぜひ(アクセルを)踏んでください」って言えることがとても大事だなと。たくさんの方に手に取っていただいて売れることへ繋がると、その品が作り続けられる。そうすると、作り手さんが生活していけることに繋がるのはもちろん、技術も残せます。

坂本:

他にこだわった点だと、参加者へのスポットの当て方ですかね。

世の中のアワードって、ものづくり事業者かデザイナーか、どちらかに焦点をあてたものが多いんですけど、地産地匠アワードはペアリングの妙もとても大事にしているので、例えばクレジットの出し方一つでも、どちらかだけが目立つようなことにはしていません。

それって僕が思うに、中川政七商店が「こうじゃないと工芸が残らんぞ」って、長いこと事業者とデザイナーの共同に向き合い続けたことの集大成というか。やり続けたから見える世界ってあるじゃないですか。

工芸メーカーだけが頑張ってもあかんし、デザイナーだけがかっこいいものを作るのも違う。その両者が歩み寄ることで、本当にそのエリアにとって必要な、切実なものが生まれて世の中に響くようなもんになるのかなと。

ー坂本さんはローカルデザイナーとして、このアワードが特に地域にとってどんな役割を果たすとお考えですか?

坂本:

デザインの“ものさし”にできるものって、実はそんなに多くないんですよ。何を頼りに自分たちはものやデザインの良し悪しを判断すればいいのか、実はすごく迷う。特にこれまでのものさし的なものは、都市から発信されたり、商業から発信されたりすることしかなかったから、どうしても“いいデザイン”がそっちに収斂してしまってて。

でも、そうじゃない軸で開催するこのアワードが「こんな世界もいいと思うんやけど、どう?」と提案を投げかけて柱を立てたら、特に地域のデザイナーのなかで「もしかしたら、自分のクリエイティブはこっちが合ってるかも」って思える人たちが出てくるかもしれない。そうやって、救われたり、目指されたりする場合もあると思うんです。

今回は初回ですけどこれが年々回数を重ねていって、どんな相手と組めばいいのか、どんなスタンスで取り組めばいいのかが、エデュケートされていくようなことがあれば、本当に最高やと思いますね。繰り返しになりますけど、それを可視化させるツールとしてこのアワードがあると思うんです。

千石:

ローカルでのデザインって、実は圧倒的に手間がかかりますよね。「会社対会社の半年間でのプロジェクトで、決めたローンチ日に向かって各自がテキパキ仕事を進める」みたいな仕事じゃない。一つひとつ本当に丁寧に進める必要があると思います。

例えば家族経営の事業者さんで、社長の夫と工場長の妻が喧嘩したら、その仲裁に入るのもデザイナーとか(笑)。会社対会社のビジネスでは普通は起こり得ないし、そこに時間はさけないと思うんです。でも、小規模でやってらっしゃるローカルの事業者さんにとっては、夫婦が喧嘩してしまうと事業が全く進まなくて、それって大問題なわけですよ。

坂本:

あるあるですね(笑)。全く共感で、僕たちも似たスタンスで仕事してるんですけど、そうするとやっぱり数ができないんですよね。だからこうやって日本全国に裾の尾を広げて、「一緒にやっていきませんか」って呼びかけたいなと。「それぞれはそんなに量ができないけど、みんなで集まったら、もうちょっといっぱいできるんちゃうか」みたいな。

ー一方で、都市で活動しているデザイナーのなかにも、このアワードに興味を持っていただける方もいるかもしれません。

坂本:

そんな人がいてくれたら、嬉しいですよね。

その場合は例えばですけど、その人たちの出身地でやってみるとか、都内に事務所は構えてるけど特定の地域にどっぷり入って仕事をしている方なら、その地域で参加するとか。既に関係を持っているような場所や、自分の愛がある地域で参加いただくのがいいんじゃないでしょうか。

あとは東京でも江戸切子のようにローカル色の濃いものづくりをしている方もいるから、そこと組むのも有りですよね。

ー今回の地産地匠で期待する品のイメージはありますか?

千石:

今回は応募条件に「プロダクトであること」を一つ置いています。もともとは「暮らしの道具」という案もあったのですが、それだと限定し過ぎるなと。最終的には「地域のものづくり事業者とデザイナーが、二者で作ったプロダクトだったら何でもいいですよ」って定義したんです。

なぜプロダクトかというと、使われ続けていくことが、ものづくりの循環には大事だなと考えたからですね。使う道具でも飾る道具でも何でもいいんですけど、生産がちゃんとできて、たくさんの方に迎えられていって、次の発注にまた繋がる、いわゆる「食っていける」状態を目指してほしいと。それはなぜかというと、地域のものづくりにおいては、自分たちがいいと思うものを作りながら、その方々の暮らしが不安なく続けていける状態が理想だと思うからです。

「こういうものがいい」はあまりないんですけど、続けていくというプロセスが、なるべくできるものがいいなって思ってます。

ー「今回のために一球入魂した、一点もの」みたいな品では、ない。

千石:

そうですね。一点もののアートピースもすごく素晴らしいと思うし、それに近い作り方を中川政七商店がすることもあるのですが、地産地匠アワードに関しては、ものを作っている人やデザインをしてる人が生業とできること、続けていけることに重きを置きたいと思ってますね。それがどこか特別な場所に飾られているだけじゃなくて、暮らしに流通していかないと、結局は次に繋がらないので。

だから受賞作は、中川政七商店が事業者さんから仕入れて販売する形態をとります。これを言い出すとすごく商業的な印象も受けると思うんですけど……。売ることで「中川政七商店さんの利益になるんでしょう」って。

もちろん、うちの利益にならないとアワード自体も商売も続けられないから、適正な利益も大事ではあるんですけど、でもそれ以上に、そもそも中川政七商店がどうのではなく、利益が生まれないものづくりは続かないと我々は経験上わかってるし、そこが大事だと思ってる。これは矜持に近いです。

結局ある程度の量を作って、ある程度売れないと、作り手さんたちは生活がしていけないじゃないですか。そこの現実感は、すごく大事にしているところです。

坂本:

本当にそうですよね。まずは食べていけないと、次も生まれないから。

ものの良し悪しについては、あえてあまりお伝えはしないんですけど、でも一つ思うのは、ものの奥にある営みの部分まで見た上で、デザインされているものが出てきたらいいなと思いますね。

そのなかでデザイナーにどんな役割を果たしてほしいかというと、事業者さんの技術やそこから生まれるプロダクトを、客観的に見るということです。

ものづくりをしてる人はどうしても、作れるものや持っている技術を使う前提で考えてしまうことが多くて、なかなか生活者の視点に立って良し悪しが判断できない場合があります。

クリエイティブの立場である我々の役割は、それをどう客観的に見るか。冷静に見たうえで「お客さんからはこう見えますよ」ってリフレクションする役割が僕たちにはあると思います。そのうえで「で、どうします?」って話を一緒にしながらやっていってほしいなと。

千石:

事業者さんが得意とする技術を、使う人にむけて少し翻訳してあげる、みたいな、そういうイメージですね。確かに、職人さんやメーカーさんがこれまで技術の向上にコミットされてきたなかで、突然「お客さんの視点もバランスよく持つこと」と言われても戸惑うと思うんです。だからこそ、いいペアに巡り会えるといいなと思いますね。

坂本:

そうですね。ものづくりの出発点は、決して「売るためにものを作る」ことじゃない。特に地域のなかで地域の素材や技術を使って何かを作るのって、やっぱりその土地で暮らしてる人として「我々はこんないいものを使って暮らせてるんだ」の表明というか、お国自慢的なことが大事だとも思うんです。

本来的なものづくりって、まずはそこが起点なんちゃうんかなって思いながら自分はずっとやってます。そうじゃないと切実なものにならないというか。地域を冠するんだったら、まずは自分たちが良いと思って使っていることが大事で、そこが前提にないとその地域でやる意味がないなと。

まずは身の周りの人たちを想像して、その人たちの暮らしがいい感じになるツールとして“もの”がある、みたいに作っていけるといいなと思ってます。

ー地産地匠アワードのコピーには「新しいスタンダード」とありますが、ここに込めた想いを教えていただけますか?

千石:

いまは新しいものでも、長く続いていく定番を作りたいということ。これから長く、深く根ざしていくものに出会えますようにという想いを込めています。

坂本:

「新しいスタンダード」を考えるにあたって、「じゃあ古いスタンダードってなんやったん?」って考えるとわかりやすいかもしれないですね。これまでのスタンダードって、大量に安くどこでも買えて、しかもデザインがよくて、そういうものが良いとされていたなと。

そうじゃなくて、「誰がどこで、どのように作ってるの」「その営みが誰のためになっているの」まで含んでいくことを、これからのスタンダードとして提案していけたらと思います。

千石:

そうですね。「そういうことを丁寧に考えていってもいいんじゃない?」ということですね。

ー最後に、アワードに参加いただく方々へ、メッセージを頂けますか?

千石:

色々言いましたけど、参加いただく方は「このアワードはこういうもんだ」と、まずは思わずに作っていただくのが一番いいんじゃないかなと(笑)。自分たちが良いと信じるもの、作りたいと思っているものを、私たちに教えてあげる、というスタンスくらいがいいんじゃないかなって思います。

ちなみに、中川政七商店は審査員には入っていないので、私たちの世界観に合わせにいく必要もまったくありません。自分たちがやっていることを教えてくれるというか、皆さんの“お国自慢”を聞かせていただけたら嬉しいです。

もう一つは、これまでも頑張って考えてきたけど、手段がわからなくて困っていたり、これ以上何をすべきかわからなかったりする人にこそ、この機会を利用いただければと思っています。

応募段階での直接的な支援やマッチングの機能はありませんが、例えばトークイベントに来るだけでも次への一歩になる。同じ悩みを持つ人がそこにいるかもしれないし、仲間に出会えるきっかけになるかもしれないですよね。

「技術はあるけど、どうしたらいいのかわからない」「ものづくりを繋いでいきたいけれど、何を相談したらいいかわからない」って悩んでいるような、そんな人たちのきっかけになる場を目指すので、ぜひ参加していただけたらと思います。

坂本:

「このアワードがきっかけでペアを組むことになりました」って方々がたくさん生まれることが、やっぱり嬉しいですね。そう考えるとお見合いみたいやね。末永く上手くいってほしい(笑)。

お互いが地域に愛を持っていて、地域を誇れるようなものが作られる。そんなペアリングを我々は見たいなと思います。だからこそ、デザイナーも発奮してもらえればと思うし、「あなたたちの出番ですよ」って言いたいです。

クリエイティブを仕事にする方々が、地域にどんな作り手がいてその人たちと何を作ったら面白いか、大きくチャレンジできる場だと思うんです。「このアワードに応募するために一緒にやりませんか」って、言いに行けるいいきっかけにもしてほしいですね。


文:谷尻純子
対談写真撮影:奥山晴日

【はたらくをはなそう】コミュニケーションデザイン室 佐藤菜摘

佐藤菜摘
コミュニケーションデザイン室 室長/広報・PRプランナー

国内機械メーカーで法人営業やブランドマネージャー、PRなどを6年経験。2018年3月中川政七商店入社。広報・PRプランナーとして、中川政七商店のブランドコミュニケーションや工芸メーカーのコミュニケ-ションサポートに携わる。公式インスタグラムの運営も担当。PRSJ認定PRプランナー


東京の下町、小さな商店街で生まれ育った私は、いつも暮らしの中につくり手がいました。

ちりめん細工職人、手づくり豆腐店、町工場の匠たち‥‥商店を営む祖父母にひっつきながら、ものづくりに携わる人々の姿を眺める毎日。しわが刻まれたあの手から、小さく丸まったその背中から、なにかが生み出される様はまるで魔法のようでした。

手先が不器用な自分は、そうした人やものへの愛を「作り手」ではなく「伝え手」として繋いでいきたいと、いつからか思うように。でも、どんな業界がいいのか、そもそもどんな職業があるのか、ずっと答えは分からずにいました。

前職は、大きな工場をもつメーカーに入社。一つのブランドの商品企画、マーケティング、営業、PRなどものづくりの川上から川下まで任せてもらえ、気が付けば夢中になっていました。そして自分は長所も短所も「情熱」なんだと自覚し、その情熱をより発揮できそうな場所で働きたいと、また一歩新たなステージへ進んでみたくなりました。

“日本のものづくりを世の中に広める”。

高校生の頃、メモに残した言葉です。大それた夢ですが、10年以上たった今でも心に灯し続け、すべての原動力になっています。

この夢を実現させるには、中川政七商店しかない。人の手から生み出されるものへの愛を爆発させるには、もうここしかない。そんな気持ちで会社の門を叩きました。

卸や展示会を担当する「大日本市課」のメンバーとして配属され、楽しく働きはじめた頃。入社一か月後の面談の日に、突然「広報職」への異動を提案されました。前職で広報を経験していたし興味はあったものの、青天の霹靂。創業300余年の歴史とこれからの未来を「広報」として担うことに不安を感じ、目の前が真っ白になったのを覚えています。

あれから5年の月日が過ぎ‥‥

“いま、自分は「天職」に就いている。”

大げさに聞こえるかもしれないけれど、ふとした瞬間に、そう思います。あの日の異動をきっかけに、私の中の歯車がピタっとハマったように「情熱」が加速していきました。

たくさんの人が手をかけて生まれる商品やプロジェクト。そこに「世の中の視点」を加えることが私の仕事です。新商品が出るたび、あるいは社内のデザイナーや産地のつくり手の方々と話しをするたび、彼らの想いを世の中に届ける媒介者になれることに、最高にワクワクします。

すべては百年先の日本に、工芸を繋いでいくために。小さな一歩かもしれないけれど、点と点かもしれないけれど、社会を変えていけることに、大きな喜びと誇りを感じています。

そして会社のことを誰よりもたくさん知れる、というのも役得です。社員と話すたび、会社の歴史を知るたび、これからの会社の進む道を聞くたび、「いい会社だなぁ」と口癖のように呟いてしまいます。

はたらく人全員が、同じ旗印に向かっていること。それがこんなにも気持ちよく、そして一人ひとりの戦闘力を上げるんだ。日々、ビジョンである「日本の工芸を元気にする!」の存在を噛み締めながら過ごしています。

5年前、1人心細くスタートした広報ですが、とにかく全力で取り組んでいたら、気がつけば職種にとらわれずさまざまなプロジェクトに呼んでもらえ(時には呼ばれてなくても勝手にジョインし 笑)、おかげさまで広報チームも3人に増えました。

あの頃の夢に、人生で一番近づいている今。

広報という仕事に出会えたことはもちろんですが、中川政七商店ではたらけていること、何よりものづくりに携わる人々とはたらけていることが、最高に幸せで最高の「天職」だと信じています。

この先もし環境が変わっても、この情熱はずっと絶やさず、そして自分に恥じない仕事をしていきたい。

まだまだ、わたしの夢ははじまったばかりです。


<愛用している商品>

十二ヶ月のタペストリー

絵を飾るように、花を生けるように、お部屋の中に季節を表現してくれるタペストリー。江戸時代から変わらない製法で作り続ける、手績み手織りの麻織物に、一枚一枚人の手で絵を描いています。工芸が、日常に小さな幸せをもたらしてくれる、ささやかな存在であることを象徴するような商品です。

更麻

麻100%のインナーを開発した、と初めて聞いたときの衝撃。そして梅雨時にしか編めないという、ものづくりの面白さを再確認させてくれた商品です。さらりとした肌触りと、高い放湿性。更麻のインナーを着用してから、肌トラブルが減った気がします。

雪音晒の寝具

シーツに枕カバー、バスタオルと、我が家は雪音晒だらけです。パウダースノーを踏みしめたような、キュッとした感触、さらさらな肌触り。寝汗も洗濯もすぐに乾きます。究極の晒加工といわれるほど不純物を取り除いた雪音晒は、眠る時間もお洗濯する時間も、心地好く導いてくれます。



中川政七商店では、一緒に働く仲間を募集しています。
詳しくは、採用サイトをご覧ください。