【地産地匠アワード】「循環するものづくりを地域に増やしたい」中川政七商店 千石あや×オフィスキャンプ 坂本大祐 対談

※この記事は、中川政七商店が主催する「地産地匠アワード」についての関連記事です。詳しくはこちら


地域に根ざすメーカーと、地域を舞台に活動するデザイナーが共に手を取り、新たなプロダクトの可能性を考えるコンペティション「地産地匠アワード」。

目指すのは、メーカーとデザイナーが協働してこそ生まれる新しいスタンダードの発見と、地域を率いるものづくりの担い手を広めてゆくこと、そして、完成品の販売による産地の作り手への還元です。

本アワードの運営を担うのは「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げ、工芸をベースにした生活雑貨を日本全国の作り手と生み出す、中川政七商店。またそこに力を添えるのは、奈良・東吉野村を舞台にローカルから全国まで様々な案件を手がけるデザインファーム・オフィスキャンプです。

この記事では中川政七商店社長の千石あやと、オフィスキャンプ代表の坂本大祐氏による対談を通じて、アワード開催の背景やそこに込めた想い、応募を検討いただいている方々へのメッセージを紹介します。


ーまずは地産地匠アワード開催の背景から伺わせてください。様々なデザインアワードが世の中に存在するなかで、なぜいま、このアワードを開催することを決めたのでしょうか?

中川政七商店 千石あや(以下、千石):

中川政七商店では「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに、お店で商品を販売するだけではなく、その作り手さんたちに向けた経営再生支援や教育講座なども実施しています。そうやってこれまで全国さまざまな地域に伺い、たくさんの相談を寄せていただいたなかで、本当によく言われるのが「ブランドや商品の作り方について、どうしたらいいかわからない」ということでした。

特に商品の一部となる部材を作るようなメーカーさんは、OEM(製造委託)の受注が減っているなどの事情もあって「自分たちでも直接お客さんに届けられるものづくりをしたい」「生活者向けのブランドを立ち上げたい」と考えられることが多くあるのですが、「技術はあるものの、どうやってお客さんから求められる商品にすればいいのか分からない」「デザイナーへ依頼したくても、誰に頼むのがいいのかわからない」といった悩みを多く伺います。だから日本の工芸を元気にするには、そこがまず難しいという課題があって。

そんななかで時代の流れとして、坂本さんたちのように東京や大阪だけじゃなくて、あえて拠点を地域に置いて、地域のメーカーさんのものづくりや、ひいては経営にもコミットして、といった活動をされるデザイナーが増えてきて。それは私たちにとって希望だったんですよ。

数年前からその気運の高まりがあり、実際に活躍されているデザイナーさんたちにもたくさん出会うなか、もっと、事業者とデザイナーが出会える場所やマッチングの機会があれば、いままで諦めてきたものづくりが少し先に進むきっかけになるんじゃないか、と考えました。

その想いを背景に坂本さんにもご相談をしながら進めてきて、地産地匠アワードに至ったというわけです。

千石あや(株式会社中川政七商店 代表取締役社長)

1976年生まれ。香川県高松市出身。
大手印刷会社に入社し、デザイナー、制作ディレクターとして勤務。
2011年に中川政七商店に入社し、社長秘書、商品企画課課長、「mino」コンサルティング、「遊 中川」ブランドマネージャーなどを経験したのち、2018年3月より社長を務める。


オフィスキャンプ 坂本大祐(以下、坂本):

僕が編著者をさせてもらい、2022年に出版された『おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる』では、出版記念企画として全国各地の“ローカル”に出向いてトークイベントをするキャラバンを行ってきました。その一つで奈良でも開催したときに、中川さん(中川政七商店 代表取締役会長)に登壇してもらったんですね。

それで、そのイベントの場では「地域のデザインにおいて、山形勢がすごい」という話題になったんですよ。いま思えば、これが地産地匠アワードの種になったんじゃないかなと。山形勢の勢いとか、いいデザインが生まれる理由を考えてみると、あそこは行政がすごくデザインを応援していて、芸術大学もある。かつ、県内でデザインアワードも開催されます。「その地域がどんなデザインをいいと思ってるか、毎年可視化されてるってすごいことじゃない?」って話をしてて。

アワードの意義とか良さって、「特定の価値感で選ぶいいものが可視化されて積み重なること」だと思うんですよ。この地産地匠もそんな話から芽吹いたんちゃうかなって、改めて振り返ってみると思いますね。

千石:

可視化されるのって大事ですよね。言葉だけではなかなか伝わらなかったものが、具体的になるというか。

坂本:

ほんまにそうです。「我々はこういうものがいいと思っているのだ」みたいなことが、やればやるほど文脈として重なっていきますよね。それを追いかける人たちにとっても、可視化する方法があることによって「なるほど、こういうものがいま必要とされてるのか」みたいに見えてくると思うんですよ。

坂本大祐(合同会社オフィスキャンプ 代表社員 クリエイティブディレクター)

奈良県東吉野村に2006年移住。2015年 国、県、村との事業、シェアとコワーキングの施設「オフィスキャンプ東吉野」を企画・デザインを行い、運営も受託。開業後、同施設で出会った仲間と山村のデザインファーム「合同会社オフィスキャンプ」を設立。奈良県生駒市で手がけた「まほうのだがしやチロル堂」がグッドデザイン賞2022の大賞を受賞。2023年デザインと地域のこれからを学ぶ場「LIVE DESIGN School」を仲間たちと開校。


ーとは言っても、他のデザインアワードでも毎年いいデザインの表彰は積み重なっていると思うのですが、いま例に挙げていただいた山形の話と何が違うのでしょう?

坂本:

例えば、僕も毎年楽しみにしている賞の一つに「グッドデザイン賞」があって、それはそれですごく大事なアワードだと思います。ただ“デザイン”の傘としてはすごく大きくて、「日本の」が言わずもがな付いているんです。

その規模感の大きさが、「山形の」っていうのと「日本の」っていうのはちょっと違うと思ってて。今回は「日本のなかでいいデザインを探す」というニュアンスではなくて、そのなかでも地域に根ざす産業と、地域に根ざした人や地域を愛する人たちが一緒に作ったものを見たい。それが積み重なっていくと地域に暮らす人とか、地域でものづくりをする人たちの、ある種の道しるべみたいなものが見えてくると思うんですよ。

「日本」って単位をもっと分解して、解像度を上げていくというか。もう少し、小さな単位で考えられるようにすることで「うちの村のこれはええもんなんや」と、その土地の本当に誇れるものを提案できる。だから、母数と背負うエリアが違いますね。

ちなみにタイトルの「地産地匠」については、違う名前も検討しました。「いまの時代に漢字?ちょっとダサいんちゃう?」とか(笑)。でも、やっぱりそのままをちゃんと伝えてるというか、タイトルでもう、このアワードが大事にしてることを伝えられていると思うんです。

ー確かに、どちらも同じく「日本全国」から応募を受け付けるものの、その単位のニュアンスは全く異なる印象を受けます。中川政七商店では、地産地匠アワードの主催者を担う意義や意味は、どこに感じていますか?

千石:

先ほどもお伝えしたように、中川政七商店は「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げています。「工芸とは何か?」については様々な解釈があると思うのですが、私たちは「風土と人が作るもの」と定義しています。土着性や、それぞれの風土・風習など、地域を色濃く表すものが工芸のものづくりの向こう側にはあると思ってて、私たちはそれを残したいと思っている会社なんですね。そんな当社が、各地域のものづくりがもっと活性化することや、まだ見ぬ作り手に出会える機会へ挑戦するのには、いろいろ意味があるなと。

ちょっと前だと地域で何かをやるのは、だいたい「町おこし」の文脈だったと思うんです。でもいまは、その空気が少しずつ変わってきているんじゃないかな。「都市VS地方」のような対抗ではなくて、「その人がいいと思う、暮らしたいと思うような場所で、本当にしたいと思う仕事をしながら生きるのは、そんなに難しいことですか?」という空気が生まれているように感じるんですね。こういうことを提案するのって、町おこしとはニュアンスが違うなと。

新卒で中川政七商店を受けてくださる方と話してても、就職先を考える際に都会と地方に優劣はなくて、もう本当にフラットに見てるんですよね。そうやって空気が変わってきてるいま、これからのために必要な、新しい提案をしていきたいなって。

これは私たちが、例えば販売機能である店舗のような、ものづくりを続けるのに必要な循環の仕組みを持っている事業者だから言えることかなとも思います。その仕組みがないと「売って、そしてちゃんと作り続けていきましょう」みたいなところまで踏み込めないと思うので。

ー例えば、地域にいいブランドを生み出すのであれば、中川政七商店が既に実施している「経営再生支援(コンサルティング)」や「経営とブランディング講座」を、もっとたくさん開催してもいいですよね。アワードである必然性はどこにあるのでしょうか?

千石:

アワードもあるし、教育講座もあるし、コンサルもあるし、いろんな手段があるのがいいことなんだと思います。事業者さんの状況は千者万別なので、それぞれの状況に応じて手段を用意することが、私たちがやるべきことなのかなと。

坂本:

あとは、何を「いい」と示していくのかがすごく大事で、それはアワードでしかできないと思うんですね。地産地匠的ものづくりのなかで「今年一番良かったのはこの人たちなんです」っていうのを日本全国に表明できるのが、アワードであるべき理由ですよね。

それが積み重なっていくと「こういうものづくりがいいんだ」って徐々に伝播されていって、我々が残したいいいものづくりが、たくさん現れることに繋がるんじゃないかなと思います。

ーアワードの設計について、こだわった点について教えてください。

千石:

意識したのは作り手とデザイナーの「マッチング」の部分ですね。私たちが直接マッチングするのか、そうでないのかは悩みました。いろいろな案を検討したうえで、今回は各地でアワードについてのトークイベントを開催することで、そこに参加いただいた方々が自主的にマッチングに動ける機会を作ることにしたんです。ものづくり事業者とデザイナーの両方が集まって話ができたり、質疑応答ができたりするようなイメージです。

例えばトークイベントに参加してみても、そのときは出会えなかったということもあると思います。でも、何らかの繋がりはできる。その縁を頼りに能動的に知り合いに行く、みたいなことがあればいいなと思います。

ちなみに地産地匠アワードの発表をした際に、熊本在住のデザイナー・佐藤かつあきさんからは、「工芸デザイン界のM1グランプリみたいな企画が始まったな」とSNSでコメントいただきました(笑)。確かに、一緒に組む人をあてがわれるのではなく、自分たちで最適なコンビを組んでチャレンジするというスタイルなので、言い得ていて私たちも深く頷いたメッセージでしたね。

あとは、受賞作の販売に責任を持つことも独自の特典としてご用意しています。私たちは、地域の事業者さんが自分たちで食べて行ける状態となるには、中量生産を目指すのが一つのキモだと思っていて。

ただ、そうはいっても初期投資費用が手元になくて、投資に足踏みすることもありますよね。既存の型ではなく、初期に型を作るかどうかとか、悩むじゃないですか。型ってお金がかかるから、ある程度売れる目処がないと怖くてアクセルを踏めないこともあると思うんです。だから今回は、中川政七商店が販売に責任を持つことを決めました。

「受賞された事業者さんの品については、中川政七商店が買い取って売るためのサポートもするから、ぜひ(アクセルを)踏んでください」って言えることがとても大事だなと。たくさんの方に手に取っていただいて売れることへ繋がると、その品が作り続けられる。そうすると、作り手さんが生活していけることに繋がるのはもちろん、技術も残せます。

坂本:

他にこだわった点だと、参加者へのスポットの当て方ですかね。

世の中のアワードって、ものづくり事業者かデザイナーか、どちらかに焦点をあてたものが多いんですけど、地産地匠アワードはペアリングの妙もとても大事にしているので、例えばクレジットの出し方一つでも、どちらかだけが目立つようなことにはしていません。

それって僕が思うに、中川政七商店が「こうじゃないと工芸が残らんぞ」って、長いこと事業者とデザイナーの共同に向き合い続けたことの集大成というか。やり続けたから見える世界ってあるじゃないですか。

工芸メーカーだけが頑張ってもあかんし、デザイナーだけがかっこいいものを作るのも違う。その両者が歩み寄ることで、本当にそのエリアにとって必要な、切実なものが生まれて世の中に響くようなもんになるのかなと。

ー坂本さんはローカルデザイナーとして、このアワードが特に地域にとってどんな役割を果たすとお考えですか?

坂本:

デザインの“ものさし”にできるものって、実はそんなに多くないんですよ。何を頼りに自分たちはものやデザインの良し悪しを判断すればいいのか、実はすごく迷う。特にこれまでのものさし的なものは、都市から発信されたり、商業から発信されたりすることしかなかったから、どうしても“いいデザイン”がそっちに収斂してしまってて。

でも、そうじゃない軸で開催するこのアワードが「こんな世界もいいと思うんやけど、どう?」と提案を投げかけて柱を立てたら、特に地域のデザイナーのなかで「もしかしたら、自分のクリエイティブはこっちが合ってるかも」って思える人たちが出てくるかもしれない。そうやって、救われたり、目指されたりする場合もあると思うんです。

今回は初回ですけどこれが年々回数を重ねていって、どんな相手と組めばいいのか、どんなスタンスで取り組めばいいのかが、エデュケートされていくようなことがあれば、本当に最高やと思いますね。繰り返しになりますけど、それを可視化させるツールとしてこのアワードがあると思うんです。

千石:

ローカルでのデザインって、実は圧倒的に手間がかかりますよね。「会社対会社の半年間でのプロジェクトで、決めたローンチ日に向かって各自がテキパキ仕事を進める」みたいな仕事じゃない。一つひとつ本当に丁寧に進める必要があると思います。

例えば家族経営の事業者さんで、社長の夫と工場長の妻が喧嘩したら、その仲裁に入るのもデザイナーとか(笑)。会社対会社のビジネスでは普通は起こり得ないし、そこに時間はさけないと思うんです。でも、小規模でやってらっしゃるローカルの事業者さんにとっては、夫婦が喧嘩してしまうと事業が全く進まなくて、それって大問題なわけですよ。

坂本:

あるあるですね(笑)。全く共感で、僕たちも似たスタンスで仕事してるんですけど、そうするとやっぱり数ができないんですよね。だからこうやって日本全国に裾の尾を広げて、「一緒にやっていきませんか」って呼びかけたいなと。「それぞれはそんなに量ができないけど、みんなで集まったら、もうちょっといっぱいできるんちゃうか」みたいな。

ー一方で、都市で活動しているデザイナーのなかにも、このアワードに興味を持っていただける方もいるかもしれません。

坂本:

そんな人がいてくれたら、嬉しいですよね。

その場合は例えばですけど、その人たちの出身地でやってみるとか、都内に事務所は構えてるけど特定の地域にどっぷり入って仕事をしている方なら、その地域で参加するとか。既に関係を持っているような場所や、自分の愛がある地域で参加いただくのがいいんじゃないでしょうか。

あとは東京でも江戸切子のようにローカル色の濃いものづくりをしている方もいるから、そこと組むのも有りですよね。

ー今回の地産地匠で期待する品のイメージはありますか?

千石:

今回は応募条件に「プロダクトであること」を一つ置いています。もともとは「暮らしの道具」という案もあったのですが、それだと限定し過ぎるなと。最終的には「地域のものづくり事業者とデザイナーが、二者で作ったプロダクトだったら何でもいいですよ」って定義したんです。

なぜプロダクトかというと、使われ続けていくことが、ものづくりの循環には大事だなと考えたからですね。使う道具でも飾る道具でも何でもいいんですけど、生産がちゃんとできて、たくさんの方に迎えられていって、次の発注にまた繋がる、いわゆる「食っていける」状態を目指してほしいと。それはなぜかというと、地域のものづくりにおいては、自分たちがいいと思うものを作りながら、その方々の暮らしが不安なく続けていける状態が理想だと思うからです。

「こういうものがいい」はあまりないんですけど、続けていくというプロセスが、なるべくできるものがいいなって思ってます。

ー「今回のために一球入魂した、一点もの」みたいな品では、ない。

千石:

そうですね。一点もののアートピースもすごく素晴らしいと思うし、それに近い作り方を中川政七商店がすることもあるのですが、地産地匠アワードに関しては、ものを作っている人やデザインをしてる人が生業とできること、続けていけることに重きを置きたいと思ってますね。それがどこか特別な場所に飾られているだけじゃなくて、暮らしに流通していかないと、結局は次に繋がらないので。

だから受賞作は、中川政七商店が事業者さんから仕入れて販売する形態をとります。これを言い出すとすごく商業的な印象も受けると思うんですけど……。売ることで「中川政七商店さんの利益になるんでしょう」って。

もちろん、うちの利益にならないとアワード自体も商売も続けられないから、適正な利益も大事ではあるんですけど、でもそれ以上に、そもそも中川政七商店がどうのではなく、利益が生まれないものづくりは続かないと我々は経験上わかってるし、そこが大事だと思ってる。これは矜持に近いです。

結局ある程度の量を作って、ある程度売れないと、作り手さんたちは生活がしていけないじゃないですか。そこの現実感は、すごく大事にしているところです。

坂本:

本当にそうですよね。まずは食べていけないと、次も生まれないから。

ものの良し悪しについては、あえてあまりお伝えはしないんですけど、でも一つ思うのは、ものの奥にある営みの部分まで見た上で、デザインされているものが出てきたらいいなと思いますね。

そのなかでデザイナーにどんな役割を果たしてほしいかというと、事業者さんの技術やそこから生まれるプロダクトを、客観的に見るということです。

ものづくりをしてる人はどうしても、作れるものや持っている技術を使う前提で考えてしまうことが多くて、なかなか生活者の視点に立って良し悪しが判断できない場合があります。

クリエイティブの立場である我々の役割は、それをどう客観的に見るか。冷静に見たうえで「お客さんからはこう見えますよ」ってリフレクションする役割が僕たちにはあると思います。そのうえで「で、どうします?」って話を一緒にしながらやっていってほしいなと。

千石:

事業者さんが得意とする技術を、使う人にむけて少し翻訳してあげる、みたいな、そういうイメージですね。確かに、職人さんやメーカーさんがこれまで技術の向上にコミットされてきたなかで、突然「お客さんの視点もバランスよく持つこと」と言われても戸惑うと思うんです。だからこそ、いいペアに巡り会えるといいなと思いますね。

坂本:

そうですね。ものづくりの出発点は、決して「売るためにものを作る」ことじゃない。特に地域のなかで地域の素材や技術を使って何かを作るのって、やっぱりその土地で暮らしてる人として「我々はこんないいものを使って暮らせてるんだ」の表明というか、お国自慢的なことが大事だとも思うんです。

本来的なものづくりって、まずはそこが起点なんちゃうんかなって思いながら自分はずっとやってます。そうじゃないと切実なものにならないというか。地域を冠するんだったら、まずは自分たちが良いと思って使っていることが大事で、そこが前提にないとその地域でやる意味がないなと。

まずは身の周りの人たちを想像して、その人たちの暮らしがいい感じになるツールとして“もの”がある、みたいに作っていけるといいなと思ってます。

ー地産地匠アワードのコピーには「新しいスタンダード」とありますが、ここに込めた想いを教えていただけますか?

千石:

いまは新しいものでも、長く続いていく定番を作りたいということ。これから長く、深く根ざしていくものに出会えますようにという想いを込めています。

坂本:

「新しいスタンダード」を考えるにあたって、「じゃあ古いスタンダードってなんやったん?」って考えるとわかりやすいかもしれないですね。これまでのスタンダードって、大量に安くどこでも買えて、しかもデザインがよくて、そういうものが良いとされていたなと。

そうじゃなくて、「誰がどこで、どのように作ってるの」「その営みが誰のためになっているの」まで含んでいくことを、これからのスタンダードとして提案していけたらと思います。

千石:

そうですね。「そういうことを丁寧に考えていってもいいんじゃない?」ということですね。

ー最後に、アワードに参加いただく方々へ、メッセージを頂けますか?

千石:

色々言いましたけど、参加いただく方は「このアワードはこういうもんだ」と、まずは思わずに作っていただくのが一番いいんじゃないかなと(笑)。自分たちが良いと信じるもの、作りたいと思っているものを、私たちに教えてあげる、というスタンスくらいがいいんじゃないかなって思います。

ちなみに、中川政七商店は審査員には入っていないので、私たちの世界観に合わせにいく必要もまったくありません。自分たちがやっていることを教えてくれるというか、皆さんの“お国自慢”を聞かせていただけたら嬉しいです。

もう一つは、これまでも頑張って考えてきたけど、手段がわからなくて困っていたり、これ以上何をすべきかわからなかったりする人にこそ、この機会を利用いただければと思っています。

応募段階での直接的な支援やマッチングの機能はありませんが、例えばトークイベントに来るだけでも次への一歩になる。同じ悩みを持つ人がそこにいるかもしれないし、仲間に出会えるきっかけになるかもしれないですよね。

「技術はあるけど、どうしたらいいのかわからない」「ものづくりを繋いでいきたいけれど、何を相談したらいいかわからない」って悩んでいるような、そんな人たちのきっかけになる場を目指すので、ぜひ参加していただけたらと思います。

坂本:

「このアワードがきっかけでペアを組むことになりました」って方々がたくさん生まれることが、やっぱり嬉しいですね。そう考えるとお見合いみたいやね。末永く上手くいってほしい(笑)。

お互いが地域に愛を持っていて、地域を誇れるようなものが作られる。そんなペアリングを我々は見たいなと思います。だからこそ、デザイナーも発奮してもらえればと思うし、「あなたたちの出番ですよ」って言いたいです。

クリエイティブを仕事にする方々が、地域にどんな作り手がいてその人たちと何を作ったら面白いか、大きくチャレンジできる場だと思うんです。「このアワードに応募するために一緒にやりませんか」って、言いに行けるいいきっかけにもしてほしいですね。


文:谷尻純子
対談写真撮影:奥山晴日

【はたらくをはなそう】コミュニケーションデザイン室 佐藤菜摘

佐藤菜摘
コミュニケーションデザイン室 室長/広報・PRプランナー

国内機械メーカーで法人営業やブランドマネージャー、PRなどを6年経験。2018年3月中川政七商店入社。広報・PRプランナーとして、中川政七商店のブランドコミュニケーションや工芸メーカーのコミュニケ-ションサポートに携わる。公式インスタグラムの運営も担当。PRSJ認定PRプランナー


東京の下町、小さな商店街で生まれ育った私は、いつも暮らしの中につくり手がいました。

ちりめん細工職人、手づくり豆腐店、町工場の匠たち‥‥商店を営む祖父母にひっつきながら、ものづくりに携わる人々の姿を眺める毎日。しわが刻まれたあの手から、小さく丸まったその背中から、なにかが生み出される様はまるで魔法のようでした。

手先が不器用な自分は、そうした人やものへの愛を「作り手」ではなく「伝え手」として繋いでいきたいと、いつからか思うように。でも、どんな業界がいいのか、そもそもどんな職業があるのか、ずっと答えは分からずにいました。

前職は、大きな工場をもつメーカーに入社。一つのブランドの商品企画、マーケティング、営業、PRなどものづくりの川上から川下まで任せてもらえ、気が付けば夢中になっていました。そして自分は長所も短所も「情熱」なんだと自覚し、その情熱をより発揮できそうな場所で働きたいと、また一歩新たなステージへ進んでみたくなりました。

“日本のものづくりを世の中に広める”。

高校生の頃、メモに残した言葉です。大それた夢ですが、10年以上たった今でも心に灯し続け、すべての原動力になっています。

この夢を実現させるには、中川政七商店しかない。人の手から生み出されるものへの愛を爆発させるには、もうここしかない。そんな気持ちで会社の門を叩きました。

卸や展示会を担当する「大日本市課」のメンバーとして配属され、楽しく働きはじめた頃。入社一か月後の面談の日に、突然「広報職」への異動を提案されました。前職で広報を経験していたし興味はあったものの、青天の霹靂。創業300余年の歴史とこれからの未来を「広報」として担うことに不安を感じ、目の前が真っ白になったのを覚えています。

あれから5年の月日が過ぎ‥‥

“いま、自分は「天職」に就いている。”

大げさに聞こえるかもしれないけれど、ふとした瞬間に、そう思います。あの日の異動をきっかけに、私の中の歯車がピタっとハマったように「情熱」が加速していきました。

たくさんの人が手をかけて生まれる商品やプロジェクト。そこに「世の中の視点」を加えることが私の仕事です。新商品が出るたび、あるいは社内のデザイナーや産地のつくり手の方々と話しをするたび、彼らの想いを世の中に届ける媒介者になれることに、最高にワクワクします。

すべては百年先の日本に、工芸を繋いでいくために。小さな一歩かもしれないけれど、点と点かもしれないけれど、社会を変えていけることに、大きな喜びと誇りを感じています。

そして会社のことを誰よりもたくさん知れる、というのも役得です。社員と話すたび、会社の歴史を知るたび、これからの会社の進む道を聞くたび、「いい会社だなぁ」と口癖のように呟いてしまいます。

はたらく人全員が、同じ旗印に向かっていること。それがこんなにも気持ちよく、そして一人ひとりの戦闘力を上げるんだ。日々、ビジョンである「日本の工芸を元気にする!」の存在を噛み締めながら過ごしています。

5年前、1人心細くスタートした広報ですが、とにかく全力で取り組んでいたら、気がつけば職種にとらわれずさまざまなプロジェクトに呼んでもらえ(時には呼ばれてなくても勝手にジョインし 笑)、おかげさまで広報チームも3人に増えました。

あの頃の夢に、人生で一番近づいている今。

広報という仕事に出会えたことはもちろんですが、中川政七商店ではたらけていること、何よりものづくりに携わる人々とはたらけていることが、最高に幸せで最高の「天職」だと信じています。

この先もし環境が変わっても、この情熱はずっと絶やさず、そして自分に恥じない仕事をしていきたい。

まだまだ、わたしの夢ははじまったばかりです。


<愛用している商品>

十二ヶ月のタペストリー

絵を飾るように、花を生けるように、お部屋の中に季節を表現してくれるタペストリー。江戸時代から変わらない製法で作り続ける、手績み手織りの麻織物に、一枚一枚人の手で絵を描いています。工芸が、日常に小さな幸せをもたらしてくれる、ささやかな存在であることを象徴するような商品です。

更麻

麻100%のインナーを開発した、と初めて聞いたときの衝撃。そして梅雨時にしか編めないという、ものづくりの面白さを再確認させてくれた商品です。さらりとした肌触りと、高い放湿性。更麻のインナーを着用してから、肌トラブルが減った気がします。

雪音晒の寝具

シーツに枕カバー、バスタオルと、我が家は雪音晒だらけです。パウダースノーを踏みしめたような、キュッとした感触、さらさらな肌触り。寝汗も洗濯もすぐに乾きます。究極の晒加工といわれるほど不純物を取り除いた雪音晒は、眠る時間もお洗濯する時間も、心地好く導いてくれます。



中川政七商店では、一緒に働く仲間を募集しています。
詳しくは、採用サイトをご覧ください。

毎日を”好日”に。日々の幸せな食卓を願って生まれた「好日茶碗」

晴れの日も、雨の日も、昨日悲しいことがあった日も、今日が楽しみな日も。私たちは毎日、朝を迎え、食卓につき、食事をとります。

日常の何気ないシーンが、少しでも心地好く、幸福な時間になれば。そしてどんな日も、毎日が最良でありますように。そんな願いを込めて、中国でうまれた禅語「日日是好日(にちにちこれこうじつ)」を拠り所に、「好日茶碗」と名付けたご飯茶碗のシリーズを作りました。

全部で12絵柄を用意したお茶碗は、すべて職人の手で絵付けをおこなったもの。岐阜や石川、佐賀など、各地のつくり手に協力いただきながら、山水・草木・鳥獣・吉祥文様などをモチーフに、日本人が暮らしを営むなかで育んだ感性をお茶碗の景色として表現しました。

担当したデザイナー・榎本の言葉を借りながら、私たちが好日茶碗を通じて願うことをお伝えできればと思います。


かつての人々が絵付けに込めた想いを、今のお茶碗に載せて

ご飯茶碗をはじめ、茶器や花瓶など、日本の陶磁器には古くからさまざまな絵柄が描かれてきました。

吉祥紋、山水図、四季図、故事図。抽象的でダイナミックなものもあれば、繊細で緻密に描かれたものもあり、その絵柄は今もなお、各地の陶磁器にしばしば見られます。

昔の人はなぜ、そのままで十分使えるにも拘らず、陶磁器に絵を描いたのでしょうか。好日茶碗のシリーズを開発するにあたって、デザイナーの榎本はまずそこから考えました。

「昔から陶磁器が好きで普段からたくさん触れていました。そんななかで中川政七商店でも『食卓で毎日使える、お茶碗に特化したシリーズを作りたい』と思い、そうとなれば改めてお茶碗の歴史を知るべきだろうと、まずはいろいろ調べていったんです。

昔の人が使っていたお茶碗には、手に取るのが楽しくなる絵柄がたくさん描かれています。調べていくうちに、どんどんそこに注目したい想いが湧いてきて。もともと僕自身も絵を描くのが好きですし、絵付けのうつわも好きだったのですが、そもそも昔の人たちはどうしてこんなに豊かな景色をお茶碗に描いていたのだろうと、当時に思いを馳せてみたんですね。

和食器の絵付けは室町時代や安土桃山時代、江戸時代などから見られます。そしてその時代は、大多数の人が今よりも物理的に生きるのが困難だった時代です。例えば草花文様には繰り返す命を尊ぶ思いや自然の賛美を込めて、吉祥文様には日々の安寧や明るい未来を願って、といったように、うつわに絵を描くということは、豊かさへの、つまり好日への祈りだったのではないかと考えるようになりました」

食べることに苦労したり、争いが絶えなかったりした時代。うつわの絵柄からは「不安の伴う毎日に、少しでも幸せを感じられるように」という、当時の人たちの願いや想い、そして忘れずに持ち続けた遊び心を感じたと榎本は続けます。

「そうやって、さまざまな絵付けを知っていくにつれ、当時に込められた願いや想いは今の私たちにとっても、同じように必要とされるものではないかと思うようになりました。

今は物質的には豊かになったけれど、一方、疫病の流行や世界で起きる悲しいニュースなど先の見えない時代でもあります。日々の安寧への想いは強くなっていて、昔の人々が願ってきた祈りを今を生きている私たちも感じ始めているんじゃないかなと。

そんな風に考えて『かつての人たちが大切なものをすくいあげて、祈りや畏敬の念を込めて描いたように、現代の職人さんたちと好日に寄り添うお茶碗を作ってお客さんと一緒に味わいたい』と、好日茶碗のコンセプトに至りました」

過去と地続きにある、多様性を大事にした12絵柄

コンセプトが決まったら、次は一緒にものづくりをしてくださるつくり手探しと、絵柄の検討です。

榎本が今回、つくり手との関係で大切にしたのは「共創」というキーワード。

「中川政七商店のデザイナーが考えたものを、ただ作ってもらうのではない関係性に挑戦したい」と、それぞれが得意なデザインや、普段のものづくりの延長にある絵柄を咀嚼しながら、二人三脚で歩みを進めていきました。

「つくり手の喜びを感じられるようなうつわを、お客さんに楽しんで使ってもらいたい」。そこにも、好日茶碗らしいこだわりがあるのです。

肝心の絵柄はというと、榎本いわく“1000本ノック”のように、まずはひたすら案を考えていきました。ここでも、好日茶碗だからこそのこだわりが。

「ご飯を食べるのって、毎日の営みじゃないですか。食事のうつわで『好日を感じるってどういうことかな』と考えていくと、過去と地続きの毎日が表現されていることだと結論に至って。それで、絵柄を考える際には『昔の人が引き継いできたデザインのうえにあるもの』を共通のテーマとして置きました。

もちろん奇抜な絵柄が描かれたうつわも一つの価値だとは思うのですが、過去との地続き感で考えると断たれてしまう。だから、好日茶碗の絵柄は、日本を含むアジア圏で昔から描かれてきた模様や、暮らしのなかで手の届きそうな自然や植物から考えたいと思いました。それらのモチーフにこそ、身近なものへ愛おしい眼差しを持って未来を願ってきた、絵柄の本質があるのではないかなって。

うつわに絵が描かれてきた理由を考えると、『願いを届けたかった・伝えたかった』という、つくり手の想いがあると思うんです。そうやってつい、ものを描いてしまう行為って、ものづくりの原点なんじゃないかなと。そこから離れないようなお茶碗を作りたいとこだわりました」

6つの窯元・作家と共に作り上げている好日茶碗。多様性を楽しんでいただけたらと、表情も形も、三者三様ならぬ六窯元六様で本当にさまざまです。

「例えば『染錦稲穂雀(そめにしきいなほすずめ)』『染錦山水遊鳥(さんすいゆうちょう)』を作ってくださっている渓山窯さんは、有田の窯元です。染付と色絵が得意で、作られているものはすべて手描きで絵付けされています。渓山窯さんは、やらないことをきっぱり決めてものづくりに臨んでいる姿勢が面白い。理由を聞くと『めんどくさがりやだから』と冗談で言われるのですが(笑)、つっこんで聞いてみると、せかせかしないで作るのを大事にされているんですね。

代表の篠原祐美子さんは、幼少期にご自身のおじいちゃん、おばあちゃんが工房で仕事をしているすぐ隣で遊びながら育っておられて、その空気感がとても好きだったそうです。『その時の空気感を残したものづくりをしたい』と願って今もものづくりをされていて、できあがるものもゆったりしている。日ごろの姿勢が、作り出すものにも表れているなと感じています。そんな風に、窯元さんそれぞれの特徴も感じながら手に取っていただけると嬉しいですね」

好日茶碗 渓山窯「染錦山水遊鳥」

毎日の食卓から、日々の幸せを願って

それぞれに個性を持つお茶碗は、実は高台の裏やお茶碗の底に絵が入っている品も。食器を洗う時間など、食卓に並んでいるとき以外にも出合いや発見を用意しました。

どれにしようか迷ってしまうところですが、最初のインスピレーションや他のうつわとの相性、何よりご自身の食卓が楽しくなりそうかなど、ぜひいろいろな視点で心ゆくまでお考えいただき、とびきりの一つを迎えてください。

「絵があることによって気持ちが和んだり、無地のうつわにはない感情の動き方があったりするのを感じていただければと思います。ご飯を盛る前に食卓に並んでいるさまや、食器棚に置いて光が差している景色もいいですよね。でも、お茶碗は使っているときが一番美しい。気に入ったものを日常でぜひ、たくさん使ってください」

日々是好日。

ほかほかのご飯と、お茶碗に描かれた幸せな景色が、皆さんの毎日を少しでも「好日」にしてくれたらと願いを込めて。一つひとつ、少しずつ異なる手しごとならではの表情を、自分だけのお気に入りとして長くお愉しみください。


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文:谷尻純子

「お茶碗、どう選んでいますか?」うつわを愛でる3人の、食卓談義

個人的な話ですが、うつわが好きでたまりません。

食事を盛り付けるだけなら、夫婦2人で10枚もあれば十分なのかもしれませんが、色や形、手ざわり、大きさ、それらをひっくるめた独特の佇まい。そんな魅力に惹かれ、せっせと買い求めていたら、いつの間にか我が家の食器棚はいろんな表情の品で溢れ、いつでも私を励ましてくれる、宝箱のような存在になりました。

このたび中川政七商店では、そんな、機能だけではないうつわの良さを、食卓で楽しんでいただきたいと、さまざまな産地・さまざまな絵柄のお茶碗を集めた「好日茶碗」シリーズを発売しました。

うつわのなかでも特に「属人器」と呼ばれるお茶碗は、「決まったものを使う」「複数種類を持たない」という方が多数。買い替えるタイミングも、割れてしまったことを機に、という方が多いようです。

担当デザイナーからそんな話を聞いた私は、好奇心がむくむく。「改めて、他の人のお茶碗事情を聞いてみたい!」と思ったのです。

この興味をきっかけに、うつわ好きの3人の方に集まっていただき、好日茶碗シリーズの発売を前に「食卓談義」なる座談会を開催。うつわと、その中でもお茶碗に関するお話を伺ってみました。

座談会に参加いただいた方

左:境 祐希さん
夫婦と子ども2人の4人暮らし。ならまちの食堂・喫茶「七福食堂」の店主。骨董が好きで、自身で集めた古いうつわは店内でいただける定食の提供にも使用する。https://www.instagram.com/shichifuku.shokudo/
※今回の座談会場所も七福食堂さんで行いました

中央:岡田 理(しずか)さん
美術作家。陶器を素材としたオブジェを制作している。画家の夫と3人の子ども達とともに普段は主に古陶磁を食卓で使い、家族旅行では肥前や美濃瀬戸などで古窯跡地を回る。

右:あやかさん
夫と2人暮らし。「ごはん愛好家」という肩書で、奈良を拠点に料理家として活動。企業のレシピ開発を手がける他、自宅で開く料理教室は毎回すぐに予約が埋まる人気。
https://www.instagram.com/ayaka.i_03/


そもそも、何がきっかけで、うつわ好きに?

うつわを愛してやまない皆さん。

それぞれにこだわりや好みはあると思いますが、それは追々伺うとして、そもそもいつ、何がきっかけでうつわに目覚めたのでしょう?

あやかさん:

「大学生になって一人暮らしをはじめたときに、初めて自分でお茶碗を買いました。最初は100円ショップでシンプルなものを迎えて。

そのうち、人を呼んで食事を作ったり、おもてなしをしたりするのが好きだったこともあり、自宅に人が集まるようになってきたんですね。

それで、せっかく食事を出すなら美しく、ときめきのある形で出したいなって貪欲さが出てきて、それが始まりですね。そこから、アルバイトをしながら少しずつうつわを集める日々が始まり、今に至ります。誰かを喜ばせたくてハマったうつわ収集ですが、今では自分自身もごはんを食べるたびにときめいて、自分の楽しさにも繋がっています」

岡田さん:

「私は結婚してからですね。一人暮らしのときから、うつわを見るのは好きだったものの、料理をあまりしなかったので、暮らしのなかにうつわがあることにリアリティがなかったんです。

すごく好きになったのは結婚した後。夫婦ともに海外生活から戻ったタイミングで、新鮮な目で見る日本の古陶磁の面白さに夫がハマりはじめたのがきっかけです。最初は作家物のうつわが数枚ある程度だったのですが、ある日、お蕎麦が食べたいねってなったんです。それで蕎麦猪口を買おうと思い、いろいろ調べてるなかで、いろんな絵柄の蕎麦猪口があることを知って、絵が面白いなと気付いて。本当は2つあれば十分だったんですけれど、素敵なものがあれば迎えるようになりました。

蕎麦猪口って、おかずを盛ったりお酒を入れたりもできる。夫婦ともそんなにお酒を飲まないのですが、日々増える蕎麦猪口を使いたいがために、あえてお酒を飲んでいた時期もありました(笑)。

今ではいろんなうつわが家にあって、子どもたちもそれぞれに自分の好きな絵柄があるみたい。食事の時間になったら食器棚からうつわを引っ張り出してきて、その日の気分で選んでくれています。子どもが選ぶなかで『さすがにこれはダメ』というものもあるんですけど、頑丈そうなものを中心に、自分で決めたものを楽しみながら使ってもらってます。6歳の長男は染付のうつわが好きなのですが、4歳の次男は鉄釉や変わった柄が描いてあるものが好きみたいで。好みも個人差がありますね」

境さん:

「私もあやかさんと一緒で大学生くらいからですね。奈良で一人暮らしを始めたのですが、最初は色々とお金もかかるので、食器はほとんど実家から持ってきたものを使ってたんです。あの、パンのフェアでもらえるやつとか(笑)。あれはあれで、割れないし本当に便利です。

毎日暮らしていくのに何とか慣れてくると、料理にも改めて目が向くようになり、それでうつわにも自然と興味を持ち始めました。

私は古いものが好きで、一番最初に買ったのは、民芸館のミュージアムショップで見つけたマグカップ。知り合いの古着好きの方が『古着は作り手の思想を身に纏えるのがいいんだ』と言っていて、自分が好きなものを毎日使える喜びに気付いたのが購入のきっかけです。

それで、買いだしたらいろんなものに興味がわくようになって、骨董市や好きな作家さんの個展などで、お茶碗やプレートも集めるようになりました。でも実は、今もまだパンのフェアでもらったうつわも持ってるんですよ。そうやって、自分がお世話になったものが食器棚に並んでいる風景がいいな、生活やなって思いますね」

あやかさん:

わかります。私もまだ100円ショップで買ったうつわ、持ってます。もう本当に使いやすくて。電子レンジで何かを温めたいときとか、すごく気軽に使えるんですよね。だから、なかなか捨てられない。安いからダメとかではなくて、うつわごとの良さがありますよね」

うつわ初期と今で、選び方はどう変わった?

それぞれ異なるきっかけで、うつわの魅力に気付いた皆さん。ハマり始めた初期の頃と今では、選び方も変わったのでしょうか?

たくさん迎えてきたからこその気付きや、選び方のポイントを教えてください。

境さん:

「初期はうつわ単体としてビビッとくるものを買っていましたが、だんだん揃ってくるにつれて取り合わせを考えるようになりましたね。自分が持っている他のうつわに合わせて買わないと、極端なものだと食卓に並べても合わないようになってしまうなぁと」

岡田さん:

「我が家は今も、取り合わせよりも、ものそのものが好きで買っています。取り合わせを考えることもあるんですけど、日々勢いで選んでますね(笑)。ただ、子どもが増えるなど家族の形態が徐々に変化しているので、使いやすいサイズは少しずつ変わってきているかもしれません。

例えば、家族が増えてからは大皿をよく使うようになりました。おかず一品しか作りたくないような料理を作るのがしんどい日も、どんと盛り付ける大皿が素敵なものであれば、その日は幸せ。料理を頑張らなくても、うつわがお気に入りのものなら食卓は良く見えるということに味をしめて、ずっとうつわに助けてもらってます。

いくつかある家族の話題として、食卓に載ったうつわについて『今日の絵柄はこうだね』のような会話もしていて、それが家族の楽しみになっていますね」

岡田さん宅の食器棚写真(写真提供:岡田さん)

あやかさん:

「家族でうつわについて話すの、すごく素敵ですね!私も境さんと同じで、最初はキュンとくるかこないかで選んでました。出合ったら買う!という感じです。今は、うつわと料理の相性を想像してます。気になったうつわをすぐに迎えるんじゃなくて、そのうつわに何を盛りたいか考えてみて、『3種類以上思い浮かばないものは迎えない』というルールをつくっています。

というのも、初期の頃に気に入って買ったうつわのなかで、使いづらいものは結局、出番がなくなってしまって。それって残念だなと思うようになったんです。うつわは使ってあげて価値が芽生えると思っているので、そのうつわがいくらお店でキラキラしていても、いざ家の食卓にあがったときに活躍してくれるか、可愛がってあげられるかを大事にしています」

普段、どんなお茶碗を使っていますか?それぞれのお茶碗事情

それぞれの理由で、たくさんのうつわに日々愛情を注ぐ皆さん。ところで属人器と言われるお茶碗事情についてはいかがですか?

岡田さん:

「うちは古いものが好きなので、9割くらいは骨董ですね。あと子どもは、汁椀や大皿などは大人と同じものを使うのですが、お茶碗については使いやすさを考えて、某量販店のものなども愛用しています。数で言うと夫がどんどん買ってくるので、お茶碗だけでも常に20個ほどあって、かなりの量になってしまいました(笑)。

我が家は誰がどのお茶碗というのが決まってなくて、私と子どもが『今日はこれがいいな』という感じで選んでいます」

境さん:

「小さい頃からその日の気分で選んで使うの、いいですね。我が家は夫婦と小さい子ども1人、赤ちゃんが1人で、貰いものも含めてお茶碗は5個。ペアで買ったのもあるし、各々が好きなものをバラバラに買ったものもあります。

うちは岡田さんと反対で、それぞれが使うお茶碗が決まっていて、それをほぼ毎日使います。スタメンじゃないものを使うときは、洗い物が間に合ってないときですね(笑)。私はというと木の合鹿椀(ごうろくわん)を使っているのですが、それがすごく好きで。漆が剥げても使い倒したいなと思っているくらいです。かなり大きいのでごはんを盛るだけじゃなくて、汁を入れてもいい。それを毎日使っています。

さっき、取りあわせを意識してうつわを買っていると話しましたけど、いまお茶碗にしている合鹿椀は『これだ!』と思って迎えたもの。木の質感とか育っていくサマとか、そのものの魅力に惹かれちゃって。全然取り合わせられなくて、食卓で完全に浮いてますね(笑)」

境さんお気に入りの合鹿椀(写真提供:境さん)

あやかさん:

「私はクリーム色と白色、黒色の3種類を、ペアで計6つ持っています。大皿などは個性的なものも好きなのですが、お茶碗に関してはシンプルなものが使いやすいなって。毎回の食事でどれを使うかは、一緒に並ぶ他のうつわが何色かで、バランスを見ながら決めています。

実はもう一つ、ごつごつした緑系の奇抜な感じのお茶碗も持っているのですが、それを使うとごはんが美味しくなかったんですよ。それで、お茶碗によって、ごはんが美味しく感じられるかどうかは違うんだなって気付きました。柄はお気に入りなので、今は食器棚の中で箸置き入れとして活躍してもらってます」

あやかさんが愛用するお茶碗たち(写真提供:あやかさん)

手しごとのうつわを選ぶ理由

量販店で安価に手に入るものから、工業製品として機能性をしっかり持たせて作られるものまで、ひとくちにお茶碗と言っても出自は様々。

今回座談会に参加いただいた3人は手しごとのものを好んで使われているようですが、改めてなぜ、手しごとのものを選ばれているのでしょうか?

岡田さん:

「風合いというか、出ているオーラが違うように感じています。とはいえ、機能性を求めることももちろんあります。子どもがガンガンぶつけたりすると、素敵なうつわを使っていてもハラハラしちゃって楽しくなくなるから。あまり縛られずに、その時々で使い分けてますね。

実は昨日ちょうど、長年お世話になっていた某量販店のお茶碗を長男が卒業したんです。これまでは、お茶碗だけは子どもが扱いやすいものを使っていたのですが、隣に座っているお父さんのお茶碗を見て、『僕もこういうの使ってみたい』って。子どもも何となく独特の魅力に惹かれたのかな」

あやかさん:

「手しごとで作られたうつわからは、何だろう‥‥豊かさを感じますね。毎日3回ある食事の底上げをグッとしてくれる感覚があって、それが人の手で作られたものを使う理由です。幸福度が違うなって、とっても思います」

境さん:

「私は自宅でもお店でも、工業製品も結構使ってて。それはやっぱり、安定性とか再現性があるのと、気軽に使えるという理由が大きいですね。そういうものも必要やなって思うんですよ。そういうものがあるから、手しごとのものも良く見える。

そんななかで手しごとのものを使うのは、やっぱりそこに見える景色というか。特にお茶碗は、毎日使うものですよね。毎日食卓で見るたびに、買った時の思い出とか、うつわを取り巻く歴史みたいなものに思いが馳せられるので、よりいっそう愛着がわいていく。工業製品よりも、そういうものが乗りやすいんじゃないかなと思います」

七福食堂さんの食器棚

好日茶碗、自分が使うならどれですか?

最後は、新たに登場した好日茶碗シリーズのお話。6つの産地で計12絵柄があるお茶碗、皆さんだったらどれを、どんな風に使いますか?印象に残ったものを教えてもらい、実際に家庭でも使っていただきました。

境さん:

「私は『呉須独楽筋(ごすこますじ)』ですね。見た感じの印象が、自分が持っている骨董系のうつわと取り合わせが良さそうだなと思いました。あとはシンプルに柄がいい。これにごはんを盛って他はお味噌汁だけでも、かなり気分が上がりそうだなって」

境さん宅での様子。お茶碗にはよそわれたのは、奈良の郷土料理である「茶粥」(写真提供:境さん)

岡田さん:

『飴白格子(あめしろごうし)』です。白ごはんが美味しそうに見えるだろうなと思えたのと、深さがあるのでスープも飲めそうだなと。我が家は子どもたちが納豆ごはんを好んで食べていて、深いと混ぜやすいので、大人も子どもも使いやすそうだなという印象です。私はたくさんあるうつわの産地のなかでも、特に小鹿田焼が好きなのですが、それと合わせたときも温かみのある色がよく合いそうだなと思いました」

「あと、鹿が描かれた『さび白鹿(さびしろしか)』も可愛らしさがいいですね。デザインのルーツとして、『鹿は古くから禄(ろく=天からの贈りもの)と音が通じることから、幸いや喜びの象徴とされてきた』という話もグッときました。食卓は子どもたちにとって学びの場でもあるので、かわいい絵はもちろんですが、絵付けの意味を食卓で話すことで、その話が記憶に残るのもいいなって思います」

岡田家では、お茶碗にスープを盛り付け(写真提供:岡田さん)
※汁物を入れる場合は、目止めをしっかり行ってからお使いください
持ちやすい形は、お子さんの手でも安心(写真提供:岡田さん)

あやかさん:

「私は『安南唐草(あんなんからくさ)』。濃い色ではないのに、パッと目につく絶妙な淡い色が好きですね。あとはシンプルに使いやすそうだなって。ごはんを盛るだけじゃなくてスープも盛れるし、茶碗蒸しも作れそう。和にもエスニック系の料理にも合わせやすくて、スープを盛ってパクチーを載せるのも映えそうです。料理への妄想を一番かき立ててくれるお茶碗だと思いました」

あやかさん宅の食卓。赤や黄など鮮やかな野菜たちの色を、お茶碗が引き立てる(写真提供:あやかさん)

うつわが持つ、機能だけでない魅力。見ているだけでも心が和んだり、楽しくなったりする、暮らしの道具としての頼もしさをより感じる座談会となりました。

お気に入りのものをずっと使い続けてもいいし、毎日の気分に合わせて使い分けるのもいい。それはお茶碗もまた、同じなのだなぁと思いました。

心を寄せられるうつわで、日々を楽しく過ごしていけたら。
このたびの好日茶碗シリーズも、そんな楽しい食卓の、よき相棒になれば嬉しく思います。


文:谷尻純子
写真:奥山晴日


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【暮らすように、本を読む】#03『正しい暮し方読本』

自分を前に進めたいとき。ちょっと一息つきたいとき。冒険の世界へ出たいとき。新しいアイデアを閃きたいとき。暮らしのなかで出合うさまざまな気持ちを助ける存在として、本があります。

ふと手にした本が、自分の大きなきっかけになることもあれば、毎日のお守りになることもある。

長野県上田市に拠点を置き、オンラインでの本の買い取り・販売を中心に事業を展開する、「VALUE BOOKS(バリューブックス)」の北村有沙さんに、心地好い暮らしのお供になるような、本との出合いをお届けしてもらいます。

<お知らせ>

先着50冊限定!ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、中川政七商店の「みかん番茶」が書籍と一緒にお手元に届きます。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。



自分にとっての”正しい”を見つける。
『正しい暮らし方読本』

絵本作家・五味太郎さんによって、ユーモアたっぷりに描かれる様々な「正しい○○の方法」。思わず身構えてしまいそうなタイトルとは異なり、ほのぼのとしたイラストで、読む人の想像力を掻き立てます。

1993年発売の本書ですが、30年経っても全く色褪せない、むしろ新しさすら感じる、暮らしの切り取り方が絶妙です。

例えば、「正しい箸のもち方」では、握り込むように持ったり、両手で一本ずつ持ってもいい。指の形は人それぞれ、自分が気持ちよく食事できることが大切だと優しく語りかけます。

他に「正しいお弁当のあり方」や「正しい猫のかい方」でも、思わぬ角度から提示された正しさは、笑いを誘うのと同時に、妙な説得力があります。そんな風に自らの生活に照らし合わせながら読み進めていたかと思えば、ふいに「正しい怪獣とのつきあい方」なんてものが出てくるので、空想に耽ることもしばしば。

子どもが読めば楽しく感性が磨かれ、大人が読めばハッとする。社会を生きるうえで押し付けられてきた正しさを、その意味を、じっくり考えるきっかけになる一冊です。

特に心に残っているのは「正しいかさのさし方」にて、傘から体をはみ出しながらも、楽しそうに雨の中を歩く人のイラストと共にあるこんな一文。

"雨の日に外を歩くということは、「すこし雨にぬれてみる」という気持ちが大切ですから、雨がさはこのくらいが正しい"

日々の生活に窮屈さを覚えた時、この本を手に取り眺めてみる。完璧でなくても、他の人と違っても、自分なりの正解が見つかったならそれで十分。読み終える頃には、心が少し軽くなっているはずです。

ご紹介した本

・五味太郎『正しい暮し方読本』

本が気になった方は、ぜひこちらで:
VALUE BOOKSサイト『正しい暮らし方読本』

※先着50冊限定!ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、中川政七商店の「みかん番茶」が書籍と一緒にお手元に届きます。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。

VALUE BOOKS
長野県上田市に拠点を構え、本の買取・販売を手がける書店。古紙になるはずだった本を活かした「本だったノート」の制作や、本の買取を通じて寄付を行える「チャリボン」など、本屋を軸としながらさまざまな活動を行っている。
https://www.valuebooks.jp/


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【暮らすように、本を読む】#01『料理と毎日』
【暮らすように、本を読む】#02『おべんとうの時間がきらいだった』

【あの人の贈りかた】手間のかかる、贅沢な時間を届ける(スタッフ野村)

贈りもの。どんな風に、何を選んでいますか?

誕生日や何かの記念に、またふとした時に気持ちを込めて。何かを贈りたいけれど、どんな視点で何を選ぶかは意外と迷うものです。

そんな悩みの助けになればと、中川政七商店ではたらくスタッフたちに、おすすめの贈りものを聞いてみました。

今回は企画・コンサルティング担当の野村がお届けします。

無駄で、面倒で、ささやかな贅沢を。
吉野ヒノキの芳香チップ」と「日本の精油シリーズ」

贈りものを選ぶときは、少しだけ贈る相手の輪郭を広げるようなものを選んでいる気がします。

毎日の生活や仕事に必要なわけではないけど、あるとちょっとだけ肩の力が抜けたり、いつもと違うことを考えたりできるもの。贈る・贈られること自体が、ある意味で不要不急で、日常のなかの余白だからこそ、せっかくなので日々の小休止になるようなものを選びたいのかもしれません。

お世話になった上司へ、御礼の品を選んだときのこと。常に仕事に追われているその人は、忙しさのあまり体調を崩して大変だった時期がありました。そのとき、常に香りを携帯して、自分のペースを保っていたとか。

そんなエピソードを思い出しながら、家でもゆっくり香りを楽しんでくださいと、芳香チップと精油をセットにして贈りました。芳香チップは、付属の巾着に入れてそのまま吊り下げてもよし、お皿などに盛りつけて精油を振っても楽しめます。

消臭効果もあるヒノキのチップなので、匂い取りとして使ってもらってももちろん良いのですが、せっかくなので木の肌触りを味わったり、精油を2、3滴垂らして一息ついたり、あえてちょっと手間のかかる時間の使い方をしてほしいという気持ちで選びました。

産地ごとの個性を楽しめるのも精油の魅力。旅先で、お土産としてその地の植物から採れた精油を買って帰ることもよくあります。このときは奈良に住む自分からの贈りものとして、吉野ヒノキの香りを選びました。自分はよく、休みの日の朝に湯舟にお湯を張り、浴室の隅にヒノキの精油を少し垂らして、ちょっとした温泉気分を楽しんだりもします。贅沢ですね。

そういえば贅沢の贅とは、役に立たないよけいなもの、という意味。日々の仕事や生活で充実している人にこそ、無駄で面倒なささやかな贅沢を贈ってみるのも面白いかもしれません。

<贈りもの>

・中川政七商店「吉野ヒノキの芳香チップ 巾着つき」
・中川政七商店「日本の精油シリーズ」

毎日のハンカチに香りをしのばせて。
「motta」「motta Handkerchief Perfume」

新しく仕事をはじめる親戚に贈ったのが、リネンハンカチと香水のセットです。ハンカチは何枚あっても困らないけど、自分ではあまり買い足さない。でもお気に入りの一枚があって、そこに好きな香りを吹きかけたりすると、結構気分が変わるものでもあります。普段はあまり意識されないけれど、意外と気持ちに寄りそったり、気分を変えてくれたりする存在です。

なかでもmottaは、麻のハンカチを使ったことがない方にもぜひ一度、試してみてほしい品。思ったより水を吸ってくれるし、たたんでもかさばらない。頼りになるハンカチで、いろんな色柄から選べる楽しみもあります。このときは、シンプルな緑の一枚に、深い森林の香りをイメージした香水を合わせました。

香りもののなかでも、身に着ける香水を贈るのはハードルが高いかもしれませんが、ハンカチとセットなら試してもらいやすいと思います。常に匂いのするのが苦手な方や、仕事の都合で香水がNGな方は、ハンカチにひと吹きしておいて休憩のときに一息つく、という使い方もできます。

その親戚は今まであまり香水をつけなかったようですが、今では毎日つけるようになって新しく買い足したとか。意外と?狙い通り?気に入ってくれた!というのも、贈りものの楽しみの一つですね。

<贈りもの>

・中川政七商店「motta 051」
・中川政七商店「motta Handkerchief Perfume」

ゆっくり頁をめくる贅沢な時間と、応援の気持ちを贈る「本」

何かあげたいものがあるわけではない、でも応援する気持ちを伝えたい。そんなときによく本を選びます。自分が好きな本から一冊をあげてもいいし、本屋さんに行ってその人のことを考えながら、これがいいかな?と考えるのも楽しい時間です。

本を読むのが苦手な人だったら、絵本や写真集もおすすめです。詩集や歌集もいいかもしれません。別に読み切らなくても、勉強やためになることがなくても、絵や写真を眺めているだけで心が安らぐこともあると思います。

忙しい毎日のなかでちょっと手をとめて、本の表紙を開く。読書がいいのは「ながら」ができないことです。音楽くらいは聞けますが、テレビやスマホは見れません。その意味では銭湯とか温泉に入るのに似ているかもしれません。他に何もできない時間というのも今、結構贅沢なことだと思います。

ひと工夫したいときは、本と一緒に、それに合ったものをセットで贈ることもあります。どこかの国のエッセイと、その国発祥のお菓子とか。前に「石をさがそう」というテーマの絵本と、石をさがすためのルーペを一緒に贈ったこともあります。本は無限にあるので、何を選んでもその人らしい贈りものができあがります。

この本は、ここ1年で一番いろんな人に紹介した一冊です。ちょっと疲れちゃったな、でも何に疲れているんだろう?そんな漠然とした、でも意外と複雑な悩みを、臨床心理士の著者が一つひとつ解きほぐしてくれます。絵本のように驚くほど読みやすくて、とても自分のことを語ってくれている。今を一生懸命生きている、すべての人におすすめです。

<贈りもの>

『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』(新潮社 / 東畑開人 著)

贈りかたを紹介した人:

中川政七商店 企画・コンサルティング担当 野村隆文