「かしゆか商店リアルストア」がついに開店

「古今東西 かしゆか商店」は、ライフデザインマガジン『Casa BRUTUS』の連載から生まれた、日本各地の伝統工芸の「粋」を集めたバーチャルショップです。店主兼バイヤーのPerfume・かしゆかさんが、2018年から全国80カ所以上の産地を巡り、誌面で工芸品を紹介してきました。

このたび、その7年間の軌跡をまとめたムック本の発売を記念し、中川政七商店の全国4都市の直営店で「かしゆか商店 リアルストア」を開店することとなりました。記念すべき一カ所目である「中川政七商店 渋谷店」にて2025年3月12日に開店した様子を、速報でお届けします。

「リアルストアになって、旅の中で自分の目で見てきた商品が一堂に会して並んでいるのを見ると、本当に嬉しい。それぞれの職人さんの姿やお話ししてきたことの思い出が蘇ってきます。いらっしゃるお客様には、手仕事の魅力が詰まった商品たちをぜひ手にとってみていただきたいですね」とかしゆか店主。

会場では、誌面で取り上げた全国54カ所の作り手による工芸品を展示販売。さらに、中川政七商店と共に開発した8種のオリジナル商品も、数量限定で登場しています。

リアルストアのオープンに先駆け、「福だるま」とも呼ばれる群馬県の伝統工芸「高崎だるま」に店主自ら点睛。こちらはリアルストアに展示しています。

「だるまに目を入れる時はみなさんに見守られていたこともあって、真ん中にきれいに入れようと、とても集中して描きました。全部のショップを回り終えたら、もう片方にも目を入れたいですね」

オリジナル商品はこちら。かしゆか店主が日本各地で出会った工芸とともに開発しました。

店主の好きな「藤色」「亜麻色」「白練」をキーカラーにした和紙箱や組紐のストラップ、コーヒーをたっぷり飲める九谷焼マグカップに、愛猫リヨンをモチーフにした高崎だるまなど、かしゆかさんが全国を巡った思い出をそばに感じていただけるラインアップです。

リアルストアはこの後、奈良・広島・福岡へと巡回していきます。お近くの地域や旅先のお店で皆さまのお越しをお待ちしています。

※一部商品は欠品しています。入荷予定日については、中川政七商店InstagramおよびXにて順次お知らせいたします。

「かしゆか商店 リアルストア」開催概要

イベント会期:
【東京】3月12日(水)~4月8日(火)中川政七商店 渋谷店
【奈良】4月16日(水)~5月6日(火)中川政七商店 奈良本店
【広島】5月14日(水)~6月3日(火)中川政七商店 ミナモア広島店(特設区画内)
【福岡】6月11日(水)~7月1日(火)中川政七商店 福岡天神店(特設区画内)

特設サイト:
https://nakagawa-masashichi.jp/kashiyuka-shoten

お問合せ先:
中川政七商店 渋谷店 03-6712-6148

品よく着られる定番の一枚。大人ための、杢Tシャツ

年齢を重ねたことで、年々悩ましくなる自分に似合う服選び。
30代後半の今、顔や体とのバランスをとる難しさを日々痛感しています。

個人的にはシンプルな服ほどその難易度が高く、昔愛用していた服を着てもぼんやりした印象になったり、少し疲れて見えてしまったり。いつのまにか、しっくりこなくなっているのです。

そんな悩みを持つ私にも「これなら長く着られそう!」と思える服が、中川政七商店から登場しました。その名も「大人の杢(もく)Tシャツ」。デザイナーが「大人の女性が定番にできる一枚をつくりたい」と、糸からオリジナルで開発したTシャツシリーズです。

杢ならではの奥行きある生地の表情を楽しめながらも、カジュアルさは控えめに。品よく着られる一枚のこだわりを、デザイナーの田出に教えてもらいました。

開発のきっかけは「大人に似合うTシャツをつくりたい」

そもそも「杢糸」とは、一本の糸にいろいろな色が入るように、色の異なるワタを混ぜてつくる糸のこと。一色のワタでつくる糸とは異なり一本に複雑な色感が出るため、そのまま編み上げるだけで生地の表情に奥行きが出るのが特徴です。

一本の糸になる前の色ワタを紡いだ糸巻。最終的にはグレーの生地になる

その独特の生地感から、一般的にはカジュアルな印象に仕上がるものが多い杢Tシャツですが、今回、中川政七商店ではあえて「大人に似合う」をコンセプトにつくりました。

展開するのは生成・グレー・黒の、杢ならではの三色。ベーシックに着られて、それでいて大人っぽい。普通っぽいけど、少し違う。そんなふうに、基本を押さえつつも中川政七商店らしい色表現を追求しています。

「はじめは大人が着られそうなTシャツをつくりたいと思ってたんです。自分もどんどん年齢を重ねて、 普通のTシャツを着るとどうしても家着っぽくなるというか。首まわりのバランスや顔うつりが結構難しくて。

なかでも杢Tシャツは特に、着たい気持ちはあるもののアメカジのような印象になってしまって、着づらさを感じていたんですよね。そんな背景から、大人が着てもきれいに見える杢のTシャツがあったらいいなと挑戦してみたのがきっかけでした」(田出)

そう話す田出が、大人に似合う一枚をつくるために何よりもこだわったのが糸づくり。糸の色がそのまま表情に現れる杢生地だからこそ、理想の色合いを表現するために既成の糸は使わず、色ワタの配合からつくり手さんと一緒に取り組みました。

パートナーとして糸づくりをお願いしたのは1918年の創業以来、大阪で紡績業を営む大正紡績。その丁寧なものづくりに国内メーカーからの信頼も厚く、大手メゾンからも引き合いの多い紡績の老舗メーカーです。

「大正紡績さんとご一緒するのは今回のTシャツがはじめて。素材への向き合い方が真摯な企業だと伺ったのがきっかけで、お声がけさせていただきました。糸の調子とか、素材になるワタの選び方とか、細部まで丁寧に取り組まれているとお話に聞いて」(田出)

人の手が生み出す丁寧なものづくり

大正紡績ならではの丁寧なものづくりに助けられながら、随所にこだわった今回の杢糸。例えば素材は綿を基本にしつつも、アクセントとしてリネンを1%ほどだけ混ぜることで、色の出方を調整しています。

理想の色糸が完成するまでに重ねた試作回数はなんと4回。同社いわくこれだけの試作回数はあまり例にないそうで、その話を伺うだけでも妥協せずに突き詰めたものづくりを感じます。

配合率を変えながら、理想の色を目指して試作を繰り返した

また糸にするワタはそのまま使用するのではなく、すべて一度晒してから使用。手間も時間もかかる方法ですが、これも、理想の生地づくりのためにと選んだ工程です。

「多くの杢糸では素材そのままのワタを使用するんですけど、うちの糸はワタを晒してから色を染め上げました。その方が微妙な色の表現ができるし、晒すとワタがきれいになってやわらかくなるから、洗濯をしてもふんわりした風合いが続くんです。大人が着るなら見た目だけではなく肌触りまで意識したいなと思って、この方法でお願いしました」(田出)

さらには大正紡績さんいわく、「通常の杢糸では原綿(げんめん=葉ごみを落としていないそのままのワタ)を80%ほど、葉ごみを落としたワタを20%ほどの割合で混ぜることが多い」そうですが、今回は贅沢に葉ごみのないワタを100%使用。その分もちろん工数は増えますが、糸の表情がなめらかで上品になり、カジュアル感を軽減できるのです。

左が葉ごみが着いた状態のワタ、右が今回使用しているワタ

「大量生産とは真逆で、人の手をかけて、小規模で細やかな対応をしてくださる大正紡績さんだからこそ、今回のものづくりが叶いました。

あとは少し古い機械を使っておられるので、糸がやわらかく仕上がるのも同社と取り組む魅力のひとつですね。大人に着てもらう服なら、高級じゃなくてもいいんだけれど、上質さは叶えたくて。ものを触ったときに本当に『気持ちいいね』って言えるものにしたかったんです」(田出)

糸にした際に色のバランスが偏らないよう、ワタを混ぜる機械へかける前には人が配置を調整
古い機械でやわらかに糸を紡いでいく

ワタをさらし、葉ごみをとり、リネンを混ぜ、そして、古い機械をゆっくり操りながら、人の手で丁寧に作業を進めるつくり手さんのもとでうまれた杢糸。完成した生地は纏うとふんわりと気持ちよく、洗っても風合いが持続します。

きれいに見せられるシルエットで、長く着られる定番に

「大人が着ること」を意識した点は生地感以外にも及びます。そのひとつが、大人にとって使い勝手がよく長く着られるシルエット。ゆとりは持たせつつも程よくきちんと感もあるよう、首元の高さや詰まり具合、身幅のとり方などに調整を重ねました。

「ゆったり着られるけど、きれいに見せられるシルエットにしたいなと思って。例えば首もとって、あき具合によってはずるっと伸びたり横に広がったりしちゃって、少しだらしない印象になってしまいますよね。今回はそうならないようなリブの高さや詰まり具合にしています。

あと、長袖と半袖の二つの形をつくったんですけど、長袖の方は丈感を工夫してあえて前後をずらしました。はじめは長めでつくってたんですけど、それだとカジュアルさが出てしまって。裾を出して着るとカジュアルになるし、ボトムスに入れてブラウジングするのも塩梅が難しいですよね。

だから今回は前を少しショート丈にして、スカートと合わせてもバランスがとれて履けるけど、しゃがんだときに背中は見えないような絶妙な丈感にしています」(田出)

さらには、日本で糸づくりから縫製まで仕上げた質のよい品ではありますが、定番の一枚として色違いや形違いも買い足せるように、手に取りやすい価格帯を目指したのもこだわったポイント。仕立てる際に生地のとりかたを工夫し、端切れの量をできるだけ控えめにするなど、手ごろな価格に近付けられるよう努めました。

こうして出来上がった「大人の杢Tシャツ」。最後に田出さん、どんな着方がおすすめでしょうか。

「もちろん普段から着ていただけるんですけど、上品に着られるように仕上げたので、ジャケットを羽織ったりシャツの中に着てもらったりもして、いろんなコーディネートに合わせていただけたらと思います。何にでも合わせられる、心強い一枚にしていただければ嬉しいです」(田出)

これまでなかなか出会えなかった、シンプルななかに上質さや着心地の詰まったTシャツ。年を重ねても楽しく、自分らしいスタイリングを叶えるような、ワードローブの定番になりますように。

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大人の杢Tシャツ 半袖
大人の杢Tシャツ 長袖

文:谷尻純子
写真:森一美(大正紡績 取材写真)、枠谷結也(モデル写真)

【あの人の贈りかた】心地よさや可愛さで、笑顔を届ける(スタッフ向井)

贈りもの。どんな風に、何を選んでいますか?

誕生日や何かの記念に、またふとした時に気持ちを込めて。何かを贈りたいけれど、どんな視点で何を選ぶかは意外と迷うものです。

そんな悩みの助けになればと、中川政七商店ではたらくスタッフたちに、おすすめの贈りものを聞いてみました。

今回は人事担当の向井がお届けします。



使い勝手のよさや柔らかな風合いが、いつ贈っても喜ばれる「花ふきん」

わたしが入社したとき、二十年前から変わらずご好評いただいている商品「花ふきん」。
これまで贈った方には必ず喜んでいただけました。

その喜びは次から次へと広がり、「喜んでいただける贈りもの」として選んでもらえる品となり、波紋のようにどんどんファンが増えていく。

贈るほうも、贈られるほうも、心が豊かになる商品だと感じます。

はじめて使ったときの心地よさ、速乾性と吸水性の高さ、使い勝手のよさは忘れられない感覚です。わたし自身、毎日愛用しています。

開封したときは「パリッ」と糊がついている硬めの手触りですが、使えば使うほど、くたっと柔らかな風合いになっていきます。

肌触りがいいので「ふきん」という名にとどまらず、赤ちゃんのバスタオル、お包みや汗取りとしても使えます。

わたしは、食器拭きとしてはもちろんですが、野菜の水切りや蒸しものをする際に重宝しています。
自分が心からいいと思うから、大切な人にもにも使ってほしい。そう思う商品です。

<贈りもの>
・中川政七商店「花ふきん

季節の絵形のかわいさに感動した「絵形香」

はじめて見たとき、可愛らしい季節の絵形に感動したことを覚えています。

その感動がきっかけで、「贈る人にも感動してもらいたい」「喜んでもらいたい」と想像しながら絵形香を選んでいます。

今の季節なら「桜に春鳥」の絵形香。
心がほっこり穏やかになる商品でもあり、飾って季節を感じることもできます。

手紙に添えることもできて、開封するとやさしい桜の香りが漂います。

そして、なにより絵形の生地は手織り麻。中川政七商店の商いの原点です。
その風合いは、シャリ感のある肌触りで心地いい手触りです。

わたし自身は、財布に忍ばせて、季節と香りを楽しんでいます。
とても繊細で、四季とともに“日本らしさ”を感じる贈りものだと思います。

<贈りもの>
・中川政七商店「絵形香」

※本商品はオンラインショップでは完売いたしました。季節によりデザインが異なりますので、その時季のデザインをぜひお楽しみください。

笑顔を届けたいときに贈る「光浦醸造 FLTレモンハート」

つい、ほっこり笑顔になってしまう。

月ヶ瀬のまろやかな紅茶の風味に癒されるとともに、レモンがハートになっている紅茶のカップを手にとると思わず目じりが下がります。

このハートのレモンは、広島県の特別栽培認定を受けている、皮ごと食べても安心の「エコレモン」規格とのこと。丁寧に栽培されたレモンなのですよね。

わたしは、笑顔を贈りたいときに選ぶ贈りもののひとつです。

「おめでとう♡」を伝えたいとき。
「元気を出して♡」と思うとき。
「おつかれさまです♡」を伝えたいとき。

言葉や文字にしなくても、笑顔と幸せを届けられるような気がします。
パッケージも素敵で、紅茶の味を組み合わせて贈ることができます。

贈る方の好みや状況をイメージして、紅茶のお供になるお菓子とあわせて選ぶのも楽しいです。

<贈りもの>
・光浦醸造「FLTレモンハート

※一部の中川政七商店でも販売がございます。詳細はお近くの店舗へお問い合わせください。

贈りかたを紹介した人:

中川政七商店 人事担当 向井淳子

【四季折々の麻】3月:細かな畝の凹凸感でさらりとした肌心地「綿麻の畝織」

「四季折々の麻」をコンセプトに、暮らしに寄り添う麻の衣を毎月展開している中川政七商店。

麻といえば、夏のイメージ?いえいえ、実は冬のコートに春のワンピースにと、通年楽しめる素材なんです。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。毎月、四季折々のアイテムとともにご紹介します。

細かな畝の凹凸感でさらりとした肌心地「綿麻の畝織」

3月は「春分」。おだやかな陽が心地好く、草木の息吹を感じる時季となりました。景色も色づきはじめ、新たな出会いや暮らしに新鮮な気持ちになれる月でもありますね。そんな、新生活がはじまる春から着たい麻の服を今月は仕立てました。

生地に用いたのは、ラミーと綿を使った織物。綿のやわらかさのなかにラミーの爽やかさを織り込むことで、春から夏まで気持ちよく着られる生地感にしています。

ラインアップは「シャツブラウス」と「スカート」の2種類。はじめてお会いする人も増える月にも心強いよう、カジュアルすぎない印象のお洋服に仕上げました。

【3月】綿麻の畝織シリーズ

綿麻の畝織 シャツブラウス
綿麻の畝織 スカート

今月の麻生地

今回使用した麻はラミー。シャリ感がある麻で春夏にぴったりの素材ですが、ラミー100%にするとシャリ感が強く夏の印象が前に出るため、綿と合わせて今の時期にちょうどよく着られる生地感にしています。

綿の糸の間に一定の間隔で少し太めのラミーの糸を織り込み、細い畝を出したのもこだわった点。高密度に織っているためハリのある生地感ですが、細かな畝の凹凸感があることで、肌との間に空間ができてさらりと着られます。

織りを手掛けていただいたのは遠州の作り手さん。麻生地屋さんに見せていただいた、30年近く前に織られた生地見本がとても素敵で、再現したいと思い今回の生地に至りました。

お洗濯するにつれハリ感が程よくなじみ、ご自身だけの生地として育てていくのもお楽しみいただけます。

お手入れのポイント

ご自宅でお洗濯していただける商品ですが、素材の特性上はじめのお洗濯では多少縮むため、干す際はシワを伸ばし形を整えて干してください。

生地感を長く保つため、アイロンの際はあて布をご利用くださいね。

すっきり、きちんとした印象で着られる2アイテム

ご用意したのは「シャツブラウス」と「スカート」の2アイテム。生地にハリ感があるため、体の線をひろわずにすっきりと着ていただけます。

定番の「白」、キリリときられる「紺」と、今回は何といっても、この季節にぴったりな「灰桜」の3色をラインアップ。春気分をたっぷりと味わっていただければと思います。

「シャツブラウス」は比翼仕立てで、ボタンが見えないすっきりした形。織りのデティールがポイントの生地なので、生地感を見せられるようにボタンが見えないデザインにこだわりました。羽織って着ていただいた際も、見た目の要素が多くないためすっきりとした印象になります。

丈は短めで、後ろにかけて緩やかに長くなっているシルエット。パンツでもスカートでもバランスよく合わせていただけます。

身幅もゆったりしていてしっかりした生地感なので、まだ肌寒い時期には薄手のインナーを合わせ、前を開けて軽いジャケットのようにも着られます。

「スカート」はストレートの形で、後ろには深めにスリットを入れたデザインに。ハリのある生地感に合うよう、ギャザーたっぷりのスカートではなく、すっきりとした印象に仕上げました。ウエストはゴムで楽ちんにしつつ、もたつかず紐で調整もしていただける仕様にしています。

同シリーズのシャツと合わせてきれいめにも着ていただけますし、シンプルでコンパクトなTシャツとスニーカーを合わせ、カジュアルに着るのもおすすめです。ゆとりも程よくあるため、寒い時期はタイツやスパッツなどを合わせても着ぶくれしません。

なお白色には裏地が付いており、透け感を気にせず一枚で履いていただけます。

素材自体が呼吸をしているような、気持ちのよさがある麻のお洋服。たくさん着ると風合いが育っていくので、ぜひ着まわしながら愛用いただけると嬉しいです。

「中川政七商店の麻」シリーズ:

江戸時代に麻の商いからはじまり、300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。私たちだからこそ伝えられる麻の魅力を届けたいと、麻の魅力を活かして作るアパレルシリーズ「中川政七商店の麻」を展開しています。本記事ではその中でも、「四季折々の麻」をコンセプトに、毎月、その時季にぴったりな素材を選んで展開している洋服をご紹介します。

ご紹介した人:

中川政七商店 デザイナー 杉浦葉子

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【旬のひと皿】ゆり根バターのあんかけ茶碗蒸し

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で創作料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



過日の寒波で奈良にも雪がちらちらと舞い、風も冷たい日が数日続きました。ひんやりした空気のなか、毎日の日課にしていることがあります。それは、自宅近くに住みついた猫の寝床をあたためること。大きな鍋にお湯を沸かして、外猫ちゃんの寝床から湯たんぽを取り出し、お湯を入れ替えます。

この湯たんぽ、外に置いて丸一日経っているにもかかわらず、日によってはまだほんのり温かい日も。毛布には巻いていますが、湯たんぽの保温力に驚いています。

充電式のものも使ってみたのですが、軽くて手間はかからないものの翌日には完全に冷え切ってしまいました。そのうち突然充電できなくなったことから、以前から持っていた今の陶器の湯たんぽに切り替えて使っています。

移動の際に重く、たっぷりのお湯を入れ替える必要はありますが、やはり昔から使ってきたものは長く使えるし、そして優秀だなと改めて感心しています。猫達も安心してよく眠れているのか朝寝坊しています。少しでも暖かい場所で、穏やかな気持ちで元気に冬を越してほしいものです。

そんな寒い時季、今回のレシピは私のソウルフードのひとつである茶碗蒸しにしてみました。

父が島根で営んでいた店でよく茶碗蒸しを作っていたので、小さい頃から仕込みをしている姿を見てきました。父の茶碗蒸しは昔ながらの具がたくさん。鶏肉、銀杏、海老、三つ葉、椎茸、ゆり根‥‥。器をたくさん並べて、具をひとつづつ入れていく手伝いをしていたことを今も覚えています。

友人と遊んでいても1人で先に帰って手伝いをすることが優先だったので、当時はもっと遊びたい気持ちがあったのですが、今となっては一緒にいい時間を過ごせたなと思います。

今回のレシピには、尊敬しているそばがき屋さんに連れて行ってもらったお店で教えていただいた生産者さんのゆり根を使いました。

そのお店での時間は本当に素敵なもので、店主さんの優しさと、日常を、普段を大事にしようというお気持ちが溢れたお料理に感動しっぱなしでした。そのときおいしい!というだけではなく、今ふりかえっても穏やかな気持ちになれます。

そのゆり根を存分に楽しめるよう、別に火を入れてから餡と共にかけています。蒸し物は中の状態を想像しながらワクワクする気持ちと共に、蓋を開ける瞬間が楽しいですよね。

火加減によっては「す」が入ってしまうかもしれないけれど、それはそれで、お家で食べるものなので全部オッケーという気持ちで。餡を葛でとめて生姜を入れて、食べ終わってからも温かさが持続するようにしました。

外気温とは対照的に、手料理や、温かな時間の流れる時間は、今も想い浮かべるだけで豊かな気持ちに。もうすぐ猫の日。猫も人も温かく穏やかに過ごせる時間がふえますように。

<ゆり根バターのあんかけ茶碗蒸し>

材料(2人分)

・卵…1個
・ゆり根…適量
・出汁…180ml(卵の3倍量)
・塩…3つまみ
・醤油…小さじ1/3
・バター…10g

◆餡

・しいたけ…1~2個
・生姜…1かけ
・出汁…180ml
・めんつゆ(返し)…大さじ2/3
・くず粉(片栗粉でも可)…適量

作りかた

卵液を作る。卵をボウルに割り入れ、ときほぐしたら出汁と塩・醤油を入れる。卵を溶く際は、こしを切る程度で泡立てないよう注意。味付けの際は少しずつ調味料を入れ、味を見ながら調整する。あとで餡をかけるので薄味でよい。ザルで一度濾す。

ゆり根を一粒ずつ切り離し、きれいに掃除をする。黒い部分は包丁でとる。フライパンにバターを溶かし、ゆり根と塩(分量外)を入れて弱火で火を通す。オーブンがある場合は、オーブンで火を通すとよりふっくらと仕上がる(今回は160度で15分程度加熱)。

蒸し器に水をはり、火にかけて準備しておく。うつわに卵液を入れたら、アルミホイルで蓋をする。沸騰したら蒸し器に器を入れ、すが入らないように20分ほど蒸す(蒸し時間は様子を見ながら調整する)。

蒸している間にあんかけ用の餡を作る。椎茸は軸を取り、さいの目切りにする。生姜はすりおろす。

鍋に出汁を沸かし、椎茸とめんつゆを入れる。椎茸に火が通ったらくず粉を水で溶いたものを回し入れ、少し加熱する。生姜を入れて火を止める。

蒸し上がった茶碗蒸しに餡をかける。ゆり根をのせて完成!

うつわ紹介

重ねてしまえる常滑焼の湯呑セット
信楽焼の魚皿

写真:奥山晴日

料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/

【わたしの産地旅】越前鯖江エリアのものづくりを見に、オープンファクトリーイベント「RENEW」へ

中川政七商店の制度に2024年度より加わった「産地視察支援金制度」。こちらは日本各地の産地を深く知り、工芸の奥深さを体感できる機会の支援をすることが、ひいてはビジョンの「日本の工芸を元気にする!」につながると考え、はじまったものです。

日本のものづくりへの興味から、日頃からプライベートでも産地へ足を運ぶスタッフが多い当社。この制度を利用しながら産地を訪れたスタッフの声をお届けします。



「これぞ運命のタイミング!」

風情ある歴史と伝統が息づく福井県鯖江市。
この魅力満載の地に、中川政七商店ではたらく4名の仲間が一堂に会しました。

普段はそれぞれ異なる店舗で働いており、なかなか会う機会がなかった私たち。しかし今回は「産地視察支援金制度」を利用して、この素晴らしい産地をたっぷりと味わうために集まったのです。

今年の夏、「さんち修学旅行」という社内の取り組みで越前鯖江エリアを訪れました。

この取り組みは店舗で働くスタッフが、各地の産地を訪れて実際のものづくりを体感したり、作り手の方に直接お話しをうかがうことで、工芸と真剣に向き合うために設けられた機会です。

毎回複数の“修学旅行先”から各スタッフがコースを選び、その地のものづくりを体感するなか、越後鯖江エリアでは漆・和紙・刃物・眼鏡に関して日本トップクラスのものづくりの現場を見学させていただきました。

その際、漆の硬化に適した湿度と温度、和紙の紙漉きに必要な豊かな水など、この地域のものづくりが風土と一体になっていることに改めて魅力を感じました。

さらには手仕事の緻密さ、職人の方々の洗練された所作などにすっかり心を惹きつけられ、修学旅行が終わる前には、プライベートでもう一度ここを訪れたいと決めていたのです。

そして9月。「産地視察支援金制度」がはじまることが社内で通達されました。

中川政七商店で働く社員が自己研鑽のため、業務時間外に各地の産地を訪れる際の旅費交通費の一部を、会社に支援してもらえるという内容を読み、「なんという最高のタイミング!これはもう行くしかない!」と嬉しく思ったのを覚えています。

越前鯖江エリアにもう一度行きたかった理由がもう一つ。それは、毎年秋にこの地で開催される「RENEW」に行くことでした。

 RENEWとは「見て・知って・体験する」をコンセプトに、この地でものづくりをする作り手たちが工房を開くオープンファクトリーイベント。普段は入れない工房を見学したり、様々な技法を用いたワークショップに参加することで作り手と繋がることができます。

地元企業の方が中心になって有志とともに運営し、観光や地元の活性化を目指しているところも魅力。その雰囲気を、五感のすべてを使って体感したいと思っていました。

「自分が夏に経験した感動とこれからする新しい発見を、誰かと一緒に分かち合いたい」。

そんな想いがあり、もともと同じ奈良近鉄店で働き、店舗が離れた今でも近況報告をしあったり、一緒に食事に出かけたりしている3人に声をかけて今回の場となったのです。

いざ、福井へ。

1日目は永平寺に行きました。
「厳しい禅の修行道場」として知られる永平寺。福井県の人気観光スポットのうちの一つです。

780年前に修行の場としてこの地に開かれた永平寺。山門前に立ち、ひんやりとした空気を吸い込むと自然と背筋が伸びました。

早朝の清々しく凛とした雰囲気のなか、国の重要文化財の指定を受けた七堂伽藍を中心とした木造建築群を参拝していると、途中、敷地内のところどころで雲水と呼ばれる修行僧の方が掃除する姿を見かけました。

禅における掃除とは、自分の心を清め整える修行の一環とされているそう。

美しく磨き上げられた柱や床は雲水さんたちが自分と向き合った時間そのもので、私が清々しいと感じたのはその心の内に触れたからなんだと感じ、不思議と身も心も軽やかになったところで永平寺を後にしました。

夜ごはんをいただいたのは釜蔵さん。
北陸・福井の釜飯を専門としたお店で、福井県産のコシヒカリや地元市場から直接仕入れた新鮮な旬の食材が使われています。

私が注文したのは「へしこ釜飯セット」で、なかなかの迫力。釜飯の蓋をあけると発酵臭があり、へしこの存在をダイレクトに感じました。少しおこげも入った釜飯はとても美味しく、福井県は食も豊かだなぁと産地の食を楽しみながら味わいました。

食事中は、皆で一緒に働いていた時期を懐かしんだり、近況を報告しあったり。ゆっくり食事をとりながら、濃密な時間を過ごせました。

そして2日目。いよいよRENEW本番!

越前鯖江エリアの半径10㎞圏内には、越前漆器・眼鏡・繊維・越前和紙・越前焼・越前打刃物・越前箪笥といった地場産業がギュッと詰まっています。その各エリアをバスやタクシーなどを使いながら巡っていきます。晴れた日などはレンタサイクルに乗り、紅葉しつつある山々を見ながら楽しむのもいいかもしれません。

工房見学や趣向を凝らしたワークショップを楽しみ、気分がホクホクになった後に隣接のショップを訪れると、そこで生まれたものたちに出会います。一つひとつゆっくり見ているともう、連れて帰らずにはいられません。

お腹が空いたら、地域に根ざした飲食店のフードトラックで福井のローカルフードを。

各企業の企画や工房見学が興味深く、1日では到底回り切ることができないため、1泊以上で訪れることをおすすめします。

工房見学は中川政七商店でも販売のある、漆琳堂での工房見学からスタート。

工房内は工程ごとに部屋が分かれており、それぞれ専用の道具や設備が揃っています。人毛でできていている(!)刷毛で、ろくろと呼ばれる回転什器に木地(漆を塗る前のお椀)を押し当て刷毛を持ち、一つひとつ塗り上げていきます。

以前にわたしも塗りの工程を体験させていただいたのですが、まず、ろくろに木地をまっすぐ押し当てることができません。職人の方たちの変わらない表情からは全く想像できない難しさでした。

出来上がった漆椀には刷毛目が残らず、本当に人が塗っているのかと思うほど美しい仕上がり。普段扱っている商品が生まれる瞬間に立ち会えることは、何度体験しても感動します。

漆椀の製造工程を勉強し頭がパンパンになった後は、色漆を使ったブローチとフレームをつくるワークショップに参加しました。

水に浮かべた色漆をブローチとフォトフレームに写し取っていくのですが、完成図を思い浮かべながら漆を水に浮かべるものの全く想像通りになりません。苦戦しながらも自分だけの作品が仕上がると、

最後は辻田漆店様の工房を見学させていただきました。こちらでは国内外から仕入れた加工前の生漆を精製し、塗料として使えるように加工されています。

店舗では商品のことについて質問を頂く場面も多く、商品自体のご説明はできるのですが、漆そのものについて聞かれると口篭ってしまう場面が少なからずありました。その澱みを解消するために、今回ぜひ訪れたいと思っていたのです。

漆と漆を擦り合わせて粒子を細かくし、不純物を取り除くことで漆はとても美しい色になります。同じ精製でも機械と手作業では不思議なことに手作業の方が明らかにツヤもあり、柔らかく塗りやすいそうです。

漆に関するすべての工程を見終わった時、毎日当たり前のように手にしていた商品は、こんなに多くの方が手をかけた末に届いているのか!とさらに感激したのでした。

RENEWを満喫した後はお土産を買いに。

福井の定番のお土産をスタッフ用にいくつか購入し、私は自分用に名刺入れを購入しました。一目惚れで購入した山次製紙所さんの名刺入れは、使い込んでも素敵な色になりそうです。

帰りの電車のなか、4人で今回の旅を振り返りました。

職人さんたちのものづくりの姿に感動したのはもちろんですが、いつも見ていた仲間たちの新しい一面が発見できる機会にもなり、それもまた新鮮な体験です。

店舗に戻ってから見てきたもの体験したものをスタッフさんたちに話すと、「来年は交代でRENEWに行きませんか?」と来年のシフトの構想まで練るほど盛り上がりました。

そして私がいない間もがんばってくれたお店のみんなに、越前和紙でラッピングしたお土産を渡し、今回の旅が終わりを迎えました。

自分が行きたい・知りたい産地に行く際に、会社が交通費の一部を援助してくれる「産地視察支援金」。

この制度はもともと、私たちのようにプライベートで産地を訪れるスタッフが多くいることから作られました。

各地の工芸品は、その土地特有の文化や風土によって独特な魅力を持ちます。その背景にあるストーリーを、私たち伝え手がどれだけ深く理解し、心から伝えられるか。

土地のものを食べ、その土地に泊まり、同じ空気を吸う。
産地に足を運び、その土地の人々の暮らしに触れ合う。

実際に産地を訪れることで、ものの解像度がぐっと高まり、より深く心に響く物語を届けることができるなと改めて感じました。

中川政七商店のビジョンである「日本の工芸を元気にする!」には、その達成のための明確な正解があるわけではありません。
しかし、それぞれが考え、工夫し、日々実直に行動に移していくことがその一つの道になります。

今回の旅では、多くの経験とお互いの意見や想いに触れることができ、そのヒントを持ち帰ることができました。

一緒に行ったのは出身地も年代も異なる4人ですが、「日本の工芸を元気にする!」という共通の志を持って今日も進んでいる。同じ志を持って働く仲間がいる心強さを感じた時、私はいつも中川政七商店に入社して良かったなと思うのです。

次はどの産地に足を運ぼうか、今から楽しみでなりません。

文:中川政七商店 奈良近鉄店 福島良子