スタイリストが教える、オケージョンシーンの装い【卒入学式の服装マナー】

家族の入学式・卒業式や、友人の結婚式。式典・行事などのいわゆる“オケージョン”シーンでは、大切な人のいつもと違う凛々しい表情や、ピンと伸びた背筋に、こちらまできゅっと身が引き締まります。

そんな、普段の自分とは気持ちも装いも異なる、オケージョンの場。自分らしさは忘れたくないけれど、そこに合った服装も意識したいと、何をどう着るかお悩みの方も多いことでしょう。

特別な日こそ我慢せず、けれどその場にはふさわしく、お気に入りの一着を自分らしく着たい。その助けになればと、中川政七商店でいつもお世話になっているスタイリストさんに、最近の傾向も踏まえながら着こなしのマナーについて伺ってみました。

この記事ではオケージョンのなかでも特に、卒入学式に焦点を当てた装いのヒントをご紹介します。

形・丈

卒入学式は正式な式典の場にあたるため、服装は準礼服、つまりジャケットをはおるスタイルが基本。とはいえ、一枚でサマになるブラウスやワンピースの場合は、ジャケットなしで着用する方も多くなっています。

また2月~4月は寒さもまだあり気温の不安定な時期のため、ジャケットとワンピースのセットといったアンサンブルやツーピースを購入し、寒い場ではジャケットをはおり、春の陽気のもとではワンピースだけで着用する手も。

パンツスタイルの場合も同じく、寒い時期はブラウスの上にジャケットをはおり、暖かくなればブラウス一枚でパンツに合わせるスタイルがおすすめです。

「ジャケットが苦手な方なら、式典中だけジャケットをはおり、外での歓談中はブラウスやワンピース一枚で着用するなどでもいいと思います。あとは学校の雰囲気によってもジャケット着用がマストか、あまりこだわらなくて良いかも違うので、そこはTPOの大前提として確認しておけるといいですね。とはいえジャケットは一枚あると何かと安心なので、迷われたら迎えることをおすすめします」

なおジャケットの衿の形に規定はありませんが、重苦しさのないノーカラーのジャケットを着用する方が最近は増えています。カーディガンやストールはカジュアルな印象を与えるため、避けましょう。

スカートを着用する場合は、膝が隠れるミモレ丈を選ぶのが主流。露出の多い短め丈はもちろん、足首が隠れるほどのロング丈も重い雰囲気になるため、卒入学式では控えたほうが良いでしょう。

色・柄

入学式は春らしいパステルカラーが、卒業式は黒や紺・グレーなど、シックな印象で抑えた色目を着用するのが主流。どちらにも対応できる一着を持っておきたい場合は、紺を選ぶと使い回しがききやすいのでおすすめです。

「とはいえ、黒などダークな色目のものを入園・入学式に着用できないわけではありません。コサージュやバッグなどで明るい色や華やかさを取り入れれば、問題なく着ていただけます」

なお生地の柄についてもご注意を。ツイードやレース、スパンコール装飾などの、素材自体に表情がある生地は問題ありませんが、ボーダーや花柄、アニマル柄などの、いわゆるプリント柄は着ないほうが式典の場の装いにふさわしいとされています。

素材

素材に厳密なルールはありませんが、冬はウール、春はシルクなど、季節にあったものを取り入れると場の雰囲気によく合います。とはいえ、主に2月~3月に行われる卒園・卒業式と、4月に行われる入園・入学式では気温も少し異なります。同じものをどちらの場でも着たい場合は、もちろん季節問わず着用しやすい素材のもので問題ありません。

注意したいのは上品さと華やかさ。過度に光沢感のある素材や、カジュアルな印象を与える化繊素材などは控えたほうが良いでしょう。

また、式典の場で着用を迷うのが革素材。殺生を想起させるとして結婚式の場では控えたほうが良いといわれますが、卒入学式の場ではパンプスやバッグなどで、革製品の小物を使う方も多くなりました。

「男性の方がレザーシューズを履かれるのもあり、そのあたりのルールは少し曖昧になってきてますね。もともとおめでたい場では革製品を避ける決まりはあったものの、最近は一般的にもグレーなムードだと思います」

中川政七商店「鹿革のがま口ハンドバッグ

アクセサリー

式典の場でよく身に付けられてきたのは、華やかな雰囲気を出してくれるパールのアクセサリー。一連のものが主ではありますが、ロングで二連のものなども最近はよく着用されています。シルバーやゴールドのアクセサリーをつけてもマナー違反ではありませんが、ハレの場であることを意識し、品よく華やかなものを選びましょう。

また大ぶりのものや揺れるものは、主役のお子さんよりも目立ってしまうことや上品さに欠ける観点から、避けたほうが良いとされます。

その他、コサージュは祝福を表すアイテムとされるため、華やかさとお祝いの気持ちを表現できておすすめです。色目は洋服と同じく卒園・卒業式には色目を控えたものを、入園・入学式にはパステルカラーのものを選ぶと、季節感が合って良いといわれます。

なかでも白やアイボリーは、どちらの場にも使えて便利。特に絹が入った素材のものは上質な印象を与え、式典の場で活躍します。

なお、サイズは5cmから12cmくらいが良いとされています。

「サイズが大きすぎると派手な印象に、また小さすぎると地味ない印象につながりますが、身長や体格によっても印象が変わるので、付けた時のバランスをチェックしてくださいね」

中川政七商店「しけ絹のコサージュ 梅」、utilite「パールネックレス」「パールフープイヤリング

バッグ

サイズは小ぶりなもので、素材はシルクやレースなど上品さのある佇まいのものを選びます。ナイロンのような、カジュアルな印象の素材は避けましょう。綿や麻の素材は単体だとカジュアルな印象となりますが、シルクやウール混のものや、上に装飾のあしらいがあるものなど、華やかさのある素材やデザインであれば問題ありません。

服装がシックな場合は差し色として、例えば春にはライトイエローやパステルピンクを選ぶなど、季節を意識した色を取り入れてみるのもおすすめです。

「基本的にオケージョン服では全身の色のトーンを揃える傾向にあるのですが、最近のトレンドとしては、服装や靴など全体的にはダークにしながら、バッグだけ色を入れるというのもあります。学校側の雰囲気に合うようであれば、バッグだけビビッドカラーやシルバーを取り入れるなど、遊び心を出すのも一つですね」

また荷物が入りきらないことを想定し、サブバッグも持参すると安心。サブバッグの場合も、カジュアルすぎるものよりも無地やレースなど落ち着いたものがおすすめです。

靴・足元

スニーカーやブーツ、サンダルは、カジュアルな印象となるため避け、基本的には3cm以上のヒールの高さがあるパンプスを着用します。ただし、最近ではフラットシューズを着用する方も多くなりました。オープントゥやバックストラップの靴は避けましょう。

「私自身ヒールが苦手なこともあり、子どもの式典ではフラットシューズを着用しました。周りのお母さんを見ていても、最近はヒールの低い靴を履いている方も多いですね。当日動き回ったり、体調が良くない場合もあると思いますので、無理をせず履けるものを選んでくださいね」

また足元は、素足厳禁。ナチュラルなストッキングを履くのが基本です。ただ最近はナチュラルストッキングに抵抗があったり、季節的に寒かったりなどの理由から黒いタイツを履く方も多いよう。

「実は、これが難しくて私も悩むところです。黒は喪を意識するのでハレの日にはよろしくないといわれていますが、トレンドとしては履いている人が増えていて。

黒を控えるべき基本のマナーは理解しつつ、ご自身らしいスタイルの取り入れとして着用のご判断をされるのもいいのかなと、個人的には思います。

あとは靴下を履く方も最近は多いですね。百貨店のフォーマル服売り場ではまだなかなか見かけませんが、お洋服屋さんの提案するコーディネートではデザイン性のある靴下を合わせている場合などもあります。カジュアルな印象になりすぎず、品よく華やかなコーディネートであれば、厳密に考えすぎない傾向になっているように思います」

「いろいろお伝えしましたが、卒入学式のスタイリングで大切なのは、季節感と華やかさ、上品さの3つです。反対に避けたほうが良いのは、カジュアルな装いや露出が多いなど華美過ぎる装い。最近ではマナーの境界線も曖昧になってきているので、マナーは大切にしつつも、ポイントを意識しつつご自身らしい装いを楽しんでくださいね」


教えてくれた方:

スタイリスト 田中ちか
1976年大阪生まれ。アパレル販売スタッフを経て、1997年よりスタイリストアシスタント事務所に所属。2003年にスタイリストとして独立し、2005年~2006年の渡英を経て2006年から関西を中心に活動中。中川政七商店のスタイリングも多く手掛ける。

※この記事は2024年1月17日の記事を再編集して掲載しました


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【四季折々の麻】2月:長い季節で着られる肉厚の生地「厚手麻」

「四季折々の麻」をコンセプトに、暮らしに寄り添う麻の衣を毎月展開している中川政七商店。

麻といえば、夏のイメージ?いえいえ、実は冬のコートに春のワンピースにと、通年楽しめる素材なんです。

麻好きの人にもビギナーの人にもおすすめしたい、進化を遂げる麻の魅力とは。毎月、四季折々のアイテムとともにご紹介します。

長い季節で着られる肉厚の生地「厚手麻」

2月は「如月」。和風月名であるこの言葉は、寒さに備えて重ね着をする意を込めた「衣更着(きさらぎ)」が由来のひとつとされています。まだ寒さが残る季節、麻の衣を更に重ね、芽吹きの時期に備える服をご提案できたらと思い仕立てたシリーズです。

麻生地は夏のイメージが強い素材ですが、今回ご用意した「厚手麻」は肉厚の生地にすることで、夏以外の季節でも着られるようにしたもの。中川政七商店で毎年人気のシリーズに、今年は新色として春らしい赤を思わせる「紅梅」が登場します。

ラインアップは「ボタンワンピース」と「羽織コート」、「ワイドパンツ」の3種類。重ね着することで長い季節でお楽しみいただけるようにと、ゆったりめのシルエットにしています。

【2月】厚手麻シリーズ:

厚手麻のボタンワンピース
厚手麻の羽織コート
厚手麻のワイドパンツ

今月の「麻」生地

まだ寒さが残る季節に着たい、肉厚の生地である「厚手麻」。防寒と春気分の両方をかなえられるよう、重ね着することで冬から春まで活躍する素材感に仕上げました。一年を通して心地よく着られるため、シリーズが登場してから数年が経った今でもたくさんのご愛用の声を頂いています。

使用しているのは太番手のリネン糸。こちらを贅沢に使って織った厚手の生地に、テンションをできるだけ加えないよう、ゆっくりとやさしくもみ込むような乾燥を施します。さらには染め加工のすべての工程においてできるだけ高熱を加えず加工し、麻素材独特のシボ感のある自然な風合いを生み出しました。

生地にストレスをかけず、時間をかけてゆっくり加工することで、生地がリラックスしてやさしい表情と風合いに。無理をさせず、自然の姿、魅力を引き出した生地をぜひお楽しみください。

なお、織り・染めの加工はともに遠州・浜松でお願いしました。大きな川があり水が豊富なこの地域は、織物加工が得意な産地。太番手ならではのしっかりしたハリ感・コシがありつつも、肌あたりはとてもやさしいので着心地がよく、頼れる生地感に仕上げていただきました。

お手入れのポイント

ご自宅でお洗濯可能ですが、洗う際は手洗いか、裏返して洗濯ネットに入れたうえで洗濯機をご利用ください。

シボ感が特徴的な生地なので、ピシッとアイロンで伸ばすというよりは、自然なシワ感を楽しんでもらえたら嬉しく思います。

たたみシワなどが気になる際は、生地を湿らせた状態であて布を使用し、アイロンがけしてください。麻は乾燥した状態で高温を加えると傷んでしまうので、アイロンを使用する際は必ず湿らせた状態にするようご注意くださいね。

重ね着しやすい3アイテム

麻は、寒い日は暖かく着られて蒸れにくく、暖かい日はさらりと心地よく着られる素材。
寒さをしのぐため重ね着をする「衣更着」に由来を持つ時期に、ぴったりのアイテムを揃えました。

重ね着したり一枚で着たりと着回しのきく3つのアイテムは、いずれもリラックスウェアにならないよう細かなサイズ感にはこだわりつつも、ゆったりと着られて重ね着しやすいシルエットに。

色は昨年から人気の墨と青緑に加え、梅の季節をイメージして「紅梅」も新しくご用意しました。鮮やかながらもこっくりとした赤が、まだ寒く彩度の低い空の下でも春の訪れを感じさせてくれます。

また、あえて真っ白にさらした生地ではなく、麻本来の生成色の生地から染め上げることで、天然の麻の色あいを活かしました。のっぺりとせず、麻の繊維の色合いがうっすら感じられるような奥行きのある表情に仕上げています。

ワンピースはほどよく詰まったVネックとずらりと並んだ前ボタンで、きちんと感のある印象に。寒い時期にはタートルネックを重ねたり、暖かくなればもちろん一枚で着たりと様々な印象でご着用いただけます。

万能な羽織コートは襟が少し立つのがポイント。カーディガンのように気軽に羽織れます。ワンピースの上に重ねたり、タートルネックやブラウスに重ねたりと、あらゆるシーンで着まわしていただける一着です。

ワイドパンツはゆったりと履けながらも、麻のハリ感による立体的なシルエットで、お出かけ着感もきちんとあるデザインに。寒い時期は下に一枚着こんでいただいても、違和感なく履いていただけます。年間を通して履ける息の長いアイテムです。

素材自体が呼吸をしているような、気持ちの良さがある麻のお洋服。たくさん着ると風合いが育っていくので、ぜひ着まわしながら愛用いただけると嬉しいです。

「中川政七商店の麻」シリーズ:

江戸時代に麻の商いからはじまり、300余年、麻とともに歩んできた中川政七商店。私たちだからこそ伝えられる麻の魅力を届けたいと、麻の魅力を活かして作るアパレルシリーズ「中川政七商店の麻」を展開しています。本記事ではその中でも、「四季折々の麻」をコンセプトに、毎月、その時季にぴったりな素材を選んで展開している洋服をご紹介します。

ご紹介した人:

中川政七商店 デザイナー 杉浦葉子

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【旬のひと皿】みかんと蕪のしゃぶしゃぶサラダ

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で創作料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



少し遅くなってしまいましたが、明けましておめでとうございます。お正月の奈良はずっとよいお天気で、全国的にもお出かけしやすい年末年始だったのではないでしょうか。

年末年始は、毎年多くのお客様がお店へ来てくださる時期。昨年に引き続き93歳のお誕生日にお越しくださったご家族様もいらっしゃり、なんとも言えない心温かな時間を共有させていただけました。

たまたま一緒の時間にいらっしゃっていたお客様も一緒に拍手をしてくださり、大切な時間にわざわざお越しいただいたことに胸も心も全ての臓器がいっぱいになりました。

ご家族やご友人との貴重な時間を過ごす場所に選んでいただけることがありがたくて、「お正月のお写真撮らせてください!」とお声がけして、集合写真も撮らせていただきました。(心の中では“お正月を写そう!”の気分)

カメラ越しに楽しそうに笑っておられるお顔を拝見し、一緒に参加させていただいた気分で嬉しい年の瀬と今年のはじまりを感じることができました。

お正月休みが過ぎると、しばらくお休みで会わなかった運送会社の方や、食材を届けてくださる方とも再会。わいわいお話しながら、今年一年もまた楽しんでいただけるよう自分の気持ちをキリッと引き締めています。

今年は箱のみかんと目があって、すでに何度か購入してシロップにし、みかん寒天を作ったりシャーベットにしたり、サラダに入れたりと楽しんでいます。

裏作の時期だったようで例年より多くは出回っていないように感じますが、手で簡単に剥けるみかんは、お風呂あがりや、喉が渇いた時の水分補給がわりにも嬉しい。雨がかからないように注意しつつ、室外に置いておくと寒さで果肉がひんやり冷たくなり、冷蔵庫いらず。冬のアイスクリームもいいけれど、みかんもやはり、冬には必要な存在だと思うのです。

そうそう、知らなかったみかんの話を先日お客様から伺いました。

給食に出てきた冷凍みかん。食べる頃には半解凍くらいになっていて、とびきり美味しかった記憶が残っているのですが、なんと新幹線でも冷凍みかんが売られていたそうで、びっくり!もちろんすぐには食べられないので、買われた方々は溶けるまでしばらく待っていたのでしょうか。

旅のお供に冷凍みかん。自前で作り、どこかに出かけてみたいなと思いました。今回はそんな、みかんを使ったレシピです。

<みかんと蕪のしゃぶしゃぶサラダ>

材料(2人分)

・豚ロース肉(しゃぶしゃぶ用)…6~8枚
・ほうれん草…1束
・かぶ…1個
・大根…5cm程度
・みかん…3個
・ポン酢…大さじ2
・オリーブオイル…小さじ2

◆トッピング

・ピーナッツ…10粒
・白炒りごま…小さじ1
・クミン(あれば)…ひとつまみ
・おかき(醤油味)…適量
・粗塩…適量

作りかた

トッピングから作る。ピーナッツを粗めにきざみ、ボウルにごまとクミンと一緒に入れる。おかきを手で割り入れ、粗塩も入れて混ぜ合わせる。

ほうれん草は軸に十字の切り込みを入れ、砂をきれいに洗い流す。かぶ、大根も洗う。

鍋に湯を沸かし、塩ひとつまみ(分量外)を入れたら、ほうれん草を軸からサッとゆでる。冷水にとって水気を絞り、3cm程度にカットする。

みかんの皮をむき、横側から3枚になるようスライスする。お皿に円になるよう並べる。皮についた果肉は大きめのボウルに絞っておく。

かぶの皮をむき横半分に切る。上部分を横側から5枚に切ったら、重ねて縦半分に切り、先ほど並べたみかんの間にそれぞれ並べていく。1枚余るのはつまみ食い用に(笑)。

残ったかぶと、皮をむいた大根をすりおろしてドレッシングを作る。かぶは鬼おろしで、大根はおろし金ですると食感が変わって楽しい。軽く水気を絞ったら、みかんの果汁を入れたボウルにほうれん草、ポン酢、オリーブオイルと一緒に入れる。

鍋に湯を沸かし、沸騰したら塩少々(分量外)を入れて豚肉をゆでる。ざるにあげたら先ほどのボウルに入れて、全体をざっくりと合わせる。

みかんとかぶを並べたお皿の中央にこんもりと盛り付けて、仕上げにトッピングをふりかければ完成。

うつわ紹介

美濃焼の平皿

写真:奥山晴日

料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/

【あの人の贈りかた】贈りもので大切にする重心は、年齢とともに物から心に(スタッフ中武)

贈りもの。どんな風に、何を選んでいますか?

誕生日や何かの記念に、またふとした時に気持ちを込めて。何かを贈りたいけれど、どんな視点で何を選ぶかは意外と迷うものです。

そんな悩みの助けになればと、中川政七商店ではたらくスタッフたちに、おすすめの贈りものを聞いてみました。

今回は経営企画室の中武がお届けします。

気を遣わせずに笑顔を招く「絵形香」

年を重ねるごとに変わってきたことはたくさんありますが、贈りものの選び方もその一つ。

相手が喜んでくれそうなことを前提にしつつ、世間で話題になっているもの、人気のものに頼っていた20代、実用的だけどちょっと贅沢なものを選ぶことが多かった30代。
そんな時期を経て、40を過ぎた立派なオトナになった(はずの)今、選ぶのは、良い意味で”さらっと”しているものが増えました。

”さらっと”というのは、あると嬉しいけど気楽に手放せる、相手に気を遣わせない、それでいて笑顔になるようなもの。

この年代になると、友人たちもみんないろんな経験をして、目が肥えてきて、自分なりのこだわりやセンスで身の回りを整えるようになりますし、それなりに使えるお金も持っているので、欲しいものがあればだいたい自分で気に入ったものを買うのです。

だから贈るのは「あなたのことを考えて選びながら、会える日を楽しみにしてきましたよ」、という気持ちを伝えるアイテム。実用性にこだわらず、あえて軽めのものを選ぶのが大人なのではないかと思うようになりました。

前置きが長くなりましたが、そんなわけで最近重宝しているのが「絵形香」です。

季節ごとにモチーフが変わる、手績み手織り麻の生地で包んだ小さなお香で、桐箱の蓋の溝に立てればそのまま飾ることもできます。

見た目が可愛らしく季節感があるので渡した時に、わぁ!と場が明るくなりますし、コンパクトなので持ち帰る際も負担がなく、家のちょっとしたスペースに飾れます。ほんのりと優しい香りを楽しめて、万が一インテリアのテイストに合わなかったとしても、その季節が過ぎれば心置きなく片づけられる、と、本当にちょうどよいのです。

個人的には、それぞれの季節によって登場するモチーフの選び方や表し方もひとひねりあって好きなポイントです。鳥が枝をついばんでいるような「桜に春鳥」や、かたつむりとてるてる坊主の絵をあしらった「あじさい」、トナカイの鼻が赤いクリスマスモチーフの「プレゼント」など、次は何が出るんだろう?と毎回楽しみにしているアイテムでもあります。

<贈りもの>
・中川政七商店「絵形香」

※写真の商品は完売いたしました。季節によりデザインが異なりますので、その時季のデザインをぜひお楽しみください。

意外と相手を選ばない、ちょっとした心配りに「鹿の家族 マグネットしおり」

ちょっとしたものを贈りたいとき、あるいはお菓子と一緒に何か手元に残るものを添えたいときに選ぶのが「鹿の家族 マグネットしおり」。

お返しの気を遣わせないよう本当にちょっとしたものを選びたくて、可愛いからおすそ分けをどうぞ、という気持ちで贈っています。

まずは、愛らしい見た目がたまらない!

親鹿と子鹿が一つひとつ手作業で刺繍されていて、しおりやクリップとして使うことができます。

手帳派の方や読書好きの方にはもちろん、親子でお揃いで使っていただけるのでお子さんがいらっしゃる方にも好評です。お子さんにはマグネットの感触が面白いようで、繰り返し開けたり閉めたりしてくれたことを覚えています。

また、普段クールな方にお渡ししたら予想外に気に入ってくださって、かっこいいカバンの中に入れて使っておられたのも印象的でした。意外と相手を選ばない贈りものだと思っています。

<贈りもの>
・中川政七商店「鹿の家族 マグネットしおり」

持ち寄りパーティーの手土産にも活躍「​CUCINA RINALDO 綾キノコペースト」

美味しい食べものも贈りものの定番。相手の負担にならない”さらっと”した贈りものの代表格でもあります。

とはいえ、その辺で適当に買ってきたものだとさすがに味気ない気がしますよね。そんな時、私は地元・宮崎のものを選んで会話のきっかけにすることも多いです。

渡した時に、お互いの地元の話や旅行の思い出などでひとしきり盛り上がり、距離が近づくように感じるのです。(お国自慢って、なんであんなに盛り上がるんでしょう!)

宮崎は何でも美味しいところで、お肉もお野菜もお酒もお菓子も、本当に数多くの選択肢があるのですが、そのなかでも個人的に鉄板なのが「​CUCINA RINALDO」。

古くから有機農業が盛んな綾町に工房をかまえ、宮崎出身のオーナーとイタリア出身のご主人が作るイタリアの家庭料理を、主にオンラインで販売しているお店です。

どれも美味しいのですが、贈りものとしてよく選ぶのはペースト類。

この「綾キノコペースト」はポルチーニの代わりに地元のエリンギを使った、ハーブの香りが効いたペーストです。

バゲットにそのままのせてシンプルに、またチーズやアンチョビと合わせてアレンジしたり、お肉の付け合わせにしたり、パスタソースにしたりと、幅広く使えます。

可愛い瓶入りで、そのままお渡しする贈りものとしてはもちろん、持ち寄りパーティーの手土産としても、おしゃれで大人から子どもまで食べられ、他の方とめったに重ならない万能アイテムです。

常温保存可能で、未開封なら賞味期限が最大9か月あるのも嬉しいところ。

こうして書いてみると、贈りものの価値の重心が、年齢とともに物質から心に移っていることを改めて感じます。相手を気遣う心を磨いて、贈りもので上手に伝えられる大人でありたいなと想うこの頃です。

<贈りもの>
・​CUCINA RINALDO「綾キノコペースト」

※中川政七商店での販売はありません

贈りかたを紹介した人:

中川政七商店 経営企画室・中武直美

【身長別着用レビュー】日本の布ぬの テーパードパンツ

日本各地の染織技術からうまれた布を、テーパードパンツに仕立てた「日本の布ぬの(ぬのぬの) テーパードパンツ」。今回は「パイルジャカード」「絣刺繍」「刺し子ドビー」「市松ドビー」と4つの産地の染織技術を用いた布で作りました。

ゆとりをもたせながらも前もも部分にワンタックを入れ、きちんと感のある印象で履けるため、リラックス感のあるお出かけ着としてご着用いただけます。

ところでパンツを迎える際に気になるのは、デザインや着心地の他にやはり丈感。フリーサイズのこちらのパンツ、身長の異なるスタッフが着用するとそれぞれどのくらいの丈感になるのか確認すべく、3人のスタッフに履いてもらいました。

今回は身長156cm、160cm、164cmのスタッフがそれぞれ着用しています。
ぜひ、ご検討の際の参考になれば幸いです。

<着用したアイテム>
布ぬのテーパードパンツ 刺し子ドビー 青

身長156cmのスタッフが着用

「今回のパンツはウエストの細い位置で履ける仕様となっていて、ベルトループもあるため丈感の調整がしやすく、背が低めの方も履きやすいと思います。そのまま履いても、かかとに裾がかぶるくらいで、低めのヒールのパンプスやスニーカーと合わせても裾をひきずらず履けそうですね。

私くらいの身長の方はウエスト部分のタックを見せるように履くともたつかず、すっきりとした印象と足長効果が出ると思うので、トップスをインして着るのが個人的にはおすすめです。私よりもう少し背の低い方は、そのままゆったり履くのもいいと思いますし、裾をひと巻きロールアップすると履きやすいかもしれません」

身長160cmのスタッフが着用

「身長160cmの私が履くとちょうど甲にかかるくらいの丈感で、すっきりと着用できるなという印象でした。パンプスから見える甲のバランスも程よくて上品にも履けそうです。裾に向かっての形がきれいなので、少し丈の長いトップスやアウターとの相性も良いのではないでしょうか。

パンツってお直しが必要な場合も多くて、デザインが好みでも手に取りにくいものもあるのですが、これならそのまま履けるので嬉しいです。少しコンパクトに履きたいときは裾をロールアップして短め丈で履くのもかわいいかも、と思いました」

身長164cmのスタッフが着用

「私が履くと足首の少し下に裾がきて、座るとすねにかかるかなという丈感です。今は腰の一番細い位置で履いていますが、ウエスト位置をやや下に持ってこれば、もう少しゆったりとも履けますね。

とはいえ、クロップド丈ほど短くはならず、このままでも十分きれいなシルエットで着用できます。このパンツは布の質感やシルエットのおかげか、カジュアル感ときちんと感が両立していて、毎日のコーディネートで手に取りやすいなと思いました」

もたつかず程よい丈感で履いていただける布ぬのテーパードパンツ。ご自身のお洋服の好みに合わせながら、お好きな布を、見て・履いて楽しんでいただけたら嬉しく思います。

<関連特集>

文:谷尻純子

【あの人の装い】フォトグラファー・髙田久美子さんが着る「布ぬのテーパードパンツ」

産地でそれぞれ育まれてきた染織技術を用い、生み出された日本の布。その個性豊かな表情を装いのなかで楽しんでいただけたらと生まれたのが、中川政七商店の「日本の布ぬの(ぬのぬの)」シリーズです。

暮らしに自分らしいリズムを持つあの人が「日本の布ぬの」を装うなら、どんなコーディネートになるんだろう。そんな思いから、気になるあの人にシリーズ新作のテーパードパンツを着ていただきました。

今回は群馬県に住まいを構え、フォトグラファーとして活動しながらSNSで暮らしやファッション、育児の発信も行う髙田久美子さんによる装いをご紹介します。

パンツスタイルが日々の服装の定番

フォトグラファーとして家族写真や企業案件の撮影を仕事とする髙田さん。東京での生活を経て夫の実家である群馬県に移り住み、いまは2歳と4歳のお子さんと、夫の4人で暮らされています。

東京時代はハイブランドの洋服も好み、群馬に移ってもしばらくは仕事のある東京で買い物をすることが多かったそうですが、最近は趣向が変わり地元のセレクトショップで購入することも増えたといいます。どんな理由から変化が起きたのでしょう?

「年を重ねるにつれて、長く愛用できたり経年変化が味わいになるようなファッションが好きになって。そういったお洋服をたくさん扱うお気に入りのセレクトショップが群馬県内にあるので、そこで買い物することが多いですね。ネットショッピングも楽しんでいます。

最近買った思い入れのあるものは、そのセレクトショップで迎えたシルバーのバングル。子どもの誕生日の記念にとちょっといいものを買って、裏側に子どもの名前を刻んだんです。子どもが成人したら受け継ぎたいなって思ってます」

当初は見知らぬ土地だった群馬も、いまは帰ってくる土地になったそう。洋服の好みの変化は、暮らし方の意識の変化とも結びついているのかもしれません。

「東京暮らしが長かったのですが、都会に疲れてしまうというか。いつもどこか気を張ってるみたいなところがあり、疲れてたんだなとこっちに来て改めて実感しました。群馬は便利さでいえば東京ほどではありませんが、だからこそ工夫する知恵もうまれます。ちょっといい醤油を買うことが毎日のご褒美になるとか、そんな小さなことがいまは幸せなんです」

育児は夫と“シフト制”。食事や、園へ子どもを送る朝の時間は一緒に過ごし、夕食後は日替わりで担当が決まっているといいます。それに加えて、火曜日は“母業”を終日オフにできるように調整しているそう。夫婦で協力しあいながら、自分の時間や仕事の時間をとられています。

「意識もお洋服も、仕事モードの時と母ちゃんモードの時、女性モードの時を分けていて。例えば仕事もオフで、友達とお茶ができる時なんかは“女性モードで”自分の時間を思いっきり楽しめるおしゃれをしたり。

その瞬間だけは『ママだからこうしちゃいけない』に縛られずに、楽しむことに決めているんです」

「とはいえ母業も仕事もあるので、365日のうち9割くらいはパンツスタイルですね。仕事でも子どもといるときも、スカートだとどうしても意識が自分に向いてしまうので、気を遣わないパンツスタイルが好きなんです。反対に今日みたいに、自分が被写体になるとか、誰かに会いに来ていただいたりする場合はスカートを履くことが多くて、意識的に使い分けているかもしれません。

あと相手への心配りみたいなこともパンツスタイルのほうができる気がしていて。スカートを履いている時は動きが制限されるから、思いっきり何かをすることが難しいんですよね。おもてなしとか、誰かに何かをしてあげたいなって気持ちを存分に発揮できるのもパンツのほうが向いていると思うんです」

「布ぬのテーパードパンツ 絣刺繡」

普段からパンツスタイルばかりと話す髙田さん。9種類ある「布ぬのテーパードパンツ」から、お好きな布を二つ選んでいただきました。

髙田さんが選んだ一つ目の布は「絣刺繡」。中川政七商店に残る大和絣の図案を、富山県の作り手によりエンブロイダリーレースの技法で表現した布です。ベースには光沢のある杢(もく)調の生地を使っており、なつかしさがありつつも繊細な模様が品よく浮かぶ一着に仕上がりました。

「パンツに脚を通した時にまず感じたのは、肌触りの良さと、軽やかさ。デザインの面ではタックがしっかり入っているので、もったりとせず、野暮ったくならないところがお気に入りです。

トップスはシンプルなものを持ってくるとバランスがいいかなと思い、白のざっくり編みニットを合わせました。春秋はシャツやブラウスを合わせることで上品なコーディネートになりそうですね」

「コーディネートのテーマは、友人と家で過ごす時間の気負わないおしゃれ。リラックス感が出すぎないように髪はアップにしてバランスをとり、アクセサリーにシルバーの大きめピアスをつけてみました」

<着用した商品>
布ぬのテーパードパンツ 絣刺繡 グレー

「布ぬのテーパードパンツ パイルジャカード」

二つ目の布は「パイルジャカード」。もこもことした毛が織り込まれた立体的で複雑なデザインが特徴の生地で、パイル織物の産地・和歌山県高野口で仕立てられました。ランダムな大小の水玉がやわらかに浮かぶ印象的な一枚を、髙田さんはどんなふうにコーディネートするのでしょう。

「イメージしたのは、美術館へお出かけする時のコーディネート。パンツはふんわりやわらかな着心地と見た目ですが、少しハードなロングジレと合わせて、あえてクールにワントーンでまとめました。

こちらの生地はレオパード柄のようなイメージもあり、今回みたいに強めにも着こなせそうです」

「毎日の服装で大事にしているのは『身だしなみは人のために、おしゃれは自分のために』という意識。

コーディネート自体はシンプルで清潔感のあるバランスが好きですが、一つひとつのアイテムはどこか少しクセのあるデザインのものを選ぶことが多いですね」

「この生地は、もこもことした素材感がすごく気持ちよくて、つい触りたくなってしまいました(笑)。一見シンプルですがよく見ると個性があって、モノトーンのトップスが多い方にもワンポイントになるのではないかと思います。

身長153cmの私が履いても裾が長すぎず、程よいゆとりがあるので仕事や育児の場面でも動きをじゃませず着られそう。もちろん、おしゃれをする日のアイテムとしてもぴったりです」

<着用した商品>
布ぬのテーパードパンツ パイルジャカード 黒

ラクな着心地ながらも個性豊かな布の表情と、すっきりと着られるシルエットに仕上げた布ぬのテーパードパンツ。生地により冬に活躍するもの、春先まで着られるものと様々です。

ぜひ、お気に入りの一着に出会っていただけたら嬉しく思います。

<関連する特集>

文:谷尻純子
写真:戸松愛