【あの人が買ったメイドインニッポン】#51 文筆家の一田憲子さんが“旅先で出会ったもの”

こんにちは。
中川政七商店ラヂオの時間です。

ゲストは引き続き、文筆家の一田憲子さん。今回は「旅先で出会ったメイドインニッポン」についてのお話です。

それでは早速、聴いてみましょう。

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一田憲子さんが最近買ったメイドインニッポン

一田憲子さんが“最近買った”メイドインニッポンは、「小林東洋さん作のポット」でした。


ゲストプロフィール

一田憲子

OLを経て編集プロダクションに転職後フリーライターとして女性誌、単行本の執筆などを手がける。
2006年、企画から編集、執筆までを手がける「暮らしのおへそ」を、2011年「大人になったら着たい服」を(共に主婦と生活社)立ち上げる。
そのほか、「天然生活」「暮らしのまんなか」などで執筆。 全国を飛び回り取材を行っている。
「父のコートと、母の杖」(主婦と生活社)を11月上旬に発売予定。
Webサイト「外の音、内の香」を主宰。


MCプロフィール

高倉泰

中川政七商店 ディレクター。
日本各地のつくり手との商品開発・販売・プロモーションに携わる。産地支援事業 合同展示会 大日本市を担当。
古いモノや世界の民芸品が好きで、奈良町で築150年の古民家を改築し、 妻と二人の子どもと暮らす。
山形県出身。日本酒ナビゲーター認定。風呂好き。ほとけ部主催。
最近買ってよかったものは「沖縄の抱瓶」。


番組へのご感想をお寄せください

番組をご視聴いただきありがとうございました。
番組のご感想やゲストに出演してほしい方、皆さまの暮らしの中のこだわりや想いなど、ご自由にご感想をお寄せください。
皆さまからのお便りをお待ちしております。

次回予告

次回も引き続き、文筆家の一田憲子さんにお話を聞いていきます。9/13(金)にお会いしましょう。お楽しみに。

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【デザイナーに聞きました】「くらしの工藝布 アイヌ刺繡」制作記録

アートを飾るように家に布を飾る、新たなインテリアを発売します。「くらしの工藝布」シリーズから、今年は「アイヌ刺繡」をテーマにものづくりを行いました。

できあがったものは、「アイヌ刺繍」には珍しい白を基調とした配色。3年の歳月をかけ、8名のアイヌ工芸作家の方々と共にものづくりをしました。

どんな背景でこのアウトプットになったのか、デザイナーの河田めぐみさんに話を聞いてみました。

河田めぐみ

中川政七商店デザイナー。
「くらしの工藝布」の専任デザイナーとして、工芸の技をテーマにした布づくりに取り組んでいる。

ーーアイヌ刺繍をテーマに開発したきっかけは何だったのでしょうか?

最初のきっかけはご紹介です。お付き合いのあるバイヤーさんが、阿寒湖アイヌのものづくり事業にアドバイザーとして参加されていた関係で、中川政七商店で商品開発ができないか、というお話をいただきました。アイヌ工芸のものづくり事業に参加されていた下倉絵美さんが、伝統的な手仕事以外にも、アイヌ文様のテキスタイルデザインにチャレンジしたいというお話があって、それがきっかけで中川政七商店にお話をいただいたみたいです。それが2021年の10月です。

ちょうどその頃、「くらしの工藝布」では、「技」をテーマに開発することを決めて、多様な工芸をテーマに作りたいと考えていた頃だったので、アイヌテキスタイルのものづくりのお話をいただいた時は、ぜひお願いします! という感じでした。

それで2021年の12月頃に、下倉さんをはじめ何人かの作家さんにお会いするために阿寒湖のアイヌコタンに伺いました。ここで伝統的な手刺繍や工芸品を拝見し、また、コミュニティの中で、若い作り手に刺繍の手ほどきをしながら、技術をつないでいく活動をされていることなども知りました。

刺繍を行う作家さんが、歌や踊りなど一人何役も担う。今回一緒にものづくりした作家の平久美子さん。

もともといただいたお話は機械刺繍のみでのテキスタイルデザインでしたが、阿寒での体験やアイヌ工芸の歴史や技を学ぶ中で、伝統的な手仕事の技を原点にして、手刺繍も合わせながら新たな機械刺繍の表現の可能性を探っていくような流れにしたいと思ったんです。
そこで、改めて阿寒の作家さんに手刺繍もしていただけないかと思い、2022年の3月頃に再度阿寒湖に訪問しました。ただ、その時にご紹介いただいた作家さんには良いお返事がもらえなかったんです。アイヌコタンに行って知ったのですが、皆さんいろんなことをされているんですよね。工芸作家としての側面だけじゃなくて、踊りや歌で舞台に立ったり、お店を運営されていたり、一人何役も担っているのでお忙しくされていて。だから、その時の訪問では決まらなかったのですが、阿寒アイヌコンサルンの方に引き続き声を掛けていただいて、改めて今回ご依頼した作家さんとのものづくりが実現しました。

ーーどのようなやり取りで今回の素材や文様が決まっていったのでしょうか?

アイヌ工芸や歴史に関する知識がほとんどなかったので、2回目の訪問にあわせて、網走の北海道立北方民族博物館や白老の国立アイヌ民族博物館に行きました。ほかにも、図書館でアイヌ工芸に関する資料を読んだり、漫画、アニメ、インターネットなどさまざまなツールで情報収集しています。そこで多様な衣文化の歴史や、さまざまな刺繍技法があることも知りました。その上で、先人たちが残してきた技や世界観を継承しながらも、今の暮らしの中でこそ生まれる自由な表現を大切にしたいと思ったんです。
そこでまず、素材、色含め全体的な世界観のイメージについて、作家さん一人ひとりにお会いしてお伝えしました。生地と糸の相性を確認するための試作から始まり、素材が確定した段階で、典型的な文様以外については、デザインから新たに作っていただいています。

ーー表現として、なぜ白が基調になったのでしょうか?

実は北海道に行ったのも初めてだったんです。中でも阿寒湖周辺では、冬は-20℃ を下回るような寒さになるんですね。最初の訪問は12月だったので雪がかなり積もっていました。次に訪れたのは3月でしたが、阿寒湖はもちろん、道中もまだ雪景色だったんですね。初めての北海道は、朝晩本当に突き抜けるような寒さだったのですが、同時に、空気がとても澄んでいると感じて。アイヌコタンの目と鼻の先には阿寒湖があるのですが、湖も雪が積もって真っ白で、遠くに見える山も、何もかもが雪に覆われていました。空気が澄んでいるから空が本当にきれいで、そこに真っ白な雪があるという対比だったり、自然そのものにある爽やかな色の印象がとても強く残っています。

生地の上に文様の形に切り抜いた生地を乗せて伏せ縫いする、切伏技法を用いて作られたタペストリー

アイヌ刺繍の技法の中に、生地の上に文様の形に切り抜いた生地を乗せて伏せ縫いをし、その上から刺繍をするとても手の込んだ表現があります。それを見た時、アイヌの人々の深い想いや、時間の層が積み重なっていくような表現だと感じました。その表現が、阿寒で見た雪の層と重なって見えて、そんな奥行きのある表現を大切にしながら、白を基調に表現してみたいと思ったんです。

アイヌ民族の衣服に施されている色の表現は、コントラストが強く、色鮮やかなものがひとつのスタイルとしてあると思います。ですので、白を基調にした淡い色の重なりで表現したいというお話をした時に、最初から賛同してくれる方もいれば、そうでない方もいました。
ですが、 阿寒の自然を感じながら、自然に委ね、自然とともに暮らす阿寒の人々に接し、この雄大な自然に漂う空気感を色に重ねて、それを阿寒に暮らす作家さんと一緒に作り上げたいと思ったんです。

ーー手刺繍の全ての作品に当社のルーツである手織り麻が使われていますが、どういう意図がありますか?

アイヌ衣装の素材のなかでテタラぺという、イラクサと呼ばれる植物を繊維にした織物があります。アイヌ語で「白いもの」という意味があり、同じ靭皮繊維のアットゥㇱと比べ、白さが際立っているのが特徴です。

中川政七商店のルーツである奈良晒の素材、苧麻も同じイラクサ科の植物で、見た目にも素材感にも共通性があることから、この素材を使用したいと思いました。当社が、麻生地を白くする技術に優れた奈良晒の商いから始まったこともあり、手織りの麻の白を基調にしたいと思ったんです。

ーー作る中で、アイヌ刺繍のものづくりは、どんなところに特徴があると感じましたか?

まず圧倒的に個性的だということです。

今回、最小限の色で多くの作家さんにそれぞれ作品を制作いただきましたが、どれもアイヌ文様であることが分かります。決して伝統に則った表現ではなくても、分かるのではないでしょうか。

それぞれの作家さんに、「文様には、ルールのようなものがあるのでしょうか?」と伺ったことがありました。しかし皆さんからは、「特にこれといったルールがあるわけではなく、むしろ自由だ」というようなお答えをいただきました。それを聞いて感じたのは、きっと長い歴史の中で培った強度のある表現だからこそ、大胆にアレンジすることもできるのではないかということです。昔の人が、さまざまな技を取り入れながら自由な発想で表現した形は、これからもその強度を保ちながら、大胆に自由に変化していくのかもしれません。

今回、アイヌ刺繍をテーマに開発するにあたって、遥か古まで歴史を遡り、現在に至るまで、さまざまなことを学びました。初めて阿寒に訪れた3年前から今までの間、長い歴史の旅をしてきたような気持ちです。

色んなことを知り、そして今まで何も知らなかったことに気付きました。これまで考えもしなかったことを考えるようにもなって。そして、何を、どんな風に作り伝えるべきか悩みました。そんな時、アイヌの作家の皆さんが、とても朗らかにものづくりに向き合う姿に接し、私は、この澄んだ表現の美しさをただただ届けたい、それに尽きるという思いに至りました。

今回手がけた布の多くが、部屋に飾るものです。阿寒湖の自然の空気をそのまま切り取ったような表現をするために、雪、空、木々、この3 つの印象を色に重ねました。
飾り、眺め、その世界観を想像し、心が動くような瞬間があったら嬉しいです。

<関連特集>

 
文:上田恵理子
写真:田ノ岡宏明

アイヌ工芸作家・下倉絵美さんインタビュー【くらしの工藝布】

2024年のくらしの工藝布は「アイヌ刺繍」をテーマにものづくりを行いました。
一見しただけで、アイヌ文様であることが分かるような個性の強いものづくり。作家さんごとにそれぞれ個性がありながら、どれもアイヌ文様だと感じる「らしさ」があるのです。その一方で、デザインにはどんなルールや意味があるのか、今回「くらしの工藝布」に携わるまで、アイヌ文様について多くを知りませんでした。
そこで、今回ご一緒にものづくりをしたアイヌ工芸作家の下倉絵美さんにお話を伺ってみました。

下倉絵美さんデザインの「タペストリーアイヌ文様」と「飾り敷布 アイヌ文様」

下倉絵美さんには、機械刺繍のテキスタイルデザインを担当していただきました。
手作業では難しい2メートルに及ぶ大判サイズは機械刺繍ならではの表現。インテリアに存在感を与えてくれます。


下倉絵美さん

アイヌ工芸作家。
幼少期よりアイヌ文化に親しむ。姉妹ユニット「Kapiw & Apappo」を結成しアイヌ歌謡の魅力を伝える傍ら、アトリエ「cafe & gallery KARIP」で創作活動を行う。


ーー刺繍はどのように学ばれてきたのでしょうか?

刺繍はもう見よう見まねで、母がやってたのを横で見てた。最初は教えてって言ったんだけど、あんたに教えても途中ですぐ投げ出すからって言われて、「じゃあいいよー!」って(笑)。手芸でなんか作ったりするのはもともと好きで、昔は民芸喫茶ポロンノのメニュー表を刺繍したり。今でもポロンノの2階に置いてあります。
でも、刺繍家といわれている人達みたいには凝らなくて、必要に応じてって感じで。例えば夫の服にちょっと文様いれたり、友達のシャツに刺繍してくれって頼まれた時にしたり、身近な人が着るものに添えるくらい。でも文様は好きだったから、描くのはずっと好きですね。

ーーアイヌ文様の魅力はどのようなところにあると思われますか?

自然の中にあるラインとか流れに近いところがあるなぁと思って。無理がないというか。どこまでも広がっていく自由さもあるし、決まりがない。いちおうシクとか、モレウとか、アイウシとか、決まっている文様もあるけれども。人によって千差万別で、個性が強いところが面白いかな。
ルールはどうなんでしょうね。分からないけど、組み合わせ次第で人それぞれに文様が違うところがいいなと思っていて。昔の着物見るとほんと自由。大胆だし、やっぱりみんな楽しんでるじゃんって。それでいいよねって思わせてくれる自由さがある。
左右対象じゃなくて曲がってても、その人らしいっていうか。おおらかでいいなぁ、らしさがあるなぁって。今はかっちりも作れちゃうけどさ。
裏見ると、面白いんですよ。刺繍がすごい細やかで、あぁこの人はそこに魂いれてんだなぁとか。ちょっと糸切れたから、別の糸をまた繋げてやったんだろうなぁとか。そうやって人それぞれの個性が見えるのが面白い。

ーー刺繍の図案をデザインする際、どのように発想されますか?

ものによるけど、例えば草がテーマだったら、こんなのかなぁって気持ちいい流れをいっぱい描いて、そのうちにだんだん草っぽいなぁ、草ならこっちに伸びるよなぁ、こうきたらやっぱりここにシクほしいな、シクがあるってことは…とか。お母さんだったらこういくだろうなぁ、お母さんは多分もっとおっきく描くだろうなぁ…私だったら…とか。色んな風に考えて、描きながら考えながらどんどん変わってっちゃうんですよね。遊んで描いてるのが、1番楽しい。
決まってるTHEアイヌ文様みたいなものより、具象の物にアイヌ文様のテイストを入れるのが好きだったりもしますね。生きてきた中で見た景色とか、自分で好きなものも、色々混ざってると思います。何も考えないで、自分の中のイメージでぐんぐん。可愛いとか、好き、きれいって思ったら、そのまま表現できたらいいなって思いますね。

下倉絵美さんのお母さまの床みどりさん。今回のものづくるにも参加されている。

ーー今回のものづくりにもご参加されている、お母さまの床みどりさんと通じるところはありますか?

憧れるのは、おおらかさかなぁ。広々と伸びやかな線の方が好きなので、そこは母と共通なのかなぁと思っています。
文様を描くときに大切にしているのは、線の流れが切れないように、なるべくどこまでも続いていくように描くこと。ぶつっと途切れるようなものではなく、自然な流れになるように繋がっているのが好きですね。

下倉絵美さんデザインの「掛け布 アイヌ文様」
下倉絵美さんデザインの「多様布 アイヌ文様」

ーー今回、機械刺繍のデザインに挑戦されてみていかがでしたか?

もともと着物だけじゃなくて、普段着にアイヌ文様のものがほしいなって思ってたので、カーテンや服の素材か、ファブリックに興味があって。機械でやってみるのはどうでしょうと話をもらって、興味をもちました。
でも連続パターンの文様って、やったことなかったんですよね。連続かぁ…と思って、想像できないからとりあえず描いて、自分で自分に応えるように、空間を埋めるように文様を描いていきました。
上下左右に文様が繋がらないといけないから、最終的にどう見えるのかが分からなくて、途中ちょっと混乱しつつやってたんだけど、できあがってみると、どこで繋がっているのか分からない文様になっているっていうのが面白かったです。

機械刺繍で大きな生地が作れたので、アイヌ文様に触れてもらう入口が、ちょっとだけ広がるのかなって。そこから、本来はこういうものなんですよと、手仕事の刺繍も機械刺繍と一緒に中川政七商店さんに伝えてもらえると、より深く知っていただけるきっかけになるんじゃないかと思います。

ーーできあがったものを見て、どんな感想をもたれましたか?

日常で喫茶店のどこかに使いたいですね。テーブルクロスにしてもいいなぁ。アイヌ文様をこういう風に同系色にすると落ち着いて見えて使いやすいですね。
多様布とか掛け布とか、布として販売されるので、その人のアイディア次第で楽しんでいただけたらいいなと思います。ショールにしたり、身に着けるのもいいですよね。私も楽しみたいと思います。

<掲載商品>
タペストリー アイヌ文様
飾り敷布 アイヌ文様
掛け布 アイヌ文様
多様布 アイヌ文様
(すべて9月4日発売)

<関連特集>

文:上田恵理子
写真:田ノ岡宏明

アイヌ工芸作家・床みどりさんインタビュー【くらしの工藝布】

2024年のくらしの工藝布は「アイヌ刺繍」をテーマにものづくりを行いました。
一見しただけで、アイヌ文様であることが分かるような個性の強いものづくり。作家さんごとにそれぞれ個性がありながら、どれもアイヌ文様だと感じる「らしさ」があるのです。その一方で、デザインにはどんなルールや意味があるのか、今回「くらしの工藝布」に携わるまで、アイヌ文様について多くを知りませんでした。
そこで、今回ご一緒にものづくりをしたアイヌ工芸作家の床みどりさんにお話を伺ってみました。

床みどりさんによって製作された、「タペストリーアイヌ刺繍 チカㇻカㇻペ」

床みどりさん

アイヌ工芸作家。阿寒湖アイヌコタンで「アイヌ料理の店 民芸喫茶ポロンノ」を開く。祖母や母から学んだアイヌ文化(料理や刺繍、織物、歌、踊り)を、家族や地域の若い世代に伝えている。


ーー刺繍はどのように学ばれてきたのでしょうか?

刺繍を本格的にやりだしたのは、結婚してから。売ってなかったんだよね、昔は。だから自分で作らざるを得なくて。もともとなんでも作ることが好きだったんですよ。毛糸で編みものするのが好きだったし。近所にアイヌの着物を作ってるおばさんもいたりして、遊びに行って見るのが好きだったんですね。昔は着物の文様を下描きするとかそういうことは一切なく、ぶっつけ本番で折り畳んだ生地をハサミで切ってて。おばさんちでも、下描きなしで直にはさみで切ってたのを見たことがあって。切り絵にしてはおかしいし、なにしてんの?って感じだった。
だから昔の人の文様は、右と左がちょっとずれてるとか色々あるみたいなんだけど、そりゃあんな風に切ったらそうなるよなぁって(笑)。昔はあれだね、ものさしとかないから、指ではかって大体で。ストーブの炭でちょっと印つけてやってたみたいだね。

ーー文様自体はどのように学ばれてきたのでしょうか?

最初は文様考えるのはやっぱ難しいですよね。でも誰もやってくれないので、あーだこーだやりながら勝手に作ったんだけど、刺繍やるようになってから文様描くのも楽しくなったんですね。だんだんと、左右対称とか、どこかに繋がってるとか、そういう色んなことを考えながら描いてると、それも楽しいなと。古い本を読んだりすると、文様に対する昔の人の考え方が分かって、知れば知るほど面白くて。文様を見ると、作った人の気持ちが分かるのも面白いんですよ。

アイヌ文様の基本のデザイン。文様提供:一般社団法人 阿寒アイヌコンサルン

ーーアイヌ文様を作る際、大切にしているのはどんなことですか?

アイウㇱとモレウとか、基本的な文様は必ずいれようと思ってます。
あとは、なるべく詰まらないように、バランスよくいれたいなと。やっぱり最初の頃は、どうしても、型にはめようとして、文様に無理があったなぁと思うんだけど、このごろは無理のない文様を心がけてるっていうか、流れるような、どこかに繋がるような文様を常に描こうとしてはいますけどね。ちょこちょこ描けばいくらでも描けるんですよ。ずっと、たくさんね。でもそういうのはあんまり。やっぱりどこかに通じる、ゆったりとして存在感のある線を描きたいなと、いつも思っていますけどね。

文様でその人の心情が分かっちゃうっていうか、子育てを必死にやってた頃は、半纏(はんてん)とか作ってもどこかに無理があるっていうか。文様を見ると、悩みながら考えたんだとか、その人のその時の心情が分かっちゃうから、なるべくおおらかな気持ちで、おおらかな文様を作りたい。詰まらないように、どこかに流れてどこまでも繋がっていって、その先も繋がるような。文様が途切れるとこで完結しちゃうんじゃなくて、こっから先もまた繋がっていけますよっていうね。
まあそれがなんかね、アイヌの誰かが書いた物語の中にもあるみたいなんだけど。魔物が人を攻撃しようとした時に文様が道に見えて、辿っていくと行っても行っても終わりがなくて、これはだめだって退散して、魔除けに繋がるんだって。だから、行き止まりじゃなくて、どこまでも繋がる文様を作りたい。

ーー地域ごとの特徴もあるのでしょうか?

そうだね、違いはありますね。なんかやっぱり着物を見ると、あぁこれは浦河の文様だね
とか、それは似てるけど三石の文様だわとか、昔はすごいはっきりしてたんですよね。でも今はもうごっちゃになっちゃった感じがするね。
阿寒湖はね、昔は人が住んでなかったから。山奥だし狩りの場所だったので、いろんな地方から人が集まるんですよ。狩りに来るところでしかなかったので、昔からの伝統的な文様っていうのはそんなに。色んなのが入り混じったっていうのが、伝統と言えば伝統かな。いまはもうこのコタン(集落)の中も、各地方から来たアイヌの人たちが住んでるっていう感じなんで、歌や踊りも、いろんな地方のが残ってる。人それぞれっていうかね、どうなんだろうね。まあもちろん一番多く残ってるのは、近くの釧路とか弟子屈(てしかが)、屈斜路(くっしゃろ)の方の文様なり着物なり歌で、それをやってるんですけどね。やっぱり観光地なもんで、みんな商売してるから、いいなって思うものは取り入れるっていうかな。そういう感覚があると思う。

ーー刺繍の図案を考える際、どのように発想されますか?

山に入って、空の中に木が伸びてるのをぼーっと見たり、幹とか枝の線を見ていたりしてると、すごいきれいだなぁって。文様を描くときに心を落ち着かせるっていうか、遊ばせるっていうか、そうしないと湧いてこないんですよね。山の中とか自然の中に行ったときの風景を思い描くと、なんとなく出てくるっていうか、線を描きたくなるっていうかね。
このごろはちょっと足が悪くなって、山に入るのが難しくなってきたんだけど、山菜を採れなくても一緒に山に行って、ぼーっと。みんなが働いてる最中、空を見ながら自由にしていると癒されるっていうか。なんにも考えないで、ぼーっとただ景色見たり自由にしているんだけど、文様を考える時に、そういう山の中のひと時を思い出すと落ち着くっていうかね、心を開放できるっていうかね。
自然の草とか木の枝とか見てるとほんと、あの線もいいなぁとか、こんなんなっちゃってとか、いろいろ思いますけどね。やっぱ木はすごく好きだね。
白樺だとかオヒョウだとか、木によっては大体同じような形をしてるんだけど、それでもやっぱり自然の中にあると、枝ぶりとか全然違うしね。まあ木とよく話するんだけどね。木に蔦が絡まってると、「あんたも大変だねぇ」とか、「どっからきてこんななってんのー」って言ったり(笑)。
早く暖かくなって、山に行きたいわ。フキがおいしいからね、こっちは。

「アイヌ文化伝統・創造館オンネチセ」にて展示されている、アイヌ文様の着物

ーーアイヌ文様の魅力はどのようなところにあると思われますか?

そうだね、なんか生きてるような、なんて言ったらいいのかなぁ… 生き物っていうか、語りかけるものがあるかなぁと思うけどね。人それぞれの自己主張っていうか。「うわぁ力強い」っていうのもあるし、「いーやーすごいねこれ」っていう、いろんなのあるから。ほんと、見ていて飽きないなと思うけどね。
やっぱり文様はその人の言葉だと思うよね。その人の想いが表れてるっていうか。見てると、この文様あっちにあったのと同じ人? あ、そうだわぁって。なんとなく、その文様の流れとか向きが似てたり。この人と話してみたいって思う時もありますね。

ーーできあがったものを見て、どのような感想をもたれましたか?

白に白なんて、考えてもいないからね。最初は私、散々文句言ってたんだよ(笑)。なにそれ、ありえないって思ってた。ただ、雪とか雪原とか阿寒湖の冬景色をイメージしてるって聞いて、あぁなるほどね、それは面白いかもって思って。阿寒湖は冬が長いからね。朝の霧氷が付いてる時間は、全部が真っ白なんだよね。枝の先まで全部。あの景色はきれいですよね。−20℃以下になると、雪踏む時の音がキュッキュって高く鳴って、雪がキラキラ光って、すっごいきれい! あの景色は私も好きだから。
昔の着物でも、藍染めの生地に藍染めの糸で文様やってる方がいて。同系色の着物もすごい
素敵でかっこよくて、私もいつかそれやりたいわぁと思って、藍染めの生地はあちこちで買ってあるから、今度はそれやりたいなって思ってるんだよね。なんでもね、なんでもやってみたい。遊び。いろいろ新しいことをやるのは面白いんだよね。

アイヌ文様の着物を着ると、しゃんとするっていうか。文様の力に守られてるなぁって、私はなんかちょっと嬉しくなるんですよ。使う方にも、アイヌ文様のもってる力を、感じてもらえたら嬉しいかなと思いますけどね。

<掲載商品>
タペストリーアイヌ刺繍 チカㇻカㇻペ(9月4日発売)

<関連特集>

文:上田恵理子
写真:田ノ岡宏明

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一田憲子さんが最近買ったメイドインニッポン

一田憲子さんが“最近買った”メイドインニッポンは、「下本一歩さん作の竹のトング」でした。


ゲストプロフィール

一田憲子

OLを経て編集プロダクションに転職後フリーライターとして女性誌、単行本の執筆などを手がける。
2006年、企画から編集、執筆までを手がける「暮らしのおへそ」を、2011年「大人になったら着たい服」を(共に主婦と生活社)立ち上げる。
そのほか、「天然生活」「暮らしのまんなか」などで執筆。 全国を飛び回り取材を行っている。
「父のコートと、母の杖」(主婦と生活社)を11月上旬に発売予定。
Webサイト「外の音、内の香」を主宰。


MCプロフィール

高倉泰

中川政七商店 ディレクター。
日本各地のつくり手との商品開発・販売・プロモーションに携わる。産地支援事業 合同展示会 大日本市を担当。
古いモノや世界の民芸品が好きで、奈良町で築150年の古民家を改築し、 妻と二人の子どもと暮らす。
山形県出身。日本酒ナビゲーター認定。風呂好き。ほとけ部主催。
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番組のご感想やゲストに出演してほしい方、皆さまの暮らしの中のこだわりや想いなど、ご自由にご感想をお寄せください。
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【くらしの景色をつくる布】#5 日本草木研究所・古谷知華さん

皆さんは暮らしを飾るインテリアを、どんなふうに選んでいますか?

いわゆる賃貸のマンションに住んでいると、間取りや壁紙などの躯体はそんなに代わり映えがしません。かく言う我が家も賃貸マンション住まいです。
暮らしを飾る物を上手に取り入れることで、もっと自分らしい心地好い空間をつくっていきたい。個人的にもそう思っていた折に発売したのが、インテリアコレクション「くらしの工藝布」。使い手次第でさまざまな取り入れ方が膨らむ表情豊かな布たちは、暮らしを飾るのにぴったりのアイテムです。
この人ならどんな風に取り入れるんだろう?と気になった方にお声がけして、実際に使ってみていただきました。

今回訪ねたのは、日本草木研究所の古谷知華さん。日本の里山に眠る可食植物を蒐集し、新たな価値を見出す活動をされています。中川政七商店でも一緒に商品開発をしたご縁で、第2弾のコレクションとなる「アイヌ刺繡」について、デビュー前にひと足早く飾ってみていただきました。

中古マンションをフルリノベーションして、自分好みの住まいを作ったという古谷さんのご自宅。「土気ととろみ」を大切に作ったと話す空間は、天然素材をそのまま生かしたような素色(しろいろ)で統一されており、自然の素材に囲まれているような安心感があります。
現代的な洗練された空間でありながら、ご自身の活動とも通じる、風土へのまなざしを感じるようなご自宅でした。

「ここ2年ぐらいは、藁や竹、麻など、日本の自然の素材を使っているものに愛着を感じて、よく買ってしまうんですよね。やっぱり、生活空間に置いた時に馴染みやすいですし、親しみがある。スタイリッシュかっていうと、そういうわけではないと思うんですけど、なんかこう景観の愛くるしさがよくて取り入れています」

「今回、くらしの工藝布を取り入れてみて、自分が家に置いているものと通じる部分がすごくあるなと感じました。私は家に置くものを選ぶときの視点として、エゴがないことをわりと大事にしていて。ふと見た時に、あまり気張ってなくて、ゆったりした空気感をもつようなのものが好きなんです。

くらしの工藝布は、おしゃれで整った感じもありながら、ちょっと気の抜けた感じがある。いい意味で空間にゆとりを作ってくれるなぁと思いました。彩りは与えてくれるけど、プレッシャーがないんですよね。
暮らしになじんでくれるので、家に飾ってみて『くらしの』と入っている意味がよく分かりました」

布の重なりが奥行きを生む「タペストリー アイヌ刺繍 カパラミㇷ゚」

「カパラミㇷ゚は、最初に窓辺に飾ってみたんです。少し透け感のある布なので、そこだけ光がやわらかく差し込んで、 教会のステンドグラスのように神聖な感じになりました。
布を何枚か重ねて縫っていると思うんですけど、薄い文様のところから光が差し込んで、柄がふわっと浮かぶんですよ。それがすごく神聖な感じで、窓枠ピッタリのサイズだったらより素敵だろうなと思いました」

「壁に飾ってもすごく素敵でした。パッと見の印象は白一色なんですけど、じつはけっこう複雑ですよね。布の厚みや色が違う生地が重なっているので、光が差し込む場所に飾るとより発揮されるけど、壁に飾っても作品性がしっかり感じられました」

景色としてなじむ「捨て耳のタペストリー」

「これはアイヌ刺繍じゃなくて裂織のコレクションですが、部屋の色の統一感を大事にしているので、知らず知らずのうちに白を選んでいました。でも、白と言いつついろんな白が入っているんですよね。テクスチャーも全部違います。オンラインショップの写真だけだと分からなかったんですけど、すごく手がこんでいて見ごたえがあるなと思いました」

「でも景色として見ると白いので、なんかあるなくらいのなじみ方で、この子の部屋にならないのがいいんです。主張が強いものは、その子の部屋になってしまうので」

部屋の完成度を高めてくれる「掛け布 アイヌ文様」

「こちらも白いから部屋になじむんですけど、今回選んだ中で1番主張があるのはこれかなぁと思いました。大判で文様が全体にあるので、文様のパワーをすごく感じますよね。撮影中に一瞬ソファからなくなったのを見て、これがあるのとないのとで、部屋の完成度が変わるなっていうのを実感しました。

アイヌ文様の中でも、渦を巻いたものってポピュラーだと思うんですけど、やっぱり見ただけで魔除けになってくれるのがなんとなく伝わってくるなあって思って。部屋になじみながらも文様のパワフルさが伝わってくるところも面白いです」

「大判の布なので、最初は広げてソファに掛けてたんですけど、アイヌ文様は人の下には置けないと聞いて。それも今回初めて知ることだったので興味深かったんですけど、そうなると大きいからどう使おうか迷って…ベッドに掛けるのもいいかもしれないですね。
あと広い壁があるお家は、壁に飾るのもかっこいいと思います。うちでもじつは1回カーテンレールに吊ってみたんですよ。重さが心配で外したんですけど、大きいので間仕切りにもなるなと思いました。

使い方がこれと決まっていないので悩みどころではあるんですけど、送られてきた時にいろんな飾り方を試してみたいなって思わせてくれる布でした」

生活空間には、エゴがなくて親しみやすさのあるインテリアを

「私にとって、インテリアはやっぱりエゴがないことが大事。愛らしいけど、一つひとつ見ると丁寧に作られていて、こだわりがあって、デザインもよくて。でもなぜかこう、エゴよりもユーモアだったり、親しみやすさがあるようなものが身近にあると、心地好いんです。
そういう意味でも、くらしの工藝布は生活空間になじんでくれるなというのを、今回飾ってみて感じました」

<掲載商品>
タペストリーアイヌ刺繍 カパラミㇷ゚(9/4発売)
捨耳のタペストリー
掛け布 アイヌ文様(9/4発売)

<関連特集>

文:上田恵理子
写真:奥山晴日