二人の門出に贈る 男女の理想の違いを追求したタオル

こんにちは。ライターのいつか床子です。

たとえば1月の成人の日、5月の母の日、9月の敬老の日‥‥日本には誰かが主役になれるお祝いの日が毎月のようにあります。せっかくのお祝いに手渡すなら、きちんと気持ちの伝わるものを贈りたい。この連載では毎月ひとつの贈りものを選んで、紹介していきます。

第10回のテーマは「ブライダル」。
気候がおだやかで晴れ間も多い10月は、多くの結婚式が開かれる絶好のシーズンです。ゲストも服装を選びやすく、秋の味覚を取り入れたおいしいおもてなし料理にも心が踊りますね。

さて、今月のさんちが特集している島根県の出雲は、縁結びとゆかりの深い土地です。
全国的には神無月、出雲では神在月と呼ばれている旧暦の10月。全国の八百万 (やおよろず) の神様たちは出雲大社に集合して、男女を始めあらゆる縁結びについて話し合う「神議り (かみはかり) 」と呼ばれる大会議を開きます。

神様の世界でも、人の世界でも、10月はご縁の糸が深く結ばれる特別な時期のようですね。そこで今回の贈りものには縁結びの「糸」にちなんで、結婚祝いにぴったりのタオルを選んでみました。

男性と女性はタオルの理想も違う

今回ご紹介する「THE TOWEL」が画期的なのは、女性用と男性用の2つのバリエーションがあることです。「タオルに男性用と女性用があるってどういうこと?」と不思議に思う人も多いでしょう。

開発したのは、世の中の新たな定番を生み出すことを目指すブランド「THE」。オリジナルタオルを作るにあたって、女性と男性で必要とするタオルの質感に違いがあることに気付いたそうです。

WHAT A WONDERFUL TOWEL for LADIES!

女性用タオルの箱

女性用の「THE TOWEL for LADIES」は、肌を優しく包み込む極上の柔らかさが魅力。糸を撚 (よ) る回数を抑える「甘撚り (あまより) 」製法を使うことで、しっとりした肌触りを実現しています。

さらに、甘撚り製法の弱点である毛羽立ちやすさを防ぐため、パイル糸には特殊な「コンパクト糸」を使用。縦糸と横糸には、マカロニのように中心が空洞で吸水性・速乾性も高い「中空糸」を使い、軽量化に成功しました。

女性用タオルの質感

WHAT A WONDERFUL TOWEL for GENTLEMEN!

男性用タオルの箱

一方で、男性用に開発された「THE TOWEL for GENTLEMEN」は、ごしごし思い切り拭いて水気を取れるようにと、糸は通常の2倍の密度で織り上げられています。

女性用と同じく中空糸を使用することで軽やかな使い心地を実現しつつ、横糸の3分の1に麻 (リネン) を使ってタフさと速乾性を追求。毎日使ってもへたれず、豪快に使用できます。

見た目にも女性用との質感の違いがわかります
見た目にも女性用との質感の違いがわかります

タオルはいずれも日本最大のタオルの産地であり、世界トップの製造技術を誇る今治で製造。糸には絹のような光沢がある綿「スーピマコットン」を使っています。

実はこの糸の使用量も「理想のタオル」を実現する鍵のひとつ。バスタオルを一本の糸に撚り直すと、市販品はおよそ6キロメートル。

それに対して「THE」の女性用は10キロ、男性用はなんと17キロ。従来のタオルより、圧倒的に使われている量が多いのです。糸から考え抜かれた使い心地、というわけですね。

タオルは毎日使うもの。心地よいタオルがある暮らしは、日々をさりげなく、それでいて確実に豊かなものにしてくれるはず。新しい門出を迎える大切な二人に、お互いの違いもどうぞ楽しんで、とちょっぴりお節介なメッセージを託くして贈りたくなります。

タオルにしっかりと織り込まれた糸のように、二人のご縁が固く、末長く結ばれますように。

<取材協力>
株式会社THE
http://the-web.co.jp/products/towel-for-ladies

<掲載商品>
THE
THE TOWEL for LADIES
THE TOWEL for GENTLEMEN

文:いつか床子

ハレの日を祝うもの お月見を彩る「三方」

こんにちは。ライターのいつか床子です。

日本人は古くから、ふだんの生活を「ケ」、おまつりや伝統行事をおこなう特別な日を「ハレ」と呼んで、日常と非日常を意識してきました。晴れ晴れ、晴れ姿、晴れの舞台‥‥清々しくておめでたい節目が「ハレ」なのです。

こちらでは、そんな「ハレの日」を祝い彩る日本の工芸品や食べものなどをご紹介します。

お月見に「すすき」を供えるのは、なぜ?

10月の風物詩といえばお月見。いよいよ明日は十五夜です。澄んだ空の下で美しい月を眺めるのも楽しみのひとつですが、お月見には実りの象徴でもある月に収穫の感謝を届ける意味合いもあります。

床の間や月の見える位置に、月に見立てた丸いお団子を供えるのは定番ですね。採れたばかりの里芋を供える地域もあることから、「芋名月 (いもめいげつ) 」とも呼ばれています。

お月見だんごの写真

また、月の神様の依代 (よりしろ) としてすすきも供えられています。すすきは茎の内側が空洞になっているので、そこに神様が宿ると古くから信じられていたのです。

お月見の代名詞ともいえる「十五夜」の風習は平安時代に中国から伝わり、平安貴族が月を愛でながら宴や船遊びを楽しみました。その後、庶民のあいだにも広がるうちに、ちょうど秋の収穫期ということもあり、秋の実りを感謝する行事として定着したようです。

実は十五夜は本来、旧暦の8月15日を指しています。旧暦と新暦にはズレがあるため、現在では日付が毎年変動し、2017年の十五夜は10月4日水曜日にあたります。

十五夜の月は「中秋の名月」とも呼ばれますが、月の満ち欠けの周期の関係上、満月になる確率は低いのだとか。今年の満月は2日後の6日にやってきます。

格式と風情を添える伊勢宮忠の「三方」

月見団子は床の間か月の見える位置に供えるのが基本です。この月見団子をお供えするときにおなじみの台が 「三方 (さんぼう) 」。

三方の様子

三方は神様へのお供えを載せるための器で、三方向に穴が開いていることが名前の由来。折敷 (おしき) と呼ばれるお盆の下に土台が付いています。お正月の鏡餅や桃の節句の柏餅を供えるときにも使われていますね。

美しくくり抜かれた3つの穴

こちらの三方は、神棚・神祭具の専門店である伊勢宮忠 (みやちゅう) のもの。創業から80余年、代々の宮師 (神棚を作る職人)が伊勢神宮のお宮造りの技術を忠実に継承し、神棚や神祭具の一つひとつを手作業で作り続けています。

伊勢宮忠の三方には、木曽の山で育った天然木の中でも主に樹齢200~300年の木曽桧を使用。伊勢神宮のご用材としても用いられている非常に格式高い素材です。

柾目 (まさめ) 挽きをすることでまっすぐに入った細やかな木目が美しく、ほのかにピンクがかった色味は年月とともにゆっくりと上品な薄茶色へ変化していきます。

美しいまっすぐな木目
美しいまっすぐな木目
外からは見えないところまで、丁寧に作り込まれています
外からは見えないところまで、丁寧に作り込まれています

月見団子はお盆やお皿に載せても問題ないとされていますが、三方で飾るとより本格的なハレの日のしつらえに。小さいもので3寸(9センチメートル)からサイズがあるので、飾るスペースがあまりとれないという人でも安心です。

道具を整えて、今年は風情たっぷりのお月見を。

<取材協力>
株式会社宮忠
三重県伊勢市岡本1丁目2-38
http://www.ise-miyachu.jp/

<関連商品>
お月見うさだるま
季節の懐紙 お月見うさぎ

文:いつか床子

【はたらくをはなそう】中川政七商店店長 赤瀬司

赤瀬 司
(中川政七商店 マークイズみなとみらい店 店長)

2013年入社
大日本市伊勢丹新宿店、中川政七商店東京本店を経て、
2016年中川政七商店コレド室町店店長、2017年4月より現職。

この会社に入社するまでにも、いくつか販売の仕事をしてきました。
そこでは単に店舗に届いた商品を管理、陳列、販売、補充するということを深い考えなどなく、マニュアル通り、完全に個人の問題として
黙々とこなしていたと思います。

中川政七商店ではたらき始め、180度自分のスタンスが変りました。
自分ではなく、他者のことをまず考えられるようになったからです。

店舗での販売を後方支援してくれる本社の方々、販売する商品全てを適切に維持・管理し、各店舗の希望通りに送り出すなどの倉庫業務を担う方々、そして「日本の工芸を元気にする!」の旗の下に集ってくれた全国の、世界に誇るものづくりをされている各メーカーの方々。

中川政七商店に入社して驚いたことですが、これらの方々との距離が本当に近いのです。
この人たちのために!と思わせてくれる方々が多いです。

そして店長として店舗にいる以上、最重要と考えていることが店舗スタッフのコンディションです。

お客様にとって中川政七商店との直接の出会いは全国にある各直営店です。
そこを担うスタッフが心身ともに充実し、気持ちよくいてくれる店舗作りを何よりも心掛けています。

私もそうですし、はたらく上で全スタッフにも望み求めることですが、
常に精神的余裕をもつこと。

余裕が生まれないように追い込むような指示を私は絶対にしません。
自分がいる店舗が売上だけではなく、各スタッフのスキル、店舗の雰囲気なども良く評価され、自分のやり方は間違ってはいないと自分自身で強く感じられるようになりました。

やる気も実力も積極性も個性もある方々が多い中川政七商店の中では、
私は最も普通で、消極的で、全然前には出たがらない人間ですが、そんな私に今回のこのようなお話がいただけるとは本当に凄い会社だなと思います(笑)。

愛しの純喫茶〜福井編〜 喫茶 迦毘羅 (かびら)

こんにちは。ライターのいつか床子です。
旅の途中でちょっと一息つきたい時、みなさんはどこに行きますか? 私が選ぶのは、老舗の喫茶店。お店の中だけ時間が止まったようなレトロな店内に、煙草がもくもく。懐かしのメニューと味のある店主が迎えてくれる純喫茶は密かな旅の楽しみです。

旅の途中で訪れた、思わず愛おしくなってしまう純喫茶を紹介する「愛しの純喫茶」。今回は、昭和36年から56年続いている「迦毘羅 (かびら) 」です。

名物カレーの意外な誕生秘話

福井駅西口から歩いて10分ほど、歓楽街「片町」にほど近い路地に「迦毘羅」はあります。戦前から軒を連ねていて、このあたりで残っているのは迦毘羅さんと裏手の福井銀行だけ。
しかし福井銀行は来年から建替工事が始まり、迦毘羅も来年の1月〜2月には近所への移転が決定。ここは市内に残された数少ない昭和の1ピースといえます。

こじんまりとした外観。隣には煙草屋さんがあり、店内でつながっています

店はレトロというより、都心の洗練されたバーのような印象。お話を伺ってみると、夜にはマスターの娘さんがママを務めるスナック「night迦毘羅」に切り替わり、昼とはまた違った顔を覗かせるそうです。

インテリアは統一され、とてもおしゃれな雰囲気
このレンガ塀、現在の建築法ではもう設計できないそうです
常連さんからのプレゼントが、あちこちで大切に飾られています

この店の看板メニューはカレーライス。

「迦毘羅」という店名はお釈迦の生まれた場所にちなんでいて、お釈迦様は「カレー」の名付け親だという説もあるのだと、おしゃべり好きのマスターがにこにこと教えてくれました。

マスターはとってもお茶目。紙ナプキンでスプーンを包む方法も実演してくれました

とはいえ、マスターは初めからカレーライスを売りにするつもりではなく、飲食店の定番メニューである「蕎麦」と「ラーメン」と「カレー」のどれかをメインにしようと考えていたそうです。しかし、福井県は蕎麦の本場なので競争率が高そう。ではラーメンはというと、

「ちょうどその年にインスタントラーメンが発売されてねえ。みんな食べてて、こりゃ敵わんと思って。『ならカレーや!』ってなもんでね」

そんな時代ならではの理由もあって、上阪したマスターは難波のカレー屋を隅から隅まで食べ歩きます。そのなかでも特においしいと感じた店で「給料も寝るところもいりませんから、まかないだけ食べさせてください!」と頼み込み、弟子になることに成功しました。

お客さんの対応からスパイスの調合から、1から全て学んだというマスター。「そのときのコック長がよかったんやね。おかげ様でいい店に飛び込めて。もうその店はないんやけどね」と当時を懐かしそうに振り返ります。

そんな下積みを経て出来上がった伝統ある迦毘羅のカレーは、県内外から熱烈なファンが訪れるほど大人気。黒っぽいルーはたんに辛いわけではなく、さまざまなスパイスが絡み合った奥深い味わいです。

訪問時には必ず食べたい「カビラカレー」のコーヒーセット (1100円・税込) 。スープも付いています

相棒のコーヒーミルで淹れる丁寧な一杯

また、「これ見てみる?」と言って店頭のショーケースを開けていそいそと見せてくれたのが、毎朝コーヒーを挽いているミル。大阪で購入してそのまま56年、一度も壊れることなくマスターと年を重ねてきた、相棒のような存在です。

染み込んだコーヒーの香りに、降り積もった時間を感じます

コーヒーは手間暇をかけて丁寧に淹れるネルドリップ形式。紙ではなく布 (ネル) のフィルターを使うことでより細かい泡が立ち、なめらかな口当たりになります。

「ネルドリップは蒸らしの技術によって香りもコクも色の具合も変わるんだよ。ここのはやっぱり違うね」と気さくに声をかけてくれたのは、隣のカウンターに座っていた常連さんでした。

コクのあるコーヒーを飲みながら、マスターと常連さんとのんびりおしゃべり。福井の歴史からマスターの健康方法まで心地良く聞き入っているうちに、もう何年もこの店に通ってきたような親しみを感じていました。

いや実際、通いたい‥‥!

「また来ます、絶対来ますからね!」と (一方的に) 強く約束して、泣く泣く店を後にしました。

喫茶 迦毘羅
福井県福井市順化1-1-14
TEL:0776-24-3885
営業時間:9:00〜24:00
※20:00からは「night迦毘羅」としてスナック営業
定休日:日曜日・祝日
駐車場:なし

文・写真 : いつか床子

繊細な心理描写や、驚きのからくり。人々の心を掴む「浄瑠璃人形」

こんにちは。ライターの小俣荘子です。

みなさんは古典芸能に触れたことはありますか?

独特の世界観、美しい装束、和楽器の音色など、なにやら日本の魅力的な要素がたくさん詰まっていることはなんとなく知りつつも、観に行くきっかけがなかったり、そもそも難しそう‥‥なんてイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。

気になるけれどハードルが高い、でもせっかく日本にいるのならその楽しみ方を知りたい!そんな悩ましき古典芸能の入り口として、「古典芸能入門」を企画しました。

そっとその世界を覗いてみて、楽しみ方や魅力を見つけてお届けします。

気軽に楽しめる庶民のエンターテイメント

今回は、人形浄瑠璃で使われる「浄瑠璃人形」の世界へ。

人形浄瑠璃は、人形と、太夫 (独特の節回しで物語の展開やセリフを表現する語り手) 、三味線の3つの技芸が結びついた芸能です。

江戸時代に、歌舞伎と並び一世を風靡したエンターテイメントでした。デートで訪れたり、好きな演目に足しげく通ったりと、気軽に楽しめる娯楽。感覚としては、現代の映画のような位置づけと言えるかもしれません (歌舞伎は「実写映画」、人形浄瑠璃は「アニメ映画」といったところでしょうか) 。

当時話題になったニュースやスキャンダルが題材となった演目や時代劇、切ない恋物語などが描かれ、多くの人々の心を掴みました。

現存するものとしては、大阪の国立文楽劇場や東京の国立劇場を中心に上演される「文楽」が有名ですが、全国各地に様々な人形浄瑠璃が残されています。

※「文楽」について詳しくは「古典芸能入門 『文楽』の世界を覗いてみる」もあわせてどうぞ。

人形浄瑠璃のルーツをたどる

江戸時代に盛り上がりを見せた人形浄瑠璃ですが、そのルーツは兵庫県の淡路島 (あわじしま) にあります。現代にその伝統を伝える「淡路人形座」を訪れました。

ミシュラン・グリーンガイドで2016年に二つ星を獲得し、海外からも注目される「淡路人形座」。建物は2012年に遠藤秀平 (えんどう・しゅうへい) 氏が設計。潮風で壁を少しずつ錆びさせていき、これから数十年かけて完成するデザインなのだそう
ミシュラン・グリーンガイドで2016年に二つ星を獲得し、海外からも注目される「淡路人形座」。建物は2012年に遠藤秀平 (えんどう・しゅうへい) 氏が設計。潮風で壁を少しずつ錆びさせていき、これから数十年かけて完成するデザインなのだそう
劇場の壁には淡路島特産の瓦を使用。昭和時代のいぶし瓦は一つひとつ異なる風合です
劇場の壁には淡路島特産の瓦を使用。昭和時代のいぶし瓦は一つひとつ異なる風合です

淡路人形芝居の由来は諸説ありますが、鎌倉時代、淡路島に大阪四天王寺より舞楽など神事を生業とする楽人が移り住み、戎神社の芸能と結びついて神事を人形操りで行うようになったと考えられています。

漁の安全と恵みを祈るものとして、また、家、土地、船を守り、神を讃える神聖な季節の行事として定着しました。昭和中期までは、門付けで家々を祝いの人形が回って神棚の前で幸せを祈っていたそうです。

現在、国指定重要無形民俗文化財にも指定されている「淡路人形浄瑠璃」は、郷土芸能であると同時に、日本の演劇史で大きな役割を果たしてきたといいます。最盛期の18世紀はじめには、淡路にあった40以上の人形座が、競うようにして東北から九州まで全国を巡業し、各地に人形浄瑠璃を根付かせました。

大阪で現在の「文楽」の元となる芝居小屋の旗揚げをした、「文楽の始祖」と呼ばれる植村文楽軒 (うえむら・ぶんらくけん) も淡路の出身です。

時代物 (時代劇) を得意とし、人形や舞台に施されたからくりや派手な演技など、ケレン味に富んだ演出で、わかりやすく親しめる芝居が広く愛されました。大きな人形を遣い、男性だけでなく女性も活躍する舞台はとても華やかです。

女性の太夫、三味線奏者、人形遣いも活躍する。人間国宝の鶴澤友路氏 (義太夫節三味線)や竹本駒之助氏 (義太夫節浄瑠璃) も淡路出身です
女性の太夫、三味線奏者、人形遣い。故鶴澤友路氏 (義太夫節三味線)や竹本駒之助氏 (義太夫節浄瑠璃) など、人間国宝として認められ地元のみならず全国でも活躍する方々も淡路の方です

淡路人形座では、1日4回の公演の他、人形や資料の展示、人形の操り方のレクチャー、大道具返し (背景が次々と変わるからくり) を鑑賞できます。この日は、戎さまが舞って福を授けてくれる「戎舞」と、恋人の命を救うために雪の夜に必死で火の見櫓 (ひのみやぐら) に登る女性を描いた「伊達娘恋緋鹿子 (だてむすめこいのひがのこ) 火の見櫓の段」が上演され、神事としての演目とエンターテイメントとしての演目の両方を鑑賞することができました。

 「戎舞 (えびすまい) 」。「えべっさん」の愛称で親しまれる戎信仰は淡路島で根強く、戎さまの神慮を慰めるために淡路人形が生まれたという伝承も残っています
「戎舞 (えびすまい) 」。「えべっさん」の愛称で親しまれる戎信仰は淡路島で根強く、戎さまの神慮を慰めるために淡路人形が生まれたという伝承も残っています
「伊達娘恋緋鹿子 火の見櫓の段」主人公のお七が雪の寒さに耐え、必死で梯子を登るいじらしい様子が描かれます
「伊達娘恋緋鹿子 火の見櫓の段」主人公のお七が雪の寒さに耐え、必死で梯子を登るいじらしい様子が描かれます

人形に命を吹き込む

もともとは小さな人形を1人で操っていましたが、1700年代前半に3人で操る「3人遣い」が考案されました。これにより、細やかで美しい動きがさらに表現できるようになりました。一方で、3人が息を合わせて人形を遣うことは非常に難しく、一人前の人形遣いになるには「足八年、左八年、かしら一生」と言われます。人形遣いの吉田廣の助 (よしだ・ひろのすけ) さんにお話を伺いました。

戎さまで人形の操り方をレクチャーする吉田廣の助さん
戎さまで人形の操り方をレクチャーする吉田廣の助さん

「淡路人形は、文楽の人形などと比べると一回り大きく、表現する際も大きくダイナミックな動きが求められます。そのため肉体的にもハードです。その中で、繊細な心の動きや、時代物での勇壮な様子をどう表現するか日々試行錯誤しています。

キャラクターを表現するために、まずは心情を理解することが大切です。泣く、笑うなど同じ感情でも、状況や人によって異なりますよね。『こんな時、人はどんなふうかな』ということを、日々いろんな人を眺めながら考えて、演技に取り入れています」

人形遣いの仕事は、人形を組み上げ衣装を着付けるところから。キャラクターの色付けを行い、操る技術と表現力で人形に命を吹き込むのです。

衣装を着せる前の人形。この上から役に応じた衣装を着せます。人形遣いは裁縫もこなします
衣装を着せる前の人形。この上から役に応じた衣装を着せます。人形遣いは裁縫もこなします

細かい動きを指先で操作!人形に仕掛けられたからくり

人形遣いの方々は実際どのように操っているのでしょうか。普段は衣装の中で行われている操作を目の前で詳しく見せていただきました。

まずは、頭部の仕組みから。 人形浄瑠璃では、人形の頭部を「かしら」と呼びます。

かしらを分解した模型。顔が彫りあがったところで耳の根元から2つに割り、中をくりぬいて仕掛けが作られています
かしらを分解した模型。顔が彫りあがったところで耳の根元から2つに割り、中をくりぬいて仕掛けが作られています
かしらと持ち手は傾いた角度で繋がっていて、人が握った時に人形の顔が正面を向くようになっている。ヘアスタイルなども人形遣いがセットする
かしらと心串 (しんぐし=持ち手) は傾いた角度で繋がっていて、心串を握った時に人形の顔が正面を向くようになっています。ヘアスタイルなども人形遣いがセットするそう

登場したこちらのかしらは、明治時代に作られ120年以上使われ続けている貴重なもの。今なお現役で使われていることに、代々大切に扱われてきた様子が伺えます。

かしらの中のからくりを操作するしかけ。かしらの中のからくりを操作するしかけ。糸を引くと眉・目玉・口などが動きます
かしらの中のからくりを操作するしかけ。糸を引くと眉・目・口などが動きます
「ガブ」と呼ばれるかしら。美しい女性が一瞬にして鬼に変身するからくりが仕込まれています。ヒーッ!夢に出てきそうな恐ろしさです‥‥
「ガブ」と呼ばれるかしら。美しい女性が一瞬にして鬼に変身するからくりが仕込まれています。ヒーッ!夢に出てきそうな恐ろしさです‥‥
3つの仕掛けの紐が1つにまとまめて親指で引けるようになっている「ガブ」では、3つの仕掛けの糸が1つにまとまめられています。指一本で引けるのでツノと玉と口を一瞬にして変えられるのですね
「ガブ」では、3つの仕掛けの糸が1つにまとまめられています。指一本で引けるのでツノと目玉と口を一瞬にして変えられるのですね

「基本の操作は決まっているのですが、指使いや組み合わせ方は人形遣いによって様々です。衣装の下でのことなので、自分で扱いやすく、より豊かな表現になるようにそれぞれがオリジナルの技を持っていたりするんですよ」と廣の助さん。操る様子を動画で撮らせていただきましたので、ぜひこちらをご覧ください!

息を合わせた「三位一体」の動き

人形浄瑠璃は、人形と太夫と三味線からなる「三位一体の芸能」といわれますが、人形遣いも「主遣い (おもづかい=かしらと右手を操る) 」「左遣い (左手を操る) 」「足遣い (両足を操る)」の三位一体の動きが求められます。

動画の後半にも登場したように、主遣いが司令塔となって3人が息を合わせて人形を動かします。主遣いが出す合図を「ズ」と呼びますが、例えば、主遣いが足を出す向きで進行方向が決まったり、左肩を動かすことが、左遣いが左手を動かすサインとなっていたりするそうです。

三人で人形を操る様子
三人で人形を操る様子
足は衣装の中に腕を入れて動かして表現されます
足は衣装の中に腕を入れて動かして表現されます
膝を折って座っているように見えますね
膝を折って座っているように見えますね

手の扱いも見せていただきました。舞台上で人形は様々な小道具を手にするのですが、実際に握っているのは人形遣い。しかし、観客からは人形が自分で道具を持っているように映ります。それにはこんな秘密がありました。

手の下に輪が付いています。ここに指を通して人形と人形遣いの手を一体化させます
手の下に輪が付いています。ここに指を通して人形と人形遣いの手を一体化させます
そして人形の手の後ろで小道具を持ちます
そして人形の手の後ろで小道具を持ちます
客席から見るとこの通り!うまく手を隠しながら人形が扇を持っているように見せます
客席から見るとこの通り!うまく手を隠しながら人形が扇を持っているように見せます

淡路人形座では、定期公演の他、国内外での出張公演や学校などでの公演や講座などの普及活動も積極的です。

「古い歴史のある芸能ですが、難しいことはありません。現代には現代の楽しみ方があります。見ていただいて、何か面白かったと感じてもらえることあればと思って日々行なっています。特に子どもたちに伝えたい。公演を見た子どもたちから『人形が生きているように見える、人間のようで怖い』と言われた時は心の中でガッツポーズです」と廣の助さん。

間近で人形が見られたり、舞台との距離が近い淡路人形浄瑠璃。公演を見ていると、登場人物の心情に共感したり、笑ったり、昔の人々と同じように楽しでいる自分に気がつきます。人の心って今も昔も変わらないんだなぁ、そんな体験をする時間にもなりました。

ストーリーを楽しむもよし、人間のように見える人形の様子や、からくりを楽しむもよし。まずは気軽な気持ちで一度体験してみてはいかがでしょうか。

◆東京での公演情報
「淡路人形座-受け継がれる500年の歴史ー」
場所:渋谷区文化総合センター 大和田伝承ホール
日時:2017年11月25日(土) 14:00〜(13:30開場)
詳細:http://awajiningyoza.com/schedule/

淡路人形座東京公演ポスター

<取材協力>
淡路人形座
兵庫県南あわじ市福良甲1528-1地先

文・写真:小俣荘子 (公演写真提供:淡路人形座)