愛しの純喫茶〜富山編〜 珈琲駅 ブルートレイン

こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。

旅の途中でちょっと一息つきたい時、みなさんはどこに行きますか?私が選ぶのは、どんな地方にも必ずある老舗の喫茶店。お店の中だけ時間が止まったようなレトロな店内に、煙草がもくもく。懐かしのメニューと味のある店主が迎えてくれる純喫茶は密かな旅の楽しみです。

旅の途中で訪れた、思わず愛おしくなってしまう純喫茶を紹介する「愛しの純喫茶」。今回は、電車好きもカフェ好きも虜にする富山の名店「珈琲駅 ブルートレイン」です。

ここは喫茶店?それとも食堂車?

JR富山駅から市民の足・富山市電鉄に乗り換えて「安野屋 (やすのや) 」駅で下車。5分ほど歩いた先に見えてくるちょっと変わった看板が、今日訪ねるお店の目印です。

ひときわ目をひく表看板

深い青色にパキッとした黄色で書かれた「ブルートレイン」。今や日本で運行本数も少なくなった寝台列車の愛称を掲げるそのお店は、全国から人が訪ねてくるという、鉄道ファン垂涎の喫茶店です。

外観

ワクワクしながら扉を開けると、そこはまるで寝台特急の食堂車。

寝台特急の食堂車を思わせる店内
ボックス席に座ると‥‥

クラシックな布張りのボックス席に座ると、その「車窓」に思わず歓声をあげてしまいました。

「車窓」の外を小さな列車が走り抜けていきます
「車窓」の外を小さな列車が走り抜けていきます

ジオラマ模型の景色の中を、時折走り過ぎて行くミニ列車。運ばれてきたコーヒーに口をつけながら、ただただ見入ってしまいます。

店内はまさに宝の山!ミニ列車には「運行表」も。

店内をぐるりと一周して走る列車は、物静かなマスターの待つカウンターの「車庫」に帰っていきます。ふとみれば食器棚の上にも列車がずらり。お店の全てが、列車を愛で、その旅情を味わうために考えて設計されているのです。

列車はご主人の待つカウンターへ
列車はご主人の待つカウンターへ
「車庫」と一緒になった食器棚
「車庫」と一緒になった食器棚

奥さまに伺うと、走らせる列車は定期的に入れ替えているのだとか。

カウンターの上に掲げられた運行表
カウンターの上に掲げられた運行表

「簡単に走らせているように見えるけれど、走らせる前には試運転も必ずしているんです。実際の列車と同じね」

手作りの列車模型は完成まで3ヶ月を要するそうです。そこから試運転をして問題なければ、晴れてお客さんの前で運行デビュー。

先ほど乗ってきた市電の模型も
先ほど乗ってきた市電の模型も

圧巻の列車模型だけでなく、店内のあちこちに見られる列車モチーフも楽しみどころの一つ。

コーヒーカップには列車とともにデザインされたお店のロゴが
コーヒーカップには列車とともにデザインされたお店のロゴが
壁のメニュー表の上には実際に使われていた列車のプレート
壁のメニュー表の上には実際に使われていた列車のプレート
メニューは時刻表のようになっています!
メニューは時刻表のようになっています!

そしてこの日、何より心を鷲掴みにされたのが、お店のことをいろいろと教えてくださった奥さまのエプロン。

奥さまのエプロンの胸もとに注目すると‥‥
奥さまのエプロンの胸もとに注目すると‥‥
エプロンの胸もとアップ

特急踊り子号のワッペンが胸を飾っています!

「昔はこういう記念品がたくさんあってね。せっかくだから飾りにしてみたの」

見る人が見たら宝の山、鉄道ファンでなくても時間を忘れて楽しめる、まさに寝台特急のような非日常を楽しんだひと時でした。

珈琲駅 ブルートレイン
富山県富山市鹿島町1-9-8
076-423-3566


文・写真:尾島可奈子

デザインのゼロ地点 第9回:スウェット

こんにちは。THEの米津雄介と申します。

THE(ザ)は、ものづくりの会社です。漆のお椀から電動自転車まで、あらゆる分野の商品をそのジャンルの専業メーカーと共同開発しています。

例えば、THE ジーンズといえば多くの人がLevi’s 501を連想するはずです。「THE〇〇=これぞ〇〇」といった、そのジャンルのど真ん中に位置する製品を探求しています。

ここでいう「ど真ん中」とは、様々なデザインの製品があるなかで、それらを選ぶときに基準となるべきものです。それがあることで他の製品も進化していくようなゼロ地点から、本来在るべきスタンダードはどこなのか?を考えています。

連載企画「デザインのゼロ地点」、9回目のお題は、「スウェット」。

スウェットと聞いて、多くの人はトレーナーやパーカーを思い浮かべるのではないでしょうか。スウェットは生地の名称なので、正しくはスウェットシャツやスウェットパーカーと呼ぶようですが、今回はその生地と製品について、ゼロ地点を探ってみたいと思います。

そもそもスウェット生地ってどんなもの?

生地メーカーに確認して調べてみると「大きな特徴は、生地が二層構造になっていること。外側はジャージーで、内側にはタオルのようなパイル織りの生地を組み合わせたもの」という答えをいただきました。

つまり、ジャージーの伸縮性と、タオルの吸汗性、そしてそれらを組み合わせた生地の厚みによって生まれる防寒性などが特徴といえるようです。

材質は綿100パーセントで構成されたものから、吸汗性だけでなく速乾性を考慮したポリエステル混紡のもの(ポリエステル65パーセント、綿35パーセントが多い)、繊維にポリウレタンを1~2パーセント程度混紡して伸縮性をより向上させたものなど様々な種類があります。

スウェット生地のアップ

説明を聞いているとなんだかすごそうです。

 

内側のパイル織りの話は「なんとなくタオルのような感じになっていたなぁ」と想像ができたのですが、ジャージーとの二層構造での組み合わせ、という部分が話だけではいまいち理解できず、そもそものジャージー素材について調べてみることに。そして、手元にあるスウェット生地を分解してみました。

ジャージーとはニット (編み物) の一種で、ジャージー編みと呼ばれるもの。1本または数本の糸を輪の形にしたループの中に次のループを通すことを繰り返し、布状に編む編み方です。

実は日本には編むという伝統はあまりなく、輸入された時期も遅いそうです。17世紀後半 (1673年–1704年頃) に、スペインやポルトガルから靴下などの形で編地がもたらされました。

その際にスペイン語やポルトガル語で「靴下」を意味する「メディアス」 (medias) や「メイアシュ」 (meias) から、なまって変わった「メリヤス」が、日本では編み物全般を指すようになったとのこと。

そのため、製造の現場ではジャージーではなくメリヤスと呼ばれることも多いそうです。

ジャージー及びメリヤスの編み目の構造

これを手作業ではなく機械で1本の糸から作るというだけでも驚きですが、スウェット生地はさらにこれの裏側にタオルのようなパイル織りが組み合わさっているというのです。

細かく見てみるために、スウェット生地の裏側のパイルをピンセットで引っ張ってみると、構造がわかりやすく見えてきました。

ジャージーの裏側から細いグレーの糸でパイル用の白い糸を等間隔に留めているのが見えます。この細い糸がしっかり留まっているから、表地のジャージーが伸縮してもパイルの長さがずれたりしないのでしょう。驚きです。

いつも当たり前に着ている生地ですが、実はものすごい技術が隠されていることを知りました。

スウェットの歴史に欠かせない、世界的なメーカー

そのスウェット生地の歴史を語る上で欠かせないのは、アメリカのニッティングメーカーであったラッセル。

ラッセルは1902年、アラバマ州アレキサンダー・シティに「ラッセル・マニュファクチャリング・カンパニー」としてベンジャミン・ラッセル氏によって設立されたメーカーです。

このラッセル社が、1920年代にウールで作られていたフットボール用のシャツをコットン素材に改良し、着心地の改善を図ったことがスウェットの原点であると言われています。

当時のラッセル社。手前がベンジャミン・ラッセル氏

その後、1930年代から生地へのプリント技術を背景にハイスクールやカレッジのスポーツユニフォームとして定着していきます。過去にはNFL (ナショナルフットボールリーグ) 全28チームのほとんどにユニフォームや練習着を提供していたり、全米メジャーリーグのオフィシャルサプライヤーにもなっています (1992〜2004) 。

russell athletic crewneck sweatshirt

ラッセルは1940~60年代のスウェット隆盛期には吊り編み機と呼ばれる機械で作られていました。吊り編み機は給糸口と呼ばれる糸の供給口が1~2セットしかなく、1台の機械で1時間に1メートルしか編むことができない非効率な機械でした。

しかし、高度経済成長を迎えるともにシンカー編み機という名の次世代の編み機が普及します。シンカー編み機は給糸口が24セット、つまり単純計算で最大24倍の生産効率があります。1時間に24メートルもの長さを編むことができるのです。

吊り編み機 写真:カネキチ工業株式会社
シンカー編み機 写真:カネキチ工業株式会社

生産効率も一段と上がり、スウェットは世界中に普及します。日本でも数回にわたってブームと言われるような時代がありました。現在ではファストファッションからハイブランドまで、数多くのメーカーやブランドから発売されるベーシックアイテムになっています。

お手頃価格でベーシックな形状というイメージのある無印良品。フードの平紐や、少し暗めのジッパーの色など、一見ベーシックに見えながら無印良品っぽさがある気がします

愛される理由は、人の温もりを想起させる生地

1920~30年代にかけて生まれ、100年近くも世界中の人々から愛されているスウェット。なぜこんなにも長い期間、人々に愛されるのでしょうか?

精巧に並んだ編み目のパターンや、生地自体の肌触りの良さ、そしてどこか人の温もりのようなものを感じさせるディティールに、その答えがあるような気がします。それらの要素が人々を魅了してきたのだと仮定すると、やっぱりスウェットのデザインを考えた時、真っ先にフォーカスしたいのは生地ではないでしょうか。

実は、前述の高度経済成長期に世の中から消えてしまった吊り編み機には、糸や生地に負担をかけずにゆったりと織り込んでいくことで、柔かく耐久性がある生地を作れるメリットがありました。

1940~60年代に作られたスウェットは、今ではヴィンテージとして愛され、50年以上前の製品が古着としてセカンドサイクルされていることが、吊り編み生地の耐久性や品質の良さを物語っています。

そんな吊り編み生地での代表格といえばループウィラー。日本発のスウェット生地専門ブランドで、吊り編みの生地を用いた数多くのアイテムを手掛けています。

ナイキを筆頭に、様々なブランドとのコラボ商品も豊富で、世界中で人気を博します。特徴的なロゴやネームの取り付け方法は好みの分かれるところですが、良質なスタンダードとしての筆頭ではないでしょうか。

吊り編みの生地は、1台の機械で1時間に1メートルしか編めないという生産効率による供給不足がネックですが、肌触りはもちろん、洗濯を繰り返してもその良質な状態が続く耐久性は目を見張るものがあります。

僕たちTHEも、吊り編み生地の可能性の探求を基軸に、新しいシリーズを作りました。

現在、日本の和歌山県に数百台しか残っていないこの生産設備を残していくことと同時に、それが発展していくことで、良質な製品が当たり前になること。

そして、吊り編みの生地がデザインのゼロ地点としてスウェットを語る基準値になること。

そんなことが実現できたら、という思いで作ったのが「THE SWEAT」シリーズです。

THE Sweat Zip up Hoodie (GRAY)
THE Sweat Crew neck Pullover (NAVY)

THE Sweat Crew neck PulloverとTHE Sweat Zip up Hoodieの吊り編み生地はアメリカンピマコットンを用い、その生地をつくる糸も特製です。素材を無理に引っ張らずに自然な状態を保つことで、柔軟性を持たせた糸を使っています。やや専門的に言うと、紡績段階で撚糸による斜行を極力なくすようにしたのです。

縫製とパターンの研究は、創業60年のカットソーメーカー、丸和繊維工業株式会社。肌着から事業をスタートし、身体の動きや姿勢に合わせた独自のパターン研究と縫製技術が評価され、2010年には同社の製品が宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の宇宙船内被服にも選定されています。

その独自研究に基づいた衣服設計と縫製技術を応用し、見た目はベーシックな形状でありながら、動いても着崩れが起きない最高の着心地を目指しました。

普遍的な形状に、いつまでも風合いの変わらない生地。そこに少しだけ機能が進化したTHEらしいプルオーバーとパーカーが完成しました。

2017年10月7日からTHE SHOP TOKYO (KITTE) とTHE SHOP KYOTO (藤井大丸) の店頭にて先行発売をしていますので、ぜひ触ってみていただけたら嬉しいです。
http://the-web.co.jp/

デザインのゼロ地点・「スウェット」編、いかがでしたでしょうか?

次回もまた身近な製品を題材にゼロ地点を探ってみたいと思います。それではまた来月、よろしくお願い致します。

<写真提供>
FTLジャパン株式会社
カネキチ工業株式会社
(掲載順)

米津雄介
プロダクトマネージャー / 経営者
THE株式会社 代表取締役
http://the-web.co.jp
大学卒業後、プラス株式会社にて文房具の商品開発とマーケティングに従事。
2012年にプロダクトマネージャーとしてTHEに参画し、全国のメーカーを回りながら、商品開発・流通施策・生産管理・品質管理などプロダクトマネジメント全般と事業計画を担当。
2015年3月に代表取締役社長に就任。共著に「デザインの誤解」(祥伝社)。


文:米津雄介

ものづくりの熱気に触れる、「燕三条 工場の祭典」へ出かけてみよう!

こんにちは。ライターの丸山智子です。

10月5日 (木) から8日 (日) の4日間、日本を代表する金物産地のひとつ、新潟県燕三条とその周辺地域で、「燕三条 工場の祭典」が開催されています!

普段は目にすることのない町工場の中を見学したり、現役の職人たちに教わりながら、さまざまな体験ができるイベントです。

見学できるのは、金属製品の「工場」 だけでなく、農業に取り組む「耕場」 、土地らしい産品を購入できる「購場」の3つのKOUBA。開催5年目の今年は、過去最多の103箇所のKOUBAが参加しています。

工場見学はもちろんのこと、それぞれのKOUBAならではのワークショップも楽しみのひとつ。そこで今回は、ワークショップを体験できる4箇所のKOUBAをメインに巡ってみました。

KOUBAめぐりのおともには「さんちの手帖」を忘れずに

「燕三条 工場の祭典」では、「さんち~工芸と探訪~」のスマートフォン用アプリ「さんちの手帖」が公式アプリとして採用されています。

各KOUBAの見学・体験情報に加えて、地図からKOUBAを探せる機能も搭載。さらにスマートフォンの位置情報をONにしておくと、103箇所全てのKOUBAにある「旅印 (たびいん) 」を取得することができます。たくさん集めると、どうやら良いことがあるようです。

イベントの合言葉は、「開け!KOUBA」。さぁ、KOUBAのまちへ出かけましょう!

【耕場】切り口から水が滴る!新鮮なアスパラガスの収穫体験

1軒目のKOUBAは燕市の「宮路農場」。コシヒカリの他、アスパラガスやトウモロコシ、ブロッコリーなどの野菜を栽培している“耕場”です。

ここで体験できるワークショップはアスパラガスの収穫体験。早速畑にお邪魔します。

宮路農場のオーナー・宮路敏幸さん

宮路さんから最初に手渡されたのは収穫用のはさみ‥‥ではなくなんとプリン。宮路農場で収穫したトウモロコシを加工したもので、卵とトウモロコシの風味が口いっぱいに広がって、本当に美味しい!

「流行の濃厚なプリンに対抗して、真逆のあっさりした味わいにしました(笑)」 と宮地さん

美味しくいただきながら、宮路農場で育てている作物の紹介や生産方法などを教えてもらいました。今年でアスパラガスを育てて4年目だそうですが、まだまだ試行錯誤を重ねているとのこと。

それでは専用の収穫バサミを借りて、いざ、広大なアスパラガス畑の中へ!

人の背丈ほどもあるアスパラガス畑。収穫は森へ分け入るようです!

葉が生い茂る畑の中から収穫できるサイズに育ったアスパラガスを探すのは、まるで宝探しのよう。はさみを入れると意外と力を入れずにサクッと収穫することができます。どんどん夢中になってしまい、さらに奥へ、奥へと進みます。

切るときはなるべく根元の方から。専用のハサミには収穫できるアスパラガスの長さの目安(28cm)になる棒が付いています
採れた!収穫中に落ちてくる葉っぱよけのパーカーが黄緑色だったので、期せずしてアスパラと一体化してました

この収穫体験で感動したのが、アスパラガスの切り口から滴る水滴!
新鮮な証拠であり、「こんなにみずみずしいんだ!」と実際に自分で収穫してみないと知ることができなかった発見でした。

切った先からぽたぽたっと水滴が落ちていきます。当日持ち帰っていただいたら、とってもジューシーでした

宮地さんが育てている新種の枝豆「越の秋姫」もお土産でいただき、燕の大地の恵みに感謝しつつ次のKOUBAへ向かいます。

収穫体験では、10~20本ほどを収穫することができます。アスパラガスは油と相性がいいので素揚げや天ぷら、唐揚げなどがオススメだそうです

そしてアプリでも、1箇所目の旅印を取得することができました!

位置情報をONにしておくと、近くにあるKOUBA情報の通知が届きます。通知から旅印画面を開くと‥‥
初めての旅印を取得することができました!通知を逃した方は、「訪問した見どころ」メニューからも旅印が取得できます

【購場】燕伝統の「鎚起」の技でオリジナルのしおり作り

宮路農場さんから車を走らせること約10分、2軒目は同じ燕市内の“購場”「MGNET (マグネット) 」へ。

こちらは隣接する「武田金型製作所」の子会社で、チタンや真鍮など5種類の素材を使った名刺入れなどを製造・販売されています。

さらにオープンファクトリー型施設「FACTORY FRONT presented by MGNET」も運営されており、MGNETに来るだけで燕三条の魅力的な製品に触れて実際に購入することができます。

「FACTORY FRONT」の「フロント」は、ホテルのフロントに由来。燕三条地区のフロントマンを目指して、商品や情報を発信されています

 

名刺入れは、チタン、真鍮、マグネシウム、ステンレス、アルミの5種類。同じ金型でも素材の特性が異なるため、熟練の職人技が込められています

こちらで体験できるワークショップは、「スプーンづくり」と「銅板しおりづくり」。私は「銅板しおり作り」に挑戦することにしました。

MGNETの拠点・燕市には、1枚の銅板を鎚 (つち) で打ち延ばしたり絞ったりして製品を生み出す、伝統工芸「鎚起銅器 (ついきどうき) 」の技術が受け継がれています。

「銅板しおり作り」では、たった1枚の板からカップややかんなど複雑な形を生み出せる「鎚起」の技術を、実際に体験することができます。

MGNETの社長であり今年の「燕三条 工場の祭典」実行委員長である武田修美さんがちょうどお店にいらっしゃいました

まずはじめに、鎚起銅器の製造過程を可愛いイラストとわかりやすい説明でレクチャーしてもらいます。

専門的な内容をわかりやすく説明してくれたのは、スタッフの木龍美紅さん。

しおりサイズの銅板に、金槌を何度も打ちながら「槌目 (つちめ) 」という模様をつけ、さらに厚紙で浮き上がらせたいモチーフを作って銅板に貼り付け、木槌で叩いて浮き出させていきます。

カンカンと打つのは、結構力を入れても大丈夫でした
意外と思ったところに当たらず、四苦八苦。でも目に見えて跡がついていくのが楽しい!

デザインは自由なので、燕市にちなんで「雲の間を飛ぶツバメ」を描いてみました。

工具の使い方も丁寧に教えてもらえます

 

だんだんツバメのシルエットが出てきました!

時間が経つのも忘れて黙々と集中して打ち込んでいくと‥‥

最後に研磨剤で磨き上げて、完成です!

オリジナルの銅板しおり、できました!

自分で作った世界にたった1枚のしおり。しかも伝統の技を体験できた、大満足のワークショップでした。

完成品はMGNETオリジナル封筒に入れてもらってその場で持ち帰れます
旅印2個目は、MGNET広報担当の気ままな正社員「まぐねこ」と一緒に

【工場】フォトジェニックな工場で、ミラーボール作り!

3軒目に訪れたのは三条市にある「永塚製作所」。大正初期の創業以来、家庭用の金属雑貨製品を主に製造されている会社です。昨年は「FIELD GOOD」というスコップブランドを発表し、グッドデザイン賞を獲得されています。

この形を新潟ではスコップと呼びますが、主に西日本での呼び方らしく、東日本ではシャベルと呼ぶそう

訪れるとまず目を引くのは、巨大なスコップのオブジェ!

能勢直征社長と長岡造形大学の学生さんたち。「コンセプトは『ものづくりから始まる永塚コミュニティ』です」

長岡造形大学の学生たちがアイディアを出し合い、「来場した人が楽しめる、インスタ映えするスポットにしましょう」と、初夏の頃から準備を進めたそうです。

工場内では、3台のマシンがプシュー、ガッコン、プシュー、ガッコンと規則的な音を立てながら連動して、平らなスチールの板をあっという間に立体的なスコップにしていく様子を見学できます。

1枚のスチール板からスコップがくりぬかれ、加工されていく段階が一目でわかる展示も
写真左のマシンがどう連動して1本のスコップになるのか、機械の目の前で分かりやすく解説いただけます

「やってみますか?」とプレス作業も体験させてもらえました!

2つのボタンを同時に押すと、硬いスチールに一瞬でスコップの立体感が現れました。少し携わっただけで、プレスしたスコップに愛着がわきます

こちらで体験できるワークショップは「ミラーボール作り」。プレスした時に端材として出る丸いスチールのチップを透明のボールに貼り付け、油性ペンで好きな色をつけます。

接着剤を出す「グルーガン」も本格的
ボール全面にチップを貼り付けてベースが完成!このあと色つけをしていきます
3つめの旅印もしっかりと取得です!

【購場】ウコンの葉の大きさに驚きつつ、ひとやすみ

続いては北三条駅近くの「三条スパイス研究所」へ。地元では「スパ研」の愛称で親しまれている食堂で、スパイスや旬の食材による料理を自分で混ぜながら食べる『ミクスチャースタイル』の料理が楽しめます。

「スパイス=異なるものをミックスして新しい何かを生み出すこと」という考えのもと、食だけでなく人もこの場所で混ざり合う、地域の交流施設としての役割も担っています。

大きなのれんが目印の「三条スパイス研究所」。もちろん旅印も忘れずに!

敷地内ではカレー作りに欠かせないスパイス「ウコン (ターメリック) 」を栽培しており、「燕三条 工場の祭典」期間中は自分でウコンの葉っぱを収穫してリーフティーを作る体験ができます。

このウコンの葉っぱの大きさに衝撃を受けました!

わさわさと生えており、軽く1メートル以上の背丈があります!これでも背が低い方だそうです。説明してくれたのは、養蜂家の草野竜也さん

畑では春ウコンと秋ウコンが栽培されており、その違いを学びつつ、お茶を作るために青々とした葉っぱを1枚カット。

春ウコンと秋ウコンと言っても栽培のタイミングや方法は全く同じで、花の咲く時期で名前が分かれているそう
大きめの葉っぱを選んでカット。アスパラガスとはまた違う手応えで、繊維の密度を感じます

切り取った葉から筋を取って煮沸消毒したら、くるくるっと巻いて、ここから細かくカットして茶葉を作ります。

5ミリメートル幅にカットしていくのですが、私の場合はかなりバラバラ‥‥。草野さんの葉はきれいな幅にそろっており、さすがの一言でした

カットしたあとは、ウコンの葉で作ったリーフティーの試飲でほっと一息。お土産に乾燥させた茶葉もいただきました。

切ったウコンの葉は作業台の中のストープに火を入れて4時間ほど乾燥させると、完成です
葉本来の風味がしっかりと感じられます。あまり煮出しすぎないのがポイントだそうです

集めた「旅印」で、プレゼント交換!

さぁ、4箇所のKOUBAめぐりを楽しんだ最後を締めくくるのは、「三条ものづくり学校」です。

「燕三条 工場の祭典」開催期間は、日本各地や海外の産地の逸品を集めた「産地の祭典」が開催されています

ここでは各KOUBAで集めた「旅印」の数に応じた会場限定のプレゼント企画を実施中なのです (※数量限定)!

もともとは体育館だった会場の入り口右手に、アプリの案内ブースがあります。ここで旅印の数をチェック

私がもらったのは、3軒分の旅印でもらえる「中川政七商店 特製 蚊帳のふきん (非売品) 」。

白地のふきんに色糸のステッチが入ったシンプルなふきん。赤・緑・黄色3色から選べます。私は赤をもらいました

ワークショップをメインにめぐった今年の工場の祭典。作る楽しさだけではなく、作ったものがそのままお土産になるところも嬉しいところでした。“コト”も“モノ”もかけがえのない燕三条の思い出になります。

また、KOUBAのみなさんは、どんな些細な筆問もひとつ一つ丁寧に答えてくださって、そんなやり取りもとても嬉しい経験でした。

燕三条エリアに広がる103ものKOUBAそれぞれが持つ魅力と出会いに、次はあなたが「開け、KOUBA!」。

燕三条 工場の祭典

公式サイト:http://kouba-fes.jp
燕三条 工場の祭典 公式アプリ「さんちの手帖」の使い方はこちら:https://sunchi.jp/sunchilist/kouba-fes/36621

<取材協力>
宮路農場
新潟県燕市吉田下中野796
090-7184-4141
「燕三条 工場の祭典」No.98 宮路農場ページ

MGNET
新潟県燕市東太田14−3
0256-46-8720
http://mgnet-office.com

「燕三条 工場の祭典」No.90 MGNETページ

永塚製作所
新潟県三条市塚野目6-9-1
0256-38-8275
https://www.eizuka-ss.com

「燕三条 工場の祭典」No.09 永塚製作所ページ

三条スパイス研究所
新潟県三条市元町11-63
0256-38-8275
http://spicelabo.net

「燕三条 工場の祭典」No.03 三条スパイス研究所ページ

三条ものづくり学校(公式アプリ 景品交換所)
新潟県三条市桜木町12-38
0256-34-6700
http://sanjo-school.net

「燕三条 工場の祭典」公式アプリ 景品交換所ページ

文:丸山智子
写真:笠飯幸代

かつては夜中に作られていた?一子相伝で受け継がれてきた茶筅づくりの現場へ

こんにちは。ライターの小俣荘子です。

様々な習い事の体験を綴る記事、「三十の手習い」。現在茶道編を連載中ですが、今回はそのスピンオフ企画をお届けします。

7月の茶道教室の回で、茶筅 (ちゃせん) のお話が登場しました。本来はお茶席ごとに新しいものを下ろすという茶筅ですが、その色かたちは流派やお茶人さんの好みによって千差万別。「一度きりの消耗品に、これだけの情熱を傾け、入念な美しさを求めることに、茶の湯のひとつの本質があります」との木村宗慎先生の言葉に、私も茶筅についてもっと知りたくなりました。

かつては厳格な一子相伝で、技を盗まれぬよう夜中に作られていたという茶筅。現在は一般に広くその技を公開している場所があるといいます。これはぜひ伺わねば!と、茶道教室にも参加している「さんち」中川編集長と茶筅の里、奈良県の高山を訪ねました。

500年以上の歴史を持つ、高山の茶筅

奈良県の北西に位置する高山は、室町時代から続く茶筅の一大産地。この地で500年以上、茶筅作りを続け、江戸時代に徳川幕府によって「丹後 (たんご) 」の名を与えられた茶筅師の家、和北堂 (わほくどう) 谷村家が本日の舞台です。

歴史ある谷村家のお庭を通って、工房の見学へ!
歴史ある谷村家のお庭を通って、工房の見学へ!
立派なのれんの奥が工房です。ドキドキとくぐります
立派なのれんの奥が工房です。ドキドキとくぐります

迎えてくださったのは、20代目当主 谷村丹後 (たにむら・たんご) さん。谷村家では、主に茶道の裏千家や武者小路千家のお家元に納める茶筅作りを続ける傍ら、一般の方が工房を見学できるツアーを開催されています。

工房では、茶筅作りの最終段階である糸掛けや、茶杓 (ちゃしゃく) 削りの体験、茶筅の購入もできます。(※見学、体験ともに要予約、購入については在庫次第のためお問い合わせくださいとのこと)

※茶筅作りを見学した後、私たちも茶杓削りに挑戦しました!その様子は、次週お届けします。

バラエティ豊かな茶筅に見る、流派のこだわり

見学ツアーでは、谷村さんの手元を間近に見ながらその工程を学ぶことができます
見学ツアーでは、谷村さんの手元を間近に見ながらその工程を学ぶことができます

見学の前に、谷村さんがこんな興味深いものを見せてくださいました。様々な種類の茶筅のサイズや形が書かれた設計図だそうです。

流派や家々でそれぞれ独自性を追求し、多様な形が生まれた茶筅。和紙に書き付けてあった江戸時代から伝わるものを谷村さんが巻物にしつらえ、大事に保存されています。

見るからに異なる形のものもあれば、カーブの角度や長さなど、細かな違いにこだわりが表れているものも
見るからに異なる形のものもあれば、カーブの角度や長さなど、細かな違いにこだわりが表れているものも
元来、茶筅のデザインは自由なもの。工房には、様々な流派の茶筅や、谷村さんデザインの糸の色をアレンジしたものなども展示されていました
元来、茶筅のデザインは自由なもの。工房には、様々な流派の茶筅や、谷村さんデザインの糸の色をアレンジしたものなども展示されていました

そしてこちらは、茶筅納入の際に用いられた木札と提灯箱。

菊の御紋が!
菊の御紋が!

谷村家が幕府から与えられた「丹後」の名は、徳川将軍家御用達茶筅師として記録されています。将軍家以外にも仙洞御所や公家、諸大名への納入されていたそうです。

茶筅が大事に運ばれていたことが伺える木札と提灯箱。大名たちの間でいかに茶の湯が親しまれていたか、道具が重要視されていたかが伺えますね。

お茶が中国から伝来した当時は、竹を簡単に割っただけのささらのようなものを使ってお茶を混ぜていたと考えられています。

室町時代後期、お茶を美味しく美しくいただくための道具を作ろうと、大和鷹山 (現在の高山) の城主が、奈良の浄土宗寺院称名寺の住職 村田珠光 (むらた・じゅこう 「わび茶」の創始者と目されている人) の助言を得て茶筅を創案したと伝えられています。

その後、茶の湯の隆盛と共に需要も高まり、豊臣秀吉や徳川幕府によって保護産業として優遇されたそうです。

「高山の茶筅作りをする家々は、この大事な産業の技が盗まれないよう夜中に茶筅を作り、日中は農業に勤しんでいました。うちも祖父の代まで畑がありました。現代では、そういった秘密主義はなくなり日中に仕事をする人もいますが、昔ながらの習慣が残っていて宵っ張りな人も多いようです。わたしもそうです (笑) 」

音で聴き、感触を確かめて作られる茶筅。その工程とは?

「さて、それではさっそく始めましょうか」

谷村さんの声かけから、いよいよ茶筅作りの実演と解説がはじまりました。

茶筅作りは竹の素材選びと下準備から始まります。竹は2〜3年生のものが茶筅に向いているそう。真冬に切り出し、煮沸します。その後1ヶ月のあいだ日光に晒し、さらに1〜2年は納屋で陰干しして割れや変色などがないものが用いられます。

1本の竹から茶筅を作るには、大きく7つの工程があります。「大きく」という言葉の通り、実際には、美しくて使いやすい茶筅にするため無数の工程に分かれています。工房には、谷村さんお手製の茶筅ができるまでの見本が並んでいます。これを見ると、その工程の多さに驚きます。

見本の乗った板の上には工程の名前が順に書かれていて、徐々に茶筅の形になっていく様子が伺えます
見本の乗った板の上には工程の名前が順に書かれていて、徐々に茶筅の形になっていく様子が伺えます

まずはじめの工程は「片木 (へぎ) 」。節から上の表皮を削り、竹を半分、また半分と、16片に割ります。

竹を縦に割っていく前に、包丁で表皮をむき、状態を整えます
竹を縦に割っていく前に、包丁で表皮をむき、状態を整えます
表面を整え終わると、割る作業がはじまります
表面を整え終わると、割る作業がはじまります
割った穂の根元を折り、広げていきます。やり過ぎると使い物にならなくなるため、折れ具合を音で聴きながら進めていきます
割った穂の根元を折り、広げていきます。やり過ぎると使い物にならなくなるため、折れ具合を音で聴きながら進めていきます
穂先を広げていきます。どことなく、茶筅の形に!
穂先を広げていきます。どことなく、茶筅の形に!
広げた穂の皮と身を分けるために包丁を入れていきます
広げた穂の皮と身を分けるために包丁を入れていきます
分けた身の部分を取り除いていきます。こうやって薄い穂の部分ができていくのですね!
分けた身の部分を取り除いていきます。こうやって薄い穂の部分ができていくのですね!

ここまでの工程、特別な道具は使わず、すべて包丁と手の感覚のみで行なっていることに驚きます。竹は自然のものなので、その日の気候でも状態が変わるそうです。竹のコンディションを体で感じながら作っていくとのこと。刃先にまで指の感覚をお持ちのような‥‥、指と刃物が一体化しているようでした。

谷村さんの仕事道具。この包丁1本で竹を切り、削っていきます
谷村さんの仕事道具。この包丁1本で竹を切り、削っていきます

続いて「小割 (こわり) 」。茶筅の設計図に合わせて、必要な穂数に割っていきます。

数回に分けて割り、少しずつ細くしていきます
数回に分けて割り、少しずつ細くしていきます

実はこの穂の部分、2種類の太さが互い違いになるよう割られているのです。太い方が外側の穂、細い方が内側の穂となります。

だいたい6対4くらい、とのこと。なんて細かい‥‥
だいたい6対4くらい、とのこと。なんて細かい‥‥

次の工程は「味削り」。もっとも重要と言われるところです。水に浸して柔らかくした穂の厚みを削って、カーブを作り弾力を生みます。しなやかさの度合いで「お茶の味が変わる」とも、家々の技の味が出るとも言われる工程です。

しなりと強度は相反する要素。長持ちするように強度を高めるとしなやかさが損なわれ、美味しいお茶がたちません。かと言って薄くしなやかにし過ぎると耐久性がありません。このバランス感覚が腕の見せ所なのだそう。 

指先で弾力を確認しながら少しずつ削いでいきます
指先で弾力を確認しながら少しずつ削いでいきます

そうして、まだまだ細かな調整が続きます。続いては「面取り」。外穂の角を削り、滑らかにします。「面取りをしていなくても、お茶は点てられます。ですがこうして美しく滑らかな茶筅を作ることに意味があると思うのです。やっていると結構ハマってしまうんですよ」と、谷村さん。

1本ずつ左右の角をとっていきます。例えば「百本立て」の茶筅だと200箇所もの角を取る!ということですが、細部にこだわってこそ美しく仕上がるのですね
1本ずつ左右の角をとっていきます。例えば「百本立て」の茶筅だと200箇所もの角を取る!ということですが、細部にこだわってこそ美しく仕上がるのですね

ここまで整えたところで、穂の根元に糸をかけて内穂と外穂を分けながら締めていきます。「下編み」「上編み」の2段階です。

この大きな模型の茶筅も谷村さんのお手製です!
この大きな模型の茶筅も谷村さんのお手製です!

最後は「仕上げ」の工程。穂をしごいてカーブの具合を揃えるなど、向きや形を整えていきます。

細かな調整で、ぼんやりしていたシルエットが締まったフォルムに。美しさが磨かれます
細かな調整で、ぼんやりしていたシルエットが締まったフォルムに。美しさが磨かれます

素人目には気づかないようなねじれを直したり、1本ずつの状態を細かく見ていく様子に、美しさへの追求を感じました。この仕上げを通じて、それまでの工程の良し悪しも確認もできるといいます。全体の品質チェックの工程でもあるのですね。

使われ方、使い手を知り、使い勝手と美しさを追求する

お茶の世界では消耗品とされる茶筅が、これほどまでに気を配り、細かな調整をしながら作られていることに非常に驚きました。

「茶筅には銘もつきませんが、実は竹製の茶道具の中で一番手がかかっているんです。

大量生産品の中には、茶筅が実際にどう使われるかを教わらないまま工程と形だけを真似て作られているものもあります。私たちが作る茶筅は、使ってくださる方との長年のお付き合いでその使い勝手、美しさを追求してきたものです。

使い心地についてお声をいただくこともあり、そのお好みを反映させることもあります。作っていると、使ってくださる方のお顔も浮かびます。

納め先の方々にとって使いやすく美しい茶筅を作り続けたい、そういう気持ちで日々作り続けています。だからこそ不思議と良い仕上がりになるように思います」

仕上がった茶筅の様子

「消耗品こそ、良いものを」という使い手の思いと呼応するように丁寧に作られる茶筅。一瞬のために時間をかけて美しいものを作り上げる様子に、ため息が出ました。

私たちは儚いものを愛でて、そこに美しさや切なさを感じることがあります。丁寧に詰められたお弁当、夏の夜の花火、桜や紅葉など、日常で出会う儚いものの延長線上に茶筅もあると思うと、茶道も不思議と身近に感じられました。

ツアーの最後は、谷村さんの茶筅でお茶を点て、お菓子と一緒にいただきます。工程を拝見したあとなので、感慨もひとしおです
ツアーの最後は、谷村さんの茶筅でお茶を点て、お菓子と一緒にいただきます。工程を拝見したあとなので、感慨もひとしおです

後編では、こちらで挑戦した茶杓作りの模様をレポートします!

<取材協力>
和北堂 谷村丹後
住所: 奈良県生駒市高山町5964

文・写真 : 小俣荘子

世界遺産・高野山から生まれた「最高峰」のパイル織物

こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。

日本でつくられている、さまざまな布。染めや織りなどの手法で歴史を刻んできた布にはそれぞれ、その産地の風土や文化からうまれた物語があります。

「日本の布ぬの」をコンセプトとするテキスタイルブランド「遊 中川」が日本の産地と一緒につくった布ぬのを紹介する連載「産地のテキスタイル」。今回はどんな布でしょうか。

高野山参道の美しい木々をイメージした布「杉木立」

和歌山が誇る世界遺産、高野山。その開祖、弘法大師の御廟がある奥之院への参道は、樹齢数百年を超える木々に囲まれています。

そんな美しい杉木立をイメージして生まれたのが、別名「杉綾 (すぎあや) 織り」と呼ばれるヘリンボーン柄のテキスタイル「杉木立 (すぎこだち) 」。

杉木立、生成色

実は高野山のふもとは、このモコモコとした「パイル織り」という織物の世界的な産地。この地で60年以上パイル織りを続け、今回の「杉木立」生地を織り上げた株式会社中矢パイルさんを訪ねました。

秋冬ファッションから電車のシートまで。意外と身近なパイル織物

中矢パイルさんの所在地である和歌山県高野口町は、奈良県から和歌山県へと注ぐ水量豊かな紀の川沿いにあり、周辺は「富有 (ふゆう) 柿」の産地としても有名です。

広々とした紀ノ川ぞいに街並みが広がる高野口町
広々とした紀ノ川ぞいに街並みが広がる高野口町

水の豊かさは織物づくりにとっても大きな恵み。一帯では古くから木綿栽培や織物産業が広まり、江戸時代には綿織物産地としてその名を知られるようになります。

その後も新たな素材や技術を取り入れながら、高野口一帯は織物産地として発展。昭和のはじめ頃に「W織り機」というパイル織り専用の機械がドイツから持ち込まれたことで、パイル織りが広まったそうです。

そもそもパイルとは「毛」のこと。その名の通り、パイル織物にはたてよこに織り込んだ生地に毛が織り込まれています。ビロードやコーデュロイ、別珍などもパイル織物の仲間です。この起毛部分が生地に独特の光沢とボリュームを生みます。

保温性にも優れるため秋冬のファッションでも人気の素材ですが、実はバスや電車の椅子、家のソファやカーテン、カーペットなどにもパイル織物が使われていること、お気づきでしょうか?

こんな質感の生地、身の回りにありませんか?
こんな質感の生地、身の回りにありませんか?
こちらは洋風なデザインのパイル生地
こちらは洋風なデザインのパイル生地

「戦後、三世代で暮らす洋風の家が増えたんですね。応接間にカーペットが敷いてあって、ソファにスリッパでお客さんをもてなす。そんな『応接セット』のソファの布地に、パイル織物がこぞって使われたんです」

最寄り駅まで迎えに来てくださった中矢パイル代表の中矢祥久 (なかや・よしひさ) さんが、工場へ向かう道中に教えてくれました。

そういえば、と我が家にも昔、ふくふくとしたパイル地のソファが置いてあったのを思い出しました。その手触りが心地よくて触ってばかりいたので、肘掛の部分だけずいぶん擦り切れて親にとがめられたような。

そんな時代の流れも受けて、パイル織物はあっという間に町の主要産業となっていきました。中矢さんが家業を継ぎに戻ってこられた昭和50年代の終わり頃も、北は北海道から南は九州まで、そうしたソファ用の生地を家具屋さんに直に納めていたそうです。

「パイル織物の最高峰」パイルジャカード

ところで、今回紹介する「杉木立」は英語で「ニシンの骨」を意味するヘリンボーン柄(たしかに魚の骨のようですよね)ですが、通常は山並が均一に並んでいます。それに対して「杉木立」の柄は、山並に大小があったり、間隔がまちまちだったりしています。

ランダムな山並み。一体どうやって織られているのでしょう‥‥
ランダムな山並み。一体どうやって織られているのでしょう‥‥

こうした立体的で複雑なデザインは、パイル織物の中でも「パイルジャカード」と呼ばれる生地の特徴です。その製造に高い技術を要することと織り上がる生地の美しさから、「パイル織りの最高峰」と呼ばれています。

ちなみに、和名は「地柄金華山」。なんだか字面にも迫力がありますね。

このパイルジャカードを得意としてきたのが、今回訪ねる中矢パイルさん。その複雑な柄が生まれる瞬間を見せていただきました。

整然と並べられた糸巻き
整然と並べられた糸巻き
見上げるほどの高さまでセットされた糸が向かう先は‥‥
見上げるほどの高さまでセットされた糸が向かう先は‥‥

工程を簡単にまとめると、機械にセットした縦糸に、横糸を通したシャトルと呼ばれる道具を走らせて生地を織っていくところまでは他の織物でも見られる工程です。

集められていたのは、生地のタテ糸。ここに横糸を走らせて、パイル織物の基礎となる生地が作られます
集められていたのは、生地のタテ糸。ここに横糸を走らせて、パイル織物の基礎となる生地が作られます

パイル織物はこの地組織にさらに毛を織り込むわけですが、この織りこみ方が非常にダイナミックかつ効率的なのです。

上下に生地2枚分を同時に織りあげ、その間にパイル糸を通しておいて、生地を織りながら真ん中でカットしていく。すると2枚に分かれた生地の片面 (内側) は、カットされた毛が起毛した状態になります。

織られた生地は画面上部の刃物で真ん中からカットされていく。すると内側に見事なパイル地が!
織られた生地は画面上部の刃物で真ん中からカットされていく。すると内側に見事なパイル地が!

それにしても、機械は一定に動いているように見えるのに、どうしてこれだけランダムな凹凸のある柄が現れてくるのでしょう。中矢さんが上を指差しました。

見上げた先には‥‥?
見上げた先には‥‥?

上の階に登らせてもらうと、先ほど間近で見ていた機械と連動して動く紙のロールがありました。

織り機の上では、パイル地の凹凸を決める重要な機械が連動して動いていました
織り機の上では、パイル地の凹凸を決める重要な機械が連動して動いていました

「これは紋紙 (もんがみ) 。柄の出方を、点の位置で指示しているんです。いわば柄の設計図みたいなもんです」

これが「杉木立」の紋紙。まるで巨大なオルゴールの譜面のようです
紋紙を機械が読み込んでいく様子
紋紙を機械が読み込んでいく様子

この紋紙が、複雑な「杉木立」の模様を生み出している影の立役者。こうして織られた生地がカットされると、見事なパイルの模様が表面に現れてきます。

再び1階に戻って、紋紙に従ってデザイン通りに織り上げられた生地が上下2枚にカットされて巻き取られている様子
再び1階に戻って、紋紙に従ってデザイン通りに織り上げられた生地が上下2枚にカットされて巻き取られている様子

奥行きのある杉木立のテキスタイルは、複数の工程が同時進行してはじめて生まれる、まさに「パイル織物の最高峰」。産地の技術の賜物です。

ご案内いただいた中矢さん。パイル織りの機械を前に
ご案内いただいた中矢さん。パイル織りの機械を前に

山の伏流水が育む織物

「でも、これで終わりやないんです。この後に生地を染める工程や毛並みを整える仕上げが待っています。それぞれ近くの専門メーカーが担うんです」

高野口一帯は小さなメーカーが集まって、分業でパイル織物をつくっています。中矢さんはパイル生地を織る工程。ご近所にはその前後の工程を支えるメーカーさんが工場を構えています。

染色を担当する木下染工場さんにて。糸を染めてから生地を織る場合もありますが、「杉木立」は生地を織り上げてから木下さんで生成・墨色・紺色の3色に色分けされます
染色を担当する木下染工場さんにて。糸を染めてから生地を織る場合もありますが、「杉木立」は生地を織り上げてから木下さんで生成・墨色・紺色の3色に色分けされます
杉木立の紺色の様子。同じ染料で染めても、綿、レーヨンと素材の違う糸を2種類使っているため染まり方も異なり、柄に奥行きが生まれます
杉木立の紺色の様子。同じ染料で染めても、綿、レーヨンと素材の違う糸を2種類使っているため染まり方も異なり、柄に奥行きが生まれます
シャーリングといって、表面の毛並みを刈り揃えるプロ、堀シャーリング株式会社さんにて
シャーリングといって、表面の毛並みを刈り揃えるプロ、堀シャーリング株式会社さんにて
シャーリングの良し悪しは、パイルを刈り込む刃の精度と、それを保つためのメンテナンスの技術にかかっているそうです。
シャーリングの良し悪しは、パイルを刈り込む刃の精度と、それを保つためのメンテナンスの技術にかかっているそうです。

中矢さんに案内いただいたメーカーさん同士は、それぞれ車で5分とかからない距離にありました。これだけ近い距離で分業できる理由の一つは、どうやら「水」にあるようです。

「例えば染工所さんなんかは水をたくさん使いますが、この辺りはたとえ川が枯れても、地面を掘ればたっぷりと水が湧いてくると言われます。それくらい地下を流れる伏流水が豊かなんですね。

メーカーも紀の川沿いに自然と集まっています。水は当たり前に流れていますけど、知らず知らずに恩恵に預かっているように思います」

通常、生地の産地では問屋さんや商社さんが起点となって生地作りを進めますが、高野口一帯では中矢さんのような機屋 (はたや) さん (生地を織るメーカーのこと) が起点となり、他の工程を分業して仕上げまでを管理するのが主流だそうです。

中矢さんご本人も直接アパレルブランドなどとやり取りをして、デザイナーさんの作りたい生地をどうやったら表現できるか、一緒に考えていくのだとか。

「生地を頼みにきたデザイナーさんの服が見覚えあるなと思ったら、うちで織った生地でね。『うちの生地着とるやん』って。盛り上がりました」

霊山・高野山。しゃんと背筋の伸びるような木々の足元で数百年と脈打つ豊かな水は、ふもとに人を集め、パイル織物の一大産地を形成しました。

その世界に誇る技術で織り上げられた「杉木立」のテキスタイルは、バッグやコートになってもやはり、その生みの親である高野山の木々の柔らかさや清々しさをたたえているようです。

「杉木立」のテキスタイルシリーズ

中矢パイルさんとつくった「杉木立」のテキスタイルから、「遊 中川」オリジナルのバッグやスカート、ワンピースが生まれました。高野山の参道を囲む木々やものづくりの背景を思い浮かべて、手にとってみてください。

<掲載商品>
「杉木立」シリーズ(遊 中川)

バッグ大
バッグ大
バッグ小
バッグ小
ミニポシェット
ミニポシェット
ワンピースコート
ワンピースコート
スカート
スカート

遊 中川の各店舗でもご購入いただけます
(在庫状況はお問い合わせください)

<取材協力>
株式会社中矢パイル
和歌山県橋本市高野口町名古曽58
0736-42-2048
http://kinkazan.jp/index.html

文・写真:尾島可奈子

燕三条 工場の祭典 公式アプリ「さんちの手帖」の使い方

燕三条 工場の祭典とは?

2017年10月5日(木)~8日 (日)の4日間にわたり日本を代表するものづくりの産地、新潟県燕三条地域と、その周辺で開催されている「燕三条 工場 (こうば) の祭典」。
「開け、KOUBA!」を合言葉に、普段はなかなか目にできない工場が開放され、誰でもものづくりの現場を見学できるイベントです。地元の食・農に触れられる「耕場」、土地のお土産が手に入る「購場」も合わせたKOUBAの数は、全103箇所にものぼります。

 

全103ヶ所の KOUBAがアプリの中に

「KOUBA(こうば)」めぐりのガイドに欠かせないのが、公式ガイドアプリ「さんちの手帖」。

103ヶ所すべての「KOUBA」情報をアプリで見ることができます。

app store さんちの手帖
google play さんちの手帖

 

KOUBAめぐりを、もっと楽しく便利に

地図を開けば、どの場所にどんな「KOUBA」があるのか一目瞭然。
位置情報をオンにすると、自分の今いる位置から近いスポットを確認できます。

工場の祭典公式アプリ・さんちの手帖の使い方

 

旅印を集めてプレゼントをもらおう!

すべての「KOUBA」が、「旅印」の獲得ポイント。アプリを使って旅印を集めると、集めた数に応じて会場限定のプレゼントがもらえます。

燕三条工場の祭典公式アプリ さんちの手帖・旅印

アプリをダウンロードして「KOUBA」へ入ると、「旅印」を獲得できることを知らせる通知が届きます。(※ 通知の許可が必要です)
イベント中、すべての「KOUBA」で獲得できる「旅印」を集めると、燕三条 工場の祭典限定のプレゼントがもらえます。

<プレゼントその1:旅印103個>
オリジナル名入れ金型・1名様

103の見どころを制覇し、全旅印をコンプリートした方には、なめらかに文字が浮かび上がるオリジナル名入れ金型をプレゼント!精度の高い金型作りの技術を誇る武田金型製作所さん/MGNETさんに、世界に一つだけのオブジェのような金型を作っていただけます。

工場の祭典・マグネット・さんちの手帖
好きな文字でオリジナル金型を作れます

文字が浮かび上がり、消える様子はマジックのようです

 

<プレゼントその2: 旅印10個>
庖丁工房タダフサ製 まな板

パン切り包丁などで一躍人気となった三条の庖丁屋さんが、庖丁の柄に使われる抗菌作用の高い素材を生かして作ったまな板。1枚あれば料理の腕も上がりそう?

工場の祭典・まな板・さんちの手帖
包丁工房タダフサ製 抗菌炭化木 まな板 10名様
タダフサのまな板
側面に庖丁工房タダフサのロゴが入っています

 

<プレゼントその3:旅印3個>
中川政七商店 特製ふきん(非売品)

「さんちの手帖」を運営する中川政七商店から、創業地・奈良特産の蚊帳生地を生かした人気のふきんをプレゼント。旅印3つなら、意外と近くで集まりますよ!

工場の祭典・ふきん・さんちの手帖
中川政七商店製 蚊帳のふきん(非売品)

 

「さんちの手帖の使い方」

 

 

<燕三条 工場の祭典 特設ページへ>

アプリのTOPページに設置された、「工場の祭典」特設バナーをタップしてください

 

<見どころを探す>

「見どころ」タブから、103ヶ所すべての「KOUBA」情報を見ることができます

 

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各KOUBAに入ると、お知らせが届きます。お知らせをタップして旅印を取得しましょう

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通知が消えてしまっても、アプリメニューの「訪問した見どころ」からも旅印を取得することができます

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<「旅印」を確認する>

獲得した「旅印」は、下のメニューの「旅印帖」で確認できます

<Q & A>

Q:プレゼントはどこでもらえますか?
→ A.さんちブース(場所:三条ものづくり学校)へお越しください

 

Q:近くにいるのに、旅印の通知がきません
→ A.位置情報サービスはオンになっていますか?また通知を許可していますか?
(左上メニューにある「通知設定」・「位置情報設定」をご確認ください)

 

Q:通知設定も位置情報設定もオンになっていますが、見どころにきても通知がきません
→ A.一度、該当の見どころから100m以上離れて再度近づいてみてください

 

Q:使い方がわからないので質問をしたいです
→ A.さんちブース(場所:三条ものづくり学校)へお越しください

 

 

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