ものづくりの現場を満喫!「RENEW×大日本市鯖江博覧会」2017徹底ガイド

こんにちは。ライターの石原藍です。

2017年10月12日(木)~15日(日)の4日間にわたる工芸産地のイベント「RENEW×大日本市鯖江博覧会」が現在開催中です!

「RENEW」は、普段は見ることのできない工房が特別に開放され、ものづくりの現場を見学・体験できる、体感型マーケット。

3回目となる今年は、中川政七商店の工芸の祭典「大日本市博覧会」とのコラボが実現し、「RENEW×大日本市鯖江博覧会」が開催されることになりました。

今回は実際にものづくりの現場をめぐった初日の様子をいち早くお届けします!これから参加するという方も参考にしていただけるはず。どうぞご覧ください!

河和田に着いたらまずは「うるしの里会館」へ

「RENEW」のメイン会場となるのが、JR鯖江駅から車で約20分の場所にある河和田(かわだ)地区の「うるしの里会館」。まずはこちらで、マップを手に入れましょう。

各エリアのスケジュールが一目瞭然です

工房めぐりには「RENEW×大日本市鯖江博覧会」公式アプリ「さんちの手帖」をお忘れなく。

参加企業や工房85箇所の情報や地図機能も搭載。さらにスマートフォンの位置情報をONにしておくと、すべての箇所で「旅印 (たびいん) 」を取得することができます。

期間中に旅印をたくさん集めて「さんちの手帖ブース」に行くと、プレゼントがもらえます!
ブースはうるしの里会館の入口。アプリの使い方がわからない時もスタッフが丁寧に教えてくれますよ

*「さんちの手帖」の使い方はこちら

メイン会場となる河和田エリアは工房が集まっているので徒歩でも回れますが、レンタサイクルを利用するのも便利です。

こちらはさんちの手帖ブースの隣で受付していますので、短時間でたくさんの箇所を回りたい方はぜひ!アップダウンも少ないので走りやすいですよ。

2時間500円で利用できます

越前漆器のものづくりにふれる

最初にやってきたのは、「漆琳堂」。約1500年も続く越前漆器発祥の地、河和田のなかでも、漆琳堂は1793年の創業以来、代々「漆塗り」を手がけています。

到着すると、スマートフォンからピローンと音が。旅印を獲得できる通知が届いていました。通知画面からボタンを押すと、はじめての旅印を獲得です。ポン!という音が気持ちよくてやみつきになりそう……。

通知を逃してもアプリの「訪問した見どころ」メニューから旅印が取得できますよ

なかではちょうど、「拭き漆体験」が行われていました。

漆琳堂の塗師(ぬし)の嶋田希望(しまだ・のぞみ)さんに、漆器の歴史や技法の話を混じえながら手順を教えてもらいます
木地(漆器の下地)となるカップには欅(けやき)が使われています

木地に漆を刷り込むことで深い色合いを出す「拭き漆」。かぶれないよう、手袋でしっかりガードし、内側から漆を刷り込んでいきます

使う漆は朱・黒・生漆(きうるし)の3色から選べます

塗り残しがないよう全体に刷り込んだ後は、余分な漆を拭き取ります。こうした作業を繰り返すことで、深みが出た美しい漆器が完成します。

一度塗っただけで、すでにつやつや
完成するとこんな美しいカップに!拭き漆をしたカップは残りの工程を職人さんが仕上げ、後日発送されます

期間中のワークショップはすでに満席なのですが、工房見学は参加可能です。普段は入ることができない漆器づくりの現場を見ることができる、めったにない貴重な機会です!

漆器に埃がつかないよう、塗り部屋は毎朝の掃除が欠かせないそう
湿気によって乾く漆。そのため天気や気候にも気を遣います
パッと見るだけでは何に使うかわからない道具ですが、教えてもらうことで理解が深まります
繊細な職人の技に参加者のみなさんも釘づけです

普段何気なく使っている漆器も、完成するまでの工程を知ると一層愛着が持てるかもしれません。

工房では直営店も併設されており、「aisomo cosomo」や「お椀や うちだ」など自社ブランドの漆器を購入することもできます。

お得なアウトレットコーナーはこの時だけの開催。お見逃しなく!
漆器でつくられたオリジナルアクセサリーも大人気です

めがねのものづくりにふれる

鯖江はめがねフレームの国内製造シェア96%を誇る「めがねのまち」としても有名です。次は、デザイン性の高いめがねで人気の「opt duo」にやってきました。

赤いのぼりが参加企業・工房の目印です

こちらではopt duo製品の展示を見ることができます。なかには出来立てほやほやの新作も!スタッフの方にめがねのデザインや選び方について話を聞くこともできます。

クラシックとモードが融合した独特のデザインが人気
耳にかける部分がくるんと丸まっています。昔のめがねを彷彿とさせるデザイン
こちらはなんと老眼鏡。耳でかけるのではなくこめかみで止める独特の形状です。オシャレ!

14、15日にはめがね型の模造紙にオリジナルデザインを施すことができる、「めがねデザインワークショップ」(参加費用200円)を開催予定です。業界で活躍するデザイナーにめがねづくりのポイントを教えてもらえるチャンスです。

お子さんにもぴったりのワークショップですよ

産地発!クリエイティブカンパニーの軌跡にふれる

今度は河和田を拠点に活躍するデザインカンパニー「TSUGI」にやってきました。

TSUGIのメンバーは全員が移住者。デザインを通して持続可能な産地を目指しています

TSUGIではこれまで手掛けたデザインを展示しています。見たことがあるロゴやDMも実はTSUGIがデザインしたものかもしれません。

TSUGIがこれまで手掛けたロゴ

つくる、支える、売るまでを手がけるTSUGIでは、オリジナルプロダクトも製作、販売しています。

例えば、アクセサリーブランド「SUR」はめがねフレームの端材から生まれたもの。アセテートという環境に優しく発色性の高い素材でつくられたピアスやネックレスは人気が高く、新作は常に品薄なんですよ。

「RENEW」期間中は販売も行っています(通常TSUGIのオフィスでは販売は行っていません)
被ると注目されること間違いなしの「鯖CAP」
「ほかにもいろんなプロダクトをご用意していますよー!」とTSUGIの寺田千夏さん

ちょっと休憩するなら河和田のニュースポットで

少し小腹が減ったので、TSUGIから徒歩1分の場所にある「PARK」にも立ち寄ってみました。こちらは2017年9月にリニューアルオープンしたばかり。カフェスペース「公園食堂」では、ふわっふわのカレーパンに河和田の伝統食材・山うにを使ったスープがついたセット(500円)を販売しています。

移住者を中心につくりあげたシェアスペースは、工房、オフィス、住居、カフェなど、幅広い用途に利用できます
カレーパンは注文を受けてから揚げるのでサクサク!なかはもっちりしていて絶品でした
15日はカフェスペースで味噌づくりワークショップが行われる予定です(4000円・飲物軽食つき)

少し足を伸ばして広域へ。越前のものづくりも見所がいっぱい!

「RENEW×大日本市鯖江博覧会」では「福井クラフトツーリズム」と題して、鯖江・河和田エリアだけではなく、お隣の越前市の産地を回ることもできます。

河和田から車で約15分。やってきたのは越前和紙の産地、今立地区にある「石川製紙株式会社」です。

創業は江戸時代にさかのぼるという石川製紙。
カレンダーや便箋、インクジェット用、商品パッケージ、お酒のラベルなどさまざまな用途に使われる和紙を手掛けています。色や厚さ、風合いなど約1000種類の和紙に対応しているのだとか。

12代目社長の石川浩さんに案内していただきました
いざ、工場内へ!ドキドキします

越前和紙は手漉き、機械漉きに分けられますが、石川製紙ではすべて機械で和紙を漉いています。

楮(こうぞ)や三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)、パルプなどを和紙の種類に合わせて原料を仕込みます。人が入れそうなほど大きな水槽です!
石川製紙所が一日に漉く和紙はなんと1t!規模の大きさに驚きます
原料を仕込んでから和紙が漉き上がるまで約半日かかります

漉き上がった和紙はスタッフによる丁寧な検品作業を経て、問屋や印刷会社に納められます。機械のダイナミックさと、人の手による細やかさ、両方があるからこそ高い品質が保たれるんですね。

石川製紙をあとにしたあとは、付近を散策。和紙の産地も徒歩圏内でさまざまな工房をめぐることができます。もう一軒、近くの「滝製紙所」にもお邪魔しました。

こちらも歴史は古く1875年から続いています

機械漉きと手漉きを行う滝製紙所。手漉き和紙では各種襖紙や創作和紙を、機械漉きでは鳥の子和紙をはじめ、模様紙、美術小間紙をつくっています。RENEWでは14、15日に紙漉きのワークショップを開催(2000円〜 発送料込み)。厚さや大きさ、模様など、自分だけのオリジナル和紙を漉くことができます。

ワークショップは和紙の材料を攪拌するところからチャレンジ。混ぜ具合によって、和紙の手触りや風合いが変わっていきます
滝製紙所で乾燥させてから後日発送します
7代目の滝英晃(たき・ひであき)さん。笑顔が素敵です

越前市エリアではほかにも越前和紙の里や越前打刃物、越前箪笥の工房なども見学することができます。河和田エリアとは違うまち並にも注目しながら散策してみてはいかがでしょうか。

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世界で愛される越前発のものづくり〜各国のシェフたちが絶賛した越前打刃物のステーキナイフ〜

集めた「旅印」をさんちの手帖ブースで見せよう!

さまざまな工房をめぐり旅印の数が集まったら、再びさんちの手帖ブースに戻りましょう。

集めた「旅印」の数に応じた会場限定のプレゼントをもらうことができます (※各日数量限定)

今回もらったのは、5軒分の旅印でもらえる「中川政七商店 特製 蚊帳のふきん」。RENEW仕様の非売品です。

ふきんの写真

80軒分の旅印を集めると抽選で、tokyobike × 漆琳堂がコラボした漆塗りの自転車が当たるそう!これはほしい!

期間中は漆琳堂に展示されています。実物もうっとりするほど素敵でした

福井県内のプロダクトや中川政七商店期間限定ストアも!

「うるしの里会館」ではトークショーの開催や福井県内のデザインプロダクトを集めた特設店舗、中川政七商店限定ストアでのショッピングを楽しむことができます。

工芸品だけではなく、福井の多彩なものづくりが並ぶ福井デザインストア
なんと中川政七商店は福井県初出店!初日から買い物を楽しむ人で賑わっていました
食品や衣類、郷土玩具などさまざまな商品がずらりと勢揃い

自分用に、誰かのお土産に選んでいると、つい財布の紐がゆるんでしまいそう。工房めぐりの締めくくりにぴったりです。

工房めぐりのポイントをおさらい

いかがでしたか?最後に、これから「RENEW」に参加する方に向けて、工房めぐりのポイントをご紹介したいと思います。

◇動き出しは早めがおすすめ
初日から大盛況の「RENEW」。平日にもかかわらず、駐車場が混み合っていました。週末はさらに混雑が予想されるため、可能であれば早い時間からの来場がおすすめです。14、15日は鯖江駅からシャトルバスも運行していますので、電車でお越しの際はぜひ利用してみてください。

◇事前に回る工房をチェック
ノープランの旅もいいですが、せっかく参加するならたくさんの工房を見てもらいたいと思います。事前に「さんち」の「RENEW×大日本市鯖江博覧会」特集ページからお目当ての工房のスケジュールをチェックするとスムーズに回ることができますよ。

◇職人さんに声をかけ、質問してみる
RENEWは普段は入ることのできない工房や工場の見学や、接する機会のない職人とふれあえる貴重な機会です。好奇心をフルに高めて、ぜひ積極的に職人さんに声をかけてみてください。工房めぐりがさらに楽しくなるはずですよ。

鯖江、越前エリアのものづくりにふれ、買い物も楽しむことができる「RENEW×大日本市鯖江博覧会」は15日(日)まで!ぜひ足を運んでみてくださいね。

RENEW×大日本市鯖江博覧会

公式サイト:http://renew-fukui.com
RENEW×大日本市鯖江博覧会 公式アプリ「さんちの手帖」の使い方はこちら:https://sunchi.jp/sunchilist/renew-fukui/38070

<取材協力>
漆琳堂
鯖江市西袋町701
0778-65-0630

ホームページ


「RENEWx大日本市鯖江博覧会」漆琳堂ページ

opt duo Inc.
鯖江市北中町539
0778-65-2374
http://www.optduo.co.jp/
「RENEWx大日本市鯖江博覧会」opt duo Inc.ページ

TSUGI
鯖江市河和田町19-8
0778-65-0048

TOP


「RENEWx大日本市鯖江博覧会」TSUGIページ

PARK
鯖江市河和田町19−1−7
050-1007-6664
http://parksabae.com
「RENEWx大日本市鯖江博覧会」PARKページ

石川製紙株式会社
越前市大滝町11-13
0778-43-0330
http://www.echizenwashi.net
「RENEWx大日本市鯖江博覧会」石川製紙株式会社ページ

滝製紙所
越前市大滝町27-30
0778-43-0332

Homepage


「RENEWx大日本市鯖江博覧会」滝製紙所ページ

うるしの里会館(公式アプリ 景品交換所、福井デザインストア、中川政七商店期間限定ショップ)
鯖江市西袋町40-1-2
0778-65-2727
http://www.echizen.or.jp/
「RENEWx大日本市鯖江博覧会」うるしの里会館ページ


文・写真:石原藍

細萱久美が選ぶ、生活と工芸を知る本棚『堀井和子 和のアルファベットスタイル 日本の器と北欧のデザイン』

こんにちは。中川政七商店バイヤーの細萱です。

生活と工芸にまつわる本を紹介する連載の五冊目です。今回は、個人的にかなり想い入れのある本をご紹介します。

堀井和子さんの『和のアルファベットスタイル』というエッセイで、器やインテリアの綺麗な写真が添えられています。本の紹介をする前に、まずは堀井さんのことを。

堀井さんの肩書きは一言に表せないのですが、料理スタイリストに始まり、食や料理の本を多数出版されたり、「粉料理研究家」という時期もありました。

以降もインテリア、雑貨、暮らし、国内外の旅などにまつわる本も数多く執筆。現在は、ご主人と「1丁目ほりい事務所」を構え、食器やテキスタイルをデザインしたり、アートやイラストなどの企画展をされたりと、幅広い活躍をされています。

精力的に堀井さんが出版されていたのはかれこれ30年前くらいなので、現在40~50代の雑貨好き女性はご存知のことでしょう。熱烈なファンも多く、私もまさにその一人。著書は全て持っていて、今後も手放すことは無さそうです。

なぜそこまで堀井さんに惹かれるのだろう?

わたしを離さない理由はいくつかありますが、センスやスタイルが誰とも違っていて、オリジナルを貫いていること。そしてそのスタイルが流行などに左右されず、ブレのないことが大きいのです。

その大きな特徴は、本のデザインやイラスト、写真まで全てご自身で手掛け、パーソナルブランディングがしっかりしていることです。そこまでトータルに手掛ける方は、今でも少ないと思います。

初めて読んだのはパンやお菓子の本ですが、単なるレシピ本ではなく、そのアートな感じに「なんだこのおしゃれな本は!」と、大学生の私にはものすごい衝撃でした。旅の本に書かれていたアメリカのバークレーに憧れて、卒業旅行で訪ねるほどでした。

それまで、料理にも暮らしのことにもさほど興味のなかった私ですが、食や身の回りのものに一気に興味が沸いたのも堀井さんの影響が何よりも大きく、今の仕事にもつながっている気がします。

16年前の本なのに新鮮に読める、「好き」を磨くヒントがいっぱい

『和のアルファベットスタイル』には、堀井さんの持ち物である、和と北欧の食器やインテリアに加え、缶や紙ナプキンのコレクション、それらに関する本も紹介されています。発行は2001年と16年も前ですが、今でも新鮮な感覚で見られるのが凄いところ。

そういえば、北欧ブームが起きたのも、映画の「かもめ食堂」の公開や、イケアの日本進出の2006年前後でしょうか。北欧と日本のモノに親和性があることを知ったのも堀井さんからかもしれません。

本では東北地方を紹介したページもあり、中川政七商店でもお取引のある「釜定」さんも取り上げられています。釜定の鉄瓶や鉄のフライパンはモダンで、北欧やフランスの鋳物にも通じるデザインを感じます。

他にも工芸の店の「光原社」や、ざるやかごの「ござく森久商店」の存在もこの本で知り、美しい手しごとに一気に興味を抱きました。その後、東北を旅したのは言うまでもなく、盛岡には何度か足を運んでいます。

紹介されているコレクションや本は、デザインがどれも素敵です。料理、アート、デザイン、建築、工芸、絵本などのジャンルにおいて、装丁やレイアウトの美しい、楽しい本がお好きとのこと。私も「見せるため為の本」を飾っていますが、それも堀井さんに本の美しさ、楽しさを教わったからなのだと思います。

堀井さんからもらった影響のせいでしょうか、いまでも缶が欲しくてお菓子を買うことも少なくないですし、風合いの良い紙は捨てられずに取ってあります。お金や希少性ではない自分だけの宝物ってあるなと共感しています。

たとえば、「骨董屋や、美術館の展示を前に、どれか一品を買えるとしたらと想像して、いつも最後に『これにする!』」と決めるのだとか。そうすると、「すごいと思うもの」と「好きだと感じるもの」が一致するわけではないことに気付けるのだとか。なにも国宝や重要文化財だから自分の気持ちが動くのではありませんからね。

そう言えば、自然とそのような見方をしている自分にふと気付き、ようやく「好き」にブレが無くなってきたように思え、少し嬉しくなりました。

<今回ご紹介した書籍>
『和のアルファベットスタイル 日本の器と北欧のデザイン』
堀井和子/ 文化出版局

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。


文:細萱久美
写真:杉浦葉子

結婚も選挙も就職も。職人に教わる、正しいだるまの「願掛け」作法

こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。

みなさんのお家に「だるま」はありますか?

すぐに思い浮かぶのは、選挙で当選した議員さんが片目を墨入れする姿。

ですが最近は、手のひらサイズのだるまが結婚式で使われたり、愛くるしいパンダ姿のだるまが登場するなど、その姿も進化しています。

身近なようで意外と知らないあの赤くて丸い縁起ものの正体を確かめに、200年続くだるまの産地・高崎の職人さんをたずねました。

だるまの一大産地、高崎に行ってきました

明日10月13日に北関東最大のファッションビル「高崎OPA (オーパ) 」のオープンを控え活気づく、群馬県高崎駅前。

東京駅から普通電車で2時間、新幹線「とき」に乗れば1時間ほどで到着です。駅に降り立つとあちこちで目に飛び込んでくるだるまの姿。

昨年12月に取材に行った際には、毎年大変な人出で賑わう年始の「だるま市」を目前に、大きな大きなだるまがお迎えしてくれました。

駅前の巨大だるま

高崎市は、年の瀬が近づくと「だるまの生産が最盛期を迎えています」とのニュースが毎年決まって流れる、全国でも有数のだるま生産地。

安定してカラリとした空気のこの一帯は、型に紙を重ね貼りして作る張子(はりこ)のだるま作りに適しており、冬の農閑期の農家の副業として発展しました。

生産量は2011年には年間90万個にものぼり、地域には50以上のだるま屋さんがあるそうです。

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訪ねたのは、駅から車で10分ほどのところにある、だるま職人真下輝永(ましも・てるなが)さんの店舗兼工房「三代目だるま屋 ましも」さん。

大小色も様々なだるまが所狭しと並ぶ店内は、そのまま奥の工房と繋がり、タイミングが合えばだるまの絵付けなどの様子を間近で見ることができます。

こんな手のひらサイズのだるまもあれば‥‥
こんな手のひらサイズのだるまもあれば‥‥
お店の奥にはたくさんの特大だるまが
お店の奥にはたくさんの特大だるまが
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工房を兼ねる店内はひっきりなしに注文の電話が入り、奥では職人さんが二人がかりで大きなだるまの絵付けをしています。

真下さんも、少しお話を伺ったところで「じゃあ、あとは女将が話すから」とご自身の持ち場に戻られ、束になった注文書とにらめっこしながら、絵付けの筆を取り始めます。

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「人の数だけ、願いがあるからね」

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ボソリと語られた言葉にさらにお話を伺おうとすると、すでに真下さんは全意識を筆先に集中させています。

言葉を飲み込んでその様子を見つめていると、お店の奥から出て来られた女将さんの真下玲子さんが声をかけてくれました。

女将さんによると、地域の人は年内のうちにだるまを買っておいて、お正月に飾るのが恒例だそう。

真下さんは筆で、だるまの胴体に注文された方のお名前や祈念する内容をしたためていたのでした。

多い時には1日100個以上名入れすることも。
多い時には1日100個以上名入れすることも。
使い込まれた絵の具入れ。
使い込まれた絵の具入れ。

「職人はヒゲと文字が書けたら一人前です。経験年数より、これはセンスですね」

きりりとした女将さんの言葉。

だるま作りは分業制で、真下さんは絵付けの職人さんです。真っ白な張子だるまから、この工房内で着色、顔描き、名入れが行われます。

だるまの命とも言える「顔描き」は全国の産地によって特徴があり、高崎だるまは眉は鶴を、ヒゲは亀を表すという縁起づくしのお顔です。

真下さんの工房では絵付けを数名の職人さんで分担して行いますが、その仕上げの工程である顔描きと名入れは、真下さんが一手に担います。

文字入りのだるまは全国的にも珍しく、高崎だるまのもうひとつの特徴でもあります。

おめでたさがぎっしりと詰まっただるまさんの顔。
おめでたさがぎっしりと詰まっただるまさんの顔。
絵付け前の状態。「七転び八起き」を支える台座がよりはっきり見て取れる。
絵付け前の状態。「七転び八起き」を支える台座がよりはっきり見て取れる。
こんな小さなだるまにも、サラサラと筆が進む。
こんな小さなだるまにも、サラサラと筆が進む。

だるまの目入れはテレビの申し子?

せっかくなので女将さんに、だるまについてさらに詳しく教えてもらいましょう。

だるまというと選挙の時に目を入れるのが有名ですね、というと、意外なお話を聞かせてくれました。

「駅の大きなだるまは、両目が入っていたでしょう。だるまは『目』にその魔除け力があります。

江戸時代に視力を失う病が流行って、大きな目のだるまが人気になりました。ですからその当時は、黒々と両目が入っていたんですよ。

ただ、願掛けのものですから、そのうちに買い求める人から目の入れ方に注文が付くようになった。

それでお客さんに自分で目を入れてもらうのがいいだろう、と片目や白目のだるまが出てきたと聞いています。

願いが叶ってからだるまに目を入れるイメージは、テレビの時代に入って強くなりました。選挙選で当選した議員さんが筆で目を入れる姿が印象的だったのでしょうね。

本来は仏像と同じように神聖なものですから、両目が入っていた方が何よりパワーが発揮されます。飾る際も、初めから両目を入れておくのがおすすめですよ」

まさかだるまの目入れのイメージが、テレビの影響だったとは。

お客さんの納得がいくように自分で目を入れてもらう、というのも、今の商売にも通じるような発想の転換です。

神聖な存在に、少しずつエンターテイメント性が加わってきたものが、今のだるまさんの姿のようです。

ちなみにこれは東日本に多いだるまさんだそうで、西日本では黒目の鉢巻きだるまが多いそうですよ。

女将さんおすすめ・だるまの選び方

店内の一角には手のひらサイズから両手でも抱えきれない特大サイズまで、大きさ見本のだるまがずらりと並ぶコーナーがあります。

サイズの単位は「丸(まる)」。いちまる、よんまる、と呼んでいるそうです。丸々としただるまさんらしい、愛らしい響き。それぞれどんな人がどんな時に注文するのでしょうか。

下段が10丸未満のもの、中断は10〜20丸、上段は30〜60丸まで並ぶ。
下段が10丸未満のもの、中断は10〜20丸、上段は30〜60丸まで並ぶ。

「ご自宅用ですと今はマンション住まいにも合う、2.5丸が人気です。

結婚式だと4丸、両親への贈り物だと8丸が多いですね。

選挙だるまは、昔は60丸が多かったのですが、今は20丸くらい。政治家は守りたい人が多いでしょう、願いが大きいと、大きいだるまになるんですね。

解決したい悩み事が大きいときには、大きいだるまさんを買って、だんだん小さくしていくのがおすすめです」

酉の市の熊手と同じように、だるまも買い換える毎に大きくするイメージでしたが、なるほど縁起物らしい買い方を伺えました。

もうひとつ面白かったのが、群馬県出身のカップルに多いという、結婚式での活用方法。

「結婚式にご招待した方のお名札代わりに、名入れした1丸(手のひらサイズ)のだるまを置くんです。

小さいサイズなら名入れしても価格も手頃ですし、そのままお客さまがお土産に持って帰れるので、喜ばれているようです」

店内にはウェデイング用のだるまコーナーも。
店内にはウェデイング用のだるまコーナーも。

確かに参列した人にはこれ以上ない縁起の良い手土産ですね。しかも自分の名前入りというのは嬉しい。

「自分の名前が入るとだるまさんがまた格別な存在になります。うちに名入れを頼まれた方も、取りに来て実物を見ると『まぁ!』と目を輝かされますね。

他にもご友人が会社を立ち上げる際に、お祝いに会社のロゴ入りを贈られる方もいらっしゃいます」

いつでも身近に。覚えておきたい、だるまの飾り方

今日1日でだるまさんが一気に身近になりました。ちなみに家での飾り方ってあるのでしょうか?

「だるまさんは魔除けなので、玄関に向けて飾ってください。力が発揮できるように、袋からは出しておいてくださいね。

置き場所はどこでも構いません。ただ、自分にとって身近なところに置いて、初めに願を掛けた時のことを時々思い出して欲しいんです。だるまさんは、思いや願いの物質化ですから」

真下さんの「人の数だけ、願いがある」との言葉が思い出されました。

例えば家族そろって、来年もまたいい年になりますようにと願いを込めて。

新郎新婦が、自分たちの門出を祝ってくれる人たちへの感謝の印に。難しい試験に挑戦する友人への応援に。大きなチャレンジをするときの、自分の味方として。

人の数だけある願いを、だるまはお腹に秘めています。

「だるまは願いがある限り、生活に欠かせないんだよ」

再びボソリとつぶやかれた真下さんの言葉を頭の中で響かせつつ、工房を後にしました。

三代目だるま屋 ましも
群馬県高崎市八千代町2-4-5
027-386-4332
http://www.mashimo-terunaga.com/index.html

<関連商品>
中川政七商店
干支だるま 酉

富士山だるま

招き猫だるま

幸運の白鹿だるま

わっしょいだるま 女子

<関連ニュース>
北関東初出店「中川政七商店 高崎オーパ店」2017年10月13日 (金) オープン!

<参考>
小学館『日本大百科全書』
群馬県達磨製造協同組合公式サイト<http://takasakidaruma.net/>(2016/12/23時点)
高崎市公式サイト「高崎だるまの歴史」<http://www.city.takasaki.gunma.jp/kankou/souvenir/daruma-history.html>(2016/12/23時点)


文・写真:尾島可奈子

RENEW × 大日本市鯖江博覧会2017 公式アプリ「さんちの手帖」の使い方

RENEW × 大日本市鯖江博覧会とは?

2017年10月12日(木)~15日(日)の4日間に渡って行われる工芸産地のイベント。

「RENEW」は、普段は見ることのできない工房が特別に開放され、ものづくりの現場を見学・体験できる、体感型マーケット。2015年から始まり、年に一度福井県鯖江市河和田地区で開催されています。<br/ ><br/ >「大日本市博覧会」は、「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げる中川政七商店が、100年後の「工芸大国・日本」を目指し2016年より開始した産地巡礼型の工芸の祭典。

その両者の想いが合致し、2017年は「RENEW×大日本市鯖江博覧会」が開催されることになりました。

特設ページはこちらからどうぞ!

全80ヶ所の 見どころがアプリの中に

工房、ショップなどの見どころめぐりのガイドに欠かせないのが、公式ガイドアプリ「さんちの手帖」。80ヶ所すべての見どころ情報をアプリで見ることができます。

 

app store さんちの手帖
google play さんちの手帖

 

ここからは、RENEW × 大日本市鯖江博覧会を120%楽しむアプリの使い方をご紹介。

見どころめぐりを、もっと楽しく便利に

地図を開けば、どの場所にどんな見どころがあるのか一目瞭然。
位置情報をオンにすると、自分の今いる位置から近いスポットを確認できます。

 

旅印を集めてプレゼントをもらおう!

すべての見どころが、「旅印」の獲得ポイント。アプリを使って旅印を集めると、集めた数に応じて会場限定のプレゼントがもらえます。

アプリをダウンロードして各見どころを訪ねると、「旅印」を獲得できることを知らせる通知が届きます。(※事前にアプリ画面から通知の許可が必要です)
イベント中、集めた「旅印」の数に応じて、RENEW × 大日本市鯖江博覧会限定のプレゼントがもらえます。

<プレゼントその1:旅印80個>
TOKYOBIKE 漆塗りエディション・1名様

80の見どころを周り旅印を集めてくださった方には抽選で、「TOKYOBIKE 漆塗りエディション」をプレゼント!人気の自転車ブランド「TOKYOBIKE(トーキョーバイク)」と鯖江市の越前漆器の老舗「漆琳堂」がコラボレーションした、漆塗りのスペシャル仕様となっております。

トーキョーバイク・漆琳堂(しつりんどう)・中川政七商店 鯖江博覧会×renew(リニュー)
TOKYOBIKE漆塗りエディション 抽選1名様

 

<プレゼントその2: 旅印30個>
CAP SABA(tsugi) / 漆椀(お椀や うちだ)

福井県鯖江市を拠点とするデザイン事務所 TSUGI(ツギ)による「めがねのまち、鯖江」をモチーフとしたキャップと、同じく鯖江市を拠点とする1793年(寛永5年)創業の老舗・漆琳堂が手がける「おわんや うちだ」の漆椀をプレゼント。<br/ >なかなか手に入らないプロダクトたちをこの機会にぜひ。

RENEW × 大日本市鯖江博覧会
SABA CAP(tsugi)と漆椀(お椀や うちだ )各15名様

 

<プレゼントその3:旅印5個>
RENEW × 大日本市鯖江博覧会 特製ふきん(非売品)

「さんちの手帖」を運営する中川政七商店から、創業地・奈良特産の蚊帳生地を生かした人気のふきんをプレゼント。旅印5つなら、意外と近くで集まりますよ!

非売品蚊帳ふきん RENEW× 大日本市鯖江博覧会
RENEW × 大日本市博覧会限定・さんちの手帖ふきん

※ プレゼントの交換場所は、「うるしの里会館」です。
※ RENEW×大日本市博覧会の期間(2017年10月12日~15日)以外に集められた旅印はプレゼント交換の対象にはなりません。

 

「さんちの手帖の使い方」

ここからは、具体的なアプリの使い方をご案内していきます。

 

 

<RENEW × 大日本市鯖江博覧会 特設ページへ>

アプリのTOPページに設置された、「RENEW × 大日本市鯖江博覧会 」特設バナーをタップしてください

RENEW × 大日本市鯖江博覧会

 

<見どころを探す>

「見どころ」タブから、80ヶ所すべての見どころ情報を見ることができます

RENEW ×大日本市博覧会

イベントを楽しむほど、豪華プレゼントに1歩近づきます。ぜひご参加ください!

 

<「旅印」を取得する>

各見どころに入ると、お知らせが届きます。お知らせをタップして旅印を取得しましょう

RENEW × 大日本市鯖江博覧会

通知を逃してしまったら・・

通知が消えてしまっても、アプリメニューの「訪問した見どころ」からも旅印を取得することができます

RENEW ×大日本市鯖江博覧会 中川政七商店
通知が消えてしまっても、「訪問した見どころ」からも旅印を取得することができます

 

<「旅印」を確認する>

獲得した「旅印」は、下のメニューの「旅印帖」で確認できます

RENEW × 大日本市鯖江博覧会

<Q & A>

Q:プレゼントはどこでもらえますか?
→ A.さんちブース(場所:うるしの里会館)へお越しください

 

Q:近くにいるのに、旅印の通知がきません
→ A.位置情報サービスはオンになっていますか?また通知を許可していますか?
(左上メニューにある「通知設定」・「位置情報設定」をご確認ください)

 

Q:通知設定も位置情報設定もオンになっていますが、見どころにきても通知がきません
→ A.一度、該当の見どころから100m以上離れて再度近づいてみてください

 

Q:使い方がわからないので質問をしたいです
→ A.さんちブース(場所:うるしの里会館)へお越しください

 

 

「さんちの手帖」をダウンロード

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お茶のキーアイテム「茶杓」を自分の手で作る!茶杓削りに挑戦

こんにちは。ライターの小俣荘子です。

様々な習い事の体験を綴る記事、「三十の手習い」。現在「茶道編」を連載中ですが、今回はそのスピンオフ企画を前編後編の2回に渡ってお届けしています。

室町時代から続く茶筅 (ちゃせん) の一大産地、奈良県の北西に位置する高山。この地で500年以上、茶筅作りを続け、江戸時代に徳川幕府によって「丹後 (たんご) 」の名を与えられた茶筅師の家、和北堂 (わほくどう) 谷村家を訪ねました。 (前編では、茶筅作りを見学させていただきました)

谷村さんお手製の茶筅作りの工程模型
谷村さんお手製の茶筅作りの工程模型

茶杓作りに挑戦!

谷村さんの工房では、茶筅作りの見学のほか、茶筅作りの最終段階である糸掛けや、茶杓 (ちゃしゃく) 削りも体験できます。(※見学、体験ともに要予約)

お茶をすくうための道具「茶杓」
お茶をすくうための道具「茶杓」。茶人が自作することもあり、個性が表れるお茶のキーアイテムです

せっかくの機会ですので、茶筅作りを見学した後、「茶杓削り体験」もさせていただくことに。

ご一緒した、さんちの連載「気ままな旅に、本」でもお馴染みブックディレクターの幅允孝さん、中川編集長とも親交の深いJFL奈良クラブGMの矢部次郎さん、中川編集長と挑戦です。

茶杓作りの工程模型。体験は、4番目の櫂先 (かいさき) がカーブした状態のものを削るところからスタートです!
茶杓作りの工程模型。体験は、4番目の櫂先 (かいさき) がカーブした状態のものを削るところからスタートです!

個性表れる自作のキーアイテム

お茶が始まった当時は、お茶をすくうのに薬さじが使われていたといいます。薬さじは毒によって色が変わるとされた象牙や銀などでつくられていましたが、象牙の代わりに、手に入りやすい竹を用いて作られ始めたのが現在の茶杓の原型なのだそうです。

竹で作られた当初は節の無い部分を使って作られていましたが、千利休が節を生かすことを試みます。竹のもつ独特のフォルムを象徴的に生かし、素材の持ち味を際立たせるというアイデアにより、現在なお使い続けられている茶杓のデザインが誕生しました。単に手に入りやすい素材だからと竹を使うのではなく、竹の特徴を美しさとして示すことで、「あえて竹で作る」意味を見出したのですね。

茶杓は、茶人が自らの手で作って個性を表現できるもの。偉大な茶人の茶杓が分身として後世まで大事に残されたり、銘をつけて、共筒に入れて保管する習慣も定着していきました。現代のお茶会でも、その会を象徴する重要なアイテムとして扱われています。

誰もが作れるお茶のキーアイテム。そう聞くと、私も持ちたい!俄然やる気が湧いてきました。

さて、私たちが作る茶杓にはどんな個性が表れるでしょう。竹の種類や染みなどの景色、削る形によっても全く異なる茶杓が出来上がります。まずは、谷村さんが用意してくださった竹の中からお気に入りの1本を選び、削り方を教わりました。

刃先に集中して、ひと削り。また、ひと削り。没入感を味わう

谷村さんによる茶杓削りの実演。竹の扱いや削り方の向きなどお手本を見せていただきます
谷村さんによる茶杓削りの実演。竹の扱いや削り方の向きなどお手本を見せていただきます

一度削り過ぎると、もう元には戻せません。持ち手の太さや櫂先の形など、仕上がりをイメージしながら少しずつ慎重に削っていきます。

真剣に無言で削り続ける幅さん (左) と矢部さん (右)
真剣に無言で削り続ける幅さん (左) と矢部さん (右)

部屋に響くのは竹を削る音だけ。ついつい夢中になってしまい、あっという間に時間が過ぎていきます。ひと削り、ひと削りに集中していると、心が整うような‥‥澄んだ心になるような不思議な気分をみなさんと味わいました。

茶杓には個性が表れるということでしたが、削り方も人によって様々。素早い手つきで、細い繊細な柄を削り出していく矢部さん、同じく細い柄を生み出すのにゆっくりと刃を当てていく幅さん。中川編集長はしっかりとした太めの柄を時間をかけて整えていました。

お茶を乗せる櫂先の削り出し。角の丸さや幅、厚みを指先で確認しながら削り、調整していきます
お茶を乗せる櫂先の削り出し。角の丸さや幅、厚みを指先で確認しながら削り、調整していきます

そんな丁寧な仕事ぶりの男性陣の横で、豪快に刃を当てて削っている自分に気づき恥ずかしくなっていると、「意外と女性の方が思い切りが良かったりするんですよ、削りすぎに気をつければ大丈夫です」と声をかけてくださる谷村さん。励ましていただき再び集中します。

形が整った後は、ヤスリをかけて仕上げます。

真剣な眼差しでヤスリがけする中川編集長
真剣な眼差しでヤスリがけする中川編集長

「よし!これで!」と決意して銘をつけて完成させるも良しですが、作り始めるとなかなか決心がつかず、持ち帰って家で仕上げる方も多いそうです。

体験のあと、お茶をいただきながらお互いの作品を鑑賞し合います
体験のあと、お茶をいただきながらお互いの作品を鑑賞し合います

お互いの茶杓を見比べていると、それぞれのこだわりや美意識が伺えたり、茶杓を通してその方のお人柄を感じたり。本当に全員違うものができああがるので、ものを通じて語り合う楽しさがありました。

左から、中川編集長、幅さん、矢部さん、小俣の作品
左から、中川編集長、幅さん、矢部さん、小俣の作品

これで完成!と決意された幅さん。茶杓につけた銘は「初陣」。 初の挑戦を戦国の武将たちになぞらえるようなネーミング、かっこいいです!

「銘をつけるまでが茶杓作りです。完成させてくださいね」と、谷村さんに笑顔で送り出していただきました。

こうして作ってみると使ってみたくなるもの。後日、ピクニックに出かける際に作った茶杓を持っていき、略式でお茶を点てて友人たちに振る舞ってみました。お茶を楽しむきっかけがまた一つ増えて嬉しくなりました。 (ちなみに、私の茶杓の銘は「大味」としました。大雑把な私の性格が表れた茶杓ですが、屋外でおおらかに使うのにぴったり!ということでここはひとつ‥‥) 。

<取材協力>
和北堂 谷村丹後
住所: 奈良県生駒市高山町5964

文・写真:小俣荘子

宍道湖七珍、最高のシジミ汁で〆る松江の夜

こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。

旅先で味わいたいのはやはりその土地ならではの料理です。あとは地酒と地の器などがそろえば、もうこの上なく。産地で晩酌、今夜は松江で一杯。

なんでも松江には”スモウアシコシ”と呼ばれる宍道湖の珍味があると聞いて、昭和39年創業の「やまいち」さんののれんをくぐります。

宍道湖に注ぐ川沿い、新大橋のたもとにたつ「やまいち」さん。看板に宍道湖に沈む夕日が注ぎます

まだ夜と言うには早い、午後4時半。カウンターに腰を落ち着けると、目の前にはたっぷりと盛られた大皿料理、味のある手書きのお品書き。

この景色だけで幸せな気分になりますが、さらに目を引いたのがカウンター奥で湯気を立てるおでん。

おでん

松江の居酒屋さんでは冬に限らず、一年中おでんが並ぶのだそうです。

まずは地酒「豊の秋」を頼みつつ、お目当ての「スモウアシコシ」と、おでんも何品か食べたいな。ご主人におすすめを尋ねます。

―今日は、赤貝とモロゲエビだね。モロゲエビは今が出始めで、揚げると甘みが出ておいしいよ!

モロゲエビ!これこそがお目当ての「スモウアシコシ」のひとつらしいのです。

松江には淡水と海水の混ざる宍道湖が育んだスズキ、モロゲエビ、ウナギ、アマサギ、シラウオ、コイ、シジミがあり、これらは宍道湖七珍と呼ばれます。あまり多いので、地元の方は相撲発祥の地とされる松江らしく「スモウアシコシ」と覚えるそう。

まずは大皿にたっぷりと盛られていた赤貝で一杯
宍道湖七珍のひとつモロゲエビは、地元出西窯の器によそわれて出てきました

唐揚げでいただいたモロゲエビは、はじめカリっと、奥歯でじゅわっと、噛むほどにうまみが口の中に広がります。宍道湖の恵みに感謝せずにはいられません。

お酒と旬の一品で程よく体も温まってきたところで、先ほどからグツグツと幸せな音を立てているおでんを頼みます。

大きな具には女将さんがハサミを入れてくれる

お任せで選んでくれたのは里芋、春菊、厚焼き玉子、それに丸ごと一杯のイカ。春菊はさっと出汁にくぐらせれば十分。厚焼き玉子はやまいちさんオリジナルの具材だそうです。

イカは大皿に並んでいたものを出汁で茹でてから出してくれます。

おでんの具材

しっかり出汁がしみた里芋と玉子焼き、シャキッとした歯ごたえの春菊、プリップリのイカ。美味の前では言葉はいらず。お酒もお箸もよく進みます。

さてお腹もふくらんで、最後はもちろん宍道湖七珍、シジミで〆を。ふっくらしたシジミが溢れるほどに入ったお味噌汁で堪能します。

漁獲量日本一、宍道湖のシジミがたっぷり

合わせ味噌にシジミの出汁が効いて、沁みる美味しさとはまさにこのこと。宍道湖の恵みにまたしても感謝して、ごちそうさまです。

美味しいものたちとのご縁を授けてくれた出雲大社にお礼参りに行くべきか、そんなことを思いながら、お店を出るとちょうど日が沈む頃合い。お店から川沿いを歩くと、遠くに宍道湖へ沈む夕日がみえました。

「ばんじまして」と、出雲の夕方のあいさつを使ってみたくなる

こちらでいただけます

やまいち
島根県松江市東本町4-1
0852-23-0223


文:田中佑実
写真:尾島可奈子