細萱久美が選ぶ、生活と工芸を知る本棚『堀井和子 和のアルファベットスタイル 日本の器と北欧のデザイン』

こんにちは。中川政七商店バイヤーの細萱です。

生活と工芸にまつわる本を紹介する連載の五冊目です。今回は、個人的にかなり想い入れのある本をご紹介します。

堀井和子さんの『和のアルファベットスタイル』というエッセイで、器やインテリアの綺麗な写真が添えられています。本の紹介をする前に、まずは堀井さんのことを。

堀井さんの肩書きは一言に表せないのですが、料理スタイリストに始まり、食や料理の本を多数出版されたり、「粉料理研究家」という時期もありました。

以降もインテリア、雑貨、暮らし、国内外の旅などにまつわる本も数多く執筆。現在は、ご主人と「1丁目ほりい事務所」を構え、食器やテキスタイルをデザインしたり、アートやイラストなどの企画展をされたりと、幅広い活躍をされています。

精力的に堀井さんが出版されていたのはかれこれ30年前くらいなので、現在40~50代の雑貨好き女性はご存知のことでしょう。熱烈なファンも多く、私もまさにその一人。著書は全て持っていて、今後も手放すことは無さそうです。

なぜそこまで堀井さんに惹かれるのだろう?

わたしを離さない理由はいくつかありますが、センスやスタイルが誰とも違っていて、オリジナルを貫いていること。そしてそのスタイルが流行などに左右されず、ブレのないことが大きいのです。

その大きな特徴は、本のデザインやイラスト、写真まで全てご自身で手掛け、パーソナルブランディングがしっかりしていることです。そこまでトータルに手掛ける方は、今でも少ないと思います。

初めて読んだのはパンやお菓子の本ですが、単なるレシピ本ではなく、そのアートな感じに「なんだこのおしゃれな本は!」と、大学生の私にはものすごい衝撃でした。旅の本に書かれていたアメリカのバークレーに憧れて、卒業旅行で訪ねるほどでした。

それまで、料理にも暮らしのことにもさほど興味のなかった私ですが、食や身の回りのものに一気に興味が沸いたのも堀井さんの影響が何よりも大きく、今の仕事にもつながっている気がします。

16年前の本なのに新鮮に読める、「好き」を磨くヒントがいっぱい

『和のアルファベットスタイル』には、堀井さんの持ち物である、和と北欧の食器やインテリアに加え、缶や紙ナプキンのコレクション、それらに関する本も紹介されています。発行は2001年と16年も前ですが、今でも新鮮な感覚で見られるのが凄いところ。

そういえば、北欧ブームが起きたのも、映画の「かもめ食堂」の公開や、イケアの日本進出の2006年前後でしょうか。北欧と日本のモノに親和性があることを知ったのも堀井さんからかもしれません。

本では東北地方を紹介したページもあり、中川政七商店でもお取引のある「釜定」さんも取り上げられています。釜定の鉄瓶や鉄のフライパンはモダンで、北欧やフランスの鋳物にも通じるデザインを感じます。

他にも工芸の店の「光原社」や、ざるやかごの「ござく森久商店」の存在もこの本で知り、美しい手しごとに一気に興味を抱きました。その後、東北を旅したのは言うまでもなく、盛岡には何度か足を運んでいます。

紹介されているコレクションや本は、デザインがどれも素敵です。料理、アート、デザイン、建築、工芸、絵本などのジャンルにおいて、装丁やレイアウトの美しい、楽しい本がお好きとのこと。私も「見せるため為の本」を飾っていますが、それも堀井さんに本の美しさ、楽しさを教わったからなのだと思います。

堀井さんからもらった影響のせいでしょうか、いまでも缶が欲しくてお菓子を買うことも少なくないですし、風合いの良い紙は捨てられずに取ってあります。お金や希少性ではない自分だけの宝物ってあるなと共感しています。

たとえば、「骨董屋や、美術館の展示を前に、どれか一品を買えるとしたらと想像して、いつも最後に『これにする!』」と決めるのだとか。そうすると、「すごいと思うもの」と「好きだと感じるもの」が一致するわけではないことに気付けるのだとか。なにも国宝や重要文化財だから自分の気持ちが動くのではありませんからね。

そう言えば、自然とそのような見方をしている自分にふと気付き、ようやく「好き」にブレが無くなってきたように思え、少し嬉しくなりました。

<今回ご紹介した書籍>
『和のアルファベットスタイル 日本の器と北欧のデザイン』
堀井和子/ 文化出版局

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。


文:細萱久美
写真:杉浦葉子

RENEW × 大日本市鯖江博覧会2017 公式アプリ「さんちの手帖」の使い方

RENEW × 大日本市鯖江博覧会とは?

2017年10月12日(木)~15日(日)の4日間に渡って行われる工芸産地のイベント。

「RENEW」は、普段は見ることのできない工房が特別に開放され、ものづくりの現場を見学・体験できる、体感型マーケット。2015年から始まり、年に一度福井県鯖江市河和田地区で開催されています。<br/ ><br/ >「大日本市博覧会」は、「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げる中川政七商店が、100年後の「工芸大国・日本」を目指し2016年より開始した産地巡礼型の工芸の祭典。

その両者の想いが合致し、2017年は「RENEW×大日本市鯖江博覧会」が開催されることになりました。

特設ページはこちらからどうぞ!

全80ヶ所の 見どころがアプリの中に

工房、ショップなどの見どころめぐりのガイドに欠かせないのが、公式ガイドアプリ「さんちの手帖」。80ヶ所すべての見どころ情報をアプリで見ることができます。

 

app store さんちの手帖
google play さんちの手帖

 

ここからは、RENEW × 大日本市鯖江博覧会を120%楽しむアプリの使い方をご紹介。

見どころめぐりを、もっと楽しく便利に

地図を開けば、どの場所にどんな見どころがあるのか一目瞭然。
位置情報をオンにすると、自分の今いる位置から近いスポットを確認できます。

 

旅印を集めてプレゼントをもらおう!

すべての見どころが、「旅印」の獲得ポイント。アプリを使って旅印を集めると、集めた数に応じて会場限定のプレゼントがもらえます。

アプリをダウンロードして各見どころを訪ねると、「旅印」を獲得できることを知らせる通知が届きます。(※事前にアプリ画面から通知の許可が必要です)
イベント中、集めた「旅印」の数に応じて、RENEW × 大日本市鯖江博覧会限定のプレゼントがもらえます。

<プレゼントその1:旅印80個>
TOKYOBIKE 漆塗りエディション・1名様

80の見どころを周り旅印を集めてくださった方には抽選で、「TOKYOBIKE 漆塗りエディション」をプレゼント!人気の自転車ブランド「TOKYOBIKE(トーキョーバイク)」と鯖江市の越前漆器の老舗「漆琳堂」がコラボレーションした、漆塗りのスペシャル仕様となっております。

トーキョーバイク・漆琳堂(しつりんどう)・中川政七商店 鯖江博覧会×renew(リニュー)
TOKYOBIKE漆塗りエディション 抽選1名様

 

<プレゼントその2: 旅印30個>
CAP SABA(tsugi) / 漆椀(お椀や うちだ)

福井県鯖江市を拠点とするデザイン事務所 TSUGI(ツギ)による「めがねのまち、鯖江」をモチーフとしたキャップと、同じく鯖江市を拠点とする1793年(寛永5年)創業の老舗・漆琳堂が手がける「おわんや うちだ」の漆椀をプレゼント。<br/ >なかなか手に入らないプロダクトたちをこの機会にぜひ。

RENEW × 大日本市鯖江博覧会
SABA CAP(tsugi)と漆椀(お椀や うちだ )各15名様

 

<プレゼントその3:旅印5個>
RENEW × 大日本市鯖江博覧会 特製ふきん(非売品)

「さんちの手帖」を運営する中川政七商店から、創業地・奈良特産の蚊帳生地を生かした人気のふきんをプレゼント。旅印5つなら、意外と近くで集まりますよ!

非売品蚊帳ふきん RENEW× 大日本市鯖江博覧会
RENEW × 大日本市博覧会限定・さんちの手帖ふきん

※ プレゼントの交換場所は、「うるしの里会館」です。
※ RENEW×大日本市博覧会の期間(2017年10月12日~15日)以外に集められた旅印はプレゼント交換の対象にはなりません。

 

「さんちの手帖の使い方」

ここからは、具体的なアプリの使い方をご案内していきます。

 

 

<RENEW × 大日本市鯖江博覧会 特設ページへ>

アプリのTOPページに設置された、「RENEW × 大日本市鯖江博覧会 」特設バナーをタップしてください

RENEW × 大日本市鯖江博覧会

 

<見どころを探す>

「見どころ」タブから、80ヶ所すべての見どころ情報を見ることができます

RENEW ×大日本市博覧会

イベントを楽しむほど、豪華プレゼントに1歩近づきます。ぜひご参加ください!

 

<「旅印」を取得する>

各見どころに入ると、お知らせが届きます。お知らせをタップして旅印を取得しましょう

RENEW × 大日本市鯖江博覧会

通知を逃してしまったら・・

通知が消えてしまっても、アプリメニューの「訪問した見どころ」からも旅印を取得することができます

RENEW ×大日本市鯖江博覧会 中川政七商店
通知が消えてしまっても、「訪問した見どころ」からも旅印を取得することができます

 

<「旅印」を確認する>

獲得した「旅印」は、下のメニューの「旅印帖」で確認できます

RENEW × 大日本市鯖江博覧会

<Q & A>

Q:プレゼントはどこでもらえますか?
→ A.さんちブース(場所:うるしの里会館)へお越しください

 

Q:近くにいるのに、旅印の通知がきません
→ A.位置情報サービスはオンになっていますか?また通知を許可していますか?
(左上メニューにある「通知設定」・「位置情報設定」をご確認ください)

 

Q:通知設定も位置情報設定もオンになっていますが、見どころにきても通知がきません
→ A.一度、該当の見どころから100m以上離れて再度近づいてみてください

 

Q:使い方がわからないので質問をしたいです
→ A.さんちブース(場所:うるしの里会館)へお越しください

 

 

「さんちの手帖」をダウンロード

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お茶のキーアイテム「茶杓」を自分の手で作る!茶杓削りに挑戦

こんにちは。ライターの小俣荘子です。

様々な習い事の体験を綴る記事、「三十の手習い」。現在「茶道編」を連載中ですが、今回はそのスピンオフ企画を前編後編の2回に渡ってお届けしています。

室町時代から続く茶筅 (ちゃせん) の一大産地、奈良県の北西に位置する高山。この地で500年以上、茶筅作りを続け、江戸時代に徳川幕府によって「丹後 (たんご) 」の名を与えられた茶筅師の家、和北堂 (わほくどう) 谷村家を訪ねました。 (前編では、茶筅作りを見学させていただきました)

谷村さんお手製の茶筅作りの工程模型
谷村さんお手製の茶筅作りの工程模型

茶杓作りに挑戦!

谷村さんの工房では、茶筅作りの見学のほか、茶筅作りの最終段階である糸掛けや、茶杓 (ちゃしゃく) 削りも体験できます。(※見学、体験ともに要予約)

お茶をすくうための道具「茶杓」
お茶をすくうための道具「茶杓」。茶人が自作することもあり、個性が表れるお茶のキーアイテムです

せっかくの機会ですので、茶筅作りを見学した後、「茶杓削り体験」もさせていただくことに。

ご一緒した、さんちの連載「気ままな旅に、本」でもお馴染みブックディレクターの幅允孝さん、中川編集長とも親交の深いJFL奈良クラブGMの矢部次郎さん、中川編集長と挑戦です。

茶杓作りの工程模型。体験は、4番目の櫂先 (かいさき) がカーブした状態のものを削るところからスタートです!
茶杓作りの工程模型。体験は、4番目の櫂先 (かいさき) がカーブした状態のものを削るところからスタートです!

個性表れる自作のキーアイテム

お茶が始まった当時は、お茶をすくうのに薬さじが使われていたといいます。薬さじは毒によって色が変わるとされた象牙や銀などでつくられていましたが、象牙の代わりに、手に入りやすい竹を用いて作られ始めたのが現在の茶杓の原型なのだそうです。

竹で作られた当初は節の無い部分を使って作られていましたが、千利休が節を生かすことを試みます。竹のもつ独特のフォルムを象徴的に生かし、素材の持ち味を際立たせるというアイデアにより、現在なお使い続けられている茶杓のデザインが誕生しました。単に手に入りやすい素材だからと竹を使うのではなく、竹の特徴を美しさとして示すことで、「あえて竹で作る」意味を見出したのですね。

茶杓は、茶人が自らの手で作って個性を表現できるもの。偉大な茶人の茶杓が分身として後世まで大事に残されたり、銘をつけて、共筒に入れて保管する習慣も定着していきました。現代のお茶会でも、その会を象徴する重要なアイテムとして扱われています。

誰もが作れるお茶のキーアイテム。そう聞くと、私も持ちたい!俄然やる気が湧いてきました。

さて、私たちが作る茶杓にはどんな個性が表れるでしょう。竹の種類や染みなどの景色、削る形によっても全く異なる茶杓が出来上がります。まずは、谷村さんが用意してくださった竹の中からお気に入りの1本を選び、削り方を教わりました。

刃先に集中して、ひと削り。また、ひと削り。没入感を味わう

谷村さんによる茶杓削りの実演。竹の扱いや削り方の向きなどお手本を見せていただきます
谷村さんによる茶杓削りの実演。竹の扱いや削り方の向きなどお手本を見せていただきます

一度削り過ぎると、もう元には戻せません。持ち手の太さや櫂先の形など、仕上がりをイメージしながら少しずつ慎重に削っていきます。

真剣に無言で削り続ける幅さん (左) と矢部さん (右)
真剣に無言で削り続ける幅さん (左) と矢部さん (右)

部屋に響くのは竹を削る音だけ。ついつい夢中になってしまい、あっという間に時間が過ぎていきます。ひと削り、ひと削りに集中していると、心が整うような‥‥澄んだ心になるような不思議な気分をみなさんと味わいました。

茶杓には個性が表れるということでしたが、削り方も人によって様々。素早い手つきで、細い繊細な柄を削り出していく矢部さん、同じく細い柄を生み出すのにゆっくりと刃を当てていく幅さん。中川編集長はしっかりとした太めの柄を時間をかけて整えていました。

お茶を乗せる櫂先の削り出し。角の丸さや幅、厚みを指先で確認しながら削り、調整していきます
お茶を乗せる櫂先の削り出し。角の丸さや幅、厚みを指先で確認しながら削り、調整していきます

そんな丁寧な仕事ぶりの男性陣の横で、豪快に刃を当てて削っている自分に気づき恥ずかしくなっていると、「意外と女性の方が思い切りが良かったりするんですよ、削りすぎに気をつければ大丈夫です」と声をかけてくださる谷村さん。励ましていただき再び集中します。

形が整った後は、ヤスリをかけて仕上げます。

真剣な眼差しでヤスリがけする中川編集長
真剣な眼差しでヤスリがけする中川編集長

「よし!これで!」と決意して銘をつけて完成させるも良しですが、作り始めるとなかなか決心がつかず、持ち帰って家で仕上げる方も多いそうです。

体験のあと、お茶をいただきながらお互いの作品を鑑賞し合います
体験のあと、お茶をいただきながらお互いの作品を鑑賞し合います

お互いの茶杓を見比べていると、それぞれのこだわりや美意識が伺えたり、茶杓を通してその方のお人柄を感じたり。本当に全員違うものができああがるので、ものを通じて語り合う楽しさがありました。

左から、中川編集長、幅さん、矢部さん、小俣の作品
左から、中川編集長、幅さん、矢部さん、小俣の作品

これで完成!と決意された幅さん。茶杓につけた銘は「初陣」。 初の挑戦を戦国の武将たちになぞらえるようなネーミング、かっこいいです!

「銘をつけるまでが茶杓作りです。完成させてくださいね」と、谷村さんに笑顔で送り出していただきました。

こうして作ってみると使ってみたくなるもの。後日、ピクニックに出かける際に作った茶杓を持っていき、略式でお茶を点てて友人たちに振る舞ってみました。お茶を楽しむきっかけがまた一つ増えて嬉しくなりました。 (ちなみに、私の茶杓の銘は「大味」としました。大雑把な私の性格が表れた茶杓ですが、屋外でおおらかに使うのにぴったり!ということでここはひとつ‥‥) 。

<取材協力>
和北堂 谷村丹後
住所: 奈良県生駒市高山町5964

文・写真:小俣荘子

宍道湖七珍、最高のシジミ汁で〆る松江の夜

こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。

旅先で味わいたいのはやはりその土地ならではの料理です。あとは地酒と地の器などがそろえば、もうこの上なく。産地で晩酌、今夜は松江で一杯。

なんでも松江には”スモウアシコシ”と呼ばれる宍道湖の珍味があると聞いて、昭和39年創業の「やまいち」さんののれんをくぐります。

宍道湖に注ぐ川沿い、新大橋のたもとにたつ「やまいち」さん。看板に宍道湖に沈む夕日が注ぎます

まだ夜と言うには早い、午後4時半。カウンターに腰を落ち着けると、目の前にはたっぷりと盛られた大皿料理、味のある手書きのお品書き。

この景色だけで幸せな気分になりますが、さらに目を引いたのがカウンター奥で湯気を立てるおでん。

おでん

松江の居酒屋さんでは冬に限らず、一年中おでんが並ぶのだそうです。

まずは地酒「豊の秋」を頼みつつ、お目当ての「スモウアシコシ」と、おでんも何品か食べたいな。ご主人におすすめを尋ねます。

―今日は、赤貝とモロゲエビだね。モロゲエビは今が出始めで、揚げると甘みが出ておいしいよ!

モロゲエビ!これこそがお目当ての「スモウアシコシ」のひとつらしいのです。

松江には淡水と海水の混ざる宍道湖が育んだスズキ、モロゲエビ、ウナギ、アマサギ、シラウオ、コイ、シジミがあり、これらは宍道湖七珍と呼ばれます。あまり多いので、地元の方は相撲発祥の地とされる松江らしく「スモウアシコシ」と覚えるそう。

まずは大皿にたっぷりと盛られていた赤貝で一杯
宍道湖七珍のひとつモロゲエビは、地元出西窯の器によそわれて出てきました

唐揚げでいただいたモロゲエビは、はじめカリっと、奥歯でじゅわっと、噛むほどにうまみが口の中に広がります。宍道湖の恵みに感謝せずにはいられません。

お酒と旬の一品で程よく体も温まってきたところで、先ほどからグツグツと幸せな音を立てているおでんを頼みます。

大きな具には女将さんがハサミを入れてくれる

お任せで選んでくれたのは里芋、春菊、厚焼き玉子、それに丸ごと一杯のイカ。春菊はさっと出汁にくぐらせれば十分。厚焼き玉子はやまいちさんオリジナルの具材だそうです。

イカは大皿に並んでいたものを出汁で茹でてから出してくれます。

おでんの具材

しっかり出汁がしみた里芋と玉子焼き、シャキッとした歯ごたえの春菊、プリップリのイカ。美味の前では言葉はいらず。お酒もお箸もよく進みます。

さてお腹もふくらんで、最後はもちろん宍道湖七珍、シジミで〆を。ふっくらしたシジミが溢れるほどに入ったお味噌汁で堪能します。

漁獲量日本一、宍道湖のシジミがたっぷり

合わせ味噌にシジミの出汁が効いて、沁みる美味しさとはまさにこのこと。宍道湖の恵みにまたしても感謝して、ごちそうさまです。

美味しいものたちとのご縁を授けてくれた出雲大社にお礼参りに行くべきか、そんなことを思いながら、お店を出るとちょうど日が沈む頃合い。お店から川沿いを歩くと、遠くに宍道湖へ沈む夕日がみえました。

「ばんじまして」と、出雲の夕方のあいさつを使ってみたくなる

こちらでいただけます

やまいち
島根県松江市東本町4-1
0852-23-0223


文:田中佑実
写真:尾島可奈子

愛しの純喫茶〜富山編〜 珈琲駅 ブルートレイン

こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。

旅の途中でちょっと一息つきたい時、みなさんはどこに行きますか?私が選ぶのは、どんな地方にも必ずある老舗の喫茶店。お店の中だけ時間が止まったようなレトロな店内に、煙草がもくもく。懐かしのメニューと味のある店主が迎えてくれる純喫茶は密かな旅の楽しみです。

旅の途中で訪れた、思わず愛おしくなってしまう純喫茶を紹介する「愛しの純喫茶」。今回は、電車好きもカフェ好きも虜にする富山の名店「珈琲駅 ブルートレイン」です。

ここは喫茶店?それとも食堂車?

JR富山駅から市民の足・富山市電鉄に乗り換えて「安野屋 (やすのや) 」駅で下車。5分ほど歩いた先に見えてくるちょっと変わった看板が、今日訪ねるお店の目印です。

ひときわ目をひく表看板

深い青色にパキッとした黄色で書かれた「ブルートレイン」。今や日本で運行本数も少なくなった寝台列車の愛称を掲げるそのお店は、全国から人が訪ねてくるという、鉄道ファン垂涎の喫茶店です。

外観

ワクワクしながら扉を開けると、そこはまるで寝台特急の食堂車。

寝台特急の食堂車を思わせる店内
ボックス席に座ると‥‥

クラシックな布張りのボックス席に座ると、その「車窓」に思わず歓声をあげてしまいました。

「車窓」の外を小さな列車が走り抜けていきます
「車窓」の外を小さな列車が走り抜けていきます

ジオラマ模型の景色の中を、時折走り過ぎて行くミニ列車。運ばれてきたコーヒーに口をつけながら、ただただ見入ってしまいます。

店内はまさに宝の山!ミニ列車には「運行表」も。

店内をぐるりと一周して走る列車は、物静かなマスターの待つカウンターの「車庫」に帰っていきます。ふとみれば食器棚の上にも列車がずらり。お店の全てが、列車を愛で、その旅情を味わうために考えて設計されているのです。

列車はご主人の待つカウンターへ
列車はご主人の待つカウンターへ
「車庫」と一緒になった食器棚
「車庫」と一緒になった食器棚

奥さまに伺うと、走らせる列車は定期的に入れ替えているのだとか。

カウンターの上に掲げられた運行表
カウンターの上に掲げられた運行表

「簡単に走らせているように見えるけれど、走らせる前には試運転も必ずしているんです。実際の列車と同じね」

手作りの列車模型は完成まで3ヶ月を要するそうです。そこから試運転をして問題なければ、晴れてお客さんの前で運行デビュー。

先ほど乗ってきた市電の模型も
先ほど乗ってきた市電の模型も

圧巻の列車模型だけでなく、店内のあちこちに見られる列車モチーフも楽しみどころの一つ。

コーヒーカップには列車とともにデザインされたお店のロゴが
コーヒーカップには列車とともにデザインされたお店のロゴが
壁のメニュー表の上には実際に使われていた列車のプレート
壁のメニュー表の上には実際に使われていた列車のプレート
メニューは時刻表のようになっています!
メニューは時刻表のようになっています!

そしてこの日、何より心を鷲掴みにされたのが、お店のことをいろいろと教えてくださった奥さまのエプロン。

奥さまのエプロンの胸もとに注目すると‥‥
奥さまのエプロンの胸もとに注目すると‥‥
エプロンの胸もとアップ

特急踊り子号のワッペンが胸を飾っています!

「昔はこういう記念品がたくさんあってね。せっかくだから飾りにしてみたの」

見る人が見たら宝の山、鉄道ファンでなくても時間を忘れて楽しめる、まさに寝台特急のような非日常を楽しんだひと時でした。

珈琲駅 ブルートレイン
富山県富山市鹿島町1-9-8
076-423-3566


文・写真:尾島可奈子

デザインのゼロ地点 第9回:スウェット

こんにちは。THEの米津雄介と申します。

THE(ザ)は、ものづくりの会社です。漆のお椀から電動自転車まで、あらゆる分野の商品をそのジャンルの専業メーカーと共同開発しています。

例えば、THE ジーンズといえば多くの人がLevi’s 501を連想するはずです。「THE〇〇=これぞ〇〇」といった、そのジャンルのど真ん中に位置する製品を探求しています。

ここでいう「ど真ん中」とは、様々なデザインの製品があるなかで、それらを選ぶときに基準となるべきものです。それがあることで他の製品も進化していくようなゼロ地点から、本来在るべきスタンダードはどこなのか?を考えています。

連載企画「デザインのゼロ地点」、9回目のお題は、「スウェット」。

スウェットと聞いて、多くの人はトレーナーやパーカーを思い浮かべるのではないでしょうか。スウェットは生地の名称なので、正しくはスウェットシャツやスウェットパーカーと呼ぶようですが、今回はその生地と製品について、ゼロ地点を探ってみたいと思います。

そもそもスウェット生地ってどんなもの?

生地メーカーに確認して調べてみると「大きな特徴は、生地が二層構造になっていること。外側はジャージーで、内側にはタオルのようなパイル織りの生地を組み合わせたもの」という答えをいただきました。

つまり、ジャージーの伸縮性と、タオルの吸汗性、そしてそれらを組み合わせた生地の厚みによって生まれる防寒性などが特徴といえるようです。

材質は綿100パーセントで構成されたものから、吸汗性だけでなく速乾性を考慮したポリエステル混紡のもの(ポリエステル65パーセント、綿35パーセントが多い)、繊維にポリウレタンを1~2パーセント程度混紡して伸縮性をより向上させたものなど様々な種類があります。

スウェット生地のアップ

説明を聞いているとなんだかすごそうです。

 

内側のパイル織りの話は「なんとなくタオルのような感じになっていたなぁ」と想像ができたのですが、ジャージーとの二層構造での組み合わせ、という部分が話だけではいまいち理解できず、そもそものジャージー素材について調べてみることに。そして、手元にあるスウェット生地を分解してみました。

ジャージーとはニット (編み物) の一種で、ジャージー編みと呼ばれるもの。1本または数本の糸を輪の形にしたループの中に次のループを通すことを繰り返し、布状に編む編み方です。

実は日本には編むという伝統はあまりなく、輸入された時期も遅いそうです。17世紀後半 (1673年–1704年頃) に、スペインやポルトガルから靴下などの形で編地がもたらされました。

その際にスペイン語やポルトガル語で「靴下」を意味する「メディアス」 (medias) や「メイアシュ」 (meias) から、なまって変わった「メリヤス」が、日本では編み物全般を指すようになったとのこと。

そのため、製造の現場ではジャージーではなくメリヤスと呼ばれることも多いそうです。

ジャージー及びメリヤスの編み目の構造

これを手作業ではなく機械で1本の糸から作るというだけでも驚きですが、スウェット生地はさらにこれの裏側にタオルのようなパイル織りが組み合わさっているというのです。

細かく見てみるために、スウェット生地の裏側のパイルをピンセットで引っ張ってみると、構造がわかりやすく見えてきました。

ジャージーの裏側から細いグレーの糸でパイル用の白い糸を等間隔に留めているのが見えます。この細い糸がしっかり留まっているから、表地のジャージーが伸縮してもパイルの長さがずれたりしないのでしょう。驚きです。

いつも当たり前に着ている生地ですが、実はものすごい技術が隠されていることを知りました。

スウェットの歴史に欠かせない、世界的なメーカー

そのスウェット生地の歴史を語る上で欠かせないのは、アメリカのニッティングメーカーであったラッセル。

ラッセルは1902年、アラバマ州アレキサンダー・シティに「ラッセル・マニュファクチャリング・カンパニー」としてベンジャミン・ラッセル氏によって設立されたメーカーです。

このラッセル社が、1920年代にウールで作られていたフットボール用のシャツをコットン素材に改良し、着心地の改善を図ったことがスウェットの原点であると言われています。

当時のラッセル社。手前がベンジャミン・ラッセル氏

その後、1930年代から生地へのプリント技術を背景にハイスクールやカレッジのスポーツユニフォームとして定着していきます。過去にはNFL (ナショナルフットボールリーグ) 全28チームのほとんどにユニフォームや練習着を提供していたり、全米メジャーリーグのオフィシャルサプライヤーにもなっています (1992〜2004) 。

russell athletic crewneck sweatshirt

ラッセルは1940~60年代のスウェット隆盛期には吊り編み機と呼ばれる機械で作られていました。吊り編み機は給糸口と呼ばれる糸の供給口が1~2セットしかなく、1台の機械で1時間に1メートルしか編むことができない非効率な機械でした。

しかし、高度経済成長を迎えるともにシンカー編み機という名の次世代の編み機が普及します。シンカー編み機は給糸口が24セット、つまり単純計算で最大24倍の生産効率があります。1時間に24メートルもの長さを編むことができるのです。

吊り編み機 写真:カネキチ工業株式会社
シンカー編み機 写真:カネキチ工業株式会社

生産効率も一段と上がり、スウェットは世界中に普及します。日本でも数回にわたってブームと言われるような時代がありました。現在ではファストファッションからハイブランドまで、数多くのメーカーやブランドから発売されるベーシックアイテムになっています。

お手頃価格でベーシックな形状というイメージのある無印良品。フードの平紐や、少し暗めのジッパーの色など、一見ベーシックに見えながら無印良品っぽさがある気がします

愛される理由は、人の温もりを想起させる生地

1920~30年代にかけて生まれ、100年近くも世界中の人々から愛されているスウェット。なぜこんなにも長い期間、人々に愛されるのでしょうか?

精巧に並んだ編み目のパターンや、生地自体の肌触りの良さ、そしてどこか人の温もりのようなものを感じさせるディティールに、その答えがあるような気がします。それらの要素が人々を魅了してきたのだと仮定すると、やっぱりスウェットのデザインを考えた時、真っ先にフォーカスしたいのは生地ではないでしょうか。

実は、前述の高度経済成長期に世の中から消えてしまった吊り編み機には、糸や生地に負担をかけずにゆったりと織り込んでいくことで、柔かく耐久性がある生地を作れるメリットがありました。

1940~60年代に作られたスウェットは、今ではヴィンテージとして愛され、50年以上前の製品が古着としてセカンドサイクルされていることが、吊り編み生地の耐久性や品質の良さを物語っています。

そんな吊り編み生地での代表格といえばループウィラー。日本発のスウェット生地専門ブランドで、吊り編みの生地を用いた数多くのアイテムを手掛けています。

ナイキを筆頭に、様々なブランドとのコラボ商品も豊富で、世界中で人気を博します。特徴的なロゴやネームの取り付け方法は好みの分かれるところですが、良質なスタンダードとしての筆頭ではないでしょうか。

吊り編みの生地は、1台の機械で1時間に1メートルしか編めないという生産効率による供給不足がネックですが、肌触りはもちろん、洗濯を繰り返してもその良質な状態が続く耐久性は目を見張るものがあります。

僕たちTHEも、吊り編み生地の可能性の探求を基軸に、新しいシリーズを作りました。

現在、日本の和歌山県に数百台しか残っていないこの生産設備を残していくことと同時に、それが発展していくことで、良質な製品が当たり前になること。

そして、吊り編みの生地がデザインのゼロ地点としてスウェットを語る基準値になること。

そんなことが実現できたら、という思いで作ったのが「THE SWEAT」シリーズです。

THE Sweat Zip up Hoodie (GRAY)
THE Sweat Crew neck Pullover (NAVY)

THE Sweat Crew neck PulloverとTHE Sweat Zip up Hoodieの吊り編み生地はアメリカンピマコットンを用い、その生地をつくる糸も特製です。素材を無理に引っ張らずに自然な状態を保つことで、柔軟性を持たせた糸を使っています。やや専門的に言うと、紡績段階で撚糸による斜行を極力なくすようにしたのです。

縫製とパターンの研究は、創業60年のカットソーメーカー、丸和繊維工業株式会社。肌着から事業をスタートし、身体の動きや姿勢に合わせた独自のパターン研究と縫製技術が評価され、2010年には同社の製品が宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の宇宙船内被服にも選定されています。

その独自研究に基づいた衣服設計と縫製技術を応用し、見た目はベーシックな形状でありながら、動いても着崩れが起きない最高の着心地を目指しました。

普遍的な形状に、いつまでも風合いの変わらない生地。そこに少しだけ機能が進化したTHEらしいプルオーバーとパーカーが完成しました。

2017年10月7日からTHE SHOP TOKYO (KITTE) とTHE SHOP KYOTO (藤井大丸) の店頭にて先行発売をしていますので、ぜひ触ってみていただけたら嬉しいです。
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デザインのゼロ地点・「スウェット」編、いかがでしたでしょうか?

次回もまた身近な製品を題材にゼロ地点を探ってみたいと思います。それではまた来月、よろしくお願い致します。

<写真提供>
FTLジャパン株式会社
カネキチ工業株式会社
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米津雄介
プロダクトマネージャー / 経営者
THE株式会社 代表取締役
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大学卒業後、プラス株式会社にて文房具の商品開発とマーケティングに従事。
2012年にプロダクトマネージャーとしてTHEに参画し、全国のメーカーを回りながら、商品開発・流通施策・生産管理・品質管理などプロダクトマネジメント全般と事業計画を担当。
2015年3月に代表取締役社長に就任。共著に「デザインの誤解」(祥伝社)。


文:米津雄介