これがないと踊れない!よさこい祭りに欠かせないアイテムが高知にあった

高知には、世にも不思議な手ぬぐいがあるのだとか。

その名は「土佐にわか手ぬぐい」。

なにやら顔が描かれています。何が不思議なのでしょう?
こちらが「土佐にわか手ぬぐい」。なにやら顔が描かれています

小さな河童?相撲が大好きな妖怪「しばてん」

手ぬぐいに描かれているのは、土佐の妖怪「しばてん」。

しばてんは、カッパに似た男の子の妖怪といわれています。その多くは、たそがれ時や夜に現れるそう。

相撲をとるのが大好きで、人を見ると 「おんちゃん相撲とろう、とろうちや」と土佐言葉で挑んできます。これに応じると、いつの間にやら相手が藁や石に変わっており、朝まで独り相撲を取らされることになるのだとか。人に危害は加えませんが、いたずら好きの陽気な妖怪です。

高知のお酒好きの男性が飲みすぎて、ついつい午前様や朝帰りになってしまった時、家で待つしっかり者の女房に「しばてんに捕まって相撲取らされちょった」なんて言い訳したことで生まれた、そんな風に言われることもあります。お酒と結びつくところが、なんとも高知らしいですね。

よさこい祭りでも活躍。みんなが陽気になる不思議な手ぬぐい

さて、このしばてんが描かれた手ぬぐい、こんな風に頭に巻いて顔を覆って使います。

しばてん
目と鼻を覆い隠すようにして手ぬぐいを巻くと、誰もが「しばてん」に変身!

ひとたび手ぬぐいをかぶると、にわかに人相が変わる!そうしてみんな陽気になり、どんな人でもついつい踊りたくなってしまう、そんな不思議な手ぬぐいと言われています。

土佐の人々はこの出で立ちで、郷土民謡「しばてん音頭」を踊ります。

「おんちゃん相撲とろ とろうちや ちゃっちゃ〜」と、陽気な歌詞の「しばてん音頭」を踊る芸妓さん。目が描かれた部分をくり抜いて使うので、前はしっかり見えているそう。陽気な様子が伝わってきますね
「おんちゃん相撲とろ とろうちや ちゃっちゃ〜」と、陽気な歌詞の「しばてん音頭」を踊る芸妓さん。目が描かれた部分をくり抜いて使うので、前はしっかり見えているそう。陽気な様子が伝わってきますね

四国を代表する夏祭りのひとつで、約2万人の踊り子が乱舞するよさこい祭りでもこの手ぬぐいが使われます。恥ずかしがり屋さんも、目立ちたがりやさんも、誰かれ構わず踊り出し土佐の夜は更けていくのです。

しばてんの手ぬぐいは、よさこい祭りでも使われています (高知よさこい情報交流館 展示)
よさこい祭りでは、こんな大人数でしばてんの姿に (高知よさこい情報交流館 展示)

「土佐にわか手ぬぐい」生みの親の元へ

地元の誰もが知る「土佐にわか手ぬぐい」。

生み出したのは、高知の老舗染工場の4代目・北村文和さんです。その誕生秘話を伺いに工房を訪れました。

明治元年創業の北村染工場。 この地域は、多数の染物店が集まり、かつて「紺屋町」と呼ばれていた
明治元年創業の北村染工場。よさこい祭りのはっぴなども手がける老舗工房です
土佐藩の初代藩主の山内一豊公とその賢妻として有名な千代さま、しばてん、龍馬、お龍さん、坊さん、お馬さん、タイガースのトラ、ひょっとこ、おかめ
窓から見える棚には、しばてんの他、土佐の初代藩主山内一豊公と賢妻として有名な千代さま、龍馬とお龍さん、よさこい節に登場する坊さんとお馬さん、タイガース応援用のトラ、ひょっとこ、おかめの手ぬぐいも並んでいました
壁一面を覆う巨大な旗。お祭りのために描いたこの図柄は評判を呼び、高知で撮影された緒形拳さん主演の映画「櫂」でも使われたのだそう
壁一面を覆う大きな旗は、NHKの番組で描いた端午の節句のもの。評判を呼び、高知で撮影された緒形拳さん主演の映画「櫂」でも使われたのだそう
北村文和さん
北村文和さん

着想は、旅先で見つけたお菓子のしおり

『よく遊べ』という方針の家で育ち、染めや日本画の技術だけでなく、音楽や踊りのお稽古、歌舞伎やオペラなどの舞台鑑賞やお祭りなど、好奇心や探究心が赴くままに出かけては、各地でさまざまなものを見つけて自身の作品へのヒントにしてきたという北村さん。

「染屋は様々なお仕事をいただきます。色んな世界のことを知っていたほうがより良いもの、喜ばれるものが作れるでしょう。見て感じて自分の中に貯まったものが、知らず知らずの内に繋がって作品作りに生きてくるんです」

土佐にわか手ぬぐいも、旅先で見つけたヒントから発想が広がっていきました。

「40数年前、妻と福岡の博多祇園山笠を見に行きました。そこで見つけたおせんべいに、お面型のしおりが入っていたんです。面白いなと印象に残りました」

その後、高知県の民謡や童歌の採譜をしていた作曲家の武政英策 (たけまさ えいさく) さんから「しばてん音頭というものを作るから協力してくれないか」という相談を持ちかけられました。

そこでヒントになったのが福岡の記憶。手ぬぐいをお面にしよう!と、ひらめきます。実際に手ぬぐいをかぶりながら考え出したのが、この手ぬぐいでした。

相撲好きのしばてん。脇には「はっけよい」の文字が

「みんなが楽しくなるようなものを」とデザインされたしばてんの顔。陽気な歌とその使い方が、高知の人々の心を掴みます。宴会でもお座敷でもまたたく間に広がり、すっかり定番に。現在ではお土産ものとしても人気の商品となりました。

パッケージ裏に、可愛らしいイラスト入りで使い方が書かれています。シールの封が、よさこい節の歌詞に登場するかんざし風になっている遊び心も北村さんのアイデア
手ぬぐいの袋には、可愛らしいイラスト入りで使い方が書かれています。シールの封が、よさこい節の歌詞に登場するかんざし風になっている遊び心も北村さんのアイデアです

すべて手作業で作られる手ぬぐい

たくさんの注文が入るようになった今もなお、全て手染めで作られている土佐にわか手ぬぐい。遊び心溢れる手ぬぐいですが、ものはしっかりと。美しく染め上げるのが老舗染屋のこだわりです。

「手染めは手間がかかるので、なかなか大変なんですが、みなさんに笑って使っていただけるのが嬉しいですね」と北村さん。

描いた柄の上に糊を置いていきます。糊の部分には染料が入り込みません。色をつけたくない部分に糊をおき、染める作業を繰り返します
描いた柄の上に糊を置いていきます。糊の部分には染料が入り込みません。色をつけたくない部分に糊をおき、染める作業を繰り返します。染めに使う糊は、お米を水で練って作るのだそう
染めたものを乾かしているところ
こうして天井近くに干して、染めたものを乾かします

老舗染め屋の後継ぎとして、10代の頃から70余年にわたり染めに携わってきた北村さん。「よく遊べ」の家訓の元、積み上げてきた経験から生まれた北村さんならではの遊び心が詰まった不思議な手ぬぐいは、今日も人々を陽気な笑顔に導いています。

<取材協力>
北村染工場
高知県高知市はりまや町2丁目6−7‎
088-882-7216‎

高知よさこい情報交流館‎
http://www.honke-yosakoi.jp/
高知県高知市はりまや町1丁目10-1
088-880-4351

2018年4月22日公開の記事を再編集して掲載しています。全国各地で踊られるようになったよさこい。その本場高知で使われている、遊び心溢れる手ぬぐいをぜひチェックしてみてください

文・写真 : 小俣荘子

【はたらくをはなそう】日本市店長 白井実穂

白井実穂
(日本市 博多デイトス店 店長)

2014年 直営店スタッフとして入社
2017年 中川政七商店 広島パルコ店 店長
2018年 中川政七商店 イオンモール岡山店 店長
同年 日本市 博多デイトス店 店長

中川政七商店で働いていると、
中川政七商店があるその土地と自分とのつながりを感じます。

それはお客さまとの会話、スタッフとのコミュニケーション、
メーカーさんとのつながりであったり、
工芸、産地、おいしいもの、景色が綺麗な場所、
もともとは縁も所縁もなかったその土地を愛おしく、
自然とおすすめしたい気持ちになっていきます。

わたしは自分の生まれた土地を誇りに思っていて、
その土地の素敵なことやものを、たくさんの人に知ってほしいと思っています。
実は中川政七商店に関わる人は、皆そうなのかもしれません。

わたしにとってはたらくということは、
「自分の思いを実現すること」です。

お店を通して中川政七商店に関わるたくさんの人たちに、
日本のたくさんの工芸やその産地に興味を持ち、それらを誇りに思ってもらうこと。
そして、それを積み重ねることで、作り手さんにも誇りを持ってもらうこと。
その結果、工芸を未来に残していくこと。

それを実現するとき、
わたしが肌で感じたその土地に対する愛おしい気持ちや、
スタッフの皆さんがその土地を大好きな気持ちは
とても説得力があって、信頼できることだと感じます。

この7月から、より地域に密着したお店で働きたいという希望もあり、
お土産業界の地産地消を目指す「日本市」というブランドへ異動しました。
いままでにない地元メーカーさんとのコミュニケーションができ、
これからの展開にワクワクしています。

世の中のたくさんの皆さんに
よりよく伝えられる、良いタッチポイントであるように
お店のスタッフの皆さんと地元メーカーさんと協力して
毎日楽しくここちよいお店を作り上げていきたいです。

おばあちゃんが「母親の味」と口コミする新潟・十日町の店「Abuzaka」

旅に出たら、その土地らしいふるさとの食を味わってみたくなるもの。

今日訪れたのは「大地の芸術祭」を開催中の新潟県十日町市。ここではどんなお料理が食べられてきたのでしょう。

現地の方に、伝統食のおそばと地域に伝わるお料理が食べられるお店があると教えてもらいました。地元のおばあちゃんたちから「母の手料理の味」と評される人気店なのだそう!さっそく訪ねてみることに。

田んぼの真ん中でブッフェランチ

十日町駅から10分ほど車を走らせると、一面に広がる田園風景。緑豊かな里山を臨む場所に、黒いモダンな建物が見えてきました。

Abuzaka

お店の名前は「そばの郷 Abuzaka」。

新潟名物の「へぎそば」と、「ごったく」という食文化を気軽にブッフェスタイルで体験できるお店です。

Abuzakaの看板

新潟は十日町に伝わる「ごったく」とは?

「ごったく」とは、十日町地域の冠婚葬祭などで人が集まった際にお客さんをもてなす食事の席のこと。親戚や近所のお母さんたちが1つの台所に集まってわいわいと料理を作り、大皿に乗せて振る舞われてきました。

ごったく
ごったくに使われる食材は、雪に閉ざされる季節に備えて作られる乾物や干物、里山で採れた山菜や野菜など。煮物や和え物、天ぷらといった料理が並びます
へぎそば
十日町名物の「へぎそば」。フノリを混ぜることで生まれるコシと喉ごしが人気です

お店を訪れたのは平日のお昼どき。店内は小さな子ども連れの方から、年配のグループまで幅広い年齢層のお客さんで賑わっていました。みなさん地元の方のようです。

私もさっそくブッフェ台へ!

大皿に盛られた様々なごったく
山菜をはじめ、地元で採れた季節の食材を使って作られる煮しめ、味噌豆、切り干し大根、ぬた、サラダ、だし巻き卵などがずらり。お蕎麦につける特製カレー汁や自家製の甘酒とタピオカの冷たいデザートまでありました!
季節の野菜、山菜の天ぷら
季節の野菜、山菜の天ぷらも盛りだくさんです
ブッフェスタイル
種類豊富なので、どれにしよう?と目移りします。お皿に乗せる時間も楽しい
そばとごったく
きれいに盛り付けられました!少しずつ色んな種類を味わえるのがブッフェスタイルの嬉しいところ

山菜や地元野菜をふんだんに使ったお惣菜の数々。お出汁がたっぷりとしみ込んだ煮しめ、優しい甘辛さが癖になる味噌豆、山菜と大根の醤油漬け‥‥家庭料理がベースになっているからか、初めて食べる食材に対しても不思議と懐かしさを感じつつ、「お豆ってこんなに甘みがあるんだ!」なんて素材の美味しさに新鮮な驚きがありました。

「十日町は宝の山、色んな人に食べて欲しかった」

土地の食をブッフェスタイルで楽しめるAbuzakaは、休日になると地元の方だけでなく、他県からのお客さんでも賑わう人気ぶり。

地域の料理が気軽に食べられる仕掛けはどうやって生まれたのか?お店の立ち上げから携わってきた、店長でシェフの弓削朋子さんにお話を伺いました。

Abuzaka店長の弓削さん
弓削朋子さん。前職では、ミシュランガイド一つ星獲得の「鎌倉鉢の木」にて腕をふるっていた日本料理のプロフェッショナル

「十日町から関西の料理学校へ進学し、卒業後は県外で働いていました。大人になって改めて十日町を見つめると、今まで気づかなかったたくさんの魅力が見つかりました。四季折々の景色の移り変わりだったり、野山の豊かな食だったり。宝の山だったんです」

Abuzaka店内の様子
店内の様子。窓の外には田園風景が広がります。春夏はグリーンの稲、秋には黄金色の稲穂、冬には真っ白な雪景色。季節ごとに移り変わる風景もお店の楽しみのひとつなのだそう

「十日町の魅力をもっと伝えていく仕事がしたいなと思っていたところ、ちょうどAbuzakaを立ち上げるプロジェクトに出会いました」

「ごったく」って、ブッフェだ!

「私がチームに入った当時は、そばとブッフェをやることだけが決まっている段階でした。

地元の食材を使って、この地域ならではのものを食べてもらいたいなと考えている時にふと気づいたんです。昔からやってる『アレ』って、実はブッフェと同じだなぁって」

弓削さんの頭に浮かんだのは、親族や地域の集まりに欠かせない「ごったく」のことでした。

ごったく

「ごったくで振る舞われるのって、大勢でシェアする大皿料理なんです。テーブルの上に並べてみんなで取り分けて、お腹いっぱい食べるっていう。特別な料理じゃなくても『たくさんある』ということ自体がご馳走なんですよね。

お母さんたちの『たくさん食べてね』『おかわりどうぞどうぞ』という気持ちのこもったご馳走です。雪国なので、十分な食物がない時期もあったでしょうから」

大皿にたっぷり盛り付けるのは、お母さんたちの気持ちの表れなのですね
大皿にたっぷり盛り付けるのは、お母さんたちの気持ちの表れなのですね

先生は、地域のお母さんたち

ブッフェのテーマがごったくに決まると、いよいよ弓削さんの新しいお店づくりが始まりました。

「これまで日本料理をやってきましたが、山菜の詳しい扱い方となると特殊な専門性が必要になります。採り方から処理の仕方まで、地元のお母さん方に教えてもらいました。一番の先生です。

みなさん独自の作り方やノウハウをお持ちなので、色んな方に教えていただきながら試行錯誤しました」

「ごったく」の器は、家庭ごとにとっておきの大皿を用意したり持ち寄るもの。Abuzakaでは、地域の方から譲ってもらった器を使っているのだそう
ごったくの器は、家庭ごとにとっておきの大皿を用意したり持ち寄るもの。同店では、地域の方から譲ってもらった器を使っているのだそう

ごったくでは、代々伝わる家庭ごとのオリジナル定番料理も登場するそう。「教わったレシピは数え切れないほど」という弓削さん。それらを元に、お店の味を作り出していきます。

「元の型を守りながら、そばとの相性や幅広い年齢層の方にとっての食べやすさを考えて、現代風アレンジを加えました。山菜や郷土料理を食べたことのないお子さんや若い世代の方にも食べてもらって、知ってもらいたかったんです」

店内には小さな子ども連れに使いやすい席の用意も
店内には小さな子ども連れ家族も使いやすいスペースの用意も

こうして生まれた弓削さんのごったくを携えて、Abuzakaは昨年、2017年3月にオープン。またたく間に評判を呼びました。

「カフェのような雰囲気のお店ですが、思いのほか年配の方がたくさん来てくださいます。先日は、70〜80代の方から『母親の手料理の味がする』と感想をいただきました (笑)

100歳のおばあちゃんのお誕生日会の場として使っていただいたこともあります。年配の方が昔を思い出しながら喜んでくださるのは嬉しいですね。

インターネットも使っていない方々が、本当の口コミで地図を見ながら来てくださって、ありがたいことです」

次の世代に伝えていきたいから、レシピは隠さない

年配の方だけでなく、若い世代のリピーターのお客さんも増えているそう。

「来店をきっかけに郷土料理に興味を持たれる方がいたり、作り方の質問をいただくこともあります。家でトライしてみたいと。

レシピは包み隠さず伝えるようにしています。広まってほしいんですよね。みんなに食べてもらいたいですし、子どもたちに地元の美味しい物で育ってほしい。

これからはAbuzakaの歳時記をまとめたり、郷土料理のレシピや大根を干す時の藁の結び方の技術を伝えたり、そんなワークショップができたらいいなと思っています」

Abuzakaのエントランス

「そして、この地域の食に携わる後継者を育てたいという思いがあります。私もそうでしたが、進学や就職で外に出て行く子が多い地域なんですよね。

でも大人になって振り返るとすごく魅力的な場所なので、一緒に盛り立てていきたいんです。出ていった子たちが外から見て魅力を感じる、県外の人がここで働きたいという目標を持てる、そんな場所にしていけたらと思います」

Abuzakaには、インターンで訪れる学生や、四季を感じる暮らしがしたいという思いから働き始めたスタッフもいます。四季折々の食材を使ったごったく文化を通して伝える、十日町の魅力。ここAbuzakaから、じわじわと発信されています。

暖炉の置かれたエントランス
エントランスに置かれた薪ストーブ。「おかえり」と、あたたかく迎たいという思いが込められているそう

おなかいっぱいになってお店を後にする頃には、私もすっかり十日町の食に魅了されていました。親戚の家でご馳走になるような気分で旅先の食文化に触れるごったく体験、ぜひ味わってみてください。

<取材協力>

そばの郷 Abuzaka

新潟県十日町市南鐙坂2132

025-755-5234

http://abuzaka.com/

※予約不可、直接店舗へお出かけください。

文:小俣荘子

写真:廣田達也 (一部画像提供:Abuzaka)

猫が好きなマタタビは、米とぎに最適だった

こんにちは。元中川政七商店バイヤーの細萱久美です。

つい最近退職し、独立したばかり。

これからも引き続き、モノづくりに関わっていきたいと思っています。どうぞよろしくお願い致します。

今までも、これからも日本の各地域に行くことがありますが、何らかのご当地モノとの出会いがあります。

美味しいモノは必ず。そして工芸品と出会えると、帰って使ったり飾ったりするのが楽しみになります。

流通や生産量の事情などで、その土地に行かないと手に入りにくいモノとの出会いは旅の醍醐味とも言えます。

比較的珍しいモノでも頑張ればネットで手に入る時代ですが、作られた背景や土地の香りを感じながら現物を選ぶと、モノへの思い入れも深い気がします。

そんな、各地で出会った優れものを紹介する連載の第一回目。

福島県奥会津「マタタビの米とぎざる」

今回は、ずっと行きたいと思ってようやく行けた福島県奥会津の三島町。毎年6月に開催される『ふるさと会津工人まつり』でどうにかこうにか購入できた「マタタビの米とぎざる」を紹介します。

どうにかこうにか‥‥とは、本当に言葉通り。工人まつりは、全国でも1、2を争う集客力のあるクラフトフェアです。その人気は噂以上で、販売開始9時前の7時位には下見客が結構集まり始めるのです。

さまざまなクラフトが出展していますが、特に人気なのはこの土地ならではの「ざるやカゴ」。

作りの良い山葡萄の籠バッグや、マタタビのざるは初日スタート時でないと入手困難のレア商品なのです。その現実に驚きつつも、何とかマタタビの米とぎざるを買うことが出来ました。

マタタビの米とぎざる

マタタビは、猫が好きなことでも知られていますが、三島におけるマタタビ細工は実に歴史が深く、遺跡の発掘品から、縄文時代には現在の技法が存在していたことが分かっています。

平成15年には、「奥会津編み組細工」は国の伝統工芸品に指定されています。

そんな伝統の技が継承されているマタタビのざるは、素材がしなやかで水分を吸うとより柔らかくなるので、お米を傷つけずに洗え、米とぎに最適です。

お米を上手に洗うポイントは、糠を素早く洗い流すことと、米粒をなるべく割らないこと。

マタタビのざるは、水切れが良いので糠もサッと洗い流せ、手にも米粒にもやさしい素材感なのです。乾きも比較的早いので清潔感も保てます。

マタタビの米とぎざる

色白で、ちょっと帽子みたいな愛嬌のある見た目なので、見える所に出しておいても良いと思います。

マタタビの米とぎざる

マタタビの材料を採取する時期は冬の1ヶ月に限られており、下準備も楽ではなく、作り手は決して多くないそうです。

生産も限られているのでいつでもどこでも手に入るものではないですが、三島町生活工芸館では展示販売があるので、ざるづくり最盛期の年明けから春頃は狙い目かもしれません。

奥会津は秘湯もあり、車で移動中も何度も素晴らしい絶景ポイントがありました。今回は車の旅でしたが、会津若松から新潟県の小出駅を結ぶ超ローカル線の「只見線」は絶景の秘境路線として有名だそうです。

過去の豪雨被害の影響も未だ残るようですが、只見川を眺めながらの、のんびり旅はぜひ計画したいと思っています。

細萱久美 ほそがやくみ

元中川政七商店バイヤー
2018年独立

東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、美味しい食事、
美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

文・写真:細萱久美