春は新しい生活が始まる季節でもあり、お祝いごとが多い季節。
お世話になった方や目上の方など、フォーマルなシーンのプレゼントに選ばれている人気のブランドが「能作」です。
富山県高岡市の鋳物(いもの)メーカーとして、1916(大正5)年に創業し、茶道具や仏具、花器、テーブルウェアなどさまざまな商品を展開しています。
2017年には本社工場を移転。製造現場の見学や鋳物製作体験ができるほか、カフェやショップが併設された施設へとさらに規模を拡大させました。
工場見学ツアーの様子はこちら:「来場者は年間10万人以上!たった3人のスタッフから始めた人気ファクトリーツアー成功の舞台裏」
人気NO.1アイテムは「酒器」
能作ではさまざまな製品をつくっています。なんとその数は400近く。特に金、銀の次に高価な金属“錫(すず)”を使った「酒器」が人気です。
「錫はイオンの効果が高く、水を浄化するため、錫の器に入れた水は腐らないと言われているんです。お酒の味も、雑味が抜けて味がまろやかになるので、昔から酒器として使われていたんですよ」
と語るのは、専務取締役の能作千春さん。
新しい素材として採用したのが錫
もともと能作では真鍮の鋳物製品をつくっていましたが、あるとき食器をつくれないかという問い合わせがあったそう。
真鍮の材料となる銅では食品衛生上、食器をつくることができません。そこで生まれたアイデアが、「錫の食器」でした。
通常なら硬度を保つためにほかの金属を加えるところ、能作では純度100%の錫のやわらかさに注目。
特性を生かした曲がる「KAGO」シリーズは大きな話題となり、国内外から注目を集めています。
錫製品の製造をはじめて15年ほどで、今では生産の7割以上を錫製品が占める、会社の看板商品に。
中でもぐい呑みやタンブラー、片口など、錫ならではの効果が感じられる酒器は、性別問わず広い世代にプレゼントできる贈り物として、春は特に選ぶ人が多いそうです。
そんな錫製品、一体どのようにつくられていると思いますか?実際に現場をのぞいてみましょう。
一秒をあらそう錫の鋳込み
一般の方も見学できる能作の製造現場。日々多くの製品が誕生しています。
約60名の職人が鋳造に携わっていますが、中でも「鋳物場」はベテランの職人が担当。真鍮と錫で作業する場所が分けられています。
金属材料を熱して液体にし、型に流し込んで冷やし固める鋳物。能作ではさまざまな製法を使い分けていますが、砂を押しかためて型をつくる「生型鋳造法」がベーシックな方法です。
まずは砂に少量の水分と粘土を混ぜ、製品の木型に鋳型用の枠を乗せてその周りを砂で固めていきます。真鍮と錫で使う砂も異なるそう。
体重をかけてギュッギュッと砂を押しかため、手早く表面を平らにします。
木型を抜き取ると、あっという間にご覧のようなきれいな型に。
いよいよここから金属を溶かし、型に流し込む「鋳込み」を行っていきます。
成分によって溶ける温度が異なる金属。真鍮の場合は1000度以上に熱さなければならず、大きな炉を使って溶かしていきます。
一方、錫の溶解温度は約200度と真鍮よりかなり低い温度。炉は使わず、小さな鍋で溶かしていきます。
まるで料理をつくっているようにも見えますが、これにはちゃんとした理由が。
錫は溶解温度が低い分、1、2度の温度変化によってすぐに固まってしまうため、溶かした後は手早く型に流し込むことが大切。だから小さな鍋を使っているんですね。
錫を流し込んだあと、冷え固まるまでわずか5分ほど。職人が手早く型から取り出していきます。
型をポンと床に当てると、崩れた砂とともに銀色の錫製品があらわれました。
ここから仕上場に運ばれ、バリを取って整えていきます。
金属なのに暖かみのある風合いは、手作業から
鋳込みが終わったあとは、仕上げ加工へ。
能作ではすべての製品を、最後は職人の手作業によって仕上げます。特に純度100%の錫はとても柔らかいため、微妙な磨き具合など、人の手による調整が必要。
錫製品が手になじみ、金属なのにどこか暖かみのある印象なのは、人の手を介しているからなのかもしれません。
こうして完成した錫の酒器。
熱伝導率が高いので、冷蔵庫で1〜2分冷やすだけでキンキンに冷えたお酒を楽しむことができます。また、変色しにくいのでお手入れも簡単。使うほど、愛着のある酒器になっていくはずです。
機能面に優れ、自宅にいながら贅沢な味わいを楽しむことができる錫の酒器。
目上の方や大切な人への贈りものにも喜ばれそうなその佇まいは、老舗メーカーのアイデアと、人の手から生まれていました。
文:石原藍
写真:浅見杳太郎
<取材協力>
株式会社能作
富山県高岡市オフィスパーク8-1
www.nousaku.co.jp
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