銭湯で役立つ!中川政七商店で買える、3つの「湯上がり道具」

すっかり正月気分は抜けた頃かと思いますが、いやはや、まだ寒い日が続きます。寒いなか、毎日の入浴をシャワーで済ませる方もいるでしょうが、寒いときこそ、湯船にしっかり浸かるのもおすすめです。

手足の先までしっかり温まると、布団に入ったときにぬくもり、心地よさが違う!‥‥ということで、筆者はもっぱら銭湯をよく利用します。

よく眠れるようになるだけでなく、溜まった疲れも軽くなるような気がします。最近は銭湯も、タオルを借りられるようになったり、ボディソープやシャンプーが備え付けられていたりと、手ぶらで訪れやすいところが増えているようです。

身軽に行くのもよいのですが、肌の乾燥なども気になる季節。そういうときにも役立つ「暮らしの道具」があるものです。今回はそれらを扱う中川政七商店から、筆者が使い続けている「湯上がり道具」を3点ご紹介します。

1.携帯性バツグン、水だけで磨ける歯ブラシ

「TRAVEL TOOTHBRUSH MISOKA for TO&FRO」は、コンパクトな歯ブラシ。

トラベルグッズを作る「TO&FRO」と、水だけで磨ける歯ブラシである「MISOKA」がコラボレーションして生まれただけあって、携帯性に優れた使いやすさがあります。

それこそ、コンビニで売っている板状のガムよりも小さいと思うサイズで、お風呂だけでなく、日常的にも役立つ一本。歯磨き粉を使わずとも、非常に細かい毛先が歯の表面を磨き上げ、親水性を持たせることで汚れが付きにくくなり、歯をツルツルに仕上げてくれます。

板状ガムよりも小さなコンパクトサイズで、カラビナを使用して鞄やポーチにぶら下げて持ち運べる便利なデザインは、日常使いの携帯用としても最適な歯ブラシです。

筆者だけかもしれませんが、お風呂で歯磨きするの、結構きもちがいいものなんです。体もしっかり洗ったあとで、口の中もさっぱりしていると、その後のお風呂も心地よく楽しめる感じが増すようで。

2.すっと伸びて、やさしい肌当たりの化粧水

「荒れ性用花梨の化粧水」は、元宮内庁御用達の香水「久邇香水」を作っていた香水職人さんが、手荒れのひどい家族のために研究し、花梨の種で作った‥‥という化粧水。

国産の花梨の種をたっぷり使い、一本ごとに丁寧に作られているそう。さらりとした使い心地で、天然成分のみだからか、肌に当たったときの感触もやさしいように思います。さらに、染み込ませると、肌表面のうるおいがしっかりキープされるよう。保湿作用が高く、しっとりします。

銭湯はふだんよりも湯に浸かる時間が長かったり、非常にさっぱりする反面、やはり湯上がりには保湿をしないと肌がより乾燥しがちのよう。そもそも寒さもあって乾燥しやすいですから、寝るまでの心地よさをキープするためにも一本持っていきたい道具です。

3.静電気が起きにくい竹素材のヘアブラシ

背面に中川政七商店のロゴがあしらわれたヘアブラシ。ピンの一本ごとが竹素材で出来ており、静電気が起きにくいのが特徴です。この時期、すぐに静電気って起きてしまいますが、このヘアブラシではその心配もないなぁ、と思っています。

また、ピンの先端が丸くできており、髪を整えながら頭も軽くマッサージできるような感触もあり、風呂上がりに使うと気持ちがいい!

竹に含まれる天然油分が、しなやかでツヤのある髪に仕立ててくれる効果も期待できるとか。

銭湯によっては、シャンプーはあるけれどコンディショナーがなかったり、あるいは相性が悪かったりと、髪の調子が整わないときがありますが、そこでも優しく髪に入っていく感じがあるんです。

湯冷めに気をつけて、よい夜を。

「風呂は命の洗濯」と、誰かが言っておりましたが、広い湯船に使って、体をぴかぴかになるイメージで磨いておりますと、最近はそれをよく実感するものです。

実は、銭湯によっては、対外的には謳っていなくても、成分的には「ほぼ温泉」という場所も結構あったりします。あるいは、明確に温泉であることもしばしば。お気に入り銭湯を語る機会はいずれどこかで持ちたいと思いつつ‥‥これを書きながら、すでに肌が湯船を求め始めたので、行きつけの銭湯へ行って参ります。

疲れが溜まっているのかしら。洗濯しましょう。洗濯しましょう。

<掲載商品>

TRAVEL TOOTHBRUSH MISOKA for TO&FRO|TO&FRO(中川政七商店)
荒れ性用花梨の化粧水(中川政七商店)
ヘアブラシ(中川政七商店)

文:長谷川賢人

羽田空港で買える!鉄板の日本お土産5選を、外国人観光客に詳しい店員さんに選んでもらった

年末年始でながいお休みを取られる方もいるシーズンになりました。「旅の玄関口」は数あれど、羽田空港には日々、国内外から多くの人が訪れます。なかには、海外を訪ねていったり、あるいは遠く離れた場所に住む友人に会ったりすることも。

そんなときには手土産のひとつでもあると、会話のきっかけになりますね。でも、忙しいさなかで「用意するのを忘れた!買いに行けなかった!」というのも、ままあるもの。

短い時間で、なおかつ喜ばれるものを選びたい‥‥けれど、決め手に欠ける!というときに嬉しいのが「鉄板」の選択肢です。

そこで今回は、羽田空港に拠点を構え、日本各地の生産者と作り上げた「日本の土産もの」をコンセプトにした商品を取り揃える、「日本市 羽田空港第2ターミナル店」の村田店長に、「鉄板の日本お土産」を5つ選んでいただきました。

日本市 羽田空港第2ターミナル店
日本市 羽田空港第2ターミナル店。「第2旅客ターミナル」の地下1階に店を構える

海外の方に喜ばれるものを、というお願いをしていますが、アイテムはどれも日本らしさを感じさせるものばかり。もちろん、日本人にお渡ししても、喜ばれることでしょう!

1.注染手拭い

特に人気の柄は「ことわざ手拭い」と「富士山」とのこと。

「海老で鯛を釣る」
注染手拭い 富士山

染色の技が詰まった芸術品として見られ、「日本画のように飾る」という楽しみ方もあるのだとか。

2.おみくじ

「だるま」や「福招き猫」をモチーフにしたおみくじ。手乗りサイズで、フィギュアとしての可愛さもあり。

お土産としても気軽に贈れることもあり、まとめて購入する人も多いそう。

「中身のおみくじは日本語ですが、そこもまた日本で購入したという価値を感じていただけるようです」と村田さん。

3.招き猫だるま

「だるま」を知っている人が多く、さらにだるまと招き猫がコラボレーションしているという点に、他にはない面白さがあり、人気を呼んでいます。

4.季節のおやつ

やはり、日本のシンボルともいえる「富士山」柄が手に取られやすいそう。

「金太郎飴」や「巾着袋」も日本らしさを感じるものであり、見た目のインパクトもあるため、お土産として選ぶ方が多いのだとか。

5.富士山グラス

ビールを注ぐと、まるで雪化粧をした富士山のように見えるのがユニークなグラス。そのアイデアや、桐箱に入った繊細さも目にとまる様子。

英語の説明書が入っている点も、海外の方にとっては嬉しいポイントのようです。

村田店長に外国向けのお土産について、あれこれ聞いてみた

せっかくの機会ですので、海外の方と接することも多い村田店長に、選ばれるお土産の傾向などもお聞きしました。

──人気のお土産の傾向はあるのでしょうか?

今回挙げた5点を見ても、「飾る」など、シンプルな使い方の商品が好まれるようです。機能性の高さよりも、使い方がわかりやすいものが人気です。

また、「日本の商品=美しく繊細」というイメージが強く、サイズ感が小さく巧妙なつくりのものにも心惹かれる方が多くいらっしゃいますね。

人気のモチーフはお国によって異なり、欧米の方は富士山、アジア圏ならだるまを選ぶ傾向にあります。

──外国人観光客から、どんな質問を受けますか?

その商品が「そもそも何か、どのように使うのか?」といった質問をよくお受けします。

商品としては、だるまなど日本的なお飾り類と、やはり「ふきん」は数が多いために、おすすめ商品として映るようで、お問い合わせもいただきますね。

──日本人のお客様から「海外の方へのお土産にしたい」という相談をもらうことはありますか。その際は、どんなものを勧めることが多いですか。

こちらのご相談、とても多いです!

空港という立地上、海外の方と取引の多い、ビジネスパーソンの方が数多くいらっしゃるからでしょうか。女性も含め、お仕事関係での贈り物を探して、ご来店くださっています。

おすすめとしては、やはり今回挙げたような人気商品をはじめ、「気軽なお土産用」なのか「ご進物用」なのか、あるいは「お相手のお国はどちらなのか」など、ニーズに合わせた提案をさせていただいております。

──ここ数年の中で、売れ筋商品にも変化はありますか?

変化を感じるのは、アジア圏のお客さまが選ぶ商品です。

お土産としてお求めやすい小物から、バッグやストールなどの高級志向な一点ものを、厳選してお買い物されるようになりましたね。

考えられる理由としては、2〜3年前までは世間的に「爆買い」というものがありましたが、小物のまとめ買いや目に付いた印象的なものを大量に選ぶという傾向からの変化があるようです。

現在では何度も日本を訪れている方が増えていること、嬉しいことに当店や取り扱う「中川政七商店」のものをご存知の方も増えてきたことから、気に入ってくださった商品のリピートや、事前にお目当ての商品をチェックしてから探しに来てくださることで、商品が絞られてきたからだと推測しています。

土産は字のごとく、もともとは「その土地の産物」という意味合いで使われていました。日本という土地で見ると広いようですが、今回挙げてもらった5点は、まさに「日本」を感じさせるものばかり。

空の玄関口で贈り物に迷ったときに、あるいはどこかへ行く前の準備として、今回のおすすめが役立ちますように!

<取材協力>
日本市 羽田空港第2ターミナル店
東京都大田区羽田空港3-4-2
東京モノレール羽田空港第2ビル駅 B1F
03-3747-0460
https://www.yu-nakagawa.co.jp/p/211

文:長谷川賢人

この寒い冬は「生姜好きの生姜シロップ」で体を温めて乗り切ります

朝、身支度をしながら流し見するテレビから「今年、いちばんの冷え込みです」なんて聞こえてきて、窓の外を見ながら着る服を悩む時期になりました。いちばん、いちばんって、どこまで寒くなっていってしまうの。そんな気持ちにもなりながら、慣れ親しんだマフラーを手に取る。

そんな冬の朝に、昨年から「生姜湯」が仲間入りしました。もとから生姜の風味が好きだったのもあり、出掛けに体を温めたい気持ちから飲むようにしていました。とはいえ、忙しい朝のこと。生姜をすって鍋で煮出すような時間もありません。

手軽に美味しい生姜湯が飲めないものか。そこで出合ったお気に入りが、中川政七商店の「生姜好きの生姜シロップ」でした。商品名通り、生姜好きのみなさんにぜひ紹介したいのです。

「5倍希釈」でお湯を注ぐだけ

生姜湯の作り方もさまざま。

チューブの生姜は、料理に使うとまだ気にならないのですが、お湯で割るとなると‥‥どこか風味が気になる。粉末生姜も便利ながら、今度は風味が強すぎて、まるで漢方のように飲み下すものに(しかも熱くて一気に飲めない)。

市販の生姜紅茶やシロップなども試しましたが、今度は甘すぎたり、生姜の風味が控えめだったり……右往左往していた生姜ラヴァーの私を救ってくれたのが、この一本でした。

作り方は簡単で、基本は「5倍希釈」でお湯を注ぐだけ。生姜を強く感じる辛口タイプのシロップなのですが、レモンがアクセントになっていて、口当たりは爽やか。その飲み口の良さに快くなっていると、後味にはグーッと生姜の風味が立ってきます。

調べたところによると、人間が生姜に温かさを感じるのは、生姜に含まれる辛味成分が、舌やのどの奥、胃の中にある神経の「温覚」を刺激するからだそう。温覚が刺激されると、脳から「体温を下げなさい」という司令が出て、血行が良くなったり、汗をかいたりするから、温かく感じるのですね。

そう、このシロップの大事なところは「美味しい!」ということ。

国産生姜と砂糖を使ったシロップに、蜂蜜、生姜パウダー、ブランデー、瀬戸内産レモン果汁を使ったレシピは、中川政七商店のオリジナル。内容物の通り、どこか舌にひっかかりそうな材料がないのも安心感があります。

時間があって、もっと刺激がほしければ、生の生姜を少々。かもしか道具店の「しょうがのおろし器」と組み合わせるのも良いですね。このおろし器だと、しょうがの繊維が残らないので溶けやすく、飲んでいて気になることもありません。

ただ、そもそも「生姜好き」と銘打つだけに、舌にぴりっとくるほど生姜の風味は強いです。普段から食べ物に生姜をたくさん足したり、市販の生姜湯の刺激に満足できていなかったりすれば、これほどうってつけの常備品もありません。

そうそう、生姜湯だけでなく、炭酸水で割ればジンジャーエールですし、チューハイなんかのお酒を飲むときにちょっと足すのもおすすめです。あとは、ホットミルクと合わせると、チャイのような楽しみ方もできます。

お出掛け前にも、一日のしめくくりにも。この冬の、美味しい防寒に、どうぞ。

<掲載商品>
生姜好きの生姜シロップ
かもしか道具店 しょうがのおろし器

文:長谷川賢人

「Suicaのペンギンみくじ」はこうして生まれた。郷土おみくじを現代にアレンジ

SNSをながめていたら、写真付きである投稿が流れてきました。「かわいい!」という言葉と共に、そこにはSuicaでお馴染みの「ペンギン」の人形たち。

興味が惹かれ検索してみると、「ころんとしたフォルムがいい」「陶製なのも好き」など、ペンギンファンや鉄道ファンを中心に反響を呼んでいます。さらに、中には「おみくじ」も入っているそうで、買う人の喜びのひとつになっていました。

早速買い求めてみると‥‥手のひらに収まるほどの大きさで、ぽってりした姿が愛くるしい。おみくじを楽しんだ後にも、ちょっとした場所に飾れるのもいい塩梅。

底面のシールを剥がして、赤い紐をひっぱってみると‥‥
おみくじが入っています。

この「Suicaのペンギンみくじ」は、ジェイアール東日本商事と中川政七商店がコラボレーションして作られました。生活雑貨メーカーの中川政七商店といえば、全国の郷土玩具をモチーフにしたガチャガチャなど、古くからあるものを活用したものづくりをしているのも特徴です。

まさに、「Suicaのペンギンみくじ」も、それらの「古き良き」味わいをどこかに感じさせます。さて、この感覚は、正しいものか。コラボレーションの経緯などを、中川政七商店でデザインに携わった村垣利枝さんに尋ねてみました。

全国にある動物をかたどった「おみくじ」がヒントに

──ペンギンみくじのポーズは、もしや招き猫がモチーフですか?

いえいえ、これは「敬礼」している姿です!(笑)

中に込められているおみくじの内容は「おでかけして素敵な一日を!」がテーマなので、Suicaのペンギンが「いってらっしゃい!」と送り出してくれているようなイメージですね。

──失礼しました!それなら、玄関あたりに飾るとぴったりですね。今回の制作が決まった経緯を教えてください。

さいたま市にある鉄道博物館のミュージアムショップがリニューアルするのに伴って、売り場が広くなったんです。そこへ置く新商品の開発を検討されていたジェイアール東日本商事さんからお問い合わせをいただき、そこで私たちから「ふきん」と「おみくじ」を提案したことで、実現に至りました。

Suicaのペンギンはキャラクターとしてもとても人気で、すでにグッズも多くありました。さらにキャラクターの魅力をより活かす方法として、おみくじという立体物への再現がよいのでは、と話が弾んだのです。

しっぽの部分も、ぽってりしてかわいい

──立体物であれば、プラスティックなどを用いることもできたと思いますが、なぜ陶器を選んだのでしょうか。

中川政七商店では「招福干支みくじ」や「だるまみくじ」といった、陶器のおみくじを作っています。

もともと神社仏閣では、その土地にゆかりのある動物、その神社のお使い物である動物、あるいは「招き猫」や「だるま」といった縁起物をかたどった、木や陶器で作ったおみくじが存在しています。その流れから生まれたものなんですね。

中川政七商店の「招福干支みくじ」
「金だるまみくじ 必勝祈願」

──なるほど。これまでも日本にあったものに、現代のアレンジを加えたといえそうです。一つずつ表情が違いますが、絵付けは人の手で行われているのでしょうか?

はい。絵付けは人の手で行われています。おみくじの中身の紙も、一つひとつ手で巻かれています。

一つひとつ手書きのため、表情もわずかに異なる。それもまた楽しみ。

──おみくじの内容もユニークに感じましたが、文面はどのように決めましたか。

Suicaは「スイスイ(とスムーズに)」電車に乗ったり、お買い物ができるICカードということもあり、「運気上昇」や「上手くいく」といった意味合いを込めました。

「何事もスイスイ お出かけ運が急上昇! 行く先々で幸運が訪れるでしょう」

といった言い回しにしました。お出掛けすることで「スイスイな一日になるよ」というお告げと、「素敵な一日になりますように!」という気持ちを込めています。

古くから親しまれてきたものを、現代のキャラクターで

「とってもスイスイ」と言われると、なんだか出掛けに気分がいい

日本で親しまれてきた、動物をかたどったおみくじ。そこに、現代の人気者である「Suicaのペンギン」も仲間に入り、ファンを魅了するアイテムとして生まれたことがわかりました。

最新の技術や、まだ見ぬ新素材も、たしかに心惹かれるものがあります。でも、私たちの身の回りには、昔から愛されてきたものたちがあり、視点を変えてあげれば、こんな活かし方もできるんだ!と気付かされたようでした。

「Suicaのペンギンみくじ」は、前述の鉄道博物館ミュージアムショップ「TRAINIART」のほか、JR東京駅構内の「TRAINIART TOKYO」などでも発売中です。

文・写真:長谷川賢人

「一杯のコーヒーができること」を考え抜いた喫茶店──京都・市川屋珈琲が伝える工芸の魅力

かつて清水焼の工房が軒を連ね、陶芸家・河井寛次郎も暮らした五条坂界隈。

三十三間堂や清水寺、高台寺などの名だたる観光名所に囲まれながら、街角には小さな和菓子屋さんや銭湯、お豆腐屋さんが残り、昔と変わらぬ人々の普段の暮らしが息づいている。

そんな閑静な一角で、2015年に暖簾を掲げたのが「市川屋珈琲」だ。

清水焼の家系に生まれた、コーヒー好きの青年。

店主の市川陽介さんは、お祖父さんとお父さんが清水焼の職人という家系に生まれ、幼いころから工芸の世界に慣れ親しんで育った。しかし、自身が志したのは陶芸家ではなくコーヒーの世界だった。

店主の市川さん。「イノダコーヒ」で経験を積み、2015 年に独立

「元々コーヒーが好きで、学生の頃から趣味で焙煎をしていました。自分で焙煎したコーヒーをいろんな人に飲んでもらって、“美味しいやん”なんて言ってもらえるのがうれしくて」

本格的にコーヒーの道へ進むことを考えた市川さんは、「どうせやるなら歴史のあるコーヒー店で」と、京都屈指の老舗「イノダコーヒ」の門を叩いた。

そこで18年間、コーヒーについて多くのことを学んだ市川さん。ただ、いつかは店を持ちたいと思ってはいたものの、この場所でコーヒー店を開くことは一切考えていなかったという。

取り壊し寸前だった、清水焼の工房。

店の建物は、市川さんのお祖父さんが清水焼の工房として使っていたもので、8年ほど前までは市川さんが実際に暮らしていた。しかし中心地にある町家よりも大型で管理が難しく、このまま残すか、取り壊すかをずっと迷っていたそう。

「売ろうと思っても、売れるような物件じゃない。3人兄弟のうち私以外は、建物を壊すことで合意していました」

太い梁が残る土間の空間。
太い梁が残る土間の空間。近代的な焙煎機との組み合わせが新鮮

とあるきっかけは、雨漏りの修理を大工さんに依頼した時のこと。建物の痛みがひどく、屋根だけの修理は不可能だと言われた。それならすべて改装し、かねてからやろうと思っていた喫茶店をここで開こうと市川さんは決心する。

開店への道は険しく、改装費は新築の物件を建てる時の約4倍もかかった。それでも、この場所を残したいという想いが勝っていた。

改装は、町家建築のエキスパート集団「京町家作事組」が担当。市川さんが思い描く喫茶店の形を忠実に再現してくれたという。

構想から丸2年、工事期間1年の歳月を経て、清水焼の工房は見事に生まれ変わった。

「街中ではないので、雰囲気が見える店にしたいと思って。道行く人がちらっと中を見た時に、カウンターがあって、コーヒーを淹れている人間がいて、コーヒーを飲んでいる人の向こうに緑が見える、そんな風景が一瞬で視界に飛び込んでくるような空間を作りたかったんです」

坂を下る途中、「市」の字を表すモダンな看板が目に留まり、窓をのぞけばそこがコーヒー店であると気づく。そうやって一人、また一人とお客さんが訪れるようになった。

席は道の往来を眺められる窓際、巨大な焙煎機が置かれた天井の高い土間、店内を見渡せる テーブル、そしてコーヒーを淹れる所作に釘付けになるカウンターと、それぞれに趣があり、訪れる度に新しい風景に出合うことができる。

「どこに座っても楽しめるように」という市川さんの想いが店の隅々にまで行き届いている。

一杯のコーヒーが、工芸への入り口に。

コーヒーに使用するのは、市川さんのお父さんとお兄さんが手掛けた清水焼の器だ。

定番の「市川屋ブレンド」と「青磁ブレンド」はお兄さん、深煎りの「馬町ブレンド」はお父さんの作品で提供する。

右から、市川屋ブレンド、馬町ブレンド、青磁ブレンドに使用するカップ
右から、市川屋ブレンド、馬町ブレンド、青磁ブレンドに使用するカップ

職人としてのこだわりに加え、市川さんの想いも反映させたオリジナルだ。

市川屋ブレンドの器は飲みやすさや持ちやすさ、冷めにくさを追求。飲み口を薄めに仕上げ、器の下部は分厚くして熱が逃げないよう工夫されている。

青磁ブレンドの器は香りを楽しんでもらうために口を広めに仕上げており、馬町ブレンドの器は、深煎りの量に適した少し小ぶりなカップを用いている。

京焼・清水焼は経済産業大臣指定の伝統工芸品だ。ルーツは江戸時代までさかのぼり、野々村仁清、尾形乾山、尾形光琳など、日本史に名を刻む天才芸術家たちによって脈々と受け継がれてきた。

そんな長い歴史を秘めた工芸品片手に、女子大生が楽しそうにおしゃべりしている。

「うちは工芸に関して、比較的間口が広いと思います。コーヒーを飲む時にきれいな器だな、と思ってもらえたら、それが清水焼に興味を持つ最初のきっかけになりますから」

世代を問わず、日常的に営む「喫茶」という行為を通じて、誰もがごく自然に工芸に触れることができる。

そこで手に馴染む感覚を覚え、美しい色合いに心を奪われる。それが工芸の世界へ足を踏み入れる最初の一歩となるかもしれない。

市川屋ブレンドで使用する器は、品の良いツヤや佇まいが高級感を生み出しながらも、淡い青磁の色合いがどこかモダンな印象を与えている。軽過ぎず、重過ぎず、手に持った時の馴染みの良さが、いかに日常のための器であるかということを実感させてくれるだろう。

日常を少しだけ特別なものにしてくれる清水焼のカップ。店では購入も可能
日常を少しだけ特別なものにしてくれる清水焼のカップ。店では購入も可能

コーヒーカップなら、日常にすぐに取り入れられ、明日からでも使うことができる。日常に清水焼のある風景を想像しながら、まずはコーヒーを堪能したい。

工芸はもちろん、コーヒーへの入り口に。

コーヒーは、一杯ずつネルドリップで時間をかけて淹れる。「イノダコーヒ」で長く学んできた市川さんの真骨頂だ。

抽出に時間を要するネルドリップは、一杯一杯の提供が根気のいる作業となる。それでも今の方法にこだわるのは、「喫茶店として、長くゆっくり過ごしてもらうにはネルドリップが一番」という想いがあるから。

ペーパーに比べ、とろんとした甘さが特徴で、時間が経ってもあまり味が変わらない。

本を読んだり、友人とのおしゃべりに夢中になっても、ひと口目の感動を最後まで味わうことができる。

また、豆はすべて自家焙煎。季節や毎日の気候によって少しずつ焙煎や抽出法を変え、常に理想の味を提供できるよう日々神経を研ぎ澄ます。

そしてメニューに並ぶのは、バランスの取れた3種類のブレンドのみだ。

3種のブレンドはそれぞれ購入も可能。100gと200gを用意
3種のブレンドはそれぞれ購入も可能。100gと200gを用意

最近のコーヒーの傾向と言えば、シングルオリジンで産地の特徴を楽しむのが主流になっているといえるだろう。

しかし、普段コーヒーに馴染みのない人が「ブラジル」や「グァテマラ」といった産地だけでコーヒーを選ぶのはかなり難易度が高い。

一方ここで選ぶのは、甘み、酸味、苦味のみ。これなら初心者でも選びやすく、どんなコーヒーなのか想像もしやすいだろう。そして口に含んだ瞬間、想像もしていなかったような角のない口当たりに誰もが驚かずにはいられない。

普段コーヒーに親しんでいる人にさえ、新たなコーヒーの世界への扉が開かれていくようだ。

「うちは比較的やわらかいコーヒーを楽しみたいというお客さんに向いています」と市川さん。深煎りの馬町ブレンドも、一般的な深煎りコーヒーよりあっさりとした印象を持つ人も多いはず。

実際、普段はミルクと砂糖を必ず入れるという年配客も、「ここのコーヒーはミルクなしでも飲める」と最後までブラックで楽しんでいるそう。

ここは工芸とコーヒー、どちらの入門編にもピッタリの場所なのだ。

「飽きさせない」という、喫茶店としての役割。

「しっかりとした店構えはお客さんを和ませ、飽きさせない」ということをイノダコーヒで学んだという市川さん。

ピカピカに磨かれた民芸調の家具、季節ごとにしつらえを変える床の間など、店内は隅々にまで美意識が行き届き、懐かしい雰囲気の中で特別な時間を過ごすことができる。

「最終的に、お客さんが気持ちよく帰ってもらうにはどうすればいいかをいつも考えてやっています」

店の雰囲気、器、コーヒー。すべてが合わさってひとつの「味」になる。そして店を出るころには、何とも言えない充実感がこみ上げてくる。

そこには五感に訴えかける心地よさがあり、この店が「また来たい」と思わせる魅力に溢れているからだろう。

何度でも足を運びたくなる理由が、この店にはたくさんある。

絶大な人気を誇る季節のフルーツサンド
絶大な人気を誇る季節のフルーツサンド。果物の一番良い時期を見極め提供する

コーヒーだからできる、工芸の魅力発信。

清水焼の職人としての祖父と父、そして兄を持ちながら、コーヒーの道へすすんだ市川さん。しかし今、受け継がれた伝統の魅力を誰よりも伝えたいという想いがある。

「ここでは清水焼の器をまず手に取っていただき、それが使用される時の美しさ、心地よさを体験してもらえたら」

直接伝統を受け継がなくても、伝統を守ることができる。未来へ受け継ぐことができる。そんなことを、一人のコーヒー店主に教えてもらった。

<取材協力>
市川屋珈琲
京都市東山区渋谷通東大路西入ル鐘鋳町396-2
075-748-1354

文:佐藤桂子
写真:桂秀也

京都の近代美術工芸「泰山タイル」をめぐる

京都の街のあちこちに見られる、色とりどりのタイル。

老舗の喫茶店や繁華街のカフェ、美術館や歴史ある花街の建物など、京都の街のふとしたところで目にする色とりどりの「タイル」の装飾。実はこのタイル、国内の歴史的建造物にも多く用いられた、京都が誇る美術工芸品のひとつでした。

1200年の歴史で、見落とされがちな近代の工芸。

歴史の中で、京都はあらゆる日本文化のルーツを育んできましたが、明治維新以後の美術史や文化史において、近代の京都が語られることはそう多くはありませんでした。

東京遷都以降「狐狸の棲家」とも揶揄されるくらい気力をなくしていた京都は、殖産興業で街に活気を取り戻そうと、あらゆる政策を打ち出します。

琵琶湖疏水の建設、それにより生まれた日本初の水力発電と路面電車、製紙場の開業、フランス式ジャカード機による西陣織の技術革新、ドイツから伝えられた七宝焼の誕生、それらの技術が一堂に会し、初めて来場者が100万人を突破した1895年の第4回内国勧業博覧会の開催。

明治以後の京都は、次々と技術的な革新を図り、近代の工芸や美術、産業の発展に尽力してきました。

そんな明治から大正期にかけて興隆を見せた美術工芸の中で、その面影を今に伝えているのが「泰山タイル」と呼ばれる建築装飾です。

工業製品ではなく、手工芸としての建築装飾。

大正6年(1917)に池田泰山により南区・東九条に設立された「泰山製陶所」。

明治期から昭和期にかけて最盛期を迎えた洋風建築の需要にともない、大量生産が可能な工業製品としてのタイルが多く生み出されるなかで、同所の「泰山タイル」は一枚ずつ表情の異なる建築用装飾タイルの製造技術を追求し、美術工芸品としての地位を確立していきました。

愛知の常滑に生まれた池田泰山は、京都市陶磁器試験所の伝習生として入所。常滑に戻り、テラコッタの技術を学んだあと、再び京都で泰山製陶所を設立します。

近代の建築を「総合的な立体美の結合」と考えた泰山は、単なる建築材料としてのタイルではなく、「自然の窯変美」を備えた美術工芸品としてのタイルを追求し、手工芸としてのタイルを生み出しました。

京都、そして日本を代表する近代建築に見られる泰山タイル。

高い技術とその美しさで注目を集めた泰山タイルは、秩父宮邸、那須御用邸などの宮内庁の格式高い建築、東京国立博物館や東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)、大大阪時代を象徴する綿業会館、甲子園ホテルなど、国内を代表する多くの近代建物に用いられています。

とりわけ製陶所のあった京都では、京都国立博物館などの名建築はもちろん、喫茶店や銭湯など、市民が日常的に集まる憩いの場にも多く取り入れられました。

現在でも泰山タイルは京都の街の片隅でひっそりとその歴史を伝えています。

今回は、京都市内で実際に見られる泰山タイルの一部をご紹介します。

きんせ旅館

こちらは京都最古の花街・島原にある旅館兼カフェ&バー。現オーナーの安達さんが、曾祖母の営んでいた旅館を受け継いだそう。

元々は江戸時代後期から揚屋として使われていた建物で、築推定250年。さまざまな歴史が交錯する空間です。

佇まいも然ることながら、扉をひとつ開ければそこは別世界。壮麗なステンドグラスに圧倒されます。

そして壁の中腰部分や足元に、青・黄色・緑と色とりどりの配色と形状で組み合わされたタイル。これが近代日本の美術工芸を代表する泰山タイルです。

1階は大正から昭和期にかけて洋風に改装され、泰山タイルはその時に取り入れられたと考えられています。

表面に艶があり、釉薬を分厚く重ねた窯変タイルと、さまざまな表情が見られる布目タイルの組み合わせ。これぞ泰山タイル、という典型を見ることができます。

京都市内でも、きんせ旅館は玄関、壁、縁側、トイレと多くの箇所に泰山タイルが使われており、状態もよく見応えがあります。

深みのあるワインレッドと、目の覚めるような青と言った色合いはどこか妖艶な空気を醸し出しています。

ダンスホールとして使用されていた中央の部屋は、格式ある寺院と同じ様式の折上格天井、シャンデリア、ビロードの椅子、重厚な家具など、想像以上の絢爛さ。飴色の空間に思わずため息がこぼれます。

今はここで音楽ライブも開催。なんとも素敵なイベントですよね。

きんせ旅館は建物自体の見応えも抜群です。

風格ある佇まいと控えめの看板に気後れしてしまいそうですが、中はもちろん誰でも利用できるカフェ。コーヒーやケーキ、お酒などを気軽に楽しめます。

「うちは駅からも遠いので、金曜日の夜でも比較的ゆったり過ごせます」とのこと。わざわざ足を伸ばして行く価値ありの空間です。

2階は創建時の趣が色濃く残る1日1組限定の宿として営業。置屋から島原太夫を迎え入れて来た揚屋としての歴史を肌で感じることができます。

CAFÉ INDÉPENDANTS

カフェ、ギャラリー、イベントホールなどが一体となった「1928ビル」。京都市役所を手掛けた武田五一の設計で、昭和3年(1928年)に毎日新聞社京都支局として竣工されました。

現在地下1階に入るのが「CAFÉ INDÉPENDANTS(カフェ アンデパンダン)」です。

ランチからディナーまでの通し営業で、しっかりごはんや昼飲み、午後のお茶、夜のバー使いと、一日中頼れる心強い存在。

そんなカフェへ向かう階段を降りようとすると、目に飛び込んでくるのが不揃いのタイルを組み合わせた鮮やかな装飾。

実はこの様式、従来の泰山タイルとは少し趣が異なり、泰山製陶所のものと断定することはできません。

ただ、泰山製陶所は昭和8年(1933年)に形式の異なるタイル片を組み合わせる「集成モザイク」の特許申請を行っていた記録があり、実際、同年に建てられた東京国立博物館の休憩室の壁面には集成モザイクの技術を見ることができます。

もしかすると、この1928ビルが集成モザイクの先駆けになっていたのかもしれません。

そして店内へ入ると、壁一面に施されたふっくら艶のあるタイル。こちらは泰山タイルの特徴をよく表しています。

客席の壁にぐるりと施されているタイルの装飾。きんせ旅館に比べ、少しくすんだような色合いがアンダーグラウンドな空間によく似合っています。

アンデパンダンには泰山タイルのほか、床一面にはモザイクタイルが施され、表情豊かなタイルを一度に見ることができます。

先斗町歌舞練場

京都五花街のひとつ・先斗町の北側にある先斗町歌舞練場。その名の通り、芸妓・舞妓が歌や踊りの鍛錬を積む場であり、毎年5月に開催される「鴨川をどり」の時期はとりわけ多くの人で賑わいます。

大阪松竹座や東京劇場などを手掛けた劇場建築の名手・木村得三郎の設計により昭和2年(1927年)に完成。鉄筋コンクリート造り、地上四階、地下一階の建物は創建当時「東洋趣味を加味した近代建築」と称賛されました。

そんな一大建築の壁面に抜擢されたのが、泰山タイルです。

前述の2ヶ所とは違い、艶も色彩も持たない表面の荒々しいタイル。これは大正末期から昭和初期に掛けて流行した「スクラッチタイル」という様式で、「引っ掻く」を意味する通り、焼成前に櫛などの道具を使って模様を描いたものです。

色・様式ともに酷似したスクラッチタイルが神戸女学院大学の壁面にも使用されています。

外壁下部は蔵造りの建物に多く見られる「なまこ壁」をイメージさせるような装飾で、まさに「東洋趣味」を取り入れた花街らしいデザインです。

泰山タイルは、周囲の環境や建物の持つ空気感に合わせて表情を変えるランドスケープデザインの役割を果たしていたのかもしれません。

進々堂京大北門前

昭和5年(1930年)に創業した「進々堂京大北門前」。現在4代目となる店主・川口さんの曾祖父にあたる続木斉さんが、パンの修業のために渡ったパリのカフェを再現したいと開いたパン屋さんが始まり。

現在、建物に向かって左側がパンの販売スペース、右側が喫茶スペースとなっています。

創業当初は、左側の部屋のみでスタート。のちに「パンを食べられる場所を」と喫茶スペースを増設したそうです。

そんな進々堂京大北門前は、さまざまな様式の泰山タイルを一挙に見ることができます。

まず、目に留まるのは外観足元に鮮やかに散りばめられた「集成タイル」。こちらはタイルの形状、色合い、そして店内にも多数の泰山タイルが使用されている観点から、泰山製陶所が制作した集成タイルと見ることができます。

もしかしたら、前述のカフェ アンデパンダンの「集成モザイク」を探る手掛かりになるかもしれませんね。

そして扉を開けると、目に飛び込んでくるいかにもヨーロッパ風のしつらえ。この鮮やかなワインレッドとブルーの組み合わせは、きんせ旅館のトイレの入り口に見られるタイルの色合いと酷似しています。

この不思議なデザインの正体は、なんと手洗器。以前は蛇口から、実際に井戸水が出ていたそう。

左手の部屋は、ヨーロッパの建築をそのまま移築したかのような洗練された空間。異国の空気を忠実に再現したいと奮闘した続木さんの想いが手に取るように伝わってきます。

パンの入ったガラスのショーケースの台座には「学問は自己を超越する」という意のフランス語、ケースを支える柱にはキリスト教の聖書の一部が刻まれています。

熱心なクリスチャンだったという続木さんが、日本の学生に投げかけたメッセージです。

当時、続木さんがどのような経緯で泰山製陶所に装飾を依頼するに至ったかはわかりませんが、川口さんは「泰山タイルは当時の曾祖父のイメージに叶うものだったのでは」と話します。

店内にある半月型のランプや、人間国宝となった木工芸師・黒木辰秋氏によるテーブル、窓に使用された一枚ガラスも、創業当時のものです。

創業から80余年の歳月が過ぎた今、それらは日々修復が必要。それでも川口さんは、新しいものを加えるのではなく、修復を繰り返しながら当時の姿を守り続けています。

学生時代から数十年通っている常連も多く、時にはお客さんから昔のお店のことを聞くこともあるのだそう。

多くの学生が集うパリのカフェに感銘を受け、そんな場所をこの京都にも作りたいと奮闘した創業者の想いは、川口さんや地域の人たちによって脈々と受け継がれているのです。

ご紹介した建物の年代を比べてみると、いずれも同時代に建てられたり、改修されていることがわかります。

ほかにも、京都には大正~昭和期に建てられた近代建築が多く見られます。名建築ばかりではなく、街中の小さな喫茶店や民家の一角など、思わぬところにも泰山タイルが隠れているかも。

そんな視点を持って京都の街を歩いてみれば、いつもとはひと味違う「近代」の京都の姿が見えてくるかもしれません。

<取材協力>
きんせ旅館
京都市下京区西新屋敷太夫町79
075-351-4781

CAFÉ INDÉPENDANTS
京都市中京区三条通り御幸町東入ル弁慶石町56 1928ビルB1F
075-255-4312

先斗町歌舞練場
京都市中京区先斗町通三条下ル橋下町130
075-221-2025(代表)

進々堂 京大北門前
京都市左京区北白川追分町88
075-701-4121

文:佐藤桂子
写真:桂秀也、高見尊裕