沖縄の代表的なお酒「泡盛」。空港やお土産屋さんにもたくさんのボトルが並んでいます。
泡盛といえば、独特の香りがあり、個性の強いお酒というイメージを持っていました。しかし、「泡盛は知れば飲みやすいお酒」と地元の方に聞き、俄然興味が湧きました。
さらには、飲まずに寝かせておくと、デザートのように甘くまろやかな古酒 (クース) に変化し、違った味わいが楽しめるのだそう。とりわけ、沖縄の焼物である「やちむん」に入れておくと、美味しくなるのだとか。
もしや、泡盛とやちむんを買って帰ったら、最高の沖縄土産が作れるのでは?‥‥と思いつきまして、さっそく詳しい方にお話を伺ってみることに。
訪ねたのは、沖縄県那覇市で人気の「古酒BAR&琉球DINING カラカラとちぶぐゎー」店主で、泡盛マイスターの長嶺哲成(ながみね てつなり)さん。古酒づくりのお話に加え、泡盛を美味しく飲む方法も教えてくださいました。
本当は飲みやすい?美味しい飲み方のススメ
「泡盛はきつい香りがする、アルコールが強い、といって苦手に思われる方もいらっしゃいますが、適切な方法で飲むと、きっとその美味しさに気づかれると思います。
かつての泡盛は、古酒にするためのアルコール40度以上のものばかりでした。現代では、アルコール度数30度ほどで、さらりとした口当たりのものが一般的で、水割りにして飲むのがおすすめです。水で半分に薄めることで15度前後、つまり日本酒やワインと同じくらいのアルコール度数にすると食事とよく合うんです」
たしかに沖縄のお店では、多くの方が水割りの泡盛を楽しんでいました。お酒が得意ではない私も「あ、これは飲める!さっぱりしていて美味しい!」と、料理とともに味わえました。古酒への気持ちもさらに高まります。
「古酒は本来、ウイスキーと同じく香りを楽しみながら舐めるように味わうものなんです。料理と合わせるよりも、チョコレートや黒糖、洋梨、マンゴスチンといったまったりとした甘みのあるフルーツがよく合いますよ」
「荒焼の甕」が美味しさを育てる
「40度以上の泡盛は、置いておくだけで成分が変化し、古酒化が進みます。どんな容器でも変化しますが、釉薬を塗らずにじっくりと焼き締めた荒焼 (あらやち) の甕が特に向いています。
甕に含まれるミネラル分が、高級脂肪酸とアルコールの化学変化による古酒化を促します。また、甕の中の空気量が十分なので、適度に酸化も進んで味が変化するとも言われています。沖縄工業技術センターの調べでは、ステンレス容器やガラス瓶に比べて、甕は古酒化が1.5倍早まったというデータもあるんですよ。
なるべく大きな甕で育てたいところですが、家庭で作るのなら始めやすいサイズのもので問題ありません。部屋の広さやご家族の声も聞いてちょうど良いものを選びましょう。沖縄県酒造組合の基準では、3年以上寝かせたものを古酒と呼びます」
目利きが実践、良い甕は「音」と「色」で選ぶ
「よく焼き締められた甕は、指で叩くとカンカン、キンキンと高い音がします。見た目では、レンガのような色のものより、全体が黒く焼きが入っているものを選ぶと良いです。液漏れが心配なので、表面に凹凸がなく、傷が入っていないものを選びましょう」
「とはいえ、液漏れに関しては、50年以上古酒づくりをしている名人に聞いても、どんな甕でもお酒を入れてみないと実際にはわからないそうです。
酒造所で販売しているものは、まず水を入れて液漏れをチェックしています。それでも水よりアルコールの方が漏れやすいので、実際に使うと漏れることも。中には、液漏れの1年保証がついたものなどもありますよ。
長い年月をかけて育てるものなので、好きな作家さんの窯元を訪ねて買うというこだわりを持つ方もいらっしゃいます」
定期的に中身をチェック、変化の過程も愛おしい
「古酒でも、特有の甘い香りが出始めるのは10年目くらいになってから。それまでも、1年に1回ほど定期的に中身を確認します。液漏れてしていないか、味見をして甕から土の匂いが移っていないか、などをチェックします。
5年目くらいからは、『仕次ぎ (しつぎ) 』という継ぎ足しも始めます。全体の10%ほどの量のお酒を新しいものに入れ替えるのです。
寝かせていると、泡盛の中にある変化する成分が徐々に使い切られていきます。また、長い年月のなかでアルコール度数が下がることもあるので、それらを新しいお酒で補うのです。この時、優しく混ぜて空気に触れさせることで反応を促す効果もあると言われます。やり過ぎてもいけないので、愛情を込めて丁寧に扱うことが大事です」
家宝であり、もてなしに使われた古酒
「一説には泡盛の歴史は約600年と言われますが、琉球王朝時代からお酒は酒造所が作り、そのお酒を育てるのは家庭でした。
現在の価格を見ても、販売されている古酒は50年ものが四合瓶で50万円ほど。なかなか手が出ませんよね。
泡盛は購入して育て始めたところから酒造所の酒ではなくなる、各家庭で異なる味わいになっていく面白みがあります。育てれば育てるほど、その家の味になるのです。
戦前のことが書かれた『泡盛醸造視察記 (昭和元年 大崎 正雄) 』を読むと、泡盛は200年を最高とし、100年、50年のものは稀にあらず、とあります。家庭で100年を超えるお酒を作っていたんです。古酒は、代々受け継いで、子孫に残すものでしたから」
「名家では100年以上のものを家宝として育て、大切なお客さんに振る舞っていたそうです。客人は、主人が出してくれた古酒をありがたくいただく。自分が賓客として良いものを出してもらえるようになったことを喜び、さらに自分を戒めて謙虚にお酒をいただくというのがマナーでした。もちろんお代わりなんてご法度です。
沖縄では『人間関係を大切にしなさい。人として人格を磨きなさい。そうすれば良いお酒に巡り会えますよ』と言われるんですよ (笑) 」
短い時間で泡盛を美味しくする方法
古酒づくりは長い年月をかけて行うものでしたが、最後に長嶺さんから短時間で泡盛の味をまろやかに美味しくする方法を教えていただきました。
30度ほどのアルコール度数の低い泡盛を水割りにして、荒焼の器に入れて冷蔵庫に入れておきます。期間は、1週間ほどがおすすめ。まろやかになり、さらに甘さを感じるそう。その理由は「クラスター化」。
ピリピリと舌を刺激するアルコールの分子を水の分子が包み込む現象によって、お酒の口当たりが変わってくるといいます。
戦前に作られていた古酒や、その資料はすべて消失してしまったと言われています。現代の古酒づくりが始まったのは、1950年頃から。まだまだ数十年ものの段階です。
継承されていない技術もあり、科学的な検証もしながら試行錯誤を続けて新しい古酒が作られています。
「今から育っていく、これからの時代の古酒がとても楽しみなんです」
そう語る長嶺さんの目は、未来 (とグラス) に向けられていました。
<取材協力>
古酒BAR&琉球DINING カラカラ と ちぶぐゎー
沖縄県那覇市久茂地3丁目15-15 やまこ第2ビル1F
098-861-1194
営業時間:18:00~24:00 (L.O.23:00)
定休日:日曜日
http://b-kara.com/
文:小俣荘子
写真:武安弘毅