気持ちを晴れやかにしてくれる、自分好みの正月飾り

「来年こそは本気を出そう」

年末の追い込みを軽やかに諦めつつ、新年にやりたいことをあれこれ考えてそわそわする。そんな時期に差し掛かりました。

春夏秋冬、色々な季節の行事がある中で、やっぱりお正月はどこか特別なもの。

歳神様をお迎えして新年の幸福を祈る儀式としてもそうですが、前年の後悔や反省をリセットして再スタートを切るという気持ちの面でも、お正月の持つ意味は大きいと感じています。

お正月を迎える準備の中で特に大切に、そして楽しみにしているのが、新しい注連縄(しめなわ)飾りと干支飾りを用意すること。

どちらも地域やつくり手さんによって本当に様々な種類があり、お気に入りのものが見つかるとそれだけで気持ちが前向きになります。そして元日に飾ることがとても待ち遠しくなり、新しい年の訪れをより強く感じられるようになる。お正月飾りを選ぶことは、そんな体験とセットになっています。

おめでたい願いを込めた注連縄飾り

さまざまな形が作られている注連縄飾り

神聖な場所を示す注連縄に、稲穂や裏白(うらじろ)、だいだい、御幣(ごへい)などの縁起物を付けて作られる注連縄飾り。土地に伝承する物語が由来になっていたり、暮らしに馴染みの深い道具がモチーフになっていたり、全国各地でバラエティ豊かな注連縄飾りが今も作られ続けています。

中川政七商店では今回、「わらわら(藁)と喜んで(よろこぶ=昆布)、神(紙)を待つ(松)」という語呂合わせの意味を込めた組合せで、炭を昆布に、水引を松に見立てた注連飾りを作りました。炭の黒い色には邪気を払う願いも重ねています。

地域ごとや家単位で様々な形が存在する注連縄飾り。そんな、風土性・土着性の豊かさ、多様性を感じていただき、好みの飾りを選んでいただけるように、同じ想いを込めながら様々な形で注連縄飾りを表現しました。

二連飾り

注連縄飾り(二連飾り):約23×23cm

玉飾り

注連縄飾り(玉飾り):約23×26cm

輪飾り

注連縄飾り(輪飾り):約13×50cm

その他の注連縄飾りや鏡餅飾りなど、お正月飾りの商品一覧はこちら

昔から親しまれてきた干支飾り

無病息災や厄除祈念などの縁起物として昔から親しまれてきた干支もの。その年の干支を飾ることで「家内安全・商売繁盛」、人に授けることで「招福祈願・安寧長寿」という意味を持ちます。

2023年の干支は「卯(う・うさぎ)」。卯の跳ねる姿は「飛躍」に通じ、長い耳は福を集めるとされ、縁起がよいものといわれてきました。

かわいらしいイメージのウサギをモチーフにしつつ、会津の張子や瀬戸焼、こけしの技法でオリジナルの干支飾りを作りました。日本の伝統を感じられる品の良さを大切にデザインしています。

張子飾り 首ふり卯

張子飾り 首ふり卯(小/大)

福島県の「野沢民芸」さんとつくった、オリジナル絵付けの干支張子。素朴で愛らしい表情と長い耳が特徴です。ひとつひとつ筆を用いた手書きの彩色はまさに職人技で、心温まる味わいを感じられます。

干支張子 卯

干支張子 卯

金沢の老舗「中島めんや」さんと作った干支の張子。ウサギらしい丸みのある形を追求して形を起こしています。手作業の仕上げによりすべて表情が異なるのも魅力です。

瀬戸焼の干支飾り 卯

瀬戸焼の干支飾り 卯

愛知県瀬戸市で縁起置物や季節飾りなどの陶磁器を手掛ける「中外陶園」さんと作った干支飾り。古染釉と呼ばれる青みがかったつやのある質感の釉薬を用いています。古染釉が段差に溜まった時に青みが出る点を活かすため、耳や足の部分の段差を深くつけました。色数の少ない大人っぽい干支飾りです。

干支こけし 卯

干支こけし 卯

伝統的なこけしの技術を用いて作りました。斜めにカットした形状と、尻尾を別パーツにしたことで、よりウサギらしい形を表現しています。尻尾の部分にはこけしならではのろくろ模様を施しました。

その他の商品も多数「干支づくし」商品ページはこちら

少し気が早いかな、と思っているとあっというまに師走に入ってしまいます。余裕を持ってお気に入りのお飾りを見つけて、ぜひ、晴れやかな気持ちで新年を迎えてください。

いまの暮らしに「鏡餅」を飾る意味。毎年飾れる木製の鏡餅に込めた想い

年の瀬が近づいてくると思い出すのは、お正月の恒例行事だった実家での餅つきのこと。

つきたてのお餅の美味しさもさることながら、熱々のお餅を素手でひょひょいっと丸めていく祖母の手さばきが強く印象に残っています。

「手のひらどうなってるの?熱くないの?」

こちらの疑問をよそに、すぐ食べる用、お雑煮用、かき餅用と、さまざまな形に手早く分けられていくお餅。その中で、いつも最初に取り分けられていたのが、鏡餅用の丸いお餅でした。

なんのために飾るのかは分からないけれど、他のお餅より大きくて丸くてかっこいい。

その見た目と祖母の手さばきに魅了され、「どうやら特別なものらしい」と、幼いながらにぼんやり理解して眺めていました。

縁遠くなった「鏡餅」の文化を現代につなぐ

日本では古来より稲やお米に神様が宿ると考えられ、その神聖なお米からできた鏡餅をお供えする行事がおこなわれてきました。

新しい年の幸福や長寿を祈る依り代として宮中の正月行事に登場し、やがて大衆文化として全国の集落にも根付いていった鏡餅。多くの人たちの想いや地方ごとの特色が積み重なり、今に伝わっています。

神聖な食べ物として愛されてきたお餅

一方で、長い歴史と大勢の人々の想いが背景にあるが故にその意味が伝わりづらく、若い世代の人たちにとっては少し馴染みの薄いものになっているようにも感じます。

祖父母や親世代がやっていたことを無意識に見ていた人はまだしも、そういった原体験が無い場合、なおさら縁遠いものです。

これまで人々が大切にしてきた文化や想いをどうにか引き継いでいきたい。いまの暮らしに馴染む形で日本の文化に触れられるようにしたい。そう考えて、毎年繰り返し飾っていただける木製の「鏡餅飾り」を作りました。

毎年飾れる、美しい鏡餅飾りとともに新年を祝う

餅を大小2つ重ねることで陰 (月) ・陽 (日) となり、福徳を重ねるという意味合いもあるのだそう。お餅の上に乗せる「橙」には「代々栄えますように」という願いが込められています

※鏡餅飾りなど、お正月飾りはこちらから

「昔の人が大切にしてきた要素を今の暮らしの中で感じられるように、鏡餅飾りの複雑な糸をほぐすような気持ちで取捨選択しました。要素をそぎ落とした結果、できたものが今の暮らしに合うものになれば良いなと」

商品開発の背景を、担当デザイナーの榎本さんはこう話します。

要素を取捨選択する中で、台座と折敷(おしき)のサイズ・形状は伝統に寄りすぎず、今の暮らしに沿ったものに。また、鏡餅はコブシの木、橙は組紐といった素材で表現しつつ、本物らしさを感じられる質感を追及していきました。

小・中・大の3種類をご用意

「橙の葉などは、ついつい”葉っぱ”というステレオタイプに類型化された形にしてしまいがちです。そうではなく、リアルな葉はどんな形状なのか。実と葉の付き方の関係はどうなっているのか。本物の橙をきちんと観察して、特徴を表現しています。

鏡餅も、いかに本当のお餅らしく見えるのかにこだわって、餅にかかる重力までイメージして形状を定めました」

鏡餅はろくろ挽き、橙は組紐と、それぞれ熟練の職人の手を借りて、何度も試作を繰り返しながら完成させたとのこと。

ろくろ挽きで仕上げられた鏡餅。天然の木が成長することによって、一つひとつに、木目や節、色といった自然の風合いの個性が表れます

さらに、それぞれの素材の組み合わせが破綻しないように、バランスを整えることにも気を配っています。

「本物の鏡餅も何種類かの自然の恵みを組み合わせることで、祈りの対象として完成します。

今回つくったものも同じように、いくつかの素材がうまく調和するように心がけました。

ちなみに、今回使用したコブシの木は、昔から『コブシの花が多いと豊作になる』などと言われ、お米作りと関係の深い木だとされています」

お米との関係が深く、象徴的な木でつくられた鏡餅飾り。

年の初めにそんな鏡餅飾りを眺めて、日本の文化や季節に思いを巡らせてみるのもよいかもしれません。

祖母お手製の鏡餅が私の心に残っているように、木でできた美しい鏡餅のたたずまいが、自分や家族の幸せを願う場の象徴として、皆さんの暮らしに定着してくれると嬉しく思います。

文:白石雄太

“私たちがつくる、もうひとつの日本” 中川政七商店が新プロジェクト「アナザー・ジャパン」に挑戦する理由

いまも100年先も、日本の工芸とともに心地好い暮らしをつくり続けていきたい。

私たち中川政七商店はそんな風に考えて、日々、全国のつくり手たちと生活に馴染む暮らしの道具をつくっています。

指針として掲げているのは、”日本の工芸を元気にする!”というビジョン。

なにかを始めるとき、なにかに迷ったとき、私たちはこのビジョンを頭に浮かべます。自分たちの向かう先が間違っていないか、本当にこの方法で工芸は元気になるのか。いつもそこに立ち返って考えてきました。

47都道府県の地域産品セレクトショップを学生が経営する、「アナザー・ジャパン」プロジェクト

いま、私たちは新たにひとつのチャレンジを開始しています。

それは、各都道府県出身の学生が集まり、47都道府県の地域産品セレクトショップを経営する「アナザー・ジャパン」プロジェクト。

不動産デベロッパーである三菱地所と協業し、東京駅日本橋口前で開発がすすむ「TOKYO TORCH」街区をプラットフォームに、約5年におよぶ歳月をかけて育てていく中長期型のプロジェクトです。

このプロジェクトで中川政七商店は、これまでに小売業や地域活性事業で培ったノウハウ・考え方を学生たちに教育し、店舗経営をサポートしていきます。

2021年12月9日に第1期生の募集を開始し、全国の学生18名を採用。2022年3月から約半年に及ぶ研修・準備期間を経て、2022年8月2日、約40坪の第1期店舗を開業しました。

(※関連リンク:学生が本気で経営する地域産品ショップ「アナザー・ジャパン」開業)

今後、2027年度には第1期の10倍となる約400坪の第2期店舗の開業を見据えています。

故郷と学生をつなぐ循環の輪を広げたい

アナザー・ジャパンプロジェクトが目指すのは、“日本の未来をつくる人材の輩出”。それはすなわち、東京だけでなく、各地方で活躍する人材を輩出するということです。

プロジェクトに応募した学生たちの中には、「進学で東京に出てきたからこそ、地元の良さに気づくことができた」「地元に貢献できることをやってみたいという気持ちが芽生えてきた」、そんな風に話す人が多くいました。

長野出身の池田さん。東京に出て、改めて地元の良さに気づいた

彼らのように、故郷を離れて都市部へ進学した学生たちが、アナザー・ジャパンを通じて故郷の魅力を再発見し、それを世の中に伝える役割を担う。そのことで都市部と地方の新しい関係が生まれたり、将来故郷に戻った彼らが強力な戦力として地元に貢献したり、そんな未来がおとずれてほしいと思っています。

”日本の工芸を元気にする!”ためにも、地方における人材不足は避けて通れない問題でした。つくり手だけでなく、それを伝える・販売する役割を担う人間がいないと、その工芸は結局衰退してしまいます。

アナザー・ジャパンの取り組みが地元と学生をつなぎ、未来へ循環の輪を広げていくことができれば、その問題を解決する糸口が見えてくるかもしれません。

“失敗”もあり得るからこそ成長できる。フロンティアスピリットと郷土愛を持った18名の学生たち

今回のプロジェクトで私たちが求めたのは、フロンティアスピリット(開拓者精神)と郷土愛をもった学生たちです。

アナザー・ジャパンでは、実際の店舗経営のすべてを学生たちに任せます。中川政七商店の経営研修を受けてもらったあとは、コンセプト策定から商品選定、仕入れ、店頭での接客、売上管理やプロモーション、なにからなにまで自分たちで実践してもらう。

”失敗”する可能性も大いにある真剣勝負の場で必死に自ら考え、実践するからこそ、多くの経験が得られ、地域との関係地も高くなるはず。

そのためには自分の人生を切り開くんだというフロンティアスピリットが不可欠だと考えました。

研修の様子

郷土愛は、地元の魅力を発見して発信するというマインドとも言い換えられます。魅力的な商品をセレクトし、粘り強く仕入れ交渉をおこない、店頭でその魅力を伝えて販売する。郷土愛がなければそういったことは難しい。

職人の元を訪れて、実際に手仕事を体験させてもらうことも
自分たちで直接見て、話を聞いて、地元への理解と関係値を深めていった

アナザー・ジャパン第1期には、そんなフロンティアスピリットと郷土愛に溢れた、本当に頼もしい18人が集まってくれました。

総計2,640時間を超える濃密な研修・準備期間を経て、8月2日にいよいよ1期店舗が開業。店頭でのお客様とのコミュニケーションに手ごたえを感じることもあれば、損益分岐の計算をして「経営」の厳しさを身をもって知ることも。

18人に共通するのは、アナザー・ジャパンを単発のプロジェクトで終わらせず、きちんと継続させて地域に貢献できる場に育てたい、という想いです。開店からの1ヵ月、売上をシビアに分析し、日々改善点を話し合って店舗運営に当たってきました。

「来店数を上げていくために、SNSの発信をもっと増やします。朝のシフト業務としてInstagramストーリーズの更新をお願いしたいので、更新内容について資料にまとめました。必ず目を通してください」

「立ち止まることなく、フラットに店内を回られているお客様へのアプローチがなかなか出来ていません。どうやってお声がけするのがよいか、みなさんの知見を教えてください」

「『今日は時間がないのでまた来ます』とおっしゃる方が多い印象です。その方たちが本当にまた来たくなる仕掛けなど、アイデアある方はぜひご意見ください!」

「店内入って右の棚を入れ替えます。オリジナル商品を含めた赤いものを集めて、めでたく、宴感のある”赤いキュウシュウ”というテーマで。テーマのポスターもつくります。めちゃくちゃかっこいいポスターにするので、ご期待ください」

「売上のデータを簡易なグラフにしてみました。必達目標に向かって各所改善を続けていきましょう。今週は、お盆の15日を除けば先週を上回る売上を記録できています!」

これらは、実際に学生たちが意見を出し合っているチャットスペースからの抜粋です。

細かな気づきから、数字の進捗共有、新しいアイデアの募集まで。それぞれが「経営者」としての自覚をもって、少しでもいいお店にしたいという気持ちで日々取り組んでいます。

株主総会さながらに、売上報告と課題解決案をプレゼンすることも

開業から1ヵ月。日々の改善が結果につながったこともあれば、まだまだ上手くいかないことも多くあります。

そんな嬉しさも悔しさも糧にして、これからも彼らは店頭に立ち、そして次の特集に向けて仕入れに赴き、1日1日得難い経験をしながら成長していきます。

(※関連リンク:学生自身が綴る、アナザー・ジャパン1期店オープンまでの話)

すべては”日本の工芸を元気にするために!”

来期以降もプロジェクトは続き、アナザー・ジャパンに参加したOB・OGが毎年増えていきます。5年後、10年後、「学生時代にアナザー・ジャパンで働いてたんです」という人たちが、地元に何らかの関わりを持ちながら活躍してくれる。

その輪が広がっていくことこそ、アナザー・ジャパンプロジェクトの目指すところです。

同プロジェクトのコンセプトは”私たちがつくる、もうひとつの日本”。

故郷に貢献したい学生たちの想い、そしてアナザー・ジャパンが目指す”もうひとつの日本”の姿は、私たちのビジョン”日本の工芸を元気にする!”と重なっています。

日本の未来は明るい。そう信じて、これからも私たちは活動していきます。

中川政七商店、そしてアナザー・ジャパンの今後の展開に、ぜひ注目していてください。

<店舗情報>
学生が経営する47都道府県 地域産品セレクトショップ「アナザー・ジャパン」
・営業時間 11:00~20:00
・住所 東京都千代田区大手町2-6-3 TOKYO TORCH銭瓶町ビルディング1階 ぜにがめプレイス

アナザー・ジャパンプロジェクト ホームページ

文:白石雄太

2か月ごとに異なる日本を巡る。学生が本気で経営する地域産品ショップ「アナザー・ジャパン」開業

ある時は「地元」に帰ったような安心感を、またある時は「旅先」で感じるわくわくを。

東京駅に隣接する新しい街「TOKYO TORCH」の一画に、そんな不思議な体験ができる地域産品のセレクトショップ「アナザー・ジャパン」がオープンしました。

2027年度の正式開業に向けて開発が進むTOKYO TORCH街区

同店にはTOKYO TORCHの開発を進める三菱地所がプラットフォームを提供し、小売業のノウハウ教育と経営サポートとして中川政七商店が参加しています。

そして、プラットフォームと教育を提供された上で実際の運営を担っているのは、なんと全国から集まった18名の学生たち。

コンセプト策定から商品選定、仕入れ交渉、店頭での接客、売上管理やSNS等を通じたプロモーションまで、まさに店舗経営のすべてを学生たち自身の手でおこなっていることが、「アナザー・ジャパン」最大の特徴です。

取り扱う商品は、日本各地から選りすぐった地域産品の数々。

2か月ごとに特集地域と販売商品が入れ替わる仕組みで、九州・沖縄地方の産品を集めた”アナザー・キュウシュウ”を皮切りに、”ホッカイドウ トウホク”、そして”チュウブ”、”カントウ”、”キンキ”、”チュウゴク シコク”と続きます。

取材時には、初回となる”アナザー・キュウシュウ”が開催中(2022年8月2日~10月2日)。「宴」というテーマの元で集められた産品、約350点が出迎えてくれました。

「アナザー・キュウシュウ」で購入できる商品たち

お酒や酒器、おつまみなどを揃えた「宴の乾杯」、華やかなアクセサリーや洋服が並ぶ「宴の装い」、特色あるうつわを集めた「宴の宴席」などなど。店内の棚は「宴」にひもづくさまざまなシーンごとに分けられており、それらを巡りながら、九州・沖縄の魅力ある品々に触れ、買い物を楽しむことができます。

”アナザー・キュウシュウ” の商品をセレクトしたのは、九州・沖縄地域出身の3名の学生。

「自分たちの目で見て、職人さんと話をして、素直に良いと思ったもの、心に残ったものをセレクトしました」

そう話す彼女たちは、実に80日以上も現地に滞在し、商品のセレクトから仕入れ交渉までをおこないました。

熊本県天草に伝わる「天草更紗」の布。一度途絶えてしまったが、ひとりの職人によって復元されている
天草更紗を胸にあしらったTシャツを紹介する、長崎出身の山口さん

全国的に有名な焼き物もあれば、はじめて目にするような美しい布も。九州と聞いてイメージするものもあれば、予想外の驚きをもたらしてくれるものも。

改めて自分たちの出身地と向き合い、その魅力を全国に届けたいという純粋な衝動があるからこそのラインアップになっていると感じます。

長崎「瑠璃庵」 ステンドグラスのランプ。赤と白のアナザージャパンカラー
鳩笛や尾崎人形などの愛らしい郷土玩具も

実際のところ、地元の魅力を発信したいという学生の想いに心を動かされて、商品の取り扱いを認めてくれた作り手さんもいたそうです。

「”がんばってよ!”と逆に応援してくださる方もいて、本当にありがたい気持ちです。このお店で、商品や地域の魅力を伝えることが一番の恩返しになると思うので、気持ちを込めて販売していきます。

自分たちで選んで、交渉して仕入れている商品なので、思い入れも強く、色々とお話しできることもあります。ぜひ店頭で話しかけてください」

とのこと。各地域の産品が並ぶ店内をまわり、それらを選んだ学生たちのリアルな想いを聞く。そのことを通じて、実際の産地を巡り職人と触れ合った彼・彼女らの追体験ができる。そんな魅力を持ったお店だと感じました。

47都道府県の形状をかたどった木製絵馬のディスプレイ

各地域の産品が購入できるだけではなく、週末には手仕事の体験ができるなどのワークショップも開催。また、店内併設のカフェ「KITASANDO Kissa」では特集地域にちなんだ食材を活かしたメニュー等が提供されます。まさに一年中、さまざまな角度から日本を楽しむことができるお店となっています。

絵付け体験のワークショップ
ティー&コーヒースタンド「KITASANDO Kissa」(撮影:西岡潔)
企画展のスケジュール

その地域出身の人には懐かしく、そうでない人には新しい。訪れる人や時期によって異なる体験を味わえる、少し不思議なセレクトショップ「アナザー・ジャパン」。

地元や日本のことをもっと深く知りたい、もっと多くの人に好きになってもらいたいと集まった学生たちが本気で経営するお店です。ぜひ同店を訪れて、“もうひとつの日本”を感じてみてください。

アナザー・ジャパンプロジェクトについてはこちら

<店舗情報>
学生が経営する47都道府県地域産品セレクトショップ「アナザー・ジャパン
・営業時間 11:00~20:00
・住所 東京都千代田区大手町2-6-3 TOKYO TORCH銭瓶町ビルディング1階ぜにがめプレイス

ティー&コーヒースタンド「KITASANDO Kissa」
・営業時間 平日:8:30~21:30/土日祝:10:00~19:00

文:白石 雄太
写真:中村ナリコ

「本って、いいよね。」を増やしたい。本をめぐる環境を整えるため、悩み続けるバリューブックス

“値段はつけられませんが、それでもいいですか?“

読み終えた本を古本屋に持ち込んだとき、こんな風に言われることがある。

大事に読んできて保管状態は良く、思い入れもあったけれど、悩んだ末にスペースの関係で手放すことを決めた。そんな本に対してこう言われると、少し悲しい気持ちになる。

一方、引き取る側はタダで本を仕入れることができて嬉しいのかというと、実はそれも違う。

そもそも値段がつけられないのは、なんらかの理由でその本の販売が難しいから。引き取ったところで、そのまま古紙リサイクルに出さざるを得ないケースが大半だ。手間が増えこそすれ、利益になるということはない。

双方にとって嬉しいことはなにもなく、その本が再び別の誰かの手に渡ることもない。本が本として循環する道はそこで途絶えてしまう。

こう書くと少し大げさに聞こえるかもしれない。しかし、実際に捨てられていく大量の本を目の当たりにすると、きっと見方は変わる。

古本屋が目の当たりにした、捨てられる本の現実

「本の最後を見届ける、古本屋だからこそ気づくことがあります」

そう話すのは、長野県上田市に拠点を置く「VALUE BOOKS(バリューブックス)」で取締役副社長を務める、中村和義さん。

オンラインでの本の買い取り・販売を中心に事業を展開する同社の倉庫には、日々多くの本が届く。しかし、そのおよそ半数に値段がつけられないのだという。

VALUE BOOKS 中村和義さん

値段がつけられない一番の理由は、需要と供給のバランスが崩れてしまっていること。発売時にたくさん印刷された本ほど、数年後に中古市場に出回る数も多くなる。そのタイミングでは発売時ほどの需要はなく、供給過多で販売が難しくなってしまう。

「本そのものの価値は変わらないんです。今でも読みたい、手に取れば面白い本がたくさんある。それを何もしないままリサイクルに回すのはしのびない。何かできないかという想いが強くあります」

古紙リサイクルに回される本たち。コンテナいっぱいの本が、一日に一度回収される
日々大量の本が送られてくるVALUE BOOKSの倉庫

保育園や小学校等に本を寄贈する「ブックギフト」、運営する実店舗での取り扱い、パートナー企業のチャネルを介しての販売。同社では、送られてきた本をできる限り本として活用するために様々な取り組みをおこなってきた。

「“従業員の子どもが通う保育園に持っていこうよ!”と、最初にはじめたのが『ブックギフト』です。

ありがとうと言ってもらえればやりがいにもなりますし、最初に本を送ってくれた人たちも、本が必要とする誰かの手に渡ることを喜んでくれる。

コストは発生しますが、それでも“みんなにとってそっちの方がいいよね”と決めて、今も続けています」

上田市にある実店舗のひとつ「VALUE BOOKS Lab.」。“捨てたくない本”ということで、オンラインで値がつけられない本をアウトレット価格で販売している。思わぬ掘り出し物に出会えることも

適切な価格で本を買い取るためにはじめた「送料“有料”化」

送られてきた本をできる限り捨てないというアプローチに加えて、本の買い取り率を向上させる施策にも取り組んでいる。買い取り希望の本を送ってもらう際に、送料無料をやめたこともその一環だ。

倉庫内の様子。本の査定や仕分け、発送などあらゆる業務が効率よく進められるかどうかが最重要

送料無料であれば、“値段がつくかどうか分からないけど、とりあえず送ってみよう”と、気楽に本を送ることができる。しかし、実際のところ無料となった送料は引き取る側が負担している。

その状態で販売できない本がたくさん届いてしまうとコストだけがかかり、その他の本の買い取り金額を圧迫してしまう。

販売できない本が負担となり、適切な価格で本が買い取れない。そんな悪循環を改善するために、 バリューブックス は業界の中では異例の“送料有料”に踏み切った。

「きちんと送料をいただく代わりに査定の基準を分かりやすく提示し、簡単に概算金額を算出できるスキャンシステムなども導入しました。

送料がかかってしまう分、きちんと選別した本を送っていただく。その前提で、買い取り金額自体を従来の1.5倍程度に引き上げました」

査定中の様子。こうした業務システムも自社開発している。効率よく、スピーディーに作業できるほど、買い取り価格にも還元できる

結果、送る側の意識も変わり、買い取れる本の割合が10%以上増えたそう。それでも、まだまだ多くの本を捨てるしかない現状はある。

「できる限り、 バリューブックス が活用できる本を送ってもらえるとありがたいです。とはいえ、本自体に罪はなく、どの本も送ってくれた皆さんにとっては思い入れのあるものだと思っています。

極力、本は本のままで次の読み手に渡った方が幸せだと思うので、そのために色々な方法を考えてあがいている最中です」

古本屋の枠組みを超えて動き続ける理由

古本屋として目の当たりにしてきた現実を、少しでもよくしようと模索する バリューブックス 。今年15周年を迎えた同社ではこれまで、上記で触れたこと以外にも実に様々な活動をおこなってきた。

中古バスを改造した移動式書店「ブックバス」、古紙回収に回った本を再生した商品開発、最近では自社での出版・流通事業まで。古本屋としての枠組みを超えた多岐に渡る取り組みの先に、どんな未来を描いているのだろうか。

実店舗「本と茶 NABO」の外観
店内にはカフェスペースも

「弊社は“日本および世界中の人々が本を自由に読み、学び、楽しむ環境を整える”というミッションを掲げていますが、もっとシンプルに言えば、“本っていいよね”ということ。

そんな本をより多くの人が読んだり、楽しんだり、それが学びになったり、そんな世界になったらいいなと思っています」

ミッションの“環境を整える”という部分には、自分たちだけではやれないという想いも込められている。

「本は多くの人が手に取るものだし、どんな分野に対しても接続できるものです。とても多くのプレーヤーが関わって、本をめぐる環境というものが出来上がっています。

成熟した業界だけどまだまだ歪な部分も多く残っていて、そこにはよりよい最適解がきっとあるはず。多くの人と協力して少しずつ整えていきたいですね」

新刊市場と中古市場のよりよい関係を目指して

たとえば、一次流通と二次流通の分断は大きな課題のひとつ。出版社や著者の立場からすれば本は新刊で買ってもらうことが重要で、いかに発行部数を伸ばせるかが肝になる。中古市場でいくら本が流通しようとも、彼らには何の収益も発生しないのだから当然だ。

もし、この新刊と中古本のビジネスをうまくつなげることができれば、需要と供給のバランスが大きく崩れて捨てられてしまう本を減らせるかもしれない。ここ数年はそんな取り組みもはじまっている。

出荷前の本
同封される納品書の“ウラ書き”には、おすすめの本の情報などが記載されている。購入した人が新たな本に出合うための工夫のひとつ

「たくさんの中古本を取り扱う中で、特定の出版社さんの本はいつも安定して買い取れるということに気づきました。

こういった本が増えれば、よりよい循環が生まれるのでは、と思って始めたのが『VALUE BOOKSエコシステム』です。

今のところ4社だけのトライアルにはなりますが、その出版社さんの本が バリューブックス で売れた場合に、売上の33%を還元しています」

中古本市場での売上が、新刊業界にも還元される。今はまだ試験段階だが、この関係性が浸透していけば、最初から二次流通のことも考えた出版がおこなわれるようになるかもしれない。そんな可能性も感じられる。

「そうなれば理想ですが、実際はまだまだ。これが正解の形なのかもわかっていません。この取り組みで出版社さん側のビジネスがうまく回る、というところまではいけていないので。

最初に本をつくっている人たちがいるからこそ、僕たちも存在できている。そこに対して何かよりよい形はないだろうかというのはずっと考えています」

15周年を迎えたVALUE BOOKSが、現在の自分たちと本を取り巻く環境を落とし込んだイラスト。中央がVALUE BOOKS。向かって左側の本を作る人たちと結ばれた線が非常に薄く表現されている。“ここを太くしていきたいんです”と中村さんは言う

“本っていいよね。”を増やすために

自社で出版事業をはじめたのには、自ら一度モデルケースを体感することで、二次流通まで含めた本の売り方を模索する狙いもある。

「実店舗のNABOやLABもそうですが、まず自分たちでやってみる。それが成り立つことではじめてほかの人を巻き込んで次の段階にいけるというか。

出版から二次流通、そしてその先まで考えてやってみて、それで成り立つのであれば、今よりもっと持続可能な社会に近づいていけると思うんです」

NABOに入ると実感する、古本のセレクトショップならではのラインナップ

人によって本に触れる場所はさまざまで、その環境が多種多様であれば、より多くの人が本と出合えるはずだ。

中古書店だからこそ見つけられた本をきっかけに、次はその作者の新刊を買う人もいる。保育園や学校の図書室で出会った本がきっかけで、読書の楽しみに目覚める子どもたちもいる。

本が社会をうまく循環することで、本との出会いが増え、本を必要とする人が増えていく。

「一気には変わらないので、ちょっとずつ、ちょっとずつ。いろいろな人たちと関わって模索しながら、いい循環をつくっていけると理想的です。

これまでお話しした取り組みも、すべてうまくいっているわけではなくて、むしろできていないことがたくさんあります。そんなギャップを抱えながら、それでもよりよい未来のために、腐らずにやっていくしかない。

本当に少しずつですが、チャレンジは続けられているのかなと思います」

日頃から本を読み、楽しんでいる私たち自身も、本を取り巻く環境の一部。本がどうやってつくられて、どんな最後を迎えているのか。改めてイメージしてみると、どこで買うのか、どこで読むのか、誰に譲るのか、一つ一つの選択もきっと変わってくる。

古紙になってしまう本を減らしたい。そして、“本っていいよね。”を増やしていきたい。そんな未来に向かって、 バリューブックス は今日もブレずに悩み続けている。


<取材協力>
「VALUE BOOKS」:https://www.valuebooks.jp/

※VALUE BOOKS×中川政七商店コラボキャンペーン実施中※
中川政七商店では、本の循環する社会を目指すVALUE BOOKSの取り組みに共感し、応援したいと思いました。読み終えた本をVALUE BOOKSにお送りいただくと、中川政七商店で使用できるクーポンが付与されるキャンペーンを実施中です。ぜひこの機会にご利用ください。

キャンペーン詳細はこちら

文:白石 雄太
写真:中村ナリコ

裏も表も前後もないTシャツが、子育てを少し穏やかにする

近頃、娘のやる気が高まっています。

もうすぐ3歳になる娘。

「あれなに? これなに?」
と、なんでも知りたがる 期間を経て、

「あれやる!これやる!」
と、なんでもやりたがる期間に突入。

成長を感じて嬉しい反面、“なんでも”の中にはやってほしくないことも含まれていて、喜んでばかりもいられません。

「それは触っちゃだめ!」
「口にいれないで!」
「キッチンは危ないから来ちゃだめ!」
「ボールじゃないから投げないで! 」

毎日こんな調子で注意することも増え、お互いにストレスが溜まります。

また、頑張っていることを黙って見守りたいのはやまやまですが、つい横から口を出してしまい、それが娘の逆鱗に触れることもしばしば。

「自分で!自分でやるの!!」
―よし、頑張れ、頑張れ。

「できない!できない!!」
― あ、こうやった方がいいよ。

「自分で!自分で!! 」
― いや、だからこうやった方が…

「ぎゃー!!(号泣)」
― ……。

そんなこんなで楽しくも大変な子育てですが、せっかく娘のやる気が高まっているこの機会に挑戦してみたいことがありました。

それが“ひとり着替え”。

はじめての“ひとり着替え”にうってつけ。裏も表も前後もない子ども用Tシャツ


お兄ちゃんの見よう見まねで服を脱げるようにはなっていたので、そろそろ挑戦しても良いかなというタイミング。

ただ、本人は服の前後や裏表なんかがいまいち分かっておらず、それを指摘するとまた拗ねてしまうかも、というのが懸念材料でした。

そこで今回娘に着せてみたのが、「裏表がない注染Tシャツ」。

裏表がない注染Tシャツ

名前の通り、裏表がないつくりになっていて、子どもが間違えることなく脱ぎ着できることが最大の特徴です。

かわいらしい動物の絵柄は、裏表関係なく染められる「注染」という染色技術で描かれており、どちらの面も美しい仕上がりに。

裏返すと、色が反転して楽しめる


Tシャツ本体は、大阪・泉州のブランド「HONESTIES」(オネスティーズ)さんのもの。特殊な縫製技術で裏表どころか前後もなくした、「どう着ても、正しく着られる」Tシャツです。

これなら、娘の思うままに着ても失敗しない!ということでさっそくチャレンジしてみました。

成功体験をきっかけに、少し自信を持った娘

大好きな猫の絵柄

いきなりすべて自分でというのはハードルが高いため、今回はズボンと肌着は着せた状態からスタート。

「にゃんにゃん!泣いてるのかな?」

絵柄に興味津々で、良い感じ。自然とTシャツを手に取って、まずは頭を入れていきます。

いい調子!

普段なら、色々触っているうちに裏表がひっくり返ってしまったり、前後を間違えたりしてしまうのですが、なにしろ裏表前後が無いのでなんの心配もありません。

「上手~! !すごいね~!」
親バカ全開で気持ちよく応援しながら見守ります。

次は腕を入れて…
あれ?
冷静に!

予想外のミスに一瞬慌てる場面もありましたが、褒められて気分が良かったのか諦めずに自力で修正。無事に最後まで着ることができました。

着れた!

猫の絵柄が後ろに来るように着たので「にゃんにゃんがいないー! 」と泣きそうになるも、「後ろにいるよ」と教えてあげると、「後ろにいるー!」とニコニコ。

実際のところ、Tシャツを一枚着れただけではあるものの、本人にとってはとても嬉しかったようで、この日は終始ご機嫌でした。

気分を良くしたのか、突如絵本を読み聞かせてくる
終始ご機嫌です。娘はちょうど100cmくらい。サイズは90-100のものを着ました
せっかくなので、猫を前にして着なおしてみた

穏やかに見守る素晴らしさ。親にも嬉しい体験に

最初は、洗濯の際に何も考えずに洗えることが、親側の一番のメリットかなと思っていました。

それも間違いなく大きなメリットですが、実際に着せてみた後は、娘が自信を持つきっかけになったこと、それを見守れたことが何より大きかったと感じています。

「どう着てもいいんだ」という余裕が親の側にもあることで、少し間違えそうになっても余計な口出しをせず、ストレスを感じること無く見ていられました。

別日に着た「犬」バージョン


引き続きやる気に満ちている娘。今後も色々なことができるようになっていくその過程をなるべく穏やかに、娘の成長を信じて見守ることを心がけていきたいと思います。

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裏表がない注染Tシャツ

文・写真:白石雄太