【あの人の贈りかた】季節の巡りや暮らしの時間をより豊かに感じる品(スタッフ村垣)

贈りもの。どんな風に、何を選んでいますか?

誕生日や何かの記念に、またふとした時に気持ちを込めて。何かを贈りたいけれど、どんな視点で何を選ぶかは意外と迷うものです。

そんな悩みの助けになればと、中川政七商店ではたらくスタッフたちに、おすすめの贈りものを聞いてみました。

今回は商品開発担当の村垣がお届けします。


親子で過ごす季節の行事に「きせつのしつらいえほん」

仕事を通して意味を知った、日本で古くから続く季節の行事。
暮らしに取り入れることで、四季の自然の変化に気づいたり、家族の幸せを願って過ごす時間の大切さを知り、私の暮らしを豊かなものにしてくれました。

同世代の友人には小学生の子どもをもつ母親が多く、学校や家庭で年中行事を楽しんでいる様子が伺えます。
節分でお父さん鬼に、子どもたちが力いっぱい豆を投げつける話を聞いたり、一緒に買い物をしている時、ひな祭りの食卓用に器を選ぶ友人の姿を見たりすると、嬉しい気持ちになります。

そんな季節の行事に関心を持つ友人に贈りたいのが、「きせつのしつらいえほん」。

日本の代表的な九つの行事(お正月、七夕、クリスマスなど)について、いわれ(意味)やしつらいを、シンプルでわかりやすい言葉と愛らしいイラストで説明している絵本です。

親子で読んだり内容について話したりしながら、一緒に料理や飾りつけをして、行事を知りながら楽しんでほしい。
次の季節も待ち遠しくなり、より素敵な思い出として記憶に残ったらと思い、贈っています。

<贈りもの>
中川政七商店「きせつのしつらいえほん」

“ほんの気持ち”を気軽に贈る「丈夫でへたりにくいキッチンスポンジ」

ちょっとしたお礼やお返しなど「ほんの気持ち」を伝えたい時は、ふきんや洗剤などの消耗品を贈るのが私の定番。

形が残るものは大げさだし、食べたら無くなるお菓子などは少し寂しい。
しばらくの間、相手の役に立つところに、程よく気持ちが込められる気がして贈っています。

自分も愛用していて、心からおすすめできるのが「丈夫でへたりにくいキッチンスポンジ」です。

一番のポイントは「買い替え時が分からない!」とのお声を多数いただくほど、へたりにくく長持ちするところ。
泡立ち、水切れも抜群で、食器洗いが快適になる、ハイスペックなキッチンスポンジです。

生産地は日本最大規模の家庭用品の産地、和歌山県海南市。
暖かな気候で、もともとは棕櫚(シュロ)がよく採れたことから、箒やたわし作りが盛んになり、家庭用品産業が発展した地域です。

このスポンジは、昔から生活の道具を考えてきた産地の技術の結晶。楽しく家事の時間を過ごしてほしい気持ちも込めて、気軽に贈っています。

<贈りもの>
中川政七商店「丈夫でへたりにくいキッチンスポンジ」

編み物時間の癒しに「編み針キャップ」

郷土玩具や豆皿などの“小さくてかわいいもの”が大好きで、眺めていると心が躍ります。

共感してくれそうな友人に贈るのはもちろん、そんな小さくてかわいいもの。相手の趣味に合わせて選んだあと、一緒になって「かわいいね!素敵だね」と笑い合える時間が大好きです。

最近は編み物仲間の誕生日に、ニット帽モチーフの「編み針キャップ」を贈りました。
こちらは棒網みをする際、網目が外れないように、編み針の先に取り付けて使うもの。
2cmほどの小ささですが、ニット帽の網目まで再現されていて、ずっと眺めていられる愛らしい佇まいをしています。

編み物はだいたい同じ動作の繰り返しで、編み続けるには根気が必要。「もう疲れた~」と思った時に編み棒の先のキャップに目がとまり、かわいらしさに癒されて、「もう少し頑張るぞ!」と励みになることを願いました。

<贈りもの>
・DARUMA「編み針キャップ」
・販売サイト:https://daruma-store.jp/?pid=107368609

※中川政七商店での販売はありません

贈りかたを紹介した人:

中川政七商店 商品開発担当 村垣利枝

【スタッフのコーディネート】草木染めの色かさねスカート

この夏、中川政七商店からお届けするのは、福岡の宝島染工さんと作った草木染めの洋服。手しごとならではの偶然が生んだ生地の表情と、軽やかさと力強さを感じる自然の色が特徴です。

一枚でも主役になる印象的な柄ですが、実は色々な着こなし方もできて、コーディネートの幅が広いのも嬉しいところ。夏の空の下どんなコーディネートで出かけたいか、スタッフ4人に教えてもらいました。

この記事では「草木染めの色かさねスカート」を取り上げます。皆さまのご参考になれば幸いです。

甘さのあるトップスと合わせて

スタッフ身長:159cm

「普段からよくロングスカートを履いていますが、足首くらいまである長めの丈を履くことが多いので、今回のスカートではいつもの私より少し短めの丈に挑戦しています。足さばきがよく、ぽってりしたサンダルとも合わせやすい絶妙な丈感ですね」

「手捺染でつけた不規則で大胆な模様がカモフラージュ柄のような印象も受けるので、甘めのトップスを合わせて、甘さと辛さのバランスを意識したコーディネートにしてみました。カジュアルに着たかったのでインナーにはゆったりめのTシャツを着ています。染めがきれいなのでご近所用というよりも、少し遠くに遊びに行くときに着たいです」

<合わせたアイテム>
草木染めの色かさねスカート 墨
・HEP サンダル DRV BRACK

※上記以外のアイテムはスタッフ私物です

やさしい黄色に黒を合わせて、きりっとかっこよく

スタッフ身長:157cm

「大きめの柄と綿素材でカジュアルさのあるスカートですが、シャツに合わせればきちんとした場にも着て行けそう。短め丈なので、涼しい時期はワンポイントのある靴下を合わせて着るのも可愛いなと思います」

「普段は黒や濃いピンクのようなくっきりした色の服をよく着ます。やさしい黄色のスカートは着方次第では甘い印象になりますが、大人っぽくかっこいいアイテムに見えるようなコーディネートを意識しました。バッグと靴は黒を合わせ、全体をきりっと引き締めています」

<合わせたアイテム>
草木染めの色かさねスカート 黄

※上記以外のアイテムはスタッフ私物です

きちんとした場でも着られるように

スタッフ身長:162cm

「墨色は全体がシックな色なので派手になりすぎず、程よくスタイリングのアクセントになってくれるのがいいですね。アクセサリーなどの小物類に頼らなくても華やかさが出るなと思いました」

「普段のお出かけはもちろんですが、せっかくならたくさん着たいので、職場や子どもの行事にも着ていけるよう少し落ち着いた雰囲気のコーディネートにしました。スカートの柄を活かせるように、他は黒をベースにシンプルにまとめています」

<合わせたアイテム>
草木染めの色かさねスカート 墨
国産牛革のボストンバッグ 黒
強撚綿のプルオーバー 薄グレー
小さな工芸のブローチ 錫

※上記以外のアイテムはスタッフ私物です

爽やかな印象をそのまま楽しむ

スタッフ身長:162cm

「一枚で主役になるスカートは一見少し合わせづらそうですが、着てみると意外とどんな服装にも合うなと思いました!透け感のない綿素材で布幅もあり、すねくらいまで隠れるので使いやすいのもいいところですね」

「シンプルな服装が好きなので、無地のTシャツとフラットシューズを合わせてすっきりしたコーディネートにしました。メインのスカートの爽やかな印象をそのまま楽しめるように、グレーや白色、ナチュラルな素材で全体をなじませています。ちょっとおしゃれした夏のお出かけ着としてたくさん着たいです」

<合わせたアイテム>
草木染めの色かさねスカート 黄 
強撚綿のプルオーバー 薄グレー

※上記以外のアイテムはスタッフ私物です

草木染めの色かさねシリーズご案内

染料について

今回展開する二色はともに、全体をミロバランという木の実で染め上げています。染めの工程で使う材料との反応により、同じミロバランで染めていても異なる発色となるのも草木染めの面白いところ。夏服に広がる柄の染料には、「黄色」は渋木と墨、「墨色」は墨とミロバランを採用しています。

お手入れについて

草木染めの洋服のお洗濯には中性洗剤がおすすめです。一般的な洗剤も使用いただけますが、中性洗剤の方が色落ちがよりゆっくりとなり長く色を楽しめます。
また他の洋服とは一緒に洗わず、単独でのお洗濯をおすすめします。柑橘果汁に反応し色落ちすることがあるため、ついてしまった場合は部分的にでもすぐに洗い流してください。
日焼けにより退色する場合があることから、保管は日陰でお願いいたします。

草木染めは年月とともに、色がゆっくりと変化していきます。時間を共に重ねることにより自分だけの色になる、「育てる服」としてお楽しみください。


※別の記事では「草木染めの色かさねワンピース」を使ったスタッフコーディネートもご紹介しています。ぜひ併せてご覧ください。
【スタッフのコーディネート】草木染めの色かさねワンピース

<関連特集>

<関連記事>

天然染料・手染めの洋服を、気軽に手に取れる未来へ。宝島染工が臨む「天然染めの中量生産」
【あの人が買ったメイドインニッポン】#29 染め職人・大籠千春さんが“最近買ったもの”

天然染料・手染めの洋服を、気軽に手に取れる未来へ。宝島染工が臨む「天然染めの中量生産」

大人になってから好きになったものって、何がありますか?

食べ物、本、音楽、服‥‥。新しい“好き”が見つかるのはいつでもとても嬉しくて、自分の世界が広がったように、ちょっとだけ誇らしくも感じます。

最近、そんな“好き”に新しく加わったのが天然染料で染めた洋服です。これまでそもそも出会うことが少なく、化学染料との違いを特別に意識したこともなかったのが正直なところなのですが、一つの作り手さんとの出会いが意識を向けるきっかけに。

福岡県三潴郡大木町(みずまぐんおおきまち)で天然染料・手染めのものづくりに取り組む宝島染工さんの仕事に心を奪われ、試しに‥‥とその手から生まれる洋服を暮らしに取り入れてみると、自分だけの静かな幸福感と、それでいて誰かに自慢したくなる晴れやかさに包まれました。

この感動を伝えたくて。今日は宝島染工さんのご紹介をさせてください。

天然染め“らしくない”、ユニークな柄やシルエット

博多市内から熊本方面へと車を走らせること1時間弱。周りを民家と田畑に囲まれたのどかな地に、天然染料・手染めのものづくりを今に引き継ぐ、宝島染工の工場とショールームが点在します。

「宝島倉庫」と名付けられたショールーム兼出荷場は、外から見ると素っ気ない物置場のような印象。ですがその扉を開くと、高い天井からたっぷりとかけられたカーテンが、いきいきと布の表情を変えながら出迎えてくれるのです。

シンプルな室内の中央には、これまた天井から吊られた大きな紙のモビールが。木々が風に葉を鳴らすように、ゆらゆらと揺れています。これらのカーテンやモビールは宝島染工によって染められたもの。無機質な倉庫に植物の息吹を感じられるその美しさに、思わず息をのみました。

「カーテンはシーズンごとにその季節らしい染めに変えています。モビールは藍の染料を使って板締めの技法で染めたもの。藍染めって葉っぱから色素をとるんですよ。それで、木って枝になってるじゃないですか。その理屈で、『葉っぱから作った染料で、もう一度木を作ってみる』というコンセプトで作りました。室内でも植物の美しさを感じられるようにしたいなと思って。

ただ、いろんな場所で取り付けていただけるようにと思って設計したものの、結局組み立ての難易度が高くて、私しか取り付けられなくて。注文いただくこともできるんですけど、私が全国に取り付けに伺うことになっちゃいました(笑)」

あははと笑ってチャーミングに話すのは、宝島染工の代表・大籠千春(おおごもり・ちはる)さん。30歳で宝島染工を立ち上げ、少量生産が当たり前の天然染料・手染めのものづくりの世界で、中量生産に臨む稀有な作り手です。

またその珍しさは洋服のデザインにも。天然染料の洋服と聞くとイメージするのはナチュラルな色とシルエットですが、宝島染工が作るオリジナル商品は、言葉で表すなら“スパイシー”。同社のSNSにはエッジのきいた大胆で繊細な染めの柄と、ユニークなシルエットの洋服の写真がずらりと並んでいます。

一つひとつの洋服は一見「着こなすのが難しそう」と怯むのですが、鏡の前で合わせてみると不思議となじむ。性別も世代も関係なく、着る人の意思を引き立てる服のような印象を受けました。

「藍染めとか草木染めって『ナチュラルで着心地がいい』みたいなイメージがあるじゃないですか。素材も、リネンや綿だけが使われたり。それって間違いじゃないんですけど、宝島染工では少し違うアプローチがしたいなと思ってます。

天然染料のお洋服って価格をそんなに安くはできないので、購買層が比較的お金に余裕のある、30代後半から70代の方になってくるんですね。でもそうなると、自分も年を重ねて味が出ているのに、服も味が出ているみたいになっちゃって。カドが全部とれちゃうんですよ。

だからうちでは柄を大胆にしたり、素材に少しだけキュプラやシルクを入れたり、綿を使うにしても細番手(=細い糸)を使って生地の目を詰めて、纏ったときにしゃんとして見えるような洋服に仕上げているんです」

掲げるのはジェンダーレスでエイジレスなものづくり。先ほどのSNSでは20代から70代までの男女モデルが同じように、同じ服を纏います。年齢も性別も関係なく着られる天然染料の服を作るのも、同社ならではの特徴です。

「年齢や性別を区切ることに私がメリットを感じないというか。天然染料・手染めで作る服を特定の層だけが着るっていうのも、自分がやりたいことと齟齬があるなって。同じ服をご夫婦や親子で着れたりとか、そういう感覚がいいなって思うんです」

事業体さえ健康であれば「どうにでもなる」

大籠さんが宝島染工を起ち上げたのは30歳の頃。高校でデザインを学び、大学では染織を専攻して、卒業後は天然染料を扱う染工房へ就職しました。

「化学染料に興味がないわけではないんです。でも、天然染料の魅力に惹かれちゃって。天然染めのいいところって、思い通りにならないってデメリットもあるんですけど、思い通りにならなくてもきれいなんですよね。化学染料は思い通りに染まらないと『目指すものにそぐわない』って、それがストレスになったりするんですけど、天然染料は100%に仕上がらなくてもきれいだなって思える。そこがいいなと」

婦人服を手がけるその企業で染めのものづくりに没頭した大籠さんですが、天然染料で仕上げた婦人服には、高単価で装飾性の高い商品が多いことに違和感を持ち、自分で着られるような“普通の服”を作りたいと思うように。染めの可能性を探るために経験を積みたいと、化学染料を使って手染めのものづくりを手がける企業へと身を移します。そして5年ほど経験を積み、時代はインターネット普及期へ。買い物や流通に変化の兆しが表れ、さらにはインクジェットプリンターの登場によりものづくりも様変わりしていきました。

自分がこれからやるべきこと、やりたいことを改めて考えたとき、浮かんだのは「やっぱり天然染料・手染めのものづくりがしたい」という想い。ただしどこも小規模の工場ばかりで就職口はなく、色々と考えた末、自分で起ち上げようと決意したといいます。

「閉業された染工房になら設備もあるし、もともとはそんな場所を引き継げないかなって何社か見に行ったんですけど、簡単に言うと女だからダメって言われるんです。会社の信用もないし、大手にいたわけでもないし、地元の事業者さんとのルートもないしで、結構風当たりが厳しくて。だから自分で作るしかないと思って、父が作っていた田んぼを潰して今の工場を作りました。お客さんに来ていただくにはまぁ、便利な場所とは言えないんですけどね(笑)。

でも私、事業体さえ健康であればどうにでもなるという考え方なんです。専門性を高めて特化すべき技術があれば人が集まるから、運送の利便性とWi-Fi環境と空港が近ければ、仕事はできるなって思って」

天然染めが手に取りやすくなるように。中量生産にこだわる理由

OEM(=他企業から依頼を受け、商品を製造すること)とオリジナル商品開発の二軸でものづくりを届ける宝島染工。天然染料・手染めの工房は他にもありますが、やがて宝島染工にはたくさんのOEM依頼が舞い込むようになりました。中川政七商店も同社と共にものづくりに取り組む企業の一社です。

2023年に中川政七商店が宝島染工と作った、藍染めの洋服

多くの企業から支持される理由の一つが、「中量生産」に臨む姿勢。染めの工程を長年の経験と勘に頼って進める事業者も多いなか、同社では工程を全てデータ化し、スケジュールも最初に取り決めたうえで、ものづくりを進めます。誰が、どの工程を、どの程度の時間をかけて作業したのかも全部資料に落としていくそう。

そうやって製造量や納期をきちんとコントロールすることで中量生産を可能にし、特定の層だけでなく、天然染料・手染めの良さを多くの人に届けたい。そんな想いが背景にはあるようです。

「作品を作りたいのか、商品を作りたいのかということだと思うんですよ。少量生産の作り手さんを否定しているわけではなくて、そこでは本当に美しく丁寧なものづくりをされていると思います。

でも商品にできる仕組みを作るのが、自分たちの仕事だなって私は感じてるんですよね。全部データ化するのもそうだし、テキスタイルを開発したり、お取引さんとの窓口に自分が立って、そのブランドのイメージや企業スケールに合う柄や作り方を提案したりするのが自分がやるべき仕事だなって」

この日は2024年の初夏に中川政七商店が発売する商品の染めの最中だった
染め専用の道具もたくさんあるなか、今回の柄入れはあえて“ラップ”で。身近な道具を使い、誰でも、専用道具がなくなっても染められるよう工夫を重ねる

国内を中心に受けるOEMは、生産量では同社の6割程度。一方で売上にすると、オリジナル商品と割合が逆転するのだといいます。けれど、自社商品だけを作る判断はあえてしないそう。その理由を大籠さんはこう話します。

「自社商品だけになると、貴重な無駄がなくなる気がして。各社のデザイナーさんとお仕事をしていると『何でそんなことを思いつくんだろう』って、うちでは思いつかないようなデザインを上げてこられる場合もあるんです。そういう、社外のデザイナーさんとできるスペシャルな仕事に自分は喜びを感じるんですよね。あとはご一緒する企業さんのものづくりを叶えるために、自分たちにできることを考えるのに面白さや意義も感じるし」

経年変化が味を出す。天然染料の魅力

改めて、天然染料・手染めのものづくりの良さとはどこにあるのでしょう。何となく「自然でいいな」というイメージは持つものの、これを機に大籠さんが思う、着る人にとっての魅力を聞いてみました。

「天然染料のほうが洗っていくと風合いが出るってイメージですね。普通はお洋服って、お店で購入したときが“完全な”状態だと思うんですけど、天然染料の洋服って育っていくんです。化学染料だと着る回数を重ねると、完全品からどんどんマイナスになっていくような印象があるかもしれないですけど、藍染めとか草木染めの場合は何年か経ったときのほうがいいってこともあるんですよね。『未使用で無傷の状態よりいい色になってる』ってことがあると、私は思うんです。

ただ化学染料が悪いって言いたいわけでは全然なくて。プラスチックのコップもいいところはあるけど、クリスタルのコップだと透明度が高くてきらきらしてて、食卓に並べると気持ちいい。同じ“コップ”でも、受け取る気持ちが違ったりしますよね」

もう一つ大籠さんに質問です。天然染料の洋服を迎えたい気持ちはあるけれど、お手入れが少し大変なイメージが。どう付き合っていくのが、長く“育てて”いくコツなのでしょう。

「かまってやることですね。忘れないでいるというか。天然染料で染めたものって日焼けもするし、経年変化もするんです。忘れて使わなくなると、日焼けも見過ごしちゃう。例えば藍染めならたまに洗うだけで日焼けはきれいになじむし、そうやってかまってやることでコンディションが長く保ててきれいに着れる。放っておくって、服にとっても寂しいですよね。

うちでは気軽に着られるように、お手入れもできるだけ自宅でできるように作っています。難しくしちゃうと、みんな着ないですよね。例えば私も、全部の服にアイロンをかけて着るかって言われたらかけないですし(笑)。天然染料の洋服を、デイリーユースにしたいから」

会話を重ねるうちに、どんどんハマっていく天然染料の魅力。出会う機会の少なかった洋服も、宝島染工が中量生産に臨むことで、これまでより気軽に迎えられるようになりつつあります。

「ありがたいことに天然染めに興味を持ってくれる方がちょっとずつ増えてきて、私としては『農道を走ってたのに国道に出ちゃった』みたいな感じなんです(笑)。でも『もっともっと大きくしたい』とは思ってなくて、今より少し大きいくらいの規模が自分の望むものづくりを叶えるにも、工場の体力的にも、最適かなって思うんですよね。大きくしたいわけじゃなくて、長く続くのがいいことって感覚で。作る人も着てくれる人も気持ちよくいられるような環境にしないと、お互い結局、長くいられないと思うんですよ。

今の規模をちゃんと保って回して人がしっかり働ける形態を整えていけば、私がいなくても自走できる組織になる。今は私がいないとオリジナル商品の開発はできてない状態ですけど、それが例えば、外部のデザイナーが入っても自走できるような工場になるのが次の形態だと思います。

天然染めって今はまだ特別な洋服だけど、たくさん作って誰でも買えるようにしたくって。安くはできないんだけど、買いたいときに手に入って、『特別だけど特別じゃなくなる』のような感覚までいきたいですね」

やわらかな陽光がさす染め場でたたんだ端切れを藍に染め、ゆらぎあるその模様を見せてくれた大籠さん。染料の発色を確認するためあえて白色を選んでいるという作業着には、藍の色が美しく散らばります。

「天然染料はままならないからこそ、美しい」。大籠さんのその言葉を、宝島染工で染められた洋服を身につけるたびに思い出し、毎回、今日が少し特別な日になるのです。



<関連商品>

中川政七商店では、宝島染工さんと作った「草木染め」シリーズを販売中です。天然の草木を染料に、手捺染で色を重ねた洋服や小物たち。裾をふわりとゆらしながら、夏空のもとのお出かけ着としてお楽しみください。

草木染めの色かさねワンピース
草木染めの色かさねスカート
草木染めの色かさねストール
草木染めのバッグ

<関連特集>

<関連記事>

【スタッフのコーディネート】草木染めの色かさねスカート
【スタッフのコーディネート】草木染めの色かさねワンピース
【あの人が買ったメイドインニッポン】#29 染め職人・大籠千春さんが“最近買ったもの

文:谷尻純子
写真:藤本幸一郎

【スタッフのコーディネート】草木染めの色かさねワンピース

この夏、中川政七商店からお届けするのは、福岡の宝島染工さんと作った草木染めの洋服。手しごとならではの偶然が生んだ生地の表情と、軽やかさと力強さを感じる自然の色が特長です。

一枚でも主役になる印象的な柄ですが、実は色々な着こなし方もできて、コーディネートの幅が広いのも嬉しいところ。夏の空の下どんなコーディネートで出かけたいか、スタッフ4人に教えてもらいました。

この記事では「草木染めの色かさねワンピース」を取り上げます。皆さまのご参考になれば幸いです。

さらりと着て、夏の旅行へ

スタッフ身長:159cm

「暑い夏は重ね着をするのが少し億劫で、丈が長めのワンピースにサンダルやスニーカーというスタイルが多いです。このワンピースは全体的に肌の露出が少なく、しっかり丈の長さがあるのもいいところ。一枚でさらりと着たいです」

「一枚でさまになるのでお出かけにもぴったり。今回は旅行先で着るイメージでコーディネートしてみました。身幅がゆったりしているので長距離の移動もこのワンピースなら楽ちんですね。そのままでも可愛いのですが、お出かけ気分を高めるためにベレー帽や革っぽい見た目のサンダルできちんと感も出してみました」

<合わせたアイテム>
草木染めの色かさねワンピース 黄 
・HEP サンダル DRV BRACK

※上記以外のアイテムはスタッフ私物です

気の置けない友人たちとの時間に

スタッフ身長:157cm

「柄にインパクトがあるのでストールを巻き、全体をなじませてみました。ぽってりとしたサボと光沢感のあるバッグで、ナチュラルな雰囲気になりすぎないよう少しエッジもきかせています。合わせるアイテムでグッと大人な印象にもできるので、何を合わせるか考えるのが楽しかったです」

「イメージしたのは友人とのお茶や、飲み会に出かけるときのコーディネート。ちょっと大胆な柄は、洋服好きの友人たちと会う時間にぴったりだなと思います。手染めで染め上げているので一枚として同じ柄がないなど、この服ならではの魅力もあって会話に花が咲きそうです」

<合わせたアイテム>
草木染めの色かさねワンピース 墨

※上記以外のアイテムはスタッフ私物です

おしゃれしつつも、動きやすさと両立を

スタッフ身長:162cm

「爽やかな黄色にピリッとスパイシーな柄が入り、そのまますとんと着ても全身がぼやけないのが魅力。衿元や袖のバランスも絶妙で、少しアクセサリーを足すだけでこなれた雰囲気になるので嬉しいです」

「我が家は子どもがまだ小さいので、母として動きやすいコーディネートが日々欠かせません。やわらかな生地のパンツや歩きやすいサンダルと合わせて、活動的に過ごす日の服装を意識しました」

<合わせたアイテム>
草木染めの色かさねワンピース 黄
播州織の高密度ワイドパンツ 生成
HEP サンダル BNH IVORY
天日干しリネンの巾着バッグ 生成

※上記以外のアイテムはスタッフ私物です

子どもと一緒に、公園とカフェへ

スタッフ身長:162cm

「普段は柄ものをあまり着ないので、自分らしさも出るようシンプルなアイテムと合わせてみました。メインのワンピースが目立つように他は黒色でまとめ、ワントーンでコーディネートしています。このワンピースは手染めならでは独特の表情がありつつも、着ると顔なじみがよく派手すぎないのでお気に入りです」

「子どもと一緒に公園に行った後、そのままカフェに寄ってお茶もできるようなコーディネートに。太陽の照りつけが容赦ない日でも日焼けの不安がないよう、衿元の開きにはハイネックTシャツを合わせました」

<合わせたアイテム>
草木染めの色かさねワンピース 墨
強撚綿のハイネックプルオーバー 黒
涼やか綿の重ね着パンツ テーパード 黒
国産牛革のポシェット 黒

※上記以外のアイテムはスタッフ私物です

草木染めの色かさねシリーズご案内

染料について

今回展開する二色はともに、全体をミロバランという木の実で染め上げています。染めの工程で使う材料との反応により、同じミロバランで染めていても異なる発色となるのも草木染めの面白いところ。夏服に広がる柄の染料には、「黄色」は渋木と墨、「墨色」は墨とミロバランを採用しています。

お手入れについて

草木染めの洋服のお洗濯には中性洗剤がおすすめです。一般的な洗剤も使用いただけますが、中性洗剤の方が色落ちがよりゆっくりとなり長く色を楽しめます。
また他の洋服とは一緒に洗わず、単独でのお洗濯をおすすめします。柑橘果汁に反応し色落ちすることがあるため、ついてしまった場合は部分的にでもすぐに洗い流してください。
日焼けにより退色する場合があることから、保管は日陰でお願いいたします。

草木染めは年月とともに、色がゆっくりと変化していきます。時間を共に重ねることにより自分だけの色になる、「育てる服」としてお楽しみください。


※別の記事では「草木染めの色かさねスカート」を使ったスタッフコーディネートもご紹介しています。ぜひ併せてご覧ください。
【スタッフのコーディネート】草木染めの色かさねスカート

<関連特集>

<関連記事>

天然染料・手染めの洋服を、気軽に手に取れる未来へ。宝島染工が臨む「天然染めの中量生産」
【あの人が買ったメイドインニッポン】#29 染め職人・大籠千春さんが“最近買ったもの

【旬のひと皿】緑の豆のポタージュ

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で創作料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



随分前に気に入ってよく読んでいた、料理とエッセイの本があります。日常の暮らしや日々の料理について書いてあり、自宅での味噌作りや、手作りがんもに焼き味噌おにぎりなど、見ているだけでホッとするメニューも紹介されていました。

読んでいると、著者の穏やかな日常が自分のなかにもスーッと入ってくる。そんな時間に救われる感じがしました。

それから時間が経ち、自分でも味噌を作るように。お味噌汁の味噌を溶くとき潰しきれなかった大豆を見つけると、古くからの友人に再会できたようなあたたかい気持ちになります。

茹でただけだったらこんなに長くはもたないのに、麹と発酵の力で何年も食べられる姿に変身するなんてすごいなぁ、よく頑張った、と、心のなかで大豆を讃えつつ、お味噌汁をよそっています。

大豆に限らず、栄養価の高い豆類は普段から食べたい食材の一つ。特に春から初夏にかけては、たくさんの豆が旬を迎えます。

気候もすっかり温かくなった最近では、木々の色と同じような爽やかなお豆さんたちがスーパーや産直市場に並んでいますね。

急に気温が上がると野菜の成長もいっきに早くなってしまうそうで、昨年は収穫期が集中したのか、たくさんのそら豆がいっきに出回りました。大量に迎えたそら豆は、自家製の甜麺醤に。初めて作ったので、正しいゴールだったのかはわかりませんが、お客様に美味しいと食べていただけて嬉しかったです。

豆は筋を取ったり、皮を剥いたりとひと手間かかるお野菜ですが、農家さんが作ってくださる労力を考えたらせっせと手を動かしたいなと思います。

何度も読んだあの本。しばらく開いていませんが、いつも豆の季節になるとその本のタイトルにあった『まめまめしく』というフレーズを思い出し、気持ちも食事も基本に戻り、丁寧に向き合いたくなるのです。

<緑の豆のポタージュ>

材料(作りやすい量 ※約4人分)

・えんどう豆…400g(さや付き)
・玉ねぎ…1個 ※今回は新玉ねぎを使用
・無調整豆乳(牛乳でもOK)…200ml
・水…500ml
・オリーブ油…小さじ1
・バター…15g

◆トッピング用(あれば)
・生湯葉…適量
・そら豆…適量
・スナップえんどう…適量
・いんげん豆…適量
・ブラックペッパー…適量

作り方

玉ねぎは皮をむいて薄くスライスする。えんどう豆はさやと豆に分け、それぞれ洗う。トッピング用のそら豆は薄皮に切り込みを入れておく。スナップえんどうといんげん豆の筋を取る。

先ほど取り分けたえんどう豆のさやと水、塩少々(分量外)を鍋に入れ、弱火で火にかけ、さやのスープをとる。耐熱ボウルにキッチンペーパーを被せ、スープを濾す。

別の鍋を火にかけてオリーブ油をしき、玉ねぎと塩少々(分量外)を加えて色づかないように炒めていく。しんなりしてきたらバターとえんどう豆を入れ、蓋をかぶせたらきれいな緑色に変わるまで蒸し炒めにする。

炒めることで甘みが増す

さやのスープを注ぎ入れ、豆が柔らかくなるまで火を通す。きれいな緑色を残したいので、豆に火が通るまでを目安に火を通しすぎないよう注意。途中でアクをとりつつ、味を見ながら塩(分量外)を入れる。後からでも調整できるので、7割くらいの塩加減にしておくのがおすすめ。

熱いうちにミキサーにかけたらボウルに移し、色が飛ばないよう氷水をあてて十分に冷やす。塩味が足りないときはここで足す。

※温かいスープのまま飲みたい場合も、冷やすことできれいな色をキープできるので一度冷やすのがおすすめ。

冷やしている間にトッピングの準備。フライパンに油(分量外)をしき、そら豆を入れて軽く焦げ目がつくまで焼く。塩やクミン(いずれも分量外)を加えて味を調整するのもよい。焼けたら薄皮をむく。スナップえんどうといんげん豆は、沸騰したお湯に塩少々(分量外)を入れて軽く茹で、氷水にとったら食べやすい大きさに切る。

冷やしたスープに豆乳を加え、好みの濃度にのばす。仕上げにひと口大に切った生湯葉やトッピングの豆類を乗せ、ブラックペッパーを振ったら完成。豆乳の代わりに牛乳や生クリームを入れれば、よりリッチで濃厚な味に。豆乳でのばせば色々な“豆”を一皿で楽しめる。

うつわ紹介

益子焼の中鉢 青磁

写真:奥山晴日


料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和末生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/

「草木っておいしいの?」日本の“可食植物”座談会【奈良の草木研究】

工芸は風土と人が作るもの。中川政七商店では工芸を、そう定義しています。

風土とはつまり、産地の豊かな自然そのもの。例えば土や木、水、空気。工芸はその土地の風土を生かしてうまれてきました。

手仕事の技と豊かな資源を守ることが、工芸を未来に残し伝えることに繋がる。やわらかな質感や産地の景色を思わせる佇まい、心が旅するようなその土地ならではの色や香りが、100年先にもありますように。そんな願いを持って、私たちは日々、日本各地の作り手さんとものを作り、届けています。

このたび中川政七商店では新たなパートナーとして、全国の里山に眠る多様な可食植物を蒐集し、「食」を手がかりに日本の森や林業に新たな価値を創出する、日本草木研究所さんとともにとある商品を作ることになりました。

日本の森にまなざしを向ける日本草木研究所と、工芸にまなざしを向ける中川政七商店。日本草木研究所さんの取り組みは、工芸を未来へ繋ぐことでもあります。

両者が新商品の素材として注目したのは、中川政七商店創業の地である奈良の草木。この「奈良の草木研究」連載では、日本草木研究所さんと奈良の草木を探究し、商品開発を進める様子を、発売まで月に1回程度ご紹介できればと思います。

連載2回目となる今回のテーマは「草木っておいしいの?」。草木“素人”の中川政七商店 編集チーム・上田と白石が、日本草木研究所代表の古谷さんに、草木を食べることについての素朴な疑問をいろいろとぶつけてみました。



普段の暮らしで食べている“日本の草木”

中川政七商店 上田(以下、上田):

今日はよろしくお願いします。座談会のテーマが「草木っておいしいの?」ということで、まずは自分の経験で普段から食べている日本の森の草木を振り返ってみたんですけど、山菜をのぞけば山椒とか桜の花とかくらいで。

日本草木研究所 古谷さん(以下、古谷):

そうですよね、普通はそうだと思います(笑)。山椒は、スパイス類をほぼ輸入している日本が唯一、世界に輸出しているスパイスです。日本草木研究所は山椒のように日常的に食べられる「ネクスト山椒」を探しているといっていいかもしれません。

日本の森のなかって実は、和スパイスや和ハーブといえる食べられる草木が色々あるのに、今は全然知られていません。私たちはそれを多くの方に届けて、日本の森の価値をもっと上げたり、林業従事者の新たな仕事になったりしたらいいなと考えて活動をしています。

日本草木研究所 代表 古谷知華さん

上田:

「日本の草木を食べる」って面白いなとは思うんですけど、具体的に日本の草木ならではの良さってあるのでしょうか?

古谷:

例えば日本のスパイスって和食に合うんですよ。西洋のハーブを和食に加えると、スパイスのパンチが強くて西洋の料理っぽくなりがちなんですけど、和ハーブや和スパイスだと和食に入れても和食のままなんです。和食ならではのやさしい味とかだしの風味が引き立つというか。

上田:

確かに「気候や風土が近い食材は合う」って、普段の自分の暮らしからもイメージできますね。

中川政七商店 上田

中川政七商店 白石(以下、白石):

最近、我が家では草木でお茶を作ることにチャレンジしてます。使うのは松の葉とかねこじゃらしとか。子どもがSNSで見たのがきっかけで作ってみたんですけど、飲んでいると「こんな味あるんだ」とか「こんなすっきり飲めるんだ」とか、意外な発見がたくさんあって面白いですね。

古谷:

そうですよね。草木をそのまま乾燥するだけなのか炒って使うのかでもお茶の味は全然違って、炒るとよりおいしくなると思います。そうやって「食べられないと思っていたけど実はおいしい植物」ってたくさんあって、それを知ったときの皆さんの反応をいつも嬉しく思いながら拝見してるんです。

上田:

偶然なんですけど私も最近、雑草茶に興味があって。去年、弊社の新商品お披露目イベントの企画としてイベント来場者にお茶を振る舞う機会があったんです。そこでは普通のお茶を出すんじゃなくて、雑草をお茶にして飲んだり振る舞ったりしている方に来ていただいて、そのときの商品と関連するエリアである東北の山に育った雑草をお茶にしてもらいました。

それからすごく雑草茶に興味が出て、今年は山に雑草を採りにいきたいなと思ってるんですけど(笑)、そもそも「食べられる・食べられない」ってどうやって見分けてるんですか?

古谷:

何の変哲もない答えで申し訳ないんですけど、味です(笑)。毒があるかないかは足きりラインで、そこからは積極的に食べたいかどうかですね。森に入って、とにかくちぎっては食べを繰り返してます。

あと、例えば香りは良くても繊維質なものは食べにくいとか、そういった「食品としての食べやすさ」は、食べられるかどうかの基準になるとは思います。

白石:

そのまま食べる場合も、調理して食べる場合もあると思うんですけど、定番の調理法ってあるのでしょうか?それぞれの植物ごとに合う調理法についてはどのように探られてるんでしょう。

中川政七商店 白石

古谷:

基本的な調理法は乾燥、塩漬け、発酵、蒸留ですね。例えば、香りはいいけど食べたら苦いヒノキのような植物は、香りだけを抽出したいから蒸留することが多いです。あとは木の実のように普通に食べられるものは乾燥させたり発酵させてみたりして、そのまま食べる選択肢をとることが多いですね。でも、全然難しいことじゃないんですよ。私が特殊な舌を持っているのではなくて、たぶん皆さんも食べてみたら分かると思います。

味も香りも豊かな、日本の森に育つ植物

上田:

今日は目の前にいろいろな日本の草木をご用意いただいてますね。食べてみてもいいですか?

古谷:

ぜひ!食べてみてください。これは沖縄に生えている日本の胡椒。コショウ科コショウ属の植物で、噛んでいくと後からピリッと辛みがきます。

白石:

コショウ科コショウ属。呪文みたいで楽しいですね(笑)。確かにじわじわ辛みが来ます。お酒のアテにも良さそう。

上田:

うん、おいしい。‥‥あっ、辛いです(笑)。

沖縄で採れる日本の胡椒「沖縄胡椒」

古谷:

こっちは本州に生えている胡椒を塩漬けしたもので、さっきの胡椒と違って全然辛みがないんです。日本には二種類の胡椒があって、それがいまご説明した二つ。本州に生えている方は一般的に知られている胡椒の形に近いんですけど、お伝えした通りまったく辛くなくて。だから使われてこなかったのかなと思います。見た目は私たちが知っている胡椒に近いのに、味は違う。面白いですよね。

本州で採れる日本の胡椒「フウトウカズラ」

古谷:

これはアオモリトドマツという青森に生えている木で、「木を食用品にしても面白そうだ」と思ったきっかけになった植物です。ベリーみたいないい香りが特徴で。

上田:

ほんとだ、甘いですね。じゃあ森に行くとベリーの香りがするんですか?

古谷:

乾燥しないとこの香りにはならなくて、最初はかぼすのにおいなんですよ。そこから変化してこの香りになっていくんです。

古谷:

こちらは日本版のシナモンの葉っぱ。だいぶスパイスっぽい香りがすると思います。甘さはあんまりないかな。うちではいま日本のスパイスで作るカレー粉を開発してるんですけど、それにたくさん入れています。あと、こっちはヨモギの花。どこかで香ったことがあるような、海外のハーブっぽい香りがしますよ。

白石:

確かにどこか記憶にある香りですね。よく知ってるヨモギの香りじゃなくて、ハーブ感が強い。

古谷:

これはアブラチャンというクロモジの仲間の実なんですけど、レモングラスみたいな香りなのでトムヤムクンを思い出すかも。

上田:

あぁ~!わかります、おいしそうなにおい。植物の味って、香りで想像できるものですか?

古谷:

それが難しいんですよね。香りと味って全然違っていて、いい香りがしていても食べたら苦い植物もあります。反対に香りも味も良いものもあるし、それがどうしてなのかはわからないんですよ。だから食べてみないとわからなくって、結局、非科学的な説明しかできないんです(笑)。

上田:

今まで食べたなかで一番おいしかった植物は何ですか?

古谷:

選ぶのが難しいですけど、さっきご紹介した沖縄の胡椒かな。ちなみに沖縄の胡椒は、粉末の状態では少しだけ国内で流通しているんですけど、生の状態のままご提供しているのは今のところうちだけだと思います。刻んでオイルパスタに入れたり、ポテトサラダに混ぜたり、いわゆる胡椒の代替として使えますよ。

これまで食べた草木は「100種類ほど」

上田:

これまでにだいたいどのくらいの種類の草木を試されたんですか?

古谷:

どのくらいだろう‥‥。食べようと思って試したのは、100種類くらいかもしれないです。
もちろん植物の種類はもっとたくさんありますが、いい香りのしない植物がすごく多くて。基本的に森のなかに入るとひたすらちぎりながら歩いてるんですけど、だいたいはよくある青い葉っぱの香りで、「なにこれ!」みたいな驚きの香りのものはなかなかないんですよ。

ただ、一つの植物でも花と葉と実では別の香りがするので、一種類から5つの香りがとれることもあります。例えばクロモジは葉の香りがよく知られていますが、3月の後半に咲く花からは杏子と鉄観音茶みたいな香りがして、すごくいい香りなんです。そんな風に、植物って時期によって香りが違って本当に奥深いんですよ。

上田:

日本草木研究所さんが出されている商品には、どんな草木が使われてるのでしょう。

古谷:

先ほどご紹介したカレー粉だと、柑橘系の強い香りが特徴のキハダの実や、シナモンの葉っぱ、あとは月桃も入ってますね。この「草木塩」だとアブラチャンの実の皮とヨモギの花、青りんごやバジルのような香りがする杉の新芽、他には月桃の葉に柚子の皮、山椒の葉も入ってます。

ちなみに草木塩はステーキに添えるとお肉の脂をさっと流してくれて、すごく合うんですよ。ヨモギの苦みとか、柚子や山椒の爽やかさがいい仕事をしてくれます。

白石:

「草木を食べる」と言われたらちょっと驚いちゃいますけど、古谷さんの説明を一つひとつ聞いているとおいしそうだし、身近に感じました。わりと身近なヨモギでも、葉と花で味に違いがあるなど、知れば知るほど興味がわきますね。

古谷:

嬉しいです!ちなみに、実は今まで日本草木研究所ではヨモギをあえて取り扱ってこなかったんですよ。意外性が少ないから、自分たちの取り扱い対象じゃないかなって。でもヨモギについて掘り下げていくと「これは扱わないと」と思うようになり、最近使い始めました。

ヨモギって、思っている以上に日本人の暮らしに密接な植物なんです。殺菌効果があるので、昔は山仕事をしていた人がケガをするとヨモギの葉をちぎって消毒したり、水がない場所ではヨモギをこすって手を洗ったりしたそうで。あと、沖縄では豚肉と一緒に煮込んでくさみをとったり、本州でもお酒と一緒に漬け込んで消毒液を作ったりされてきました。

そんな風に私たちの暮らしのすぐそばにあったのに、最近ではヨモギ餅くらいでしか食べないですよね。なんかおいしくないイメージもあるじゃないですか。でも摘み立てのヨモギってオレンジとローズマリーを合わせたすごくいい香りがするんですよ。

私たちにとって身近だけどポテンシャルが失われているような草木も、日本草木研究所で扱う意義があるなと思うようになって、最近はまっとうに使われてきた植物に、もう一回焦点をあてるようなこともしたいと思ってます。

白石:

今さらそもそものところを伺うんですけど、日本草木研究所さんが言う「草木」は、山や森に生えている植物全部のことを指すんでしょうか?

古谷:

そうですね、山の恵みすべてを対象にしています。ただ、個人的には山菜やたんぽぽのような既に食べられてきたものよりも、今まで食べられてこなかったけど、実は西洋ハーブやスパイスの「代替ができるもの」に興味があって。例えばクミンの代わりになる植物とか。

日本のスパイスの味ってさりげなくてやわらかいので、海外産のハーブより食べたときのインパクトは弱いものが多いんですけど、それらをかけ合わせることですごくおいしい調味料ができたりするんです。だからまずは、皆さんが使っているスパイスやハーブを日本原料のものに代えることに挑戦していけたらなって思ってますね。

上田:

確かに「おいしい」の感覚って、知っている味からの方が想像しやすいというか、受け入れやすいかもしれないです。興味がわきやすいのかな。

古谷:

わかります。まったく新しい植物だと食文化として広めていくのがすごく大変なので、代替の提案でまずは知っていただけたらなと思いますね。

白石:

ちなみに草木を食べることに、林業従事者の方や山主さんはどんな反応ですか?

古谷:

最初は「そんなことするの?」って反応ですね(笑)。でもご一緒しているのは新しい取り組みを応援してくださったり、期待をかけてくださったりする方々ばかりなので、皆さん面白がっていろいろ教えてくださいます。

奈良の草木の特徴

白石:

地域の気象条件や気候によって、育つ草木はわかるものですか?

古谷:

そうですね、わかるものもあります。でも実は本州って7割がた植生が一緒なんですよ。だから例えば奈良と山陰地方でもあまり変わらなくて。そのなかで暖かい場所に生える草木があったり、山のなかに育っているものがあったりといった感じです。

上田:

今回ご一緒する商品では、奈良の草木を使っていただく予定ですよね。奈良ならではの草木の特徴はあるのでしょうか?

古谷:

天然で生えているかはさておき、柑橘類のキハダと橘が奈良にはたくさん生えていますよね。キハダは実は、漢方にも使われるような植物です。もともと日本で多く使っていたのはアイヌ民族と言われていて、アイヌの人たちは煮込んで使っていたそうです。食べるとすごく苦いんですけど、煮込み続けると急に甘くなる瞬間があるんですよ。栄養価が豊富なので、彼らの生活に欠かせなかったと聞きました。

それらの木々って今はもう全国的にあまり見ないんですけど、奈良には今もたくさん育っています。奈良って薬草の産地で、漢方が昔から作られてきたじゃないですか。だから、キハダの実や橘も昔から育てられたり漢方に使われたりしていたといわれてます。

カレー粉やクラフトコーラに隠し味的に入れるといい苦みを出してくれるんですよ。

奈良で育てられている大和橘(橘の別名)の実

上田:

大和橘といえば、日本最古の柑橘ともいわれますよね。準絶滅危惧種になってしまいましたが、奈良でその復活を目指して育てられている取り組みも耳にします。今回の商品にも入るのかな?楽しみです!

古谷:

「日本の草木を食べる」という言葉を聞くとびっくりされてしまうかもしれませんが、日本の森には味も香りも豊かな植物がたくさん眠っています。それらを伝えることが、森の価値を上げることにもなるし、皆さんと日本の森の距離がもっと近づくきっかけになるかもしれません。ぜひ興味を持つ機会になるような商品を作っていけたらと思います!


<次回記事のお知らせ>

中川政七商店と日本草木研究所のコラボレーション商品は、2024年の夏頃発売予定。「奈良の草木研究」連載では、発売までの様子をお届けします。

次回のテーマは「奈良の山探究」。日本草木研究所さんと中川政七商店スタッフが奈良・吉野エリアの山に分け入り、林業の現在や奈良の森が持つ課題、そこで育つ草木について学んできました。ぜひお楽しみに。

<短期連載「奈良の草木研究」>

文:谷尻純子
写真:奥山晴日