最近植物の力ってすごいなと改めて感じる出来事がありました。
気づいたきっかけは、精油。
家の周囲に自然が多く、築年数の古い家に住んでいるので、梅雨~夏にかけては虫との攻防戦が繰り広げられる我が家。
これまで殺虫スプレーをまいてたのですが、匂いが苦手で、代わりになるものを探していました。
そんな時に行き当たったのが、ハッカの精油。台所に精油を垂らして置いておくと、コバエがほとんど出ず、さわやかな香りで快適!
精油というと、好きな香りを愉しむものなのかと思っていましたが、実用的に生活の役にも立つのだな、と認識が一変しました。
そうなると、もっと色々活用してみたい、と興味も沸くもの。そこで、ジャパニーズアロマの第一人者である重松浩子さんにお話を伺いました。
重松浩子
Jスタイルアロマ研究所代表
英国ITEC認定アロマセラピスト
北海道から沖縄まで日本産精油の産地訪問を重ね、産地と消費者をつなぐ「日本産精油」の普及に力を注いでいる。日々の暮らしになじみ、道具のように使う精油(エッセンシャルオイル)の活用を研究。著書に「はっか油で楽しむ暮らしのアイデア」(玄光社)ほか。アロマセラピー&自然療法専門誌「セラピスト」(BABジャパン)にて、日本産精油についての記事を連載。
精油を生活に取り入れる魅力とは
「便利な暮らしの中で、旬とか季節感を忘れてしまいがちですが、じつは身体は季節ごとのリズムをとらえて、リズムに合わせてバランスをとろうとしてるんです。そこに対してアプローチして、心身のリズムを整えてくれるのがよいところだと思います」
たしかに、コロナ禍で外出制限が続く中、家に花を飾ることが癒しになったという方も多いのではないでしょうか。
春の桜に、秋の紅葉。季節のうつろいに目を向けることは、四季のある日本に暮らす私たちにとっては、季節の習慣のようなものなのかもしれません。
ところで、精油って様々な種類がありますよね。
難しく考えずに好きな香りを楽しめばいいのかもしれませんが、リズムを整えるためには、選び方にも何かコツがありそうです。
植物を暮らしに取り入れる、と考える
「皆さん、精油として瓶になった瞬間、使い方が分からないと言うんですが、植物を暮らしに取り入れることって、ごく自然に行ってることですよね。
端午の節句に菖蒲、七夕に笹の葉、冬至に柚子湯などの行事もそうですし、ふだんから季節ごとのお花を飾ったりもすると思います」
そこで重松さんが特におすすめしているのが、和精油。
和精油とは、日本の風土で育つ植物からつくられる精油のことです。
和精油のメリットとは
「元の植物を知ってるということは、生活に取り入れるのに適したタイミングや取り入れ方が自然と分かるということ。
例えば、柚子なら冬。お風呂に柚子を浮かべるように、精油を1~2滴垂らせば柚子湯です。海外の植物では、それが分かりません。
日本で見かける植物なら、時期や取り入れ方をなんとなく知ってるので、気負わなくても自然と使えるものです」
なるほど、家に飾る花が季節によって変わっていくことを考えれば、香りもその時々に適したものを選ぶというのはごく自然なことだと感じます。
日本の植物であれば、自然と選ぶこともできそうです。
精油を自宅で気軽に取り入れる方法
選び方のコツを掴んだところで、自宅で気軽に取り入れるおすすめの方法を聞いてみました。
重松さんのおすすめは、芳香浴。
ひとくちに芳香浴と言っても、リラックスしたい時とリフレッシュしたい時で取り入れ方に違いがあるようです。
①いい空気をつくってリラックス
芳香浴と聞くと、香りを楽しむような印象ですが、
はっきりと香らせるだけではなく、まずは“いい空気をつくる”ことがおすすめなのだそうです。
「森林浴の香りをこんな“香り”と言える方はいないけど、空気はいいと感じるじゃないですか。
いい香りではなく、自然と深呼吸したくなる、いい空気をつくるのがコツです」
例えば、掃除のスプレーに混ぜて、拭き掃除する時に使ったり、カーテンやソファ等のファブリックにスプレーで吹きかけたり。
アロマポットなど特別な道具を準備しなくてもいいので、気軽に始められそうです。
②はっきり香らせてリフレッシュ
次に、はっきりと香らせて気分転換するいわゆる香りを楽しむ方法があると言います。
「春の沈丁花や秋の金木犀のようにはっきり香りを届けることで、気分転換できます。
おすすめの方法は、マグカップにお湯を垂らして香りを楽しむこと。ハンカチなどでも代用できます」
マグカップがおすすめなのは、温かいと早く香る為。疲れてる時や乾燥する季節には特に、湯気とともに吸うのも心地好いと言います。
その他、ボウルや洗面器にお湯を張り、精油を垂らして、手首まで浸す手浴(しゅよく)という方法も教えていただきました。
「私は手浴をする際、ボウルに花ふきんをいれておくんですよ。その後に絞って、首の後ろに当てると更に心地好いんです」
そして最後に、その香りが好きだからといって、ずーっとそれだけではなく、メリハリ、リズムをもつことが大切だと言います。
「香水や柔軟剤の香りが強い方って、ご本人は気付いてないことも多いと思いませんか。
嗅覚は、センサーなんです。焦げくさい、腐ってるといった危機を判断したら、香りを感じ続けている理由がないので、次に備えます。
だから、ずっと同じ香りをまとってると、どんどん香りが分からなくなってしまうんです。
一定時間使ったら換気したり、別の香りにしたり。その時々の体調リズムにあわせて使い分けるのがおすすめです」
選び方にも使い方にも、共通してリズムやメリハリが大切なのだということが分かりました。
ただ、精油って容器は小さいけれど、1~2滴垂らせば十分なことが多いため意外と長持ちします。
せっかく購入したのだから、1シーズンと言わず長く使いたいもの。例えば、夏におすすめのハッカの精油。これは夏しか使えないのでしょうか。
季節ごとの活用方法
「小豆をゆでるときに、砂糖だけじゃなく塩をちょっといれたりするでしょう。
同じように、主役として使うのか、隠し味として使うのか、季節によってそれぞれの役割も変わります。
同じ精油でもオールシーズン役割を変えながら楽しめるんです」
清涼感あふれるハッカも、夏場だけでなくそれぞれの季節に合わせて幅広い楽しみ方ができると言います。
<主役となる春夏の活用術>
主役として使われることが多い夏には、まずは暑さ対策として。
「お風呂に少し垂らしたり、水に精油を垂らして布を浸し、クールダウンしたい場所をふき取るのもおすすめです。
私は、お手製のリンスに加えて清涼感を楽しんでいます。夏のお風呂は暑いので、スーッとするのが気持ちいいんです」
水を無香料の消毒液などに変えてつくると、虫除け用の足ふきシートとしても活躍します。
掃除スプレーとして水に少し混ぜて使えば、芳香浴にもなります。
<引き立て役となる秋冬の活用術>
ハッカというと夏のイメージですが、じつは秋冬にも引き立て役や気分転換として活躍します。
「例えば、秋冬に活躍するヒノキなどの樹木精油に少しだけ加えることで、木の香りの独特なえぐみが、落ち着きます。
我が家では、衣類や布団など、布ものを仕舞うクローゼットに使うことが多いです。
また、お湯を入れたマグカップに1滴垂らし、目を閉じて香りの湯気を鼻からゆっくり吸いこみます。風邪のひき始め、花粉の時期など鼻づまりが気になる時にスッキリします。
仕事や勉強がはかどらないときに集中力を取り戻す気分転換にも便利です」
今回はハッカを例に取り上げましたが、それぞれの精油のおすすめの活用方法は商品ページでご覧いただけます。
自然のリズムにあわせて精油を選び楽しむ。
そんなコツが分かっていれば、こうしなくてはいけないというレシピではなく、応用を利かせて自分で楽しめるように思います。
ハッカを手始めに、次はこれからの季節に活躍しそうな樹木精油を取り入れてみたいと思います。
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写真:奥山晴日
文:上田恵理子