子どもが舐めても安心。石ころみたいな形の積み木「tumi-isi」

川原に転がる石ころのような形に切り出された木製ブロック。ランダムなフォルムとやわらかなカラーリングが相まって、何かしらのオブジェのように見えますが、実は積み木です。

エーヨン「tumi-isi」

「tumi-isi (ツミイシ) 」と名付けられたこちらのプロダクト。一見すると積み上げることなんて無理そうなほど不揃いなブロックが、積み木として成り立っているのはなぜなのでしょう。

エーヨン「tumi-isi」
こんな風に橋のような形にも積み上げられちゃいます

子どもから大人まで楽しめる“積む”という行為

「形はランダムなんですが、表面をツルツルにはせずに粗く仕上げているので、ギリギリのところで引っかかって積み上げられるんですよ」

そう教えてくれたのは、奈良県東吉野村に拠点を構えるエーヨンのプロダクトデザイナー、菅野大門 (かんの だいもん) さん。エーヨンは、tumi-isiをはじめ、カッティングボードやステーショナリーなど木材を使った手工業品を主に作っているプロダクトデザインレーベルです。

「一般的な積み木は、水平・垂直がわかりやすいので簡単に積み上げられます。でも、tumi-isiは各ブロックの面の中から積める場所を探していくから、パズルのような感覚があるんですよね。ただ積み上げるというシンプルな行為なんですけど、難易度がやや高い分、子どもも大人もハマるんです」

エーヨン「tumi-isi」

老若男女を問わずに遊べる積み木として、保育園や幼稚園など子どもが集まる場所はもちろん、ミュージアムショップや老人ホームなどにも置かれています。

吉野杉・吉野檜との出会い

tumi-isiは2008年にドイツの国際見本市で発表。その後、世界中で模倣品が出回り、エーヨンではいったん生産・販売をストップしていたものの、2016年に新たなスタートを切りました。

当初は素材に広葉樹を使ったものだけでしたが、吉野杉や吉野檜を使用したtumi-isiをラインナップに加えたのです。

エーヨン「tumi-isi」
カラフルなものが吉野杉や吉野檜を使用したtumi-isi

そのきっかけは、2013年に菅野さんが奈良県東吉野村に移住したことでした。

「吉野の杉や桧を活用したい」という相談を受けるうちに、吉野杉や吉野檜でtumi-isiを作ってみたらどうなるのだろうという思いが湧いてきたといいます。

「広葉樹で作ったtumi-isiは重たくて重厚感があってかっこよかったんですけど、試しに吉野杉や吉野檜で作ってみたら、軽くてグリップも効くので積み上げやすかったんです。これなら子どもが持っても重くないと、素材が商品にフィットした感じでした」

エーヨン「tumi-isi」

和室にも洋室にも合う無国籍なデザイン

展示会などを通して実物を触ってもらいながら、形や大きさ、色の改良を重ねていき、現在の姿にたどり着いたtumi-isi。

一つひとつ手塗りしているという着色には、子どもが舐めても平気なように自然塗料の「バターミルクペイント」を使用しています。カラフルでありながらも落ち着いたトーンの色も特徴の一つです。

エーヨン「tumi-isi」

「モノを作るときは、日本らしさとヨーロッパやアメリカなどの日本ぽくない部分を掛け合わせて無国籍感を出したいと思っています。

だから、tumi-isiも、国産の木材を使って日本で作っているという『日本らしさ』に、日本っぽくない発色の塗料を組み合わせました。

積み木などの子どものおもちゃって家の中でどうしても散らばってしまうもの。これなら、置くところを選ばないし、片付けなくても絵になりますよね」

孫の代まで引き継げる!? サステナブルなおもちゃ

時代や流行に左右されずに生活になじむデザインもうれしいことながら、tumi-isiを長く使ってもらいたいという思いから、エーヨンではメンテナンスも受け付けています。

使っていくごとに角が削れてしまったり、表面がツルツルになってしまって積み上げにくくなったりしたブロックを要望に沿って削り直して塗装してくれるとのこと。

tumi-isiを代々受け継いでいって、家族みんなで集まって遊ぶというのも楽しそうです。

エーヨン「tumi-isi」

創造力やバランス感覚を養う知育玩具としてだけでなく、団欒の時間やコミュニケーションを生む積み木。

どうやらtumi-isiにはそんな役割も秘められているようです。

<取材協力>

A4/エーヨン

奈良県東吉野村小708番地

A4/エーヨン公式サイト

tumi-isi OFFICIAL STORE

文:岩本恵美

写真:中里楓

わたしの一皿「強戸窯」強そうな窯が生まれました

みんげい おくむらの奥村さんが選ぶ、群馬「強戸窯」の一皿

奄美大島に滞在しています。自炊の宿に家族でちょっとのんびり1週間の滞在なので、うつわも背負ってやってまいりました。みんげい おくむらの奥村です。

ふだんとちがう食材がたくさんあって、ふだん当たり前のものが当たり前でなかったり。ここらへんのちがいを楽しみながら食事をつくっていこう。

今日は仕事のこぼれ話を。仕事柄、「独立」のシーンに出会う。主に焼き物の窯で。ふだんは窯主とばかり話をしているわけだけど、何年も何度も通っていれば修行をしている人たちのことは自然に知るし、向こうも僕のことを知るわけです。時にはおしゃべりもするし、時には窯主とともにご飯に行ったり、も。

独立の際、「窯ができたら連絡します」なんて、みんな言ってくれるが実際に連絡をくれるのは半分もない。いろんな事情があるんだろうけど、人づてに窯ができたとか、ものが出ている、とか聞くのはけっこうさみしいもんだ。

今日はそんな中で義理堅く連絡をくれた窯。群馬県の強戸窯(ごうどがま)のうつわを使った。窯主の島村さんがろくろを挽いたものは修行時代から扱っていたので、独立を楽しみにしていた。

しかし、ここもなかなか連絡がこなかったのだ。場所も見つかったと聞いていたし、もううちには連絡がないのかな、と思っていたら連絡がきた。うれしいもんです。薪で焚く登り窯を作るのにももちろん時間はかかったが、土選び、釉薬選び、いつのまにか子供が増えていたり‥‥とにかく、時間が掛かったのだそうだ。

時間は掛かったけれども、幸運なことに登り窯は初窯からよい調子で温度が上がるそうで何よりなことだ。

修行地を離れて窯を起こす、というのはまったくゼロからのスタートになる。そこでどんなものを作るのか、作っていきたいのか。応援したい気持ちはもちろんあるが、はたしてうちのお店で扱うことがお互いにとって良いのかどうか。そんなことを時間をかけて話し、考えていく。なのでこちらの窯はうちでは正式な取り扱いとしてみなさんにお披露目はしていない。ここで初公開となる。

群馬県強戸窯のうつわに盛り付けたサラダ

料理に戻ろう。今回は奄美の素材を盛り込んで簡単なサラダに。色がいいでしょう。自分でも納得の色合わせです。あ、味ももちろんのこと。

奄美大島の素材ハンダマをメインに

ハンダマという奄美ではスタンダードな野菜をメインに。沖縄でも九州南部でも食べますね。緑と紫の葉が美しい。熱を加えると少しぬるっとしてそれまたおいしい。炒め物にしてもいいんですよ、これ。

そこにこれまた地元で取れた若い春菊。鹿児島ではよく見られる金柑、島で作られる固めの豆腐。東京あたりでこれをやろうと思ったらなかなか食材集めも大変ですが、ここでやるならとっても簡単。おまけに季節の地元のものだから安くておいしいんだもの。言うことなし。

調理風景

ハンダマと金柑はお行儀よく包丁で切ったけど、春菊と豆腐は手ちぎりです。オリーブオイルがよく絡むから。いや、面倒だから。どっちもです。

ちなみにクセのある野菜と柑橘のサラダはよくやります。野菜は生よりも温野菜の方が圧倒的に好きだけど、これはもりもり生野菜と果物が食べられるので。

群馬県強戸窯のうつわ

今回使った皿はこちら。2018年の窯焚きのもの。うつわの形は修行時代に挽いていたものに近いけれど、総じて新しい顔になっている。これからもどんどんと新しい顔が生み出されていくのかな。

5年、10年後の強戸窯のうつわはどんなものになっているだろうか。強戸窯の強戸(ごうど)は地名。この土地を感じられるようなうつわが生まれる、地域に愛され、地域を広める、そんな窯元になっていくのだろうか。次の訪問も楽しみだ。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文・写真:奥村 忍

*こちらは2019年5月14日の記事を再編集して公開しました。食材の彩りはもちろん、うつわとのバランスが美しいですね。

3つの人気ローカルショップ店主が明かす、お店の作り方、「好き」の伝え方

地方都市で魅力的なお店を開いている3人からお店づくりの秘訣を伺う、トークイベントレポート第2話。

「人が集まるローカルショップのつくり方」と題して開催されました
「人が集まるローカルショップのつくり方」と題して開催されました

3人それぞれの「お店をはじめたきっかけ」を伺った第1話から、話はお店づくりの核心とも言える、商品の仕入れ方や空間づくりの話へ。

印象的だったのが、3人それぞれの「好き」との向き合い方でした。

300年以上続く漆器メーカーの跡継ぎとしてUターンした、福井県鯖江市『ataW (アタウ)』関坂達弘さん
300年以上続く漆器メーカーの跡継ぎとしてUターンした、福井県鯖江市『ataW (アタウ)』関坂達弘さん
以前さんちでも取材したataW (アタウ)
縁もゆかりもない丹波篠山に移住して、お店を開いた『archipelago (アーキペラゴ) 』小菅庸喜さん
縁もゆかりもない丹波篠山に移住して、お店を開いた『archipelago (アーキペラゴ) 』小菅庸喜さん
archipelago
archipelago (アーキペラゴ)
蔦屋書店の六本松店の中にお店があるというユニークな業態で、地元福岡で、地域に根ざした独自のお店づくりをしている『吉嗣 (よしつぐ) 商店』の吉嗣直恭さん
蔦屋書店の六本松店の中にお店があるというユニークな業態で、地元福岡で、地域に根ざした独自のお店づくりをしている『吉嗣 (よしつぐ) 商店』の吉嗣直恭さん
localshop 吉嗣商店
吉嗣 (よしつぐ) 商店

司会:「ここからは、4つのテーマに分けてお話を伺っていきたいと思います」

司会を務めた中川政七商店の高倉泰
司会を務めた中川政七商店の高倉泰

「1つ目が『人が集まるお店をつくるには』。2つ目が『ローカルショップって儲かるの?』、3つ目が『地域と作る、ものづくり』、4つ目が『これからのこと』です」

イベントレポート第2話は「人が集まるお店をつくるには」「ローカルショップって儲かるの?」からレポートをお届けします!


*3人がお店を始めたきっかけを語った第1話はこちら:「自分のお店を持つという人生の選択。3つの人気ローカルショップ店主の場合」

仕入れ、どうしていますか?
ataW 関坂さんの場合:「大事なのはまず、自分が好きかどうか。売れないことを、もののせいにしないこと」

3人の中で唯一店舗運営の経験を持たずにお店を開いたのが、「嫌々ながら」Uターン、から思いがけずお店づくりが始まった、ataWの関坂さんです。

ataW関坂さん

仕入れはビジネス的な「売れる・売れない」ではなく、関坂さんならではの2つの視点で行なっているといいます。

関坂:「僕はもともとお店で働いた経験もバイヤーとしての実績も一切ありません。本当にど素人からスタートしたお店なんですね。

それで、もともと学んでいたデザインの視点で何か面白いアイデアがあったり、作り方がユニークなものを選ぶようにしてきました。

本業はメーカーなので、ものづくりのヒントや刺激になるようなものも、積極的に仕入れています」

例えばこれ、と関坂さんが紹介したのがこちら。

流木に刺したピンの頂点を線で繋ぎ、面で全体を覆うことでもう1つの外皮を制作したオブジェ「Crust of the polygon_流木01」
流木に刺したピンの頂点を線で繋ぎ、面で全体を覆うことでもう1つの外皮を制作したオブジェ「Crust of the polygon_流木01」

「ただの流木だったものが、線をつなぐことで全く違ったものとして立ち現れるという作品です。

作り手である寺山紀彦さんの作品が僕はもともと大好きで、お店を始める時に、最初に取り扱いを決めました。

きっと『こういうものが、売れるんですか?』って思われると思うんですけど、実は仕入れ始めてからずっとレギュラー商品として扱っています。

リピートで買うというものでもありませんし、万人ウケするタイプのものでもありませんが、特定の層の方に、細く長く支持されているという印象ですね」

立ち上げから今にいたるまで、仕入れの時に大事なのは「自分が好きかどうか」。結果としてよく動くもの、あまり売れないものとあるそうですが、関坂さんの考え方はとてもシンプルです。

「売れる、売れないよりも、その作家さんのものづくりや考え方に共感して仕入れたものが、結果として売り上げに繋がるのが、お店としては何より嬉しいです。

だから何かを扱うときは、あまり短いスパンで見ないようにしていますね。

短期間で見て売れないと、もののせいにしてしまいがちなんですけど、それはしたくないと思って。

まだお店を始めて3年ちょっとですが、新しくものを扱うときは、1、2年とか長いスパンで考えるようにしているんです。

その上で、良さがちゃんと伝わるように力を注げばいい。ディスプレイを変えたり、発信の仕方を工夫したり」

この話に、強く共感、と応えたのが小菅さんです。

仕入れ、どうしていますか?
archipelago 小菅さんの場合:「作り手へのお声がけは、相手と心中するような気持ち。基準は愛せるか、どうか」

「小さなお店なので、潤沢な予算があるわけでもないですし。どうせ関わるなら、長くお付き合いしたい、より関係性を深めていきたいという思いがありますね」

archipelago
店内の様子

「だからパッと見て、かっこいいな、素敵だなと思っても、お声がけするまでにはたぶん、普通のお店さんより時間がかかっていると思います。

使ってみての感覚や、ものが生まれる現場や作っている人のことを、時間をかけて知っていくんです」

お店のロゴ。archipelagoとは、多島海という意味だそう。奥さんと2人、手漕ぎボートで島々を渡るように、必ず作り手を訪ねて仕入れをするそうです。「島々で僕たちが感じた雰囲気も含めて、ボートに荷物を積んで自分たちの港に持ち帰る。そこで風呂敷を広げて小さな市場を開いているような感覚で、お店をしたいですね」
お店のロゴ。archipelagoとは、多島海という意味だそう。奥さんと2人、手漕ぎボートで島々を渡るように、必ず作り手を訪ねて仕入れをするそうです。「島々で僕たちが感じた雰囲気も含めて、ボートに荷物を積んで自分たちの港に持ち帰る。そこで風呂敷を広げて小さな市場を開いているような感覚で、お店をしたいですね」

「世間一般の尺度でいうと、売れる・売れないという考えはもちろんあると思います。でも、それは僕らと作り手との関係性を測る尺度とは、別の話かなと思って。

彼らが何ヶ月もかけて品物を作ってくれていることをわかった上で、仕入れる覚悟ができているかどうか。なぜその品物を扱うのか、お客さんにきちんと意思表明ができているか。

だから作り手にお声がけする場合は、それこそ相手と心中するような感覚ですよね (笑)

localshop

でも、そうやって僕らがお店を通して意思表明をきちんとやって行くと、受け取った人がお客さんになってくれて、そういうお客さんがまた、長い目で見るとお店を育ててくれるように思います」

「だから選ぶ基準は、まず自分が覚悟を持って愛せるか、ですね」

やはりみなさん、自分でお店を開くだけあって、ものに対する愛情は人一倍。

そんな、ものを好きになる、興味を持つ「きっかけづくり」をお店のテーマにしていると語ったのが、吉嗣商店の吉嗣さんでした。

仕入れ、どうしていますか?
吉嗣商店 吉嗣さんの場合:「興味の入り口としてのお店づくり。定石はあえて行わない」

吉嗣:「私は20年近く、ファションを仕事にしてきたのですが、ある時期から路面店が目に見えて減っていって、アパレル業界にとって厳しい時代と言われるようになりました」

吉嗣商店

「ところが一時期別の仕事をやっていた時に、専門外の色々な人に話を聞くと、どうやらファッションへの興味が減ったという訳でもなさそうだったんですね。

『魅力的なものが置いてあるお店があれば、買いに行きたい。でもなかなかそういうお店に出会いにくい』という。

一方で本屋さんって、自分だけかもしれないですけど、とりあえず何か探しに行こうかな、みたいな場所だと思うんです。ふらっと気軽に行ける。

「実際に今の吉嗣商店がある六本松蔦屋書店にも、多くのお客さんがいらっしゃいます。うちのお店のことは特に知らずに、ふらっと立ち寄られる方も多いです。

そういう何気なくアクセスできる場所で、例えば『自分の好きなファッションはこれ』が見つかるような、新たな興味の入り口を、提案できる空間になれたらいいなと思って、お店づくりをはじめました」

商品のセレクトは、一般的なアパレルショップや雑貨店の「定石」をあえて行なっていないそう。

「例えば冬時期だったらコートとかブーツとか、ずらっと面で揃えるのが定石なんですけど、うちのお店ではほぼ、それはやっていないんです。

シーズンで多少は変えますけど、基本的には着心地の良いカットソーだけとか、半袖・長袖だけとか。あくまで、切り口だけを用意します」

吉嗣商店
吉嗣商店

「そこで気に入ったブランドがあれば、今はお客さん自身が簡単に調べる方法がたくさんありますからね。

まずは小さな『好き』を提供できたらいいなという思いで品揃えをしています」

また、きっかけづくりのひとつとして「九州出身の作り手」「九州初上陸」のものも積極的に取り扱いしているといいます。

「例えば、東京のようにある程度の都市圏にあるお店では品揃えが豊富にある作家さんでも、『東京までなかなか行く機会がない』とか。逆に、地元の作家さんでも『気になるけれど、なかなかお店を訪ねて入っていく勇気がない』という人もいると思うんです。

そういった人でも気軽に手に取れる機会を提供できたらと思って、企画を組んだりしています」

福岡在住若手アーティスト「PEN PUBLIC」さんの企画展
福岡在住若手アーティスト「PEN PUBLIC」さんの企画展

実は吉嗣さん、この多くの人がやってくる環境を、作り手さんにも機会として還元しています。

商品を手がけたデザイナーさんや作家さんに声をかけて、一緒に売り場に立ってもらったり、お客さんの声を直接聞いてもらうようにしているそうです。

「私自身、お店を開いてみたら予想よりも上の世代のお客さんが多く来てくれて、それで仕入れるものを少し方向転換したりという経験がありました。

やっぱり現場に入ってみないとわからないことって多くあるので、自分でもできるだけお店に立つようにして、お客さんの状況は常に見るようにしています」

ここで対照的で面白かったのが、ataWの関坂さんのお話。ここから話題は、お客さんとの向き合い方や、空間づくりの話に移っていきます。

お客さんとの向き合い方、どうしていますか?
ataW 関坂さんの場合:「自分は店頭に立たない。『30歳分のギャップ』が、思わぬ効果も」

関坂:「実は僕自身は、店頭に立っていないんです。お店は僕の妹と母の2人に任せています。

彼女たち自身、デザインやこういうプロダクトに対する知識や理解は一切無いところからスタートしました」

ataW関坂さん

現在、妹さんは30代、お母様は60代とのこと。このギャップが、「たまに、うまく働いてくれるときがある」のだそう。

「全体としてうまくいっているかは、わからないのですが、お客さんの層が幅広いんですね。

20代くらいのすごく若い方も来てくれるし、一方で60代、70代くらいの方がきて、思いがけないものを買っていってくれることがあるんです」

例えば、と例にあげてくれたのが、奈良のbenchというブランドの「BENSAN」というサンダル。ベンサン、つまり便所サンダルです。

こうした商品の撮影も、関坂さんが妹さんにイチから教え込み、少しずつ腕を鍛えていったそうです
こうした商品の撮影も、関坂さんが妹さんにイチから教え込み、少しずつ腕を鍛えていったそうです

実は奈良県は国産便所サンダルの主要産地。そんな地元の良品を知ってもらいたいと誕生したのが、本来のベンサンのはき心地を活かしつつデザインをアップデートした、このbenchの「BENSAN」だそう。

「最初はみんな、え、便所サンダル?っていうんですけど、商品自体の知名度も上がって来たのか、最近は本当によく売れています。ご高齢の方も買っていってくれたり」

先ほど関坂さんが言っていた「考え方に共感して取り扱いをはじめたものが、結果的に売り上げに繋がるのが一番嬉しい」という、まさに好例。

関坂さんが惚れ込んで仕入れたものを、年代も違う、アートやプロダクトデザインが専門でないご家族のお二人が、フラットな視点で店頭に立って扱うことで、デザインやプロダクト好きだけに絞られない、地域の方も気軽に買い物しやすい環境が生まれているのかもしれません。

一方、来る人が自然と絞られるんです、と語るのはarchipelago小菅さん。

お客さんとの向き合い方、どうしていますか?
archipelago 小菅さんの場合:「わざわざ来てくれたお客さんの、心地よい居場所・逃げ場所をどう作るか」

小菅:「お客さんにはおこがましいんですけれど、うちのお店は本当に、わざわざ来ていただくような場所にあるんですね。決して入りやすいお店でも、ないと思います。

そうするといらっしゃる方は自然と、うちのお店に何か興味や意思を持って来てくださる方の割合が多くなる。

だからせっかく来ていただいたなら、どうやって満足して時間を過ごしていただくか、ということを、とても意識しています。

archipelago

この仕事ってお店で買われていくものと、買ってくれたお客さんの、その後の「人生」に関与する仕事だなと思っていて。消費を促す仕事だからこそ、ものとの出会いをどういう風に体験いただくのかは、責任を持ってやりたいなと思うんです。

なかなか来づらい場所に、例えば建築を勉強している学生がドキドキしながらやって来て、あまりに高価な商品ばかりで買えるものがなかったら、ちょっとしょんぼりすると思うんです。

逆に何か買い物ができたらその体験って、ちょっとお店と何かを分かち合えたような、嬉しい気持ちになるんじゃないかなと思って。

だから取り扱う品物は、選ぶ基準は共通していますが、価格帯は幅広いです。

4万、5万円する洋服もあれば、1000円くらいのお箸や300円くらいの箸置きや、お土産に買って帰れるクッキーを置いたりもしています」

archipelago

「それと、ゆったり店内を見ていただくには、お客さんの『逃げ場』も大切ですね。

お客さんが一人でいらっしゃって、お店に入ってみたら僕と妻がいて、同じ空間に2対1、という時もあるんですよ。

僕自身も経験があるんですが、そこでどんどん接客されたら、「何か買わなきゃ出られない」みたいに、もう逃げ出したいような気持ちになる方もいらっしゃるんじゃないかなと思って。

そういうお一人で来た方にも、僕らに気をつかうことなくゆったり過ごしていただける場所になればいいなと思って、お店の中に本棚を作りました。本のセレクトで、僕らのことが会話以上に伝わる部分もあると思いますし」

archipelago

「そんな風に、目的の商品がなくてもお店の中に自分の居場所がある、という環境を作っておきたいなと思っています」

この逃げ場所の話、実はお客さんの層の幅広さでは対照的な、吉嗣商店さんでも共通してありました。

お客さんとの向き合い方、どうしていますか?
吉嗣商店 吉嗣さんの場合:「気軽にやってきた人が、心地よく「ちょっと興味のあるもの」と向き合えるように」

「蔦屋書店自体、多くの人が気軽にやって来れる場所であるので、売る・買うという空気がお客さんにとって変にプレッシャーにならないような環境づくりは、一番意識していますね。

お店のコンセプト自体が「興味の入り口」なので、やっぱり大事なのは、ちょっと興味を持ってくれた人がどれだけ心地よく、自分のペースでそのものと向き合ってもらえる時間を作るか。

そのために、例えば在庫をさっと取り出しやすいようなディスプレイにしたり、商品が気になったお客さんが、スタッフに声がけをしなくても買いものをしやすい売り場になるように心がけています」

吉嗣商店

皆さんのお話を聞いていると、お店や売る人こそが、その「もの」のプレゼンターなのだなと改めて思います。

どんな人に、何をどうやって届けるか。

それを考えるには、「届ける環境」もとても重要な要素のようです。

自身は店頭に立たず、世代ギャップのあるコンビにお店を任せる中で、幅広い層のお客さんにもお店が受け入れられてきた関坂さん。

わざわざ行かないと行けない場所にお店を開いて、その空間を最上のものにと育ててきた小菅さん。

蔦屋書店の中という多くの人が集う環境で、「どんな提案ができるか?」を考えた吉嗣さん。

そしてやっぱりみなさん、商売の中心にあるのは、取り扱うものへの愛情です。

関坂:「一点ものもよく扱うので、むしろ、なくなっちゃうと寂しかったりするんです(笑)」

吉嗣:「僕も以前ヴィンテージものを扱う仕事をしていたので、それはもう、日々その葛藤との戦いですよね。売りたくないけど売る、みたいな。そんな気持ちで仕入れをしていました」

小菅:「本当にずっとものを扱っていると、誰かが買ってくださった時は、いいところに嫁いでくれたというような気持ちになりますね」

ものを売る、届けるという役割としての「ローカルショップ」のお話はここまで。次回、最終回は、販売という枠を超えてそれぞれの地域の中で始まっている、これからのローカルショップの可能性をテーマに、お届けします!

<お店紹介> *アイウエオ順

archipelago
兵庫県篠山市古市193-1
079-595-1071
http://archipelago.me/

ataW
福井県越前市赤坂町 3-22-1
0778-43-0009
https://ata-w.jp/

六本松 蔦屋書店 吉嗣商店
福岡県福岡市中央区六本松 4-2-1 六本松421 2F
092-731-7760
https://store.tsite.jp/ropponmatsu/floor/shop/tsutaya-stationery/


文:尾島可奈子
会場写真:中里楓

大阪に「テーブルで行う茶道」教室が登場。注目の大丸心斎橋店で出会う「茶論 (さろん) 」の魅力とは

空間も楽しみの一つ、茶論 大丸心斎橋店の魅力とは?

平日夜、駅直結の百貨店に立ち寄って、お買い物と一緒にさっとお茶のお稽古。

そんな「仕事帰り」が叶うお店が大阪心斎橋にオープンしました。

先日リニューアルオープンが話題となった大丸心斎橋店の8Fにある、そのお店の名前は「茶論 (さろん) 」。

茶論 日本橋店

「テーブルで気軽にお茶のお稽古ができる」お店として奈良東京日本橋店についで3店舗目として大阪にオープンしました。

今回はグループ会社である中川政七商店と、初の一体型店舗。

中川政七商店の奥が茶論の稽古スペース。白い大きなのれんが目印です
中川政七商店の奥が茶論の稽古スペース。白い大きなのれんが目印です

のれんをくぐって奥へ行くほど、ここがビルの中だということを忘れてしまうような、まさにお茶室のような凛とした空気が漂います。

茶論 大丸心斎橋店
茶論 大丸心斎橋店
茶論 大丸心斎橋店

空間設計はインテリアデザインを基軸に建築、会場構成、プロダクトデザインなど空間のデザインを手がける「ABOUT」佛願 (ぶつがん) 忠洋氏によるもの。しつらえを監修するのは茶論のブランドディレクターで茶人の木村宗慎氏です。

茶論のコンセプトは「茶を以て美を論ず」。

稽古はテーブルで受講できる気軽さながら、道具やしつらえなどについては、お茶を通じて美意識を養えるよう、毎月趣向を凝らした取り合わせで生徒さんをお迎えしているそう。

今回のオープン時にも問合せが多くあったという、その空間やしつらえの見どころとともに、茶論 大丸心斎橋店の魅力をご紹介します!

「ようこそ、いらっしゃいませ!」
「ようこそ、いらっしゃいませ!」

見世 (みせ) で現代的なお茶道具に触れながら、空間にも注目

まず中川政七商店と並んで通路に面しているのが、お茶道具を扱う「見世 (みせ)」のスペース。

茶論 大丸心斎橋店

実際に稽古で講師が着用する「茶論シャツ」や自宅でお点前を楽しめる茶箱など、現代的にアップデートされたお茶道具が並びます。

茶論 大丸心斎橋店
懐紙や袱紗がしまえる、着物の合わせのような胸ポケットつきの「茶論シャツ」
茶論 大丸心斎橋店
一つずつ自分好みの道具を揃えて完成する茶箱
一つずつ自分好みの道具を揃えて完成する茶箱
茶論大丸心斎橋店
お抹茶を入れる、色とりどりの棗 (なつめ)
お抹茶を入れる、色とりどりの棗 (なつめ)

この見世 (みせ) の壁の向こうがお茶の稽古を行う教室になっているのですが、ここではその壁にも注目。

茶論 大丸心斎橋店

この石の壁は、大丸の外壁に使用されているものと同じ、竜山石という石で出来ているそうです。

竜山石は兵庫県の高砂市で採石される石で、緑色から時間が経つと酸化し黄色味ががって、経年変化を楽しめるとのこと。お店を出たら、ぜひ外壁と比べてみてくださいね。

頭上から始まるお茶空間

いよいよ稽古スペースへ。白いのれんをくぐって入りますが、その時にぜひ、天井の方を見上げてみてください。

大きなのれんをくぐる、その前に‥‥
大きなのれんをくぐる、その前に‥‥
茶論 大丸心斎橋店

のれんの上に見える格子は、ちょうどお茶室の格子窓のような趣です。本当に竹で編んでいるように見えますが、実は錆びた鉄を使っているそう。

茶論 大丸心斎橋店

「土壁を作る時に下地で使う竹編みをモチーフとしています。大丸の建物自体はヴォーリズ建築の『西洋のレリーフ (浮き彫り) 』であるのに対して、 茶論は『和の竹編みの装飾』という対比で構成しています」

とは設計を手がけたABOUT代表の佛願さんの言葉。まさにここが、茶道文化の入り口、という趣向なんですね。

心斎橋店ならではの「遊び」

のれんをくぐって正面は、呈茶 (ていちゃ) を提供するスペース。実際に目の前でお点前を受けながら、薄茶をいただけます。(不定期/税込1,650円)

窓の向こうには、リニューアルによって高層階だけに新たに作られた、八角形モチーフの外壁が
窓の向こうには、リニューアルによって高層階だけに新たに作られた、八角形モチーフの外壁が

そしていよいよ茶論の真髄、こちらが実際に稽古が行われるスペース。

茶論 大丸心斎橋店
仕事終わりにも参加できる最終19:30〜の稽古の頃には、こんな雰囲気に
仕事終わりにも参加できる最終19:30〜の稽古の頃には、こんな雰囲気に
外壁の洋と室内の和のコントラストが際立ちます
外壁の洋と室内の和のコントラストが際立ちます

どんな稽古が行われるの?はこちらの記事で体験取材してきました!:「テーブルで行うお茶の稽古って?『茶論 (さろん) 』東京日本橋店で『新しい茶道』を体験」

しつらえは毎月のはじめに、季節に合わせて変えていくそう。

茶論 大丸心斎橋店

開店直後のこの時期は、しつらえの一つひとつに無事のオープンを「祝う」メッセージが込められているそう。幸いにも監修された木村宗慎先生の解説を伺うことができました。

・軸 岸竹堂「五節句」

茶論 大丸心斎橋店

「岸竹堂は幕末から明治にかけて活躍した近江生まれ、岸派の日本画家です。

岸派の4代目で明治期の京都画壇で、3巨頭の一人に数えられた画家で、11歳の時に狩野派に入門しますがその指導法に疑問を持ち岸派の岸連山に師事しました。

西洋絵画の陰影法や遠近法を取り入れた鋭い写生技術を持ち動物画、風景画、特に虎と桜を得意とした画家です。

この『五節句』の軸は、下方から『人日の節句』にちなんだ春の七草、『上巳の節句』にちなんだ桃とひな人形、『端午の節句』にちなんだ菖蒲の葉、『七夕の節句』に因んだ梶の葉と蹴鞠、『重陽の節句』にちなんだ菊が描かれています」

・麻熨斗 (あさのし)

茶論 大丸心斎橋店

「祝儀の心映えを示すものとして、様々な形で用いられるのが熨斗です。その熨斗を床に飾り、祝いの席であることを示すしつらえは今でも広く行われています。

鮑を用いた熨斗鮑が一般的ですが、同じく神事に不可欠な真っ新の麻苧 (あさお) を熨斗に見立てることも古き習わしの一つです。

茶論では、麻苧を昇龍に見立てて、水引と白い奉書で纏め、二月堂のお水取りの松明を添えて、あらたまを言祝ぐしつらえに仕立てました」

もう一つ注目は、床柱です。こちらは佛願さんに解説いただきましょう。

茶論 大丸心斎橋店

「京都の北山で江戸後期の建物の解体の時に出てきた名栗柱を使用しています。

名栗は専用の釿(ちょうな)と呼ばれる刃物で柱を叩いて模様をつけるのですが、六角形の模様も今回のヴォーリスの八角形の意匠にシンクロさせています」

茶論 大丸心斎橋店

「また割れには鉛を流し込み、蝶の契(ちぎり)を入れ割れ防止と蝶々が飛んでいるような浮遊感を演出しています」

大丸という歴史ある建物のエッセンスを取り入れつつ、季節ごとに表情を変える空間。

時期限定の「お祝い」のしつらえは10/10までだそうです。体験稽古も随時受け付けているとのことなので、ぜひ空間の美しさも味わいながら、お茶の世界を体験しに出かけてみては。

<取材協力>

茶論 大丸心斎橋店
大阪府大阪市中央区心斎橋筋1-7-1 大丸心斎橋店 本館8階
06-4256-1100
https://salon-tea.jp/

文・写真:尾島可奈子

中川政七商店が残したいものづくり #03麻

中川政七商店が残したいものづくり
#03 麻「中川政七商店の麻」


商品二課 河田 めぐみ

日本における麻織物の歴史は最も古く、長年にわたって人びとの衣生活を支えてきた麻。
かつて奈良は麻織物の一大産地でした。独自の晒技法で全国に広く知られていたのは純白の美しい麻織物「奈良晒」。
1716年、中川政七商店はそんな奈良晒を商いとして創業したのが始まりです。
 
創業から303年、世の中の主流は綿素材や化学繊維に変わりましたが、現在でも中川政七商店では当社のルーツである様々な麻の織り物や編み物を使用した衣服を作っています。
現在では様々な工程において機械化され大量に作ることができるようになりましたが、それと同時に、昔と変わらず手の仕事、手の感覚、みたいなものが、素材を作るうえで欠かせないものだということを感じます。

扱っているものは昔も今も変わらず天然の繊維。
毎年品質や特性も微妙に変化したり温度や湿度によっても仕上がりが大きく変わることがあります。
昨日は織れていたけど今日は織れない、みたいなことが多くあることを知りました。
まさに生命と向き合う仕事だと感じます。
そうして出来上がった生地には、機械で作ったものであっても、人の手のぬくもり、自然の豊かさを感じます。
そんな麻の特性を生かし、春夏秋冬、暮らしに寄り添い、心地よさとともにある麻の服作りを目指しています。

 

10月からの新作では、はじめて防寒機能のある中綿入りのコートを作りました。
普段着ている麻の服に自然と馴染むような冬のアウターを作りたい、という想いで企画しました。
表地に使用している素材は麻とウールを混ぜたもの。
染めから乾燥まで、ゆっくり時間をかけて仕上げているため自然素材ならではの皺感が独特な雰囲気を作り出しているのが特徴です。
生地に圧力をかけていないため麻であってもふっくらした暖かさがあります。
ぜひ冬に着る麻の風合いに触れていただきたいです。
 
 
シリーズ名:中川政七商店の麻
工芸:麻
産地:静岡県浜松市(麻ウールのあったか綿入れコート)
商品企画:商品二課 河田 めぐみ



<掲載商品>
手織り麻を使ったフリルシャツ

沖縄のうつわ、やちむんの魅力と歴史を豆皿から知る

特集「産地のうつわはじめ」から、沖縄「やちむん」をご紹介

中川政七商店の全国各地の豆皿
11窯元の豆皿をご紹介していきます

使いこむほどに親しみ深い沖縄の「やちむん」

「やちむん」とは、琉球の方言で「焼き物」をあらわす言葉。

厚みのある手取りと素朴な佇まいには、独特の安定感があります。どんな料理でもどっしりと受け止め、使いこむほどに親しみが増していくうつわ。そんな「やちむん」の魅力は、沖縄の風と土から生まれた自然の贈り物といえるのかもしれません。

※「やちむん」について、さらに知りたい方はこちら

琉球王朝時代に開かれた壺屋焼

やちむんを代表する壺屋焼(つぼややき)は、沖縄県那覇市壺屋地区や読谷村(よみたんそん)などで焼かれる沖縄を代表する陶器をいいます。

琉球王朝が海外と盛んに交易をしていた14世紀から16世紀ころ、中国や南方諸国の陶磁器が豊富に持ち込まれ、各国の焼き物技術が伝えられました。

17世紀、琉球王朝が産業振興の目的として、沖縄各地に分散していた窯場を市街の一角に固め、「やちむん」と呼ばれる焼き物街をつくりました。これが壺屋焼の始まりといわれています。

素焼の「荒焼(あらやち)」と施釉の「上焼(じょうやち)」

壺屋焼には大きく分けて「荒焼(あらやち)」と「上焼(じょうやち)」の2種類があります。

「荒焼」は南蛮焼ともいわれ、釉薬をかけずに1000度前後で焼き締めたもので、陶土の生きた表情が魅力的です。

沖縄の焼き物の主流とされる「上焼」は、陶土に白土をかぶせて白化粧や唐草文、点打などの絵付けをし、1200度以上の高温で焼き上げます。いずれも日常生活用品として、人々の暮らしを支えています。

共同体による「やちむんの里」構想

沖縄が日本に返還された1972年、全国的にも社会問題となっていた公害対策のため、那覇市では薪窯の使用を禁止。住宅密集地でもある壺屋地区ではガス窯への転換を余儀なくされ、壺屋焼は存続の岐路に立たされました。

そのころ、基地返還された土地の活用を模索していた読谷村は、「ゆいまーる(沖縄の方言で相互扶助の意味)」の精神に基づく「やちむんの里」構想を立ち上げ、薪窯の設置にも柔軟に対応し、積極的に窯元の誘致を行ったそう。

原料となる陶土が良質で豊富だったことも後押しとなり、賛同した陶工たちは、読谷村で共同の登り窯を築きました。

現在、読谷村には数十件の窯元が集まり、薪を使った登り窯の伝統を受け継ぎます。一方、壺屋地区の窯元では釉薬による新たな可能性を探求し、それぞれに「壺屋焼のいま」を感じていただけます。

昔ながらの製法で伝統的な模様を描く「陶真窯」

やちむんの豆皿

読谷村座喜味(ざきみ)に窯を置く「陶真窯(とうしんがま)」は、独特の赤絵や染付け・魚紋・イッチンを得意とする窯です。

若手を中心に「常に新しいものを」を合言葉に琉球のやちむん普及に取り組みます。

昔ながらの製法の釉薬で描かれた伝統的な3種類の模様。唐草・縞・水玉の豆皿からは、琉球の風土に包み込まれるような、懐かしさが漂います。

豆皿の写真は、お料理上手のTammyさんが撮ってくださいました。他にも普段の食卓のコーディネイトの参考になるような写真がたくさんあります。Instagramも、ぜひ覗いてみてください。

文:中條美咲

*こちらは2019年1月25日の記事を再編集して公開しました。