わたしの好きなもの「麻ニットのベレー帽/麻ブレードのベレー帽」


“オシャレさん”や”ハードルの高い帽子”のイメージが強く、コーディネートが難しそう、と敬遠しがちですが、Tシャツとジーパンのシンプルなスタイルでも、ワンピースやジャケットで綺麗にまとめても、相性は抜群。
 
実はベレー帽ってどんな服のテイストにも合うんです。
 
私も初めは抵抗がありました。憧れてはいたけれどなかなか手が出せない‥‥。
でも、それまで持っていた帽子や自分の髪型に、なんとなくマンネリや物足りなさを感じていたのも事実。意を決して試してみると、「なんにでも合う!」と拍子抜け。
 
それから私の中で定番アイテムとなっていましたが、ウール素材や厚手のものがほとんどで、春夏は出番なし。素材感や季節感が合わなくて、一年中楽しむことが叶わなかったのが悩みでした。
 
そんな悩みを解決してくれたのが、テイストが異なる2種類の麻素材のベレー帽。
 
まさに、「こんなのを待っていた!」という感じでした。その計算しつくされたシルエットや素材が醸し出す品の良さは一目瞭然。


麻ニットのベレー帽は美しい網目とハリとしなやかさのある生地感が特徴。女性らしい柔らかな雰囲気がありつつ、生地の程よい光沢が上品な印象を与えてくれます。
ボリュームも調整しやすいので、はじめてベレー帽を試す方にもおすすめです。出先で取らなくてはいけないシーンがあっても、軽く折りたためてかさばらないのも魅力的。
 
 
麻ブレードのベレー帽はまさに職人技。型を使わずに、職人さんの感覚で麻の紐を立体的に縫製して作られた麻ブレードは、コロンとした可愛らしいフォルムが特徴です。
麦わら帽子のような軽やかさと繊細さがありつつ、存在感のあるアイテムになってくれます。長く使っても型崩れしにくいのも嬉しいです。
 
どちらの形も素材に麻が使われているだけあって通気性が良く、暖かい季節でもストレスなく使えます。
 
また、前髪を出したりしまったり、角度を変えてみたりと、被り方ひとつで雰囲気を変えられるのも楽しみのひとつ。アジャスター付きでサイズ調整ができるのも安心です。
 
おかげでベレー帽が一年中楽しめるようになりました。ちょっとしたお散歩に出かける時でさえ、私の必需品となっています。


なんてことない日の、なんてことない服装なのに、少し遠回りをして帰りたくなるような、そんな気分にさせてくれます。
 
なかなかハードルが高い帽子のように思えますが、慣れてしまえばその万能さから出番が増えること間違いなし。手軽におしゃれを楽しみたい人にも、おしゃれをもっと極めたい人にも、両方の願いを叶えてくれる帽子です。
 


ルミネ大宮店 細井

6月の和菓子、雨に咲く紫陽花のしずく

古都奈良で絶品のお菓子を提供する「萬御菓子誂處 樫舎(かしや)」。

こちらでは、ご主人の喜多さんがつくりあげるお菓子を目の前のカウンター席でいただくことができます。季節や気候に合わせて、食べごろの素材を使ったさまざまな食感の和菓子。その和菓子にのせられた歳時記をお届けします。
今回は、おまかせ和菓子コースをひととおりご紹介したいと思います。

6月、梅雨入り。しっとりと潤いのあるこの日。
まずは、奈良の鹿をかたどった阿波和三盆糖のお干菓子に、大和茶の水出しお番茶が添えられます。きゅっと冷たいお番茶をいただくと、梅雨の湿気にぼやけていた気持ちがすっきり。カウンター越しの喜多さんがこれからつくってくださる和菓子に期待がふくらみ、背筋が自然とすっと伸びます。

お干菓子は、黒柿軽物台の上に

「緊張はいりませんよ、あぐらをかいて召し上がっていただくのが目標ですから」と、喜多さん。

和菓子屋の敷居を高くしたくはない、気楽に楽しんでもらいたい。という言葉にほっと心がほどけつつ、お干菓子も口の中でほろりとほどけます。

つづいては、この季節にぴったりの「紫陽花きんとん」を。材料は備中の白小豆と、青森陸奥のつくね芋。つくね芋は2年半以上も寝かせたものを使います。ねばりやアクがぬけ、和菓子に最適の状態になっているのだそうです。
馬毛の荒目網に美しい色層が見える生地をのせ、木しゃもじを使って落とします。喜多さんの無駄のない所作。ついつい見とれてしまいます。

馬毛の荒目網を使うと、きれいに生地がひろがり空気を含んで落ちるのだそう

きんとんの中餡をよく見ると茶色いおこげがちらり。赤い炎でつくられた証拠だそう。こんな様子が見られるのもカウンター席ならでは

岐阜・山岡産の糸寒天でつくったきらきら光る雨の滴を添えて。本堅地蝋色塗奈良漆器、薬師寺古典型写しの椿皿にのせられます

「材料は極力練らない、触らない。材料に手数を加えるほど、穢(けが)れていくという考えです。天地が育てた良い材料をいただいて、その材料に頼る。菓子職人は食感をつくるだけですよ」と、喜多さん。

わらび餅も同じく、鹿児島の本わらび粉とお砂糖だけというシンプルな材料で、材料そのものの力を落とさないように食感をつくっていきます。

うつくしく敷き詰めたきな粉の上に生地を落とします

餡を包み込むのも、できるだけ手数を少なく

仕上げに、さらさらときな粉を振りかけて

鏡面のように光る春日盆写し(銘々皿)に、わらび餅を

こちらには、ケニアのスペシャリティ珈琲が添えられます。

一般的な珈琲は紙や布のフィルターで雑味をとりますが、この珈琲はよい油分を含み、その雑味ですら美味しいもの。そのため、その美味しさをすべて通すために純金で編まれたゴールドフィルターで珈琲が淹れられます。珈琲カップは奈良の伝統工芸赤膚焼の大塩正人窯のものでした。

目の前で繰り広げられる和菓子づくりは、まさに生ライブのよう。喜多さんのお話は、菓子の材料のこと、道具のこと、うつわのことなど様々で、お話に引き込まれているうちに時間が経つのも忘れてしまいます。

芳ばしい香りがしてきました。最後はもなかをいただきます。

つやつやとした小豆は丹波大納言

目の前で餡を詰めてくれる

もなかは手渡しで。今この瞬間が、いちばん美味しくいただけるタイミング。
ほんのりあたたかく、パリパリのもなか皮にしっとり優しい餡、ほおばると思わず笑みがこぼれます。

鯛もなかは、黒柿(縞柿)の木でつくられた御料台(正倉院御物写し)にのせて

ふわっと、また別の芳ばしさが立ち込めてきました。焙じ茶です。焙じたてを1煎、2煎。味の違いを楽しんで。

左から1煎、2煎

喜多さん曰く、いい材料さえ分けていただけたら、菓子職人は自分の仕事にこだわりを持たないことだとおっしゃいます。つまり、材料に余計な手を加えないということ。

「農家の方々は、春に植えて秋に収穫します。つまり、1年に1度しか作品づくりができない。

おおよそ20歳から70歳まで働くとしたら、一生のうちに50回しか作品がつくれないんですね。

1回の作品づくりの重みが僕ら菓子職人とは違う。大地が育んだ授かりもの、賜りものには力が溢れているから、その力をできるだけそのままの状態でお菓子にしたいんです。

農業は、はじめの25年は両親に教わり、あとの25年は子どもたちに教えていくといいます。

これは弥生時代からずっと続けてきた日本の伝統。自然に寄り添ってつくるからこそ、採れたものは自然の命を預かっている。よく、材料を生かすといいますが、本当は材料に生かされているということです」。

樫舎さんの和菓子を味わうことは、自然を味わい、伝統にふれること。
つぎは、どんなお菓子に出会えるでしょうか。

この日のおしながき

・大和茶 水出しお番茶
・阿波和三盆糖 干菓子
・紫陽花きんとん
・御抹茶
・蕨餅
・ケニア産 珈琲
・鯛もなか
・焙じ茶 二煎

<取材協力>
萬御菓子誂處 樫舎
奈良市中院町22-3
0742-22-8899
http://www.kasiya.jp/index.html

◇カウンター席コース
上生菓子2種
半生菓子
干菓子
飲みもの4種
2,000円(税別)・要予約

※変更の可能性があるため事前に問い合わせください。

文・写真:杉浦葉子

*こちらは、2017年6月25日の記事を再編集して公開しました

わたしの好きなもの「ナデルと作った夏用のオーガニックコットンガーゼマスク」


マスクは使い捨て派だった私。

「布マスクは毎日洗わなくちゃいけなくて、お手入れが面倒。使い捨てマスクの方が、手間もなく衛生的じゃない?」
と思っていました。

しかし、このコロナ禍で一日中マスクを着けている生活が続くと、使い捨てマスクは想像以上に肌の負担になっていると気づきました。
マスクと肌が触れる部分が、化学繊維によるかぶれや乾燥でいつのまにかカサカサ、ボロボロの状態になっていたのです。

そんなおり、オーガニックコットンブランド「NADELL」と「中川政七商店」とのコラボによる布マスクが発売されました。


正直なところ、「布マスクに2,860円はちょっと高いなぁ」と思いつつも、すでに肌の状態には限界を感じていたので、“肌当たりの優しさにとことんこだわった”という品質を信じて購入してみました。
 
結果は想像以上に快適!
 
頬の痒みはすぐにおさまり、乾燥によるカサカサも治りました。
 
また、顔の形に添ったデザインのおかげで適度なフィット感が出せて、心なしか小顔に見える‥‥という予想外の効果も。
 
小顔効果はなしにしても、フィット感があるため使い捨てマスクと比べると呼吸もしやすく、耳の後ろも痛くならないので長時間使っていても快適そのものです。
 
これは「使い捨てマスクじゃあ得られない効果だよなぁ‥‥」と実感。
 


気になっていたお手入れも、実際にやってみると「あれ?この程度の手間なの?」と思いました。
 
夜、帰宅した際、手洗いとうがいのついでに洗面所でマスクを洗います。中性洗剤を少量付けて揉み込んだら、ぬるま湯で洗い流すだけ。水気を絞り、パンパンと叩いてそのまま干しておくと、シワにもならず翌朝にはきれいに乾いています。
 
「次の日に使えるの?本当に乾くの?」と半信半疑でしたが、さすがオーガニックコットン、スッキリ乾きました。
 
案外、こうやって洗う時間もいとおしくなってくるから不思議ですね。
 
気になっていたマスクの内側につくファンデーション汚れも、ぬるま湯と中性洗剤だけで簡単に取れます。
 
そんなこんなで布マスク生活に慣れてきて、「もう1枚買い足そうかなぁ」と思っていたところに、今度は「夏用マスク発売」という嬉しいお知らせが。
 
もちろん気になります。
 
“真夏に気持ちよく身に着けられるマスク”とのこと。今使っている布マスクと何が違うんだろう。
 
そんな折、企画担当から使い比べてみてほしい、と、ひとあし早く商品をお試しする機会をいただきました。
 
着けくらべてみてフムフムとなったのは、その軽さと呼吸のしやすさでした。
 
通常の「NADELL×中川政七商店」の布マスクも、とても軽い。でも「夏用マスク」はガーゼ素材になったことでさらに軽く、蒸れが軽減されるせいか呼吸もしやすいです。




あて布が別でついていて、汗や汚れが気になったらサッと交換できるのも嬉しいポイント。また、洗ったあとはなんと1時間程度で乾いてしまいます。

これまでの生活なら、そこまで気にすることもなかった「マスクの暑さ」。でも、一日中マスクを着けるようになるとさすがにそうも言っていられません。

この「夏用マスク」はその「暑さ」も「衛生面」も、両方とも解決してくれるマスクです。
こうなってみるともう「使い捨て」には戻れません。

エコの意識‥‥というより純粋に「こっちのほうがいいから」という理由で私はこのマスクを使いつづけることになりそうです。


編集担当 北村

【わたしの好きなもの】雪音晒の寝具


睡眠への飽くなき欲求


眠ることが大好きな私。
 
お部屋の中でいちばん好きなエリアはどこか?と問われれば、即「ベッドの上!」と答えます。(笑)
なので、いかに睡眠の時間を良きものにするか?は永遠のテーマでもあるんです。
 
そんな私のことを知ってか知らずか、新商品「雪音晒の寝具カバーシリーズ」を試す機会をいただきました。実はこの商品、以前にお披露目会で説明を聞き、実物を見た時からずっと気になっていたもの。
 

普段の自分はあまり選ばない「白」の寝具。ですが、やはり“晒”といえば白ですよねぇ。なんだか気が引き締まる思いで使用開始。

使ってみた第一印象は、「柔らかいなぁ」でした。
 
晒というとなんだかキリッパリッとした印象が強いのですが、ガーゼ生地を使っている今回の商品は、見た目にも優しい風合いで肌に触れると柔らかく、軽い!!


不純物を99%除去し、究極の晒手法とも呼ばれる「雪音晒」を使用しているため、キュッキュというなんとも不思議な感触があります。この、まるでパウダースノーを踏みしめたような感触が、「雪音晒」という名前の由来なんだそう。
 
「ガーゼ生地で柔らかいのにキュッキュ??」
 
口ではうまく表現できないのですが、でもキュッキュとさせたくなる、やっぱりなんだか不思議な感触。気づくと足でキュッキュさせようとしている自分がいます。(笑)
 
使用を始めたのがちょうど季節の変わり目で、就寝中に沢山汗をかくこともあったのですが、吸水速乾に優れる晒なので、サラサラが続きます。これは嬉しい。
 


さらに、寝具のような大物はお洗濯が大変なイメージですが、ガーゼ生地ということもあり、軽くて洗った後の乾きも早い!!
時間もかからずとっても楽ちん。大物を干さなければ‥‥というネガティブ感も無くなります。
 
洗いを重ねても、「なんだか生地が薄くなったなぁ‥‥」とか、「ほつれてきちゃったなぁ‥‥」とか「色が‥‥風合いが‥‥」といったことがないので心置きなくじゃーぶじゃぶ洗えます。軽いので、物干し竿へもなんのその。
 
使い勝手の良さにヘビロテ真っ最中です。


綺麗になった寝具にまた身を委ね不思議な触感に癒される。気づけばふんわりと包まれながら熟睡をしている。目覚めると晒が朝陽に映えてなんだかとてもいい。さぁ、これから1日が始まるぞ。そんな雰囲気がとっても好きです。
 

 
中川政七商店GINZASIX店 佐藤


<掲載商品>
雪音晒の枕カバー
雪音晒のボックスシーツ シングル
雪音晒の掛けふとんカバー シングル

嫁入り道具から生まれた縁起もの、栃木の「きびがら細工」

嫁入り道具から生まれた、かわいい縁起もの

栃木県鹿沼市の郷土玩具・きびがら細工

栃木県鹿沼市(かぬまし)の郷土玩具、「きびがら細工」は、毎年の干支に合わせて作られている縁起もの。

きびがら細工の材料は、鹿沼市に古くから“嫁入り道具”として伝わる「鹿沼箒(かぬまぼうき)」をつくる時に出るあまり草。箒の中でもつくるのが特に難しいと言われる鹿沼箒の、高度な編みの技術を応用しています。

栃木県鹿沼市 箒草 きびがら細工 戌

華やかな装飾や色付けがしてあることの多い郷土玩具の中でも、とても素朴なきびがら細工。天然素材を使い、ひとつずつ手作業で編まれているからでしょうか。

目も彩色もないのに、じっくり見ていると嬉しそうだったり不思議そうにしていたりと、どこかほのぼのとした表情が見えてくるから不思議です。

鹿沼・きびがら細工・戌

たった一人の職人がつくる「きびがら細工」

栃木県鹿沼市の郷土玩具・きびがら細工の職人、丸山早苗さん

現在きびがら細工を作るのは、鹿沼箒の職人でもある丸山早苗(まるやま・さなえ)さん。きびがら細工の考案者であるおじいさんの技を受け継ぎ、日本でただひとりの「きびがら細工職人」として制作を続けられています。

「天然の素材からつくるきびがら細工は、ほうき草の長さや太さ、曲がり方が違うのできっちりと図面にするのは難しいんです。祖父から学んだことを頭の中に残し、手の感覚を頼りに作っています」

栃木県鹿沼市 きびがら細工 漁網巻きつけ
糸は、水や張りに強い、漁網(漁で使う網)を利用

幸せを願って贈る嫁入り道具である鹿沼箒をつくる丸山さん。「きびがら細工も、手にする人が幸せになりますようにと願いながらひとつひとつ編んでいます」と話されます。

来年は丑年。かわいい縁起ものと一緒に新年を迎えてみてはいかがでしょうか。

ここで買いました

鹿沼箒ときびがら細工のきびがら工房
栃木県鹿沼市村井町229-10
0289-64-7572
http://www.kibigarawork.jp/

きびがら細工 きびがら工房 黒猫 職人 栃木県鹿沼市 鹿沼箒

文・写真:西木戸弓佳*こちらは、2017年11月18日の記事を再編集して公開しました

麻100%のインナーが「ありそうでなかった」理由。老舗ニットメーカー40年の挑戦


着けた瞬間から肌がさらっと気持ちいい。これまでにない麻のインナーが中川政七商店から誕生しました。

名前は「更麻 (さらさ)」。



手がけたのは和歌山にある、とあるニットメーカーです。

「オカザキニットさんがつくるものは他にはない個性があるんです」

工場に向かう道途中、更麻を企画したデザイナーの河田めぐみさんはそう語りました。

麻は本来、吸水速乾性に優れて肌着にぴったりの素材。ですが糸自体にハリがあって柔軟性がないために加工が難しく、これまで麻100%のインナーは世の中にほぼ出てきていませんでした。

それを成し遂げたのが、オカザキニットさん。

しっとりやらわかな質感の生地は、麻特有のカタさがなく、肌にフィットしてよく伸びる。汗ばむ日も冷え込む日も、麻本来の特性が働いて、汗や熱がこもらず肌がさらりと気持ちいい。



毎日変化する環境にもしなやかに応える最高の着心地のインナーは、「更麻」と名付けられました。

今回は、そんな世の中にない麻100%のインナー「更麻」を世に送り出した立役者、オカザキニットさんを訪ねます。

*デザイナー河田さんが企画者視点で語る開発ストーリーも合わせてどうぞ。
「毎日、肌が気持ちいい。呼吸する麻のインナー「更麻」はこうして生まれました」

2019年の夏に起きていたこと


和歌山県和歌山市にある工場を訪れたのは2019年の夏。



2020年春のブランドデビューより半年以上前に、工場はフル稼働で更麻の生地を編んでいました。これには大切な理由があるのですが、それはまた後ほど。

出迎えてくれたのは代表の岡崎明史さんと、息子さんの秀昭さん。

関西有数のニット産地である和歌山市の中でも、オカザキニットさんは麻生地のプロフェッショナルとして知られます。


▲このように筒状に生地を編み立てます


▲代表の岡崎明史さん。ショールームにはこれまで開発してきた生地が所狭しと並びます


「麻をやって来たのは、他がやっていないから。

麻は糸に節があって、伸び縮みしないので編みにくいんです。多くのメーカーは失敗が見えているから手を出しません」

伸縮性の少ない糸を無理に機械にかければすぐに糸が切れてしまう。



ニットの編み方には色々な種類がありますが、中でもインナーによく使われるやわらかな二重組織の生地 (フライス編み) は、麻では編めないとされてきました。

逆に言えば、この難しさを克服できれば、麻本来の給水速乾性を生かした、世の中にない麻のニット生地が生まれる、ということ。

岡崎さんはこの40年、ずっと麻のフライス編みに挑戦し続けてきたそうです。

夢の実現に光が見え始めたのは、2018年、ある糸の加工方法と出会ってから。

「シルクプロテイン加工といって、自然由来の成分を糸に浸透させて、柔軟性を持たせる方法なんです。これをできる会社に出会って、すぐに麻の糸で試そうと思いました」


▲実際の糸


やわらかくなった麻糸を機械に掛け、ずっと成功できなかったフライス編みを試してみたところ…見事に成功。

ちょうどその頃、中川政七商店初のインナーブランド立ち上げを任され、薄手で肌あたりの良い麻のニット生地を探していた河田さんの元に、すぐに生地見本が届けられました。



今度は河田さんがサンプルを作り着用してみると、しっとりとやわらかく繊細な質感。伸びもよく肌がさらりとして気持ちいい。

「これなら、1年を通して着心地のいいインナーが作れる」

こうして、更麻の原型が出来上がりました。

「その時岡崎さんは『たまたまやってみたら編めた』と仰っていましたが、蓄積された技術や経験がなければこういう発想は出ないだろうと思いました」

と河田さんが振り返るように、「できない」とされてきた麻のフライス編みが実現できたのは、岡崎さんの40年間の挑戦があればこそ。


▲実際の更麻の生地


いつも日に1・2回は新しい編み地開発にチャレンジしているそうです。その数、年間400~500にものぼります。

「いま世の中にないもの、よそに編めないものをつくりたいんです。なんでって、“へんこ”だからかな (笑)

特別、機械が変わっているわけじゃないですよ。ただ、新しいものを試したかったら、リスクを全部自分で取る。

例えば染工所に新しいやり方を頼んだら、染めで失敗しても自分で買い取る。それで、なぜ失敗したかを考える。その繰り返しです」

オカザキニットさんのつくるものには他にない個性がある、という河田さんの言葉を思い出しました。

“へんこ”に一途に「できない」に挑み続けてきた姿勢が、つくるものに唯一無二の個性として息づいているのかもしれません。

実は更麻も試作からこの後、新しい困難が待っていました。

試作ではうまくいった編み立てが、量産に入ってみるとうまく行かない。ところどころ糸切れが起きてしまう。


▲このように内側から光を当てて、キズなどがないかチェックします


別の編み方で作った代替生地では、当初のフライス編みの繊細なやわらかさがなく、ついに、2019年春の予定だったブランドデビューは、1年延長することに。

麻のプロであるオカザキニットさんの見解では、原因は時期とのことでした。

試作品はあたたかい季節に編んでいましたが、量産は2019年の春夏のデビューに向け、冬に行っていたのです。

「麻は空気の湿度によって強度に違いが出るため、空気の乾燥している冬季では糸切れが起きやすくなる。湿度の多い時期に編めば、きっとうまくいくはずと考えました」

この読み通り、長梅雨のあけた2019年7月、訪れた工場では繊細なフライス編みの麻生地が順調に編み上がっていました。




「今のうちに、24時間体制で更麻の生地を編んでますよ」

こうして湿潤な夏にしか作れない、素材の特性を最大限に生かした麻100%のインナー「更麻」は、2020年4月にデビューを迎えました。



オカザキニットさんを訪ねてからもうすぐ1年。

また、更麻を編む季節がやって来ます。


<取材協力>
株式会社オカザキニット


<掲載商品>
更麻 ショートスリーブ
更麻 キャミソール
更麻 タンクトップ
更麻 ショーツ